説明

均質化を含む細胞培養からのウイルスの製造方法

細胞培養で生産されたウイルス、又はそのウイルス抗原を回収する方法であって、少なくとも(a)ウイルス、又はそのウイルス抗原を含む流体を取得するステップ、及び(b)流体を少なくとも1つの均質化ステップに付して、ウイルスホモジネートを取得するステップを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援研究に関する記載
本発明の態様は、保健社会福祉省の契約番号HHSO100200600011Cに基づく米国政府の支援によりなされており、米国政府は、本発明に特定の権利を有する場合がある。
【0002】
技術分野
本発明は、細胞培養によって生産されるウイルス又はウイルス抗原を精製する方法、この方法により取得可能なウイルス又はウイルス抗原、及びそのようなウイルス又はウイルス抗原を含有するワクチンに関する。特に、本発明はウイルス収率を改善するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
ウイルスによって引き起こされる膨大な数の疾患のため、ウイルス学は熱心に研究されてきた分野であった。ウイルスタンパク質を単離し、精製するため、ワクチンを生成するため、分析手段を調製するため、又は実験室研究用のウイルスを提供するために、ウイルスを効率よく生産することが常に要求されている。
【0004】
近年、卵由来の従来の生産系の代替として、細胞培養に基づく技術が開発されてきた。
【0005】
細胞培養系は、ワクチン調製の、特に、より単純で柔軟性があり一貫した好適な代替法と考えられており、ワクチン生産能力のスケールアップの可能性を向上させ、したがって必要に応じて、特に大流行脅威又はテロ攻撃の場合に、大量のウイルス調達を可能にする。
【0006】
しかし、生産後、細胞培養により生産されたウイルスを細胞培養から回収する必要があり、適切な場合、精製する必要がある。細胞培養からウイルスを回収する方法及びこれを精製する方法をはじめとする、細胞培養により生産されたウイルスのさまざまなプロセスは、当該技術分野で公知である。ウイルス材料は、これらのプロセスに必要とされる様々なステップで失われるので、そのようなプロセスはウイルス収率が低くなるという重大な欠点を示す。特に、凝集はウイルス収率に対して悪影響を及ぼし、そしてこれはウイルス精製プロセスにおける多くの様々ステップに影響を及ぼす可能性がある。従って、細胞培養からウイルスを回収し、精製するための代替的な、好ましくは改善された方法を提供する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【0007】
本発明による方法は、回収及び精製プロセス中のウイルス損失を制限し、従ってウイルス収率を増大することを目的とするので、この欠点を克服するための解決案を提供する。特に、本発明の方法は、細胞培養によって生産されるウイルスを精製するために使用される様々なステップ中のウイルス損失の原因となり得る凝集体形成を低減するのに役立つ。
【0008】
本発明の第1の態様では、細胞培養で生産されるウイルス又はそのウイルス抗原を回収するための方法であって、少なくとも:
(a)ウイルス又はそのウイルス抗原を含む流体を得るステップと、
(b)流体を少なくとも1つの均質化ステップに付して、ウイルスホモジネートを得るステップとを含む方法が提供される。
【0009】
第2の態様では、感染した細胞の培養からウイルス又はそのウイルス抗原を精製する方法であって、少なくとも:
(c)ウイルス含有細胞培養培地を集めるステップと、
(d)ウイルスを精製するステップとを含み、
少なくとも1つの均質化ステップを精製中に実施して、ウイルスホモジネートを得る方法が提供される。
【0010】
第3の態様では、本発明の方法にしたがって取得可能なウイルス又はそのウイルス抗原が提供される。
【0011】
第4の態様では、ウイルス又はそのウイルス抗原を含み、本発明の方法によって得られる、免疫原性組成物が提供される。
【0012】
第5の態様では、少なくとも、本発明によって得られるウイルスを薬学的に許容される担体と混合するステップを含む、ワクチンの調製法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】回収後、インフルエンザウイルス含有細胞培養培地を700バールの高圧によって均質化した。回収物の試料を均質化の前後に集め、CPSディスク遠心分離分析に付して、回収物内に存在する粒子のサイズを決定した。結果をグラフの形態で示す。「非HPH」曲線は均質化が実施されなかった対照回収物に相当し、一方、「HPH」曲線は均質化された回収物に相当する。
【図2】回収後、インフルエンザウイルス含有細胞培養培地は、2台のホモジナイザー装置、Rannie(商標)及びPanda(商標)を使って異なる圧力(700、1,000、1,250及び1,500バール)で高圧によって均質化した。均質化処理後のウイルスの完全性を、スクロース勾配超遠心分離法によって分析した。異なる画分、ペレット(P)、中間層(M)及び上清(S)を超遠心分離後に集め、ウイルスの存在を、抗HA抗体を用いたウェスタンブロット分析によって異なる画分中のHA含有量を分析することによって評価した。試料は、レーン2から前方へ連続して、上清(S)、中間層(M)、ならびにそれぞれ未処理対照、Rannie(商標)700バール、Rannie(商標)1000バール、Panda(商標)700バール、Panda(商標)1000バール、Panda(商標)1250バール及びPanda(商標)1500バールのスクロースクッションペレット画分(P)である。
【図3】インフルエンザウイルス回収物の電子顕微鏡法によりとらえられた画像を示す。図3Aは非均質化回収物であり、図3BはRannie(商標)装置を使って700バールで均質化した回収物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、小規模ウイルス生産及び大規模ウイルス生産の両方に適用することができる、細胞培養からウイルスを回収し、精製する改善された方法に関する。特に、本発明による方法は、低いウイルス収率をもたらす任意の重要なステップの前に特定のステップを実施し、そのステップ収率を改善することによって、ウイルス収率を増大させるのに役立つ。本発明はこの特定のステップを望むだけ多く用いることができるという利点をもたらす。なぜなら、本発明者等の観察によると、このことはウイルス生存性及び完全性に対して有害な影響を及ぼさないからである。特に、意外なことに、本発明者等は、ウイルスの収集後及び/又はその精製中、精製プロセス中の特定のステップの前に、均質化ステップを実施すると、ウイルス完全性を維持しつつ、前記ステップ後に得られるウイルス収率が増大することを見いだした。本発明によって得られるさらなる利点は、機械的方法である均質化は、結果として得られる精製されたウイルスについてどのような適用が目的とされるかに応じてその後の除去を必要とする可能性がある界面活性剤又は酵素などの化学物質の添加によらない。例えば、精製されたウイルスをワクチン中に含めようとする場合、界面活性剤又は酵素などの構成成分は、安全性及び規制問題のために回避しなければならず、使用する場合は非常に少なくしなければならない。
