説明

地震衝撃力の測定システムおよび測定方法

【課題】構造物の地下埋設物に加わる地震の衝撃力を可視化して測定する。
【解決手段】破壊強度の異なる複数種類のマイクロカプセル8に破壊強度別に色相の異なる染料或いは顔料を封入し、該各マイクロカプセルを破壊強度別に配した感圧発色体5を構造物1の地下杭2等衝撃力測定部位に設け、地下杭が受けた地震衝撃力に応じてマイクロカプセルが破壊されることで発現した染料或いは顔料の色相により、地下杭が受けた地震衝撃力を測定することを特徴とする地震衝撃力の測定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震の発生等によって基礎杭等の地下埋設物が受ける衝撃力を測定する地震衝撃力の測定システムおよび測定方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物が地震の発生等によって強い衝撃を受けた場合、該構造物の地下部分に埋設された基礎杭等の地下埋設物がどれ程の衝撃力を受けたかを知ることは、構造物や地下埋設物における亀裂や破壊等の地震被害の可能性を判断したり、或いは被害発生の場合における補修方法を決定したりする上でとても重要である。
ところで地下埋設物の地震被害の程度については、目視等によっては知ることが難しく、そこで基礎杭として埋設された鉄筋に導線を接続し該導線を電気抵抗測定器に接続して、通常時における電気抵抗値を予め測定しておき、地震が発生した場合は地震後の電気抵抗値を測定して前記通常時の測定値と比較し、異なる測定値を得た場合には基礎杭が破壊若しくは損傷を受けたと評価するように構成したもの(特許文献1)や、地下埋設物に振動装置で振動を与え、該振動によって発生する反射波の状態を地震前と地震後とで比較することによって基礎杭の破壊の有無や程度を評価するようにしたものが提唱されている(特許文献2)。しかしながらこれらのものは、地下埋設物の破壊の有無や程度を評価するものであって、構造物がどれ程の衝撃力を受けたかを知るものではない。
また、受けた外力によって生じる応力に比例して発光する応力発光材料を用い、該応力発光材料の発光状態を観測することで応力測定をするようにしたもの(特許文献3)や、二液反応により発光する発光前駆体を、所定の応力で破壊される脆性材料に封入して基礎杭内部に挿入し、地震により基礎杭に生じた応力によって脆性材料が破壊されると二液が反応して発光するよう構成し、該発光の有無を観測することで所定以上の応力を受けたか否かを検知するようにしたものが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−183658号公報
【特許文献2】特開平10−183659号公報
【特許文献3】特開2001−215157号公報
【特許文献4】特開2003−262554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献3のものを地震による衝撃力の測定に用いようとした場合、該応力発光材料の発光は絶えず変動する地震の応力に対する追従性が悪く、正確な応力測定ができないという問題がある。また特許文献4のものは、所定応力を超えたか否かという一点検知であって、どれくらいの大きさの応力がはたして発生したか、ということの測定ができないという問題がある。しかも前者のものは応力の大きさに比例する発光であり、また後者のものは化学発光であるため発光時間に制限があり、このため、殆どリアルタイムでの観測が必要であるが、地震発生時に伴い停電になったりパソコン等の観測機械が故障したりすると、電気の供給や観測機械が復旧するまで事実上の観測ができないという問題があり、これらに本発明が解決しようとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、被検体が地震によって受ける衝撃力を可視化して測定する地震衝撃力の測定システムであって、該地震衝撃力の測定システムは、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに破壊強度別に色相の異なる染料或いは顔料を封入し、該各カプセルを破壊強度別に配した感圧発色体を前記被検体の衝撃力測定部位に設け、被検体が受けた地震衝撃力に応じてカプセルが破壊されることで発現した染料或いは顔料の色相により、被検体が受けた地震衝撃力を測定することを特徴とする地震衝撃力の測定システムである。
