説明

地下貯蔵施設の施工方法

【課題】 貯槽空洞の内壁全体が低透水性の水密な層となるようにし、この層によって湧水を抑制させて貯槽空洞周辺の不飽和域の生成を抑制させ、適正な水封機能を発揮することができる地下貯蔵施設の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 地盤G内に形成された貯槽空洞2を有し、貯槽空洞2の周辺地盤G内の地下水による水封機能で貯槽空洞2内に貯蔵された貯蔵物を封じ込める地下貯蔵施設1の施工方法において、地盤Gを掘削しつつ掘削壁面に先行吹付コンクリート4を吹き付けて貯槽空洞2を形成し、貯槽空洞2の内空変位、貯槽空洞2周辺の緩み域Aの進行および先行吹付コンクリート4の変状がそれぞれ収束した後、先行吹付コンクリート4の内面全体に後行吹付コンクリート5を吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば石油や液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)等を地下に貯蔵するため施設であって、所謂水封式の地下貯蔵施設の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油や液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)等の液体や気体を貯蔵する施設として、地下の岩盤内に貯蔵空洞を掘削してこの貯蔵空洞を岩盤タンクとする地下貯蔵施設が提供されている。この地下貯蔵施設における漏洩防止方式としては、貯蔵空洞にコンクリート巻立てや鋼板等のライニング材の内張りを行うライニング方式と、貯蔵空洞の周辺岩盤内の地下水の動水勾配によって空洞内の石油等を封じ込める(水封機能)水封式とがある。
【0003】
前者のライニング方式は、ライニング材によって内部の気密・液密性を保ち、石油等の漏洩を防止する方式であり、例えば、貯蔵空洞の内壁にライニング材が被覆され、このライニング材と内壁との間に裏込め材が介在されている構成からなる(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
また、後者の水封式は、貯蔵空洞を地下水位以下の岩盤内に形成し、その貯蔵空洞内に石油等を貯蔵するとともに、貯蔵空洞の周辺岩盤の地下水圧を石油等の貯蔵圧力よりも高くすることで、所要の動水勾配を確保し(水封機能)、石油等の漏洩を防止する方式である。水封式の場合、一般には、ロックボルトと吹付けコンクリートのみにより補強され、巻立てコンクリートや鋼板等による覆工は行われない。
【0005】
ところで、水封式の地下貯蔵施設の場合、水封機能を確保するために、貯蔵空洞の周辺岩盤が地下水で飽和状態になっていることが必要であるが、例えば、貯蔵空洞の周辺岩盤に、透水性が顕著に高い破砕帯等が当該貯蔵空洞に接するように形成されている場合などでは、破砕帯等を通して貯蔵空洞内に多量の湧水が生じる場合があり、この場合、地下水の補給が追いつかなくなり、貯蔵空洞周辺に不飽和域が生じる虞がある。
また、通常、水みちの下流側の透水性が高いと、その部分では不飽和となり易く、水みちの下流側の透水性が低いと、その部分では不飽和となり難くなるが、水封式の地下貯蔵施設に限らず、一般の地下空洞周囲には、空洞の掘削によって空洞周囲の岩盤が脆弱となる緩み域が生じ、緩み域は緩みのない岩盤と比べて透水性が高くなるため、上記した従来の水封式の地下貯蔵施設では、緩み域が不飽和となる可能性が高い。また、同じような考えで、貯蔵空洞上方などに難透水性を示す層がある場合などでも、その下方部は、地下水がまわり難くなって不飽和が生じる場合が考えられる。
【0006】
