説明

地中移動体位置推定システム、地中移動体位置推定装置及び地中移動体位置推定方法

【課題】電磁波の減衰の影響を受けずに、また電磁波を探索する作業を伴わずに、地中の地中移動体の三次元位置を推定する、地中移動体位置推定装置及び地中移動体位置推定方法を提供する。
【解決手段】地中のドリルビットの位置を推定するために、従来技術の電波の代わりにドリルビット先端から音を発生させ、地表に複数設けたセンサユニットで受信する。センサユニットに到達する音の時間差とセンサユニット同士の距離に基づいて演算し、ドリルビットの位置を推定する。また、ドリルビットの進行方向の反対側のセンサユニットから得られるデータは、音がドリルビットを回転駆動する駆動パイプを伝うために誤差が大きくなってしまう。そこで、無効になったセンサユニットを、備え付けられているLEDを発光制御させることにより、有効なセンサユニットと無効なセンサユニットとの、目視での判別を容易にすると共に、おおよそのドリルビットの位置が把握可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中移動体位置推定システム、地中移動体位置推定装置及び地中移動体位置推定方法に適用して好適な技術に関する。
より詳細には、地中を掘削するドリルビットの地中位置を高精度に推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中を掘削移動する物体の位置を計測するのは非常に重要な技術である。現在は誘導式水平ドリル工法(Horizontal Directional Drilling:以下「HDD工法」)において、ドリルビットの内部に電磁波発生装置を設け、その電磁波の強度から位置直上を推定する手法があるのみである。
【0003】
HDD工法は、非開削で電気、ガス、上下水道等の各種パイプラインの敷設を行うことができる手段として、近年広く用いられている工法である。このHDD工法は、先端にドリルビットが取り付けられた長いパイプを、地上の掘削機が回転駆動することで、ドリルビットが地中を自在に所望の位置及び方向に掘り進む。この工法を施工する際には、地中を掘進していくドリルビットの先端の位置を随時計測する必要があり、この時の計測精度がそのまま埋設管の位置に影響する。
【0004】
現在、HDD工法において地中のドリルビットの位置を計測する手法として、電磁波を用いたものが周知である。ドリルビットの先端には小型の電磁波の発信機が埋め込まれ、地上ではロケーターと呼ばれる電磁波受信装置を用いて、電磁波の強度が最大の地点を探索する。その、電磁波の強度が最大の地点が、ドリルビットの真上であると推定できる。
HDD工法の性質上、ドリルビット先端からパイプ内に土砂が流入し、パイプは掘削機によって回転駆動されるので、ドリルビット先端に仕込まれる発信機は掘削機側から電源を得ることができない。従って、発信機は電池駆動でなければならない。
なお、HDD工法の先行技術文献として、特許文献1を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−220992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この電磁波を用いる手法は、ドリルビットの真上の位置しか分からない。このため、施工ライン上に家屋等の建造物がある場合には用いることができない。また、土質の含水率に応じた電磁波の減衰の影響を受ける場合や、現場付近に鉄塔がある場合等の、地中のドリルビットから出力される電磁波が乱れてしまうような状況下においては正確な測定を行うことができない、といった問題点を有している。
また、前述のように発信機は電池駆動であるが故に、強い電磁波を発することが難しい。このことも、電磁波の減衰の影響を受けやすくし、ドリルビットの位置推定精度が向上し難い要因である。
【0007】
本発明はかかる課題を解決し、電磁波の減衰の影響を受けずに、また電磁波を探索する作業を伴わずに、地中の地中移動体の三次元位置を推定する、地中移動体位置推定システム、地中移動体位置推定装置及び地中移動体位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のドリルビット位置推定システムは、地表面に配置されて地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する第一のセンサと、第一のセンサから所定の距離だけ離れて地表に配置されて地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する第二のセンサと、第一のセンサ及び第二のセンサから所定の距離だけ離れて地表に配置されて地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する第三のセンサと、第一のセンサ、第二のセンサ及び第三のセンサの信号を同一のサンプリングクロックでA/D変換して振動波データを出力するA/D変換器と、時刻情報生成部と、A/D変換器が出力する、第一のセンサ、第二のセンサ及び第三のセンサに係る振動波データを時刻情報生成部が生成する時刻情報と共に記録する計測値テーブルと、第一のセンサの位置情報、第二のセンサの位置情報及び第三のセンサの位置情報が格納されている位置テーブルと、計測値テーブルに格納されている第一のセンサ、第二のセンサ及び第三のセンサに係る振動波データを解析して、相互の振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、位置テーブルに格納されている第一のセンサの位置情報、第二のセンサの位置情報及び第三のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、地盤中の地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算部とを備える。
【0009】
地中を進行する地中移動体の位置を推定するために、地中移動体先端から振動波を発生させ、地表に複数設けたセンサユニットで受信する。センサユニットに到達する振動波の時間差とセンサユニット同士の距離に基づいて演算し、地中移動体の位置を推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電磁波の減衰の影響を受けずに、また電磁波を探索する作業を伴わずに、地中の地中移動体の三次元位置を推定する、地中移動体位置推定装置及び地中移動体位置推定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施形態の例である、ドリルビット位置推定システムの概略図である。
【図2】ドリルビットの先端部分の拡大図である。
【図3】音源ユニットのブロック図と、波形図である。
【図4】ドリルビット及び音源ユニットのタイミングチャートである。
【図5】センサユニットの外観斜視図である。
【図6】センサユニットの内部構成を説明するブロック図である。
【図7】ドリルビット位置推定装置のブロック図である。
【図8】ドリルビットの位置を推定する原理を説明する概略図である。
【図9】センサユニットから得られたデータに基づいて形成した曲面を表すシミュレーション図である。
【図10】ドリルビット位置推定演算の推定誤差が生じる様子を説明する概略図である。
【図11】ドリルビット位置推定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】地上を見下ろす視点で、ドリルビットの位置とセンサユニットの発光状態を説明する概略図である。
