説明

地下水揚水設備の閉塞防止方法及び装置並びに閉塞防止型地下水揚水設備

【課題】揚水を継続しつつ揚水設備の閉塞を防ぐ閉塞防止方法及び装置を提供する。
【解決手段】地下水Wを継続的に揚水する揚水設備10の揚水井11内に地下水位H1近傍に至る送気管21を設け、送気管21を介して揚水井11内の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填し、上部空間Pからの低反応性ガスGの漏洩速度Vに応じた流量で低反応性ガスGを継続的に補給して地下水成分の酸化を抑制する。好ましくは、揚水井11の側壁に側方向きの集水路31が設けられている場合に、送気管21を揚水井11内から集水路31内に導入して上部空間P及び集水路31内の空間に低反応性ガスを充填する。更に好ましくは、揚水井11内の地下水上部空間Pの酸素濃度を計測する酸素濃度計を設け、上部空間Pの酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように低反応性ガスGを充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地下水揚水設備の閉塞防止方法及び装置並びに閉塞防止型地下水揚水設備に関し、とくに地下水を継続的に揚水する揚水設備において地下水成分の酸化による閉塞を防止する方法及び装置並びにそれを用いた閉塞防止型地下水揚水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
地上又は地中に大型の構造物(原子炉建屋、石油貯蔵タンク、ガス貯蔵タンク等)を構築する場合に、地下水による構造物の浮き上がり防止、構造物の耐水対策、構造物の合理的設計等を目的として、構造物下方の地下水位を低下させる揚水設備(排水設備と呼ばれることもある)を設けることがある。非特許文献1は、図5に示すように、この場合原子力発電所の原子炉建屋である構造物3に設けた地下水揚水設備の構造を開示する。図示例の揚水設備は、構造物3の基礎直下に敷設され岩盤1中の地下水を集めるドレン管32と、構造物3の基礎周囲に敷設されドレン管32より集水する集水管31と、集水管31の地下水を地上に排出する揚水井11とからなる。図中の符号34は、原子炉建屋に隣接するタービン建屋を示す。
【0003】
図5のドレン管32は、例えば管径φ=100mmの有孔塩ビ管であり、構造物3の周辺岩盤1の揚圧力解析に基づき配置位置及び数を選定する。集水管31は、例えば管径φ=800mmの有孔ヒューム管であり、周辺岩盤1の湧水量解析に基づき、その湧水量より集水管31及びドレン管32の流下能力が大きくなるように、管径を選定する。揚水井11は、地下約38.7mに構築したRC造の集水ピット14と、その集水ピット14から地上に至る鋼製筒体(シャフト)とにより構成される。集水ピット14には揚水ポンプ(図示せず)が装入される。ドレン管32及び集水管31に集めた地下水を集水ピット14に流下させ、集水ピット14の地下水を揚水ポンプで継続的に地上へ排出することにより、構造物3の下方の地下水位を下げて構造物3に作用する揚圧力を低減する。
【0004】
また図6に示すように、液状化のおそれのある砂層地盤41の下方に粘土層地盤42が分布している地盤1上に建物その他の構造物3を構築する場合に、砂層地盤41の液状化防止対策を目的として、構造物3下方の地下水位を低下させる揚水設備を設けることがある(特許文献1参照)。図6の構造物3は、基礎底面が砂層地盤41中の深い位置まで掘り込まれ、粘土層地盤42の下方の支持層43に根入れした杭基礎45により支持されている。その構造物3の周囲に粘土層地盤42に到達する止水壁(鉄筋コンクリート地中連続壁、鋼矢板等)46を構築して構造物3を取り囲み、構造物3の基礎底面から粘土層地盤42に至る揚水井11を設け、揚水井11及び揚水装置15を介して止水壁46で囲まれた砂層地盤41の地下水を継続的に排出することにより、砂層地盤41の地下水位を下げて地震時における砂層地盤41の液状化を防止する。同様の揚水設備は、地下水位が高い砂礫層の地下掘削工事等において、地下水位低下工法(揚水工法)を適用する場合にも用いられる(特許文献2参照)。