一方、貯蔵空洞壁面に吹付けコンクリートが吹き付けられていると、この吹付けコンクリートの透水性は、一般には約10−7〜10−8cm/sec程度と低く、例えば約10−5〜10−3cm/secといったような高い透水性を示す破砕帯や緩み域と比べて低くなっている。したがって、従来の水封式の地下貯蔵施設では、水みちの下流側の透水性が低いとその部分では不飽和となり難くなるという上記した原理により、貯蔵空洞の壁面周辺部分では不飽和になり難くなり、不飽和領域が形成されることを抑止することができるという効果が期待されている。
【特許文献1】特開2001−146309号公報
【特許文献2】特開2002−211684号公報
【特許文献3】特開2004−83244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、大断面の岩盤タンク空洞を形成する場合、天井部(上部)より順次掘り下がっていき、ロックボルトや吹付けコンクリート等の支保構造をその都度仕上げていくベンチカット工法が一般に取られるが、上記した従来の水封式の地下貯蔵施設では、掘削期間中の貯蔵空洞壁面の変位(内空変位)は、階段状に増加して最終ベンチ掘削まで増加することになるため、壁面に吹き付けられた吹付けコンクリートが貯槽空洞の内空変位に伴って変形し、この変形によって吹付けコンクリートにクラック(亀裂)が生じるという問題がある。吹付けコンクリートにクラックが生じると、その箇所の透水性は高くなり、不飽和領域の生成を抑止するという効果が期待できなくなる可能性が高くなる。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、貯槽空洞の内壁全体が低透水性の水密な層となるようにし、この層によって湧水を抑制させて貯槽空洞周辺の不飽和域の生成を抑制させ、適正な水封機能を発揮することができる地下貯蔵施設の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、地盤内に形成された貯槽空洞を有し、貯槽空洞の周辺地盤内の地下水の水封機能で貯槽空洞内に貯蔵された貯蔵物を封じ込める地下貯蔵施設の施工方法において、地盤を掘削しつつ掘削壁面に先行吹付コンクリートを吹き付けて貯槽空洞を形成し、該貯槽空洞の内空変位、貯槽空洞周辺の緩み域の進行および先行吹付コンクリートの変状がそれぞれ収束した後、先行吹付コンクリートの内面全体に後行吹付コンクリートを吹き付けることを特徴としている。
【0010】
このような特徴により、先行吹付コンクリートの内面全体に吹き付けられた後行吹付コンクリートは、貯槽空洞が安定した後に施工されるため、貯槽空洞の内空変位等に伴うクラックや剥離、崩壊等の変状が生じず、貯槽空洞の壁面は透水性が低く水密性が高い層となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る地下貯蔵施設の施工方法によれば、地盤を掘削しつつ掘削壁面に先行吹付コンクリートを吹き付けて貯槽空洞を形成し、貯槽空洞の内空変位、貯槽空洞周辺の緩み域の進行および先行吹付コンクリートの変状がそれぞれ収束した後、先行吹付コンクリートの内面全体に後行吹付コンクリートを吹き付ける構成となっており、後行吹付コンクリートにはクラック等の変状が生じず、貯槽空洞の壁面は透水性が低く水密性が高い層となるため、貯槽空洞の方向へと流れる水みちの下流側の透水性が低くなり、貯槽空洞の壁面付近では不飽和となり難くなり、貯槽空洞周辺における不飽和域の生成を抑止することができる。また、仮に、貯槽空洞周辺に不飽和域が形成されたとしても、クラック等がない後行吹付コンクリートによって湧水が抑制され、貯槽空洞の周囲の地盤に地下水の補給が十分に行き届くため、その不飽和域は時間とともに飽和域となり、不飽和域を解消させることができる。このように、貯槽空洞周辺における不飽和域の生成を抑止し、また、貯槽空洞周辺に形成された不飽和域を解消することができるため、地下貯蔵施設の水封機能を適正に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る地下貯蔵施設の施工方法の実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1は地下貯蔵施設1における貯槽空洞2を表した全体断面図であり、図2は貯槽空洞2の壁面を表した拡大断面図である。