請求項2の発明は、感圧発色体は、シート状であることを特徴とする請求項1記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項3の発明は、カプセルは、破壊強度順に配されるとともに、カプセルを白色不透明とし、カプセルに封入される染料または顔料の色相を白色以外にしたことを特徴とする請求項1または2記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項4の発明は、カプセルは、並列状に配設されていることを特徴とする請求項3記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項5の発明は、カプセルは、同心円状に配設されていることを特徴とする請求項3記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項6の発明は、カプセルは、所定角度を存して周回り方向に配設されていることを特徴とする請求項3項記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項7の発明は、感圧発色体は、担体に担持されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の地震衝撃力の測定システムである。
請求項8の発明は、被検体が地震によって受ける衝撃力を可視化して測定する地震衝撃力の測定方法であって、該地震衝撃力の測定方法は、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに破壊強度別に色相の異なる染料或いは顔料を封入し、該各カプセルを破壊強度別に配した感圧発色体を前記被検体の衝撃力測定部位に設け、被検体が受けた地震衝撃力に応じてカプセルが破壊されることで発現した染料或いは顔料の色相により、被検体が受けた地震衝撃力を測定することを特徴とする地震衝撃力の測定方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1または8の発明とすることにより、地震が発生して被検体が衝撃を受けると、衝撃力に応じた破壊強度のカプセルが破壊され、これらカプセルの破壊によって発現する染料或いは顔料の色相によって地震の衝撃力を知ることが出来る。
しかも、該感圧発色体は、衝撃力が最大となった時に該最大の衝撃力に応じてマイクロカプセルが破壊され、染料或いは顔料が発現することから、発現した色相を調べれば衝撃力の最大値を知ることが出来て、構造物が受けた最大衝撃力を簡単に測定することが出来る。
そして、本発明によれば、既に発色している染料或いは顔料をカプセルに封入すれば良いため、染料前駆体を発色させるための顕色剤を必要とせず、材料点数の削減を図ることが出来る。
また、大地震が発生した場合、リアルタイムでの測定は困難である場合も多いが、該感圧発色体は時間が経過しても変色や退色が少ない上、仮令変色や退色があったとしても、一度発現した染料或いは顔料は未発現のものとは明瞭に異なる色相を呈するため、発現と未発現とを見間違うことはなく、地震発生の後に測定を行っても正確な測定データを得ることが出来る。従って、停電等の事故が発生した場合であってもデータが消失してしまうといったようなトラブルがなく、確実に衝撃力を測定することが出来る。
さらにこの発明によれば、衝撃力測定部位に感圧発色体を設けるだけで衝撃力測定を行うことが出来て、地震による衝撃力の測定を簡単なシステムで行うことが出来る。しかも、どのような場所でも簡単に設置することができるため、測定地点を広範囲に設けることができて、より正確な地震衝撃力の測定を行うことが出来る。
請求項2の発明とすることにより、感圧発色体を被検体に直接貼付したり、被検体の周囲に設けた支持部材に貼付するだけの簡単な作業で取付けることが出来るため、任意の場所での衝撃力測定が可能であり、従って計測箇所を多数設けることも容易に出来る。
請求項3の発明とすることにより、感圧発色体に発現した色相を全て確認しなくても、カプセルが白色不透明であることによって、カプセルが未破壊の部分の感圧発色体は白色となり、カプセルが破壊されることによって発現する染料或いは顔料の色相は、未破壊のカプセルが形成する白色との対比によって明確に識別される。そして、カプセルが破壊強度順に配されることから、未破壊のカプセルによって形成される白色に隣接して発現した色相を調べるだけで、地震衝撃力を知ることができる。つまり、感圧発色体における白色の有無、白色以外の色相の有無、そして白色と白色以外の色相ががある場合は、白色に隣接する色相だけを判別することによって、容易に地震の衝撃力の大きさを測定することができる。
請求項4の発明とすることにより、感圧発色体が正方形状或いは長方形状であったような場合、カプセルをレイアウトし易く、視覚的にも白色と隣接する色相を見つけ出し易いものとすることが出来る。
請求項5または6の発明とすることにより、感圧発色体が円形状或いは楕円形状のようなものであった場合、カプセルをレイアウトし易く、視覚的にも白色と隣接する色相を見つけ出し易いものとすることが出来る。
請求項7の発明とすることにより、感圧発色体を取り出すにあたって、担体を地中から抜き出すだけで良く、感圧発色体を地中から取り出すために掘削したりする必要がない。従って、感圧発色体を簡単に地中から取出せるものにすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】構造物および担体の概略図である。
【図2】(A)、(B)は、それぞれ担体に感圧発色体が取付けられた様子を示す斜視図および発色体取付けプレートの縦断面図である。
