説明

地中埋設管の塗覆装損傷監視方法及びその装置

【課題】塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を正確かつ確実に検出することができる地中埋設管の塗覆装損傷監視方法及びその装置を提供する。
【解決手段】地中に埋設された塗覆装鋼管1と地中の発信用電極41との間に直流のM系列信号を印加し、印加したM系列信号により塗覆装鋼管1の対地電位を示す管対地電位と管内電流とを検出し、検出した管対地電位信号と管内電流信号とを、M系列信号と同一のパターンの参照信号で相関処理を行い、そのピーク値を管対地電位と管内電流のそれぞれの代表値として塗覆装鋼管1の接地抵抗を求め、接地抵抗の変化に基づいて塗覆装鋼管1の塗覆装損傷の有無を検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された塗覆装鋼管の塗覆装損傷を検出する埋設塗覆装鋼管の塗覆装損傷監視方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設される鋼管は鋼自体の腐食を防ぐため、外面を塗覆装して土壌と絶縁している。この塗覆装鋼管の塗覆装が例えば土木工事等で掘削機械等に接触して傷が付くと、鋼自体が土壌と接触して腐食する可能性がある。この鋼自体に腐食が生じることを防止するため地中に埋設された塗覆装鋼管の塗覆装に対する損傷の状態を常時監視することが必要である。
【0003】
この埋設された塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を監視する方法として、例えば、交流電源により塗覆装鋼管に設けた基準点から塗覆装鋼管に一定の信号電流を通電し、塗覆装鋼管の異なる2地点において塗覆装鋼管の対地電位である管対地電位を測定し、各地点毎に、塗覆装鋼管の2地点間の距離より短い間隔をおいた2個所の電位差を利用し、電圧降下法により各地点毎に塗覆装鋼管に流れる電流を測定し、測定した2地点の管対地電位と電流値とにより塗覆装鋼管の2地点間の接地抵抗を演算し、この接地抵抗に基づいて損傷の有無を判定している。
【特許文献1】特許第3169754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗覆装鋼管は、地中に埋設された状態で大地との間に絶縁体としての塗覆装を介したコンデンサー構造を形成することから、特許文献1のように交流の信号電流を流した場合、塗覆装に電流が流れ、塗覆装鋼管全体の接地抵抗が下がる。特許文献1は、接地抵抗に基づいて損傷の有無を判定するようにした技術であるが、損傷が発生した場合、その損傷部分の接地抵抗が低下することを利用したものであり、特許文献1のように交流の信号電流を用いることにより、健全時(損傷がない状態)の塗覆装鋼管の接地抵抗が下がってしまうと、損傷がある場合の接地抵抗との差が小さくなり、損傷の検出が難しくなるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を正確かつ確実に検出することができる地中埋設管の塗覆装損傷監視方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る地中埋設管の塗覆装損傷監視方法は、地中に埋設された塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に直流のM系列信号を印加し、印加したM系列信号により塗覆装鋼管の対地電位を示す管対地電位と管内電流とを検出し、検出した管対地電位信号と管内電流信号とを、M系列信号と同一のパターンの参照信号で相関処理を行い、そのピーク値を管対地電位と管内電流のそれぞれの代表値として塗覆装鋼管の接地抵抗を求め、接地抵抗の変化に基づいて塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を検出するものである。
【0007】
また、本発明に係る地中埋設管の塗覆装損傷監視方法は、塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に、直流のM系列信号を間欠的に印加するものである。
【0008】
