地中レーダ装置および地中レーダ装置を用いた測定方法
【課題】 送受信アンテナを複数並べたアレイアンテナとし、更にCMP(Common Mid Point)などの信号処理手法で強いクラッタを避けるためのアレイアンテナ設計に関する。
【解決手段】 送受信アンテナを複数並べたアレイアンテナとし、更にCMP(Common Mid Point)などの信号処理手法で強いクラッタを避けるためのアレイアンテナ設計手法による。
【解決手段】 送受信アンテナを複数並べたアレイアンテナとし、更にCMP(Common Mid Point)などの信号処理手法で強いクラッタを避けるためのアレイアンテナ設計手法による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムな媒質中を伝搬する電波を利用して媒質内部をイメージングする場合にアレイアンテナを利用してクラッタを除去するシステムの設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の装置として、地中レーダの信号処理によるクラッタ除去法があった。これはアンテナを移動しながら取得した波形を平均化し、原波形から差し引くことで、反射波を強調するものである。しかし本手法は媒質のランダム性が強い場合に適用ができない。また、アンテナを移動しながらデータを取得し合成開口処理によりイメージングを行う手法も用いられてきた。この場合にも、クラッタ除去効果は認められるが、限界がある。
【0003】
【非特許文献1】http://www.mext.go.jp/english/news/2002/05/020601.htm
【非特許文献2】http://www.jst.go.jp/pr/report/report264/index.html
【非特許文献3】M. Sato, G. Fang, and Z. Zeng, “Landmine detection by a broadband GPR system”, Proc. IEEE Int. Geoscience and Remote Sensing Symp., IGARSS 2003, CD-R, 2003
【非特許文献4】E. Gazit, “Improved design of the Vivaldi antenna“, Proc. Inst. Elect. Eng., vol.135, Pt.H, No.2, pp.89-92, 1988.
【非特許文献5】E. Guillanton, J. Y. Dauvignac, Ch. Pichot, and J. Cashman, “A New Design Tapered Slot Antenna for Ultra-wideband Applications”, Microwave and Optical Technology Letters, Vol. 19, No. 4, pp. 286-289, Nov. 1998.
【非特許文献6】J. D. S. Langley, P. S. Hall, and P. Newham, “Novel Ultrawide-Bandwidth Vivaldi Antenna and Low Crosspolarisation,” Electron. Lett., Vol. 29, No. 23, pp. 2004-2005, 1993.
【非特許文献7】佐藤源之,“地中レーダによる地下イメージング”,信学論(C), vol. J85-C,no.7,pp.520-530,July,2002.
【非特許文献8】小林敬生,佐藤源之,“3次元FDTD法による地雷探査用地中レーダの解析”,信学技報AP2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空中のアレイアンテナは使用する周波数と所望の指向性が与えられたとき、アンテナ間隔と励振複素振幅を与える数学的・理論手法が確立している。しかし地下媒質のようなランダム媒質中では本理論で設計したアレイアナテナが必ずしも最適に動作するわけではない。従来、地中レーダではレーダシステムを最適化する場合、周波数を変更するなどして、試行錯誤的にシステムを改良していた。しかし我々はランダム媒質のランダム性を定量化したとき、ランダム性とアレイアンテナの間隔に最適条件が存在することを見出し、そのための設計手法を確立した。
【0005】
一方、ランダム媒質の等価的な誘電率は地中レーダのイメージングにおいて重要である。しかし誘電率はTDRなど他の計測器を利用して測定する必要があり、効率的ではない。本発明では固定したアンテナアレイを利用して媒質の誘電率分布を計測する方法を確立した。
【0006】
更に鉄道における軌道保全のために地中レーダを利用する場合、アンテナアレイ間隔を最適化することで枕木など不要な反射を効率的に除くことができる。