【0013】
図1,図2に示すように、地下貯蔵施設1は、石油やLPG、LNG等の貯蔵物を貯蔵する貯槽空洞2と、貯槽空洞2にアクセスするための図示せぬ連絡トンネルと、貯槽空洞2の周辺岩盤Gに水封水を圧入して周辺岩盤Gを人工的に飽和状態にする図示せぬ水封システムとから構成されている。
【0014】
貯槽空洞2は、花崗岩等の岩盤Gに形成された大断面の空洞であり、図示せぬ地下水位よりも下方に形成されている。また、貯槽空洞2は、その壁面に、複数のロックボルト3…が放射状に打ち込まれているとともに、二層の吹付けコンクリート4,5が被覆されており、また、その底面には、底盤コンクリート14が打設されている構成からなっている。
【0015】
ロックボルト3は、貯槽空洞2の周囲に形成される脆弱な部分(緩み域A)と緩み域Aの外側の緩んでいない部分(非緩み域B)とを結び付けて締め付ける周知のロックボルトであり、貯槽空洞2の周囲に形成される緩み域A(脆弱な部分)を貫通して設けられ、先端部が緩みのない岩盤G内に差し込まれているとともに、基端部が吹付けコンクリート(後述する一次吹付けコンクリート4a)にプレート6とナット7とからなる固定具8によって固定されている。
【0016】
吹付けコンクリート4,5は、貯槽空洞2のアーチ壁部2aおよび側壁部2bにそれぞれ吹き付けられており、また、その下端部と底盤コンクリート14との間に隙間があけられ、その隙間から内部に湧水が湧き出る状態(すそあき状態)になっている。また、二層の吹付けコンクリート4,5は、貯槽空洞2を掘削するとともに掘削壁面に吹き付けられて当該壁面を保護する先行吹付けコンクリート4と、貯槽空洞2の掘削が完了して貯槽空洞2が安定した後に貯槽空洞2の壁面(先行吹付けコンクリート4の内側面)に吹き付けられて貯槽空洞2の壁面(先行吹付けコンクリート4の内側面)を被覆する後行吹付けコンクリート5とからなっている。
【0017】
先行吹付けコンクリート4は、掘削面に直接吹き付けられる外側の一次吹付けコンクリート4aと、一次吹付けコンクリート4aの内側面(表面)に吹き付けられる内側の二次吹付けコンクリート4bと、一次吹付けコンクリート4aと二次吹付けコンクリート4bとの間に介在されるラス網4cとから構成されている。一次吹付けコンクリート4aは、落石防止や岩盤壁面保護のための層であり、貯槽空洞2の掘削直後に吹き付けられる。二次吹付けコンクリート4bは、一次吹付けコンクリート4aに固定されるロックボルト3打設後に吹き付けられ、ロックボルト3の頭部を覆い隠して滑らかな表面に仕上げられている。ラス網4cは、例えば金網などからなり、一次吹付けコンクリート4aの吹き付け後に一次吹付けコンクリート4aの内側面全体に貼り付けられる。
【0018】
後行吹付けコンクリート5は、二次吹付けコンクリート4bの内側面(表面)に吹き付けられ、二次吹付けコンクリート4bの表面全体を被覆するように形成されている。
底盤コンクリート14は、貯槽空洞2の掘削底面(インバート部2c)にコンクリート打設されることで形成されている。
なお、上記したロックボルト3…と先行吹付けコンクリート4とによって、掘削された貯槽空洞2の壁面を支持する支保工9が構成されている。
【0019】
一方、貯槽空洞2の周辺岩盤Gを人工的に飽和状態にする図示せぬ水封システムは、貯槽空洞2の周辺岩盤Gの地下水圧を調整する人工水封システムであり、図示せぬ水封トンネル及び水封ボーリング、可圧手段とからなっている。図示せぬ水封トンネル及び水封ボーリングは、貯槽空洞2の上方等にそれぞれ設置され、その内部に水封水が満たされている。なお、縦水封ボーリングが、貯槽空洞2の側方に設置されていてもよい。