【0015】
均質化はまた、細胞培養で生産されたウイルスをさらに精製するために用いる必要がある装置の量及び/又はサイズに対して予想外のプラスの影響を及ぼす。特に、本発明者等は、ウイルス含有流体を均質化した後に濾過により前記流体を清澄化することによって、あらかじめ均質化されていないウイルス含有流体を清澄化するために必要な表面濾過面積と比較して、清澄化に必要な濾過表面積を有意に減少させることが可能になることを見いだした。この点は、細胞培養で生産されたウイルスの大規模生産を進める場合に特に有利である。この利点は、特に、事前に均質化されていないウイルス含有流体と比較して、濾過前に均質化されたウイルス含有流体の良好な濾過性に起因する可能性がある。本発明によれば、「濾過性」とは、流体が濾過される能力と理解されるべきである。流体の濾過性を特徴付けるために、2つの特性:(i)フィルター填塞の発生(低濾過性を示す)、及び(ii)入口圧(これは、濾過性が低い場合に、フィルター上の蓄積がフィルターを詰まらせ始めるにつれて増大し、濾過性が高い場合には減少する)を用いることができる。濾過性とは、したがって、フィルターが詰まってそれ以上通過することができなくなるまでの、フィルターを通過できる流体の容積として定義することができる。
【0016】
本発明の意味では、「均質化」とは、異種混合物を、物質全体を通して同じにして、均質にするステップと理解されるべきである。均質化後に得られる流体は、したがって、「ホモジェネート」と呼ばれる。均質化は、特に、粒子(前記粒子は凝集体を形成する)を含有する流体内で起こっている凝集の原因となる分子相互作用を阻害するために使用される。
【0017】
粒子含有流体の均質化は、流体を(i)液体の流れによる剪断、(ii)粒子の内部と外部との間の圧力差による爆発、(iii)ビーズ又はパドルの衝撃による衝突力、又は(iv)これらの力の組み合わせに付すことによって起こることが知られている。分解は、空間圧力と速度勾配の組合せ、乱流、空洞化、固体表面との衝突及び伸長応力によって起こると考えられる。本発明では、均質化ステップとして、粒子含有流体に対して適用した後に、前記流体内の凝集体数及びそれらのサイズの両方が減少するような任意の機械的技術が企図される。均質化の非限定的な例は、(i)ビーズ衝撃法(ビーズを粒子に対して投じることによって粒子含有流体を均質化する。ビーズ選択(密度、直径及び量)、撹拌速度又は実行期間などのパラメータは、均質化しようとする材料及び達成される必要がある分解の程度に従って最適化される);(ii)高圧均質化(HPH)(特に、懸濁粒子の流れを高圧で、下方の狭いチャンネルへ、又はバルブの小さな隙間を越えて送り込む。これによって加速し、その結果、粒子が伸長され、剪断される。随意に、移動する流れをその後、急に障害に衝突させて、さらに粒子を崩壊させる。この障害は、衝突壁であってよい);(iii)マイクロ流動化装置(加圧粒子懸濁流体の流れが2つの脚部に分割される。これらを次いで相互作用チャンバー中で互いに向かい合わせ、このチャンバー内で高速で衝突させ、粒子を分解させる);及び(iv)粒子を分解するために流体中での音波の使用による超音波処理。
【0018】
均質化用の市販の装置により、小容積から非常に大容積の流体を取り扱うことが可能になる。それらの装置は、バッチ操作で進行させる必要があるものもあれば、連続様式で操作できるものもある。単に例示であるが、以下の装置を挙げることができる:ビーズ衝撃ホモジナイザーについては、BEAD BEATER(商標)(Biospec製)及びDYNO(商標)−MILL(GlenMills製)、HPHホモジナイザーについては、FRENCH(商標)PRESS(Thermo Scientific製)、RANNIE(商標)及びGAULIN商標)(APV製)、ならびにPANDA(商標)及びPANTHER(商標)(Niro Soavi GEA Process Engineering Inc製)、ならびに超音波処理についてはSONICATOR3000(商標)(Misonix製)。
【0019】
1つの実施形態によると、本発明の方法の均質化ステップ(複数可)は、HPHによって実施する。あるいは、超音波処理は、本発明の方法において均質化ステップとして用いる。特定の実施形態によると、均質化は、本発明の方法においてHPH及び超音波処理によって実施することができる。
【0020】
高圧ホモジナイザーは、容積型ポンプ、均質化バルブ及び、場合によって衝突壁から構成される。ポンプを用いて、作業が行われる均質化バルブ中へ流体を送り込む。ポンプには、典型的には、シート(多くの場合バルブシートと呼ばれる底部)、バルブ(最上部)及び衝撃壁又はリング(存在する場合は、衝突壁とも呼ばれる)から構成される均質化バルブアセンブリが取り付けられている(Diels and Michiels “High Pressure homogenization as a non−thermal technique for the inactivation of microorganisms”, Critical Reviews in Microbiology, 32: 201−216及びGoldberg “Mechanical/physical methods of cell disruption and tissue homogenization”, Methods in Molecular Biology, vol. 424: 3−22)。非均質化流体を、高圧下、低速度でバルブ域に送り込む。均質化バルブにおいて、流体がバルブとシートの間の調節可能なクローズクリアランス域に入る際に、速度が急速増大し、対応して圧力が減少し、流体は放射状に加速される。強いエネルギー放出により、乱流及び限局的な圧力差が生じ、これにより粒子はばらばらになる。流体は放射状噴流の形態でバルブから流出し、衝撃リングにぶつかる。最後に、均質化流体は、低速度で、基本的に大気圧でホモジナイザーを出る。操作圧は、シートとバルブとの間の距離を調整することによって制御される。バルブ及びシート間のギャップを調整することによって、均質化バルブ中の流量範囲を制御する。流量範囲が減少すると、ポンプ排出マニホルド内の圧力は増加する。流量範囲が増加すると、圧力は減少する。流体が均質化バルブ中の限定された領域から放出される際、ポンプによって発生する高圧は流体速度と熱に変わる。いくつかのパラメータは重要である可能性があり、例えば圧力、温度及び/又はサイクル数などの調査される凝集分解レベルを達成するように最適化することができる。また、従来のものと独立して均質化効率に影響を及ぼし得る1つのパラメータは、バルブの形状である。実際、それぞれ特異的な形状を有するいくつかのバルブが利用可能であり、異なる均質化効率をもたらすことが示されている。一例として、「ナイフエッジ」形バルブが特に有効であることが知られている。