【0007】
アレイアンテナの設計法は空中で利用する場合、設計手法が確立している。しかし、地下のようなランダム媒質中で利用する地中レーダのような場合、確立した設計手法の適用ができない。本発明はこうした場合におけるアンテナの最適化を行う手法に関するものである。従来、周波数などのパラメータしか変更しなかったのに対して、システムの変更を最小限にしながら最適化を行うことができるメリットを有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
地中レーダで探査する媒質(土壌、岩盤、コンクリートなど)の内部が不均質であったり、また表面が粗い状態では地中レーダの電波は強いランダムな散乱を受ける。こうした散乱波はクラッタと呼ばれる。強いクラッタがある状態では、送信電波を強くしても目的とする対象物(地雷やガス管など)からの反射波を見出すことが難しい。本発明は、送受信アンテナを複数並べたアレイアンテナとし、更にCMP(Common Mid Point)などの信号処理手法で強いクラッタを避けるためのアレイアンテナ設計に関するものである。
【0009】
地中レーダの送信電波が10MHzから10GHz程度の時、アレイアンテナの間隔を1cmから10cm程度変えると、媒質の不均質の程度(粒径の大きさや表面粗さ)に応じて、最適のアンテナ間隔が存在する。媒質の不均質性が小さいとき、アンテナ間隔は狭いときに最適値が存在し、不均質性が大きいときアンテナ間隔の最適値は広がる傾向がある。不均質媒質に対する地中レーダ用アンテナのアンテナアレイを設計するためにはアンテナ間隔の設計が重要である。アンテナ間隔を設計するためにFDTDなどの数値シミュレーションを行い、予め応答予想曲線を作成し、現地の不均質性に合わせたアンテナ間隔を選択する(図11参照)。
【0010】
最適値は使用するアンテナエレメントにも依存するので、アンテナごとの最適値予想曲線を作成する必要がある。
【0011】
シミュレーションからアンテナ間隔の最適値を定めるためにはクラッタの分散値と目的とするターゲットからの反射波の最大値の比を評価パラメータとし、評価パラメータが最大となるアレイ間隔を設計値とする。
【0012】
地中レーダ用アンテナ設置の方法は、対象とする媒質の不均質性の程度が予め予想できる場合にはアンテナ間隔を固定する。一方、不均質性が予想できない場合にはアンテナ間隔を可変とする機構をアンテナ治具に設ける方法、1cm、2cm、4cm、6cm程度の間隔を持ったアンテナアレイを用意し、現地に適応してスイッチで使用するアレイを選択する方法、また1cm、2cm、4cm、6cm程度の間隔をもつアレイを予め一列に配列した不均一アンテナ間隔アレイを作成し、スイッチにより使用するアンテナを選択する方法などがある(図10、12参照)。
【0013】
アレイに使用するアンテナはダイポールアンテナ、ボータイアンテナ、ビバルディアンテナ、スパイラルアンテナ等が適当である。目的と使用周波数に応じてアンテナの選択は行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を、地雷検知用GPRアレイアンテナの最適化を例に、以下に説明する。尚、本発明は地雷の検知のみならず、ガス管や水道管などその他の地中埋設物の検知にも適用できることはいうまでもない。
【実施例】
【0015】
先ず、GPRシステム及び送受信アンテナについて説明すると、開発中のSAR-GPRシステムは、ステップ周波数レーダ方式で,40kHzから6GHzまでの帯域を400周波数でネットワークアナライザ(HP8753E)を利用して計測する.
【0016】
広帯域での計測を行なう送受信アンテナとしてビバルディアンテナを採用することとした.最適化設計されたこのアンテナの例では,周波数範囲2-10GHzで十分利用できることがわかる.ビバルディアンテナはその形状とバランを要しないという特性のおかげでアレイアンテナシステムを組むことが比較的容易である[3]-[6].開発中のSAR-GPRシステムでは,地表面クラッタノイズを低減させるため、最適化設計されたビバルディアンテナを直線上に配置し,CMP(Common Mid Point)アレイアンテナシステムを組んで送受信アンテナとする[7].5組の送受アンテナ対でCMPアレイを構成しアンテナ間隔を1cmから5cmまでとして実験を行なったが、アンテナ間隔によらず計測に深刻な影響を及ぼすアンテナ間カップリングはなかった.
【0017】
測定は50cmX50cmX70cmの砂箱に図1に示すTYPE72の模擬地雷を埋設して行った。ターゲットはアフガニスタンで多く使われたType-72対人地雷を模擬した地雷模型で直径78mm,高さ40mmの扁平な円筒形をしている.Type-72は微小な信管以外はすべて非金属で作られている.
