説明

地下構造物

【課題】並設された複数本のトンネルを利用して築造される地下構造物であって、内空有効幅を広く確保することが可能な地下構造物を提案する。
【解決手段】並設されたトンネルT同士を利用して築造された地下構造物1であって、隣り合う二つのトンネルT,Tの覆工L,Lの各々に地山側に突出する突出部S,Sを設け、この突出部S,Sに両覆工L,Lをつなぐ継手部J1が形成されている。この継手部J1は、一方のトンネルTの覆工Lに一体に形成されて他方のトンネルT側に開口するガイド溝D1と、他方のトンネルTの覆工Lに一体に形成されてガイド溝D1に挿入される突条P1と、突条P1の周囲に注入される止水剤とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
並設された複数本のトンネルを利用して築造した地下構造物が特許文献1に記載されている。この地下構造物100は、図6(a)に示すように複数本(図では6本)のトンネルT,T,…を構築した後に、各トンネルT,T,…の不要な覆工L’を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルT,T,…の残置された覆工L,L,…を利用して本設の頂底版や側壁等を形成することにより築造される。なお、複数のトンネルT,T,…は、時間差をもって順次に構築され、しかも、後行のトンネルTは、先行のトンネルTの隣に構築される。また、各トンネルTは、推進工法またはシールド工法により構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら推進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。一方、シールド工法とは、トンネル切羽に設置された掘削機で地山を掘削するとともに、掘進機の内部でトンネル覆工となるセグメントを組み立ててトンネルを構築する工法である。なお、シールド掘進機は、その内部で組み立てられたセグメントに反力を取って自ら掘進する。
【0004】
ところで、特許文献1の地下構造物においては、図6(b)に示すように、隣り合う二つのトンネルT1,T2のうち、一方のトンネルT1の覆工(すなわち、セグメントや推進函体)Laには、トンネル軸方向に沿ってガイド溝Dが形成されており、他方のトンネルT2の覆工Lbには、一方の覆工Laのガイド溝Dに摺動自在に嵌合する突条Pが形成されている。このようにすると、先行して構築されたトンネルT1(T2)の覆工La(Lb)をガイドして後行のトンネルT2(T1)の覆工Lb(La)を構築することが可能となるので、隣接するトンネル同士にずれが生じ難くなり、ひいては、効率良く施工することが可能となる。
【特許文献1】特開2006−90099号公報([0020]、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記の地下構造物100においては、トンネルT1の覆工La内にガイド溝D(継手)が形成されているため、不要な覆工L’を撤去する際に、継手部分に隣接する箇所において、覆工La、Lbの一部を内空側に張り出すように残置させていた。また、隣接するトンネルT1,T2を連結する際には、ガイド溝D(継手)が形成されている部分において固定することができず、また、主鉄筋や配力鉄筋の設置も困難となっていた。
このように、覆工La,Lbを内空側に張り出させた状態で残置させると、地下構造物100の内空断面に突出部分が形成されてしまい、地下構造物100の内側空間の利用に制限が科される場合があった。
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、並設された複数本のトンネルを利用して築造される地下構造物であって、内空有効幅を広く確保することが可能な地下構造物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、並設された複数本のトンネルを利用して築造された地下構造物であって、隣り合う二つの前記トンネルの覆工の各々に地山側に突出する突出部を設け、この突出部に両覆工をつなぐ継手部を形成したことを特徴としている。
【0008】
かかる地下構造物によれば、トンネル同士の継手部が、地山側に突出して形成されているため、覆工の本体部に断面欠損する部分が生じることがない。つまり、この地下構造物によれば、内空側に覆工を突出させる必要がないので、地下構造物の内空の有効断面積を大きくすることが可能となる。
【0009】
また、前記継手部が、隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの前記突出部に一体に形成されて他方のトンネル側に開口するガイド溝と、他方のトンネルの前記突出部に一体に形成されて前記ガイド溝に挿入される突条と、前記突条の周囲に注入される止水剤と、を備えていれば、トンネル同士が離隔しにくくなるので、高品質な地下構造物となる。また、止水剤が注入されているため、地下構造物内への地下水の浸透が防止される。
