説明

地盤改良評価装置、地盤改良評価方法及び地盤改良評価プログラム

【課題】 飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことのできる地盤改良評価装置、地盤改良評価方法及び地盤改良評価プログラムを得る。
【解決手段】 サンド・コンパクション・パイル工法等の液状化対策のために飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行うに当たり、P波速度測定装置30により、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、パーソナル・コンピュータ20により、取得したP波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、P波速度が遅くなるほど高くなるように前記地盤範囲内における改良後の評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良評価装置、地盤改良評価方法及び地盤改良評価プログラムに係り、より詳しくは、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価装置、地盤改良評価方法及び地盤改良評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、砂質地盤の液状化対策や強度増加等を目的として、サンド・コンパクション・パイル(Sand Compaction Pile、以下、「SCP」ともいう。)工法が適用されることがある。なお、SCP工法は、砂質地盤の液状化を防止するために行う締め固め工法であり、液状化の可能性のある軟弱な地盤中に予め定められた間隔で杭状の砂杭を打設することで、その周辺地盤を締め固める工法である。この改良により、地盤の固さを表す標準貫入試験のN値が上昇するので、地盤の強度が増加して液状化の発生を防止することができる。
【0003】
ところで、従来、SCP工法による改良効果を把握する方法として、改良後の砂杭同士の中間位置でボーリングを行ってN値を測定し、当該N値が予め設定した目標値になっていることを確認する方法が採られていた。
【0004】
しかしながら、この方法では、N値を測定するために行ったボーリングの位置のみの評価しか行うことができず、評価対象とする地盤範囲内の全域の評価を行うことは困難であった。
【0005】
そこで、この問題を解決するために適用できる従来の技術として、特許文献1には、地盤の地表で計測されるレイリー波の計測速度とそれに対応する深度の計測値に基づいて、当該地盤の深度方向における許容支持力度の分布を求める技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−318285公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術では、評価対象とする地盤内の飽和度については考慮されていないため、液状化対策のために行ったSCP工法による改良後の評価を必ずしも高精度に行うことができるとは限らない、という問題点があった。
【0007】
すなわち、SCP工法を適用して締め固めする液状化の可能性のある地盤は地下水位が高く、飽和度が高い地盤である。このような地盤に対してSCP工法を施工すると、地上から比較的乾燥した砂と、当該砂を供給しやすくするために空気を注入するため、改良を行った範囲では地盤中の空気量が増加して飽和度が低下する。
【0008】
これに対し、上記特許文献1に開示されている技術で適用しているレイリー波は地盤の表面波であり、地盤内の飽和度を十分に反映したものとはなっていないため、SCP工法による改良後の評価を必ずしも高精度に行うことができるとは限らないのである。
【0009】
なお、以上の問題点は、SCP工法による改良時のみに限らず、液状化対策等のために飽和度を低下させる工法であれば、何れの工法でも生じ得るものである。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことのできる地盤改良評価装置、地盤改良評価方法及び地盤改良評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の地盤改良評価装置は、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価装置であって、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行う評価手段と、を備えている。
【0012】
すなわち、本発明の発明者らは、SCP工法(静的締固め工法)の施工前後において地震探査を適用し、改良によるP波速度及びS波速度の変化を調査した。なお、調査地における10箇所のボーリングから得られた平均N値の分布を図8に示す。ここで、改良の対象深度は8.5〜14.5mである。同図に示されるように、改良前後でN値は平均3.3増加した。
【0013】
測定には、高精度表面波探査・解析装置であるMcSEIS−SXW Model−1127と、当該装置用の固有周波数4.5Hzの上下動速度型受振器(共に応用地質株式会社製)を用いた。振源は重さ10kgのカケヤを用い、受振点は2mピッチで設置して46m展開し、全波形を取得した。そして、測定波形データから初動を読み取り、屈折法の解析を行ってP波速度構造を求めた。また、同じ波形データから分散曲線を求め、表面波探査の解析を行ってS波速度構造を求めた。
【0014】
図9に解析結果のS波速度断面の例を示す。この測線では、改良区間とこれから改良する未改良区間がある。断面の未改良域に比べ、改良域の方がS波速度は高い傾向が見られるが、S波速度断面からは改良・未改良の違いがはっきりとはわからない。
【0015】
図11に平均した改良前後の1次元S波速度構造を示す。深度6〜12mのS波速度は増加しているものの、深度3〜5m付近のS波速度は低下していることがわかる。表面波探査は、浅部地盤の感度が非常に高いため、改良効果の判定に用いるためには、改良深度がもっと浅い場合には有効と考えられる。本調査の改良深度で改良効果を判定するには、改良層厚がもっと厚いか、N値が劇的に増加している条件が必要と考えられる。