【0018】
測定と信号処理について説明すると、本SAR-GPRは地雷原の地表面を2次元的に走査する.すなわち,数cm程度の間隔で定められた2次元格子点上でGPR計測を行なう.地表面からアンテナ先端までの距離は数cmから10cm程度である.各計測点では5対の送受アンテナ対による5個の計測データが得られるが,このデータに対しCMP処理を施し,1個のCMPデータを得る.得られたCMPデータは次にマイグレーション処理を施され地中の3次元画像データが得られる[7].
【0019】
次に、室内計測実験について説明すると、地雷原はサイズ7mmの小砕石と40mmの砕石を用いて模擬し,比較的平坦な地表面と表面に凹凸を与えた粗い地表面の2種の地表面を模擬した.表面粗さを定量的に評価するため,レーザ距離計による表面高さ分布の計測を行ない,そのRMS高さと相関長を求めた.
【0020】
比較的平坦な地表面の場合について説明すると、図2に比較的平坦な地表面を模擬した地雷原モデルを示す.このモデルでは,砂箱にサイズ7mmの小砕石を敷き詰め,地表面から約5cmの深さに模擬地雷を埋設した後,表面をならして平らにした.このモデルのRMS高さは1.7mmであり,相関長は15mmであった.
【0021】
図3にアンテナ間隔を1,2,3,5cmとしたときのSAR-GPR計測で得られた地中水平面画像を示す.地雷モデルは地表面から約3cmに埋設した。垂直断面での模擬地雷の検知は難しいが水平断面図ではどの画像においてもはっきりと円形のType-72地雷模型のイメージが認められる。しかしアンテナ間隔が大きくなるにつれてターゲット像の周囲に対するコントラストが低下するように見える.
【0022】
粗い地表面の場合について説明すると、図4に粗い地表面を模擬した地雷原モデルを示す.このモデルでは,サイズ7mmの小砕石とサイズ40mmの砕石を混ぜてさらに人為的に表面に凹凸を与えることで粗い地表面を模擬している.このモデルのRMS高さは15mmであり,相関長は20mmであった.
【0023】
図5にそれぞれのアンテナ間隔におけるSAR-GPR計測で得られたこのモデルの地中水平面画像を示す.どの画像においても,ターゲットであるType-72地雷模型のイメージは認められるが,アンテナ間隔によってターゲットのイメージのみならず周囲のクラッタイメージも見え方が変化している.
【0024】
アレイアンテナ間隔の効果について説明すると、図6に地表面が平坦な場合と粗い場合についてアンテナ間隔を変えたときの模擬地雷からの反射波の強さを示した。この図面より、地表面の粗さに対してアンテナ間隔の最適値が存在することが明らかである。この場合、平坦な表面では1cm、粗い表面では3cmでそれぞれ最適なアンテナ間隔となっている。
【0025】
FDTDによる数値シミュレーションについて説明すると、実験結果を更に検証するためFDTD(有限差分―時間領域)法を用いた数値シミュレーションを行った。
シミュレーション空間の格子数は500X500X175でありPML吸収境界条件を利用した。地表面はガウス分布でありRMS高さと相関長を15mm,20mmとした。砕石と土の体積比を50%とし、砕石の形状は3次元回転楕円体とした。砕石の方向もガウス分布で乱数化した。送受信は38mmのダイポールアンテナとした。土と砕石の比誘電率は3,5.3とした。地雷は平均地表面から10cmの深さに埋設し、比誘電率を4とした。シミュレーション波形は実験と同様の信号処理をしてイメージングを行った。図9にアンテナ間隔に対するターゲットの反射強度を示す。実験と同様のアンテナ間隔最適値が現れることが明らかとなった。
【0026】
本研究で見いだした地表面粗さに対して最適なアンテナ間隔が存在する理由について、アンテナからの電波を幾何光学近似することで物理的な説明が行える。
【0027】
地雷探知を目的としてアレイアンテナを用いたSAR-GPRシステムを開発し,このシステムの性能評価を行なうために実験室内で比較的平坦な地表面状態での地雷探査を模擬する実験と,粗い地表面状態での地雷探査を模擬する実験を行ないそれぞれについてアレイアンテナのアンテナ間隔の効果を調べた.アンテナ間隔の効果を定量的に評価するため,ターゲット像のコントラストをターゲット像のピクセル値と周囲のクラッタ像ピクセル値の標準偏差の比で定義した.そして,アレイアンテナのアンテナ間隔には表面の粗さに応じた最適値が存在することを明らかにした.更にこうした最適値が存在することをFDTDによる数値シミュレーションで検証した上、幾何光学近似によって物理的説明が行える。