【0021】
「ウイルスを含む流体」及び「ウイルス含有流体」という用語は同義であり、その精製状態に関係なくウイルスを含む任意の液体調製物として理解されるべきである。流体は全く精製されていなくてもよい。例えば、細胞がウイルスに感染し、ウイルスが複製され、培地中に放出された後に集めた細胞培養上清、もしくはそれら自体がウイルスに感染した細胞、又は両方であり得る。あるいは、流体は部分的に精製されていてもよい。たとえば、ウイルス含有流体をろ過又は遠心分離によってあらかじめ清澄化した後、少なくとも1つの均質化ステップに付すことができる。本発明の1つの実施形態では、均質化はウイルス含有細胞培養培地上で実施する。別の実施形態において、他の実施形態において、ウイルス含有細胞培養培地を前清澄化した後に均質化に付す。本発明の意味では、前清澄化とは、おおざっぱな清澄化を実施して、均質化の前に大きな複合体を除去すること、及び均質化したウイルス含有流体に関してさらなる清澄化を実施して、小さなサイズの混入物質を除去することを意味する。例えば、5μm膜フィルター上での前清澄化を、均質化前のウイルス含有細胞培養培地に関して実施することができ、前記均質化に続いて0.2μm膜フィルター上でさらなる清澄化を行う。したがって、1つの実施形態によると、本発明は、細胞培養で生産されたウイルス、又はそのウイルス抗原を回収する方法であって、(a)ウイルス又はそのウイルス抗原を含む流体を得るステップ、及び(b)流体を少なくとも1つの均質化ステップに付して、ウイルスホモジネートを生産するステップを含む方法を提供する。別の実施形態によれば、本発明は、細胞培養によって生産されるウイルス又はそのウイルス抗原を精製する方法であって、少なくとも:(c)ウイルス含有細胞培養培地を集めるステップ、及び(d)ウイルスを精製するステップを含む方法を提供し、この方法では、均質化の少なくとも1つのステップを精製中に実施して、ウイルスホモジネートを得る。特定の実施形態では、ウイルスを含む流体、特に、ウイルス含有細胞培養培地をHPH又は超音波処理によって連続して均質化し、ろ過又は遠心分離によって清澄化する。別の実施形態によれば、ウイルス含有細胞培養培地を、連続してろ過又は遠心分離によって前清澄化し、HPHによって均質化し、ろ過によってさらに清澄化する。
【0022】
したがって、本発明の意味において「ウイルスを含む流体」は、無傷細胞、細胞残屑及び/又は他の細胞構成成分、例えば可溶性タンパク質及びDNAをウイルス以外に含み得る。実際、無傷細胞及び細胞残屑は、感染後に細胞培養培地中に浮遊している場合があり、ウイルス感染後の自然細胞溶解のために、細胞の細胞内含有物が培地中に放出され得る。ウイルスは、遊離型、すなわち細胞から剥離した状態、及び/又は細胞残屑、又は細胞結合型、すなわち細胞及び/又は細胞残屑に結合した状態のいずれかである。遊離ウイルスは、ウイルスが凝集する傾向にあるので凝集体の形態であり得るか、又は個々の粒子の形態、すなわち非凝集形態であり得る。これは特に凝集現象が記録されているインフルエンザウイルスの事例である。
【0023】
凝集は、ウイルスの固有の特徴であり得、ある状況下での一般的な非特異的事象として好ましい場合もある。例えば、所定の容積内の粒子数が増えると、前記粒子間のランダムな衝突の危険性が助長され、増大するので、流体内のウイルス濃度は、最終的に非特異的凝集体形成に至る場合がある。温度も凝集に対して影響を及ぼし得る。ある構成成分がウイルス環境中に存在すること、すなわちウイルス含有流体中に含まれていることも、ウイルス凝集の誘発について説明できる。インフルエンザウイルスに関してのそのような構成成分の具体例として、ウイルス調製物中に存在する場合、インフルエンザウイルス凝集を誘発する化合物として、カルシウム及びマグネシウムを挙げることができる。細胞内でのウイルス複製及びアセンブリの促進に関与する一部の宿主細胞タンパク質は、おそらくは自然細胞溶解のために培地中に放出され得、ウイルス含有流体中に存在する場合は、ウイルス凝集の誘発の一因ともなり得る。ウイルス精製プロセスは、複数のステップによる複雑なプロセスである。これらのステップのいくつかは、凝集に有利であるが、精製経路において本質的な異なる目的のために用いられる構成成分が存在することを必要とする。例えば、ウイルス含有流体中に存在する宿主細胞から核酸を分解させるためのヌクレアーゼは、特に精製ウイルスをワクチン中に含めようとする場合はそのような核酸の除去が非常に望ましいので、用いられる。これらの酵素は、多くの場合、それらの活性のためにマグネシウムなどの元素を必要とする。したがって、ヌクレアーゼを用いる核酸分解ステップは、凝集を誘発し得る。ウイルスを不活化するその能力のためにウイルス精製プロセスで用いられるが、凝集の一因であることが知られている化合物の別の例は、ホルムアルデヒドである。したがって、ホルムアルデヒド処理ステップの後に均質化ステップを実施することが有利であり得る。同様に、限外ろ過は、精製プロセスの初期にウイルスを濃縮して、精製される容積を減じ、かくして精製プロセスの残りの期間で当該容積のその後の操作をより容易するためにしばしば用いられる。前述のように、凝集はそのような濃縮ステップによって促進され得る。
【0024】
本発明の意味では、「凝集」は、様々なサイズの細胞/細胞、細胞/ウイルス、及びウイルス/ウイルス複合体の形成として理解されるべきである。「細胞」という用語は、細胞自体に限定されるべきではない。無傷細胞、細胞残屑又は細胞断片、ならびに細胞内部に存在し、特に細胞がウイルスに感染した後に起こり得る細胞の自然溶解のために放出された細胞構成成分を包含する。例として、DNA、RNA及び可溶性タンパク質を、本発明のウイルス含有流体内に存在し得る宿主細胞要素として挙げることができる。
【0025】
本発明による方法は、均質化ステップ(複数可)を実施することにより、凝集体サイズ及び/又は数を減じ、したがってより多くの遊離ウイルスを提供し、そして有利には、より多くの非凝集形態の遊離ウイルスを提供することを目的とする。興味深いことに、本発明による方法は、凝集体形成及び相互作用の強さの原因となる相互作用の種類に関係なく、任意の種類の凝集に適用することができる。本発明の方法はまた、関与する凝集の種類、ウイルスの特異的な性質であるかどうか、又は前述のようなランダム衝突によるものであるかどうかに関係なく使用することもできる。
【0026】
