説明

地物形状変化検出プログラム、及び、地物形状変化検出システム

【課題】 高度上空から地表を撮影した観測画像に基づいて、家屋の変化を検出する際に、変化が無いと判定する家屋の判定精度を上げる。
【解決手段】画像上の各家屋の家枠51a〜51c・53a〜53cをトレースし家枠ベクタ61a〜61c・63a〜63cを抽出し、新旧画像の各家枠を対応付け、対応する家枠のベクタ比較を行い、変化の無い家屋63a・63cと、変化の可能性がある家屋63b−1と、を検出する。この処理により、変化の無い家屋を自動的かつ高精度で検出し、変化可能性のある家屋のみを抽出することができるため、実際に変化したか否かの識別における目視検査の作業量を大幅に削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地物形状の変化検出技術に関し、特に、衛星や航空機等を用いて高度上空から地表を撮影して得られた観測画像を解析し、地理画像に含まれる家屋形状などの地物形状の変化の検出を容易にすることができる地物形状変化検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛星画像や航空写真画像等(以下、本明細書において「地理画像」と称する。)が広く利用されるようになってきている。例えば、地理画像を使うと、地図の作成や地表の分析等が可能である。より詳細には、同一地点を撮影した最新の画像と前回更新時の画像とを比較し、画像内に存在する地物形状、例えば家屋の形状の変化を検出することにより、固定資産の異動を判別するために利用されている。ここで、固定資産の異動判別とは、家屋の増改築、更地における家屋の新築(更地新築)、家屋の滅失、家屋の滅失後の新たな家屋の新築(滅失新築)、土地利用状況変化などの判別のことである。
【0003】
従来、この固定資産の異動判別は、人手、すなわち目視により、新旧2枚の地理画像を見比べ、もし固定資産の異動を発見すれば、その種別ごとに異なる記号を、写真上や家屋図上の該当する固定資産上に記入することにより行われていた。しかしながら、対象地域の家屋の全てを人が見比べなければならないため、作業コストが大きくなるという問題があった。
【0004】
そこで、画像内の家屋の変化の判別をコンピュータにより補助する方法が提案されている。その一例として、下記特許文献1では、平面あるいは立体数値地図と地域を撮影した静止画像とを用いて、数値地図を画像に座標変換を行って地図と画像とを照合し、建物の高さや地物の属性情報などを検出し、地図を更新する方法が提案されている。
【0005】
また、下記特許文献2では、同一地点を表す新旧の地理画像を表示画面上に並べて表示させ、変化したと考えられる箇所を色分けして表示させるなどしてユーザによる判別作業を補助する方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11-328378号公報
【特許文献2】特開平9-61164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の手法は、線画地図と画像とを照合し、照合に基づく異動の検出結果を自動的に更新することを目的としている。しかしながら、現実には検出結果の精度上の問題から、自動的に検出した変化領域の情報に誤りが含まれることがある。このため、変化検出部分を正確に把握するためには、すべての家屋データをユーザの目視作業によりチェックする必要があり、作業コストの削減が難しいという問題がある。
【0008】
また、上記特許文献2の方法においても、作業者の負担は軽減されるものの、全ての家屋データをチェックする必要があるため、作業を簡単にすることに関する抜本的な解決に至っていない。
【0009】
このように、作業コストの大幅な削減を実現することができる技術の実現が望まれている。
【0010】
また、目視確認する際に作業者の技量によって判定にバラつきが生じてしまうという問題もある。このため、作業者の技量による影響を低減し均一な判定を行うことができる技術の実現が望まれている。
【0011】
本発明は、衛星画像や航空写真画像などの地理画像から、家屋等の地物形状の異動の判別作業に要する作業を省力化し、さらに、作業者の技量による判定結果のバラつきを低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、新旧画像を解析し、地物形状の変化の有無を検出する地物形状変化検出システムであって、前記新旧画像内に含まれる地物の輪郭(家であれば家枠)のベクタデータを抽出する作業を補助する地物形状の輪郭ベクタ抽出処理部と、前記新旧画像における各地物の新旧データの対応付けを行う対応地物輪郭選定処理部と、新旧ベクタデータにおける各地物の中で、変化(家屋では建て替わり等)がないと考えられる地物と、変化の可能性がある(家屋では建て替わりがあった可能性がある)と考えられる地物を判定する不変化地物検出処理部と、前記不変化地物検出処理によって変化可能性ありと判定された地物の変化を目視で判定する作業を補助する変化地物分類処理部と、を備えることを特徴とする地物形状変化検出システムが提供される。
