説明

地域熱供給システム及び地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法

【課題】 熱供給プラントの運転を停止することなく、ベースの熱供給プラントの切換え作業を、システム全体の動作を安定させた状態で、安全に容易且つ確実に行う。
【解決手段】 本発明は、熱媒体の熱源設備4,22を備えた複数の熱供給プラント1,2と需要家A,B,Cの受入設備とが、熱供給配管3を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、各熱供給プラント1,2には、それぞれ、自動制御状態と手動操作状態のいずれかに設定可能な差圧制御弁9,25が熱源設備4,22を迂回するバイパス管8,24に設けられていると共に、加圧装置11,30が熱供給配管3に対して接続及び切り離し可能に設けられており、各熱供給プラント1,2間において差圧制御弁9,25及び加圧装置11,30をそれぞれ切換えて使用可能なように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の熱供給プラントと需要家の受入設備とが熱供給配管を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、特に、各熱供給プラント間において差圧制御弁及び加圧装置をそれぞれ切換えて使用可能なように構成された地域熱供給システム、及び、その地域熱供給システムにおいて、使用する差圧制御弁及び加圧装置を、一方の熱供給プラントから他方の熱供給プラントに切換えるための、地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商業施設やマンション等の各ビル群が設置される地域において、ビル毎にそれぞれ個別に冷凍機やボイラ等の冷暖房や給湯用の熱源設備を設置する代わりに、これらのビル群を含む地域全体に対する熱源設備として、特定の場所に熱供給プラントを集約して設置し、該熱供給プラントから各ビルの需要家の受入設備に対して、冷水や温水等の熱媒体を供給する地域熱供給システムが注目されている。
【0003】
この従来の地域熱供給システムの一例として、複数の熱供給プラントが熱供給配管により連系して接続され、各熱供給プラントに、それぞれ、冷凍機やボイラ等の熱源設備が設けられたシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、この種の地域熱供給システムにおいて、システム全体の制御の中心となるベース熱供給プラントには、熱媒体の差圧を所要差圧に確保するために差圧制御弁が設けられていると共に、熱冷媒の圧力を所定圧力以上に保持するために加圧装置が設けられている。
【0005】
上記した構成を備えた地域熱供給システムにおいて、前記ベース熱供給プラントの定期点検時や故障時等に、連系して接続された各熱供給プラントを運転しながら前記ベース熱供給プラントの機能を他の熱供給プラントに切換えようとすると、切り換える側の熱供給プラントに加圧装置を接続する際、該加圧装置を接続する導管の導水勾配によって返り圧力変動が起こり、加圧装置の水位制御が干渉し合って動作が不安定となり、不具合が生じるおそれがあった。そのため、前記ベース熱供給プラントの定期点検や修理作業は、前記各熱供給プラントの運転を停止させて行っていた。
【特許文献1】特開2001−153381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、上記した従来の地域熱供給システムでは、前記ベース熱供給プラントの定期点検や修理作業時等に、該ベース熱供給プラントの機能を他の熱供給プラントに切換える場合、前記各熱供給プラントの運転を停止させる必要があったため、その間、各需要家に対して熱媒体の供給を行うことができないといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、熱供給プラントの運転を停止することなく、ベースの熱供給プラントの切換え作業を、システム全体の動作を安定させた状態で、安全に、容易且つ確実に行うことのできる地域熱供給システム及び地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、熱媒体の熱源設備を備えた複数の熱供給プラントと需要家の受入設備とが、熱供給配管を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、前記各熱供給プラントには、それぞれ、自動制御状態と手動操作状態のいずれかに設定可能な差圧制御弁が前記熱源設備を迂回するバイパス管に設けられていると共に、加圧装置が前記熱供給配管に対して接続及び切り離し可能に設けられており、前記各熱供給プラント間において前記差圧制御弁及び前記加圧装置をそれぞれ切換えて使用可能なように