【図3】(A)、(B)は、それぞれ感圧発色体の第一の実施の形態を示す平面図、正面図である。
【図4】感圧発色体が受ける応力と発現する色相との関係を示す図である。
【図5】(A)、(B)は、それぞれ感圧発色体の第二、第三の実施の形態を示す正面図である。
【図6】(A)、(B)は、それぞれ感圧発色体の第四、第五の実施の形態を示す要部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、1は被検体である構造物であって、該構造物の土台を構成する地下埋設物である地下杭(基礎杭)2の側面には、長尺の板材である担体3が、長尺方向が上下となるように地下杭2に沿って垂直状に埋設されている。該担体3は、例えば熱硬化性プラスチック或いはステンレス板等の硬性部材によって形成されており、図2(A)に示すように、担体3の表面中央部位には、担体3の上端部3aから下端部3bに至る溝部3cが形成されている。そして、該溝部3cの左右両側面には、それぞれ上端部3aから下端部3bに至る凹溝3d、3eが対向して形成されている。
【0009】
一方、4は、担体3に形成された溝部3cにスライド嵌合する長尺の板材である発色体取付けプレートであって、担体3と同様に熱硬化性プラスチック或いはステンレス板等の硬性部材で形成されている。該発色体取付けプレート4の表面には、後述する正方形状のシート体である感圧発色体5が直列状に貼着される貼着部4aが形成されており、左右両端部には、前記担体3の凹溝3d、3eにスライド嵌合する凸条4b、4cが形成されている。そして、担体3の凹溝3d、3eに発色体取付けプレート4の凸条4b、4cをスライド嵌合させることで発色体取付けプレート4が担体3に対して抜き差し自在に取付けられるようになっている。尚、図2(B)に示すように、感圧発色体5が貼着された発色体取付けプレート4の表面には軟性樹脂材等からなる被膜4dが一様に被覆されており、これによって感圧発色体5が発色体取付けプレート4から脱落したり、地中の水分等によって変質したりすることのないようになっている。
【0010】
前述した感圧発色体5は、図3(A)、(B)に示すように、基材6と、該基材6上に塗布されるカプセル層7とで構成されており、正方形状のシート体となって形成されている。上記基材6は板状であって、例えば、紙、合成紙、プラスティックフィルム等のある程度の硬性を有したもので形成されており、裏側面(反発色剤層側面)には貼着剤6aが塗布され、該貼着剤6aによって発色体取付けプレート4に貼着されるようになっている。
【0011】
カプセル層7は、染料或いは顔料が封入された多数のマイクロカプセル(本発明のカプセルに相当する)8を含有する層であるが、該カプセル層7には、異なる破壊強度を有する複数種類のマイクロカプセル8が、破壊強度別に区分された状態で配設されていると共に、これらマイクロカプセル8には、破壊強度別に異なる色相の染料または顔料が封入されている。
【0012】
つまり、カプセル層7は、前記図3(A)、(B)に示すように、並列状に区画された複数の各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nから構成される。
そして、各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nは、含有されるマイクロカプセル8のうち、カプセル層7a−1に含有されるマイクロカプセル8の破壊強度が最も弱く、カプセル層7a−nに向かって段階的に破壊強度が強くなり、カプセル層7a−nに含有されるマイクロカプセル8の破壊強度が最も強くなるように配設されている。例えば、測定する衝撃力(kN/cm)を、5kN/cmから250kN/cmまでの範囲に設定したとすると、各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nに含有されるマイクロカプセルの破壊強度は、カプセル層7a−1に含有されるマイクロカプセル8が圧縮応力(kN/cm)5kN/cmで破壊されるものとし、カプセル層7a−nに含有されるマイクロカプセルが圧縮応力250kN/cmで破壊されるものとして、カプセル層7a−1からカプセル層7a−nまでは、例えば5kN/cm或いは10kN/cm等任意の強度差でもって段階的にマイクロカプセルの破壊強度が増すように配設されている。
尚、カプセル層7には、マイクロカプセル8の保護材料として、アラビアゴムやゼラチン、でんぷん粒子等が配合されている。
【0013】
一方、各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nに含有されるマイクロカプセル8は、白色以外のそれぞれ異なる色相の染料或いは顔料、例えば黄色、赤色、青色、黒色等の染料或いは顔料がそれぞれ封入されている。前記マイクロカプセル8に封入される染料としては、例えば、キサンテン系、チアジン系、フェニルメタン系、インジゴイド系、アゾ系、クマリン系、アジン系、ポリメチン系、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ピラゾリン系、スチルベン系、キノリン系等の化合物やこれらの混合物を使用することができ、また、顔料としては、例えば、カーボンブラック、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄、ウルトラマリン青、フェロシアン化鉄カリ等の無機顔料、或いはアゾ系、フタロシニアン系、インジゴイド系、アントラキノン系等の有機顔料を使用することができるが、何れも、白色以外の染料或いは顔料を使用する。