【0005】
上述した地下水揚水設備は何れも、構造物又は工事現場を維持管理する上で重要な設備であり、長期に亘り必要十分な量の地下水の揚水を継続する必要がある。しかし、図5及び図6に示すように揚水設備は地下深くに設けられており、周辺地盤から浸透する地下水中の溶存成分の影響を受けて機能が経時的に低下するおそれがある。例えば図5の揚水設備において、周辺地盤1に鉄分が含まれていると、揚水設備内に進入した鉄イオンが空気(酸素)により酸化されて不溶性の水酸化鉄を生成し、揚水井11の集水ピット14・集水管31・ドレン管32に不溶性酸化物質が徐々に堆積してそれらを閉塞させる。揚水井11・集水管31・ドレン管32が閉塞すると、上述した揚圧力解析・湧水量解析によって定めた地下水量が排水できなくなり、新たな揚水井11を設ける等の対策が必要となる。このため従来は、定期的に作業員が揚水井11の集水ピット14に降り、高圧水の吹き付け等により揚水井11内に堆積した不溶性酸化物質を人力で除去する清掃作業を行っている。
【0006】
【非特許文献1】安田悟他「女川原子力発電所第3号機地下水排水設備の設計・施工」電力土木第294号、社団法人電力土木技術協会、2001年7月、pp.59-63
【特許文献1】特開平11−323896号公報
【特許文献2】特開2001−323477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した揚水井11の清掃方法は、地下深い揚水井11の内部に作業員が降りる危険作業を伴うと共に、作業員の安全確保のため清掃作業時に揚水を中断しなければならない問題点がある。このため、地下水を絶えず排出することが要求される揚水設備では、清掃作業を考慮して予備井を含む複数の揚水井11を設けることが必要となる。予備井のない必要最小限の数の揚水井11によって地下水を経済的に排出するためには、揚水を中断することなく揚水井の閉塞を防止する技術の開発が必要である。
【0008】
また、従来の揚水井11の清掃方法は、揚水井11の側方に連なる集水管31やドレン管32内の堆積物を十分に除去できない問題点もある。例えば図5の揚水設備において、集水ピット14に降りた作業員が集水管31やドレン管32の内部まで入り込むことは困難であり、集水管31やドレン管32の内部の堆積物を十分に除去できないため、従来の清掃方法では集水管31やドレン管32の閉塞のおそれが残る。集水管31やドレン管32を含む揚水設備10のあらゆる部分の閉塞を防止できる技術の開発が望まれている。
【0009】
そこで本発明の目的は、揚水を継続しつつ揚水設備の閉塞を防ぐ閉塞防止方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
図1の実施例を参照するに、本発明による地下水揚水設備の閉塞防止方法は、地下水Wを継続的に揚水する揚水設備10の揚水井11内に地下水位H1近傍に至る送気管21を設け、送気管21を介して揚水井11内の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填し、上部空間Pからの低反応性ガスGの漏洩速度Vに応じた流量で低反応性ガスGを継続的に補給して地下水成分の酸化を抑制してなるものである。好ましくは、揚水井11の側壁に側方向きの集水路31が設けられている場合に、送気管21を集水路31内に導入して上部空間P及び集水路31内に低反応性ガスGを充填する。
【0011】
また図1のブロック図を参照するに、本発明による地下水揚水設備の閉塞防止装置は、地下水Wを継続的に揚水する揚水設備10の揚水井11内の地下水位H1近傍に開口する送気管21、送気管21を介して揚水井11内の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填する送気装置22、及び上部空間Pからの低反応性ガスGの漏洩速度Vに応じて送気装置22の流量を制御する制御装置25を備えてなるものである。好ましくは、図2に示すように、揚水井11内の地下水上部空間Pの酸素濃度を計測する酸素濃度計28を設け、上部空間Pの酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように送気装置22の流量を制御する。