【0010】
また、前記突条がL字状に屈曲した部位を備えて形成されており、前記突条の先端が前記覆工の外面の近傍に配置されていれば、主桁の外側に配置された継手部への止水剤の注入をより簡易に行うことが可能となる。
【0011】
また、前記突条の先端に、管材の配管が可能な形状の凹部が形成されていれば、この凹部に止水剤の注入管を挿入して、突条の周囲に止水剤を注入することが可能となるため、簡易にガイド溝と突条とからなる継手の止水を行うことが可能となり、好適である。
【0012】
さらに、前記隣り合う二つのトンネルが、両トンネルの覆工に跨って配設された目板により連結されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、並設された複数本のトンネルを利用して築造される地下構造物について、内空有効幅をより広く確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0015】
本発明に係る地下構造物1は、図1に示すように、その断面内において並設された6本のトンネルT1〜T6(以下、トンネルT1〜T6を区別しない場合は、単に「トンネルT」という場合がある。)を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1B及び側壁1C,1Cを備えている。なお、地下構造物1を構成するトンネルTの本数は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、地下構造物1の断面形状も限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0016】
地下構造物1を構成する隣り合う二つのトンネルT,Tの覆工L,Lの各々には、地山側に突出する突出部Sが設けられており、この突出部Sに両覆工L,Lをつなぐ継手部J1が形成されている。
【0017】
図2に示すように、隣り合う二つのトンネルT,Tのうち、一方のトンネルTの突出部Sに一体に形成されて他方のトンネル側に開口するガイド溝D1と、他方のトンネルTの覆工(突出部S)に一体に形成されてガイド溝D1に挿入される突条P1と、突条P1の周囲に注入される止水剤18aと、を備えている。そして、突条P1には、その先端に凹部P11が形成されている。
【0018】
突条P1は、L字状に屈曲した部位を備えることで、その先端(凹部P11)が一方のトンネルTの覆工Lの外面(地山に望む面)の近傍に配置されている。
【0019】
また、一方のトンネルTと他方のトンネルTとは、両トンネルT,Tの覆工L,Lに跨って配設された目板20により連結されている。
【0020】
トンネルTは、推進工法またはシールド工法により構築することができるが、本実施形態では、推進工法により構築するものとする。つまり、本実施形態においては、各トンネルTの覆工Lは、トンネル軸方向に連設された複数の推進函体10,10,…(図3参照)からなる。
【0021】
図3に示すように、推進函体10は、角筒状に形成された外殻11と、トンネル軸方向に所定の間隔をあけて並設された複数の主桁12,12,…と、隣り合う主桁12,12間においてトンネル軸方向に沿って配置された複数の縦リブ13,13,…と、を備えて構成されている。なお、推進函体10は、前記のように予め一体化されたものに限定されるものではなく、例えば、主桁、縦リブおよびスキンプレートからなるセグメントを、複数組み立てることにより構成された推進函体10を使用してもよい。
【0022】
外殻11は、溶接により接合された複数枚の鋼製のスキンプレート111,111,…からなり、全体として断面略矩形を呈している。
なお、図3の右側に示す推進函体10の外殻11の上面および側面は、それぞれ大小3枚のスキンプレート111により形成されており、かつ、隣り合うスキンプレート111,111間には隙間11aが形成されている。この隙間11aは、トンネル軸方向に延在しており、ガイド溝D1,D2の開口部となっている。
【0023】
主桁12は、外殻11の内面に沿って枠状に配置された4枚の鋼製の板材121〜124からなり、各板材121〜124は、溶接により外殻11の内周面に接合されている。図3の右側に示す推進函体10では、4枚の板材121〜124のうちの左右2枚の板材123,124の下端が、突出部Sに対応して、直角に交わる下側の板材121よりも地山側(下側)に突出している。
【0024】
また、左右の板材123,124の突出部分には、ガイド溝D1に対応してL字状の切欠が形成されている。さらに、左右に板材123,124の上部、および上側の板材122の左右には、主桁12の隅角部近傍に、ガイド溝D2に対応してT字状の切欠きが形成されている。
【0025】
縦リブ13は、外殻11の内周面に溶接により接合された鋼製の板材からなる。なお、縦リブ13の長手方向の端部は、主桁12の側面に溶接により接合されている。
【0026】