【図13】第二の実施形態のセンサユニットのブロック図である。
【図14】第二の実施形態のドリルビット位置推定装置のブロック図である。
【図15】掘削機に加振器を備え付けた実施形態の概略図である。
【図16】掘削装置の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図1乃至図15を参照して説明する。
【0013】
本実施形態の概要を説明する。
本実施形態では、ドリルビット位置推定装置と、これに用いるセンサユニットと、ドリルビットよりなるドリルビット位置推定システムを開示する。
本実施形態のドリルビットは、従来技術の電磁波の発信機の代わりに、弾性波或は特定周波数の音波を発生する音源ユニットを内蔵する。ドリルビットが地中から生じさせる弾性波或は音波を、地表面に設置した複数のセンサユニットで計測し、各センサユニットへの弾性波或は音波の到達時間差から、ドリルビットの三次元位置推定を行う。
なお、後述する特定周波数の音波は、可聴帯域の音に留まらず、超音波をも包含する。このため、これ以降、可聴帯域又は非可聴帯域に関わらず、弾性波或は音波のように、物体を物理的に振動させる波動を、振動波と定義する。つまり、本実施形態のドリルビット位置推定装置は、地表に配置したセンサユニットを用いて振動波を検出する。
【0014】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態の例である、ドリルビット位置推定システムの概略図である。
ドリルビット位置推定システム100は、ドリルビット101と、ドリルビット101から発される音を検出する複数のセンサユニット104と、センサユニット104に接続されてドリルビット101の位置を推定するドリルビット位置推定装置103よりなる。
ドリルビット101は地盤102中を掘り進む。ドリルビット101には後述する音源ユニットが内蔵されている。
【0015】
地盤102中の、ドリルビット101が存在する近辺の地表面102aには、ドリルビット位置推定装置103に接続される複数のセンサユニット104が設置されている。ドリルビット位置推定装置103は、アナログインターフェース105と、アンテナ108を含む無線インターフェース106と、これらに接続されるパソコン107よりなる。センサユニット104は相互に5〜50m程度離して配置される。これは、後述するドリルビット101に内蔵される音源ユニットから発される音を検出する際、相互のセンサユニット104から有意な時間差を検出できるための配慮である。
【0016】
各々のセンサユニット104はドリルビット位置推定装置103のアナログインターフェース105に所定のケーブル109によって接続される。また、各々のセンサユニット104は後述するGPSモジュールと無線インターフェースを内蔵しており、ドリルビット位置推定装置103の無線インターフェース106を通じてパソコン107に位置情報を送信する。
【0017】
図2(a)及び(b)は、ドリルビット101の先端部分の拡大図である。
図2(a)を見て判るように、ドリルビット101は、一般的な螺旋状の刃を備えるドリルビットとは異なり、金属製パイプを斜めに切断した形状である。この形状は、遠隔地の掘削機からHDD工法を実施するに適した形状として形成されている。ドリルビット101を回転駆動すると、土砂を切削しながら真っ直ぐに進行し、ドリルビット101を回転させずに押し込むと、ドリルビット101の進行方向が切り欠き面101aに沿って曲がる。ドリルビット101の、斜めの切削先端部分を保護しつつ、切削の強度を確保するため、ドリルビット101の先端にはヘラ部材201が固定されている。
【0018】
図2(b)は、ドリルビット101を別の角度から見た図である。ドリルビット101の中腹部分には、切削によって生じた土砂をパイプに流し込む開口部101cが設けられている。この開口部101cの内部に、音源ユニット202が据え付けられている。元々、この場所には従来技術である電磁波の発信機も据え付けられており、音源ユニット202の筐体は発信機と同じ場所に据え付けられるように、また発信機と同様に電池駆動で稼働できるように、大きさや形状が考慮されている。
【0019】
図2(a)及び(b)を見て判るように、ドリルビット101は金属製のパイプの先端に設けられており、掘削機はこのパイプを回転駆動させることでドリルビット101を回転させ、或は押し込んで、地盤102を掘削する。パイプは土砂が流れるため、中空にしなければならない。したがって、パイプの内側に電力を供給するためのケーブルを内蔵させることはほぼ不可能である。このため、音源ユニット202は電池駆動の装置でなければならない。
【0020】
図3(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)は、音源ユニット202のブロック図と、波形図である。
図3(a)は、音源ユニット202の全体ブロック図である。
図3(b)は、信号源の第一の形態のブロック図である。
図3(c)は、信号源の第一の形態の波形図である。
図3(d)は、信号源の第二の形態のブロック図である。
図3(e)は、信号源の第二の形態の波形図である。
本実施形態では、音源ユニット202の二通りの形態を説明する。
【0021】
音源ユニット202は、地表に設置されているセンサユニット104に対して音を伝達させなければならない。また、詳細は後述するが、音源ユニット202が発する音は、各々のセンサユニット104との間に明確な時間差が判る波形でなければならない。
更に、前述の通り、音源ユニット202は電池駆動の装置である。したがって、電力消費は極力少なくしなければならない。ドリルビット101が掘削機によって回転駆動されているような、ドリルビット101から大きな騒音が発生している状態で、音源ユニット202が稼働して所定の音を発生させても、センサユニット104が正しく音を捕捉することが極めて難しくなり、計測作業が不正確になるだけである。
【0022】
そこで、本実施形態の音源ユニット202は、ドリルビット101が騒音を発していない状態を検出したら、一回だけ信号源を駆動する構成とした。
先ず、振動センサ301はドリルビット101の振動を検出する。波形整形部302は振動センサ301から得られる振動波形をダイオード等で包絡線検波或は同期検波を行い、積分回路を通して波形の雑音成分を除去する。こうして得られた信号を、コンパレータ303で所定の基準電圧と比較する。ドリルビット101が掘削機によって駆動されて騒音が発生しているときは、コンパレータ303は論理の「真」を出力する。
【0023】
コンパレータ303の出力信号はタイマ304のリセット端子に入力される。コンパレータ303が論理の「真」を出力しているうち、すなわち騒音が発生しているときは、タイマ304はリセットされ続ける。ドリルビット101が停止し、騒音がコンパレータ303に入力される基準電圧で設定される「許容値」を下回ったら、タイマ304のリセットは解除され、タイマ304は例えば5秒等の所定の時間だけ計時を行い、計時を完遂すると論理の真のパルスを出力する。このパルスは信号源305をオン動作させる。
【0024】
信号源305は、各々のセンサユニット104同士の時間差を把握可能な波形の音を出す必要がある。本実施形態では、一例として二通りの音のパターンを開示する。
図3(b)は、第一の信号源305aのブロック図である。第一の信号源305aは、音源としてハンマーソレノイド306を用いている。ハンマーソレノイド306に十分な駆動電力を与えるため、昇圧回路307で電池308の電圧を昇圧し、コンデンサC309に電荷を貯めこむ構成とした。コンデンサC309に十分な電荷がたまった状態でトランジスタスイッチ310をオン制御すると、ハンマーソレノイド306が駆動され、ハンマーソレノイド306から衝撃波が発生する。
