説明

地上・車上間情報伝送システム

【課題】ハンドオーバー時の通信途絶やパケットロスが通信に与える影響を低減して地上・車上間情報伝送の信頼性を向上させる。
【解決手段】減衰器12が接続された車上無線機11bと基地局4bとの間の受信レベルがハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値TH1に達するとハンドオーバー処理を開始し、減衰器12が接続された車上無線機11bと基地局4bとの間の通信が途絶しても減衰器12が接続されていない車上無線機11aと基地局4aとの間で通信を続行しながらハンドオーバー処理を行い、ハンドオーバー時の通信途絶を確実に防止するとともにパケットロスが通信に与える影響を低減して地上装置と車上装置の間で安定して情報を伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道回路を使用しないで無線を利用した列車制御における地上・車上間情報伝送システム、特に地上・車上間情報伝送の信頼性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地上に設けられた基地局と列車に搭載された車上装置との間で無線通信により情報を伝送する軌道回路を使用しない列車制御システムが普及し始めている。この地上装置と車上装置間の無線列車制御システムでは、列車が走行する路線に沿って複数の基地局を配置し、各基地局と車上装置に接続された車上無線局を無線リンクで接続して情報を伝送している。この無線列車制御システムでは列車が決まった軌道を走行するため、軌道に沿って設けた漏洩同軸ケーブル(LCX)に複数の基地局を接続し、LCXを基地局側のアンテナとして車上無線局と通信を行っている。この無線列車制御システムでは列車が基地局間を移動する際にハンドオーバー処理が行われる。
【0003】
無線列車制御システム等の移動通信におけるハンドオーバー処理には、特許文献1に示すように、移動局に2つの無線機を設け、一方の無線機で基地局と通信しているとき、基地局からの受信レベルが低下する前に、次の基地局の情報を取得して他方の無線機を用いて次の基地局との同期処理を行い、一方の無線機の受信レベルが低下したとき、スイッチにより他方の無線機に切り換えて次の基地局と通信を行うようにしている。
【0004】
また、特許文献2に示すように、移動局で基地局と通信を行っているとき、基地局からの受信レベルが低下してハンドオーバーを実行する必要が生じると、現在通信中の基地局に対してハンドオーバー要求を送信する。現在通信中の基地局はハンドオーバー要求を受信すると、ハンドオーバー後の基地局に対して通信制御パラメータを転送し、移動局に対してハンドオーバーを許可するハンドオーバー指示信号を送信する。移動局はハンドオーバー指示信号を受信するとハンドオーバーを実行してハンドオーバー後の基地局に切り換えて通信を行うようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無線列車制御システムにおいて、地上側のアンテナとしてLCXを使用して車上無線局と通信を行っている場合、特許文献2や特許文献3に示すように、基地局と車上無線局の間の受信レベルが、ある閾値より下回るとハンドオーバー処理を開始し、周辺の電波環境や基地局の状態を監視し、周辺の通信経路の探索を行って最適な経路に切り換えを行う。このハンドオーバー処理を行うとき、地上のアンテナとして使用しているLCXの伝送損失や車上無線局の移動速度によっては経路切り換えを行う前に基地局と車上無線局の間の受信レベルが通信不能となるレベル以下に低下して、短時間ではあるが通信途絶に陥ることが生じる。
【0006】
この発明は、このような問題を解消し、ハンドオーバー時の通信途絶やパケットロスが通信に与える影響を低減して地上・車上間情報伝送の信頼性を向上させる地上・車上間情報伝送システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の地上・車上間情報伝送システムは、地上装置に接続された複数の基地局と、列車に搭載された車上装置に接続された車上無線局とを有し、前記複数の基地局は、列車が走行する軌道にそって設けられた漏洩同軸ケーブルに接続され、漏洩同軸ケーブルをアンテナとして前記車上無線局と通信を行い、前記車上無線局は、2組の車上無線機と減衰器を有し、前記2組の車上無線機の一方の車上無線機はアンテナを介して地上と情報を送受信し、前記2組の車上無線機の他方の車上無線機は前記減衰器とアンテナを介して地上と情報を送受信し、前記2組の車上無線機で前記複数の基地局のいずれかの基地局と通信を行っているとき、前記他方の車上無線機の受信レベルがあらかじめ定めたハンドオーバー処理開始の閾値まで低下したときハンドオーバー処理を開始することを特徴とする。
【0008】
前記一方の車上無線機は、前記他方の車上無線機の通信が途絶した後も通信を続行してハンドオーバー処理を行うことを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
