説明

地下タンクの腐食損傷評価システム

【課題】既設の地下タンクに対して観測用のセンサを取り付ける際に、地下タンクの外周を埋設する土砂などを除去するという面倒な作業を要さず、また、地下タンクを開放(貯留中の液体を一旦払い出して空にする)することなく、稼動中のままで検査が可能な地下タンクの腐食損傷評価システムを提供する。
【解決手段】地下タンクに、アコースティックエミッション(以下AEという)センサを含むAEデータ採取装置を設置してAEデータを採取するステージと、前記AEデータを処理してAE特性値を抽出するステージと、前記AE特性値を解析して腐食度を判定するステージとを含み、前記AEセンサの少なくとも一部が、導波棒を介して前記地下タンクの殻の内壁に接している、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下タンクの腐食損傷評価システムに係り、特にアコースティックエミッション(以下AEと略する)法を用いた地下タンクの腐食損傷評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油化学プラント、各種工場、及びガソリンスタンドなどにおいては多数のタンクが使われ、油類・溶剤等の、有機又は無機化学物質の液体を貯留している。従ってタンクの破損・漏洩(貫通亀裂)は致命的であり、これを予知し予防策を講じる維持管理技術の確立が必須条件となる。
【0003】
タンク壁の破損・漏洩を予知するためには、タンク壁の破損・漏洩に先立つ、局部的腐食などによるタンク壁の損傷(孔食など)を検出しなければならないが、その方法としては、能動的方法と受動的方法がある。
【0004】
能動的方法では、超音波探傷法に代表されるように、弾性波をタンク壁に入射して、その反射波又は透過波を観測して壁内部の損傷を検出するのに対して、受動的方法では、AE法に代表されるように、壁内の損傷が発生又は成長する際には微弱な超音波領域の弾性波を発生する(AE、音響放出ともいう)ので、この発生した弾性波を観測(センス)して壁内部の損傷を検出する。
【0005】
AE法は、破損・漏洩に繋がる進行性の損傷を、連続的に、しかもタンクを空にせず稼動状態のままで監視することができるので、前記能動的方法に先立つ準備段階として、損傷の疑いのある箇所を包括的に把握するのによく使われている。
【0006】
例えば特許文献1には、プラント機器の統合運用支援装置の、故障モニタリング手段の一部としてAE信号を組み込む技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−094631号公報
【0007】
AE法では、微弱な超音波領域の弾性波のセンス技術及びセンスしたデータのデータ処理技術が国内外で向上、標準化されており、データ内の雑音成分を認知処理し、信号パターンと実際の腐食損傷の状態とを照合するのに有効なデータベース化が進んでいる。
【0008】
例えば、石油メジャー各社及び大手化学会社からなる「AEユーザーグループ」は、欧州において地上タンク底面などの腐食損傷に関して、このようなデータベースを確立し、現在は毎年1000基以上のタンクに対してAE法による検査を実施している。
【0009】
また、日本においては、タンク底部の腐食損傷による減肉状況に関しては、AE法に先立って、法定の、タンクを開放して底部の板厚の減肉状況についての底部板厚実測のデータ蓄積がある。
この従来の法定板厚測定データを統計的に処理して経年劣化を考慮した腐食量/腐食速度情報を得た上で、AE法と板厚実測を同時に実施すると、両者の間に一定の相関があることが見出され、これらに関するデータベースが確立されつつある。
【0010】
腐食損傷の際に検出されるAEの発生源は、固体内部で局所的に生じる変形や微小な欠陥(クラック)の成長よりは、むしろ損傷部の固体表面に生じている硬い腐食生成物の割れや剥離にあるとされる。
このような損傷部の急激な変化(変化量はサイズμm〜mm級)により10kHz〜1MHz級の弾性波、即ち超音波領域の弾性波が発生する。
【0011】
同一の腐食損傷に対して微小な成長が重畳すると、損傷はマクロにも成長し、ついには殻を貫通し、貯留液体の漏洩という重大事態に至る。
固体中の欠陥(損傷部)の急激な変化に起因する弾性波という点では、空間的・時間的スケールこそ違え、AEは地震の発生と等価であり、地震発生、震源規模・位置などの理論が平行して適用できる。
【0012】