【0012】
更に図1の実施例を参照するに、本発明による閉塞防止型地下水揚水設備は、地上又は地中構造物3の下方の地下水位Hを低下させる揚水設備10において、構造物3の直下又は周縁に掘削した地下水層に至る揚水井11、揚水井11内の地下水Wを継続的に揚水する揚水装置15、揚水井11内の地下水位H1近傍に開口する送気管21、送気管21を介して揚水井11内の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填する送気装置22、及び上部空間Pからの低反応性ガスGの漏洩速度Vに応じて送気装置22の流量を制御する制御装置25を備えてなるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明による地下水揚水設備の閉塞防止方法及び装置は、地下水位近傍に至る送気管を介して揚水井内の地下水上部空間に低反応性ガスを充填し、上部空間からの低反応性ガスの漏洩速度に応じた流量で低反応性ガスを継続的に補給して地下水成分の酸化を抑制するので、次の顕著な効果を奏する。
【0014】
(イ)揚水作業を停止することなく揚水設備の閉塞を防止できるので、予備井を設ける必要がなく、必要最小限の数の揚水井による経済的な揚水が実現できる。
(ロ)揚水井の内部だけでなく、揚水井の側方に連なる集水路やドレン管の内部を含む揚水設備のあらゆる部分の閉塞を有効に防止できる。
(ハ)危険作業を伴う定期的な清掃作業の必要性を減らし、揚水井の閉塞を安全に且つ低コストで防止することができる。
(ニ)既存の揚水井にも容易に適用可能であり、送気管を配置するだけで閉塞を効果的に防止できる。
(ホ)低反応性ガスの送入流量は自動制御が可能であり、自動揚水システム等と組み合わせることにより揚水設備の省力化・自動化に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、地盤1中の地下水層に達する深さに構築した地下LNG(液化天然ガス)貯蔵タンク等の構造物3に設けた揚水設備10に本発明を適用した実施例を示す。図示例の揚水設備10は、構造物3の基礎直下の地下水を集めるドレン管32と、そのドレン管32を取り囲む環状の集水管31と、集水管31に連なる集水ピット14から地上に揚水する揚水井11とを有する。例えば地盤1を地下水層まで掘り下げてドレン管32・集水管31・集水ピット14を敷設し、砕石又は砂等によりドレン管32及び集水管31を埋め戻してドレン層6を形成すると共に集水ピット14から地上に至る揚水井11を据え付け、ドレン層6上に構造物3及び揚水井11を囲むようにコンクリートを打設することにより構造物3と揚水設備10とを一体的に構築する。ドレン管32及び集水管31の配置位置・数・管径等は、図5の場合と同様に設計することができる。本発明は、図1及び図5のように集水管31・ドレン管32を有する揚水設備10に有効に適用できるが、例えば図6のように集水管31・ドレン管32のない揚水設備10にも適用可能である。
【0016】
図示例の揚水設備10は、揚水井11を介して揚水する揚水装置15を有し、ドレン管32及び集水管31から集水ピット14に流下する地下水Wを継続的に地上の排水溝5に排出し、ドレン層6の地下水位H1を周囲の地下水位H0よりも低下させる。ドレン層6の地下水位H1を下げることにより、構造物3に作用する揚圧力を低減させ、構造物3の基礎部が地下水中に水没するのを防止する。揚水装置15に揚水ポンプ17及び揚水管16と、ポンプ17の制御装置と、地下水位H1又はH0の計測装置とを含め、ドレン層6が適当な地下水位H1となるように揚水ポンプ17を自動制御することができる。
【0017】