また、推進函体10には、ガイド溝D1,D2となる溝部材14,15および突条P1,P2となる突部材16,17の両方または一方が外殻11の隅角部の近傍に取り付けられている。なお、ガイド溝D1,D2および突条P1,P2の位置および個数は、トンネルTの位置に応じて適宜設定する(図5(b)参照)。また、継手J2(ガイド溝D2および突条P2)は、必要に応じて配置すればよく、省略してもよい。
【0027】
ガイド溝D1を構成する溝部材14は、図3に示すように、一方のトンネルT(T1)の突出部Sにおいて、外殻11の内周面において隙間11aに沿って配置されている。
溝部材14は、図2に示すように、突出部の基端部に配置された断面コ字形状(溝形)の形材141と、形材141の開口部の幅を狭めるように配置された一対の蓋片142,143と、一方の蓋片143の先端から外殻11の隙間11aを結ぶL字状に組み合わされた帯片144,145とにより構成されている。形材141と蓋片142,143に囲まれた部分がガイド溝D1の幅広部14bを構成し、蓋片142と帯片144,145に囲まれた部分がガイド溝D1の幅狭部14aを構成している。
【0028】
なお、形材141、蓋片142,143、帯片144,145は鋼製の部材からなり、溶接により互いに接合されている。また、蓋片142および帯片145の隙間11a側先端は、外殻11の内面に溶接により接合されている。
【0029】
突条P1を構成する突部材16は、図3に示すように、他方のトンネルT(T2)の外殻11の外周面においてトンネル軸方向に沿って配置されており、その突端部分が外殻11の外側に突出している。また、突部材16は、図2に示すように、外殻11の外周面に配置されたレール161と、外殻11の内周面に配置された押えプレート162と、レール161のフランジ161aと押えプレート162とを貫通するボルト163,163,…と、各ボルト163を締結するナット164,164,…とを備えて構成されている。
【0030】
レール161は、熱押形鋼からなり、外殻11の外周面に固定されるフランジ161aと、このフランジ161aから立ち上がるL字状のウェブ161bと、このウェブ161bの突端部分に形成された頭部161cとを備えている。そして、頭部161cは、断面形状が略コの字状に形成されて、凹部161dを有している。頭部161cは、一方のトンネルT1の覆工Lの近傍に配置されており、凹部161d(凹部P11)が、溝部材14(形材141)の底面に面している。
【0031】
レール161のウェブ161bの幅(厚さ)は、溝部材14の幅狭部14aの幅(すなわち、ガイド溝D1の開口幅)よりも小さくなっており、かつ、頭部161cの断面積が溝部材14の幅広部14bの断面積よりも小さくなっているので、レール161は、上下左右に動き得るクリアランスをもって溝部材14の内部に入り込む。つまり、突条P1となるレール161は、ガイド溝D1となる溝部材14と遊嵌状態で結合することになる。
また、レール161の頭部161cは、溝部材14の幅狭部14aの幅(すなわち、ガイド溝D1の開口幅)よりも大きい幅寸法に成形されている。このようにすると、レール161の溝部材14からの抜け出しが阻止されることから、隣り合う推進函体10,10が必要以上に離間することを防ぐことができる。
【0032】
なお、凹部161d(凹部P11)は、注入管18が挿入可能な形状に形成されており、当該注入管18から止水剤18aを注入することで、突条P1とガイド溝D1との隙間を塞いで、継手J1の止水を行う。または、外殻11内部から注入孔19をガイド溝D1に向って設け当該注入孔19より止水剤18aを注入することで同様に継手J1の止水を行う。なお、本実施形態では、図2に示すように、止水剤18aをガイド溝D1および両突出部S,Sの隙間Saに充填するものとする。隣り合うトンネルT同士は、止水材18aを介して互いに密着する。
【0033】
ガイド溝D2を構成する溝部材15は、図3示すように、一方のトンネルT(T1)の外殻11の内周面において隙間11aに沿って配置されている。また、ガイド溝D2は、図4に示すように、幅狭部15aと幅広部15bとを備える断面T字形状の溝(いわゆるT溝)に形成されている。
つまり、ガイド溝D2は、外殻11の隙間11aを挟んで対向する一対の対向片151,151と、この一対の対向片151,151のそれぞれの先端部から側方に張り出す張出片152,152と、この張出片152,152に設けられた断面コ字形状(溝形)の形材153とを備えて構成されており、対向片151により挟まれた幅狭部15aと張出片152,152および形材153により囲まれた幅広部15bとを有している。
【0034】
なお、対向片151、張出片152および形材153は鋼製の部材からなり、溶接により互いに接合されている。
【0035】
突条P2を構成する突部材17は、図3示すように、他方のトンネルT(T2)の外殻11の外周面においてトンネル軸方向に沿って配置されており、その突端部分が外殻11の外側に突出している。また、突部材17は、図4に示すように、外殻11の外周面に配置されたレール171と、外殻11の内周面に配置された押えプレート172と、レール171のフランジ171aと押えプレート172とを貫通するボルト173,173,…と、各ボルト173を締結するナット174,174,…とを備えて構成されている。