これらのAE法で用いられるセンサは、タンクを稼動状態のままで観測するため、タンクの内壁に取り付けることができないので、専らタンクの外壁に取り付けなければならない。しかしながら地下タンクの場合は、その外壁が地中に埋蔵されており検査に際して必要な観測用のセンサを取り付けるのが困難であるので、AE法が可能なタンクは地上タンクに限られてしまい、既設の膨大な数の地下タンクに対してAE法を事実上適用できない、という問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の問題に対処するためになされた本発明の目的は、既設の地下タンクに対して観測用のセンサを取り付ける際に、地下タンクの外周を埋設する土砂などを除去するという面倒な作業を要さず、また、検査のためだけの目的で地下タンクを開放(貯留中の液体を一旦払い出して(排出して)、空にする)することなく、稼動中のままで検査が可能な地下タンクの腐食損傷評価システムを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記の地上タンクに対して形成されたデータベースを応用することにより、信頼度が高く、しかも経済的な地下タンクの腐食損傷評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するためになされた本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムは、請求項1に示すように、地下タンクに、アコースティックエミッション(以下AEという)センサを含むAEデータ採取装置を設置してAEデータを採取するステージと、前記AEデータを処理してAE特性値を抽出するステージと、前記AE特性値を解析して腐食度を判定するステージとを含み、前記AEセンサの少なくとも一部が、導波棒を介して前記地下タンクの殻の内壁に接している、ことを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に示すように、請求項1に記載のシステムであって、前記AE特性値を抽出するステージにおいて抽出されるAE特性値が少なくとも「総ヒット数」と「ヒットごとの最大振幅値」を含み、前記AE特性値を解析して腐食度を判定するステージが(a)過去の地下タンクに関する実測殻厚と腐食度の相関データベースと、(b)総ヒット数と腐食度の相関分析ステップとを含み、さらに(a)が(a1)殻厚減肉量とその累積頻度の相関分析から腐食リスクパラメータ(CRP)を得るデータベースと、(a2)CRPと総ヒット数の相関分析からCRPの検量線を得るデータベースとを含み、前記(b)ステップにおいて前記「総ヒット数」から、前記(a1)及び(a2)データベースに基づき前記地下タンクのCRPの上限を推定して前記地下タンクの腐食速度及び寿命を予測する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムでは、1つ又は複数の導波棒を、その一端が地下タンクの内壁に接するように稼動中の地下タンクの上部から貯留された液体中に沈めるだけで、導波棒の他端に接続したセンサを介してAE法による観測が可能になる。
【0018】
従って、既設の地下タンクに対して観測用のセンサを取り付ける際に、地下タンクの外周を埋設する土砂などを除去するという面倒な作業を要さず、さらに地下タンクを開放するため地下タンクの稼動を停止することなく、稼動中のままで検査が可能になる。即ち、経済的な検査が可能になる。
【0019】
また、本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムは、国内外のAE法による確立された、地上タンクに関する検査データベースが活用できるので、信頼性が高く経済的である。
【0020】
これに加えて、地下タンクの保守は地上タンクにも増して多大の費用がかかるので、保守作業の是非・タイミングの決定は重要であるが、本発明によれば、「総ヒット数」などによる経験的な保守タイミングの決定を、地下タンクの殻の腐食損傷速度、残存殻厚、従って損傷部の貫通寿命の推定という直接的なデータにより補強できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムを、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムを示す図で、(A)は全体図、(B)はAEの発生源である腐食損傷部を示す模式図である。
図2は、AEによる超音波波形を例示し、その諸特性を示す図である。
図3は、本発明によるAE法のフロー図である。
図4で、(A)は腐食度の1次判定に用いる表であり、(B)は(A)における腐食度の具体的判定結果を示す表である。
図5は、本発明によるAE法のフロー図において、第2の実施例に係る部分を示す図である。
図6は、第2の実施例で用いる腐食度に関するパラメータの相関関係を示す実測図である。
【実施例1】
【0022】
