説明

地中連続壁の打継目地の止水方法

【課題】地中連続壁の打継目地での漏水を内部掘削後に止水し得る方法を提供する。
【解決手段】地表などから掘削された溝孔内にコンクリートセメントなどの固結材を打設して所望のエリアを順次環状に囲繞して地中連続壁1を打ち継ぎ形成し、その内部を掘削した後に、打継目地4部分を止水するに際して、該地中連続壁1の打ち継ぎ形成時に、その外側の打継目地4部分に沿わせて電極部材3を予め設置しておき、内部掘削後に露出した内側の打継目地4部分の漏水箇所に電極部材5を設置して、これら一対の電極部材3,5間に直流の正負電位を加えることにより、地下水中に溶解した電解質を打継目地4の漏水部分に析出させて止水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中連続壁の打継目地の止水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の連続地中壁工法は、地表から泥水をみたしながら所定深度まで溝状の掘削孔を形成し、鉄筋籠などの補強材を溝内に建て込んだ後に、泥水をコンクリートやセメントなどの固結材で置換してパネル状の壁体を形成し、以後は同じ作業を繰り返すことで順次壁体を横方向に打ち継いで連結形成し、所望のエリアを囲む地中連続壁を構築する。
【0003】
このような地中連続壁の構築方法では、単位壁体を順次打ち継いで連結するので、壁体同士の打継目地が必ず生じる。そして地中連続壁の構築後に内部掘削を行なう場合、とくにこの打継目地での止水性を確保する必要がある。
【0004】
このような打継目地の止水方法として、例えば特開昭64−52915号公報にて提案されているものがある。そして、当該公報には、地中壁の後行パネル打設時に、セメントや粘土の粒子を止水体として打継目地の漏水を止水する技術が開示されている。すなわち、後行パネル打設時にコンクリートが固化する前に、打継目地部分の近傍に粘土やセメントを混合した懸濁液を注入するとともに、当該打継目地部分に一対の電極棒を設置してこれらに正負電位を加えることにより、セメントや粘土の帯電粒子を打継目地の隙間に移動させ収束させて止水するものである。
【0005】
また特開平6−212651号公報には、鉄筋コンクリート構造物に生じた亀裂等の損傷部からの漏水を止水するための補修技術が開示されている。これは、鉄筋コンクリート構造物の内壁面における漏水箇所を電極部材で被覆して陽極とするとともに、当該漏水箇所近傍のコンクリート表面をハツって構造物内部の鉄筋を露出させ、当該鉄筋を陰極として上記陽極との間に直流電流を流すことで、漏水中やコンクリート中に含まれる無機物を亀裂等の損傷部内に析出付着させて漏水箇所を閉塞するものである。
【特許文献1】特開昭64−52915号公報
【特許文献2】特開平6−212651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特開昭64−52915号公報に開示されている技術は、内部掘削前で地中壁内外の泥水が静止状態であることを前提としたものであって、内部掘削後に打継目地から地中壁内部に地下水が流入しているような流水状態では、止水体である粒子が打継目地内にとどまり難いので、十分な止水性を確保することが困難である。
【0007】
また、特開平6−212651号公報に開示されている技術は、ひび割れ部分の補修のための技術であって、コンクリート表面の一部を損壊して鉄筋を露出させる必要がある。しかも、打継目地部分には鉄筋が入っていないため、打継目地部分に生じる漏水の止水には適用することができない。
【0008】
そこでこの発明は、地中連続壁の打継目地での漏水を内部掘削後に止水し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、この発明の地中連続壁の打継目地止水方法にあっては、
地表等から掘削した溝孔内にコンクリートセメントなどの固結材を打設して、所望のエリアを順次環状に囲繞して地中連続壁を打ち継ぎ形成し、該地中連続壁の内部を掘削した後に、該地中連続壁の打継目地部分を止水するに際して、
該地中連続壁の打ち継ぎ形成時に、その外側の打継目地部分に沿わせて電極部材を予め設置しておき、内部掘削後に露出した内側の打継目地部分の漏水箇所に電極部材を設置して、これら一対の電極部材間に直流の正負電位を加えることにより、地下水中に溶解した電解質を打継目地の漏水部分に析出させて止水する、ことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記外側の打継目地部分に設置する電極部材を陰極とし、前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材を陽極となし得る。
【0011】
あるいは、前記外側の打継目地部分に設置する電極部材を陽極とし、前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材を陰極となし得る。
【0012】
またこの発明においては、前記外側の打継目地部分の近傍に、地下水中に電解質を補給するための電解質供給手段が設けられていることが望ましい。
【0013】
ここで、前記電解質供給手段は、内部に電解質物質を収納して前記外側の電極部材に係支されて設けられた透水性の袋体でなる構成となし得る。
【0014】