また図示例の揚水設備10は、揚水井11の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填する閉塞防止装置を有し、揚水装置15による揚水作業を継続しながら、地下水W中の溶存成分(例えば鉄イオン)の酸化を抑えて不溶性酸化物質(例えば水酸化鉄)の堆積を防止する。図示例の閉塞防止装置は、揚水井11内の地下水位H1近傍に開口する送気管21と、送気管21を介して揚水設備10の地下水上部空間Pに低反応性ガスGを充填する送気装置22と、送気装置22の流量を制御する制御装置25とを有する。なお、図示例の揚水設備10は集水管31に連なる4本の井戸を設け、その内の1本を揚水井11とし、他の3本を予備井12としている。例えば揚水井11の点検時に何れかの予備井12を用いて地下水Wを揚水することができる。但し本発明は、揚水井11のみであっても揚水作業と閉塞防止作業との同時作業が可能であり、予備井12を必須とするものではない。予備井12を設けた場合は、揚水設備10への空気進入路となる予備井12にも送気管21及び送気装置22を設け、揚水井11及び予備井12を介して揚水設備10の内部に低反応性ガスGを充填する。
【0018】
閉塞防止装置の送気管21は、例えば金属製ホース又は適当な耐圧材料製ホースである。送気管21の先端開口をドレン層6の地下水位H1の僅か上方に臨ませるか、又は低反応性ガスGが不水溶性である場合は送気管21の先端を地下水中に開口させてもよい。図示例では送気管21を揚水井11の内側に吊り下げているが、送気管21を地盤1又は構造物3内に設置し、その先端開口のみを揚水井11内の地下水位H1近傍に臨ませてもよい。好ましくは、送気管21の先端開口を揚水井11内から集水管31又はドレン管32に導入し、集水管31及びドレン管32内の空間にも低反応性ガスGを充填する。揚水設備10の全体に低反応性ガスGを効率的に充填するためには、集水管31又はドレン管32から充填することが有効である。図示例のように送気管21の先端を分岐させ、一方を揚水井11内に開口させ、他方を集水管31内に開口させてもよい。
【0019】
低反応性ガスGは、常温で気体の物質のうち可燃性のもの(メタン・エタン・プロパン・ブタン等)、爆発性のもの(酸素・水素等)、有害性のもの(アンモニア・塩素・シアン・硫化水素等)を除いたアルゴン・キセノン・クリプトン・ネオン・ヘリウム・窒素等の不活性ガス又は二酸化炭素とすることができる。好ましくは低反応性ガスGを、大量供給が可能で且つ比重が空気と同等又はこれより大きい窒素(対空気比重0.967)、アルゴン(同1.380)又は二酸化炭素(同1.529)とする。揚水設備10がコンクリート製である場合はコンクリート中性化の原因となる二酸化炭素の使用は避けることが望ましく、コスト面からは窒素ガスが実用的である。低反応性ガスGをこれらの混合ガスとしてもよい。
【0020】
図示例では低反応性ガスGを窒素ガスとし、送気装置22に窒素ガスの製造装置23又は貯蔵タンクを接続している。例えば、製造装置23において液化窒素を気化させる方法又は圧縮空気を酸素吸着剤に通して高純度窒素ガスとする方法により窒素ガスG(純度99%)を製造し、制御装置25で流量を制御しながら、送気装置22によって送気管21に窒素ガスGを送入する。
【0021】
図示例の制御装置25は、揚水井11の大きさに応じて、その地下水上部空間Pの酸素濃度を地下水中の溶存成分を酸化しない濃度(以下、酸化抑制濃度という。例えば1%)以下とするのに要する所定流量の窒素ガスGの充填時間Tを記憶した充填検知手段27を有する。送気装置22による窒素ガスGの送入を所定流量で充填時間T以上継続する制御により、揚水井11内に窒素ガスGを充填する。窒素ガスGの充填に要する充填時間Tは、揚水井11の大きさと窒素ガスGの対空気比重及び所定送入流量とに応じて、予め実験的又は経験的に定めることができる。ドレン管32及び集水管31内に空気が多少残る可能性はあるが、時間経過と共に地下水W中の溶存成分の酸化に消費されるので、揚水設備10の全空間に窒素ガスGを充満できる。また、充填検知手段27に各予備井12の充填時間Tを記憶し、予備井12毎に窒素ガスGを充填することができる。
【0022】