図1を参照すると、(A)は本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムの全体図であって、地下タンクは殻10に囲まれ地中30に埋設されており、その上表面だけは地上からアクセスできるように露出されている。特に既設の地下タンクの場合、殻の外表面は地中にあって土中に埋蔵されているので、通常の手段ではアクセスが困難である。
【0023】
地下タンクは稼動中であるので、内部には液体20が貯留されており、地下タンクの内面のうち、液体20に接している部分(以下、これを液相部といい、地下タンクの内面のうち、液相部以外の部分を気相部という)に導波棒40の先端42でもって接している。
導波棒40は、地下タンクの深さに応じたサイズ、例えば長さ2.5m、直径25mmのステンレス製の棒であり、鋭く尖らせた先端42側から液体20中に差し込むと地下タンクの底部殻に自重で強く接触する。
【0024】
導波棒40はその全体がセンサとなる、即ち、その先端42で底部殻を伝播してきたAE波をセンスするだけでなく、導波棒の側面で液体20中を伝播してきたAE波をセンスするので感度を高めることができ、これらのAE波を合わせて実質的に減衰せずに導波棒の上端に伝播する。
このようにして、通常の手段ではアクセスが困難な殻の液相部のAE発生源に容易にアクセスできる。
【0025】
本実施例では2本の導波棒40、40が、殻10の上部に設けられた開口12を通じて、先端42が殻の底部内面に接するように設置されており、導波棒の他端にはセンサ、例えば圧電センサ44が設置され、圧電センサは有線の信号線91又は無線により、パソコン90に接続されている。
【0026】
図1(B)に示すように、殻の液相部のいずれかの場所にある腐食が進行し、即ち損傷部50が成長するにつれて、ランダムな時間間隔をおいて損傷部の固体表面に生じている硬い腐食生成物の割れや剥離という、損傷部の複数の急激な変化55を生じ、各々の急激な変化は超音波領域の弾性波(以下、単に「超音波」という)となって、殻中及び液体中を減衰しながら伝播し、各々、導波棒の先端42及び導波棒40の側面に到達すると、導波棒中を実質的に減衰しないで伝播して圧電センサに到達し、電圧信号に変換されて信号線91を経てパソコン90に伝えられる。
【0027】
次に図2を参照すると、AEによる超音波波形(圧電センサにより電圧波形に変換されている)を例示し、その諸特性を示す図である。
実際には、腐食生成物が割れたり剥離したりして損傷部に急激な変化を生じるたびに、このような超音波波形が複数個発生し、信号線上に重畳して伝えられるので、個々の急激な変化に対応する超音波波形の塊りをヒットという。
【0028】
信号線上には各種の雑音が重畳しているので、ある閾値Athを設定しておき、波形の振幅が連続してAthを越えている部分をもって1つのヒットとする。 各ヒットに対して、最大振幅値Am、立上り時間Tr,継続時間Td、カウント数nなどの特性が定義される。
【0029】
次に図3を参照すると、本発明によるAE法のフロー図であって、本フローは、大別して、AEデータを採取する第1ステージS10、AEデータを処理する第2ステージS20、そしてAE特性値を解析する第3ステージS30からなる。
【0030】
第1ステージS10のステップS11では、AEセンサを地下タンクの殻の各所に設置する。
超音波の減衰量は、損傷部と導波棒の位置関係に依存するので、地震の震源の推定の場合と同じように、複数本の導波棒、例えば最小2本の導波棒を適切に設置すると、各導波棒で受けた超音波の強度の差を分析することにより、殻上の(成長・変形する)損傷の概略の位置を推定できる。
【0031】
また、殻の気相部の損傷について正確に評価したい場合は、殻の内側面にも導波棒を設置し、殻の上表面に直接設置したセンサからのデータと合わせて処理すればよい。
導波棒およびAEセンサの設置数量と設置場所は、タンクのサイズ、形状と目標とする評価精度に合わせて、過去の、特に地上タンクのデータベースに基づき適切に選ばれる。
【0032】
ステップS12では、AEセンサ、信号線、そしてこれに接続された、AE計測ボードを内蔵したパソコンが所定の測定時間、例えば1時間、にわたって運転され、AEデータが各AEセンサ毎に時系列的に記録される。
【0033】
次に、第2ステージS20では、このようにして得られた時系列データが解析前の準備処理がなされる。
第2ステージS20のステップ21では、雑音処理がなされる。
即ち、上記時系列データには、各種の雑音が重畳しており、中には振幅が所定の閾値Athを越えるものがあるので、これを除去する。このような雑音の原因としては、風音、降雨音、雨水流音、降雨・結露水滴落下音、地下タンクに接続された配管の振動音、及び/又は、その他地下タンク特有の雑音(タンク外部から土中を伝わってくる各種振動音)がある。
【0034】