この発明は、減衰器が接続された車上無線機と基地局との間の受信レベルがハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値に達するとハンドオーバー処理を開始し、減衰器が接続された車上無線機と基地局との間の通信が途絶しても減衰器が接続されていない車上無線機と基地局との間で通信を続行しながらハンドオーバー処理を行うから、ハンドオーバー時の通信途絶を確実に防止するとともにパケットロスが通信に与える影響を低減して地上装置と車上装置の間で安定して情報を伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の地上・車上間情報伝送システムの構成図である。
【図2】車上無線局の構成を示すブロック図である。
【図3】車上無線機の受信レベルの変動を示す特性図である。
【図4】ハンドオーバー処理を示す状態遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1はこの発明の地上装置1と列車2に搭載された車上装置3との間で軌道回路を使用しないで無線を利用して情報を伝送する地上・車上間情報伝送システムの構成図である。図に示すように、情報伝送システムは、地上装置1に有線で接続された基地局4a,4b,と、列車2に搭載された車上装置3に接続された車上無線局5とで構成されている。各基地局4a,4bは列車2が走行する軌道にそって設けられた漏洩同軸ケーブル(LCX)6に接続され、LCX6をアンテナとして車上無線局5と通信を行う。地上装置1は、地上制御装置7とルーター8を有する。
【0012】
車上装置3は車上制御装置9と通信制御部10を有する。車上制御装置9は列車1を制御する各種処理を行うとともに通信制御部10と情報を授受する。通信制御装置10は車上無線局5の通信を制御するとともに車上制御装置9から地上装置1に送信する情報を車上無線局5に出力し、車上無線局5で受信した情報を車上制御装置9に出力する。車上無線局5は、2組の車上無線機11a,11bと減衰器12を有する。一方の車上無線機11aは列車2の下部に設けられたアンテナ13aが接続され、アンテナ13aを介して地上と情報を送受信する。他方の車上無線機11bは減衰器12を介して列車2の下部に設けられたアンテナ13bに接続され、減衰器12とアンテナ13bを介して地上と情報を送受信する。この車上無線機11a,11bは、例えばIEEE802.11xに準拠した2.4GHz無線LAN規格のものを使用し、減衰器12は高周波用同軸減衰器で減衰量は10〜20dB程度のものを使用する。
【0013】
この地上・車上間情報伝送システムで車上装置3は列車位置情報等を車上無線局5の車上無線機11a,11bにより地上に送信する。この送信されている列車位置情報等はLCX6をアンテナとして基地局4a,4bで受信して地上装置1で取得する。地上装置1は取得した列車位置情報等を基に列車2の間隔を認識して各列車2の進行可能範囲を算出して車上装置3に送信して列車制御を行う。
【0014】
車上装置3と地上装置1で情報を授受するとき、車上無線機11a,11bは周辺に存在する基地局4a,4bとの受信レベルを常にモニタし、基地局4a,4bも周辺に存在する車上無線機11a,11bとの受信レベルをモニタしている。車上無線機11a,11bと基地局4a,4bとの間の受信レベルはLCX6の伝送損失により車上無線機11a,11bが基地局4a,4bから離れるにしたがって低下する。この車上無線機11a,11bの受信レベルの変動を基地局4aの設置位置を始端とし、基地局4bの設置位置を終端として図3に示す。図3において受信レベルA1は基地局4aと車上無線機11aの間の受信レベルを示し、受信レベルB1は基地局4aと車上無線機11bの間の受信レベルを示し、受信レベルA2は基地局4bと車上無線機11aの間の受信レベルを示し、受信レベルB2は基地局4bと車上無線機11bの間の受信レベルを示す。図3に示すように、車上無線機11bの受信レベルB1,B2は減衰器12により減衰されるため、車上無線機11aの受信レベルA1,A2より所定レベルだけ低下している。この車上無線機11a,11bにはハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値TH1と通信が途絶する受信レベルの閾値TH2が設定されている。
【0015】
この車上無線機11a,11bでハンドオーバーを行うときの処理を図3と図4の状態遷移図を参照して説明する。
【0016】
列車2が基地局4aの設置位置から基地局4bの設置位置に向かって移動しているとき、図3の状態Aで示すように、列車2が基地局4aの設置位置から離れるにしたがって基地局4aと車上無線機11a,11bの間の受信レベルA1,B1は次第に低下する。この状態Aのとき、図4(a)に示すように、車上無線機11aと車上無線機11bで基地局4aと通信を行っている。この状態Aで列車2が移動して減衰器12が接続された車上無線機11bの受信レベルB1がハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値TH1、例えば−75dBmまで低下すると、車上無線機11bはハンドオーバー処理を開始して周辺基地局である基地局4bの検索を開始して基地局4bとの通信状態を確認する。このとき車上無線機11aの基地局4aからの受信レベルA1は閾値TH1に達していないから、車上無線機11aと基地局4aとの間の通信は続行される。
【0017】
