説明

地域熱源システム

【課題】 地域冷暖房システムと同様に地域的規模で省エネルギー効果とヒートアイランド現象の抑制効果を得ることのできる簡易かつ有効なシステムを実現する。
【解決手段】 熱源プラント10において熱源設備11により熱源水の供給水温を年間を通じて一定範囲に維持しつつ、熱源水を各建物1の水熱源ヒートポンプ20に対して冷房運転時の放熱源かつ暖房運転時の採熱源として供給する。熱源設備として都市下水16との間の熱授受により余剰熱を放熱し不足熱を採熱する熱交換器を採用し、必要に応じて補助熱源設備30として冷却塔設備31と加熱源設備32とを備える。既存建物に設置されている既存の空気熱源ヒートポンプにおける空冷式の屋外機を水冷式の屋外機21に交換ないし改修してそれに熱源水を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市における建物群を対象とする地域熱源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大都市において大きな問題となっているヒートアイランド現象は、図3に示すように個々の建物1に設けられている冷房装置、特に空気熱源ヒートポンプ2の冷房運転時における屋外機3からの大気中への直接の放熱が一因であると考えられている。なお、空気熱源ヒートポンプ2としては様々な形式のものがあるが、図3に示しているものは、屋外機3と屋内機4とを冷媒配管5により接続する構成のいわゆる空冷パッケージタイプのものであって、その屋内機4はダクト6および吹き出し口7を介して室内に送風する天井設置型のものである。
【0003】
ヒートアイランド現象に対する対策としては、建物ごとに個別に冷暖房を行うシステムから地域冷暖房システムへの移行が有効であるとされている。すなわち、地域冷暖房システムは大規模な熱源プラントから多数の建物に対して冷水と温水(あるいは高温水や蒸気)を循環供給するものであるから、個々の建物が個別に熱源設備を備える場合に比べて総合的には省エネルギー効果が得られ、ヒートアイランド現象の抑制効果のみならず温室効果ガスの抑制効果や大気汚染防止効果も期待できるものであり、今後のさらなる普及が望まれている。
【0004】
地域冷暖房システムにおける熱源設備としては冷凍機とボイラによるものの他、大規模な空気熱源ヒートポンプによるものも一般的であるが、最近ではたとえば特許文献1〜2に示されているように河川水や下水等を熱源とする水熱源ヒートポンプの採用も提案され、それによれば温度レベルの低い水熱源の有効利用を図ることができ、かつ都市廃熱の回収効果も期待できるとされている。
【特許文献1】特開平5−71812号公報
【特許文献2】特開平5−157476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、地域冷暖房システムの構築に当たっては大規模な熱源設備のみならず冷水と温水(または高温水や蒸気)を多数の建物に対して供給するための4管式の管路網の敷設が必要であり、また、既存建物に地域冷暖房システムを導入するに当たっては既存の冷暖房設備を大きく変更する必要もあり、いずれにしても多額の設備投資を要するものとなる。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、地域冷暖房システムと同様に地域的規模で充分な省エネルギー効果とヒートアイランド現象の抑制効果を得ることのできる簡易にして有効なシステムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の地域熱源システムは熱源プラントから建物群に対して熱源水を循環供給するものであって、熱源プラントにおいて熱源設備により熱源水の供給水温を年間を通じて一定範囲、具体的には冷房運転時における冷媒凝縮温度以下かつ暖房運転時における冷媒蒸発温度以上に維持しつつ、その熱源水を各建物に設置されている水熱源ヒートポンプに対して冷房運転時の放熱源かつ暖房運転時の採熱源として供給することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の地域熱源システムでは、熱源プラントにおける熱源設備として、熱源水と都市下水との間の熱授受により余剰熱を都市下水へ放熱し不足熱を都市下水から採熱する熱交換器を採用することができ、その場合には、都市下水との間の熱授受不足を補うための補助熱源設備として冷却塔設備と加熱源設備とを備えることが好ましい。