図3(c)は、その衝撃波の波形図である。波形の立ち上がりが急峻なので、容易に信号の立ち上がりを検出できる。
【0025】
図3(d)は、第二の信号源305bのブロック図である。第二の信号源305bは、音源として超音波等を発生させるに適している磁歪振動子311を用いている。磁歪振動子311を二種類以上の周波数の音で駆動させると、周波数が切り替わったタイミングから、各センサユニット104の時間差を検出することが可能になる。
磁歪振動子311を駆動するために、第二の信号源305bには、ROM312と周波数変調部313とドライバ314が設けられている。ROM312には周波数変調パターンデータが格納されている。周波数変調部313はROM312から周波数変調パターンデータを読み出して、データに従って周波数変調された信号を出力する。そして、この信号をドライバ314が電力増幅する。
図3(e)は、その音波の時間−周波数の波形図である。図2(e)では一例として、三種類の周波数の超音波を、例えば0.5秒等の予め定めた周期で発生させる。
予め信号の周波数の変化が判っているので、ドリルビット位置推定装置側では容易に周波数の切り替わるタイミングを検出できる。
【0026】
図4は(a)、(b)、及び(c)は、ドリルビット101及び音源ユニット202のタイミングチャートである。
図4(a)は、コンパレータ303の出力信号のタイミングチャートである。
図4(b)は、タイマ304の計時が回転駆動されている状態を示すタイミングチャートである。
図4(c)は、タイマ304の出力信号のタイミングチャートである。
【0027】
図4(a)のタイミングチャートに示すコンパレータ303の出力信号は、実質的にドリルビット101が回転駆動されている状態を示す信号でもある。振動センサ301がドリルビット101の動作状態を信号として出力すると、波形整形部302によって包絡線検波が行われ、コンパレータ303によって論理信号に変換される。
タイマ304は、図4(b)に示すように、コンパレータ303の出力信号が論理の「偽」になると、リセットが解除されて計時を開始する。そして、一定時間、例えば5秒を計時すると、図4(c)に示すように、ワンショットパルスを出力する。タイマ304はこれ以降は計時を行わず、再びコンパレータ303によってリセットされるまで出力信号の論理は真にはならない。
【0028】
信号源305は、タイマ304が出力するこのワンショットパルスを受けて、オン動作する。信号源305が図3(b)に示す構成であれば、トランジスタスイッチ310がオンになり、ハンマーソレノイド306が衝撃音を発する。信号源305が図3(d)に示す構成であれば、周波数変調部313がオンになり、磁歪振動子311が所定の周波数パターンの超音波を発する。
【0029】
図5(a)及び(b)は、センサユニット104の外観斜視図である。図5(a)はセンサユニット104を斜め上から見た斜視図であり、図5(b)はセンサユニット104を斜め下から見た斜視図である。
センサユニット104の筐体501の天板501aには、電源スイッチ502と、GPSパッチアンテナ503と、LED504が設けられている。
センサユニット104の筐体501の底板501bには、地盤102に植え込んで固定するための固定柱505が設けられている。
【0030】
図6は、センサユニット104の内部構成を説明するブロック図である。
ジオフォン601は、周知の地震検知センサである。その構造はスプリングで吊るされた振子に固定されているコイルと、地表と同じ振動をする受振器のケースに固定された永久磁石よりなる。振動体の固有振動周波数が低いことを除くと、原理的には周知のダイナミックマイクロフォンとほぼ等価である。勿論、本実施形態ではドリルビット101に内蔵される音源ユニット202に用いる信号源305は、ハンマーソレノイド306が発する高い周波数の衝撃音であったり、磁歪振動子311が発する超音波であるので、周知のダイナミックマイクロフォンやコンデンサマイクロフォンであってもよい。
ジオフォン601の出力信号は周知のオペアンプ等のドライバ602で電圧増幅されて、コネクタ603に接続されるケーブル109を通じてドリルビット位置推定装置103に出力される。
【0031】
一方、ジオフォン601とドライバ602とは全く別に、GPSパッチアンテナ503と、GPSモジュール604と、LED504と、入出力制御部605と、DHCPクライアント606と無線インターフェース607が、センサユニット104の筐体501内に内蔵されている。
位置情報生成部ともいえるGPSモジュール604は、GPSパッチアンテナ503を通じてGPS衛星の電波を受信して、正確な位置情報を出力する。
入出力制御部605は、位置情報を無線インターフェース607を通じてドリルビット位置推定装置103に送信する。
【0032】
無線インターフェース607は周知の無線LANであり、ネットワークインターフェースカード(Network Interface Card:以下「NIC」と略)である。無線インターフェース607と入出力制御部605はTCP/IP通信処理系を構成する。ドリルビット位置推定装置103とIP接続するために、DHCPクライアント606が設けられている。
つまり、GPSモジュール604から生成される位置情報の伝送経路に関わる回路ブロックと、ジオフォン601から生成される音声信号の伝送経路に関わる回路ブロックは、電源を共通にする以外は、電気的には全く無関係である。
【0033】
なお、無線インターフェース607を通じて送信する位置情報のためのプロトコルは、適切なプロトコルであれば何でも良い。位置情報自体は非常に少量のデータであるので、周知のTELNETでもHTTPでもよい。
【0034】
図7は、ドリルビット位置推定装置103のブロック図である。
ドリルビット位置推定装置103は、アナログインターフェース105からセンサユニット104のアナログ信号を受信して処理する、音声信号処理の機能ブロックと、無線インターフェース106からセンサユニット104の位置情報を受信して処理する、位置情報処理の機能ブロックの、二系統の信号処理がある。
【0035】
アナログインターフェース105は、複数の入力端子を備え、複数のセンサユニット104のアナログ信号を受信する。
アナログインターフェース105の出力信号はA/D変換器701に供給される。A/D変換器701は複数のアナログ信号をデジタル情報に変換する。なお、A/D変換器701はアナログインターフェース105の出力チャンネル毎に複数個設けられている。これは、同一のサンプリングクロック702によって相互に正確なタイミングでデジタル変換する必要があることに起因する。
【0036】
本実施形態のドリルビット位置推定装置103は、複数のセンサユニット104に到達する音源ユニット202の音の時間差を正確に計測しなければならない。このために、A/D変換器701に同一のサンプリングクロック702を供給して、入力される複数のアナログ信号をデジタルデータに変換し、相互のデジタルデータに誤差となる時間差が極力生じないように(チャンネル相互にレイテンシが生じないように)、アナログインターフェース105、A/D変換器701及びサンプリングクロック702を構成している。
【0037】
A/D変換器701のチャンネル毎の出力データは、トリガ検出部703によって、アナログ信号の立ち上がりが検出される。