また、加圧手段は、上記した図示せぬ水封トンネル等の内部に満たされた水封水を加圧するものであり、この加圧手段によって、図示せぬ水封トンネルや水封ボーリングの内部に貯留された水封水を加圧することで、図示せぬ水封トンネルや水封ボーリングから水封水が流出し、貯槽空洞2の周辺地盤G内に水封水が供給され、貯槽空洞2の周辺岩盤G内の地下水圧は貯槽空洞2内に貯蔵された貯蔵物の圧力よりも高い状態に保たれる。
【0020】
上記した構成からなる地下貯蔵施設1によれば、貯槽空洞2の周辺岩盤Gの地下水圧を貯槽空洞2内の貯蔵物の圧力よりも高くすることができるため、水封機能によって貯槽空洞2内の貯蔵物を封じ込めることができ、貯蔵物の漏洩を防止することができる。また、後行吹付けコンクリート5によって地下水が遮られるため、貯槽空洞2の周辺地盤G内における地下水の流れは、図1に示す白抜き矢印のように、主として貯槽空洞2の壁面に沿って流れて、吹付けコンクリート4,5の下端部と底盤コンクリート14との隙間(貯槽空洞2の最下部の隅角部)から貯槽空洞2内に流入するようになる。また、仮に、貯槽空洞2の壁面に隙間無く吹付けコンクリート4,5が吹き付けられていると、湧水の主要な出口がなくなっていまい、吹付けコンクリート4,5に過大な背圧がかかることになって吹付けコンクリート4,5のクラック等の要因になるが、上記した構成からなる地下貯蔵施設1によれば、吹付けコンクリート4,5の下端部と底盤コンクリート14との間に隙間があけられているため、この隙間から殆どの湧水が出るようになり、吹付けコンクリート4,5に水圧による過大な背圧がかからないようになる。これによって、湧水量を抑制することができる。
【0021】
次に、上記した構成からなる地下貯蔵施設1の施工方法について説明する。
なお、ここでは、主に貯槽空洞2の施工方法について説明し、その他の図示せぬ連絡トンネルや水封システムについては、周知の工法によって施工されるため、説明を省略する。
【0022】
まず、周知のベンチカット工法、つまり、貯槽空洞2を複数段(図1では4段)に分けて地下水位より下方の岩盤Gを順次掘り下げていきつつ、掘削壁面を支持する支保工9を設置し、岩盤G内に貯槽空洞2を形成する工程を行う。具体的には、まず、岩盤Gを掘削して最上段のアーチ部10を形成した後、アーチ部10の壁面に図示せぬコンクリート吹付け機を用いて一次吹付けコンクリート4aを吹き付け、その一次吹付けコンクリート4aが固化した後、固化した一次吹付けコンクリート4aの内側面(アーチ部10の壁面)に図示せぬロックボルト打設機を用いてロックボルト3…を打設する。その後、その一次吹付けコンクリート4aの表面に二次吹付けコンクリート4bを吹き付ける。
【0023】
次に、アーチ部10の直ぐ下の岩盤Gを掘削して第1のベンチ部11を形成した後、第1のベンチ部11の壁面に図示せぬコンクリート吹付け機を用いて一次吹付けコンクリート4aを吹き付け、その一次吹付けコンクリート4aが固化した後、固化した一次吹付けコンクリート4aの内側面に図示せぬロックボルト打設機を用いてロックボルト3…を打設する。その後、その一次吹付けコンクリート4aの表面に二次吹付けコンクリート4bを吹き付ける。そして、以降、上記した第1のベンチ部11の場合と同様にして、第2のベンチ部12、第3のベンチ部13を順次形成していき、最後に、貯槽空洞2の底面に、底盤コンクリート14を打設する。なお、一次吹付けコンクリート4a及び二次吹付けコンクリート4bは、その下端部と底盤コンクリート14との間に隙間があけられた状態(すそあき状態)になるようにそれぞれ吹付け、貯槽空洞2の最下部の隅角部に湧水の出口を確保しておく。
【0024】