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、差圧制御弁及び加圧装置を備えた複数の熱供給プラントが熱供給配管を介して接続されて構成された地域熱供給システムにおいて、使用する差圧制御弁及び加圧装置を、一方の熱供給プラントから他方の熱供給プラントに切換えるための、地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法であって、(A)前記他方の熱供給プラントにおいて、前記加圧装置の加圧タンクの圧力及び水位を初期所定値に設定する工程と、(B)前記他方の熱供給プラントの加圧装置を熱供給配管に接続し、前記(A)工程において設定した前記加圧タンクの水位設定値を、前記加圧装置を前記熱供給配管に接続した時の実際の水位に設定し直した後、前記他方の熱供給プラントの加圧装置の圧力制御及び水位制御を開始する工程と、(C)前記一方の熱供給プラントの加圧装置を熱供給配管から切り離す工程と、(D)前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作可能な状態に切り換え、前記一方の熱供給プラントの差圧制御弁が全閉鎖状態になるまで、前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作により徐々に開放する工程と、(E)前記一方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作可能な状態に切り換え、該差圧制御弁を手動操作により全閉鎖状態に保持し、前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁の差圧制御を開始する工程と、(F)前記他方の熱供給プラントの加圧タンクの水位設定値を前記初期所定値に徐々に戻す工程とを含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る地域熱供給システム及び地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法
によれば、各熱供給プラント間において差圧制御弁及び加圧装置を切換える場合、各熱供給プラントの運転を停止させる必要がなく、その切換え作業を、システム全体の動作を安定させた状態で、安全に、容易且つ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムについて説明する。ここで、図1は、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの構成を示すシステム図である。なお、以下の説明では、熱媒体として冷水を使用した場合について例示して説明する。
【0012】
本実施の形態に係る地域熱供給システムは、第1熱供給プラント1及び第2熱供給プラント2と、複数の需要家A,B,Cの受入設備(図示省略)とが、熱供給配管3により、連系して接続されて構成されており、各需要家A,B,Cの受入設備には、第1熱供給プラント1と第2熱供給プラント2のいずれの熱供給プラントからも冷水を供給可能となっている。
【0013】
第1熱供給プラント1には、直列に接続された冷凍機4と冷水循環ポンプ5とから成る熱源設備が並列に設けられており、この熱源設備を迂回するように熱供給配管3の往路配管6と還路配管7との間にバイパス配管8が接続されている。このバイパス管8には、差圧制御弁9が設けられており、差圧制御弁9は、図示しない差圧検出器が検出した往路配管6と還路配管7間の差圧に基づきその開度が制御される自動制御状態と、手動で開閉操作可能な手動操作状態のいずれかの状態に設定できるようになっている。
【0014】
また、第1熱供給プラント1には、冷水循環ポンプ5の上流側の還路配管7に、導管10が分岐して接続されており、この導管10には、加圧装置11が元弁12を介して接続され、この元弁12を開閉操作することにより、還路配管7に対して加圧装置11を接続及び切り離し可能となっている。
【0015】
加圧装置11は、加圧タンク13と、加圧タンク13に対して水を補給又は排出させる補給水側設備14と、加圧タンク13に対して窒素ガスを補給又は排出させる窒素ガス側設備15とから構成されており、加圧装置11の動作によって、冷水循環ポンプ5の稼動中にシステム系内が負圧になるのを防止できるようになっている。また、加圧装置11は、図示しない中央制御装置等から所定の操作を行うことにより、制御禁止状態と制御許可状態のいずれかの状態に設定できるようになっている。
【0016】
補給水側設備14は、補給水を貯留するための補給水槽(図示省略)と、該補給水槽から加圧タンク13に対して補給水を圧送するための補給水ポンプ16と、補給水ポンプ16の下流側に接続された給水弁17と、加圧タンク13内の水を排出するための排水弁18とから構成されており、排水弁18から排出された水は前記補給水槽に戻されて再利用されるようになっている。また、窒素ガス側設備15は、窒素ガスを貯留するための窒素ガスボンベ19と、窒素ガスボンベ19の下流側に接続された給気弁20と、加圧タンク13内の窒素ガスを排出するための排気弁21とから構成されている。