【0036】
レール171は、熱押形鋼からなり、外殻11の外周面に固定されるフランジ171aと、このフランジ171aから立ち上がるウェブ171bと、このウェブ171bの突端部分に形成された頭部171cとを備えている。また、レール171のウェブ171bの幅(厚さ)が溝部材15の幅狭部15aの幅(すなわち、ガイド溝D2の開口幅)よりも小さくなっており、かつ、頭部171cの断面積が溝部材15の幅広部15bの断面積よりも小さくなっているので、レール171は、上下左右に動き得るクリアランスをもって溝部材15の内部に入り込む。つまり、突条P2となるレール171は、ガイド溝D2となる溝部材15と遊嵌状態で結合することになる。また、レール171の頭部171cは、溝部材15の幅狭部15aの幅(すなわち、ガイド溝D2の開口幅)よりも大きい幅寸法に成形されている。このようにすると、レール171の溝部材15からの抜け出しが阻止されることから、隣り合う推進函体10,10が必要以上に離間することを防ぐことができる。
【0037】
目板20は、複数のボルト孔が形成された鋼板であって、隣接するトンネルT,Tの覆工L,Lに跨って配設される。目板20は、ボルト21,21,…を介して覆工L,Lに固定されることで、トンネルT同士を連結している。なお、目板20に形成されるボルト孔の数は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、目板20の形状寸法も限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。さらに、目板20は、トンネル軸方向に配設される推進函体10毎に配置してもいいし、複数の推進函体10,10,…おきに配置してもよい。
【0038】
次に、地下構造物1の築造方法の概要を、図5(a)〜(d)を参照して説明する。なお、以下の説明においては、複数のトンネルT,T,…を、施工順にトンネルT1〜T6と称することがある。
【0039】
地下構造物1を築造するには、まず、図5(a)に示すように、その断面内の下部中央に一本目のトンネルT1を構築したうえで、この一本目のトンネルT1の横隣りに二本目のトンネルT2および三本目のトンネルT3を構築する。
【0040】
このとき、後行するトンネルT2(T3)の施工は、突出部の突条P1とトンネルT1側の側面に形成された突条P2とをそれぞれガイド溝D1,D2に挿入した状態で行うことで、トンネルT1と離間することなく行う。
【0041】
続いて、図5(b)に示すように、一本目のトンネルT1の縦(上)隣に四本目のトンネルT4を構築し、さらに、トンネルT2およびトンネルT4に隣接する位置に五本目のトンネルT5を構築し、トンネルT3およびトンネルT4に隣接する位置に六本目のトンネルT6を構築する。なお、トンネルT1〜T6の構築順序は、図示のもの(前記の順序)に限らず、適宜変更しても差し支えない。また、本実施形態においては、後行のトンネルTを構築する際に、継手J1、J2を介して隣り合うトンネルT同士を互いに連結させた状態で行う。
【0042】
隣接するトンネルT,Tの構築が完了したら、継手J1の凹部P11とガイド溝D1との間に形成された空間に注入管18を挿入した後、当該注入管18を介して止水剤18aを注入して継手J1の止水を行う(図2参照)。ここで、注入管18の継手J1への挿入は、注入管18の先端から洗浄水を噴射して継手J1の内部に詰まった土砂などを洗浄しながら行う。そして、注入管18が、トンネルT1の先端まで到達したら、止水剤18aを注入しながら徐々に引き抜くことにより、継手J1の止水を行う。注入管18を使用しない方法として注入孔19から止水剤18aを注入してもよい。
【0043】
なお、後行のトンネルTは、先行して構築したトンネルTの隣において、複数の推進函体10,10,…を図示せぬ坑口から先行のトンネルTに沿って順次押し出すことにより構築される。なお、トンネルTの施工中は、推進函体10の周囲に滑材を注入・充填しておき、トンネルTの構築が完了した後に、硬化性の裏込材に置き換える。また、図示は省略するが、各トンネルTにおいて、トンネル軸方向に隣り合う推進函体10,10は、ボルト・ナット等を用いて連結される。
【0044】
また、図5(a)に示す掘進機Kは、その後方の推進函体10(図2参照)に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、図示せぬ推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体10を介して坑口側から伝達された図示せぬ元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。また、掘削機Kのカッターヘッドとしては、例えば、略菱形を呈する二つの揺動カッターK1,K1を備えるものを採用することができる。揺動カッターK1,K1は、それぞれ揺動軸を中心に揺動し、互いに干渉しないように相反する方向に制御される。これにより、掘削断面を矩形にすることが可能となる。なお、カッターヘッドの形態は、図示のものに限定されるものではなく、掘削断面の形状や土質等に応じて変更しても差し支えない。