【0009】
また、既存建物に本発明の地域熱源システムを導入する場合には、既存建物に設置されている既存の空気熱源ヒートポンプにおける空冷式の屋外機を水冷式の屋外機に交換ないし改修して、その屋外機に熱源水を供給すれば良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の地域熱源システムによれば、各建物の水熱源ヒートポンプからの冷房運転時の廃熱が熱源水を介して熱源プラントに回収されてそこで処理されるので、ヒートアイランド現象の抑制効果が得られ、また中間期等には熱源水を通じての熱回収効果も得られ、さらに各建物では大気温に比べて夏季では冷たく冬季では暖かい熱源水による水熱源ヒートポンプ運転を行うことから、空気熱源ヒートポンプによる場合に比べて夏季および冬季のいずれにおいても成績係数を向上させることができ、以上により総合的には充分な省エネルギーが得られる。そして本発明のシステムは、各建物の水熱源ヒートポンプに対して放熱源かつ採熱源となるような水温に維持した熱源水を供給するものであるから、熱源水の水温変化を補償するだけの小容量の熱源設備を備えれば良く、また往管と還管だけの2管式の管路網を敷設することで充分であり、したがって従来一般の地域冷暖房システムに比べて遙かに簡略なものとでき、設備投資を大幅に軽減することができる。
【0011】
特に、熱源プラントにおいて熱源水の水温を維持するための熱源設備として、都市下水との熱授受により余剰熱を放熱し不足熱を採熱する熱交換器を採用することにより、都市下水を熱源として有効に利用することで省エネルギー効果が得られ、都市廃熱の回収効果も得られる。
【0012】
また、都市下水を熱源とする熱交換器に加えて、冷却塔設備と加熱源設備を補助熱源設備として備えることにより、都市下水との熱授受不足をそれら冷却塔設備と加熱源設備により補うことでより安定かつ信頼性の高い運転が可能である。
【0013】
さらに、本発明のシステムでは、既存建物における既存の冷暖房装置が空気熱源ヒートポンプである場合には、その空冷式の屋外機を水冷式の屋外機に交換ないし改修することのみで、既存の屋内機やダクト系をそのまま使用して本システムに移行することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一実施形態である地域熱源システムの概要を示す系統図である。本システムは、熱源プラント10において熱源設備11により熱源水の供給水温を年間を通じて一定範囲(たとえば15〜32℃程度)に維持しつつ、その熱源水をポンプ12によって2管式の管路網すなわち往管(HSS)13および還管(HSR)14によって各建物1に対して循環供給するものである。
【0015】
本システムにおいては、熱源水の水温を維持するための熱源設備11として都市下水管路15内を流れる都市下水16との間で熱授受を行う熱交換器を採用している。すなわち、ポンプ17により一次熱源水である都市下水16を都市下水管路15と熱交換器との間にわたって循環させて熱源水と都市下水16との間で熱授受を行うことにより、熱源水の余剰熱を都市下水16に放熱し不足熱を都市下水16から採熱して熱源水の水温を上記のような一定範囲に維持するようにしている。
【0016】
一方、各建物1には冷暖房装置として水熱源ヒートポンプ20がそれぞれ設けられている。それら水熱源ヒートポンプ20は屋外機21と屋内機22とを冷媒配管23により接続した汎用のいわゆる水冷パッケージタイプのもので、屋外機21には冷媒と熱源水との間で熱交換を行うことで冷房運転時には凝縮器(放熱器として機能する)となり暖房運転時(タイプによっては給湯運転を含む)には蒸発器(採熱器として機能する)となる冷媒/水熱交換器が備えられ、熱源プラント10からの熱源水はその冷媒/水熱交換器に対して冷房運転時の放熱源かつ暖房運転時の採熱源として供給されるようになっている。そのために、熱源水の水温は冷房運転時における冷媒凝縮温度以下かつ暖房運転時における冷媒蒸発温度以上となるようにたとえば上記のように15〜32℃程度の範囲に設定されているのであり、それにより水熱源ヒートポンプ20が冷房運転を行う際には熱源水は放熱源(つまり冷却水)となって屋外機21から熱源水に放熱がなされ、水熱源ヒートポンプ20が暖房運転を行う際には熱源水は採熱源となって屋外機21はその熱源水から採熱を行うことになる。