【0017】
一方、第2熱供給プラント2には、上記した第1熱供給プラント1の場合と同様に、以下の各構成設備がそれぞれ設けられている。すなわち、第2熱供給プラント2には、冷凍機22と冷水循環ポンプ23とから成る熱源設備が並列に接続され、この熱源設備を迂回するバイパス配管24に差圧制御弁25が設けられ、また、還路配管7に接続された導管26に、加圧タンク27、補給水側設備28、窒素ガス側設備29から成る加圧装置30が元弁31を介して接続され、さらに、補給水側設備28には、補給水ポンプ32、給水弁33、排水弁34が設けられ、窒素ガス側設備29には、窒素ガスボンベ35、給気弁36、排気弁37がそれぞれ設けられている。
【0018】
なお、上記した各加圧装置11,30は、加圧タンク13,27内の圧力を一定に保持する、いわゆる定圧式と呼ばれる方式の装置であるが、加圧装置11,30としては、例えば、加圧タンク13,27内の圧力が変動する、いわゆる変圧式と呼ばれる方式の装置等、他の方式の装置を使用することも可能である。さらに、加圧タンク13,27内に封入される不活性ガスとしては、上記した窒素ガスに限定されるものではなく、アルゴンガス等、他の不活性ガスを使用することもできる。
【0019】
このような構成を備えた地域熱供給システムにおいて、例えば、第1熱供給プラント1がシステム全体の制御の中心となるベース熱供給プラントとして設定された状態で第1熱供給プラント1のみが運転されると、第1熱供給プラント1では、冷凍機4及び冷水循環ポンプ5がそれぞれ稼動し、図示しない差圧検出器により往路配管6と還路配管7間の差圧が検出される。そして、この検出信号を受けて、第1熱供給プラント1の差圧調整弁9の開度が制御され、冷凍機4を流通した冷水は、往路配管6に流入後、所定熱量分の流量が各需要家A,B,Cの受入設備に供給され、その残部はバイパス管8を通って還路配管7に還流する。
【0020】
その後、各需要家A,B,Cの受入設備に供給された冷水は、還路配管7を通って、第1熱供給プラント1に還流し、これにより、冷水は地域熱供給システム内を循環する。そして、この間、第1熱供給プラント1側に設けられた加圧装置11により、システムの配管系内の冷水の圧力は、常に所定圧力以上に保持され、該配管系内が負圧になるのを防止する。
【0021】
次に、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法について説明する。ここで、図2は、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法の手順を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、この地域熱供給システム全体の制御の中心となるベース熱供給プラントを、第1熱供給プラント1から第2熱供給プラント2に切換える方法について説明する。
【0022】
先ず、切換え作業の事前準備として、第1熱供給プラント1において、加圧装置11が通常の制御状態であることを確認する一方(S101)、第2熱供給プラント2において、導管26の元弁31が閉鎖されており、加圧装置30が制御禁止状態に設定されていることを確認すると共に、加圧タンク27の圧力及び水位が初期所定値に設定されているかどうかを確認する(S102)。そして、第2熱供給プラント2において、その圧力及び水位が初期所定値に設定されていない場合には、加圧装置30を、一旦、制御許可状態に設定し、加圧タンク27の圧力及び水位を初期所定値に設定した後、再度、制御禁止状態に戻す(S102)。なお、この場合の加圧タンク27の圧力及び水位の初期所定値としては、例えば、圧力を6.0kg/cm、水位を500mmとすることができる。
【0023】
次いで、第2熱供給プラント2において、導管26の元弁31を閉鎖状態から開放状態に手動操作することによって、加圧装置30を熱供給配管3の還路配管7に接続し、加圧タンク27の水位の設定値を、加圧装置30を還路配管7に接続した時の実際の水位に一致する様、設定し直す(S103)。その後、加圧装置30を制御許可状態に設定し、補給水側設備28及び窒素ガス側設備29による加圧タンク27の水位制御及び圧力制御を開始させる(S104)。
【0024】
一方、第1熱供給プラント1では、導管10の元弁12を開放状態から閉鎖状態に手動操作することによって、加圧装置11を熱供給配管3の還路配管7から切り離し、給水弁17及び排水弁18がいずれも閉鎖状態となるように、水位調節計(図示省略)を手動操作により50%出力に固定する(S105)。
【0025】