【0013】
本発明では、従来技術のように色調情報を基に変化の有無を判定するのではなく、地物の輪郭のベクタ同士を比較することにより、変化の有無を判定することを特徴とする。そのため、前処理として新旧地物形状の輪郭のベクタ情報の抽出が必要である。地物形状の輪郭ベクタ抽出処理部では、新旧各画像上に存在する地物の輪郭ベクタデータを、ユーザが抽出する作業を支援する機能を備える。このラスタデータ−ベクタデータ変換処理により効率的に家屋の地物形状の輪郭データを抽出可能であるため、この作業にかかるコストは低く抑えられる。
【0014】
地物形状の輪郭ベクタデータ抽出後、新旧画像上の地物の変化判定を行うためには、前処理として同一地点に存在する地物形状の輪郭ベクタデータを対応付ける必要がある。対応地物選定処理部は、この対応付け処理を自動的に行う機能を備える。
【0015】
不変化地物検出処理部は、対応付け後の新旧の地物形状の輪郭のベクタデータを比較し、明らかに変化していない地物を自動判定する機能を備える。この処理によって判定された結果は、従来技術のような色調を基に判定する方式に比べ、誤判定が非常に少ないという特徴がある。そのため、従来技術のように、判定結果を再度目視確認する必要がない。
【0016】
変化地物分類処理部は、不変化地物検出処理部で、変化可能性があると判定された地物を、ユーザが目視判定する作業を補助する機能を備える。前述したように、従来技術では、事実上すべての地物を目視確認し、変化の有無を判定する必要があったが、本発明では、明らかに変化がないと考えられる地物を自動判定することが可能である。家屋にたとえれば、一般に自治体などで固定資産の異動確認を行うのは1年或いは数年に1度の割合である。この程度の期間において、通常の場合ほとんどの家屋は建て替わっていない。そのため、明らかに建て替わっていない家屋を自動検出し、建て替わった可能性のある家屋のみを目視確認するようにすれば、作業コストを大幅に削減できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明による地物形状変化検出システムでは、衛星画像や航空写真画像などの地理画像から変化の無い地物と、変化した可能性のある地物とを自動的に判定することができる。その際、対象とする地物の中で通常は多数を占める、変化の無い地物を高精度で検出することができ、人は変化の可能性があると判定された地物のみを確認すればよいため目視作業を大幅に削減できる。また、作業者の技量に頼っていた判定作業の大部分をコンピュータにより自動化することができるため、作業者の技量による判定結果のバラつきを低減できる。特に、家屋などの不動産の変化検出に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書において、地物形状とは、建物(家屋・橋など)、樹木、岩石などの地上にある物の上から見た形状を指す。以下においては、地物形状の例として、家屋の形状(輪郭)を例にして説明する。家屋に限定されるものではないが、基本的には多角形で表すことができる形状が対象となる。
【0019】
以下、本発明の一実施の形態による地物形状検出技術について、家屋を例にし、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、図1から図7までにおいて、同一の符号を付した部分は同一の構成を表し、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0020】
<システム構成>
図1は、本実施の形態による家屋変化検出システムの一構成例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、本実施の形態による家屋変化検出システムは、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等により構成することができる。例えば、パーソナルコンピュータには、一般的に、ハードディスクやROMなどのプログラムを記憶することができる不揮発性の記憶部と、プログラムを読み込んで展開しCPU(処理装置10)の指令により高速処理を行うためのRAMなどと、からなる記憶装置20と、を有している。さらに、入出力装置30として、マウスやキーボードなどのポインティングデバイスを含む入力装置31と、液晶ディスプレイ装置などの表示装置32、プリンタ33などを含む出力装置が備えられている。
【0021】