さらに、前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材は、網状であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係るに地中壁の打継目地の止水方法によれば、地中連続壁を構築して内部を掘削した後に、その打継目地部分に生じている漏水を、その漏水中に含まれている電解質を通電により析出させて、当該析出物を止水体となして打継目地の漏水通路を塞ぐことで効果的に止水することができる。また、漏水が見つかった箇所のみを効率良く止水することができる。しかも、通電用の電極を設置するにあたって、コンクリートを削る必要がなく、損傷を与えることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態例について添付図面を用いて説明する。図1は本発明に係る地中連続壁の打継目地止水方法を適用した場合の打継目地部の要部を示す拡大図である。また、図2は本発明に係る地中連続壁の打継目地止水方法の適用した場合の地中連続壁全体の概略構成を示すものであって、(a)は平面図、(b)は同図(a)中のb−b線矢視断面図である。
【0017】
図2(a),(b)に示すように、地中連続壁1は地表等から掘削した溝孔内に所定長さのコンクリートパネル1aを順次横方向に打ち継いで、所望するエリアを囲むように環状に接続して構築される。また、図1に示すように、各コンクリートパネル1aは、掘削した溝孔内に挿入した鉄筋籠2を核として、当該溝孔内にコンクリートを打設して個別に形成される。
【0018】
そして、このような地中連続壁1を構築するにあたっては、打設済みの先行パネル1aの横方向の端部に、後行パネル1aを順次に打ち継いでいくが、その際に、打継目地4部分となる打設済みの先行パネル1aの横方向の端部に、その外側の角部に沿わせて縦方向に電極部材3が予め設置される。そして、この電極部材3としては例えば鉄筋等の導電性棒状物が用いられ、当該電極部材3の長さは、その下端が少なくとも地中連続壁1内部の予定掘削深度よりも深い位置まで到達する長さとされる。
【0019】
そして、多数のコンクリートパネル1aを環状に繋いで地中連続壁1の構築が終了したならば、当該地中連続壁1にて囲まれたエリアの内部を予定深度まで掘削して、地中連続壁1の内側面を露出させる。爾後、露出した地中連続壁1の内面側各部の打継目地4部分を目視点検して漏水の有無を調べる。
【0020】
そして、漏水箇所を発見した場合には、その漏水が生じている内側の打継目地4部分に沿わせて電極部材5を取り付ける。この内側の電極部材5としては、望ましくは、例えばTiメッシュ(チタニウム製の金網)等の金属メッシュを用い、これを広げて漏洩箇所の両側のコンクリートパネル1a,1a間に掛け渡して漏水箇所の打継目地4部分を覆って取り付ける。このように、内側の電極部材5として金属メッシュを用いれば、軽量で取り扱い性に優れるので、その取り付け作業を非常に容易に行うことができる。なお、内側に設置する電極部材5は、上記金属メッシュ製のものに限定されるものではなく、鉄筋等の導電性を有する棒状物であっても良い。
【0021】
爾後、両電極部材4,5間に直流電源6を繋いで正負電位を加えて通電する。そうすると、漏水する地下水中に含まれているCaイオンやMgイオンなどの電解質が陰極周辺に集積して炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等の析出物となって析出する。そして、当該析出物は打継目地4の漏水通路内やその侵入口あるいは漏出口で堆積成長して、やがて当該析出物が止水体を形成して漏水通路を塞ぐようになり、その漏水が抑制されて止水される。
【0022】
ここで、特に、地中連続壁1の外側に配設した電極部材3を陰極にする一方、内側に配設した電極部材5を陽極にした場合には、電解質は外側に配設した陰極の電極部材3側で析出する。このため、その析出物は、打継目地4の漏水通路に対してこれを主にその侵入口側の外側から塞いで堆積成長していくことになり、漏水通路の侵入口を迅速に閉塞して止水できる。なお、この場合にあっては、陰極側として外側に設置する電極部材3は、打継目地4に可及的に近づけて接触させるようにするのが望ましい。
【0023】
また、これとは逆に、地中連続壁1の内側に配設した電極部材5を陰極にする一方、外側に配設した電極部材3を陽極にした場合には、打継目地4の漏水通路内に外側の侵入口から浸透してくる漏水中の電解質が、地中連続壁1の内側に配設した電極部材5側で析出する。このため、その析出物は打継目地4の漏水通路に対してこれを主にその漏水口側の内側から塞いでその内部に堆積成長していくことになる。よって、当該漏水通路内に電解質を効率よく析出させて、当該漏水通路内の奥深くまで堆積成長させることができて、漏水通路の止水性を良好に確保して止水することができる。なお、この場合にあっては、陽極側として外側に設置する電極部材3は、打継目地4には接触させずに離間させておき、CaイオンやMgイオンなどの電解質が漏水と共に漏水通路内に侵入するのを阻害しないようにするのが望ましい。
【0024】
また、図示していないが、地中連続壁1の外側には、打継目地4部分の近傍に位置させて、地下水中にCaイオンやMgイオンなどの電解質を補給するための電解質供給手段を設けるようにしても良い。このような電解質供給手段を設ければ、地下水中に本来的に含有されているCaイオンやMgイオンなどの電解質が量的に不足している場合であっても、これを補って止水体の形成が不充分となる事態を防止することができる。
【0025】
ここで、当該電解質供給手段の具体的な一例としては、水を透過する袋体の内部に炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等の電解質物質を収納して、当該袋体を外側に設置した電極部材3に係止させておくことが考えられる。このような電解質供給手段を設けておけば、周囲の地下水中にCaイオンやMgイオンなどの電解質を溶け出させて補給し得、打継目地4近傍における地下水中の電解質濃度及び漏水通路に侵入する漏水中の電解質濃度を高めておくことができる。なお、上記袋体の内容物は、他のカルシウム化合物やマグネシウム化合物等の電解質物質により代替することも可能である。