本発明に係る地中埋設管の塗覆装損傷監視装置は、地中に埋設された塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に直流のM系列信号を印加する損傷検知信号発生部と、M系列信号と同一のパターンの参照信号を発生する参照信号発生器と、印加したM系列信号により塗覆装鋼管の対地電位を示す管対地電位と管内電流とを検出する検出部と、検出した管対地電位信号と管内電流信号とを、M系列信号と同一のパターンの参照信号で相関処理を行い、そのピーク値を管対地電位と管内電流のそれぞれの代表値として求める相関処理部と、相関処理部で求めた管対地電位と管内電流とから、塗覆装鋼管の接地抵抗を求め、接地抵抗の変化に基づいて塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を検出する損傷検出部とを備えたものである。
【0009】
また、本発明に係る地中埋設管の塗覆装損傷監視装置は、損傷検知信号発生部が、塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に、直流のM系列信号を間欠的に印加するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、損傷検知信号として直流信号を用いるようにしたので、損傷が無い状態での接地抵抗と損傷が有る状態での接地抵抗との差を大きくすることができ、損傷検出を容易に行うことができる。また、M系列信号を用いて迷走電流等のノイズの影響を排除しているため、塗覆装損傷の有無を正確且つ確実に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る塗覆装鋼管の塗覆装損傷監視方法が適用された装置の構成図である。
塗覆装損傷監視装置は地中に埋設した塗覆装鋼管1の塗覆装損傷の有無を検出するものであり、損傷検知信号発生部としての発信機10と、受信機20と、損傷検出部としての中央処理装置30とを有している。発信機10は、M系列信号発生器11及び電気防食装置12を備えている。また、受信機20は、検出部21、参照信号発生器22及び相関処理部23とを備えている。
【0012】
本実施の形態においては、損傷検知用の電気信号として直流信号を用いるようにしており、直流信号を用いることで、従来の交流信号を用いる場合の塗覆装鋼管1の接地抵抗低下による不都合を解消することを一つの特徴としている。しかしながら、直流信号を用いる場合、受信機20側で検出される検出信号が、例えば電気鉄道の迷走電流等のノイズに埋もれてしまい、検出処理に不都合が生じる。そこで、本実施の形態においては、損傷検知用の電気信号として、直流のM系列信号を用いる。そして、受信機20側で検出した検出信号に対して、印加したM系列信号と同一の信号との相関処理を行い、相関処理の結果のピーク値を検出信号の代表値とすることでノイズ低減を図るようにしている。
【0013】
ここで、本実施の形態の塗覆装損傷検出の原理の概要を説明する。
塗覆装鋼管1に損傷検知用の電気信号が印加されると、塗覆装鋼管1に電流が流れる。塗覆装鋼管1の塗覆装損傷箇所においては、その電流が地中に対して流出し、損傷箇所以外における塗覆装鋼管1の接地抵抗(塗覆装鋼管1の対地電位)(例えば1000Ω)に対し、損傷箇所の接地抵抗(例えば100Ω)が低下する。したがって、損傷が発生すると、損傷箇所の接地抵抗の低下の影響を受け、塗覆装鋼管1全体の接地抵抗が低下する。本例の塗覆装損傷監視方法では、この接地抵抗の変化から塗覆装鋼管1の塗覆装損傷の発生を検出する。
【0014】
次に、塗覆装損傷監視装置の構成の説明とともに、本例の塗覆装損傷監視方法について詳細に説明する。
発信機10は、塗覆装鋼管1に接続されたターミナルと地中に埋設された発信用電極41との間に、M系列信号発生器11により発生させたM系列信号を印加し、塗覆装鋼管1中に電流を流入させる。図2に、M系列信号の発生回路の例を示す。M系列信号は、図2のようなフィードバック回路を有するシフトレジスタによって容易に作成できる。図2に示す3段のシフトレジスタによって得られる符号長は23 −1=7で、本例では、図3に示すように、3ビット×3周期のM系列信号を用いる。
【0015】
図4(a)(b)は、M系列信号の信号波形とその自己相関信号波形の例を示す図である。図4において、横軸は時間、縦軸は信号の大きさ、τaはM系列信号を生成するシフトレジスタに与えられるクロックの周期である。
【0016】
M系列信号は、周期性のある擬似ランダム信号であり、シフトレジスタのビット数に対応する周期を持つので、自己相関をとると図4(b)に示すようなピーク値を周期的に持つ。このことから、他の信号との相互相関をとれば、当該M系列信号とパターンの一致する信号のみが高いピーク値を有する相互相関値を持つことがわかる。本実施の形態においては、上述したように、この性質を利用してノイズ信号の低減を図るようにしている。