一方、A/D変換器701のチャンネル毎の出力データは、リングバッファ704に入力され、常に一定時間の記憶が行われている。
トリガ検出部703が信号の立ち上がりを検出すると、計測値テーブル705は、時刻情報生成部ともいえるリアルタイムクロック(「RTC」と略)706が出力する日時情報と共に、リングバッファ704に蓄積されているデータを記録し、予め定められた所定時間だけ記録を継続する。
【0038】
なお、トリガ検出部703は入力される音声信号の形態によって、トリガの検出方法が変わる。図3(b)のハンマーソレノイド306が発生するような衝撃波である場合は、入力される音声信号の立ち上がり、すなわち振幅が所定の閾値を越えたか否かを検出する。図3(d)の周波数変調部313及び磁歪振動子311が発生するような周波数変調信号である場合は、入力される音声信号の周波数の変化を検出する。
【0039】
一方、無線インターフェース106と通信処理部707は、センサユニット104から位置情報を受信し、位置テーブル708に当該センサユニット104に割り振られたIPアドレスと共に記録する。無線インターフェース106と通信処理部707との間には、センサユニット104の無線インターフェース106にIPアドレスを付与する為のDHCPサーバ709が設けられている。
【0040】
計測値テーブル705に蓄積されている各センサユニット104の音声データと、位置テーブル708に蓄積されている各センサユニット104の位置情報は、地中移動体位置演算部ともいえるドリルビット位置演算部710に入力される。
ドリルビット位置演算部710は、先ず計測値テーブル705に蓄積されている各センサユニット104の音声データを解析して、同時に記録されている時間情報に基づいて、各々の音声データに含まれている、厳密なトリガの日時情報をサンプリングクロック702の分解能で取得する。そして、センサユニット104の相互の音声データのトリガの時間のずれを算出する。次に、ドリルビット位置演算部710は、各センサユニット104の音声データのトリガの時間のずれと、各センサユニット104の位置情報に基づいて演算処理を行い、地盤102中のドリルビット101の位置を推定する。
ドリルビット位置演算部710が算出して推定した、ドリルビット101の地盤102中の位置、すなわち地表の位置と深さの情報は、3D描画処理部711に供給される。3D描画処理部711は、地盤102と、地表に配置されたセンサユニット104と、推定されたドリルビット101を透過立体画像として描画処理する。
3D描画処理部711が作成した立体画像は、表示部712に表示される。
【0041】
制御部713は操作部714の操作を受けて、通信処理部707、ドリルビット位置演算部710及び3D描画処理部711の制御を行う。特に本実施形態の場合、センサユニット104内のアナログ信号の系とデジタル情報の系は全く独立しており、このままではどのアナログ信号がどのIPアドレスのセンサユニット104のものなのかが特定できないので、測定作業に先立ち、予めアナログ信号のチャンネル番号とIPアドレスとを紐付ける作業が必要になる。このため、本実施形態のドリルビット位置推定装置103は、制御部713がリハーサルモードを備え、一つずつセンサユニット104の電源スイッチ502をオン操作して、アナログ信号とIPアドレスを確認し、計測値テーブル705と位置テーブル708の紐付けを行う。
【0042】
[原理]
図8は、ドリルビット101の位置を推定する原理を説明する概略図である。
先ず、考察を簡単にするために、地表にセンサユニット104が二つ配置されている状態において、この二つのセンサユニット104を結ぶ直線を含む垂直な平面上に、ドリルビット101(音源801)が存在すると仮定する。音源801から発生する音は、二つのセンサユニット104に到達する際、その距離の差に応じた遅れが生じる。
右センサと左センサとの間の距離をw、音源801と右センサとの間の距離をl、音源801と地表との垂直線分をz、音源801と地表との垂直線分と右センサとの距離をx、音源801と左センサとの間の距離をl+dとする。dは、左センサが右センサよりも音源801から遠いことを示す。したがって、このdによって音の到達時間が右センサよりも左センサに遅れが生じる。
【0043】
周知のピタゴラスの定理より、
+z=l
(w−x)+z=(l+d)
という式が成り立つ。この式を展開して整理すると、以下の式(1)になる。
【0044】
【数1】

【0045】
実際には、二つのセンサの線を含む垂直平面上にドリルビット101が存在することはそう多くはなく、図8で言えば図面に垂直の方向にずれた位置にドリルビット101が存在することが多い。つまり、奥行き方向の要素を考慮しなければならない。この奥行き方向をy軸として、y軸方向を考慮すると、以下の式(2)になる。
【0046】
【数2】

【0047】
dは地盤102内の音の伝搬速度に依存するので、d、x、y、zという要素によって曲面が形成される。
図9は、センサユニット104から得られたデータに基づいて形成した曲面を表すシミュレーション図である。
センサユニット104が二つだけでは、ドリルビット101の位置を推定することは不可能である。しかし、センサユニット104の数が増えれば、シミュレーション曲面を多数形成することができ、それら複数の曲面が交差した点が、ドリルビット101の位置であると推定することができる。
複数の曲面同士が交わることによって、音源(点P901)を特定することができる。この点を特定するためには、最低でも曲面が三つ必要になる。三つの曲面を形成するためには、最低でもセンサユニット104は三つ必要になる。
センサユニット104の位置情報はGPSモジュール604から得られるので、上記の式(2)に基づいて図9のような曲面を複数演算して、交点を求めれば、ドリルビット101の地表面102a上の位置及び深さを推定することができる。
【0048】
しかしながら、発明者は実験を進めるにつれて、推定結果に大きな誤差を生じる場合があることに気付いた。
図10は、ドリルビット位置推定演算の推定誤差が生じる様子を説明する概略図である。
掘削機1001は、駆動パイプ1002を回転駆動させることで、ドリルビット101を回転駆動させる。そして、ドリルビット101は地盤102を掘り進む。
地盤102が均一な地質である場合、ドリルビット101の内部に仕込まれた音源ユニット202から発生する音は、ドリルビット101の進行方向に配置されたセンサユニット104a及び104bには、真っ直ぐに音が伝搬する。
しかし、音源ユニット202から発生する音は、ドリルビット101の進行方向の逆方向に配置されたセンサユニット104c及び104dには、地盤102よりも音の伝搬速度が速い駆動パイプ1002を伝搬し、その途中から地盤102を通じてセンサユニット104に音が伝搬する。つまり、音の伝搬経路が真っ直ぐにならない。
このため、ドリルビット101の進行方向の後ろ側に位置するセンサユニット104の計測結果は、誤差が大きい為に使いものにならない、ということがわかる。
【0049】
そこで、ドリルビット位置演算部710が、演算処理の過程で誤差が大きくなったために使えなくなったセンサユニット104を検出し、当該センサユニット104のLED504を発光制御させると、地表から目視でドリルビット101のおおよその位置を推定できるだけでなく、使えなくなったセンサユニット104を更にドリルビット101の進行方向に再配置し、計測作業を継続することができる。