【0026】
以上に説明したように、この実施形態における地中連続壁の打継目地止水方法によれば、環状の地中連続壁1を形成する多数のコンクリートパネル1aの外側の各打継目地4部分に沿わせて、予め電極部材3を設置しておくことにより、構築された地中連続壁1の内部を掘削した後にその露出された内壁面の打継目地4部分から漏水が発見された場合には、その内側の漏水箇所の打継目地4部分に電極部材5を取り付けて、それら内外に配置された一対の電極間に直流電流を通電するだけの簡単な作業で簡単に止水することができ、しかも漏水箇所のみを効率よく止水することができる。
以下、本実施形態に関する実験例とその結果を示す。
【0027】
<実験要領>
図3に実験装置の概略を示している。(a)は上面図、(b)は側面図である。
(α)周壁の一側壁が並設した一対のコンクリートブロック7(コンクリートパネル1aに相当)でなる水槽8を作製し、両コンクリートブロック7間の隙間を擬似的に打継目地4とする。水槽8内には電解質を含んだ水を貯留し、上記隙間からの漏水を受け皿9に回収して水槽8内に循環させる。上記隙間の寸法は0.1mm、0.5mm、1mmの3種類に設定する。
(β)両コンクリートブロック7の外面側にその端部間に掛け渡してTiメッシュ(チタニウム製の金網)5を取り付ける。Tiメッシュ5に陽極を繋ぎ、水槽8内の貯留水に陰極3を浸してTiメッシュ1mあたり1Aの電流密度で通電させる。
(γ)貯留水には電解質としてCaイオンを供給するために、炭酸カルシウム100gを投入する。
(δ)通電期間は、漏水が停止するまでとした。ただし、最長50日で実験を終了した。
【0028】
<実験結果>
図4に実験結果を示している。(a)は隙間寸法0.1mm、0.5mm、1mmの3ケースにつき、測定開始からの経過日数とそれぞれの漏水量の測定値を示す一覧表であり、(b)は(a)の漏水量測定値に基づいて、それぞれのケースについて測定開始時の漏水量を100とした、時間経過に伴う漏水量の推移を示す図である。
【0029】
図4(b)を見ればわかるように、いずれのケースについても、時間経過とともに漏水量が減少する傾向が確認できた。したがって、本発明に係る止水方法により、通電時間の経過にともなって電解質が析出して隙間の閉塞が進行することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る地中連続壁の打継目地止水方法を適用した場合の打継目地部の要部を示す拡大図である。
【図2】本発明に係る地中連続壁の打継目地止水方法を適用した場合の地中連続壁全体の概略構成を示すものであって、(a)は平面図、(b)は同図(a)中のb−b線矢視断面図である。
【図3】本実施例に係る実験装置の概略構成を例示するものであって、(a)は上面図、(b)は側面図である。
【図4】本実施例に係る実験の結果を例示するものであって、(a)は経過日数と漏水量の測定値を示し、(b)は時間経過にともなう漏水量の推移を示している。
【符号の説明】
【0031】
1 地中連続壁
1a コンクリートパネル
2 鉄筋篭
3 電極部材(外側)
4 打継目地
5 電極部材(内側)
6 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表等から掘削した溝孔内にコンクリートセメントなどの固結材を打設して、所望のエリアを順次環状に囲繞して地中連続壁を打ち継ぎ形成し、該地中連続壁の内部を掘削した後に、該地中連続壁の打継目地部分を止水するに際して、
該地中連続壁の打ち継ぎ形成時に、その外側の打継目地部分に沿わせて電極部材を予め設置しておき、内部掘削後に露出した内側の打継目地部分の漏水箇所に電極部材を設置して、これら一対の電極部材間に直流の正負電位を加えることにより、地下水中に溶解した電解質を打継目地の漏水部分に析出させて止水する、ことを特徴とする地中連続壁の打継目地止水方法。
【請求項2】
前記外側の打継目地部分に設置する電極部材を陰極とし、前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材を陽極とする、ことを特徴とする請求項1に記載の地中連続壁の打継目地止水方法。
【請求項3】
前記外側の打継目地部分に設置する電極部材を陽極とし、前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材を陰極とする、ことを特徴とする請求項1に記載の地中連続壁の打継目地止水方法。
【請求項4】
前記外側の打継目地部分の近傍に、地下水中に電解質を補給するための電解質供給手段が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の地中連続壁の打継目地止水方法。
【請求項5】
前記電解質供給手段が、内部に電解質物質を収納して前記外側の電極部材に係支されて設けられた透水性の袋体でなることを特徴とする、請求項4に記載の地中連続壁の打継目地止水方法。
【請求項6】
前記内側の打継目地部分の漏水箇所に設置する電極部材が網状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の地中連続壁の打継目地止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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