その後、第2熱供給プラント2において、連系時点で既に手動操作で閉鎖状態となっていた差圧制御弁25を手動操作により徐々に開放する(S106)と、第1熱供給プラント1の差圧制御弁9は全閉鎖状態になる。そこで、第1熱供給プラント1において、差圧制御弁9が全閉鎖状態にあるのを確認した後、その差圧制御弁9を、自動制御状態から手動操作状態に切換え、手動操作により全閉鎖状態に固定する(S107)。また、第1熱供給プラント1の加圧装置11を制御禁止状態に設定し、補給水側設備14及び窒素ガス側設備15による加圧タンク13の水位制御及び圧力制御を停止させる(S108)。
【0026】
次いで、第2熱供給プラント2において、差圧制御弁25を手動操作状態から自動制御状態に切換え、差圧制御を開始させ(S109)、加圧タンク27の水位設定値を徐々に前記初期所定値に戻し、これにより、ベース熱供給プラントの切換え作業を完了する(S110)。
【0027】
なお、上記した実施の形態では、ベース熱供給プラントを、第1熱供給プラント1から第2熱供給プラント2に切換える場合について説明したが、ベース熱供給プラントを、第2熱供給プラント2から第1熱供給プラント1に切換える場合であっても、上記した切換え方法と同様の方法で行うことができ、その場合の第1熱供給プラント1の加圧タンク13の初期所定値は、例えば、圧力を3.5kg/cm、水位を1000mmとすることができる。
【0028】
また、上記実施の形態においては、熱媒体として冷水を使用した場合について説明したが、本発明は、温水や高温水等、他の熱媒体を使用するシステムにおいても適用可能である。
【0029】
さらに、本発明は、上記したように、第1熱供給プラント1と第2熱供給プラント2とが連系して接続されている場合の適用に限定されるものではなく、3つ以上の熱供給プラントが連系して接続されている場合にも適用可能であることは言う迄もない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの構成を示すシステム図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
1 第1熱供給プラント
2 第2熱供給プラント
3 熱供給配管
4 冷凍機
8 バイパス管
9 差圧制御弁
11 加圧装置
13 加圧タンク
22 冷凍機
24 バイパス管
25 差圧制御弁
27 加圧タンク
30 加圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体の熱源設備を備えた複数の熱供給プラントと需要家の受入設備とが、熱供給配管を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、
前記各熱供給プラントには、それぞれ、自動制御状態と手動操作状態のいずれかに設定可能な差圧制御弁が前記熱源設備を迂回するバイパス管に設けられていると共に、加圧装置が前記熱供給配管に対して接続及び切り離し可能に設けられており、前記各熱供給プラント間において前記差圧制御弁及び前記加圧装置をそれぞれ切換えて使用可能なように構成されていることを特徴とする地域熱供給システム。
【請求項2】
差圧制御弁及び加圧装置を備えた複数の熱供給プラントが熱供給配管を介して接続されて構成された地域熱供給システムにおいて、使用する差圧制御弁及び加圧装置を、一方の熱供給プラントから他方の熱供給プラントに切換えるための、地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法であって、
(A)前記他方の熱供給プラントにおいて、前記加圧装置の加圧タンクの圧力及び水位を初期所定値に設定する工程と、
(B)前記他方の熱供給プラントの加圧装置を熱供給配管に接続し、前記(A)工程において設定した前記加圧タンクの水位設定値を、前記加圧装置を前記熱供給配管に接続した時の実際の水位に設定し直した後、前記他方の熱供給プラントの加圧装置の圧力制御及び水位制御を開始する工程と、
(C)前記一方の熱供給プラントの加圧装置を熱供給配管から切り離す工程と、
(D)前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作可能な状態に切り換え、前記一方の熱供給プラントの差圧制御弁が全閉鎖状態になるまで、前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作により徐々に開放する工程と、
(E)前記一方の熱供給プラントの差圧制御弁を手動操作可能な状態に切り換え、該差圧制御弁を手動操作により全閉鎖状態に保持し、前記他方の熱供給プラントの差圧制御弁の差圧制御を開始する工程と、
(F)前記他方の熱供給プラントの加圧タンクの水位設定値を前記初期所定値に徐々に戻す工程と、
を含んでいることを特徴とする地域熱供給システムの熱供給プラント切換え方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate