説明

地中内観測システムおよび地中内観測方法

【課題】 石油備蓄地下施設等の地下施設の周辺地盤内において、地下施設の安全性に影響を与える虞のある微小亀裂等の地中内現象の発生を観測する。
【解決手段】 地下施設10の周辺地盤の地表側に、3成分ジオフォン、3成分加速度計等に構成した地表側受振手段20を設ける。かかる周辺地盤内に、地表側から地中内に向けて、地下施設の底部より深い深度で、孔井30を複数設ける。孔井30内に、ハイドロフォンアレイ40aに構成した孔井内受振手段40を設ける。地表側受振手段20により周辺地盤内で発生した直達波のP波、S波を検知する。孔井内受振手段40で、亀裂発生に基づく直達波のP波、S波、及びチューブ波を検知する。チューブ波を用いることで、亀裂発生の観測精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤等の地中内における微小亀裂等の地中内現象を検知等観測する技術に関し、地下貯槽施設等の地下構造物の周辺地盤における亀裂等に起因する事故を未然に防止するのに有効に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、土木技術の発展に伴い、大規模地下構造物が盛んに構築されている。日本等のように地震が多発する国では、予めある程度の規模の地震等を想定した上で、所要の安全率を考慮してかかる地下施設が構築されている。かかる地下施設でも、特に危険物等の備蓄、廃棄等を想定する場合には、万が一にも地震被害を受けないように、現行技術で安定と見做される安定岩盤等の地盤を選択して施設構築が行われている。
【0003】
しかし、地下岩盤内に設けられたかかる施設は、万が一にも災害が発生すると甚大な被害が想定されるため、かかる施設の構造健全性に関しては、常にそのチェックが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、都市ガス、天然ガス等の貯蔵ガスを高圧で岩盤内また地盤内に貯蔵するライニング式岩盤内高圧気体貯蔵施設で、かかる施設の構造健全性や貯蔵ガスの漏洩についてパルス光を用いてモニタリングする技術が提案されている。
【0005】
貯蔵施設の裏込めコンクリートの内部に配筋させる鉄筋に沿って光ファイバを敷設し、かかる光ファイバ内にパルス光を入射させ、入射させたパルス光の戻り時間、周波数変化、光強度の変化を光ファイバの端部で観測することにより、貯蔵施設の構造上の歪み、あるいは貯蔵しているガス漏洩を検知する技術である。
【0006】
施設の構造上の歪み等をそれまでの電気的な変位計や歪み計で検知する場合に比べて、
裏込めコンクリート内部の鉄筋に沿って敷設した光ファイバに、パルス光を入射させてその変化により歪みを検知する方が、長期的に精度の高い計測を行うことができると述べられている。また、パルス光を用いることで、上記歪みの検知と併せて、ガス漏洩も検知することができるとも述べられている。
【0007】
一方、かかる施設の構造健全性のモニタリングに直接関係するものではないが、地中内の岩盤等の調査方法としては、これまで振動観測手法等の種々の方法が提案されている。現在確立されており実際にも運用がなされている振動観測手法としては、AE観測のようにセンサ素子の共振周波数に満たない周波数(一般に数十〜数百kHz)で高感度な振動観測を行う手法がある。あるいは、低周波数の波長の長い振動を検知して、微小地震を観測する手法も知られている。
【0008】
また、観測対象域に設けた孔井内にハイドロフォンをセットして、地中内振動を検知することで孔井における透水性亀裂を検出する方法が、ハイドロフォンVSP( Vertical Seismic Profiling )法として提案されている。かかる手法では、孔軸方向に伝播するチューブ波を観察することにより、かかるチューブ波の発生深度に透水性亀裂が存在することを予測している(非特許文献1参照)。微小振動のチューブ波を検知振動として利用するユニークな技術である。また、かかるチューブ波については、非特許文献2にも記載が見られる。
【特許文献1】特開2003−270078号公報
【非特許文献1】地盤工学会・地盤工学への物理探査技術の適用と事例編集委員会、地盤工学・実務シリーズ14「地盤工学への物理探査技術の適用と事例」、(社)地盤工学会、2001年、p.71
【非特許文献2】キツネザキ シー( Kitunezaki C. )、「フィールド イクスペリメンタル スタディ オブ シア ウェイブス アンド ザ リレイテッド プロブレムズ( Field experimental study of shear waves and the related problems )、コントリビューションズ、ジェオフィジカル インスティテュート、京都大学( Contribution、Geophysical Institute、Kyoto University )、1971年、No.11、p151〜p155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、以前より、地中内構造物の安全性のチェックを行うことが重要であるとの認識を持っていた。例えば、実際に、一見新鮮岩と思える岩石でも、顕微鏡下における観察では、黒雲母が膨潤性を有する緑泥石に変質している場合がある。ある地域に立地する石油備蓄基地並びに建設中のLPG地下備蓄基地の基盤岩は領家花崗岩であるが、地域的に中央構造線に近い所に位置しているため、その薄片には圧砕組織( mylonitic structure )が明瞭に観察されている。このように安定岩盤と見られる場合でも、岩盤を構成する岩石は地中内圧力により変形を受けているのである。
【0010】
本発明者は、これまでの実地探査等で、かかる事例に類する事実を幾つか確認してきた。かかる実際に基づく体験等から、本発明者は、安定と見做される地盤等においても、相当程度の地中内圧力が継続的に長期にかかる場合には、将来大規模亀裂、崩落等に発展する可能性を有する微小亀裂の発生が皆無とは言えないものと認識するに至った。かかる微小亀裂を速やかに発見して、大規模亀裂等に発展しないよう適切な処置をとることが必要と考えられる。
【0011】
そこで、かかる施設では、地下施設の構造そのものにおける健全性の評価とは別に、地下施設周辺の地盤状況の監視を適宜行うことが必要と認識するに至った。
【0012】
しかし、かかる地下施設の周辺地盤の状況観察については、今まで十分な取り組みがなされていなかった。周辺地盤の状況観察としては、地下施設の構築前に、事前探査としてその岩盤等の安定性の評価が綿密に行われるものの、施設の構築後においては、そのチェックに関しては十分な配慮がなされていないのが現状である。構築後の施設の周辺地盤における状況観察を行うための適当な観測システムは、現時点では見当たらない。
【0013】
そこで、本発明者は、かかる施設構築後の周辺地盤の状況観察が適切に行える手法の技術開発が必要であると考えた。また、かかるシステムの開発に際しては、既存施設に適用できるものが必要である。特許文献1に開示の如く施設の施工に合わせて構築するシステムも優れており重要ではあるが、かかる手法では、既存の施設に対しての適用は不可能となる。既に構築され実際に使用されている施設にも十分に適用できるものであることが望ましい。
【0014】
また、かかる手法の技術開発に際して、既存施設への適用性を考慮すると、既に構築されて使用されている施設構築物を改修等してセンサ等を設置する手段は、技術的に難しく、現実的対応が取りにくい。そこで、地下施設に直接に対応するのではなく、周辺地盤に所要のセンサ等を設置する構成を採用することが好ましいと判断した。従来手法の振動探査の手法を適用することを検討した。
【0015】
本発明者は、当初、かかる従来の振動探査の適用により、容易に周辺地盤の状況観察が可能と考えていた。しかし、検討する内に、これまで提案されている振動探査の手法は、地下施設の周辺地盤の状況観察には適していないことが分かった。地下施設の周辺地盤観察に適した振動探査技術は、別途新たに開発する必要があった。
【0016】