入力装置31は、ユーザによるパラメータの入力やコマンドの起動等のための操作、並びに、家屋の家枠(家屋形状)を抽出する処理に用いられる。例えば、マウスにより家屋の外枠(輪郭)をなぞることで、家屋形状を抽出し、記憶装置20に家枠ベクタデータ22として格納することができる。また、家屋変化検出システムにより処理を施した家屋形状の変化の有無を示すデータの生成処理にも用いられる。表示装置32及びプリンタ33などの出力装置は、地理画像や家屋データ等の種々のデータや情報をユーザに提示するために用いられる。尚、本実施の形態において、入力装置31と表示装置32とを組み合わせたデジタイザを用いてもよい。
【0022】
処理装置(CPU)10は、地理画像処理プログラム40を含んでいる。地理画像処理プログラム40は、新旧の地理画像に含まれる家屋の家枠のベクタデータを抽出する家枠ベクタ抽出処理部101と、新旧の各家屋データの対応付けを行う対応家枠選定処理部102と、対応付けられた家屋を変化していない家屋と変化した可能性のある家屋とに分類する不変化家屋検出処理部103と、変化した可能性のある家屋を目視で詳細に分類する作業を補助する変化家屋分類処理部104と、を含む。実際には、ROMやハードディスク内に記憶されているプログラムを利用して、処理装置(CPU)10が各処理をソフトウェア処理により行うのが一般的であるが、図1では、ハードウェア処理部として各処理部101〜104が存在するように構成として記載している。もちろん、実際に、専用のハードウェア処理部(演算回路など)を用いてシステムを構成しても良い。
【0023】
記憶装置20は、ソフトウェア処理を行う場合には、処理部101から104までをCPUに実行させるためのプログラムを格納する(ここでは、処理装置10に記載している)。また、記憶装置20は、地理ラスタデータ21と、家枠ベクタデータ22と、属性データ23と、を格納するエリアを有している。これらのデータ21から23までのうち、地理ラスタデータ21は、人工衛星又は航空写真画像から得られるラスタデータであり、本実施の形態による家屋変化検出システムによる処理の実行前に予め記憶されている地理ラスタデータ21が処理対象となる。地理ラスタデータ21は、より新しい時期に撮影されたデータである新ラスタデータと、それよりも古い時期に撮影されたデータである旧ラスタデータと、が対応付けされて構成されている。また、家枠ベクタデータ22は、地理ラスタデータ21から、例えばユーザが作成したデータである。家枠ベクタデータ22は、家屋の輪郭(外郭)を形成する輪郭線のベクタデータであり、地理ラスタデータ21の新ラスタデータに対応する新ベクタデータと、旧ラスタデータに対応する旧ベクタデータとから構成され、対応付けられている。
【0024】
新ベクタデータは、上記新ラスタデータ上の各家枠のベクタデータが家枠ベクタデータ(格納部)22に格納され、旧ベクタデータは、旧ラスタデータ上の各家枠のベクタデータが同じく家枠ベクタデータ(格納部)22に新ラスタデータと対応付けされて格納される。一方、属性データ23は、家屋変化検出システムにおいて地理ラスタデータ21及び家枠ベクタデータ22に基づいて生成されるデータである。属性データ23は、新ラスタデータ及び新ベクタデータからなる新属性データと、旧ラスタデータ及び旧ベクタデータからなる旧属性データと、からなる。属性データには、各家屋を識別するIDや、新旧のデータにおける家屋の対応を示すデータや、変化の有無の判定結果などのデータが格納される。属性データについては図7を参照して後述する。
【0025】
<家屋変化検出処理の概要>
図2は、家屋変化検出処理中の表示画面の一例を示す図である。図2(a)、図2(b)は、記憶装置20に予め記憶されている地理ラスタデータを表示した図である。図2(a)は、旧ラスタデータを表示した画面を示す図であり、図2(b)は、新ラスタデータを表示した画面を示す図である。ここで、新旧のラスタデータは、家屋の変化検出の対象地域の同一範囲(地点)を、異なる時期に撮影した画像データである。この新旧ラスタデータに基づいて、デジタイザなどのデバイスを用いて家屋の家枠をなぞっていくことにより家枠のベクタデータを抽出する。この処理を、ラスタデータ−ベクタデータ変換処理と称するが、この処理自体は公知技術であるため、説明を省略する。図2(a)の旧ラスタデータの表示画面51において、主として、旧第1の家屋51a、旧第2の家屋51b、旧第3の家屋51cが表示されており、図2(b)の新ラスタデータの表示画面53において、図2(a)に対応する位置に、新第1の家屋53a、新第2の家屋53b、新第3の家屋53cが表示されている。
【0026】
より具体的には、家枠データ毎に、新旧の区分、家屋のID、頂点数、各頂点の座標などのデータを保持している(図3を参照して後述する)。これらの属性データは、デジタイザでベクタ抽出を行う際に、コンピュータ内の記憶領域に自動的に登録されるようになっている。
【0027】