【0016】
一方、図13に示すように、P波初動のS/N比は、カケヤで起振しているため決してよくないが、到達時刻は改良前に比べ改良後は有意に遅れていることがわかる。
【0017】
次に解析結果(P波速度断面)を図10に、改良前後の平均1次元P波速度構造を図12に示す。改良域と未改良域で明瞭な差が見られ、改良前1500m/sであった領域が、500〜700m/s程度まで低下していることがわかる。これは、飽和度が下がったことを示しており、砂杭を圧入する際に注入された圧縮空気の影響と考えられる。但し、深さ方向の改良範囲である8.5〜14.5m以浅でも改良によってP波速度は大きく変化している。
【0018】
飽和状態におけるP波速度は、飽和度のわずかな減少で劇的に減少するため、どの程度の飽和度が低下したかを推定するのは容易ではないが、飽和度が下がれば、液状化自体を防ぐことも可能である。つまり、P波速度が遅くなるほど飽和度が下がるため、P波速度が遅くなるほど改良に対する評価は高くなる、ということが言える。なお、以上の調査結果は、SCP工法による改良時のみに限らず、液状化対策等のために飽和度を低下させる工法であれば、何れの工法でも同様のものになると考えられる。
【0019】
以上の調査結果に基づき、請求項1記載の地盤改良評価装置は、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行うものであって、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報が取得手段によって取得され、評価手段により、取得された前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価が、P波速度が遅くなるほど高くなるように行われる。
【0020】
このように、請求項1記載の地盤改良評価装置によれば、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行うに当たり、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、取得した前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行っているので、ボーリングを要することなく評価対象とする地盤範囲内の飽和度を考慮した評価を行うことができる結果、改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことができる。
【0021】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記評価手段による評価結果を表示する評価結果表示手段を更に備えてもよい。これにより、当該評価結果を容易に把握させることができる。なお、上記評価結果表示手段による評価結果の表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、プリンタ等による永久可視表示、スピーカ等による可聴表示等が含まれる。
【0022】
また、本発明は、請求項3に記載の発明のように、予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とを関連付けて予め記憶した記憶手段を更に備え、前記評価手段は、前記P波速度が含まれる前記速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報を前記記憶手段から読み出すことにより前記評価を行うものとしてもよい。これにより、より簡易に当該評価を行うことができる。なお、上記記憶手段には、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、フラッシュEEPROM(Flash EEPROM)等の半導体記憶素子、スマート・メディア(SmartMedia(登録商標))、フレキシブルディスク等の可搬記録媒体やハードディスク等の固定記録媒体、或いはネットワークに接続されたサーバ・コンピュータ等に設けられた外部記憶装置が含まれる。
【0023】
特に、請求項3記載の発明は、請求項4に記載の発明のように、前記記憶手段は、前記地盤の用途別に前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を予め記憶し、前記評価手段は、評価対象とする地盤の用途に対応した前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を用いて前記評価を行うものとしてもよい。これにより、より高精度に当該評価を行うことができる。
【0024】
また、本発明は、請求項5に記載の発明のように、前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布を表示するP波速度分布表示手段を更に備えてもよい。これにより、当該P波速度分布を容易に把握させることができる。なお、上記P波速度分布表示手段によるP波速度の分布の表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、プリンタ等による永久可視表示、スピーカ等による可聴表示等が含まれる。
【0025】
更に、本発明の前記取得手段は、請求項6に記載の発明のように、弾性波探査によって前記P波速度分布情報を取得してもよい。
【0026】
一方、上記目的を達成するために、請求項7記載の地盤改良評価方法は、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価方法であって、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、取得した前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行うものである。