技術開発の検討の中で、幾つか問題点が挙げられたが、例えば、これまで提案されてきた振動探査のうち、前記の如く従来のAE計測の手法を適用すると、高周波の極めて波長の短い振動を検出することとなるが、かかる高周波の振動は岩盤中での減衰が大きく、測定対象の極近傍での観測しか行えないことが確認された。実験室規模で、採取した小さなコアサンプルに高周波を透過させて、その性質を調査する場合には有効であるが、実際の地下施設の構築現場に設置して、周辺地盤の地中内変化を常時監視するモニタリングシステムとして採用するには実際面でかなりの無理がある。
【0017】
通常20kHz〜1MHzの観測周波数を用いたAE観測では、観測における最大観測距離は約1m以下となり、現実に実際の地中内施設の設置現場におけるモニタリングでは、設置するAEセンサの数は膨大なものとなり、実際的に不可能と言わざるを得ない。
【0018】
また、かかるAE計測で観察される亀裂等により生ずる破断面の大きさも、約10cm以下となり、果たして、周辺地盤の状況観察において最低限検知すべき破断面の大きさとして適切か否かも大いに疑問であった。
【0019】
一方、地中内の微小地震観測が行える手法では、逆に、低周波で観測波長が長くなるため、例えば観測距離が約1km以上となる。さらに、かかる手法において検知できる亀裂等に基づく破断面の大きさは、約32m以上である。32m未満のものは検知されないことになる。しかし、数十mにも及ぶ亀裂発生は極めて深刻な状態であり、かかる大きな亀裂発生が検知できないのでは的確な観測システムとは言い難い。このようにこれまで提案されている微小地震の観測手法では、その検知限界におけるスケールが大き過ぎて、地下施設に将来的に影響を及ぼすと思われる地中内亀裂等の検知には転用することができない。
【0020】
また、本発明者は、石油備蓄基地の設置区域等を含めて種々の地域環境の中で、地盤状況の振動観測等の観測技術に関して、その研究に長年取り組んできたが、かかる長年の経験から、前記従来手法ではノイズが多く、微小亀裂に由来すると思われる振動が適切に検出できない場合が十分に想定される。従来の振動探査の手法では、常々、かかるノイズにどのように対応するかで苦慮してきた。
【0021】
日本の国情下では、観測対象の周辺における道路交通の影響を避けることは難しい。一方、内陸部における場合とは異なり道路交通の影響が比較的小さいと思われる海岸域でも、例えば、海浜への波の打ち寄せがノイズとなる。石油備蓄基地等の地下施設は、一般市民が使用する地下公共施設等とは異なり、周辺地域への人や交通の立ち寄りが少ない箇所に設置されはするものの、国土が比較的に狭い日本の国情下では、振動観測においてはどうしても上記ノイズの影響を避けることが難しいのが現状である。
【0022】
ノイズの影響に関しては、ノイズ除去を行うことでその対策が図られるが、しかし、地中内亀裂等の地中内現象に基づくと思われる有用な振動波がノイズと共に除去される虞が十分にあることに留意しなければならない。安易には、ノイズ除去の対策は図れないのが現状である。地下施設に将来的に影響を及ぼすと思われる地中内亀裂等の観測技術の新たな開発に当たっては、適切なノイズ対策を併せて考える必要がある。
【0023】
本発明の目的は、石油備蓄地下施設等の地下施設の周辺地盤内において、地下施設の安全性に影響を与える虞のある微小亀裂等の地中内現象の発生を観測できるようにすることにある。
【0024】
本発明の目的は、石油備蓄地下施設等の地下施設の周辺地盤内において、地下施設の安全性に影響を与える虞のある微小亀裂等の地中内現象の発生の観測に際して、観測対象域のノイズの影響を抑えるようにすることにある。
【0025】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者は、上記の如く、これまで提案されている振動探査手法の問題点を克服し、上記目的を達成するための新たな振動探査手法の開発を行った。かかる開発に際しては、次のような着想を取り入れた。
【0027】
すなわち、地中内の亀裂としては、極めて小さいものから、極めて大きなものまで種々
の規模のものが考えられるが、地下施設等の周辺地盤の状況観察に際しては、極めて小さい亀裂については検出する必要はないのではないかと発想した。地下施設の周辺地盤における亀裂等の地中内現象の検知に際しては、地下施設に悪影響を及ぼすものについて絞り込めばよい筈である。徒に、極めて微小な亀裂まで検知する必要はないと考えた。
【0028】
例えば、極めて微小な亀裂を検知し得なくても、万が一、かかる極めて微小な亀裂が将来的に悪影響を及ぼす程に大きくなるのであれば、かかる微小な亀裂がある程度進行した段階で検知して、その影響性を評価すれば済む筈である。すなわち、亀裂が大きくなって、将来的に影響を及ぼすと思われる程度に亀裂が成長した段階で、確実に亀裂が検出できればよいのであり、当面大規模亀裂に発生するとの予測が全く未知数である極めて微小な亀裂は発見し得なくても構わないものと考えた。
【0029】
一方、極めて大きな亀裂等の地中内現象については、単純に観測周波数のみでは、その発生原因の峻別はできない。そこで、本発明者は、かかる大きな亀裂等の地中内現象については、通常かかる地下施設において備えられる地震計、歪み計等の計測機器で、その発生が十分に予測、観測、確認できるものではあるが、かかる現行の他の手段で適切に検知し得る程度の大きな亀裂等の地中内現象をも敢えて重複観測することで、広域的な微小地震活動と地下施設周辺に起こる地中内現象を区別するのに有効な情報として利用することを着想した。
【0030】
すなわち、広域的な微小地震活動は、気象庁等から発生時間と場所が公表されるため、重複観測された情報を基に地下施設周辺に起こる地中内現象と明確に区別することができる。
【0031】
また、ノイズ対策として、石油備蓄施設等の地下施設では、かかる地下施設の周辺地盤に伝播するノイズは、ある帯域に集中していることが、本発明者の実測で初めて明らかになった。そこで、かかる周波数帯域を外すようにして、上記観測周波数領域の上限、下限を設定できれは、ノイズの影響を十分に抑制した状態で、適切な地下施設の周辺地盤の地中内観測システムが構築できるものと考えられる。
【0032】
さらに、本発明者は、実際の地中内観測を行う中で、偶然ではあるが、極めて興味のある現象を見出した。すなわち、地中内観測において設ける孔井内で観測されるチューブ波が、周辺地盤の亀裂発生等の現象に関連づけられることを見出した。
【0033】
チューブ波の利用については、従来技術に述べた如く、孔井に繋がった透水亀裂の深度確定に用いられる例が知られているに過ぎない。本発明者が見出した実験事実は、これとは全く質的に異なるもので、孔井に直接繋がらない微小亀裂の発生を適切に検知することができるという事実である。何故そのようなことが可能となるかについては、現段階では十分な説明が行えず、今後の研究を待つ必要があるが、かかるチューブ波の検知に基づく振動探査技術をも適用すれば、より精度の高い探査が行えるものと考えられる。
【0034】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0035】
すなわち、本発明は、地中内の亀裂等の地中内現象を、前記地中内現象に関連づけられる振動の検知により観測する地中内観測システムであって、地表側に設けられ、前記地中内現象に関連づけられた直達波を検知する地表側受振手段と、地上側から前記地中内に形成した複数の孔井の内部に設けられ、前記地中内現象に関連づけられた直達波を検知する孔井内受振手段とを有し、前記地中内現象の観測を行う観測周波数領域は、AE計測の観測周波数領域の下限よりも低い周波数領域に設定されていることを特徴とする。かかる構成において、前記観測周波数領域は、前記孔井内受振手段により、前記孔井に繋がっていない亀裂に関連づけられるチューブ波の検知が行える周波数領域に設定されていることを特徴とする。
【0036】
本発明は、地中内の亀裂を、前記亀裂に関連づけられる振動の検知により観測する地中内観測システムであって、地上側から前記地中内に形成した複数の孔井の内部に設けられ、前記孔井に繋がっていない亀裂に関連づけられるチューブ波の検知を行う孔井内受振手段を有することを特徴とする。