図2(c)、(d)は、家枠ベクタデータを基に各家枠を描画した画面(なぞった外枠を表示する画面)を示す図である。図2(c)は、図2(a)に対応する旧ベクタデータのうち家と推定される地物51a・51b・51cの輪郭である家枠を描画した図形61a・61b・61cを表示させた画面を示す図であり、図2(d)は、図2(b)に対応する新ベクタデータのうち家と推定される地物53a・53b・53cの輪郭である家枠を描画した図形63a・63b・63cを表示させた画面を示す図である。図2(c)及び図2(d)の表示画面61・63に表示された各家枠51a〜c、53a〜cは、対応家枠選定処理プログラムにより互いに同一地点の家枠と対応付けられる。そして対応付けられた各家枠は、本実施の形態による不変化家屋検出処理プログラムによる判定と、目視による判定との二段階で、変化が判定される。
【0028】
まず、不変化家屋検出処理プログラムにより新旧ベクタデータを比較することにより、変化の無い家屋を自動的に検出する。図2(e)は、図2(c)の家屋の変化の判定結果を色分けして描画した画面を示す図である。図2(f)は、図2(d)の家屋の変化の判定結果を色分けして描画した画面を示す図である。図2(e)、図2(f)では、変化可能性ありと判定された家屋を表す家枠61b−1、63b−1内を灰色で表示している。また、変化なしと判定された家屋の家枠61a、61c、63a、63c内を白色で表示している。各家屋の変化検出の判定結果は、属性データとして記憶装置20に格納される。図7は、記憶装置20に格納される属性データを表にして属性データテーブルの一例を示す図である。図7に示す属性データテーブルは、新旧のラスタ及びベクタに対応するデータを示すテーブルであり、新旧の区分と、家屋のIDと、当該IDの家屋に対応する比較対象の家屋のID(対応ID)と、家屋の重心位置を示す重心座標と、家屋に含まれる頂点数と、対応する家屋の変化の有無の判定結果などのデータを保持している。
【0029】
これらの属性データは、プログラム実行中に自動的に生成され、記憶部に記憶されていくものである。以上のような、プログラムによる処理に基づく変化の無い家屋の自動検出処理に次いで、目視による家屋の判定を行っても良い。この目視による判定は、プログラムにより変化の可能性があると判定された家屋及び新旧の対応付けが行われていない家屋について行う。本実施の形態では、変化可能性ありの家枠と、変化なしの家枠が色分けして表示されるため、ユーザは、「変化可能性あり」と判定された家枠の色で表示された家枠についてのみ目視判定を行えば良いため、目視の手間が少なくてすむ。尚、目視によって判定された結果は、図7に示す属性データに上書きして保存されるようにしても良い。
【0030】
<家屋変化検出処理の詳細>
以下に、上記の地理画像処理における各処理の詳細について説明を行う。本実施の形態による地理画像処理において、図1に示す入力装置31などの操作により地理画像処理プログラム40が起動されると、家枠ベクタ抽出処理部101、対応家枠選定処理部102、不変化家屋検出処理部103、変化家屋分類処理部104が順に起動される。以下、それぞれの処理部における各処理について詳細に説明する。
【0031】
(1)家枠ベクタ抽出処理
家枠ベクタ抽出処理部101は、記憶装置20から地理ラスタデータ21を読み込む。そして、地理ラスタデータ21の中から、対応する新ラスタデータと旧ラスタデータとのそれぞれについて、家屋の家枠のベクタデータの抽出を行う。具体的には、各ラスタデータを画面上に表示させ、デジタイザなどを用いてポインタTを表示させながら表示された家屋の家枠を対応する新ラスタデータと旧ラスタデータとについてトレースする(図3(a))。図3(b)は、抽出結果を表示する画面であり、図2(e)に対応する画面である。トレースすることにより、新旧の区分、ID、頂点数、各頂点の座標などの情報が自動的に取得できる。自動的に取得したこれらの情報は家枠ベクタデータ22として記憶装置20内に格納される。基本的には、家枠は、多角形として抽出する。図3(c)は、家枠ベクタデータの一構成例を示す図である。図3(c)に示すように、家枠を画定する多角形の各頂点の位置座標データを新旧の家枠について取得し記憶させることができる。家枠ベクタ抽出の作業は、近年のデジタイザの性能向上に伴い、比較的容易に、かつ、高精度で行うことができる。そのため、家屋の変化検出を目視で行う作業に比べて、作業者の技量に依存しにくく、コストも抑えやすいという特徴がある。
【0032】
(2)対応家枠選定処理
図4は、図1に示す地理画像処理プログラム40のうちの対応家枠選定処理部101による新旧ベクタデータにおける各家屋の対応付けを行う処理の流れを示すフローチャート図である。図4において、対応家枠選定処理部101は、図3に示すようにして取得し記憶した家枠ベクタデータ22と属性データ23とを、記憶装置20から読み込む(S401)。