【0014】
また、マイクロカプセル8の膜壁は白色不透明であって、マイクロカプセル8の破壊前に、封入されている染料或いは顔料の色が透けないようになっていると共に、膜壁が白色不透明であることによって、マイクロカプセル8が未だ破壊されていない部分のカプセル層7は白色となり、マイクロカプセル8が破壊されることによって発現する染料或いは顔料の色相は、バックとなるカプセル層7の白色との対比によって明確に識別できるようになっている。この様な白色不透明のマイクロカプセル8は、例えば、ポリ尿素樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラニン−ホルムアルデヒド樹脂、飽和ポリエステル、ポリウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等を用いて形成することができる。また、破壊強度の異なるマイクロカプセル8の製造については、既に周知となっているため説明は省略するが、マイクロカプセル8の粒径や膜厚を異ならしめることによって破壊強度を調節することができる。
【0015】
そして、前記マイクロカプセル8は、破壊強度以上の応力を受けることによって破壊され、これによりマイクロカプセル8に封入されていた染料或いは顔料の色相がカプセル層7に発現することになるが、この場合、前述したように、マイクロカプセル8は、破壊強度別に異なる色相の染料或いは顔料が封入されていると共に、破壊強度順に各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nと区分された状態で配設されているため、受けた応力よりも破壊強度の低いマイクロカプセル8に封入された染料或いは顔料の色相が、破壊強度順に区分された状態で感圧発色体5に発現し、これにより感圧発色体5が受けた地震の衝撃力の大きさを可視化できるようになっている。
【0016】
ここで、感圧発色体5が受ける地震の衝撃力の大きさと発現する色相との関係を示す一例について、図4に基づいて説明する。この一例では、50kN/cm、100kN/cm、150kN/cm、200kN/cm、250kN/cm、300kN/cmの各衝撃力で破壊されるように形成された6種類のマイクロカプセル8が、破壊強度の低い順に各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、7a−4、7a−5、7a−6に区分されて配設されていると共に、各カプセル層7aのマイクロカプセル8には、それぞれ黄色、緑色、青色、赤色、紫色、黒色の染料或いは顔料が封入されている。そして、衝撃力を受けていない状態では、何れのマイクロカプセル8も破壊されないため、感圧発色体5はマイクロカプセル8の膜壁の色である白色をしているが、衝撃力が50kN/cmの場合には、破壊強度50kN/cmのマイクロカプセル8のみが破壊されるため黄色が発現し、また、衝撃力が100kN/cmの場合には、破壊強度50kN/cmと100kN/cmのマイクロカプセル8が破壊されるため黄色と緑色とが発現し、さらに、衝撃力が150kN/cmの場合には黄色と緑色と青色とが、衝撃力が200kN/cmの場合には黄色と緑色と青色と赤色とが、衝撃力が250kN/cmの場合には黄色と緑色と青色と赤色と紫色とが、衝撃力が300kN/cm以上の場合には黄色と緑色と青色と赤色と紫色と黒色が発現する。而して、感圧発色体5に発現した色相によって、感圧発色体5が受けた衝撃力の大きさを測定することができる。この場合、カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、7a−4、7a−5、7a−6は、マイクロカプセル8の破壊強度順に配されているため、発現した色相を全て確認しなくても、破壊されていないマイクロカプセル8の膜壁の色である白色の有無、白色以外の色相の有無、及び白色に隣接するカプセル層7aの色相によって、感圧発色体5が受けた衝撃力の大きさを容易に知ることができる。尚、上記一例では、50kN/cm〜300kN/cmの範囲の破壊強度の異なる6種類のマイクロカプセル8を用いたが、マイクロカプセル8の破壊強度の範囲を広狭したり破壊強度の種類数を増減することによって、様々な衝撃力に対応する感圧発色体5を作成することができる。
【0017】