【0037】
以上何れかの構成の地中内観測システムにおいて、地表側には、3成分加速度計あるいは3成分ジオフォンで構成された地表側受振手段が設けられ、前記孔井内受振手段は、孔井内の異なる深度に設けた複数のハイドロフォンで構成されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記地中内に振動を人工的に伝播させる起振手段を有することを特徴とする。以上いずれかの構成において、地中内の前記観測周波数領域は、300Hz以上、10kHz以下に設定されていることを特徴とする。
【0038】
本発明の地中内観測方法は、地中内の亀裂等の地中内現象に関連づけられる振動を、地上側から地中側に設けた孔井内と、地表側とでモニタリングして、前記地中内現象の観測を行うことを特徴とする。かかる構成において、前記孔井内での振動のモニタリングは、チューブ波のモニタリングであることを特徴とする。また、本発明は、地上側から地中側に設けた孔井内で、孔井に繋がらない地中内の亀裂に関連づけられるチューブ波をモニタリングして、前記地中内の亀裂発生の観測を行うことを特徴とする。
【0039】
以上いずれかの構成において、人工的に発生させた人工振動をモニタリングさせることで、地中内観測に使用するシステムの正常稼働の監視を行うことを特徴とする。以上いずれかの構成において、人工的に発生させた人工振動をモニタリングさせることで、地中内亀裂等の地中内現象の存否を観測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0041】
本発明により、石油備蓄地下施設等の地下施設に影響を及ぼすと想定される周辺地盤内で発生する亀裂等の地中内現象の発生を観測することができる。
【0042】
また、かかる観測に際して、適切な観測周波数領域を設定することで、ノイズの影響を十分に抑制して、検知漏れを無くし、且つ発生源の位置特定等の精度を向上させることができる。
【0043】
本発明により、チューブ波を用いて、亀裂発生等の地中内現象の発生を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の説明で用いる全図において、同一対象には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0045】
本発明は、安定岩盤等の地中内に設置された石油備蓄地下施設等の地下施設の周辺地盤において、かかる地下施設の安全性に影響を及ぼす虞のある地中内亀裂の発生等の地中内現象の発生に関連づけられる振動をモニタリングする技術である。かかるモニタリングにより、例えば、将来的に周辺地盤の不安定状態を来す要因と成り得る微小亀裂の発生を検知、観測することができる。かかる検知結果に基づき、周辺地盤の将来的な安定性等の評価を行い、その評価に基づき、地下施設の安全性の確保に必要な対策を事前に策定し、施すことができるようになる。
【0046】
(実施の形態1)
本実施の形態では、地下施設の周辺地盤内における亀裂等の地中内現象の発生を、かかる亀裂発生に基づく振動による直達波(P波、S波)及びチューブ波を用いて高精度に検知、観測する本発明に係わる地中内観測システムについて説明する。
【0047】
図1は、地下施設の周辺地盤内での亀裂等の地中内現象の発生を検知、観測するシステムにおける測定手段等の概略配置を地表側から模式的に見た場合の平面説明図である。図2は、地下施設の周辺地盤内での亀裂等の地中内現象の発生を検知、観測するシステムにおける測定手段等の地中内の概略配置を模式的に示す断面説明図である。
【0048】
地下施設10は、所定深度で、例えば、図1、2に示すように、地中内に構築されている。かかる地下施設10としては、例えば、石油備蓄地下施設、液化ガス備蓄地下施設、放射性廃棄物やPCB等の環境汚染廃棄物等の危険廃棄物地下埋設施設、地下倉庫、地上側の危険等を避けるために避難する地下シェルター、地下倉庫、地下格納庫、地下商店街等の地下モール、地下道、地下連絡施設、地下鉄等の地下に設けた鉄道用のトンネル及びその駅等の付帯地下施設、地下道路およびその付帯地下施設等を例示することができる。
【0049】
かかる地下施設10の周辺地盤内での亀裂等の地中内現象の発生を検知することができれば、かかる亀裂等の地中内現象が、将来的に、地下施設10の安全性に悪影響を及ぼすか否か評価し、その評価の結果に照らして、所要の対策を施すことができる。
【0050】
ここで、地中内現象とは、地殻変動、地震、火山活動等で地中内に生ずる破壊現象のことで、より具体的には、上述の如く、亀裂、断層、破砕帯等の発生を例示することができる。以下の本発明に関わる説明では、かかる地中内現象の内、亀裂を例に挙げて説明するが、本発明は亀裂以外の上記他の現象についても同様に適用できるものである。
【0051】
かかる周辺地盤における地中内現象としての亀裂発生の検知は、地表側と、周辺地盤内の地中内側で、別個独立に地中内現象の発生に関連づけられる振動を検知して行う。かかる振動の検知は、図1、2に示すように、地表側に設けた地表側受振手段20と、周辺地盤内にボーリングにより設けた孔井30内に設置する孔井内受振手段40とで行う。
【0052】
地表側受振手段20は、例えば、3成分ジオフォン、あるいは3成分加速度計等で構成しておけばよい。かかる地表側受振手段20は、図1に示すように、地下施設10の構築域に対して設定する探査域Aの全域にわたって所定間隔で設置する。
【0053】
探査域Aとは、地下施設10の安全性に影響を及ぼすと考えられる亀裂等の地中内現象の発生確認を行う必要のある周辺地盤の内のある領域と定義する。かかる探査域Aの設定は、地下施設10の態様によって様々であるが、例えば、地下施設10の地上への投影領域から最大で10mの距離を離して取り囲むようにして設定すればよい。また、かかる探査域A内における地表側受振手段20の設置要領は、例えば、縦横方向にそれぞれ10m間隔の配置になるようにして行う。
【0054】
また、3成分ジオフォン等の埋設設置に際しては、受振した到達波である直達波の方向を特定することができるように、センサの互いに直行する3軸方向のセンサ位置をどの方向に向けて設置したか分かるようにすることが必要である。かかる地表側受振手段20により、直達波のP波、S波の検知が行われ、かかる検知結果に基づき発震源位置である亀裂発生位置の特定、規模等が決められる。
【0055】
ボーリングにより設ける孔井30は、図2に示すように、地下施設10の構築位置を囲むように、地下施設10の周囲に複数本、互いに所定間隔離して設ける。孔井30の底は、地下施設の底部より深い位置となるように設定しておけばよい。かかる孔井30の設置要領は、例えば、互いに20m間隔離して地下施設10を取り囲むようにして行う。
【0056】
このようにして設けた複数の孔井30内に、孔井内受振手段40を、設置深度が分かるようにして設ける。孔井内受振手段40としては、例えば、ハイドロフォンアレイ40aを用いればよい。ハイドロフォンアレイ40aは、受振センサとしてのハイドロフォンを複数個接続して一体型のセンサとして構成したものである。一基のハイドロフォンアレイ40aを設置することで、多数のハイドロフォンを設置したと同様の効果が得られる。勿論、ハイドロフォンを複数用いても構わない。
【0057】
かかるハイドロフォンアレイ40aは、図2に示すように、孔井30内の深度の異なる複数位置に設ける。ハイドロフォンアレイ40aの設置要領は、例えば、地下施設10の設置深度範囲より浅部とより深部の各1箇所、地下施設10の設置深度範囲の中間位置に1箇所の合わせて3レベルでの観測になるようにして行う。
【0058】
尚、ハイドロフォンは、圧力感知型のセンサであるためジオフォン等とは異なり、無指向性であり、孔井30内には水がみたされている必要がある。
【0059】
孔井30内の所定深度の複数位置に設けたハイドロフォンアレイ40aで構成した孔井内受振手段40により、周辺地盤内における地中内での亀裂発生に基づく直達波のP波、S波、及びチューブ波の検知が行われ、かかる検知結果に基づき発震源位置である亀裂発生位置の特定、規模が求められる。