【0033】
次に、新画像と旧画像上の各家枠の対応付けを行う。まず、未処理の新家枠のうちの1つを選択する(S402)。次に、選択した新家枠と1対1で対応する旧家枠を検出し、これを対応する旧家枠とする(S403,S404)。まず、注目している新家枠と同一座標空間上で重なる旧家枠を求める(S403)。具体的には、まず、新家枠と旧家枠とのそれぞれの座標値を元に、家枠を画定する各線分を表す式を求める。例えば、図2(e)、(f)に示すように、新家枠63b−1が四角形、旧家枠62b−1が六角形である場合には、下記の式1に示すように、各辺に対して、新家枠(4角形)で4つの式、旧家枠(6角形)で6つの式が成り立つ。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、a11〜a26 ,b11〜b26,c11〜c26は比例定数、x11min〜x26min,x11max〜x26max,y11min〜y26min ,y11max〜y26max は家枠のノード座標である。各サフィックスの2桁目の数字が1の場合が新家枠、2の場合が旧家枠である。式1の上から4つの式が旧家枠の線分の式であり、後の6つの式が新家枠の線分の式である。
【0036】
そして、各家枠を表す線分の式を元に、交差判定及び包含判定を行い、新家枠と旧家枠とが、少なくとも一部重なるか否かを判定する。交差判定を行う際には、例えば、一方の家枠の線分と、他方の家枠の線分との交点が存在するか否かを計算すればよい。少なくとも一つの交点が存在すれば、家枠同士は重なることがわかる。また、包含判定を行う際には、例えば、一方の家枠の領域内にもう一方の家枠の頂点がすべて含まれるか否かを演算によりチェックすることで、包含しているか否かを自動的に判定することが可能である。
【0037】
以上のようなステップS403の判定処理において、重なる(線分が交わるか、完全に包含されるか)旧家枠が一つだけ存在する場合は(yes)ステップS404に進み、ステップS403とは逆に、当該旧家枠が同一座標空間上で重なる(線分が交わるか、完全に包含されるか)新家枠が存在するか否かをチェックする。当該旧家枠と重なる新家枠が一つだけ存在する場合は(yes)、当該新家枠と当該旧家枠とが互いに対応する家枠であるとみなし、図7に示す新属性データの対応(家枠)IDに当該旧家枠のIDを登録する(ステップS405)。ステップS403において、当該新家枠と重なる旧家枠が複数存在するか、あるいは存在しない場合(no)、または、ステップS404において、当該旧家枠と重なる新家枠が複数存在する場合は(no)、対応する旧家枠が存在しないと判定し、新属性データの対応(家枠)IDにNULL値を設定する(ステップS406)。図7の上から3行目のものが、NULLになっている。
【0038】
以上のように、ステップS402からステップS406までの処理を、未処理の新家枠が存在しなくなるまで繰り返して行う(S407)。このようにして、新旧の家枠を対応付けする処理を行うことができる。
【0039】
(3)不変化家屋検出処理
図5は、図1の地理画像処理プログラム40の不変化家屋検出処理部103による各家屋の変化の有無の判定処理の流れを示すフローチャート図である。図5において、不変化家屋検出処理部103は、記憶装置20から家枠ベクタデータ22と属性データ23とを読み込む(ステップS501)。次に、家枠データの中で、対応する家枠がない家枠を『変化可能性あり』と判定し(対応IDはNULL)、図7に示す属性データにおける当該ベクタの項目に判定結果(『変化可能性あり』)を格納する(ステップS502)。次に、属性データの中で新旧の家枠が対応付けられている未処理の新旧のベクタデータを一組選択する(ステップS503)。次に、選択したベクタデータの位置補正を行う(S504)。位置補正を行う理由は、家枠ベクタデータは、基になっているラスタデータの撮影条件に起因する位置ずれや、作業者が人手でベクタデータを作成する際に行うトレース作業に起因する位置ずれなどが生じる可能性があるためである。
【0040】
位置補正の方法は種々の方法が適用可能であるが、例えば以下の方法が適用可能である。新家枠あるいは旧家枠のいずれか一方を固定し、もう一方を平行移動することにより位置補正を行う。以下、旧家枠を固定し、新家枠を平行移動する場合を例にして処理内容を説明する。
【0041】
図6(a)に示すように、旧家枠(ベクタ)を固定し、新家枠(ベクタ)を、家屋の変化があるか否かを示す閾値である誤差許容量の範囲内で平行移動し、範囲内において新旧家枠の重なり面積が最大になる位置に補正する。
【0042】
また、この時、最大になる位置だけでなく、最大値に近い面積値を取る位置を候補とし、候補となる各位置で以下の処理を行ってもよい。位置補正後、新家枠ベクタと旧家枠ベクタを用いて変化の有無を判定する。図6を用いてこの処理の概要について説明する。