【0045】
トンネルT1〜T6の構築が完了したら、図5(c)に示すように、地下構造物1の断面形状に合せて、トンネルT1〜T6の不要な覆工L2,L2,…を撤去して大きな空間を形成する。このとき、隣接するトンネルT,Tの残置する覆工L1,L1を、覆工L1、L1に跨って目板20を固定することにより連結し、トンネルT1〜T6を一体化させる。
【0046】
そして、図5(d)に示すように、地山との境界(すなわち、地下構造物1の外縁)に沿って残置されたトンネルT1〜T6の覆工L1,L1,…を利用して本設の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成すると、地下構造物1となる。なお、不要な覆工L2を全部撤去した後に頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成してもよいし、トンネルT1〜T6の不要な覆工L2の一部を撤去しつつ、地下構造物1の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを構築してもよい。また、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cの構築完了後に撤去してもよい。
【0047】
以上、本実施形態の地下構造物1によれば、継手部J1が、残置する覆工L1の本体部(L字状、直線状を呈する部分)ではなく、地山側に突出した突出部Sに配置されているため、覆工L1の本体部に断面欠損が生じない。そのため、トンネル同士の連結や、地下構造物1の頂版1A、底版1B、側壁1C,1Cの構築の際に、地下構造物1の内空側に突出部分を形成する必要がない。つまり、トンネル同士の連結を、覆工L1の本体部において目板20を介して行うことが可能となる。また、覆工L1の本体部に断面欠損が生じないため、地山に面する覆工L1のみで、必要な断面積を確保することが可能となる。
【0048】
したがって、地下構造物1の内空断面積を、大きく確保することが可能となる。
つまり、同じ内空断面積の地下構造物1を構築するために、従来よりも小さい断面積のトンネルTを組み合わせることにより構築することが可能となるため、掘削土量や材料費等の削減、早期施工等が可能になる。
【0049】
また、突条P1がL字状に屈曲した部位を備えて形成されているため、突状P1の先端が、トンネルTの外殻の近傍に位置しており、注入孔19を設けることができるので止水材18aの注入作業を、トンネルT内から簡易に行うことができる。注入孔19は推進函体10毎にあってもよいし当該間隔を離してもよい。
【0050】
また、隣り合うトンネルT同士は、継手部J1,J2を介して、函体10同士を連結した状態で行うため、先行するトンネルT1が蛇行し、あるいは捩れている場合や、後行のトンネルT1の掘進機K(図5(a)参照)にローリングやピッチング等が発生した場合であっても、これらの影響が両トンネルT1,T1の連結部分で吸収されることになるので、その施工を確実に行うことが可能となる。
【0051】
つまり、図3に示すように、後行のトンネルT2となる推進函体10(以下、「後行の推進函体10」という)を先行のトンネルT1に沿って押し出す際には、後行の推進函体10のレール161は、先行トンネルT1を構成する推進函体10の溝部材14の内部にトンネル軸方向から挿入されことになるが、図2に示すように、このレール161が溝部材14の内部に遊嵌状態で入り込むので、先行のトンネルT1が蛇行等していても、あるいは、後行のトンネルT1の掘進機Kにローリング等が生じていても、溝部材14とレール161との間にクリアランスがあるので後行の推進函体10がトンネル軸に対して傾斜していても直ちに競ってしまうというような不都合が発生することがなく、その結果、後行の推進函体10をスムーズに押し出すことが可能となる。
【0052】
また、図2に示すように、この溝部材14およびレール161は、遊嵌状態で結合してトンネルT1の蛇行等に対応可能に構成されている一方で、レール161の頭部161c(すなわち、突条P1の突端部分)が溝部材14の幅狭部14aの幅(ガイド溝D1の開口幅)よりも大きい幅寸法に成形されているので、隣り合う推進函体10,10が必要以上に離間することがなく、その結果、寸法精度の高い地下構造物1を構築することが可能となる。
【0053】
また、隣り合うトンネルT1,T1の目地の止水は、ガイド溝D1に突条P1を遊嵌して、ガイド溝D1の内部において、突条P1の先端に形成された凹部P11を介して止水剤18aを注入することにより行なわれているため、別途止水構造を構築する必要がなく、簡易に止水性に優れた地下構造物が構築される。