これらの大部分は、各々、複数のセンサの時系列データに特有の相関性のある波形を呈するので、弁別排除できる。しかし、例えば強風、強雨、タンクの液体流入・払い出しなどの場合は弁別不能になるので、AE法の実施を避けなければならない。
【0035】
ステップS22では、これらの雑音が大部分除去されているので個々のヒット波形が認識され、S25では、総ヒット数Nが算出され、S26では、ヒット毎の特性値、即ち上記の最大振幅値Am、カウント数n、立上り時間Tr、継続時間Td、エネルギーEなどが算出、記録される。
ここでエネルギーEは、ヒットの波形の絶対値の積分値、又は2乗値の積分値として定義される。
【0036】
第3ステージS30では、このようにして得られたヒット数とヒット毎の特性値が解析され、対象とした地下タンクの損傷の進行程度、即ち腐食度が判定される。
【0037】
例えば最初にステップS31では、最大振幅値Amの分布図を解析する。最大振幅値Amを大きい順に並べ、累積ヒット数を算出し(最終値、即ち最小の最大振幅値に対する累積ヒット数は総ヒット数Nになる)、最大振幅値と累積ヒット数を両対数スケールでプロットする。
【0038】
通常、地下タンクの1箇所又は複数の箇所で損傷が成長している、即ち腐食が進行している場合、その損傷に伴う急激な変化はフラクタルと呼ばれ、その規模はベキ乗分布を示す。即ち、上記の両対数プロット結果は負勾配の直線となり、勾配の大小は当該地下タンクの腐食モードに関係する指標の1つとなる。
【0039】
両対数プロットが直線にならない場合、データベースに基づき、例えば小振幅領域と大振幅領域が各々別種の雑音であると推定して、中間領域(総ヒット数がN’(<N)になったとする)だけを取り出して解析を行うことができる。
【0040】
ステップS32では、このようにして得られた真の損傷に対応するヒット毎の特性データをもとに、総ヒット数N’とエネルギーE’を各々大小に応じてグレード分けする。その際、エネルギーE’は個別のヒットのエネルギーEの総和をとる。
【0041】
ここで図4を参照すると、総ヒット数N’とエネルギーE’は、データベースに基づき、図4(A)に示すように、各々5段階、A〜E、a〜eにグレード分けされ、図4(B)に示すように、出来た行列の交点には5段の判定I〜Vが割り当てられているので、当該地下タンクの腐食度がI〜Vのどれに該当するかを1次判定できる。
【0042】
必要に応じて、法定の殻厚実測と腐食度の相関データベースS35に基づき、ステップS33、S34では各々、総ヒット数N’、エネルギーE’と腐食度の相関分析を行い、当該地下タンクの腐食度をより詳細に推定することができる。
ステップS36では、以上に基づき腐食度の総合判定を行う、即ち損傷の危険度と対応する保守作業のタイミングを決定する。
【0043】
さらに必要に応じて、S37では、ヒットデータを複数のセンサによるヒットデータに分解して、損傷部と目されるAE発生源の位置分析を行い、損傷部の位置を推定することができる。
【実施例2】
【0044】
図5を参照すると、実施例2に係るAE法のフロー図であって、図3のステージS30のうち、直接本実施例に係るステップを実線で示し、直接係らないステップを破線で示す。
即ち本実施例は、殻厚実測と腐食度の相関データベースS35の具体例S351、S352とそれに基づく、総ヒット数N’と腐食度の相関分析S33の具体例S331であって、本実施例によれば、当該地下タンクの損傷部分の寿命予測を行うことができる。
【0045】
我が国では、地上タンクの場合は、個々のタンクに対してランダムに選んだ複数箇所の底部板厚、従って底部板厚の減肉量の実測が義務づけられており、そのデータベースから、「減肉量と、その累積頻度の両対数プロットの結果として負勾配の直線が得られ、その傾き(D、勾配の絶対値)と腐食速度の間には密接な相関があり、傾きの逆数に比例する変数を「腐食リスクパラメータ」(以下、CRPと略する)と定義すると、そのCRP値に対応して当該地下タンクの腐食速度、従って貫通腐食に至るまでの寿命を(確率的に)予測することができる。」という第1の知見が得られている。
【0046】
さらに、このようにして得られるCRPと、同時に上記のAE法を実施して得られる総ヒット数N’をプロットすると、総ヒット数N’に比例する検量線によりCRPの上限推定が与えられる。」という第2の知見が得られている。
【0047】
図6に、腐食度に関するパラメータの相関関係を示す実例を示す。
即ち、横軸に第1の知見から得られるCRP値をとり、縦軸にAEヒット数N’をとってプロットする。
ただし、横軸のCRP値は上記勾配の絶対値Dに逆比例し、その比例定数を、h0.001/y にとる。
【0048】