このように構成される感圧発色体5は、地震の衝撃力を受けることによってマイクロカプセル8が破壊され、マイクロカプセル8内の染料或いは顔料が発現するが、前述したように、マイクロカプセル8は破壊強度の異なる複数種類のカプセルが破壊強度順に配設されるとともに、破壊強度毎に異なる色相の染料が封入されているため、地震の衝撃力に応じた破壊強度以下のマイクロカプセル8までが破壊され、該破壊されたマイクロカプセル8のうち、色相が未発現の、つまりマイクロカプセル8が破壊されていないカプセル層7aに隣接したカプセル層7aの色相を目視或いは分光測色計等の測色計(測色器)を用いて色相を判別することで発生した地震の最大衝撃力を測定できるようになっている。
【0018】
叙述の如く構成された本実施の形態において、構造物1の地下杭2が受けた地震の衝撃力を測定するにあたり、まず感圧発色体5が貼着された発色体取付けプレート4を担体3にスライド嵌合させた後、該担体3を地下杭2の側壁に沿って埋設しておく。そして、地震発生後には発色体取付けプレート4を担体3から抜き出し、該発色体取付けプレート4に貼着された感圧発色体5の色相を判別することで地震の衝撃力の測定を行えば良く、該測定が終了した後は、発色体取付けプレート4の貼着部4aに新たな感圧発色体5を再び貼着した後、該発色体取付けプレート4を担体3にスライド嵌合することで担体3に担持させれば良い。このようにして感圧発色体5を再び地下に埋設すれば引き続き地震の衝撃力を測定することが出来る。
【0019】
また、本実施の形態によれば、感圧発色体5における染料或いは顔料の発現した色相を調べることで、該感圧発色体5が受けた最大の応力、つまり、地震の最大衝撃力を簡単に測定することが出来る。
しかも、本実施の形態によれば、カプセル層7aはマイクロカプセル8の破壊強度順に配設されていることから、破壊されたマイクロカプセル8のうち、色相が未発現のカプセル層7aに隣接したカプセル層7aの色相のみを確認すれば地震の衝撃力を知ることができて、発現した染料或いは顔料の全ての色相を調べる必要がない。従って、迅速な地震の衝撃力の測定を行うことが出来る。
そして、染料或いは顔料の色相は時間の経過によって退色してしまうことはあっても完全に消失してしまうようなことはないため、地震や余震が確実に治まってから感圧発色体5を地中から取出して測定すれば良いことになって、安全を確保した上での測定が出来る。
また、本実施の形態のものでは、既に発色している染料或いは顔料がマイクロカプセル8に封入されているため、染料前駆体を発色させるための顕色剤を必要とせず、部品点数の削減を図ることが出来る。
その上、感圧発色体5は、シート体であるため、容易に着脱することが出来て交換も簡単である。また、貼着する場所を選ばないため、広範囲での測定が可能となり、測定地点を増やすことで正確な測定結果を得ることが出来る。
【0020】
尚、本発明の実施の形態においては、カプセル層7を各カプセル層7a−1、7a−2、7a−3、・・・、7a−nが並列したものに構成したが、これに限定されるものではなく、図5(A)に示す第二の実施の形態のように、感圧発色体5を、各カプセル層7を同心円状に配して構成し、この場合に、例えば破壊強度の最も弱いマイクロカプセル8が封入されたカプセル層7a−1を中心部に配し、破壊強度の最も強いカプセル層7a−n(本実施の形態ではカプセル層7a−5)を外周に配して、外周に近いカプセル層ほどマイクロカプセル8の破壊強度が段階的に強くなるよう各カプセル層を配して構成しても良い。
また、図5(B)に示す第三の実施の形態のように、円形状の感圧発色体5の各カプセル層7aの区分を、所定角度を存して周回り方向に順次配設したものとしているが、この場合に、最も破壊強度の弱いカプセル層7a−1から最も破壊強度の強いカプセル層7a−nへと段階的に強くなるよう各カプセル層を周回り方向に並ぶように配して構成しても良い。
このように構成することで、感圧発色体5を円形状に形成した場合、破壊強度の異なるマイクロカプセル8が効率的に区分されて配設されたカプセル層7とすることが出来る。
【0021】
また、本発明の前記実施の形態では、既発色の染料或いは顔料がμmオーダーの小さなマイクロカプセル8に封入されるものに構成したが、カプセル8としては、このような小さなものに限定されず、医薬品の錠剤用のように大きなカプセルであっても良く、また、封入されるカプセルの数も特に限定されるものではなく、数万個であっても良いし、目視出来る程度の染料或いは顔料が封入されるものであれば一つでも良いのであって、カプセルの数量は特に限定されるものではない。
【0022】
またさらに、本発明は、感圧発色体5を構成するにあたり、マイクロカプセルに封入する染料としては、既発色のものに限定されず、染料前駆体を用いることも出来る。つまり、図6(A)に示す第四の実施の形態のように、各カプセル層7a毎に異なる色相を発現する染料前駆体をマイクロカプセル9に封入して発色剤層10に含有せしめるとともに該発色剤層10の下面に染料前駆体と反応して染料前駆体を発色せしめる顕色剤を含有する顕色剤層11を形成し、マイクロカプセル9が破壊されることで染料前駆体と顕色剤とが反応して発色せしめるようにしたものであっても良いし、また図6(B)に示す第五の実施の形態のように、カプセル層毎に異なる色相を発現する染料前駆体と顕色剤とをそれぞれマイクロカプセル9に封入して発色剤層10に含有せしめても良い。このように構成すれば染料前駆体と顕色剤とがより均一に分散された状態とすることが出来る。