【0027】
従って、請求項7記載の地盤改良評価方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、ボーリングを要することなく評価対象とする地盤範囲内の飽和度を考慮した評価を行うことができる結果、改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことができる。
【0028】
なお、請求項7記載の発明は、請求項8に記載の発明のように、前記評価結果を表示するものとしてもよい。これにより、当該評価結果を容易に把握させることができる。なお、上記評価結果の表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、プリンタ等による永久可視表示、スピーカ等による可聴表示等が含まれる。
【0029】
また、請求項7又は請求項8記載の発明は、請求項9に記載の発明のように、予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とを関連付けて記憶手段により予め記憶しておき、前記P波速度が含まれる前記速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報を前記記憶手段から読み出すことにより前記評価を行うものとしてもよい。これにより、より簡易に当該評価を行うことができる。なお、上記記憶手段には、RAM、EEPROM、フラッシュEEPROM等の半導体記憶素子、スマート・メディア(登録商標)、フレキシブルディスク等の可搬記録媒体やハードディスク等の固定記録媒体、或いはネットワークに接続されたサーバ・コンピュータ等に設けられた外部記憶装置が含まれる。
【0030】
一方、上記目的を達成するために、請求項10記載の地盤改良評価プログラムは、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価プログラムであって、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップによって取得された前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行う評価ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0031】
従って、請求項10記載の地盤改良評価プログラムによれば、コンピュータに対して請求項1記載の発明と同様に作用させることができるので、請求項1記載の発明と同様に、ボーリングを要することなく評価対象とする地盤範囲内の飽和度を考慮した評価を行うことができる結果、改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことができる。
【0032】
なお、請求項10記載の発明は、請求項11に記載の発明のように、前記評価ステップによる評価結果を表示する評価結果表示ステップを更に有するものとしてもよい。これにより、当該評価結果を容易に把握させることができる。なお、上記評価結果の表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、プリンタ等による永久可視表示、スピーカ等による可聴表示等が含まれる。
【0033】
また、請求項10又は請求項11に記載の発明の前記評価ステップは、請求項12に記載の発明のように、各々評価レベルが関連付けられた予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲の何れに前記P波速度が含まれるかを判定することにより前記評価を行うものとしてもよい。これにより、より簡易に当該評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行うに当たり、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、取得した前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行っているので、ボーリングを要することなく評価対象とする地盤範囲内の飽和度を考慮した評価を行うことができる結果、改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0036】
まず、図1を参照して、本発明が適用された地盤改良評価システム10の構成を説明する。
【0037】
同図に示すように、本形態に係る地盤改良評価システム10は、当該システム10の中心的な役割を担うパーソナル・コンピュータ(以下、「PC」という。)20と、P波速度を測定するP波速度測定装置30と、複数(ここでは、24個)の受振器(ジオフォン(Geophone))40と、カケヤ(掛け矢)50と、を含んで構成されている。
【0038】
P波速度測定装置30と複数の受振器40は電気的に接続されており、P波速度測定装置30は、複数の受振器40による受振結果に基づいて、測定対象とする地盤60内の当該複数の受振器40の配置位置直下における2次元断面のP波速度の分布(以下、「P波速度構造」ともいう。)を表面波探査により弾性波探査と同等のものとして取得することができる。本形態に係る地盤改良評価システム10では、P波速度測定装置30及び受振器40として前述したMcSEIS−SXW Model−1127と当該装置用の固有周波数4.5Hzの上下動速度型受振器(共に応用地質株式会社製)を適用しているが、これに限らず、他のP波速度測定装置及び受振器を適用する形態とすることもできることは言うまでもない。
【0039】
一方、P波速度測定装置30とPC20は所定のインタフェース規格にて電気的に接続されており、PC20は、P波速度測定装置30によって測定されたP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得することができる。
【0040】
次に、図2を参照して、本システムにおいて特に重要な役割を有するPC20の電気系の要部構成を説明する。
【0041】