【0017】
M系列信号発生器11からのM系列信号は、電気防食装置12を介して塗覆装鋼管1と発信用電極41の間に電圧として印加される。電気防食装置12は、塗覆装鋼管1の腐食を防止するために、塗覆装鋼管1と発信用電極41との間に直流電圧を印加し、塗覆装鋼管1に電流を送って塗覆装鋼管1の電位を腐食が進行しない電位とするための装置である。電気防食では、塗覆装鋼管1の電位が防食電位(ここでは−0.85V)より卑電位であれば良しとされるものであり、後述の図5に示すようにここでは−2Vを防食用管対地電位として印加するように構成されている。本例の電気防食装置12は、防食用管対地電位を、M系列信号発生器11からのM系列信号の電位に重畳して、塗覆装鋼管1と発信用電極41との間に印加している。また、本例では、図3に示したM系列信号を、後述の図5に示すように間欠的に印加するようにしており、M系列信号の印加が休止の期間は、防食用管対地電位のみが塗覆装鋼管1に印加されるようになっている。
【0018】
受信機20の参照信号発生器22は、発信機10のM系列信号発生器11とは電気的に独立しているが、同じパルスパターンのM系列信号を発生し、相関処理部23に入力している。また、受信機20の検出部21は、塗覆装鋼管1と、地中に挿入接地された参照電極42との間の電位差である管対地電位(P/S)を検出するとともに、塗覆装鋼管1の管内電流(I)を検出し、検出結果を相関処理部23に入力している。次の図5に相関処理部23に入力される検出結果を示す。
【0019】
図5(a)は、管対地電位(P/S)を示し、図5(b)は、管内電流(I)を示している。図5において、横軸は時間、縦軸は電位を示している。なお、図5(a)の管対地電位(P/S)は、迷走電流によるノイズの影響を受けたものであり、比較のため、図5(a1)に、ノイズが無い状態の理想の管対地電位(P/S)を示している。なお、本例では定電流制御を採用しており、管内電流(I)は、防食電流もM系列電流も迷走電流の影響は受けず、ノイズが無い状態となっている。
【0020】
ここで、図5の例では、時刻t0で損傷が発生した例を示している。塗覆装鋼管1の塗覆装に損傷が発生すると、上述したように、損傷箇所の接地抵抗(例えば100Ω)が他の部分に比較して低下する。このため、塗覆装鋼管1全体の接地抵抗も低下する。したがって、定電流制御の元では、電圧(管対地電位)が変化することになり、図5(a),(a1)に示すように、損傷が発生した時刻t0以降の損傷検知信号の損傷検知用電位V2は、損傷発生前の損傷検知用電位V1に比べて小さくなっている。
【0021】
相関処理部23には、参照信号発生器22からの参照信号(M系列信号)も入力され、管対地電位(P/S)と管内電流(I)のそれぞれの信号と、M系列信号との相互相関演算を行う。この演算の結果は、図6(a),(b)に示すようになる。そして、図6(a),(b)に示したピーク値を検出して管対地電位(P/S)と管内電流(I)のそれぞれの代表値とし、ノイズ信号を抑制した高精度の管対地電位(P/S)と管内電流(I)とを検出できる。ここで検出された管対地電位(P/S)と管内電流(I)は、受信機20から中央処理装置30に送信され、中央処理装置30は、受信した管対地電位(P/S)と管内電流(I)とから接地抵抗を演算する。その演算の結果を図6(c)に示す。
【0022】
図6(c)に示すように、損傷が発生すると、その時点で接地抵抗が急激に低下する。この接地抵抗の変化に基づき損傷の発生を検知することができる。中央処理装置30は、損傷を検知すると、図示しない警報装置から発報を行う。なお、損傷発生後は、低下後の接地抵抗値が継続して得られることになる。ここで、本例では、損傷検知信号として直流信号を用いていることから、交流信号を用いた場合の塗覆装鋼管1全体の接地抵抗の低下が防止されており、損傷が発生した場合、健全時の接地抵抗(ここでは1000Ω)から、損傷後の接地抵抗(ここでは90Ω)へと急激に低下することになり、この変化に基づき、損傷が発生したことを正確かつ確実に検出することが可能となる。
【0023】
また、本例では、M系列信号を間欠的に印加するようにしているが、これは以下の理由による。塗覆装鋼管1は、一般的にガス管等に利用されることから、塗覆装鋼管1の腐食に伴う漏洩事故を防止することは最重要事項である。このため、塗覆装鋼管1の防食状態を監視することは重要であり、すなわち、管対地電位が、防食電位よりも卑電位であることが維持されているかどうかを監視する必要がある。そこで、M系列信号を間欠的に印加することにより、M系列信号の休止期間には、防食用管対地電位のみが印加されることになるため、図5(a)に示す管対地電位を確認することにより、管対地電位が、防食電位より卑電位となっていることを明瞭に把握することが可能となる。