【0023】
また、本実施の形態においては、感圧発色体5を正方形状或いは円形状のシート体としたが、これに限定されるものではなく、長方形状や楕円形状或いは多角形状のものであっても良く、また、発色体取付けプレート4の表面全てを覆うような一枚の長尺状シート体としても良いのであって特に限定されない。
【0024】
また、発色体取付けプレート4のみを地中に埋設して、測定時には該発色体取付けプレート4を地中から引き抜くように構成しても良いし、発色体取付けプレート4がスライド嵌合した担体3を直接地下杭2に取付けても良い。或いは、感圧発色体5を直接地下杭2に貼着けたり、感圧発色体5が貼着された発色体取付けプレート4を地下杭2に貼着したりしても良く、掘り出しが容易な箇所にあってはこのように地下杭2に直接貼付けることで担体3或いは担体3および発色体取付けプレート4が不要となり、部品点数の減少を図ることが出来る。
【0025】
さらにまた、感圧発色体5は垂直方向に設置されるものに限られず、水平方向に設置しても良いのであって、このように設置することで水平方向の衝撃力も測定することが出来て、より立体的に地震の衝撃力を測定することが出来る。
このように感圧発色体5は種々の取付け方法が可能であって、特に本実施の形態に限定されるものではなく、地震によって応力が発生する場所であればどこでも設置して地震衝撃力の測定をすることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、地震の発生によって基礎杭等の地下埋設物が受ける衝撃力を測定する地震による衝撃力測定の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 構造物
2 地下杭
5 感圧発色体
7 発色層
8 マイクロカプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が地震によって受ける衝撃力を可視化して測定する地震衝撃力の測定システムであって、該地震衝撃力の測定システムは、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに破壊強度別に色相の異なる染料或いは顔料を封入し、該各カプセルを破壊強度別に配した感圧発色体を前記被検体の衝撃力測定部位に設け、被検体が受けた地震衝撃力に応じてカプセルが破壊されることで発現した染料或いは顔料の色相により、被検体が受けた地震衝撃力を測定することを特徴とする地震衝撃力の測定システム。
【請求項2】
感圧発色体は、シート状であることを特徴とする請求項1記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項3】
カプセルは、破壊強度順に配されるとともに、カプセルを白色不透明とし、カプセルに封入される染料または顔料の色相を白色以外にしたことを特徴とする請求項1または2記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項4】
カプセルは、並列状に配設されていることを特徴とする請求項3記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項5】
カプセルは、同心円状に配設されていることを特徴とする請求項3記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項6】
カプセルは、所定角度を存して周回り方向に配設されていることを特徴とする請求項3項記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項7】
感圧発色体は、担体に担持されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の地震衝撃力の測定システム。
【請求項8】
被検体が地震によって受ける衝撃力を可視化して測定する地震衝撃力の測定方法であって、該地震衝撃力の測定方法は、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに破壊強度別に色相の異なる染料或いは顔料を封入し、該各カプセルを破壊強度別に配した感圧発色体を前記被検体の衝撃力測定部位に設け、被検体が受けた地震衝撃力に応じてカプセルが破壊されることで発現した染料或いは顔料の色相により、被検体が受けた地震衝撃力を測定することを特徴とする地震衝撃力の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−94975(P2011−94975A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246105(P2009−246105)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】