【0017】
その結果、冷房運転を行っている水熱源ヒートポンプ20に放熱源として供給された熱源水の水温は上昇することになり、暖房運転を行っている水熱源ヒートポンプ20に採熱源として供給された熱源水の水温は低下することになるから、夏季のように多くの水熱源ヒートポンプ20が冷房運転を行う際には熱源水の水温は全体として上昇し、冬季のように多くの水熱源ヒートポンプ20が暖房運転を行う際には熱源水の水温は低下することになる。そこで、熱源プラント10では熱源水のそのような水温変化に対応して上記のように熱源設備11によって都市下水16との熱授受を行い、水温が過度に上昇した際には熱源水の余剰熱を都市下水16に放熱し、過度に低下した際には不足熱を都市下水16から採熱することにより、熱源水の水温を年間を通じて常に一定範囲となるように維持するようになっている。
【0018】
なお、冷房運転と暖房運転が混在するような中間期や、冷房運転と給湯運転とが同時に行われるような場合には、上記のような水温上昇と水温低下が相殺されるので熱源水全体としてはの水温変化は小さくなる。つまり、冷房運転による熱源水への放熱が暖房運転の熱源としてそのまま利用されることで自ずと熱回収がなされることになり、その分、熱源プラント10での熱源水の水温維持のための負荷が軽減される。仮に、建物群全体として冷房負荷と暖房負荷および給湯負荷とが完全にバランスしている場合には、理論的には熱源水の還水温は往水温と等しくなるので熱源プラントでの水温調整は不要となる。
【0019】
本システムでは、従来一般の地域冷暖房システムのように熱源プラントにおいて冷房用の冷水と暖房用の温水(ないし高温水や蒸気)を調整して建物群に供給するものとは異なり、各建物1の水熱源ヒートポンプ20に対して放熱源かつ採熱源となるような水温に維持した熱源水を供給するものであるから、従来の地域冷暖房システムのように建物群の総負荷に見合う大容量の熱源設備を熱源プラントに設ける必要はなく、熱源水の水温変化を補償して水温を維持するだけの小容量の熱源設備11を備えれば良く、それ故に本実施形態のように都市下水16を熱源とする簡易な熱交換器を熱源設備11として採用することが可能となる。また、年間を通して水温を一定範囲に維持した熱源水を単に循環させるだけで良いから、往管13と還管14だけの2管式で充分であって従来の地域冷暖房システムのように4管式とする必要はなく、以上のことから従来一般の地域冷暖房システムに比べて遙かに簡略なものとでき、設備投資を大幅に軽減することができる。
【0020】
また、各建物では熱源水を放熱源かつ採熱源として水熱源ヒートポンプ20により冷房運転および暖房運転(給湯運転を含む)を行うが、その熱源水の水温は大気温に比べて夏季では冷たく冬季では暖かいことから、図3に示したような空気熱源ヒートポンプ2による場合に比べて夏季および冬季のいずれにおいても成績係数を向上させることができ、それによる省エネルギー効果が得られる。そして、従来においては各建物1から個別に大気中に放出されていた冷房時の廃熱が熱源水を介して都市下水16に放熱されるので、ヒートアイランド現象の抑制効果が充分に得られるし、上述のように中間期等においては熱源水を通じての熱回収効果も得られ、しかも熱源水の水温の維持を都市下水16をそのまま熱源として有効利用するので、総合的には充分な省エネルギー効果が得られる。
【0021】