均質化は、ウイルス精製プロセスの任意の好適なステップの前に実施することができる。特に、均質化は、凝集の存在によりマイナスの影響を受ける任意のステップの前に実施すべきである。なぜなら、前記凝集は当該ステップ中のウイルス損失の原因となるからである。
【0027】
均質化は、前述のように、ウイルス/ウイルス凝集体又は任意の種類の細胞/ウイルス凝集体であるかどうかによらず、その状態が凝集体形成に好ましい任意のステップの後で実施することもできる。細胞/ウイルス凝集体は、ウイルス集団のトラッピングをもたらし、その結果、前記ウイルスが事前に細胞又は細胞残屑から分離されていない場合、ウイルスをウイルス含有流体から精製すると、細胞混入物質とともに除去される可能性がある。ウイルスが遊離型、すなわち細胞又は細胞残屑から分離していても、大きな凝集体は、それらのサイズによって、精製中にも失われる可能性があるので、同様の問題がウイルス/ウイルス凝集体についても起こる。たとえば、ウイルス粒子のサイズ又は密度と比較してそれらのサイズ又は密度が大きいことに基づいて混入物質を除去することにより精製を行う場合、あるサイズ又は密度以上のウイルス凝集体も除去されるであろう。そのような原理は、特に、ある公称多孔度を有するフィルター又は膜上でのろ過、密度勾配超遠心分離をはじめとする遠心分離を含む任意のステップに適用可能であり、これらのステップは、多くの場合、ウイルス精製プロセス中で用いられる。
【0028】
ウイルス精製プロセスにおいて、どのステップが、どの程度まで凝集体形成をもたらすかを特定するために、例えば、特定のステップの前後などのプロセスの任意の時点で集められた試料中に存在する粒子のサイズを測定することにより、プロセスの異なるステップにわたって凝集レベルをモニターすることが可能である。任意の当技術分野で公知の技術を用いることができる。凝集のモニターは、凝集体があるならば直接的にこれを見ることができるようにし、それらの全体的なサイズ、ならびに凝集体単位の数、すなわち凝集体を形成する個々の成分の数を評価することを可能にする、光学又は電子顕微鏡画像を用いた視覚分析によって実施することができる。必要である場合、そのような分析は、実際的なサイズ計算と関連し得る。異なる集団をそれぞれのサイズ又は密度によって分離することを可能にする差別沈降に基づく技術も用いることができる。最近の方法は、動的光散乱(光子相関分光学とも呼ばれる)に基づき、また試験される試料内の凝集を評価するためにも適している。個々の粒子と大きな凝集体との区別を可能にする任意の技術は、直接タイプのものであるか又は間接タイプのものであるかどうかに関わらず、試料内の凝集レベルを評価するために適している。非限定的な例として、CPSディスク遠心分析法を粒子サイズの測定法として挙げることができる。この技術は、技術の感度が様々であり得るので、個々の粒子、例えば対象の非凝集ウイルスの予想されるサイズ、及び/又は分析しようとする異なる集団間の予想されるサイズの差に応じて選択されるであろう。
【0029】
これらの技術は、流体が均質化された後の均質化効率を決定するためにも有用である。実際、同じ技術を、その均質化の前後で、試料内の粒子サイズを分析するために用いることができ、大きな凝集体集団が減少し、均質化効果を反映して、付随して小さなサイズの集団が増大することが観察できる。
【0030】
適切な場合、これらの技術は、例えば対象のウイルスの精製された溶液を試験し、分析する正の対照を用いて較正しなければならない。
【0031】
均質化技術及び適切な条件は、ウイルスの種類及びウイルス生産に用いられる細胞の種類にしたがって選択され、最適化される。条件を、均質化しようとする流体において存在する凝集レベル、及び調査される凝集体分離レベルに適応させなければならない。凝集体は、ウイルス含有流体に適用される均質化の強度に応じて、多少分解される可能性がある。例えば、高圧均質化を用いる場合、加える圧力を変えることは、凝集分解レベルに対して影響を及ぼすであろう。本発明の意味では、「高圧(HPH)」という用語は、約50バール超、特に約100バール超、さらに詳細には約500バール超の圧力を意味する。本発明の1つの実施形態では、HPHステップ中に加えられる圧力は、100〜1500バール、特に、500〜1200、さらに詳細には、700〜1000の範囲である。具体的な実施形態において、均質化をHPHによって実施する場合、圧力は約700バールである。細胞及び/又はウイルスに応じて、流体内の凝集形成の原因となる相互作用は、様々な強度を有し得る。したがって、一部の凝集体は均質化に対してより耐性であり得、さらに厳しい条件を必要とするであろう。前述のように、圧力を変えることは、均質化、又は分解効率を改善する一助となる。サイクル数も、凝集分解効率に対してプラスの影響を及ぼし得、この数は、特定の実験にしたがって最適化されるであろう。本発明は、均質化ステップあたり少なくとも1サイクル、好適には少なくとも2サイクル、さらに好適には均質化ステップあたり少なくとも3サイクルの均質化を企図する。HPHに関して、均質化バルブ形状も、HPH条件を最適化する場合、考慮しなければならないパラメータである。
【0032】
粒子サイズ分析技術の結果によれば、ウイルス精製プロセスにおける任意の所定のステップはその後、事前の均質化を目標とすることができ、この特定のステップのウイルス収率を増大させることができる。均質化は、目標のステップ後に実施して、その後のステップのウイルス収率を増大させることもできる。
【0033】
たとえば、清澄化ステップを実施する場合、均質化ステップを好適には清澄化の前に実施して、大きな細胞又は細胞残屑複合体中にトラップされたウイルスが、清澄化をろ過により行う場合に、フィルター上に残って失われるか、又は清澄化を遠心分離により実施する場合には、沈殿したペレット中に失われることを回避することができる。結果として、前記流体を清澄化する前にウイルス含有流体を事前に均質化することにより、清澄化後に得られるウイルス収率は改善されるであろう。したがって、本発明の方法の1つの実施形態では、均質化を、ウイルス含有流体の清澄化の前に実施する。具体的な実施形態において、清澄化をろ過により実施する。別の実施形態では、清澄化を遠心分離によって実施する。随意に、前記均質化、すなわち清澄化の前に実施される均質化の前に、ウイルス含有流体を前清澄化して、大きな混入物質を除去した後、均質化に進行する。事前の均質化のウイルス清澄化収率に対するプラスの影響は、特定のフィルターに限定されない。任意の種類のフィルターを、均質化後の清澄化に用いることができる。好適なものは、セルロースフィルター、再生セルロースフィルター、無機ろ過助剤及び有機樹脂と組み合わせたセルロース繊維、又はそれらの任意の組み合わせ、及びポリマー性フィルターを使用することができる。