図11は、ドリルビット位置推定装置103の処理の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S1101)、トリガ検出部703は、A/D変換器701から出力されるデジタルデータが所定の閾値を越えたか否か、すなわちトリガが来たか否かを確認する(S1102)。トリガ検出部703は、トリガが来るまでループし続ける(S1102のNO)。
【0050】
トリガ検出部703は、トリガを検出すると(S1102のYES)、リングバッファ704及び計測値テーブル705に制御パルスを発する。リングバッファ704及び計測値テーブル705はこの制御パルスに呼応して、一定時間、入力されるデータをRTC706が出力する日時情報と共に計測値テーブル705に記録する(S1103)。記録するデータはトリガ検出部703によってトリガが検出された瞬間から、リングバッファ704に蓄積されている直前のデータを含めて、計測値テーブル705に記録される。
【0051】
ステップS1103の時点で計測値テーブル705に全てのセンサユニット104のデータが記録されるので、ドリルビット位置演算部710は位置テーブル708に格納されているセンサユニット104の位置情報と共に、地盤102中のドリルビットの位置を推定演算する(S1104)。この演算処理はセンサユニット104の数に応じて膨大になることが考えられるので、その場合は周知の並列コンピューティングの手法等を用いることが望ましい。
【0052】
次に、制御部713は、ステップS1104でドリルビット位置演算部710がドリルビットの位置を推定演算した結果、大きな誤差を生じるセンサユニット104が存在するか否か、確認する(S1105)。もし、一つでも誤差の大きいセンサユニット104が存在するなら(S1105のYES)、制御部713は当該センサユニット104のLEDを発光させるべく、制御命令を通信処理部707及び無線インターフェース106を通じて送信する(S1106)。次に、制御部713は計測値テーブル705の、当該センサユニット104のデータについて、当該データが無効である旨を示すマーク(或はフラグ)を記入する(S1107)。
【0053】
ステップS1105で大きな誤差を生じるセンサユニット104がなかった場合(S1105のNO)、及びステップS1107を経て、3D描画処理部711は地盤102中のドリルビット101の位置を3Dにて描画した画像を作成し、表示部712がこの画像を表示して(S1108)、一連の処理を終了する(S1109)。
なお、ステップS1106及びS1107の処理は、ステップS1108の処理と並列して行うと、3D画像の表示に要する時間が短縮されるので、より望ましい。
ステップS1109で終了した一連の処理は、音源ユニット202が動作する度に実施する必要があるので、再度ステップS1101から繰り返す。
【0054】
ドリルビット101が図11のフローチャートに示す動作を実施すると、ドリルビット101が地中を掘り進んで移動するに連れて、地表に配置されたセンサユニット104は次々に発光制御される。この様子を図12(a)、(b)及び(c)に示す。
図12(a)、(b)及び(c)は、地上を見下ろす視点で、ドリルビット101の位置とセンサユニット104の発光状態を説明する概略図である。
図10にて説明したように、ドリルビット101の後ろ側に位置するセンサユニット104は、音の伝搬経路が直線でなくなってしまうため、測定データのタイミングに大きな誤差が含まれてしまい、ドリルビット101の位置を推定する演算には使えなくなってしまう。ドリルビット位置演算部710は、以前の計算の結果を参照して、推定演算に利用できなくなったセンサユニット104を特定することができる。制御部713はドリルビット位置演算部710によって特定されたセンサユニット104に対して、LED504を発光させるための制御命令を発する。こうして、ドリルビット101の後ろ側に位置するセンサユニット104のLED504は発光する。図12(a)、(b)及び(c)では、「×」印が付された点が、LED504が発光しているセンサユニット104である。
図12(a)から(b)に推移すると、ドリルビット101は地中を掘り進む。そして、それに連れてLED504が発光するセンサユニット104が増えていく。
図12(b)から(c)に推移すると、ドリルビット101の進行方向が変化している。すると、それに連れてLED504が発光するセンサユニット104の領域が変化する。このように、センサユニット104の発光の分布状態で、ドリルビット101のおおよその進行状態が推測できる。そして、図12(c)の点線の丸に示すように、次に配置しなければならないセンサユニット104の位置を考慮することができる。
【0055】
[第二の実施形態]
第一の実施形態では、センサユニット104内のアナログ信号の系とデジタル情報の系は全く独立しており、このままではどのアナログ信号がどのIPアドレスのセンサユニット104のものなのかが特定できないので、測定作業に先立ち、予めアナログ信号のチャンネル番号とIPアドレスとを紐付ける作業が必要だった。
そこで、このような作業を省力化した構成の実施形態を説明する。
図13は、第二の実施形態のセンサユニットのブロック図である。
図13のセンサユニット1301は、図6のセンサユニット104とは異なり、ジオフォン601の出力信号をA/D変換器1302でデジタルデータに変換して、入出力制御部1304及び無線インターフェース607を通じてドリルビット位置推定装置103に送信している点である。しかし、単にデジタルに変換するだけでは、各々のセンサユニット1301間の相対的な時間差を正確に検出することができない。そこで、GPSモジュール604から得られる正確な日時情報を用いて、A/D変換器1302に供給するサンプリングクロック1303を同期させる。
周知のように、GPS衛星からは極めて正確な日時情報を得ることができる。センサユニット1301に内蔵される全てのサンプリングクロック1303がこの日時情報に正確に同期していれば、その正確な日時情報と併せて正確な音の立ち上がりのタイミングを捕捉することができる。つまり、センサユニット1301に内蔵される全てのサンプリングクロック1303は、正確な日時情報に同期することで、全てのセンサユニット1301に対して実質的に同一のサンプリングクロックを提供する。
更に、無線インターフェース607からIPアドレスを伴って位置情報と音声データが送信されるので、ドリルビット位置推定装置103側では、音声データ及び日時情報と位置情報が自ずと紐付けられることとなる。
【0056】
図14は、第二の実施形態のドリルビット位置推定装置のブロック図である。
図7のドリルビット位置推定装置103とは違い、図14のドリルビット位置推定装置1401は、アナログインターフェース105を備える必要はない。また、リングバッファ704や計測値テーブル705は記録のタイミングを厳密に管理しなくても良い。センサユニット1301から正確な日時情報に同期した音声データが送信されるので、受信したデータを順次記録していくだけでよい。更に、無線インターフェース106を通じて受信したデータは、IPアドレスを伴って位置情報と音声データが送信されるので、音声データ及び日時情報と位置情報が自ずとIPアドレスによって紐付けられることとなる。したがって、アナログ信号のチャンネル番号とIPアドレスとを紐付ける作業が不要である。
【0057】
本実施形態は、以下のような応用例が考えられる。
(1)ドリルビット101は鉄等の金属の駆動パイプ1002で回転駆動される。駆動パイプ1002は地盤102と比べて多くの場合において剛性が高く、振動を伝達させるには好適である。そこで、音源ユニット202をドリルビット101に内蔵させる代わりに、掘削機1001に加振器を備え付けて、この加振器が駆動パイプ1002を振動させる構成にしても良い。