【0060】
図3は、本発明に係わる地中内観測システムMの概要構成を模式的に示すものである。かかる地中内観測システムMは、受振装置100、データ収録装置200、監視装置300を有している。
【0061】
受振装置100は、図3に示すように、地表側受振手段20、孔井内受振手段40等から構成され、かかる受振装置100は、受振装置100で取得された振動データを収録するデータ収録装置200に接続されている。受振装置100を構成する地表側受振手段20としての3成分ジオフォンあるいは3成分加速度計は、それぞれ、図3に示すように、誘電保護回路110を介して、データ収録装置200側の誘電保護回路210に接続されている。同様に、受振装置100を構成する孔井内受振手段40としてのハイドロフォンアレイも、受振装置100側の誘電保護回路110を介して、データ収録装置200側の誘電保護回路210に接続されている。
【0062】
受振装置100には、さらに、図3に示すように、上記地表側受振手段20、孔井内受振手段40の他に、例えば、孔井30内の水位を計測する水位計101、岩盤の歪みを計測する歪計102、その他のアナログ式計測計103等を設けても構わない。かかる水位計101、歪計102、アナログ式計測計103等も、誘電保護回路110を介して、データ収録装置200の誘電保護回路210に接続されている。各種アナログ信号を計測するアナログ式計測計103としては、例えば、水温計、流量計等がある。
【0063】
このようにして、受振装置100で取得されたデータは、アナログ信号として、データ収録装置200側に随時送られる。データ収録装置200側では、上記の如く、誘電保護回路210を通して送られてきたアナログ信号が、図3に示すように、受振器信号コンディショニング用インターフェース220を介して、アナログデジタル変換機230に送られ、アナログ信号がデジタル信号に変換される。
【0064】
受振装置100側から送られた信号はこのようにデジタル信号に変換され、高速データバスを通って、図3に示すように、高速データ伝送装置240に送られる。デジタルデータは、高速データ伝送装置240を介して、コンピュータ250の高速データ伝送装置251に送られ、さらに監視装置300に送られる。
【0065】
監視装置300は、図示はしないが、コンピュータ等のデータ解析装置と、それと接続した出力装置とから構成されている。出力装置は、例えば、監視装置300側に送られたデジタルデータに基づき、受振装置100で取得された振動の受振状態の経時変化を画面上に表示する画面表示装置、あるいは印刷して出力するプリンタ等に構成されている。かかる出力装置により、受振状態が、随時モニタされるようになっている。
【0066】
一方、データ解析装置では、送られたデジタルデータを解析して、検知された振動から発生源としての周辺地盤内での亀裂発生位置、発生規模等を特定する。かかるデータの解析は、振動検知時間と、振動の伝達速度と、振動の伝達方向とから行われる。振動の伝達速度は、周辺地盤の地質により異なるため、予め、地下施設10の周辺地盤の地質調査を行い、P波、S波の伝達速度を調べておく。
【0067】
また、監視装置300とデータ収録装置200とは、図3に示すように、ハブ410、ルーター420等を介してオンラインで、あるいは無線で接続され、監視装置300側から、遠隔でデータ収録装置200、さらにはその先の受振装置100側の操作が随時行えるようになっている。かかる遠隔操作としては、例えば、東京のオフィスから電話回線を利用して四国や九州に設置したデータ収録装置200等の操作を行うようなことが挙げられる。
【0068】
一方、データ収録装置200側では、デジタルデータは、上記の如く監視装置300に
送られると共に、外部記憶装置としてのイベントデータストレージ260に送られ、データの保存が行われる。また、アナログデジタル変換機230によりデシタル変換されたデータは、高速データバスを通って、図3に示すように、GPSシステム同期装置270を経由して正確な時間情報が付与される。データ収録装置200を構成する装置等は、無停電電源システム280等によりサポートされ、常時稼働の状態に維持されている。
【0069】
また、監視装置300は、例えば、図1に示すように、探査域Aの近傍に設けた監視施設50内に設けられている。監視施設50は、図1に示すように、他の施設等と独立して設けても構わないが、例えば、地下施設10の管理棟内に設置するようにしても構わない。あるいは、国内を複数のブロックに区分し、各々のブロックに上記監視施設50を少なくとも一箇所設置しておき、かかる監視施設50によりブロック内における複数の地下施設の各々に構築した地中内観測システムMからの上記振動情報を随時取得して複数の地下施設10の周辺地盤の状況を集中的にモニタリングするようにしてもよい。
【0070】
上記説明のように構成した地中内観測システムMを用いることで、監視施設50内の監視装置300で、常時24時間体制で、地下施設10の周辺地盤内での振動をモニタリングすることができ、周辺地盤内で発生した亀裂等の地中内現象をリアルタイムに検知することができる。
【0071】
かかる検知は、前述の如く、亀裂等の地中内現象に基づく振動を、地表側受振手段20で直達波のP波、S波として受振すること、及び孔井内受振手段40で直達波のP波、S波、非直達波であるチューブ波としてそれぞれ受振することで行われる。
【0072】
監視装置300により上記の如く常時周辺地盤内の亀裂発生をモニタリングし、検知した亀裂発生をコンピュータ解析することで、将来的に地下施設10の安全性に悪影響を及ぼすか否か判定、評価する。かかる結果に基づき、必要に応じて地下施設10の安全対策を策定する等所要の対策を取ることができる。
【0073】
周辺地盤内に発生した亀裂の評価は、例えば、コンピュータ解析の結果得られる亀裂の発生数や発生規模の時間分布に基づき亀裂の発達状況を検討して行う。例えば、亀裂の発生が特定箇所に集中してきて、しかもその数が急激に増大してくるような発達状況が見られる場合には、その周辺地盤に大きな亀裂や断層が発生する可能性が高まったと判断し、警報あるいは注意を適宜に発して、地盤を補強する等の対策を施すこととなる。どの程度の規模の亀裂がどの程度集中した場合に警報等を発するかは、当該周辺地盤の地質環境を考慮した上で、適宜に判断基準を設定すればよい。
【0074】
本発明では、このように、周辺地盤内に発生する亀裂に基づく振動を受振する一方で、初めての試みとして、亀裂発生の検知目的でチューブ波の受振をも並行して行っている。
【0075】
かかるチューブ波を亀裂検知に用いた例としては、前述の如く、孔井に直接繋がる透水性亀裂の例が挙げられるが、孔井に直接繋がらない亀裂検知に用いた例は、今まで知られておらず、本発明において初めて採用された構成である。
【0076】
かかるチューブ波を、孔井30に繋がらない亀裂に基づく振動情報として十分に活用することができることについては、本発明者が行った以下の検証実験からも確認された。
【0077】
図4は、チューブ波が孔井に直接繋がらない亀裂に基づく振動情報を有することを示す検証実験の状況を模式的に示す説明図であり、図中にはハイドロフォン40b、40cでのチューブ波の受振状況をそれぞれ示す波形図、加速度計20a、20bでの直達波の受振状況をそれぞれ示す波形図を併記した。図5(a)は、図4に示す実験における載荷圧と時間との関係を示す説明図であり、(b)は(a)に示す状況に符合させたイベント数と時間との関係を示す説明図である。
【0078】
図4に示すように、実験では、地表側から地中内に向けて、実験用の孔井30をボーリングにより設けた。かかる孔井30から10m離して、地表側から地中内に向けて、人工的に地中内に亀裂を発生させる坑内載荷用のボーリング抗60を設けた。また、地表側には、孔井60に対して、孔井60の周囲20m以内の範囲に地表側受振手段20を設置した。図4には、地表側受振手段20として、加速度計20a、20bが設置されている様子が示されている。
【0079】
尚、データ収録に際しては、坑内換気のためのファンを停止する等、人工的なノイズを極力軽減化するように配慮した。
【0080】
孔井30内には、図4に示すように、孔井内受振手段40としてハイドロフォン40b、40cを異なる深度に2箇所設置した。例えば、設置深度は、地表側から10mと、19mの深さにそれぞれ設定した。
【0081】
このように設置した地表側受振手段20の加速度計20a、20b、孔井内受振手段40のハイドロフォン40b、40cは、それぞれ、図3に示すように、地中内観測システムMの受振装置100を構成し、さらに図4に示すようにデータ収録装置200、監視装置300に接続されている。
【0082】
ボーリング抗60内で、例えば、深度3.5〜4mで、強化ゴムチューブを膨張させるようにして坑内内壁に圧力を載荷して、図4に模式的に示すように、微小の亀裂Xを人為的に発生させた。かかる亀裂Xの発生に際しての、坑内の載荷圧と時間との関係を図5(a)に示した。図5(a)によると、載荷圧を徐々に上昇させると、最初に微小の亀裂Xaが1ヶ所で発生したことが分かる。さらに引き続き載荷圧を上昇させると、微小の亀裂Xb、Xc、Xdが時間的に続いて3箇所で発生した。さらに上昇させると、これまでより大きな亀裂Xeが1ヶ所、あるいは微小の亀裂がほぼ同時刻に複数箇所で発生した。
【0083】
図5(b)には、チューブ波の検知と検知時間との関係を、ボーリング抗60内に発生した亀裂により孔井30内に励起したと考えられるチューブ波のイベント数と時間との関係で示した。すなわち、図5(b)に示すように、坑内での載荷を開始すると、ある時間経過後に、孔井30内の各々のハイドロフォン40b、40cで、チューブ波に特徴的な振幅の大きな波が1回観測された。さらに、時間が経過すると、図5(b)に示すように、ハイドロフォン40b、40cで、各々、チューブ波に特徴的な振幅の大きな波が連続して3回観測された。さらに、その後、ある時間経過後、ハイドロフォン40b、40cで、各々、チューブ波に特徴的な振幅の大きな波が、ほぼ同時刻に3回観測された。
【0084】
かかる図5(b)に示す観測結果を、載荷圧と時間との関係を示す図5(a)と対照すると、亀裂Xa、Xb、Xc、Xd、Xeの発生直後の時刻に、チューブ波の特徴的な振幅の大きな波が観測されていることが分かる。さらに、図5(a)に示すように、例えば、亀裂Xaが発生すると、時間と共に上昇してゆく載荷圧を示す線gが、亀裂発生に伴う応力降下に基づき、一旦下に凸の谷のように凹むことが確認されるが、かかる応力降下開始直後に、チューブ波が検知されていることが分かる。他の亀裂Xb、Xc、Xd、Xeにおいても同様のことが確認される。
【0085】
尚、図5(a)、(b)の両図には、図5(a)で示す亀裂発生に合わせて、図5(b)でその時間対応が確認し易いように、目安線hを破線で示した。
【0086】
かかる図5(a)と図5(b)との対照関係から、孔井30内に設置したハイドロフォン40b、40cでそれぞれ観測されるチューブ波は、坑内載荷により人工的に発生させた亀裂Xに対応して検知されているものと、本発明者は把握した。
【0087】
かかる事実に基づけば、孔井30内に設置した孔井内受振手段40で取得した振動受振データの波形を解析し、かかる波形解析においてチューブ波に特有の振幅の大きな波が発見できれば、かかるチューブ波に基づき地中内の亀裂発生があったことを確認できる筈である。また、かかるチューブ波の受振状態を解析すれば、亀裂発生位置、規模等も特定できる筈である。
【0088】
チューブ波が地中内の亀裂発生に対応して検知し得る事実は、本発明者により見出された初めての事実であるが、何故かかるチューブ波が、地中内の孔井に直接に繋がらない亀裂に対応して発生するかについては、本発明者は、以下のような機序を考えている。
【0089】
本発明者は、図4に示すように、坑内載荷により発生した亀裂Xに基づく振動Yは、亀裂発生ヶ所を震源として放射状に地中内を伝播して行くが、そのうち、孔井30に直接繋がる透水性亀裂Zに至った振動Yは、かかる透水性亀裂Z内の間隙水を孔井30内に放出させるものと考えた。
【0090】
このように考えると、孔井30内では、かかるチューブ波は、図4に示すように、先ず、透水性亀裂Zに近い位置のハイドロフォン40bで検知される筈である。ハイドロフォン40bの波形は、図4に示すように、亀裂Xに起因する振動Yが透水性亀裂Zに到達し、透水性亀裂Z内で励起されて孔井30内への開口部Z1に至り、さらに孔井30内を伝わりハイドロフォン40bまで到達し、この伝搬に要する時間t0経過後に、チューブ波が検知される状況を示している。図では、ハイドロフォン40b、40cで最初に検知されるまでのチューブ波の経路をT0で示す。図中、下向きの点線矢印で示す。
【0091】
その伝搬時間t0後、チューブ波がハイドロフォン40b、あるいはハイドロフォン40cを通過し、孔井30の孔底で跳ね返り、再び同じハイドロフォン40b、40cにより検知されるチューブ波の経路をT1として、図中、破線矢印で示した。かかるチューブ波の伝搬時間をt1で示した。
【0092】
孔井30の底部で反射したチューブ波T1は、ハイドロフォン40b、40cで再検知された後は、そのまま孔井30の地表側に向けて実線表示する経路T2に沿って上昇する。孔井30の水面W側まで上昇し、水面Wで反射し、極性の反転を示して下方に下り、再度ハイドロフォン40b、40cにより検出される。このようにしてチューブ波は、孔井30の底部側と、孔井30内に満たした水面Wとの間を減衰しながら反射を繰り返し、ハイドロフォン40b、40cを通過する度に繰り返し検知されることとなる。
【0093】
ハイドロフォン40cの波形は、ハイドロフォン40bの波形とは異なり、ハイドロフォン40cの設置深度が、透水性亀裂Zに対してハイドロフォン40bよりも深いため、対応する伝搬時間t0が長く、逆にチューブ波が孔井30の底部で反射して再び検出される検出時間t1が短くなっている。
【0094】
このようにして図4にその状況を模式的に示す実験により、孔井30内で検出されるチューブ波は、孔井30に直接に繋がってはいないボーリング抗60の孔壁に発生した亀裂Xに起因する振動であり、かかるチューブ波を検出することで、微少な亀裂Xの発生の検知が行えることが確認された。
【0095】
上記説明でも分かるように、亀裂Xに起因する振動は、孔井30内に繋がる透水性亀裂Zにより励起されているものと考えられ、かかるチューブ波の検出、データ解析に際しては、孔井30に直接繋がる透水性亀裂Zの存在が必要なものと現時点では考えられる。そのため、かかるチューブ波の解析に際しては、透水性亀裂Zの深度特定が必要となる。すなわち、検知されるチューブ波が、どの深度の透水性亀裂Zによるものか特定しなければならない。
【0096】
かかる透水性亀裂Zの特定は、従来技術で提案されているように、例えば、図6に示す要領で行えばよい。すなわち、チューブ波は、直達波のP波とは異なり振幅の大きな波として検出される。図6には、孔井内受振手段40として、図4のハイドロフォン40b、40cを設置した場合とは異なり、多数のハイドロフォンが一括して接続されているハイドロフォンアレイ40aを設置した場合を示している。このようにハイドロフォンアレイ40aを使用すれば、ハイドロフォン40b等を複数設置したと同様の効果が得られ便利である。
【0097】
このようにして、ハイドロフォンアレイ40aを構成する複数のハイドロフォンの各々で検知された振幅の大きなチューブ波の始まりを結ぶと、図6に示すように、ある深度で明確な屈曲点Pを示すこととなる。かかる屈曲点Pの深度が、検知したチューブ波を孔井30内に出力した透水性亀裂Zの深度となる。
【0098】
図6に併記したようにP波は、明確な屈曲点を示すことがなく、精度高く透水性亀裂Zの深度特定を行うことはできない。
【0099】
次に上記のように亀裂X等の微小破壊に起因するチューブ波を用いて、亀裂X等の破壊の発生位置等を解析する手法について説明する。
【0100】