必須ではないが、例えば、適切な公称細孔径を有するフィルター、特に減少する公称細孔径を有するフィルターを使用して、大きな沈殿物及び細胞残屑の除去から始めることを可能にし、それらのサイズにより不純物を連続的に及び徐々に除去することを含む2段階又は3段階等の多重ろ過プロセスを実施してもよい。加えて、比較的細かいフィルター又は遠心分離を使用する単一段階作業を、清澄化に使用することもできる。より一般的には、これらに限定されないが、デッドエンドろ過(dead−end filtration)、デプスろ過(depth filtration)、精密ろ過、又は遠心分離を含み、その後のステップで膜及び/又は樹脂を詰まらせない好適な清澄性のろ過液を提供する任意の清澄化手法が、本発明の清澄化ステップで使用に許容されるだろう。したがって、本発明の特定の実施形態によると、ウイルス清澄化ステップは、デプスろ過により、特に、これらだけではないが、例えば、5μm−0.5μm−0.2μmの公称多孔度を有する3つの異なるデプスフィルターで構成される3段階連続ろ過を使用して実施される。本発明の具体的な実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を連続してHPHにより均質化し、5μm−0.5μm−0.2μm連続ろ過を用いて清澄化する。別の実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地などのウイルス含有流体を連続して5μmフィルター膜上で前清澄化し、例えばHPHにより均質化し、0.2μmフィルター膜上でさらに清澄化する。別の実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地などのウイルス含有流体を、連続して例えばHPHにより均質化し、遠心分離により清澄化し、随意にデプスろ過により、例えば0.2μmフィルターを用いてさらに精製する。中性でなく、正に荷電した膜又はフィルターを用いる場合、前記膜又はフィルターを、塩を含むリンス緩衝液でリンスして、膜又はフィルターとのイオン相互作用により保持されたウイルス画分を溶出させる更なるステップを実施することが有用であり得る。リンス緩衝液中に含めることができる好適な塩の一例は塩化ナトリウム(NaCl)であり、これは0.1M〜2M、特に、0.5M〜1.5M、好適には1Mの範囲の濃度で存在し得る。本発明の1つの実施形態では、清澄化を膜ろ過により実施する場合、前清澄化であるか又は清澄化であるかに関わらず、前記清澄化は、NaCl、特に、NaCl(1M)を含む緩衝液での膜リンスステップを含む。
【0034】
ろ過によって清澄化する場合、事前の均質化ステップは、任意の種類の凝集体のサイズ及び数を低減することによって、前述のように、ウイルス含有流体を清澄化するために必要なフィルター表面積を限定する追加的及び同時利点をもたらす。大規模生産を行う場合に特に有利である。実際、全体的に小さなサイズの粒子を含む流体が結果として得られる凝集体形成の低減のために、大きな凝集体の存在による膜の填塞の危険性が低減する。凝集体が分解される程度、すなわち均質化後に得られる最終粒子サイズ、及び清澄化に使用される膜フィルターの多孔度に応じて、危険性の低減とは、流体がまず均質化される場合、膜填塞が完全に防止されないが、所定の膜上での填塞が起こる前に、より大きな容積がろ過されるという意味で、少なくとも遅延されることを意味する。填塞の発生及び強度は、ろ過操作中に入口圧をモニターすることによって評価することができる。膜フィルターが詰まるほど、入口圧値は高くなる。本発明者等は、ウイルス含有流体をろ過する前にまず均質化する場合に、その後のろ過中に、入口圧値は、最初に均質化されない同様の流体と比較して減少することを見いだし、これは、填塞が防止されないにしても、少なくとも制限されることを示す。結果として、填塞のために膜を交換する必要が無く、さらに大きな容積を同じ膜上でろ過できるので、ろ過される所定の容積に関するろ過面積が減少した。
【0035】
本発明によれば、細胞培養培地からウイルスを精製する間、ウイルスを濃縮するために及び/又は緩衝液を交換するために、ウイルス懸濁液を限外ろ過(緩衝液交換に使用される場合は、ダイアフィルトレーションと呼ばれる場合もある)にかけることができる。このステップは、接種後数日にわたって灌流により収集されたウイルス回収物を貯溜する場合のように、精製しようとするウイルスが希釈されている場合に特に有用である。本発明の方法によりウイルスを濃縮するために使用されるプロセスは、希釈液がウイルス懸濁液から除去されるが、ウイルスはフィルターを通り抜けることができず、それによりウイルス調製において濃縮形態を維持するように、希釈液を強制的にフィルターに通すことによりウイルスの濃度を増加させる任意のろ過プロセスを含むことができる。限外ろ過は、塩、糖、非水性溶媒の除去及び交換、低分子量物質の除去、イオン及び/又はpH環境の迅速な変化に理想的な方法であるダイアフィルトレーションを含んでもよい。微細溶質は、限外ろ過速度と等しい速度で、限外ろ過されている溶液に溶媒を添加することにより最も効率的に除去される。これにより、一定容積の溶液から微細種が洗浄され、保持されたウイルスが単離される。下流のステップが、最適な反応を得るために特定の緩衝液の使用を必要とする場合、ダイアフィルトレーションが特に有利である。たとえば、ヌクレアーゼを用いて宿主細胞核酸を分解する前にダイアフィルトレーションステップを実施することにより、そのヌクレアーゼに特異的で最適な緩衝液中でヌクレアーゼ反応を実施することが可能になる場合がある。スクロース勾配超遠心分離後のスクロース、又はホルムアルデヒドによるウイルス不活化ステップ後のホルムアルデヒド等の望ましくない化合物を除去することが求められる場合、濃縮及びダイアフィルトレーションを、精製プロセスの任意の好適なステップで実施することもできる。この系は、3つの別個のプロセス流:供給溶液(ウイルスを含む)、透過液、及び残留物で構成される。応用に応じて、異なる細孔径を有するフィルターを使用することができる。本発明では、残留物は、ウイルスを含有しており、望ましい場合、更なる精製ステップに使用することができる。膜組成は、これらに限定されないが、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、又はそれらの誘導体であってもよい。膜は、平板(ファルトスクリーン(falt screen)とも呼ばれる)であってもよく、又は中空繊維であってもよい。前述のように、ウイルスを、例えば限外ろ過により濃縮することにより、非特異的ウイルス凝集を促進することができる。したがって、ウイルス流体の濃縮後に均質化ステップを実施することにより、この凝集が分解され、したがって任意のその後のステップは凝集によりマイナスの影響を受けないことが予想される。1つの実施形態では、本発明の方法は、ウイルス精製中に少なくとも1つの限外ろ過/ダイアフィルトレーションステップを含み、均質化を前記ステップの後に実施する。したがって、本発明の具体的な実施形態において、ウイルス含有細胞培養培地などのウイルス含有流体を連続して、特に、5μmフィルター上で又は遠心分離により前清澄化し、限外ろ過により濃縮し、HPH又は超音波処理により均質化し、そして例えば0.2μmフィルター上でさらに清澄化する。