【0054】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、推進函体が鋼製の部材で構成されている場合を例示したが、この他、球状黒鉛鋳鉄製の部材で構成されているものであってもよく、さらには、鉄筋コンクリート製の部材で構成されているものであってもよい。また、合成構造であってもよい。
【0055】
また、突条をボルトとナットを介して、推進函体の側面に取り付ける構成としたが、例えばレールのフランジ部を推進函体の側面に溶接して取り付けてもよく、突条の取り付け方法は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、突条を熱押形鋼からなるレールにより形成するものとしたが、例えば鋼板を組み合わせて形成してもよく、突条の形成方法は限定されるものではない。同様に、前記実施形態では、ガイド溝について形鋼を組み合わせて形成するものとしたが、ガイド溝の形成方法も限定されるものではないことは、いうまでもない。
【0056】
また、前記実施形態では、継手への止水剤の注入を、注入管や注入孔を介して行う構成としたが、継手の止水方法は限定されるものではなく、例えば、継手の洗浄後、直接止水剤を突条の凹部とガイド溝との間に形成された空間に充填してもよい。
【0057】
また、突出部に配置される突条は、必ずしもL字状に屈曲した部位を備えて形成されている必要はなく、その断面形状は限定されるものではない。
また、突条の先端の凹部は必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0058】
また、継手部の構成は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
また、隣り合うトンネル同士の連結方法は、目板による方法に限定されるものではなく、適宜公知の方法により行えばよい。例えば、隣り合うトンネル同士の摩擦力による接合が可能であれば、目板等の部材を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る地下構造物を示す断面図である。
【図2】図1のX部分の拡大断面図である。
【図3】図1に示す地下構造物を構成する推進函体を示す斜視図である。
【図4】図1のY部分の拡大断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明に係る地下構造物の築造手順を示す断面図である。
【図6】(a)は従来の地下構造物を示す断面図、(b)は(a)のZ部分を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 地下構造物
10 推進函体
11 外殻
12 主桁
13 縦リブ
14 溝部材
15 突部材
18 管材
18a 止水剤
20 目板
T(T1〜T6) トンネル
L 覆工
D1 ガイド溝
P1 突条
P11 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並設された複数本のトンネルを利用して築造された地下構造物であって、
隣り合う二つの前記トンネルの覆工の各々に地山側に突出する突出部を設け、この突出部に両覆工をつなぐ継手部を形成したことを特徴とする、地下構造物。
【請求項2】
前記継手部は、隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの前記突出部に一体に形成されて他方のトンネル側に開口するガイド溝と、
他方のトンネルの前記突出部に一体に形成されて前記ガイド溝に挿入される突条と、
前記突条の周囲に注入される止水剤と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の地下構造物。
【請求項3】
前記突条がL字状に屈曲した部位を備えて形成されており、前記突条の先端が前記覆工の外面の近傍に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の地下構造物。
【請求項4】
前記突条の先端には、管材の配管が可能な形状の凹部が形成されていることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の地下構造物。
【請求項5】
前記隣り合う二つのトンネルが、両トンネルの覆工に跨って配設された目板により連結されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の地下構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−270378(P2009−270378A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123300(P2008−123300)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】