図15は、掘削機1001に加振器を備え付けた実施形態の概略図である。
加振器1501は、駆動パイプ1002にハンマーソレノイド等で衝撃音を伝達させたり、磁歪振動子等で複数の周波数の超音波を伝達させる等の、図3(b)及び(d)の構成の信号源305をそのまま掘削機1001に備え付けても良い。加振器1501は、掘削機1001から電源が供給できて制御もできるので、より簡素な装置構成で、且つより強力な信号源を構成することが可能である。
【0058】
(2)ドリルビット位置演算部710はドリルビット101の位置を推定すると共に、誤差が大きくなったために無効となったセンサユニット104を判定する。そして、無効となったセンサユニット104のLED504は発光される。複数存在する、LED504が光っているセンサユニット104の中には、ドリルビット101に一番近いものもある。そこで、LED504が発光されるセンサユニット104のうち、最もドリルビット101に近いセンサユニット104のLED504を、他のセンサユニット104のLED504とは異なる発光状態にすると、当該センサユニット104の近くにドリルビット101が存在することが容易に判別できる。LED504は例えば赤と緑の二色発光の構成としたり、最も近いセンサユニット104のLED504のみ点滅させ、他のセンサユニット104のLED504は点灯させたままとする発光制御であってもよい。
【0059】
(3)多くの地盤102は、異なる地質の層が複数重なる構成もある。このような地層を構成する地盤102の場合、地質の異なる層毎に音の伝搬速度が変化することがある。単一の地質を想定して推定演算を行うと、誤差の大きな演算結果を得てしまう。そこで、予めボーリング調査等の地質調査を行い、計測対象の地盤102の地質について、ドリルビット位置演算部710にデータを与えて、シミュレーション演算を実施する。ドリルビット位置演算部710の推定演算の計算量は更に大量になるが、より正確な演算結果を得ることが期待できる。
【0060】
(4)前述の式(2)の代わりに、地震の震源地を探索するグリッドサーチ法等の既知のアルゴリズムを用いることも可能である。
【0061】
(5)第一及び第二の実施形態では、センサユニット104の位置情報を受信するインターフェースとして、周知の無線LANである無線インターフェース106を用いたが、これは有線のLANであってもよい。また、近年注目されている低消費電力の近距離無線通信のインターフェースである、ZigBee(登録商標)も好適である。
【0062】
(6)第二の実施形態では、全てのセンサユニット1301のサンプリングクロックをより精密に同期させるために、全てのセンサユニット1301とドリルビット位置推定装置に周知のntpd(Network Time Protocol Daemon)を稼働させると良い。
【0063】
(7)音源ユニット202を用いる代わりに、ドリルビットと土砂との摩擦で生じる騒音を検出する方法もある。このような検出方法に適した掘削装置を図16に示す。
図16は、掘削装置の外観図である。
掘削装置1601は、ドリルビット1602と、ドリルビット1602を回転駆動する駆動ユニット1603と、駆動ユニット1603によって回転駆動される螺旋羽根1604と、螺旋羽根1604の先端に設けられているスリップリング1605よりなる。
掘削装置1601は、先端側に地面等を掘削するためのドリルビット1602が設けられる。
ドリルビット1602は、モータが内蔵されている駆動ユニット1603の先端部分から突出しているドリルシャフト1606に固定されている。したがって、モータが回転すると、ドリルビット1602はドリルシャフト1606を通じて回転駆動され、地面等を掘削する。なお、ドリルビット1602は矢印A1607の方向に回転駆動される。
【0064】
駆動ユニット1603は円筒形の金属製のケースで覆われている。
駆動ユニット1603の内部には、ドリルビット1602を回転駆動するためのドリルモータと、螺旋羽根1604を回転駆動するための螺旋モータが内蔵されている。
駆動ユニット1603の太さは、ドリルビット1602が形成する穴の径よりも細い。ドリルビット1602が削り出した土砂が駆動ユニット1603の側壁部分を流れて螺旋羽根1604に到達するために必要な隙間を、駆動ユニット1603の側壁部分と穴の側壁との間に確保しなければならないためである。
【0065】
螺旋状の羽根である螺旋羽根1604は、螺旋シャフト1608に設けられている。
螺旋羽根1604は、螺旋シャフト1608を通じて螺旋モータによって、ドリルビット1602の回転方向とは逆方向(矢印A1609)に回転駆動される。すると、螺旋羽根1604は以下の三つの作用を生じる。
先ず、螺旋羽根1604はドリルビット1602が掘削して生じた土砂を掘削装置1601の後ろ側に押し出す(矢印A1610a及びA1610b)。
次に、螺旋羽根1604はドリルビット1602が掘削して生じた土砂を掘削装置1601の後ろ側に押し出すので、掘削装置1601全体の推進力を生み出すと共に、ドリルビット1602を地面に押し当てる圧力を生み出す(矢印A1611)。
次に、ドリルビット1602から生じる回転反力と、螺旋羽根1604から生じる回転反力同士が駆動ユニット1603において相殺し合うので、螺旋羽根1604が回転駆動されることで、ドリルビット1602が地面を掘削せずに駆動ユニット1603が空転してしまうことを防止する。
【0066】
螺旋羽根1604の太さは、ドリルビット1602が形成する穴の径と等しいか、或は細いことが望ましい。但し、駆動ユニット1603よりは太くなければならない。ドリルビット1602が削り出した土砂が駆動ユニット1603の側壁部分を流れて螺旋羽根1604に到達するために必要な隙間を、駆動ユニット1603の側壁部分と穴の側壁との間に確保しなければならないためである。
【0067】
螺旋シャフト1608は中空形状の金属製のパイプである。例えば真鍮等が利用可能である。
螺旋羽根1604及びドリルビット1602の材質は、硬質のものであれば金属であっても、セラミックや合成樹脂等の非金属の物体であってもよい。但し、螺旋シャフト1608か螺旋羽根1604のいずれか一方は、金属製であることが望ましい。これは、周知の筐体接地を用いてスリップリング1605の端子数を減らすためである。
螺旋シャフト1608の中には、二本の導線が封入されている。これらはそれぞれドリルモータと螺旋モータの駆動電力を伝達する線である。また、前述の通り、螺旋シャフト1608は金属製のパイプであるので、これが筐体接地の役割を担っている。
【0068】
螺旋シャフト1608の、駆動ユニット1603とは相対する側には、スリップリング1605が設けられている。スリップリング1605は、回転する物体に回転しない側の導線との電気的導通を実現するための、周知の回転端子である。スリップリング1605からは導線1612a及び導線1612bが引き出される。これらはそれぞれドリルモータと螺旋モータの駆動電力を伝達する線である。また、スリップリング1605の筐体は金属製であり、これが筐体接地の役割を担っている。
【0069】
図16に示した掘削装置1601は、小型且つ軽量な構造を目指して作られているため、音源ユニット202を内蔵することが困難である。その代わりに、駆動ユニット1603に内蔵されているドリルモータと螺旋モータを地上から供給する電源によって駆動することができるので、このドリルモータと螺旋モータが地中を掘削することで、ドリルビット1602及び螺旋シャフト1608と土砂との摩擦によって発生する騒音を、センサユニットで検出することができる。