揚水井11に充填された窒素ガスGは空気より比重が小さいため、揚水井11の気密性の程度に応じて徐々に漏洩する。このため、窒素ガスGによる充填を検知したのち、制御装置25により窒素ガスGの漏洩速度Vを若干超える送入流量で窒素ガスGの送入を継続することにより、揚水井11の上部空間Pの酸素濃度を地下水成分の酸化抑制濃度以下に維持する。窒素ガスGの漏洩速度Vは揚水井11の大きさ・気密性と窒素ガスGの対空気比重とに応じて変わるため、揚水井11からの漏洩速度Vを直接的に計測することは困難であるが、本発明者は後述するように、揚水井11を窒素ガスGで充填した後の上部空間Pの酸素濃度の変化から窒素ガスGの漏洩速度Vを実験的又は経験的に把握できることを見出した。揚水井11の上部開口には適当な蓋13を設け、窒素ガスGの漏洩をできる限り抑えることが望ましい。図示例の制御装置25は、揚水井11又は予備井12毎に窒素ガスGの漏洩速度Vを記憶した記憶手段26を有し、その漏洩速度Vに応じて送入装置22の送入流量を制御する。
【0023】
図2に示すように、揚水井11内の地下水上部空間Pに酸素濃度を計測する酸素濃度計28を設け、制御装置25と酸素濃度計28とを接続し、制御装置25の充填検知手段27により上部空間Pの酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように送気装置22の流量を制御することも可能である。この場合は、揚水井11内の異なる深さ位置にそれぞれ酸素濃度計28を設け、複数の酸素濃度計28によって揚水井11の内部全体への窒素ガスGの充填を検知することができる。但し、地下深い揚水井11の内部の酸素濃度を計測するには多数の酸素濃度計28が必要であり、また図示例のように予備井12を設けた場合はその各々に酸素濃度計28を設ける必要があるので、酸素濃度計28の実用的・経済的な設置が難しい場合がある。本発明は酸素濃度計28を必須とするものではなく、上述したように充填時間T及び漏洩速度Vに応じて送気装置22の流量を制御すれば足りる。
【0024】
[実験例1]
図3に示すような直径1.2m、深さ12mの集水管31付き揚水井11を用いて、本発明の閉塞防止装置の効果を確認する実験を行った。揚水井11には送気管21を挿入し、その先端開口を揚水ポンプ17の運転停止時の地下水位H1より10〜20cm程度高い位置に臨ませた。揚水井11の上部空間Pの深さ6m、4m、2mの位置及び蓋13の直下にそれぞれ酸素濃度計28a、28b、28c、28dを固定し、各酸素濃度計28a〜28dをコンピュータ29の濃度記録手段27aに接続した。先ず、送気装置22により十分な大きな所定流量で送気管21に窒素ガスGを供給し、各酸素濃度計28a〜28dの酸素濃度が何れも実質上0%となるまでの充填時間Tを計測した。窒素ガスGによる揚水井11の充填を確認したのち窒素ガスGの供給を停止し、1時間毎に各酸素濃度計28a〜28dの酸素濃度を濃度記録手段27aに記録した。
【0025】
図4は、窒素ガスGの供給停止後における揚水井11の上部空間Pの深さ6m、4m、2mの位置における酸素濃度変化を示す。地下水中の溶存成分を酸化しない上部空間Pの酸素濃度(酸化抑制濃度)を1%と仮定すると、実質上0%の酸素濃度が酸化抑制濃度以上となる経過時間は、図4の実験結果から深さ2mで約3.5時間、深さ4mで約7.85時間、深さ6mで約12.1時間であることが分かる。すなわち、揚水井11の地下水上部空間Pでは、窒素ガスGの漏洩に応じて酸化抑制濃度の境界位置は上部開口から徐々に下降しており、その境界位置の下降速度は深さ2mで0.57(=2/3.5)m/時、深さ4mで0.51(=4/7.85)m/時、深さ6mで0.50(=6/12.1)m/時であり、それらの平均値は0.53m/時であった。地下水成分の酸化抑制という観点からは、この酸化抑制濃度の境界位置の下降速度を窒素ガスGの漏洩速度Vと考えることができる。
【0026】