【0028】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の活用例として地表面が粗い場所での地雷検知、ガス管、水道施設など埋設物の検知システムへの応用、鉄道、道路、橋梁などの構造物保安非破壊検査において、鉄筋、枕木など検査の妨害になる物体を透過して内部を可視化する手法などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】TYPE72の模擬地雷
【図2】比較的平坦な地表面を模擬した地雷原モデル
【図3】SAR-GPR計測で得られた地中水平面画像
【図4】粗い地表面を模擬した地雷原モデル
【図5】SAR-GPR計測で得られた地中水平面画像
【図6】地表面が平坦な場合と粗い場合の模擬地雷からの反射波の強さを示した
【図7】地中垂直面画像
【図8】地中水平面画像
【図9】アンテナ間隔に対するターゲットの反射強度を示した
【図10】ビバルディアンテナによるアンテナアレイ
【図11】FDTDで作成した最適値予想曲線の例
【図12】アンテナ間隔と均一並びに不均一アンテナアレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムな媒質中を伝搬する電波を利用して媒質内部をイメージングする場合にアレイアンテナを利用してクラッタを除去するシステムの設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の装置として、地中レーダの信号処理によるクラッタ除去法があった。これはアンテナを移動しながら取得した波形を平均化し、原波形から差し引くことで、反射波を強調するものである。しかし本手法は媒質のランダム性が強い場合に適用ができない。また、アンテナを移動しながらデータを取得し合成開口処理によりイメージングを行う手法も用いられてきた。この場合にも、クラッタ除去効果は認められるが、限界がある。
【0003】
【非特許文献1】http://www.mext.go.jp/english/news/2002/05/020601.htm
【非特許文献2】http://www.jst.go.jp/pr/report/report264/index.html
【非特許文献3】M. Sato, G. Fang, and Z. Zeng, “Landmine detection by a broadband GPR system”, Proc. IEEE Int. Geoscience and Remote Sensing Symp., IGARSS 2003, CD-R, 2003
【非特許文献4】E. Gazit, “Improved design of the Vivaldi antenna“, Proc. Inst. Elect. Eng., vol.135, Pt.H, No.2, pp.89-92, 1988.
【非特許文献5】E. Guillanton, J. Y. Dauvignac, Ch. Pichot, and J. Cashman, “A New Design Tapered Slot Antenna for Ultra-wideband Applications”, Microwave and Optical Technology Letters, Vol. 19, No. 4, pp. 286-289, Nov. 1998.
【非特許文献6】J. D. S. Langley, P. S. Hall, and P. Newham, “Novel Ultrawide-Bandwidth Vivaldi Antenna and Low Crosspolarisation,” Electron. Lett., Vol. 29, No. 23, pp. 2004-2005, 1993.
【非特許文献7】佐藤源之,“地中レーダによる地下イメージング”,信学論(C), vol. J85-C,no.7,pp.520-530,July,2002.