【0024】
また、本例では損傷検知信号として直流信号を用いており、電気防食の直流信号に重畳されることになるため、M系列信号(損傷検知信号)の印加を間欠的とすることにより、過防食となることを防止する効果もある。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、損傷検知信号として直流信号を用いるようにしたので、損傷が無い状態での接地抵抗と損傷が有る状態での接地抵抗との差を大きくすることができ、損傷検出を容易に行うことができる。また、M系列信号を用いて迷走電流等のノイズの影響を排除しているため、塗覆装損傷の有無を高感度で精度良く、確実に検出することが可能である。
【0026】
また、M系列信号を間欠的に印加するようにしているので、防食電位より卑電位となっていることを明瞭に把握することが可能となり、また、過防食となるのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る塗覆装鋼管の塗覆装損傷監視方法が適用された装置の構成図である。
【図2】M系列信号発生用シフトレジスタの例を示す図である。
【図3】M系列信号波形とその自己相関信号波形の例を示す図である。
【図4】塗覆装鋼管に印加されるM系列信号波形を示す図である。
【図5】図1の相関処理部に入力される管対地電位(P/S)と管内電流(I)とを示す図である。
【図6】相関処理後の管対地電位(P/S)と管内電流(I)のそれぞれの相関ピーク波形と、接地抵抗を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 塗覆装鋼管
10 発信機(損傷検知信号発生部)
11 M系列信号発生器
12 電気防食装置
20 受信機
21 検出部
22 参照信号発生器
23 相関処理部
30 中央処理装置(損傷検出部)
41 発信用電極
42 参照電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に直流のM系列信号を印加し、前記印加したM系列信号により前記塗覆装鋼管の対地電位を示す管対地電位と管内電流とを検出し、前記検出した管対地電位信号と管内電流信号とを、前記M系列信号と同一のパターンの参照信号で相関処理を行い、そのピーク値を管対地電位と管内電流のそれぞれの代表値として前記塗覆装鋼管の接地抵抗を求め、前記接地抵抗の変化に基づいて前記塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を検出することを特徴とする地中埋設管の塗覆装損傷監視方法。
【請求項2】
前記塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に、前記直流のM系列信号を間欠的に印加することを特徴とする請求項1記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視方法。
【請求項3】
地中に埋設された塗覆装鋼管と地中の発信用電極との間に直流のM系列信号を印加する損傷検知信号発生部と、
前記M系列信号と同一のパターンの参照信号を発生する参照信号発生器と、
前記印加したM系列信号により前記塗覆装鋼管の対地電位を示す管対地電位と管内電流とを検出する検出部と、
前記検出した管対地電位信号と管内電流信号とを、前記M系列信号と同一のパターンの参照信号で相関処理を行い、そのピーク値を管対地電位と管内電流のそれぞれの代表値として求める相関処理部と、
前記相関処理部で求めた管対地電位と管内電流とから、前記塗覆装鋼管の接地抵抗を求め、前記接地抵抗の変化に基づいて前記塗覆装鋼管の塗覆装損傷の有無を検出する損傷検出部とを備えたことを特徴とする地中埋設管の塗覆装損傷監視装置。
【請求項4】
前記損傷検知信号発生部は、前記塗覆装鋼管と地中の前記発信用電極との間に、前記直流のM系列信号を間欠的に印加することを特徴とする請求項3記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−244123(P2009−244123A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91449(P2008−91449)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】