孔井30の近傍で亀裂X等の微小破壊が発生した場合には、微小破壊から発生する振動は極めて小さいため、孔井30内に設置するハイドロフォンや、地表側に設置する3成分ジオフォンや3成分加速度計では、直接的に検知することはできない。しかし、孔井30に透水性亀裂Zが存在する場合には、透水性亀裂Zから発生するチューブ波が亀裂Y等の微小破壊に起因していることを本発明者は上記の如く確認しているので、かかるチューブ波を、例えば孔井30内に設置したハイドロフォンで検知すれば、間接的に亀裂X等の微小破壊を検知することができる。
【0101】
経験的には、日本の国情下では、上記の如く孔井30を設けると地下水脈にぶつかり、孔井30内には複数の透水性亀裂Zが存在していることとなる。かかる透水性亀裂Zの深度は検層等から特定することができる。
【0102】
そこで、図7に示すように、地下施設10等の観測対象領域に、前述の如く、複数の観測用の孔井30(30a、30b、30c)を設ける。また、かかる孔井30a、30b、30c内には、透水性亀裂Za、Zb、Zcがあるものとする。日本のように地下水脈が多い国情下では、通常観測用の孔井30を設けると、地中内の透水性亀裂Zに殆どの場合ぶつかることとなる。
【0103】
また、図7に示すように、3箇所の孔井30a、30b、30c内に、ハイドロフォンアレイ41a、41b、41cを設置しておく。さらに、孔井30a、30b、30c内には、少なくとも透水性亀裂Zが異なる深度で2箇所以上、例えば、透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2が存在していたとする。
【0104】
かかる状況下で、亀裂X等の微小破壊が発生すると、3箇所の孔井30a、30b、30c内の透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2を刺激し、それぞれの透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2からチューブ波が発生し、孔井30a、30b、30c内を伝搬する。
【0105】
各孔井30a、30b、30c内のハイドロフォンアレイ41a、41b、41cのチューブ波の観測データから、各透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2からチューブ波が発生した時刻ta1、ta2、tb1、tb2、tc1、tc2を特定することができる。
【0106】
一方、透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2を刺激し、チューブ波が発生するまでの時間が無視できる程度の時間であるか、あるいは、透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2に対してもほぼ同一の時間であれば、チューブ波の発生時間を、微小破壊からの振動が透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2を刺激した時間と見なして、微小破壊の発生位置、発生時刻、発生規模等の特定に利用することができる。
【0107】
また、個々のチューブ波に関係する透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2の長さを計測できる場合には、微小破壊で発生した振動が透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2を刺激しチューブ波が発生するまでの時間を求めることが可能となり、より精度の高い微小破壊の特定が行える。
【0108】
図8に示すように、微小破壊に起因したチューブ波の発生を異なる複数箇所、少なくとも4箇所以上で検知できれば、透水性亀裂Za1、Za2、Zb1、Zb2、Zc1、Zc2を高感度の受振器とみなすことで、亀裂X等の微小破壊の発生位置を最小自乗法で決定することができる。尚、かかる決定に際しては、孔井30a、30b、30cを設けた領域内における岩盤が均一でそのP波速度は一定であるとして行えばよい。
【0109】
微少な亀裂Xに基づく振動Yは、極微弱な高周波であることが予測されるが、地中内を伝播する振動は、高周波程減衰され易い。そのため、かかる微少な亀裂Xに起因する微弱な高周波振動は、地表側受振手段20だけで検知する体制では、検知できない場合が十分に想定される。しかし、本発明の如く、チューブ波を用いれば、亀裂発生に基づく高周波振動も、透水性亀裂Zに至ることで励起され、地中内のみを伝播した直達波を検知する手法に比べて、S/N比の高いデータとして検知する可能性が高くなる。すなわち、検知精度の向上を図ることができるのである。
【0110】
また、本発明者は、構築後の地下施設の周辺地盤における状況観察において、どの程度の検出限界を持たせればよいか検討した。かかる点に関しては、未だ基準となる数値は公表されておらず、本発明者らは、実際の現場体験等の実際的検知から、最低でも50cmの亀裂を観測できるようにすればよいと判断した。
【0111】
かかる基準を満たす条件としては、本発明の適用に際して、地表側受振手段20、孔井内受振手段40で直達波、チューブ波の検出を実際に行う観測周波数領域は、微少地震観測で使用する周波数より高い周波数で、且つ、AE計測で使用する周波数より低い周波数の範囲で行えばよいことが分かった。
【0112】
かかる範囲の周波数領域で観測を行えば、最低でも、破断面の大きさが50cmの亀裂まで検知することができる。かかる検出規模の亀裂が問題とされる地下施設の規模は、一辺20〜30m程度の正方形断面を有し、長さ500〜1000m程度の直方体状の立体空間の規模範囲に属するもので、かかる規模範囲の地下施設であれば、石油備蓄地下施設等の高度の安全性が必要な地下施設の殆どが網羅されることとなり、本発明者において設定した上記観測周波数領域が最適な周波数領域であることが確認される。
【0113】
因みに、約32cmの破断面の大きさの亀裂は、観測対象の地質が風化していない新鮮な花崗岩とすれば、マグニチュード換算で−3で発生する虞のある亀裂に相当することとなる。
【0114】
より詳細には、100Hz以上、10kHz以下であればよい。さらに、下限を300Hz以上と設定すれば、十分にノイズの影響を抑えることができる。上限を5kHz以下とすれば、よりチューブ波の検出を邪魔する高周波ノイズの影響を十分に抑えることができる。
【0115】
一般的には観測周波数領域は、フィールド毎に特有のノイズが存在するため、0Hz〜5kHzと広めに設定しておき、予備的な観測結果に基づき、低周波数側のノイズ領域を特定し、カットできるように設定するのが良い。
【0116】
次に、上記実験事実に基づき構成された本発明に係わる地中内観測方法について説明する。かかる地中内観測方法は、前記説明の本発明に係わる地中内観測システムMを用いれば、以下の如く、適切に行うことができる。
【0117】
すなわち、図8の地中内観測方法におけるフロー図に示すように、周辺地盤内で亀裂が発生して微少振動が発生すると、ステップS100で、その振動の検知を行う。ステップS100における振動検知は、地中内観測システムMにおける受振装置100を用いて行われる。ステップS100における微少振動の受振は、図8に示すように、ステップS101における地表側での振動検知と、ステップS102の孔井内でのチューブ波の振動検知とで行われる。
【0118】
ステップS101の地表側での振動検知は、図8に示すように、予め、3成分ジオフォンあるいは3成分加速度計等の地表側受振手段を地下施設の周辺地盤に設置することで、地盤と受振器とをカップリングさせておくことで行われる。ステップS102の孔井内での振動検知は、図8に示すように、予め、ハイドロフォンアレイを水で満たされた孔井内の所定深度に設置することで行われる。
【0119】
このようにして受振装置100を用いてステップS100でそれぞれ取得した振動は、ステップS201、ステップS202で、取得したそれぞれのアナログ信号をデジタル信号に変換する。かかるステップS201、S202における変換は、図3に示すように、データ収録装置200内のアナログデジタル変換機230により行われる。かかるステップS201、S202でそれぞれデジタル変換された振動データは、データ収録装置200で常時連続的に観測波形が収録される。
【0120】