【非特許文献8】小林敬生,佐藤源之,“3次元FDTD法による地雷探査用地中レーダの解析”,信学技報AP2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空中のアレイアンテナは使用する周波数と所望の指向性が与えられたとき、アンテナ間隔と励振複素振幅を与える数学的・理論手法が確立している。しかし地下媒質のようなランダム媒質中では本理論で設計したアレイアナテナが必ずしも最適に動作するわけではない。従来、地中レーダではレーダシステムを最適化する場合、周波数を変更するなどして、試行錯誤的にシステムを改良していた。しかし我々はランダム媒質のランダム性を定量化したとき、ランダム性とアレイアンテナの間隔に最適条件が存在することを見出し、そのための設計手法を確立した。
【0005】
一方、ランダム媒質の等価的な誘電率は地中レーダのイメージングにおいて重要である。しかし誘電率はTDRなど他の計測器を利用して測定する必要があり、効率的ではない。本発明では固定したアンテナアレイを利用して媒質の誘電率分布を計測する方法を確立した。
【0006】
更に鉄道における軌道保全のために地中レーダを利用する場合、アンテナアレイ間隔を最適化することで枕木など不要な反射を効率的に除くことができる。
【0007】
アレイアンテナの設計法は空中で利用する場合、設計手法が確立している。しかし、地下のようなランダム媒質中で利用する地中レーダのような場合、確立した設計手法の適用ができない。本発明はこうした場合におけるアンテナの最適化を行う手法に関するものである。従来、周波数などのパラメータしか変更しなかったのに対して、システムの変更を最小限にしながら最適化を行うことができるメリットを有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
地中レーダで探査する媒質(土壌、岩盤、コンクリートなど)の内部が不均質であったり、また表面が粗い状態では地中レーダの電波は強いランダムな散乱を受ける。こうした散乱波はクラッタと呼ばれる。強いクラッタがある状態では、送信電波を強くしても目的とする対象物(地雷やガス管など)からの反射波を見出すことが難しい。本発明は、送受信アンテナを複数並べたアレイアンテナとし、更にCMP(Common Mid Point)などの信号処理手法で強いクラッタを避けるためのアレイアンテナ設計に関するものである。
【0009】
地中レーダの送信電波が10MHzから10GHz程度の時、アレイアンテナの間隔を1cmから10cm程度変えると、媒質の不均質の程度(粒径の大きさや表面粗さ)に応じて、最適のアンテナ間隔が存在する。媒質の不均質性が小さいとき、アンテナ間隔は狭いときに最適値が存在し、不均質性が大きいときアンテナ間隔の最適値は広がる傾向がある。不均質媒質に対する地中レーダ用アンテナのアンテナアレイを設計するためにはアンテナ間隔の設計が重要である。アンテナ間隔を設計するためにFDTDなどの数値シミュレーションを行い、予め応答予想曲線を作成し、現地の不均質性に合わせたアンテナ間隔を選択する(図11参照)。
【0010】
最適値は使用するアンテナエレメントにも依存するので、アンテナごとの最適値予想曲線を作成する必要がある。
【0011】
シミュレーションからアンテナ間隔の最適値を定めるためにはクラッタの分散値と目的とするターゲットからの反射波の最大値の比を評価パラメータとし、評価パラメータが最大となるアレイ間隔を設計値とする。
【0012】
地中レーダ用アンテナ設置の方法は、対象とする媒質の不均質性の程度が予め予想できる場合にはアンテナ間隔を固定する。一方、不均質性が予想できない場合にはアンテナ間隔を可変とする機構をアンテナ治具に設ける方法、1cm、2cm、4cm、6cm程度の間隔を持ったアンテナアレイを用意し、現地に適応してスイッチで使用するアレイを選択する方法、また1cm、2cm、4cm、6cm程度の間隔をもつアレイを予め一列に配列した不均一アンテナ間隔アレイを作成し、スイッチにより使用するアンテナを選択する方法などがある(図10、12参照)。
【0013】
アレイに使用するアンテナはダイポールアンテナ、ボータイアンテナ、ビバルディアンテナ、スパイラルアンテナ等が適当である。目的と使用周波数に応じてアンテナの選択は行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を、地雷検知用GPRアレイアンテナの最適化を例に、以下に説明する。尚、本発明は地雷の検知のみならず、ガス管や水道管などその他の地中埋設物の検知にも適用できることはいうまでもない。
【実施例】
【0015】
先ず、GPRシステム及び送受信アンテナについて説明すると、開発中のSAR-GPRシステムは、ステップ周波数レーダ方式で,40kHzから6GHzまでの帯域を400周波数でネットワークアナライザ(HP8753E)を利用して計測する.
【0016】
広帯域での計測を行なう送受信アンテナとしてビバルディアンテナを採用することとした.最適化設計されたこのアンテナの例では,周波数範囲2-10GHzで十分利用できることがわかる.ビバルディアンテナはその形状とバランを要しないという特性のおかげでアレイアンテナシステムを組むことが比較的容易である[3]-[6].開発中のSAR-GPRシステムでは,地表面クラッタノイズを低減させるため、最適化設計されたビバルディアンテナを直線上に配置し,CMP(Common Mid Point)アレイアンテナシステムを組んで送受信アンテナとする[7].5組の送受アンテナ対でCMPアレイを構成しアンテナ間隔を1cmから5cmまでとして実験を行なったが、アンテナ間隔によらず計測に深刻な影響を及ぼすアンテナ間カップリングはなかった.