【0043】
まず、新家枠ベクタをラスタ化(以後、ラスタ化されたものを「新家枠ラスタ」と称する。)し、その後に、誤差許容量分だけ新家枠ベクタを膨張させる(ステップS505)。誤差許容量は、予め設定しておくことができる。固定資産の異動判別であれば、固定資産税や評価額が変更される程度の異動量(5〜10%程度)を誤差許容値とするのが好ましい。
【0044】
次に旧家枠ベクタをラスタ化(以後、ラスタ化されたものを「旧家枠ラスタ」と称する。)する(ステップS506)。次いで、膨張後の新家枠ラスタと旧家枠ラスタとを重ね合わせ、新家枠ラスタ内に旧家枠ラスタが完全に収まるか否かをチェックする(ステップS507、図6の(b)の左図では、完全に収まることが確認できる。また、図6の(c)の右図では、収まらない部分があることが確認できる。)。新家枠ラスタ内に旧家枠ラスタが完全に収まればS508に進み、一部でも範囲から外れればステップS512に進む。完全に収まった場合は、旧家枠が新家枠の許容範囲内に存在することを意味する。
【0045】
次に、新家枠が旧家枠の誤差許容範囲内に収まるかチェックする。まず、旧家枠ベクタをラスタ化し、その後、誤差許容量分膨張させる(ステップS508)。次に新家枠ベクタをラスタ化する(ステップS509)。そして膨張後の旧家枠ラスタと新家枠ラスタとを重ね合わせ、旧家枠ラスタ内に新家枠ラスタが完全に収まるか否かをチェックする(ステップS510、図6の(b)の右図では、収まらない部分があることが確認できる。また、図6の(b)の左図では、完全に収まることが確認できる。)。完全に収まればステップS511に進み、一部でも範囲から外れればステップS412に進む。完全に収まった場合は、新家枠が旧家枠の許容範囲内に存在することを意味する。その場合は、新旧の家枠が共に許容範囲内に収まっていることを意味するため、当該家屋は変化していないとして『変化なし』と判定し、属性データにおける当該ベクタの項目に判定結果を記憶部に格納する(ステップS511)。ステップS512に進んだ場合は、少なくとも一部が許容範囲内に収まっていないため、当該家屋は変化している可能性があるとして『変化可能性あり』と判定し、属性データにおける当該ベクタの項目に判定結果を格納する(ステップS512)。以上の処理を、属性データの中で新旧の家枠が対応付けられている未処理の新旧のベクタデータに対して行う(S513)。以上の処理を行うことで、ポリゴンレベルで形状変化が少ない、すなわち変化が無いと考えられる家屋と変化があると考えられる家屋とを自動的に識別して検出することができる。
【0046】
(4)変化家屋分類処理
図2(e)、(f)は、地理画像処理プログラム40の不変化家屋検出処理部103による各家屋の変化の有無の判定処理の結果を示す図である。不変化家屋検出処理部103で、『変化なし』と判定された家屋の家枠(図2(f)の家屋63a・63c)と『変化可能性あり』と判定された家屋の家枠(図2(f)の家屋63b)とを区別して表示している。前述のように、『変化なし』と判定された家屋は高い精度で実際に変化していない。従って、ユーザは『変化可能性あり』と判定された家屋のみをチェックすればよい。このチェックを行う際には、『変化可能性あり』と判定された家屋のみを、順次目視チェックしていき、その都度、判定結果を登録していく。判定結果は図1の属性データ23に格納する。
【0047】
<まとめ>
以上のように本発明の実施の形態による家屋変化検出技術によれば、新旧2枚の地理ラスタデータを解析し、地理画像上に存在する家屋の異動判別にかかる作業コストを大幅に削減することができる。この技術は、新旧の地理ラスタデータ上の各家屋を表す家枠を抽出する家枠ベクタ抽出処理部と(モジュール)と、新旧の地理ラスタデータ上の各家枠ベクタの対応をとる対応家枠検出処理部(モジュール)と、新旧画像上の対応する家枠を比較し、変化していない家枠を検出する不変化家屋検出処理部(モジュール)と、変化の可能性があると判定された家屋について目視で判定する変化家屋分類処理部(モジュール)と、を備える。これにより新旧画像上の家屋の中で建て変わりなどの変化がない家屋を高精度で自動検出することができるため、作業コストを大幅に削減できる。
【0048】
尚、本発明は、本実施の形態に記載した範囲に限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、本実施の形態にかかる発明の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【0049】
また、本実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても本発明は実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、プロッピィ(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0050】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0051】