また、このとき、上記のようにベンチカット工法によって岩盤Gを掘削して貯槽空洞2を形成するとともに、所定位置における貯槽空洞2の内空変位や天端沈下量等の壁面変位を測定する。例えば、複数(図1では3箇所)の測定位置における貯槽空洞2の幅L1〜L3を測定することで、貯槽空洞2の内空変位を観察する。また、図示せぬロックボルト軸力計(ロックボルト3に発生している軸力を歪ゲージ等により検出する計器)によってロックボルト3に発生している軸力の分布状況や経時変化を観測し、これにより、緩み域Aの範囲や緩み域Aの進行の収束状況を把握する。なお、図示せぬロックボルト軸力計に代えて多段式岩盤内変位計(貯槽空洞2の壁面からの距離が異なる複数の計測点における変位をそれぞれ検出する計器)を使用し、この多段式岩盤内変位計によって各計測点間(区間)の変位を測定し、この区間変位の分布状況から緩み域Aの範囲を把握するとともに、区間変位の経時変化から緩み域Aの進行の収束状況を把握してもよい。さらに、貯槽空洞2の壁面に吹き付けられて固化した先行吹付コンクリート4を目視等で確認してクラック等の変状を観察する。なお、図示せぬクラックスケールでクラック等の幅を計測してクラック等の変状を観察してもよい。
【0025】
なお、上述したとおり貯槽空洞2の掘削時に順次適切な支保工9が施工されており、また、変位等の測定値が管理基準値を越えた場合には、吹付けコンクリートやロックボルト等からなる図示せぬ増支保工が追加施工されるため、貯槽空洞2の内空変位、貯槽空洞2周辺の緩み域Aの進行および先行吹付コンクリート4の変状は、掘削が完了した時点において収束し、貯槽空洞2は安定した状態になる。また、基本的には、壁面変位である内空変位および吹付けコンクリートの変状等が収束していれば、貯槽空洞2周辺の緩み域Aの進行も収束していると考えることができる。
【0026】
次いで、貯槽空洞2の内空変位、貯槽空洞2周辺の緩み域Aの進行および先行吹付コンクリート4の変状がそれぞれ収束して貯槽空洞2が安定した状態にあることを確認した後、先行吹付コンクリート4の内面(増吹付けコンクリート等が施工されていれば、その内面)全体に後行吹付コンクリート5を吹き付ける工程を行う。具体的には、上記観察によって、貯槽空洞2の内空変位がなくなり、緩み域Aの進行が停止し、先行吹付コンクリート4(場合によっては図示せぬ増吹付けコンクリート)の変状が止まったことを確認し、その後、貯槽空洞2の上部天端から側壁下部までの貯槽空洞2の全壁面に図示せぬコンクリート吹付け機を用いて後行吹付けコンクリート5を吹き付ける。このとき、後行吹付けコンクリート5は、その下端部と底盤コンクリート14との間に隙間があけられた状態(すそあき状態)になるように吹付け、貯槽空洞2の最下部の隅角部に湧水の出口を確保しておく。貯槽空洞2の上部天端の吹き付け時には、高所作業車を別途用意し、これにより施工する。吹き付け厚さについては、通常の一回の吹き付け厚さとなる一般的な厚さと同様であり、また、これより厚くすることも薄くすることも状況によっては可能である。
【0027】
上記した構成からなる地下貯蔵施設1の施工方法によれば、岩盤Gを掘削しつつ掘削壁面に先行吹付コンクリート4を吹き付けて貯槽空洞2を形成し、貯槽空洞2の内空変位、貯槽空洞2周辺の緩み域Aの進行および先行吹付コンクリート4の変状がそれぞれ収束した後、先行吹付コンクリート4(場合によっては図示せぬ増吹付けコンクリート)の内面全体に後行吹付コンクリート5を吹き付けるため、後行吹付コンクリート5にはクラック等の変状が生じず、貯槽空洞2の壁面は透水性が低く水密性が高い層となる。これによって、貯槽空洞2の方向へと流れる水みちの下流側の透水性が低くなり、貯槽空洞2の壁面付近では不飽和となり難くなり、貯槽空洞2周辺における不飽和域の生成を抑止することができる。また、仮に、後行吹付けコンクリート5の施工前に、貯槽空洞2周辺に不飽和域が形成されたとしても、クラック等がない後行吹付コンクリート5によって湧水が抑制され、貯槽空洞2の周囲の岩盤Gに地下水の補給が十分に行き届くため、その不飽和域は時間とともに飽和域となり、不飽和域を解消させることができる。このように、貯槽空洞2周辺における不飽和域の生成を抑止し、また、貯槽空洞2周辺に形成された不飽和域を解消することができるため、地下貯蔵施設1の水封機能を適正に発揮させることができる。