図4の実験結果から本発明者は、直径1.2mの揚水井11では、上述した窒素ガスGの漏洩速度Vに対応する毎時約0.60m3(≒0.6m×0.6m×3.14×0.53m≒600リットル)の流量で、地下水位H1近傍に窒素ガスGを継続的に供給すれば、揚水井11内の地下水上部空間Pの酸素濃度をほぼ酸化抑制濃度以下に維持できることを見出した。また本発明者は、揚水井11の直径・深さが異なる場合や窒素ガス以外の低反応性ガスGを用いた場合も、本実験と同様にして上部空間Pからの低反応性ガスGの漏洩速度Vを、上述した酸化抑制濃度の境界位置の下降速度から実験的に求めることができることを見出した。
【0027】
次に、図1の閉塞防止装置を図3の揚水井11に適用し、上述した実験で求めた窒素ガスGの充填時間T及び漏洩速度Vを制御装置25に記憶し、揚水井11の上部空間Pの酸素濃度を地下水成分の酸化抑制濃度以下に維持する実験を行った。制御装置25により送入装置22を所定送入流量に調節し、窒素ガスGを充填時間T以上継続して送入したところ、各酸素濃度計28a〜28dの酸素濃度は何れも1%以下となり、揚水井11の上部空間Pに窒素ガスGを充填することができた。また、充填確認後に送入装置22の送入流量を、上述した窒素ガスGの漏洩速度Vに対応する600リットル/時(=10リットル/分)に調整して窒素ガスGの供給を継続したところ、各酸素濃度計28a〜28dの酸素濃度を何れも1%以下に維持することができた。すなわち、本発明の閉塞防止装置により、揚水井11の上部空間Pの酸素濃度を地下水成分の酸化抑制濃度以下に維持できることが確認できた。
【0028】
更に本発明者は、揚水井11の上部空間Pの酸素濃度を地下水成分の酸化抑制濃度以下に維持した状態で、揚水井11の地下水Wを採取して水質(酸化還元電位、溶存酸素濃度、溶存性鉄イオン濃度等)を調査した。その結果、地下水Wの溶存酸素濃度は低く、溶存性鉄イオン濃度は高いことが確認できた。このことから、本発明により地下水W中の鉄イオンの酸化を防止でき、本発明が地下水W中の水酸化鉄の堆積防止に有効であることが確認できた。
【0029】
こうして本発明の目的である「揚水を継続しつつ揚水設備の閉塞を防ぐ閉塞防止方法及び装置」を達成することができる。
【実施例1】
【0030】
図2は、本発明の閉塞防止型地下水揚水設備10の他の実施例を示す。図示例の揚水設備10には、揚水装置15で揚水した地下水Wから酸化抑制対象成分(例えば、鉄イオン)を除去する水処理装置18が設けられている。閉鎖防止装置を設けた本発明の揚水設備10では、揚水井11・集水管31・ドレン管32において地下水W中の溶存成分が酸化されないため、環境負荷低減の観点から、揚水装置15で揚水したのち排水溝5へ放流する前に、地下水W中のその溶存成分(酸化抑制対象成分)を除去することが望ましい。
【0031】
図示例の水処理装置18では、例えば揚水した地下水Wに次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を添加して地下水W中の酸化抑制対象成分(例えば鉄イオン)を酸化して不溶性酸化物質(例えば水酸化鉄)を生成させたのち、高分子凝集剤を添加して濃縮沈殿槽において不溶性酸化物を凝集・沈澱させる。沈殿物をフィルタープレスで脱水処理し、脱水ケーキは廃棄物として処分する。濃縮沈殿槽においてオーバーフローした上澄み液のみをpH調整して排水溝5に放流する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の説明図である
【図2】本発明の他の実施例の説明図である
【図3】揚水井に充填した低反応性ガスの漏洩速度を求める実験の説明図である。
【図4】図3の実験による低反応性ガスの漏洩速度の実験結果の一例を示すグラフである。
【図5】従来の原子力建屋の地下水揚水設備の説明図である。
【図6】従来の液状化対策用の地下水揚水設備の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1…地盤(岩盤) 3…構造物 5…排水溝
6…ドレン層 10…揚水設備 11…揚水井
12…予備井 13…蓋 14…集水ピット
15…揚水装置 16…揚水管 17…揚水ポンプ
18…水処理装置 21…送気管 22…送気装置
23…ガス製造装置(ガスタンク) 25…制御装置
26…記憶手段 27…充填検知手段 27a…濃度記録手段