また、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードがディスクやメモリ等の記憶手段又はCD−RW、CD−R等の記憶媒体に格納され、そのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても、達成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、家屋の変化検出システムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施の形態による地理画像処理システムの一構成例を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施の形態による家屋変化検出システムにより行われる処理中の画面を例示する図である。
【図3】家枠ベクタデータを例示する図である。
【図4】対応家枠検出処理部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図5】不変化家屋検出処理部の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図6】不変化家屋検出処理部の処理の概要を例示する図である。
【図7】属性データを例示する図である。
【符号の説明】
【0054】
10 処理装置
20 記憶装置
21 地理ラスタデータ
22 家枠ベクタデータ
23 属性データ
30 入出力装置
31 入力装置
32 表示装置
33 プリンタ
40 地理画像処理プログラム
101 家枠ベクタ抽出処理部
102 対応家枠検出処理部
103 不変化家屋検出処理部
104 変化家屋分類処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の時点と、該第1の時点より後の第2の時点において、同じ地点を撮影した第1及び第2の2枚の地理画像に含まれる地物の形状の変化を検出する地物形状変化検出システムであって、
前記第1及び第2の地理画像のデータ上の各地物の輪郭を表すベクタデータを、ラスタデータ−ベクタデータ変換処理によりそれぞれ抽出する地物輪郭ベクタ抽出処理部と、
前記第1及び第2の地理画像のデータにおいて、同一地点に存在する各地物の前記地物輪郭ベクタデータの対応付けを行う対応地物輪郭選定処理部と、
前記第1及び第2の地理画像のデータにおける前記各地物輪郭ベクタデータを比較することにより、前記第1及び第2の地理画像における形状の変化の可能性の有無を判定する不変化地物検出処理部と、を備えることを特徴とする地物形状変化検出システム。
【請求項2】
さらに、前記不変化地物検出処理部における、前記第1及び第2の地理画像における地物の形状変化の可能性の有無の検出結果に基づいて、表示部における地物の表示方法を変えることにより、変化可能性ありと判定された地物についてユーザに判定を促す変化地物分類処理部を備えることを特徴とする請求項1に記載の地物形状変化検出システム。
【請求項3】
前記不変化地物検出処理部が、対応する前記第1及び第2の地理画像のデータにおける地物の形状が変化していないか否かを判定する際に、前記第2の地理画像のデータに基づく地物形状の境界を、地物形状を不変化とみなす許容量分の幅だけ膨張させた図形に前記第1の地理画像のデータに基づく地物形状の境界が完全に包含され、かつ、前記第1の地理画像のデータに基づく地物形状の境界を不変化とみなす許容量の幅だけ膨張させた図形に前記第1及び第2の地理画像のデータに基づく地物形状の境界が完全に包含された場合に、当該地物形状は不変化であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の地物形状変化検出システム。
【請求項4】
前記地物は家屋であり、前記地物形状は、家枠であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の地物形状変化検出システム。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシステムにおける処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−15448(P2010−15448A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175918(P2008−175918)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】