【0028】
以上、本発明に係る地下貯蔵施設の施工方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。すなわち、掘削空洞の最終的な安定が確認された後に、後行の吹付けコンクリート5を施工する工程を行うのが本発明の主旨である。例えば、上記した実施の形態では、水封トンネルと水封ボーリング内に水封水を満たして加圧することにより地下水圧を一定に保つ人工水封式の地下貯蔵施設1の場合について説明しているが、本発明は、水封トンネルや水封ボーリングが備えられてなく、地下水圧の調節を行わない自然水封式の地下貯蔵施設でもよい。
【0029】
また、上記した実施の形態では、岩盤Gをベンチカット工法によって掘削して貯槽空洞2を形成しているが、本発明は、中壁工法や全断面工法で貯槽空洞を形成してもよく、如何なる掘削工法でもよい。
また、上記した実施の形態では、貯槽空洞2の壁面に一次吹付けコンクリート4aを吹き付けた後にロックボルト3…を打設しているが、本発明は、貯槽空洞の壁面にロックボルトを打設した後に一次吹付けコンクリート4aを吹き付けてもよく、この場合、先行吹付コンクリート4は、一次と二次に分けずに一度に吹き付けてもよい。さらに、本発明は、ロックボルトが打設されていなくてもよい。
また、上記した実施の形態では、一次吹付けコンクリート4aおよび二次吹付けコンクリート4bを吹き付けて、第1のベンチ部11、第2のベンチ部12、第3のベンチ部13を順次形成した後に、貯槽空洞2の底面に底盤コンクリート14を打設しているが、本発明は、底盤コンクリートが施工されていなくてもよい。
また、上記した実施の形態では、貯槽空洞2が岩盤G内に形成される場合について説明しているが、本発明は、岩盤以外の地盤に貯槽空洞を形成させてもよい。
また、本発明は、上記した実施の形態に限定されず、例えば、過大な湧水箇所において、吹付けコンクリートの施工が困難な場合には、必要最小限の導水管を打設して導水を行うなどの適切な処置を併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る実施の形態について説明するための貯槽空洞の全体断面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態について説明するための貯槽空洞の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 地下貯蔵施設
2 貯槽空洞
4 先行吹付コンクリート
5 後行吹付コンクリート
A 緩み域
G 地盤(岩盤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に形成された貯槽空洞を有し、貯槽空洞の周辺地盤内の地下水による水封機能で貯槽空洞内に貯蔵された貯蔵物を封じ込める地下貯蔵施設の施工方法において、
地盤を掘削しつつ掘削壁面に先行吹付コンクリートを吹き付けて貯槽空洞を形成し、
該貯槽空洞の内空変位、貯槽空洞周辺の緩み域の進行および先行吹付コンクリートの変状がそれぞれ収束した後、先行吹付コンクリートの内面全体に後行吹付コンクリートを吹き付けることを特徴とする地下貯蔵施設の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−39230(P2007−39230A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227665(P2005−227665)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】