なお、図16の掘削装置1601の場合、駆動パイプ1002が存在しないので、測定誤差が大きくなるセンサユニットが生じる要因がない。つまり、LED504は発光しない。
【0070】
(8)第一の実施態様のセンサユニット104、及び第二の実施態様のセンサユニット1301のいずれも、センサユニット自身の位置情報を取得するために、GPSモジュール604を搭載させている。ここで、前述の図16に開示した掘削装置1601を用いて、掘削装置1601自身が大きく地表面102a方向に移動しないように掘削することが予め判っている場合、掘削装置1601の移動に伴ってセンサユニットを再配置する必要はない。このような場合においては、一つのセンサユニットを別途独立したGPS装置等で測量して、他のセンサユニットを等間隔に配置すれば、全てのセンサユニットにGPSモジュール604を搭載させる必要がなくなる。この場合、センサユニットの位置情報はドリルビット位置推定装置に操作部714を用いて直接手入力で位置テーブル708に登録することとなる。
【0071】
(9)第一の実施形態のサンプリングクロック702及び第二の実施形態のサンプリングクロック1303は、相対的時間差を検出できる構成であれば、必ずしも同一のサンプリングクロックを供給する回路構成でなくてもよい。例えば、複数のA/D変換器のうちの、一方のセンサユニットの出力信号を処理する方に、他方のA/D変換器に対するサンプリングクロックを整数逓倍したサンプリングクロックを供給する等の構成が考えられる。
【0072】
本実施形態においては、ドリルビット位置推定装置、及びこれに使用するセンサユニット、そしてドリルビットを開示した。
地中のドリルビットの位置を推定するために、従来技術の電波の代わりにドリルビット先端から音を発生させ、地表に複数設けたセンサユニットで受信する。センサユニットに到達する音の時間差とセンサユニット同士の距離に基づいて演算し、ドリルビットの位置を推定する。
また、ドリルビットの進行方向の反対側のセンサユニットから得られるデータは、音がドリルビットを回転駆動する駆動パイプを伝うために誤差が大きくなってしまう。そこで、無効になったセンサユニットを、備え付けられているLEDを発光制御させることにより、有効なセンサユニットと無効なセンサユニットとの、目視での判別を容易にすると共に、おおよそのドリルビットの位置が把握可能になる。
【0073】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0074】
100…ドリルビット位置推定システム、101…ドリルビット、102…地盤、103…ドリルビット位置推定装置、104…センサユニット、105…アナログインターフェース、106…無線インターフェース、107…パソコン、108…アンテナ、109…ケーブル、201…ヘラ部材、202…音源ユニット、301…振動センサ、302…波形整形部、303…コンパレータ、304…タイマ、305…信号源、306…ハンマーソレノイド、307…昇圧回路、308…電池、310…トランジスタスイッチ、311…磁歪振動子、312…ROM、313…周波数変調部、314…ドライバ、501…筐体、502…電源スイッチ、503…GPSパッチアンテナ、504…LED、505…固定柱、601…ジオフォン、602…ドライバ、603…コネクタ、604…GPSモジュール、605…入出力制御部、606…DHCPクライアント、607…無線インターフェース、701…A/D変換器、702…サンプリングクロック、703…トリガ検出部、704…リングバッファ、705…計測値テーブル、706…RTC、707…通信処理部、708…位置テーブル、709…DHCPサーバ、710…ドリルビット位置演算部、711…3D描画処理部、712…表示部、713…制御部、714…操作部、801…音源、1001…掘削機、1002…駆動パイプ、1301…センサユニット、1302…A/D変換器、1303…サンプリングクロック、1304…入出力制御部、1401…ドリルビット位置推定装置、1501…加振器、1601…掘削装置、1602…ドリルビット、1603…駆動ユニット、1604…螺旋羽根、1605…スリップリング、1606…ドリルシャフト、1608…螺旋シャフト、1612a、1612b…導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面に配置されて地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する第一のセンサと、
前記第一のセンサから所定の距離だけ離れて前記地表に配置されて前記地中移動体から発される前記振動波を電気信号に変換する第二のセンサと、
前記第一のセンサ及び前記第二のセンサから所定の距離だけ離れて前記地表に配置されて前記地中移動体から発される前記振動波を電気信号に変換する第三のセンサと、
前記第一のセンサ、前記第二のセンサ及び前記第三のセンサの信号をサンプリングクロックでA/D変換して振動波データを出力するA/D変換器と、
時刻情報生成部と、
前記A/D変換器が出力する、前記第一のセンサ、前記第二のセンサ及び前記第三のセンサに係る前記振動波データを前記時刻情報生成部が生成する時刻情報と共に記録する計測値テーブルと、
前記第一のセンサの位置情報、前記第二のセンサの位置情報及び前記第三のセンサの位置情報が格納されている位置テーブルと、
前記計測値テーブルに格納されている前記第一のセンサ、前記第二のセンサ及び前記第三のセンサに係る前記振動波データを解析して、相互の前記振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、前記位置テーブルに格納されている前記第一のセンサの位置情報、前記第二のセンサの位置情報及び前記第三のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、前記地盤中の前記地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算部と
を備える地中移動体位置推定システム。
【請求項2】
更に、
前記第一のセンサの位置情報を出力する第一の位置情報生成部と、
前記第二のセンサの位置情報を出力する第二の位置情報生成部と、
前記第三のセンサの位置情報を出力する第三の位置情報生成部と、
を備える、請求項1記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項3】
地表面に配置されて地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する第一のセンサと、
前記第一のセンサの信号を時刻情報で同期されたサンプリングクロックでA/D変換する第一のA/D変換器と、
前記第一のセンサの位置情報を出力する第一の位置情報生成部と、
前記第一のセンサから所定の距離だけ離れて前記地表に配置されて前記地中移動体から発される前記振動波を電気信号に変換する第二のセンサと、
前記第二のセンサの信号を時刻情報で同期されたサンプリングクロックでA/D変換する第二のA/D変換器と、
前記第二のセンサの位置情報を出力する第二の位置情報生成部と、
前記第一のセンサ及び前記第二のセンサから所定の距離だけ離れて前記地表に配置されて前記地中移動体から発される前記振動波を電気信号に変換する第三のセンサと、
前記第三のセンサの信号を時刻情報で同期されたサンプリングクロックでA/D変換する第三のA/D変換器と、
前記第三のセンサの位置情報を出力する第三の位置情報生成部と、