連続収録された観測波形は、ステップS301でリアルタイムにモニタする。かかるモニタは、図3に示すように、監視装置300で行う。かかる監視装置300を構成する出力装置としての画像表示装置、プリンタ等で行えばよい。また、併せて、ステップS302では、ステップS301のリアルタイムのモニタと並行して、データ解析を行う。かかるデータ解析により、検知した振動から、震源となる亀裂発生位置、亀裂規模等が求められる。かかるデータ解析は、例えば、ステップS302のように、オフラインで処理を行っても構わない。
【0121】
あるいは、ステップS400に示すように、監視装置300を構成するコンピュータを用いて自動解析を行っても構わない。例えば、ステップS401では、ステップS201でデジタル変換された地表側受振手段で検知した直達波のP波、S波から、振幅異常を検知する。ステップS402では、孔井内受振手段で検知した振動から、チューブ波を検出する等、微少亀裂に起因する振動を検知する。
【0122】
このようにして自動的に解析して取得振動情報から、亀裂発生に関連づけられた振動、波形を特定し、かかる特定結果に基づき、ステップS500で発生亀裂の位置、規模を演算して特定する。このようにしてステップS500で解析した結果は、ステップS600で適宜処理を施す。すなわち、ステップS601で示すように、イベント波形、解析結果を保存する。かかる保存は、図3に示す地中内観測システムMにおけるイベントデータストレージ260を用いて行えばよい。
【0123】
また、かかる保存データは、ステップS602に示すように、監視装置300側からの遠隔操作により、イベント波形や解析結果を画面表示装置に表示させることもできる。
【0124】
オンラインのデータ処理では、処理速度を高める為に、初動の自動検出や最大振幅の自動検出等に簡便なアルゴリズムを利用しており、かかるデータ処理は短時間で処理できるが、時間を要するが解析精度が高いオフライン処理の結果と食い違いが生じることが多い。そのため、場合によっては、食い違いの要因がアルゴリズムの中のどの判定基準のパラメータなのかを、図8に示すように、結果の比較により明確化し、最適なパラメータに設定し直す必要がある。また、最適と考えられるパラメータを設定しても、食い違いが改善されない場合には、図8に示すように、アルゴリズム自体を修正、あるいは別のものに置き換える必要もある。
【0125】
次に、上記説明の本発明を石油備蓄地下施設に適用する場合を例に挙げて、より具体的に説明する。
【0126】
すなわち、地下施設として石油備蓄地下施設を例に挙げ、その周辺地盤の地質状況を、本発明を適用することで、常時監視する地中内現象発生観測システムについて説明する。かかる地中内観測システムでは、チューブ波を微小亀裂の検知に直達波と共に併用するものである。尚、以下の石油備蓄地下施設への適用例は、液化ガス備蓄地下施設の適用にも当てはまるものである。
【0127】
図9は、石油備蓄地下施設の周辺地盤の状況観測に際しての孔井の設置状況を模式的に示す平面図である。図10は、図9の矢印方向からみた場合の地中断面状況を模式的に示す断面説明図である。
【0128】
図9、10に示すように、地下施設10としての石油備蓄地下施設10aは、断面やや紡錘状のタンクに形成されている。かかるタンクは、花崗岩で形成された安定岩盤を掘削して形成され、掘削岩盤内に水封式に石油を貯蔵させるように構成されている。実際には、国内では、菊間、串木野あるいは久慈等の石油備蓄基地でかかる構成が採用されている。
【0129】
かかる石油備蓄地下施設10には、地上側から石油の出し入れを行う竪抗11が設けられ、図示はしないが、地上側では所要の蓋がなされて簡単には開閉できないように管理されている。必要に応じて、竪抗11に接続されているパイプラインを通じて、石油の出し入れが適宜行われる。
【0130】
かかる石油備蓄地下施設10aは、通常、石油タンカーからの石油の受け入れが適宜行え、且つ、多少の地震程度では地盤亀裂、断層破断等が発生しないと思われる安定岩盤を掘削して構築される。かかる安定岩盤としては、例えば、地質的には、花崗岩や安山岩、火山岩等で形成され、硬岩(国土庁分類図では、一軸圧縮強度が400Kgf/cm以上、弾性波速度が3.0km/sec以上)の力学的要件を満たしたものである。本発明の適用対象は、かかる安定岩盤内に構築された石油備蓄地下施設10aの周辺の岩盤状況である。
【0131】
本発明は、かかる石油備蓄地下施設10aの周辺地盤内及び周辺地盤表面側で、所定周波数範囲の地中内現象観測周波数領域で、振動を検知して、かかる検知結果から、振動の発生源となった亀裂の位置、大きさ等の情報を観測するものである。
【0132】
例えば、かかる石油備蓄地下施設10aの規模を、直径20〜30m程度で、長さ500〜1000m程度と想定し、地下60〜100mの深度に設けられているものとする。かかる規模の石油備蓄地下施設10aに対しては、探査域Aを地下施設10の地上への投影領域から最大で10mの距離を離して取り囲むようにして設定し、検知すべき亀裂の大きさを32cm程度とし、マグニチュード換算で−3程度の地震により発生する微少亀裂とする。かかる所要条件を満足するように受振手段の設置を考慮することとなる。
【0133】
かかる規模の地下施設10の周辺地盤内の亀裂発生を常時観測するためには、図9に示すように、地表側受振手段20を設置する。かかる地表側受振手段20としては、例えば、3成分ジオフォンあるいは3成分加速度計を、地下施設10を取り囲むように配置して実現することができる。
【0134】
周辺地盤表面側に地表側受振手段20を設置するとともに、図9に示すように、複数の地点にボーリングを行って孔井30を設ける。隣接する孔井3の間隔は、例えば、15〜20mに設定したが、測定対象域の石油備蓄地下施設10aの規模により適宜設定すればよい。孔井30の深度は、石油備蓄地下施設10aの底部よりも5m程度深く設定すればよい。
【0135】
かかる孔井30内には、孔井内受振手段40が所定深度毎に設置され、周辺地盤内における地中内断面方向で、亀裂発生に基づく発震源位置の特定が行えるようになっている。かかる孔井内受振手段40としては、例えば、ハイドロフォンアレイ40aを使用すればよい。
【0136】
かかるハイドロフォンアレイ40aを、図10に示すように孔井30内の複数位置に、深度を特定した状態で設置する。図10に示す場合には、孔井30内に、孔井30底部、孔井30の中間位置、孔井30の石油備蓄地下施設10aの埋設上端側に相当する深度位置の3点に設けた場合を示している。
【0137】
このようにして周辺地盤表面、地盤内にそれぞれ設置した地表側受振手段20と孔井内受振手段40とで、地下施設10の周辺内地盤状況の観察を、24時間体制でモニタリングして行うこととなる。かかる構成の地中内観測システムMでは、観測周波数領域は、例えば、300Hz以上5kHz以下に設定し監視を行う。
【0138】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、地表側受振手段20で直達波のP波、S波の検知を行うとともに、孔井内受振手段40で直達波のP波、S波と共に、チューブ波の検出を行ったが、求める検出限界に合わせて、チューブ波の検出を行わない構成でも構わない。かかる構成の場合でも、前記実施の形態で説明した地中内観測システムMを使用すればよい。データ解析に際して、チューブ波の検出解析を行わなければよい。
【0139】
かかる構成でも、観測周波数領域は、300Hz〜5kHzに設定すればよい。
【0140】
また、地表側受振手段20を設けることなく、受振手段としては、孔井内受振手段40のみを設置することで、微少亀裂の発生を検知するように構成しても構わない。かかる場合でも、地中内観測システムMの構成を利用すればよい。すなわち、前記説明の地中内観測システムMの受振装置100の構成において、地表側受振手段20側の機能を省くか、あるいは、地表側受振手段20の機能のみを停止させて使用すればよい。
【0141】