28…酸素濃度計 29…コンピュータ 31…集水管(集水路)
32…ドレン管 34…タービン建屋
41…砂層地盤 42…粘土層地盤 43…支持層地盤
45…基礎杭 46…止水壁
G…低反応性ガス(窒素ガス) H…地下水位
P…上部空間 T…充填時間 V…漏洩速度
W…地下水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を継続的に揚水する揚水設備の揚水井内に地下水位近傍に至る送気管を設け、前記送気管を介して揚水井内の地下水上部空間に低反応性ガスを充填し、前記上部空間からの低反応性ガスの漏洩速度に応じた流量で低反応性ガスを継続的に補給して地下水成分の酸化を抑制してなる地下水揚水設備の閉塞防止方法。
【請求項2】
請求項1の閉塞防止方法において、前記揚水井内の地下水上部空間に酸素濃度計を設け、前記上部空間の酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように低反応性ガスを充填してなる地下水揚水設備の閉塞防止方法。
【請求項3】
請求項1又は2の閉塞防止方法において、前記揚水井の側壁に側方向きの集水路を設け、前記送気管を集水路内に導入して前記上部空間及び集水路内に低反応性ガスを充填してなる地下水揚水設備の閉塞防止方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの閉塞防止方法において、前記低反応性ガスを窒素ガスとしてなる地下水揚水設備の閉塞防止方法。
【請求項5】
地下水を継続的に揚水する揚水設備の揚水井内の地下水位近傍に開口する送気管、前記送気管を介して揚水井内の地下水上部空間に低反応性ガスを充填する送気装置、及び前記上部空間からの低反応性ガスの漏洩速度に応じて前記送気装置の流量を制御する制御装置を備えてなる地下水揚水設備の閉塞防止装置。
【請求項6】
請求項5の閉塞防止装置において、前記揚水井内の地下水上部空間の酸素濃度を計測する酸素濃度計を設け、前記上部空間の酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように前記送気装置の流量を制御してなる地下水揚水設備の閉塞防止装置。
【請求項7】
請求項5又は6の閉塞防止装置において、前記低反応性ガスを窒素ガスとしてなる地下水揚水設備の閉塞防止装置。
【請求項8】
地上又は地中構造物の下方の地下水位を低下させる揚水設備において、前記構造物の直下又は周縁に設けた地下水層に至る揚水井、前記揚水井内の地下水を継続的に揚水する揚水装置、前記揚水井内の地下水位近傍に開口する送気管、前記送気管を介して揚水井内の地下水上部空間に低反応性ガスを充填する送気装置、及び前記上部空間からの低反応性ガスの漏洩速度に応じて前記送気装置の流量を制御する制御装置を備えてなる閉塞防止型地下水揚水設備。
【請求項9】
請求項8の揚水設備において、前記制御装置に揚水井内の地下水上部空間に設けた酸素濃度計を含め、前記上部空間の酸素濃度が地下水成分の酸化抑制濃度以下となるように前記送気装置の流量を制御してなる閉塞防止型地下水揚水設備。
【請求項10】
請求項8又は9の揚水設備において、前記構造物直下にドレン層を設け、前記揚水井を構造物の周縁に設け、前記揚水井の側壁にドレン層と連通する集水路を設け、前記送気管を集水路内に導入してなる閉塞防止型地下水揚水設備。
【請求項11】
請求項8から10の何れかの揚水設備において、前記低反応性ガスを窒素ガスとしてなる閉塞防止型地下水揚水設備。
【請求項12】
請求項8から11の何れかの揚水設備において、前記揚水した地下水から酸化抑制対象成分を除去する水処理装置を設けてなる閉塞防止型地下水揚水設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−104714(P2006−104714A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290568(P2004−290568)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】