【0036】
細胞培養で生産されたウイルスがどの応用のために精製されるかによって、ウイルス懸濁液から宿主細胞核酸混入物質を除去することが望ましい場合もある。特に、精製されたウイルスをワクチン中に含めようとする場合、宿主細胞核酸を分解し、精製されたウイルスから除去しなければならない。核酸分解は、RNA及びDNAを標的とするヌクレアーゼの使用により起こることが多い。宿主細胞核酸を分解するために適したヌクレアーゼの非限定的な例は、Benzonase(商標)である。Benzonase(商標)、又は任意の他の好適なヌクレアーゼは、ウイルス精製プロセスの任意の好適なステップで添加することができる。凝集は、ウイルス含有流体をヌクレアーゼで処理した後に誘発され得るだけでなく、凝集は、ヌクレアーゼ反応にマイナスの影響を及ぼし得る。前述のように、Benzonase(商標)を含むヌクレアーゼなどのある酵素は、それらの活性のためにカルシウム及び/又はマグネシウムなどの元素が反応緩衝液中に存在することを必要とする。しかし、そのような元素はウイルス凝集形成も促進し得る。結果として、ウイルス凝集体がヌクレアーゼ処理中に形成され得る。ヌクレアーゼ有効性に関しても、凝集は問題であり得る。核酸を複合体形成させ、細胞、細胞残屑及び/又はウイルス内にトラップさせることが可能である。これらのトラップされた核酸はヌクレアーゼに接近することができず、したがって、ヌクレアーゼによる分解を免れる。ヌクレアーゼ処理に関して、凝集の問題は、処理前であるか、又はその結果としてのいずれかにかかわらず、均質化ステップを適切な時点で、それぞれヌクレアーゼでウイルス含有流体を処理する直前又は前記処理の直後に実施することによって克服することができる。1つの実施形態では、本発明の方法は、ヌクレアーゼ分解ステップ、好適にはBenzonase(商標)処理を含み、均質化を、ヌクレアーゼの添加前若しくはヌクレアーゼ処理後のいずれか、又は前後の両方で実施する。例えば、前記ウイルス含有細胞培養培地がすでに均質化されているか否かにかかわらず、ヌクレアーゼを、清澄化ウイルス含有細胞培養培地の限外ろ過後に得られる残留物に添加することができる。本発明はまた、ウイルス精製プロセスにおいて均質化を2回以上実施することも企図する。したがって、本発明の具体的な実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を、連続して、特にHPHにより均質化し、ろ過又は遠心分離により清澄化し、限外ろ過により濃縮し、HPHにより均質化し、Benzonase(商標)で処理し、そして随意に再均質化する。本発明の別の実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を連続して、Benzonase(商標)で処理し、例えばHPHにより均質化し、そしてろ過又は遠心分離により清澄化する。
【0037】
所望により、本発明にしたがって得られるウイルスを、密度勾配遠心分離、例えばスクロース勾配超遠心分離、及び/又はクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー等のウイルス精製に用いられる標準的技術を用いてさらに精製することができる。
【0038】
ウイルス精製プロセス中に密度勾配超遠心分離ステップを実施する場合、ウイルス含有流体を均質化した後、遠心分離ローターに負荷するのが有利であり得る。なぜなら、凝集体は、流体内に存在する場合、超遠心分離ステップ収率にマイナスの影響を及ぼし得るからである。前述のように、凝集体サイズ及びウイルスが凝集体中にトラップされているかどうかによって、多少のウイルス損失がこの種類のステップ中に起こり得る。したがって、ウイルス含有流体の負荷前の、均質化による凝集分解は、超遠心分離後に得られるウイルス収率を増大させるのに役立つ可能性がある。したがって、スクロース勾配超遠心分離を実施して、細胞培養で生産されたウイルスを精製する1つの実施形態では、ウイルス含有流体の均質化は、遠心分離ローターに負荷する前に実施される。したがって、本発明の具体的な実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を、連続して、HPHにより均質化し、ろ過又は遠心分離により清澄化し、限外ろ過により濃縮し、随意にHPHにより再均質化し、そして少なくとも1つのスクロース勾配超遠心分離ステップに付す。別の実施形態では、Benzonase(商標)処理ステップを限外ろ過ステップと均質化ステップとの間で実施する。
【0039】
本発明に従って調製したウイルスは、例えば、ウイルスタンパク質の精製、分析アッセイ、宿主細胞の感染、診断目的又は治療もしくは予防用途、たとえば予防接種及び臨床投与をはじめとする任意の目的に使用することができる。
【0040】
興味深いことに、本発明者等は、均質化がウイルス生存性に影響を及ぼさないことを見出した。ウイルスの種類に応じて、均質化条件を最適化して、ウイルス生存性を維持することが必要であり得る。というのも、ウイルスは均質化に対して異なる特異的耐性を有し得るからである。ウイルス生存性を評価するための任意の当技術分野で公知の方法、例えば、ウイルス粒子の電子顕微鏡分析、スクロース勾配遠心分離分析、又はウイルス滴定を、本発明に関連する目的で使用することができ、本発明の方法にしたがって生産されたウイルスの感染性をチェックすることが可能になる。
【0041】
本発明の方法は、アデノウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、レオウイルス、及びレトロウイルスを含むがそれらに限定されない広範囲のウイルス、細胞に感染することができ、それらを自身の複製に使用することができる任意のウイルスに適している。特に、本発明の方法は、ミクソウイルス等のエンベロープウイルスに好適である。1つの実施形態では、本発明の方法により生産されるウイルスは、オルトミクソウイルスのファミリーに属しており、特にインフルエンザウイルスである。
【0042】
ウイルス又はウイルス抗原は、インフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルスに由来していてもよい。オルトミクソウイルス抗原は、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質(M1)、膜タンパク質(M2)、トランスクリプターゼ(PB1、PB2、及びPA)の1つ又は複数を含むウイルスタンパク質の1つ又は複数から選択されてもよい。特に好適な抗原には、インフルエンザ亜型の抗原特異性を決定する2つの表面糖タンパク質であるHA及びNAが含まれる。