前記第一のA/D変換器が出力する前記第一のセンサに係る第一の振動波データと、前記第二のA/D変換器が出力する前記第二のセンサに係る第二の振動波データと、前記第三のA/D変換器が出力する前記第三のセンサに係る第三の振動波データとを記録する計測値テーブルと、
前記第一のセンサの位置情報、前記第二のセンサの位置情報及び前記第三のセンサの位置情報を記録する位置テーブルと、
前記計測値テーブルに格納されている前記第一の振動波データ、前記第二の振動波データ及び前記第三の振動波データを解析して、相互の振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、前記位置テーブルに格納されている前記第一のセンサの位置情報、前記第二のセンサの位置情報及び前記第三のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、前記地盤中の前記地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算部と
を備える地中移動体位置推定システム。

【請求項4】
前記地中移動体は地盤中を掘削するドリルビットである、請求項1又は2又は3記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項5】
前記地中移動体位置演算部は、前記演算処理の結果、前記第一のセンサ、前記第二のセンサ又は前記第三のセンサのいずれかの前記振動波データが生じる測定誤差が前記地中移動体の位置の推定の妨げになると判定した場合、該当するいずれかのセンサの前記振動波データを前記演算処理の対象から外す、請求項1又は2又は3又は4記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項6】
更に、
前記第一のセンサに配置される第一の発光素子と、
前記第二のセンサに配置される第二の発光素子と、
前記第三のセンサに配置される第三の発光素子と、
前記地中移動体位置演算部が、前記演算処理の結果、前記第一のセンサ、前記第二のセンサ又は前記第三のセンサのいずれかの前記振動波データが生じる測定誤差が前記地中移動体の位置の推定の妨げになると判定した場合、該当するいずれかのセンサに係る前記発光素子を発光する命令を発する制御部と
を備える、請求項5記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項7】
前記地中移動体には所定の振動波を発生する音源が内蔵されており、
前記音源は、前記地中移動体が回転駆動されていない状態を検出して前記振動波を発生する、請求項1又は2又は3又は4又は5又は6記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項8】
前記地中移動体は掘削機によって駆動パイプを通じて回転駆動されるものであり、
前記掘削機には前記駆動パイプに所定の振動波を伝達させる加振器が備えられている、請求項1又は2又は3又は4又は5又は6記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項9】
地表面に配置されて地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する複数のセンサの信号をサンプリングクロックでA/D変換して振動波データを出力するA/D変換器と、
前記A/D変換器が出力する、前記複数のセンサに係る前記振動波データを記録する計測値テーブルと、
前記複数のセンサの位置情報を記録する位置テーブルと、
前記計測値テーブルに格納されている前記複数のセンサに係る前記振動波データを解析して、相互の前記振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、前記位置テーブルに格納されている前記複数のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、前記地盤中の前記地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算部と
を備える地中移動体位置推定装置。
【請求項10】
地表面に配置されて地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を電気信号に変換する複数のセンサの信号を、時刻情報で同期されたサンプリングクロックでA/D変換するA/D変換器が出力する、前記複数のセンサに係る振動波データを記録する計測値テーブルと、
前記複数のセンサの位置情報を記録する位置テーブルと、
前記計測値テーブルに格納されている前記複数のセンサに係る前記振動波データを解析して、相互の前記振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、前記位置テーブルに格納されている前記複数のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、前記地盤中の前記地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算部と
を備える地中移動体位置推定装置。
【請求項11】
前記地中移動体は地盤中を掘削するドリルビットである、請求項9又は10記載の地中移動体位置推定装置。
【請求項12】
前記地中移動体位置演算部は、前記演算処理の結果、前記複数のセンサのいずれかの前記振動波データが生じる測定誤差が前記地中移動体の位置の推定の妨げになると判定した場合、該当するいずれかのセンサの前記振動波データを前記演算処理の対象から外す、請求項9又は10又は11記載の地中移動体位置推定システム。
【請求項13】
更に、
前記複数のセンサにはそれぞれ発光素子が配置されており、
前記複数のセンサのいずれかの前記振動波データが、前記地中移動体位置演算部が前記演算処理の結果、測定誤差が前記地中移動体の位置の推定の妨げになると判定した場合、該当するいずれかのセンサに係る前記発光素子を発光する命令を発する制御部と
を備える、請求項9又は10又は11又は12記載の地中移動体位置推定装置。
【請求項14】
地盤中を移動する地中移動体から発される振動波を地表面に配置される複数のセンサによって電気信号に変換する振動波信号収集ステップと、
前記振動波信号をサンプリングクロックでA/D変換して振動波データを出力するA/D変換ステップと、
前記複数のセンサに係る前記振動波データを時刻情報と共に計測値テーブルに記録する振動波データ記録ステップと、
前記複数のセンサの位置情報を位置テーブルに記録する位置情報記録ステップと、
前記計測値テーブルに格納されている前記複数のセンサに係る前記振動波データを解析して、相互の前記振動波データのトリガが発生した時間のずれを算出して、前記位置テーブルに格納されている前記複数のセンサの位置情報に基づいて演算処理を行い、前記地盤中の前記地中移動体の位置を推定する地中移動体位置演算ステップと
を有する地中移動体位置推定方法。
【請求項15】
前記地中移動体は地盤中を掘削するドリルビットである、請求項14記載の地中移動体位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−58038(P2012−58038A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200351(P2010−200351)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】