同図に示すように、本実施の形態に係るPC20は、PC20全体の動作を司るCPU(中央処理装置)20Aと、CPU20Aによる各種処理プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM20Bと、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM20Cと、各種情報を記憶するために用いられる二次記憶部(ここでは、ハードディスク装置)20Dと、各種情報を入力するために用いられるキーボード20Eと、各種情報を表示するために用いられるディスプレイ20Fと、外部装置との間で各種情報の授受を行う入出力ポート20Gと、が備えられており、これら各部はシステムバスBUSにより電気的に相互に接続されている。なお、入出力ポート20Gには、前述したP波速度測定装置30が接続されている。
【0042】
従って、CPU20Aは、RAM20B、ROM20C、及び二次記憶部20Dに対するアクセス、キーボード20Eを介した各種入力情報の取得、ディスプレイ20Fに対する各種情報の表示、及び入出力ポート20Gを介したP波速度測定装置30との間の各種情報の授受を各々行うことができる。
【0043】
ところで、本形態に係る地盤改良評価システム10は、P波速度測定装置30により取得されたP波速度の速さに応じてSCP工法等による改良後の地盤の評価を行うものとされており、このために二次記憶部20Dの所定領域には、一例として図3に示されるデータ構造とされた地盤評価テーブルが予め記憶されている。
【0044】
同図に示すように、本形態に係る地盤評価テーブルでは、地盤の用途別に、予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とが関連付けられて記憶されている。なお、本形態に係る地盤改良評価システム10では、上記地盤の用途として、原子力発電所、電力施設、病院、公共施設等が含まれる「重要施設」と、商業施設、一般工場、一般住宅等が含まれる「一般施設」の2種類の用途が適用されているが、これに限るものでないことは言うまでもない。また、本形態に係る地盤改良評価システム10では、上記評価レベルとして、「不十分」及び「良好」の2段階のレベルが適用されているが、これに限るものでないことも言うまでもない。
【0045】
次に、図4を参照して、本実施の形態に係る地盤改良評価システム10の作用を説明する。なお、図4は、SCP工法等の液状化対策のために飽和度を低下させる工法による地盤の改良が行われた後、ユーザによりPC20のキーボード20Eを介して実行の指示入力が行われた際にPC20のCPU20Aにより実行される地盤改良評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部20Dの所定領域に予め記憶されている。
【0046】
まず、ステップ100では、予め定められた構成とされた地盤用途設定画面をディスプレイ20Fにより表示し、次のステップ102にて所定情報の入力待ちを行う。図5には、上記ステップ100の処理によってディスプレイ20Fにより表示される地盤用途設定画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本形態に係る地盤用途設定画面では、評価対象とする地盤の用途の指定を促すメッセージが表示されると共に、指定可能な用途の名称(ここでは、「重要施設」及び「一般施設」の2つの名称)が表示される。同図に示されるような地盤用途設定画面がディスプレイ20Fに表示されると、ユーザは、評価対象とする地盤の用途を示す用途名をキーボード20Eの操作によって指定し、その後に当該地盤用途設定画面の最下に表示されている「終了ボタン」をキーボード20Eの操作によって指定する。ユーザにより「終了ボタン」が指定されると上記ステップ102が肯定判定となってステップ104に移行する。なお、図5では、ユーザによって「重要施設」が指定された状態が示されている。
【0047】
ステップ104では、上記ステップ102の処理において入力された情報により示される、ユーザによって指定された用途に対応する速度範囲情報及び評価レベル情報を地盤評価テーブル(図3も参照。)から読み出す。
【0048】
一方、ユーザは、ここで、P波速度測定装置30によるP波速度構造の測定を次のように行う。
【0049】
まず、ユーザは、複数の受振器40を評価対象とする地盤60の表面の測線に沿って所定間隔(ここでは2m間隔)で設置する。
【0050】
次に、ユーザは、地盤60の測線に沿った各々互いに異なる多数の位置をカケヤ50により起振した状態で、P波速度測定装置30により、各起振毎に、全ての受振器40による受振波形を測定する。当該測定に応じて、P波速度測定装置30は、測定波形データから初動を読み取り、屈折法の解析を行ってP波速度構造を求め、当該P波速度構造を示す情報(本発明の「P波速度分布情報」に相当。)をPC20に送信する。
【0051】
そこで、次のステップ106では、上記P波速度構造を示す情報の受信待ちを行い、次のステップ108にて、受信した情報によって示されるP波速度構造(P波速度の分布)において、P波速度Vpに上記ステップ104の処理によって読み出した情報により示される、評価レベルが「不十分」とされた速度範囲に入るものが存在するか否かを判定することによって改良後の地盤60の評価を行い、肯定判定となった場合はステップ110に移行する。
【0052】
ステップ110では、上記ステップ108において評価レベルが「不十分」とされた速度範囲に入るP波速度Vpに対応する地盤60内の領域を提示するための不良箇所提示画面をディスプレイ20Fにより表示し、その後に本地盤改良評価処理プログラムを終了する。
【0053】
図6には、上記ステップ110の処理によってディスプレイ20Fにより表示される不良箇所提示画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本形態に係る不良箇所提示画面では、不良位置に対する締め固めの実行を促すメッセージが表示されると共に、不良箇所(不良領域)を示す2次元断面画像が表示される。同図に示されるような不良箇所提示画面を参照することにより、ユーザは、不良箇所を容易に把握することができる。そして、ユーザは、把握した不良箇所に対する改良を再び実行する。