【0017】
測定は50cmX50cmX70cmの砂箱に図1に示すTYPE72の模擬地雷を埋設して行った。ターゲットはアフガニスタンで多く使われたType-72対人地雷を模擬した地雷模型で直径78mm,高さ40mmの扁平な円筒形をしている.Type-72は微小な信管以外はすべて非金属で作られている.
【0018】
測定と信号処理について説明すると、本SAR-GPRは地雷原の地表面を2次元的に走査する.すなわち,数cm程度の間隔で定められた2次元格子点上でGPR計測を行なう.地表面からアンテナ先端までの距離は数cmから10cm程度である.各計測点では5対の送受アンテナ対による5個の計測データが得られるが,このデータに対しCMP処理を施し,1個のCMPデータを得る.得られたCMPデータは次にマイグレーション処理を施され地中の3次元画像データが得られる[7].
【0019】
次に、室内計測実験について説明すると、地雷原はサイズ7mmの小砕石と40mmの砕石を用いて模擬し,比較的平坦な地表面と表面に凹凸を与えた粗い地表面の2種の地表面を模擬した.表面粗さを定量的に評価するため,レーザ距離計による表面高さ分布の計測を行ない,そのRMS高さと相関長を求めた.
【0020】
比較的平坦な地表面の場合について説明すると、図2に比較的平坦な地表面を模擬した地雷原モデルを示す.このモデルでは,砂箱にサイズ7mmの小砕石を敷き詰め,地表面から約5cmの深さに模擬地雷を埋設した後,表面をならして平らにした.このモデルのRMS高さは1.7mmであり,相関長は15mmであった.
【0021】
図3にアンテナ間隔を1,2,3,5cmとしたときのSAR-GPR計測で得られた地中水平面画像を示す.地雷モデルは地表面から約3cmに埋設した。垂直断面での模擬地雷の検知は難しいが水平断面図ではどの画像においてもはっきりと円形のType-72地雷模型のイメージが認められる。しかしアンテナ間隔が大きくなるにつれてターゲット像の周囲に対するコントラストが低下するように見える.
【0022】
粗い地表面の場合について説明すると、図4に粗い地表面を模擬した地雷原モデルを示す.このモデルでは,サイズ7mmの小砕石とサイズ40mmの砕石を混ぜてさらに人為的に表面に凹凸を与えることで粗い地表面を模擬している.このモデルのRMS高さは15mmであり,相関長は20mmであった.
【0023】
図5にそれぞれのアンテナ間隔におけるSAR-GPR計測で得られたこのモデルの地中水平面画像を示す.どの画像においても,ターゲットであるType-72地雷模型のイメージは認められるが,アンテナ間隔によってターゲットのイメージのみならず周囲のクラッタイメージも見え方が変化している.