【0043】
インフルエンザウイルスは、ヒトインフルエンザウイルス、トリインフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルスの群から選択することができる。より具体的には、インフルエンザウイルスは、A、B、及びC株で、好ましくはA株及びB株から選択される。
【0044】
インフルエンザ抗原は、大流行間期(例年の又は季節性の)インフルエンザ株に由来してもよい。あるいは、インフルエンザ抗原は、大流行発生を引き起こす能力を有する株に由来してもよい(つまり、現在流行している株の赤血球凝集素と比較して新しい赤血球凝集素を有するインフルエンザ株、又はトリ対象体において病原性であり、ヒト集団中で水平伝染する可能性を有するインフルエンザ株、又はヒトに病原性であるインフルエンザ株)。特定の季節、及びワクチンに含まれている抗原の性質に応じて、インフルエンザウイルス又はその抗原は、以下の赤血球凝集素亜型:H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、又はH16の1つ又は複数に由来してもよい。好ましくは、インフルエンザウイルス又はその抗原は、H1、H2、H3、H5、H7、又はH9亜型に由来する。
【0045】
本発明による方法で使用される細胞は、基本的には、細胞培養で培養することができ、ウイルス複製を支援することができる任意の所望の細胞タイプの細胞であり得る。それらは、接着して増殖する細胞であってもよく、又は懸濁状態で増殖する細胞であってもどちらでもよい。それらは、初代細胞であってもよく、又は連続細胞系のいずれであってもよい。遺伝学的に安定した細胞系が好ましい。
【0046】
哺乳動物細胞、例えばヒト、ハムスター、ウシ、サル、又はイヌ細胞が、特に好適である。
【0047】
多数の哺乳動物細胞系が当技術分野で公知であり、それらには、PER.C6、HEK細胞、ヒト胚腎臓細胞(293細胞)、HeLa細胞、CHO細胞、ベロ細胞、及びMDCK細胞が含まれる。
【0048】
好適なサル細胞は、例えば、前記ベロ細胞系のように腎臓細胞等のアフリカミドリザル細胞である。好適なイヌ細胞は、例えば、前記MDCK細胞系のように腎臓細胞である。
【0049】
インフルエンザウイルスを増殖させるのに好適な哺乳動物細胞系には、MDCK細胞、ベロ細胞、又はPER.C6細胞が含まれる。これら細胞系は全て、例えば、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)から広く入手可能である。
【0050】
特定の実施形態によると、本発明の方法では、MDCK細胞が使用される。元のMDCK細胞系は、CCL−34としてATCCから入手可能であるが、懸濁状態での増殖に適したMDCK細胞等の、この細胞系の誘導体も使用することができる(国際公開第1997/37000号パンフレット)。
【0051】
あるいは、本発明で使用するための細胞系は、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、又はキジ等のトリ起源に由来していてもよい。トリ細胞系は、胚、ヒヨコ、及び成体を含む様々な発生段階に由来してもよい。特に、細胞系は、胚線維芽細胞、生殖細胞等の胚細胞、又はニューロン、脳、網膜、腎臓、肝臓、心臓、筋肉を含む個々の器官、又は胚外組織及び胚を保護する膜に由来してもよい。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を使用してもよい。トリ細胞系の例には、トリ胚幹細胞(国際公開第01/85938号パンフレット)及びアヒル網膜細胞(国際公開第05/042728号パンフレット)が含まれる。特に、アヒル胚幹細胞に由来するEB66(登録商標)細胞系が、本発明で企図される。他の好適なトリ胚幹細胞には、ニワトリ胚幹細胞、EB45、EB14、及びEB14−074に由来するEBx(登録商標)細胞系が含まれる(国際公開第2006/108846号パンフレット)。このEBx細胞系には、その樹立が天然的にもたらされ、いかなる遺伝的、化学的、又はウイルス性の修飾も必要としなかった、安定した細胞系であるという利点がある。これらトリ細胞は、インフルエンザウイルスを増殖させるのに特に好適である。
【0052】
特定の実施形態によると、本発明の方法では、EB66(登録商標)細胞が使用される。
【0053】
細胞培養条件(温度、細胞密度、pH値等)は、使用される細胞の適合性に応じて非常に広い範囲にわたって変動し、特定のウイルスの詳細な増殖条件の要求に適応させることができる。細胞培養は、当技術分野において広範に文書化されているため、適切な培養条件を決定することは、当業者の能力内にある(例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, editors (1973)、及びR.I. Freshney, Culture of animal cells: A manual of basic technique, fourth edition (Wiley−Liss Inc., 2000, ISBN 0−471−34889−9)を参照。
【0054】
特定の実施形態では、本発明に記載の方法で使用される宿主細胞は、無血清及び/又は無タンパク質培地中で培養される。「無血清培地」(SFM)は、細胞生存及び細胞増殖を可能にする血清添加を必要としない使用準備済の細胞培養培地を意味する。この培地は、必ずしも化学的に定義されておらず、種々の由来、例えば植物由来の水解物を含有していてもよい。そのような無血清培地には、ウイルス、マイコプラズマ、又は未知の伝染性因子による汚染を排除することができるという利点がある。「無タンパク質」とは、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加物、及び非血清タンパク質が除外されていても細胞増殖が生じる培養を意味すると理解される。随意に、ウイルス増殖に必要な場合があるトリプシン又は他のプロテアーゼ。そのような培養で自然に増殖する細胞は、それら自体にタンパク質を含有している。
【0055】
無血清培地は、多数の供給業者、例えばVP SFM(Invitrogen社 カタログ番号11681−020)、Opti−Pro(Invitrogen社 カタログ番号12309−019)、又はEX−CELL(JHR Bioscience社)から商業的に入手可能である。
【0056】