【0054】
一方、上記ステップ108において否定判定となった場合はステップ112に移行し、上記ステップ106の処理によって受信した情報により示されるP波速度構造を示す2次元画像をP波速度分布提示画面としてディスプレイ20Fにより表示し、その後に本地盤改良評価処理プログラムを終了する。
【0055】
図7には、上記ステップ112の処理によってディスプレイ20Fにより表示されるP波速度分布提示画面の表示状態例が示されている。同図に示されるようなP波速度分布提示画面を参照することにより、ユーザは、P波速度分布を容易に把握することができる。
【0056】
なお、上記不良箇所提示画面による指示に従って不良箇所に対する改良を再び行った場合に、ユーザは、本地盤改良評価処理プログラムを再び実行して、当該改良後の地盤の評価を再び行う。そして、以上の処理を不良箇所がなくなるまで繰り返し実行することにより、液状化対策のための改良が完了することになる。
【0057】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、飽和度を低下させる工法(ここでは、SCP工法)による改良後の地盤の評価を行うに当たり、評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、取得した前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、P波速度が遅くなるほど高くなるように前記地盤範囲内における改良後の評価を行っているので、ボーリングを要することなく評価対象とする地盤範囲内の飽和度を考慮した評価を行うことができる結果、改良後の地盤の評価を簡易かつ高精度に行うことができる。
【0058】
また、本実施の形態では、前記評価結果を表示しているので、当該評価結果を容易に把握させることができる。
【0059】
また、本実施の形態では、予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とを関連付けて記憶手段(ここでは、二次記憶部20D)により予め記憶しておき、前記P波速度が含まれる前記速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報を特定することにより前記評価を行っているので、より簡易に当該評価を行うことができる。
【0060】
特に、本実施の形態では、前記記憶手段により、前記地盤の用途別に前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を予め記憶しておき、評価対象とする地盤の用途に対応した前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を用いて前記評価を行っているので、より高精度に当該評価を行うことができる。
【0061】
更に、本実施の形態では、前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布を表示しているので、当該P波速度分布も容易に把握させることができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
また、上記の実施の形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。上記の実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。上記の実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0064】
例えば、上記実施の形態では、改良後の地盤の評価を行う装置(PC20)とP波速度分布情報を取得する装置(P波速度測定装置30)とを別体で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの機能を有する装置を単体で構成する形態とすることもできる。この場合の形態例としては、PC20にP波速度測定装置30と同様の機能を設ける形態や、P波速度測定装置30にPC20と同様の機能を設ける形態等を例示することができる。この場合も、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
また、上記実施の形態で示した地盤評価テーブルのデータ構造(図3参照。)も一例であり、必要に応じて記憶する項目を追加したり、不要な項目を削除したりすることができることは勿論のこと、各項目の記憶内容も適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0066】
また、上記実施の形態で示した地盤改良評価処理プログラムの処理の流れ(図4参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することができることも言うまでもない。
【0067】
また、上記実施の形態で説明した地盤改良評価システム10の構成(図1,図2参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0068】
更に、上記実施の形態で示した各種画面の構成(図5〜図7参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態に係る地盤改良評価システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態に係るPCの電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係る地盤評価テーブルのデータ構造を示す模式図である。
【図4】実施の形態に係る地盤改良評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態に係る地盤用途設定画面の表示状態例を示す概略図である。