車上無線機11bでハンドオーバー処理を開始してハンドオーバー処理を行っている状態Bで車上無線機11bの受信レベルB1が通信途絶する受信レベルの閾値TH2、例えば−90dBmに達すると、車上無線機11bと基地局4aとの間で通信途絶が発生するが、車上無線機11bの受信レベルB1が閾値TH2に達して基地局4aとの通信途絶が発生する前に車上無線機11bのハンドオーバーが終了し、車上無線機11bは基地局4bと通信を開始して状態Cに移行する。状態Cでは図4(c)に示すように、車上無線機11aと基地局4aの間で通信を行うとともに車上無線機11bと基地局4bとの間でも通信を行う。
【0018】
この状態Cで車上無線機11aの受信レベルA1がハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値TH1、例えば−75dBmまで低下すると、状態Dに移行して車上無線機11bはハンドオーバー処理を開始して周辺基地局である基地局4bの検索を開始して基地局4bとの通信状態を確認する。その際、車上無線機11aと基地局4aとの間で通信途絶が発生するが車上無線機11bと基地局4bとの間で通信を行っているから地上と車上間の通信を保つことができる。この車上無線機11bのハンドオーバーが終了して状態Eに移行すると、図4(e)に示すように、車上無線機11bと基地局4bとの間で通信を行うとともに車上無線機11aと基地局4bの間でも通信を行う。
【0019】
このように、減衰器12が接続された車上無線機11bと基地局4aとの間の受信レベルB1がハンドオーバーを開始する受信レベルの閾値TH1に達してハンドオーバー処理を開始したとき車上無線機11aと基地局4aとの間で通信を行いながら車上無線機11bでハンドオーバー処理を行うから、ハンドオーバー時の通信途絶を確実に防止するとともにパケットロスが通信に与える影響を低減して地上装置1と車上装置3の間で安定して情報を伝送することができる。
【0020】
前記説明では車上無線機11bとアンテナ13bとの間に減衰器12を設けて、車上無線機11bの受信レベルを車上無線機11aの受信レベルとの間にレベル差を設けた場合について説明したが、列車2の列車長が長い場合、車上無線機11aに接続されたアンテナ13aを先頭車両に設け、車上無線機11bに接続されるアンテナ13bを最後尾車両に設け、車上無線機11bとアンテナ13bの間に減衰器12を接続しないで車上無線機11bとアンテナ13bを直接接続しても良い。
【0021】
このように車上無線機11aに接続されたアンテナ13aを先頭車両に設け、車上無線機11bに直接接続されたアンテナ13bを最後尾車両に設けることにより、列車2の進行に応じて車上無線機11aの受信レベルと車上無線機11bの受信レベルにレベル差を設け、この双方の受信レベルのレベル差を利用してハンドオーバー処理を行うことにより、前記と同様にハンドオーバー時の通信途絶を確実に防止することができる。
【0022】
また、前記説明では車上無線機11a車上無線機11bの受信レベルのレベル差を利用してハンドオーバー処理を行う場合について示したが、例えば無線の回線品質や、パケットの経路決定に用いる無線品質を考慮した指標であるメトリック情報等その他の基準を用いてハンドオーバー処理を行っても良い。
【符号の説明】
【0023】
1;地上装置、2;列車、3;車上装置、4;基地局、5;車上無線局、
6;漏洩同軸ケーブル(LCX)、7;地上制御装置、8;ルーター、
9;車上制御装置、10;通信制御部、11;車上無線機、12;減衰器、
13;アンテナ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平11−27720号公報
【特許文献2】特開2001−268617号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上装置に接続された複数の基地局と、列車に搭載された車上装置に接続された車上無線局とを有し、
前記複数の基地局は、列車が走行する軌道にそって設けられた漏洩同軸ケーブルに接続され、漏洩同軸ケーブルをアンテナとして前記車上無線局と通信を行い、
前記車上無線局は、2組の車上無線機と減衰器を有し、前記2組の車上無線機の一方の車上無線機はアンテナを介して地上と情報を送受信し、前記2組の車上無線機の他方の車上無線機は前記減衰器とアンテナを介して地上と情報を送受信し、
前記2組の車上無線機で前記複数の基地局のいずれかの基地局と通信を行っているとき、前記他方の車上無線機の受信レベルがあらかじめ定めたハンドオーバー処理開始の閾値まで低下したときハンドオーバー処理を開始することを特徴とする地上・車上間情報伝送システム。
【請求項2】
前記一方の車上無線機は、前記他方の車上無線機の通信が途絶した後も通信を続行してハンドオーバー処理を行うことを特徴とする請求項1記載の地上・車上間情報伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−252202(P2010−252202A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101499(P2009−101499)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】