【0024】
アレイアンテナ間隔の効果について説明すると、図6に地表面が平坦な場合と粗い場合についてアンテナ間隔を変えたときの模擬地雷からの反射波の強さを示した。この図面より、地表面の粗さに対してアンテナ間隔の最適値が存在することが明らかである。この場合、平坦な表面では1cm、粗い表面では3cmでそれぞれ最適なアンテナ間隔となっている。
【0025】
FDTDによる数値シミュレーションについて説明すると、実験結果を更に検証するためFDTD(有限差分―時間領域)法を用いた数値シミュレーションを行った。
シミュレーション空間の格子数は500X500X175でありPML吸収境界条件を利用した。地表面はガウス分布でありRMS高さと相関長を15mm,20mmとした。砕石と土の体積比を50%とし、砕石の形状は3次元回転楕円体とした。砕石の方向もガウス分布で乱数化した。送受信は38mmのダイポールアンテナとした。土と砕石の比誘電率は3,5.3とした。地雷は平均地表面から10cmの深さに埋設し、比誘電率を4とした。シミュレーション波形は実験と同様の信号処理をしてイメージングを行った。図9にアンテナ間隔に対するターゲットの反射強度を示す。実験と同様のアンテナ間隔最適値が現れることが明らかとなった。
【0026】
本研究で見いだした地表面粗さに対して最適なアンテナ間隔が存在する理由について、アンテナからの電波を幾何光学近似することで物理的な説明が行える。
【0027】
地雷探知を目的としてアレイアンテナを用いたSAR-GPRシステムを開発し,このシステムの性能評価を行なうために実験室内で比較的平坦な地表面状態での地雷探査を模擬する実験と,粗い地表面状態での地雷探査を模擬する実験を行ないそれぞれについてアレイアンテナのアンテナ間隔の効果を調べた.アンテナ間隔の効果を定量的に評価するため,ターゲット像のコントラストをターゲット像のピクセル値と周囲のクラッタ像ピクセル値の標準偏差の比で定義した.そして,アレイアンテナのアンテナ間隔には表面の粗さに応じた最適値が存在することを明らかにした.更にこうした最適値が存在することをFDTDによる数値シミュレーションで検証した上、幾何光学近似によって物理的説明が行える。
【0028】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の活用例として地表面が粗い場所での地雷検知、ガス管、水道施設など埋設物の検知システムへの応用、鉄道、道路、橋梁などの構造物保安非破壊検査において、鉄筋、枕木など検査の妨害になる物体を透過して内部を可視化する手法などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】TYPE72の模擬地雷
【図2】比較的平坦な地表面を模擬した地雷原モデル
【図3】SAR-GPR計測で得られた地中水平面画像
【図4】粗い地表面を模擬した地雷原モデル
【図5】SAR-GPR計測で得られた地中水平面画像
【図6】地表面が平坦な場合と粗い場合の模擬地雷からの反射波の強さを示した
【図7】地中垂直面画像
【図8】地中水平面画像
【図9】アンテナ間隔に対するターゲットの反射強度を示した
【図10】ビバルディアンテナによるアンテナアレイ
【図11】FDTDで作成した最適値予想曲線の例
【図12】アンテナ間隔と均一並びに不均一アンテナアレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを配列してなる地中レーダ装置であって、前記アンテナ同士の間隔を、測定対象となる媒質に合わせて最適化する最適化手段を備えることを特徴とする地中レーダ装置。
【請求項2】
前記最適化手段が、複数のアンテナをアンテナ治具に移動可能に取り付けることで構成されている請求項1に記載の地中レーダ装置。
【請求項3】
前記最適化手段が、複数のアンテナをアンテナ治具に不均一な間隔で固定し、スイッチングによって使用するアンテナを選択することで構成されている請求項1に記載の地中レーダ装置。
【請求項4】
複数のアンテナを配列してなる地中レーダ装置を用いた測定方法であって、測定対象となる媒質を解析するステップと、前記解析に基づいて前記アンテナ同士の間隔を測定対象となる媒質に合わせて最適化するステップと、前記アンテナ同士の間隔が最適化された地中レーダ装置を用いて前記媒質を測定するステップと、を含むことを特徴とする地中レーダ装置を用いた測定方法。
【請求項1】
複数のアンテナを配列してなる地中レーダ装置であって、前記アンテナ同士の間隔を、測定対象となる媒質に合わせて最適化する最適化手段を備えることを特徴とする地中レーダ装置。
【請求項2】
前記最適化手段が、複数のアンテナをアンテナ治具に移動可能に取り付けることで構成されている請求項1に記載の地中レーダ装置。
【請求項3】
前記最適化手段が、複数のアンテナをアンテナ治具に不均一な間隔で固定し、スイッチングによって使用するアンテナを選択することで構成されている請求項1に記載の地中レーダ装置。
【請求項4】
複数のアンテナを配列してなる地中レーダ装置を用いた測定方法であって、測定対象となる媒質を解析するステップと、前記解析に基づいて前記アンテナ同士の間隔を測定対象となる媒質に合わせて最適化するステップと、前記アンテナ同士の間隔が最適化された地中レーダ装置を用いて前記媒質を測定するステップと、を含むことを特徴とする地中レーダ装置を用いた測定方法。
【図6】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2006−47132(P2006−47132A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229319(P2004−229319)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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