さらに、従来の地域冷暖房システムの場合、各建物は熱源プラントからの冷水や温水等を受け入れて単に分配供給するだけであるから各建物には熱源設備が不要であり、したがって既存建物を地域冷暖房システムに移行する際には既存のヒートポンプ等の熱源設備が無駄になる。その点、本システムでは各建物に冷暖房装置としての水熱源ヒートポンプ20が必要であるから、既存の熱源設備の一部を有効に活用することも可能である。特に、図3に示したように既存の冷暖房装置が空気熱源ヒートポンプ2である場合には、冷媒/空気熱交換器による空冷式の屋外機3を、上記のように冷媒/水熱交換器による水冷式の屋外機21に交換ないし改修することのみで、既存の屋内機4や冷媒配管5,ダクト6、吹き出し口7をそのまま使用して本システムに移行することが可能である。
【0022】
なお、都市下水16の水温や水量の条件によってはそれを熱源とすることのみでは熱源水の水温を安定に維持できないことが想定される場合には、たとえば図2に示すように補助熱源設備30を設ければ良い。図2に示すシステムでは補助熱源設備30として冷却塔設備31と加熱源設備32(ボイラーや廃熱回収用の熱交換器等)を備え、熱源水を還管14から二次ポンプ33によって冷却塔設備31または加熱源設備32に導いて往管13に戻すような配管系を構成しており、本来の熱源設備11としての熱交換器による都市下水16との熱授受不足を補助熱源設備30により補うことでより安定かつ信頼性の高い運転が可能である。
【0023】
また、上記システムでは都市下水管路15内を流れる都市下水16を熱源としたが、たとえば下水処理場における処理槽内の下水を熱源としてそれと熱交換するようにしても良い。また、立地条件によっては、都市下水を熱源として有効利用することに代えて、あるいはそれに加えて、他の都市廃熱の有効利用や、井戸水、河川水、湖沼水、海洋水等の天然水を熱源として利用することも考えられる。さらには、都市廃熱や天然水を有効利用できない場合には、図2に示すシステムにおいて補助熱源設備30として採用した冷却塔設備31や加熱源設備32を本来の熱源設備11として使用すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の地域熱源システムの一実施形態を示す系統図である。
【図2】本発明の地域熱源システムの他の実施形態を示す系統図である。
【図3】従来一般の各建物ごとに冷暖房を行う場合の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 建物
2 空気熱源ヒートポンプ
3 屋外機
4 屋内機
5 冷媒配管
6 ダクト
7 吹き出し口
10 熱源プラント
11 熱源設備(熱交換器)
12 ポンプ
13 往管
14 還管
15 都市下水管路
16 都市下水
17 ポンプ
20 水熱源ヒートポンプ
21 屋外機
22 屋内機
23 冷媒配管
30 補助熱源設備
31 冷却塔設備
32 加熱源設備
33 二次ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源プラントから建物群に対して熱源水を循環供給する地域熱源システムであって、
熱源プラントにおいて熱源設備により熱源水の供給水温を年間を通じて一定範囲に維持しつつ、その熱源水を各建物に設置されている水熱源ヒートポンプに対して冷房運転時の放熱源かつ暖房運転時の採熱源として供給することを特徴とする地域熱源システム。
【請求項2】
請求項1記載の地域熱源システムであって、
熱源プラントにおける熱源設備として、熱源水と都市下水との間の熱授受により余剰熱を都市下水へ放熱し不足熱を都市下水から採熱する熱交換器を採用したことを特徴とする地域熱源システム。
【請求項3】
請求項2記載の地域熱源システムであって、
熱源設備としての熱交換器による熱源水と都市下水との間の熱授受不足を補うための補助熱源設備として、冷却塔設備と加熱源設備とを備えたことを特徴とする地域熱源システム。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の地域熱源システムであって、
既存建物に設置されている既存の空気熱源ヒートポンプにおける空冷式の屋外機を水冷式の屋外機に交換ないし改修し、その屋外機に熱源水を供給することを特徴とする地域熱源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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