【図6】実施の形態に係る不良箇所提示画面の表示状態例を示す概略図である。
【図7】実施の形態に係るP波速度分布提示画面の表示状態例を示す概略図である。
【図8】本発明の原理の説明に供する図であり、本発明の発明者らによるSCP工法の施工前後における地震探査による調査対象地盤における10箇所のボーリングから得られた平均N値の分布を示すグラフである。
【図9】本発明の原理の説明に供する図であり、S波速度断面の一例を示す断面図である。
【図10】本発明の原理の説明に供する図であり、P波速度断面の一例を示す断面図である。
【図11】本発明の原理の説明に供する図であり、改良前後の平均1次元S波速度構造の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の原理の説明に供する図であり、改良前後の平均1次元P波速度構造の一例を示すグラフである。
【図13】本発明の原理の説明に供する図であり、改良前後の初動到達時刻の変化を示す波形図である。
【符号の説明】
【0070】
10 地盤改良評価システム
20 パーソナル・コンピュータ
20A CPU(評価手段)
20D 二次記憶部(記憶手段)
20F ディスプレイ(評価結果表示手段、P波速度分布表示手段)
30 P波速度測定装置(取得手段)
40 受振器
50 カケヤ
60 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価装置であって、
評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行う評価手段と、
を備えた地盤改良評価装置。
【請求項2】
前記評価手段による評価結果を表示する評価結果表示手段
を更に備えた請求項1記載の地盤改良評価装置。
【請求項3】
予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とを関連付けて予め記憶した記憶手段を更に備え、
前記評価手段は、前記P波速度が含まれる前記速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報を前記記憶手段から読み出すことにより前記評価を行う
請求項1又は請求項2記載の地盤改良評価装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記地盤の用途別に前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を予め記憶し、
前記評価手段は、評価対象とする地盤の用途に対応した前記速度範囲情報及び前記評価レベル情報を用いて前記評価を行う
請求項3記載の地盤改良評価装置。
【請求項5】
前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布を表示するP波速度分布表示手段
を更に備えた請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の地盤改良評価装置。
【請求項6】
前記取得手段は、弾性波探査によって前記P波速度分布情報を取得する
請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の地盤改良評価装置。
【請求項7】
飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価方法であって、
評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得し、
取得した前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行う、
地盤改良評価方法。
【請求項8】
前記評価結果を表示する
請求項7記載の地盤改良評価方法。
【請求項9】
予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲を示す速度範囲情報と、当該速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報とを関連付けて記憶手段により予め記憶しておき、
前記P波速度が含まれる前記速度範囲に対応する評価レベルを示す評価レベル情報を前記記憶手段から読み出すことにより前記評価を行う
請求項7又は請求項8記載の地盤改良評価方法。
【請求項10】
飽和度を低下させる工法による改良後の地盤の評価を行う地盤改良評価プログラムであって、
評価対象とする地盤範囲内におけるP波速度の分布を示すP波速度分布情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによって取得された前記P波速度分布情報により示されるP波速度の分布に基づいて、前記地盤範囲内における改良後の評価をP波速度が遅くなるほど高くなるように行う評価ステップと、
をコンピュータに実行させる地盤改良評価プログラム。
【請求項11】
前記評価ステップによる評価結果を表示する評価結果表示ステップ
を更に有する請求項10記載の地盤改良評価プログラム。
【請求項12】
前記評価ステップは、各々評価レベルが関連付けられた予め定められた複数段階のP波速度の速度範囲の何れに前記P波速度が含まれるかを判定することにより前記評価を行う
請求項10又は請求項11記載の地盤改良評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−46408(P2007−46408A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234196(P2005−234196)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月15日 社団法人地盤工学会発行の「第40回 地盤工学研究発表会−平成17年度発表講演集(2分冊の1)−」に発表
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】