かかる構成を採用する場合としては、地中内地下施設としては一辺20〜30m程度の正方形断面を有し、長さ500〜1000m規模範囲に属するもので、検知すべき亀裂をマグニチュード換算で−1程度に設定した場合を想定することができる。勿論、孔井内受振手段40を使用する場合に比べ、検知能力は低下すると考えられるが、しかし、透水性亀裂が見られない状況下等の適用に際しては、十分に利用可能な有効な手法である。
【0142】
(実施の形態3)
上記実施の形態1、2の構成の本発明の地中内観測システムMでは、周辺地盤内に亀裂等の地中内現象が発生しない限り、モニタリングに際して異常は検知されない筈である。しかし、かかる検知されない状態が常時続いている状態と、システム故障が発生して異常検知が行えない状態との区別は、容易に判別できない場合がある。そのため、万が一にでも、システムがダウンして検知不可能になっている場合がないように、正常稼働の監視を定期的に行う必要がある。
【0143】
かかる監視方法としては、例えば、地表側に、人工起振装置を適宜設置して、人工的に地震を起こさせ、地表側受振手段20、孔井内受振手段40の双方で、振動が検知されることを確認して、モニタリング用機器システムの正常稼働を確認できるようにしておけばよい。人工起振装置としては、例えば、油圧インパクタ等を使用すればよい。
【0144】
また、孔井内バイブレータ等の人工起振装置を用いて、人工的に地震を発生させることで、既に形成されている周辺地盤内の既存亀裂の規模等を測定することもできる。
【0145】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、地下施設周辺の周辺地盤で発生する亀裂の特定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明に係わる地中内観測システムの地表面側での受振手段の設置状況を模式的に示した平面図である。
【図2】本発明に係わる地中内観測システムの地中内側での受振手段の設置状況を模式的に示した平面図である。
【図3】本発明で使用するモニタリング用機器システムの概要構成を模式的に示す説明図である。
【図4】チューブ波が孔井に直接繋がらない亀裂に基づく振動情報を有することを示す検証実験の状況を模式的に示す説明図である。
【図5】(a)は、図3に示す実験における載荷圧と時間との関係を示す説明図であり、(b)は(a)に示す状況に符合させたイベント数と時間との関係を示す説明図である。
【図6】チューブ波のデータ解析の状況を示す説明図である。
【図7】本発明に係わる地中内観測方法によるチューブ波を利用した微小破壊の位置評定の概念を示す説明図である。
【図8】本発明に係わる地中内観測方法のデータフローを示すフロー図である。
【図9】本発明を石油備蓄地下施設に適用した場合を示す受振手段の設置状況を示す平面図である。
【図10】本発明を石油備蓄地下施設に適用した場合を示す受振手段の設置状況を、図9の矢印方向からみた場合の地中断面で示す断面図である。
【符号の説明】
【0148】
10 地下施設
10a 石油備蓄地下施設
11 竪抗
20 地表側受振手段
20a 加速度計
30 孔井
30a 孔井
30b 孔井
30c 孔井
40 孔井内受振手段
40a ハイドロフォンアレイ
40b ハイドロフォン
40c ハイドロフォン
41a ハイドロフォンアレイ
41b ハイドロフォンアレイ
41c ハイドロフォンアレイ
50 監視施設
60 ボーリング抗
100 受振装置
101 水位計
102 歪計
103 アナログ式計測計
110 誘電保護回路
200 データ収録装置
210 誘電保護回路
220 受振器信号コンディショニング用インターフェース
230 アナログデジタル変換機
240 高速データ伝送装置
250 コンピュータ
251 高速データ伝送装置
260 イベントデータストレージ
270 GPSシステム同期装置
280 無停電電源システム
300 監視装置
410 ハブ
420 ルーター
S100、S101、S102、S201、S202、S301、S302 ステップ
S400、S401、S402、S500、S600、S601、S602 ステップ
A 探査域
g 載荷昇圧線
h 目安線
M 地中内観測システム
t0 時間
t1 時間
ta1 時刻
ta2 時刻
tb1 時刻
tb2 時刻
tc1 時刻
tc2 時刻
T0 経路
T1 経路
T2 経路
W 水面
X 亀裂
Xa 亀裂
Xb 亀裂
Xc 亀裂
Xd 亀裂
Xe 亀裂
Y 振動
Z 透水性亀裂
Z1 開口部
Za1 透水性亀裂
Za2 透水性亀裂
Zb1 透水性亀裂
Zb2 透水性亀裂
Zc1 透水性亀裂
Zc2 透水性亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中内の亀裂等の地中内現象を、前記地中内現象に関連づけられる振動の検知により観測する地中内観測システムであって、
地表側に設けられ、前記地中内現象に関連づけられた直達波を検知する地表側受振手段と、
地上側から前記地中内に形成した複数の孔井の内部に設けられ、前記地中内現象に関連づけられた直達波を検知する孔井内受振手段とを有し、
前記地中内現象の観測を行う観測周波数領域は、AE計測の観測周波数領域の下限よりも低い周波数領域に設定されていることを特徴とする地中内観測システム。
【請求項2】
請求項1記載の地中内観測システムにおいて、
前記観測周波数領域は、前記孔井内受振手段により、前記孔井に繋がっていない亀裂に関連づけられるチューブ波の検知が行える周波数領域に設定されていることを特徴とする地中内観測システム。
【請求項3】
地中内の亀裂を、前記亀裂に関連づけられる振動の検知により観測する地中内観測システムであって、
地上側から前記地中内に形成した複数の孔井の内部に設けられ、前記孔井に繋がっていない亀裂に関連づけられるチューブ波の検知を行う孔井内受振手段を有することを特徴とする地中内観測システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の地中内観測システムにおいて、
地表側には3成分加速度計あるいは3成分ジオフォンで構成された地表側受振手段が設けられ、
前記孔井内受振手段は、孔井内の異なる深度に設けた複数のハイドロフォンに構成されていることを特徴とする地中内観測システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の地中内観測システムにおいて、
前記地中内に振動を人工的に伝播させる起振手段を有することを特徴とする地中内観測システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の地中内観測システムにおいて、
地中内の前記観測周波数領域は、300Hz以上、10kHz以下に設定されていることを特徴とする地中内観測システム。
【請求項7】
地中内の亀裂等の地中内現象に関連づけられる振動を、地上側から地中側に設けた孔井内と、地表側とでモニタリングして、前記地中内現象の発生を観測することを特徴とする地中内観測方法。
【請求項8】
請求項7記載の地中内観測方法において、
前記孔井内での振動のモニタリングは、チューブ波のモニタリングであることを特徴とする地中内観測方法。
【請求項9】
地上側から地中側に設けた孔井内で、孔井に繋がらない地中内の亀裂に関連づけられるチューブ波をモニタリングして、前記地中内の亀裂観測を行うことを特徴とする地中内観測方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の地中内観測方法において、
人工的に発生させた人工振動をモニタリングさせることで、地中内観測に使用するシステムの正常稼働の監視を行うことを特徴とする地中内観測方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の地中内観測方法において、
人工的に発生させた人工振動をモニタリングさせることで、地中内亀裂等の地中内現象の存否を観測することを特徴とする地中内観測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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