ここで、h0.001は上記の減肉量対累積頻度の両対数プロットの負勾配の直線において、例えば累積頻度0.001に相当する減肉量(=当初板厚−実測板厚)であり、yは供用年数である。また、縦軸は実際には、AEヒット数N’をセンスチャネル数(導波棒の数)chと測定時間(上記実施例1の場合は1時間とした)で除してノルマライズしてある。
【0049】
図6において、CRPとN’のプロットに対して、CRP値の高いデータ(即ち、腐食が進んでいる事例に対応するデータ)を中心として、原点を通る相関直線を引き検量線CLとする。図において、検量線CLの左上にあるプロットは、AE測定時における雑音などの影響でN’値が大きく出ていると考えられるので、新しい実測N’値に対してこの検量線を使うならば、CRP値は安全サイド(大きい目)に見積もることになる。
【0050】
再び図5を参照すると、本実施例はこれらの知見に基づくものであり、第1に板(殻)厚減肉量実測値とその累積頻度の両対数分布の相関分析からCRPを得るデータベースS351を利用する。
【0051】
第2に、CRPと総ヒット数N’の相関分析からCRPの上限推定検量線を与えるデータベースS352を利用する。
その際、本実施例の場合は地下タンクを対象としており、且つ導波棒を用いていることを考慮して検量線を補正しておく。
【0052】
さてステップS331では、上記実施例1のステップS31で得た総ヒット数N’を上記データベースS351、S352に当てはめて、対応する検量線上のCRP値、即ちCRPの上限推定値が得られ、そのCRP値に対応して当該地下タンクの損傷部の腐食速度、従って貫通腐食に至るまでの寿命が(確率的に)予測されることになり、上記実施例1に述べたステップS32で得られる経験的な保守タイミングに関する腐食度の推定を補強してステップS36とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による地下タンクの腐食損傷評価システムを示す図で、(A)は全体図、(B)はAEの発生源である腐食損傷部を示す模式図である。
【図2】AEによる超音波波形を例示し、その諸特性を示す図である。
【図3】本発明によるAE法のフロー図である。
【図4】(A)は腐食度の1次判定に用いる表であり、(B)は(A)における腐食度の具体的判定結果を示す表である。
【図5】本発明によるAE法のフロー図において、第2の実施例に係る部分を示す図である。
【図6】第2の実施例で用いる腐食度に関するパラメータの相関関係を示す実測図である。
【符号の説明】
【0054】
10 地下タンクの殻
12 開口
20 液体
30 地中(土)
40 導波棒
42 導波棒の一端
44 圧電センサ
50 損傷部
55 損傷部の急激な変化
90 パソコン(AEボードを内蔵)
91 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下タンクに、アコースティックエミッション(以下AEという)センサを含むAEデータ採取装置を設置してAEデータを採取するステージと、前記AEデータを処理してAE特性値を抽出するステージと、前記AE特性値を解析して腐食度を判定するステージとを含み、
前記AEセンサの少なくとも一部が、導波棒を介して前記地下タンクの殻の内壁に接している、
ことを特徴とする地下タンクの腐食損傷評価システム。
【請求項2】
前記AE特性値を抽出するステージにおいて抽出されるAE特性値が少なくとも「総ヒット数」と「ヒットごとの最大振幅値」を含み、
前記AE特性値を解析して腐食度を判定するステージが(a)過去の地下タンクに関する実測殻厚と腐食度の相関データベースと、(b)総ヒット数と腐食度の相関分析ステップとを含み、
さらに(a)が(a1)殻厚減肉量とその累積頻度の相関分析から腐食リスクパラメータ(CRP)を得るデータベースと、(a2)CRPと総ヒット数の相関分析からCRPの検量線を得るデータベースとを含み、
前記(b)ステップにおいて前記「総ヒット数」から、前記(a1)及び(a2)データベースに基づき前記地下タンクのCRPの上限を推定して前記地下タンクの腐食速度及び寿命を予測する、ことを特徴とする請求項1に記載の地下タンクの腐食損傷評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−250823(P2006−250823A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69924(P2005−69924)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(503335766)有限会社エンバイロ・テック・インターナショナル (1)
【出願人】(594078685)日本フィジカルアコースティクス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】