細胞は、種々の方法で増殖させることができ、例えば懸濁状態で増殖させてもよく、又はマイクロキャリア上での増殖のように表面に接着させて増殖させてもよく、又はそれらの組合せであってもよい。培養は、培養皿、フラスコ、ローラーボトル、又はバッチ、流加バッチ、若しくは灌流システム等の連続型システムを使用するバイオリアクターで実施することができる。典型的には、細胞は、主細胞バンクバイアル又は作業用細胞バンクバイアルから、種々のサイズのフラスコ又はローラーボトルを介して、最終的にはバイオリアクターへとスケールアップされる。1つの実施形態では、本発明の方法により使用される細胞は、撹拌バイオリアクターの無血清培地中のマイクロキャリアビーズで培養され、培養培地は灌流により提供される。
【0057】
代替的な実施形態では、細胞は、バッチ法で懸濁状態で培養される。
【0058】
ウイルスによる感染に先立って、細胞は、約37℃、より好適には36.5℃で、6.7〜7.8の範囲のpH、好適には約6.8〜7.5、より好適には約7.2のpHで培養される。
【0059】
本発明の方法によると、細胞培養に基づくウイルス生産は、一般的に、生産しようとするウイルス株で培養細胞を接種するステップと、ウイルス複製を可能するために感染細胞を所望の期間培養するステップとを含む。
【0060】
大量の細胞産生ウイルスを生産するためには、細胞が高密度に達した時に、所望のウイルス株で細胞を接種することが有利であり得る。通常、細胞密度が、少なくとも約5×10細胞/ml、好ましくは6×10細胞/ml、又は更により好ましくは7×10細胞/ml以上でさえある時に、接種を実施する。最大のウイルス生産を得るための最適な細胞密度は、ウイルス増殖に使用される細胞タイプにより異なる場合がある。
【0061】
接種は、約10−1〜10−7のMOI(感染多重度)、好適には10−2〜10−6、及びより好適には約10−5のMOIで実施することができる。
【0062】
ウイルス感染の温度及びpH条件は、異なる場合がある。温度は、ウイルスタイプに応じて、32℃〜39℃の範囲であってもよい。インフルエンザウイルスを生産する場合は、細胞培養感染は、生産される菌株に応じて異なる場合がある。インフルエンザウイルス感染は、好適には、32℃〜35℃の範囲の温度で、好適には33℃で実施される。1つの実施形態では、ウイルス感染は33℃で行う。代替的な実施形態では、ウイルス感染は35℃で行う。ウイルス株に応じて、プロテアーゼ、典型的にはトリプシンを細胞培養に添加して、ウイルス複製を可能にすることができる。プロテアーゼは、培養中に任意の好適な段階で添加することができる。トリプシン(Tryspin)は、好ましくは非動物由来であり、つまりプロテアーゼは、動物供給源から精製されていない。トリプシンは、好適には、細菌、酵母等の微生物中で又は植物中で組換え的に生産される。組換えトリプシンの好適な例は、トウモロコシ中で産生された組換えトリプシンであるTrypzean(Prodigen社製、101 ゲートウエイ ブルーバード テキサス州 77845 メーカーコード:TRY)、又は真菌中で発現されたトリプシン様酵素であるTrpLE(Invitrogen社製)(国際公開第2004/020612号パンフレット)である。
【0063】
感染すると、細胞は、受動溶解とも呼ばれる宿主細胞の自然溶解により、新しく形成されたウイルス粒子を培養培地に放出することができる。したがって、1つの実施形態では、細胞産生ウイルス回収物は、細胞培養培地を収集することにより、ウイルス接種後の任意の時間で提供することができる。ウイルス接種後の異なる時点で細胞産生ウイルスを回収し、必要に応じてその異なる回収物を貯留することが所望の場合、この回収方法は特に好適である。
【0064】
あるいは、ウイルス感染後に、細胞培養に基づくウイルスは、能動溶解とも呼ばれる、宿主細胞を溶解するための外的因子を使用することにより回収することができる。しかしながら、前述のものとは対照的に、能動的な細胞溶解は細胞培養を直ちに終了させるため、そのような回収方法は、細胞由来のウイルス回収物を単一の時点で収集することを必要とする。
【0065】
能動的細胞溶解に使用することができる方法は当業者に公知である。この点で有用な方法は、例えば、凍結融解、固体剪断、高浸透圧及び/又は低浸透圧溶解、液体剪断、高圧放出、界面活性剤による溶解、又はそれらの任意の組合せである。
【0066】
1つの実施形態によると、細胞培養に基づくウイルス回収物は、細胞培養上清を収集すること、接種された細胞を溶解すること、又はその両方により、ウイルス接種後の任意の時間で提供することができる。
【0067】
回収する前に、細胞感染を2〜10日間継続することができる。特定の実施形態によると、接種後3、4、及び5日目の培養液上清を、更なる下流プロセス(ウイルス単離)のために回収及び貯留する。別の実施形態によると、細胞培養上清は、接種後5日目から収集される。細胞産生ウイルスを回収するのに最適な時間は、通常、感染のピークを決定することに基づく。例えば、CPE(細胞変性効果)は、細胞球状化、無定位性(disorientation)、膨潤又は収縮、死滅、表面からの剥離を含む、ウイルス接種後に宿主細胞に生じる形態学的変化をモニターすることにより測定される。特定のウイルス抗原の検出は、ウェスタンブロット分析等のタンパク質検出の標準技術によりモニターすることもできる。その後、所望の検出レベルの達成時に、回収物を収集することができる。インフルエンザウイルスの特定の場合では、HAの含有量は、当業者によく知られている技術であるSRDアッセイにより、細胞をウイルスで接種した後の任意の時間でモニターすることができる(Wood, JM, et al. (1977). J. Biol. Standard. 5, 237−247)。加えて、SRDアッセイは、最適化されたウイルス収率を得るのに必要とされる最適な細胞密度範囲を決定するために使用することもできる。
【0068】
本発明の状況では、細胞培養段階は、ウイルス収集ステップ前のあらゆるステップを包含すると理解されるべきであり、ウイルス単離段階は、前記収集段階後のあらゆるステップを包含すると理解されるべきである。本発明によれば、ウイルス精製段階は、プロセスの任意の適切な時点で実施される少なくとも1つの均質化ステップを含む。したがって、本発明の特定の実施形態では、ウイルス精製段階は、少なくとも1つの均質化ステップに加えて、清澄化、核酸分解、限外ろ過/ダイアフィルトレーション、密度勾配超遠心分離、及びクロマトグラフィー、又はそれらの任意の組合せから選択される少なくとも1つのステップを含む。所望の純度レベルに応じて、上記ステップは、いかようにも組合せることができる。特定の実施形態では、少なくとも1つのHPHステップは、上記精製ステップがウイルス精製段階中に実施される場合、上記精製ステップのいずれかと組み合わせて実施される。本発明は、たとえば、表示したステップを実施する場合、HPHを、清澄化前、又は核酸分解前、又はスクロース勾配超遠心分離前に実施することを企図する。本発明は、精製ステップの組み合わせも提供する。従って、特定の実施形態によると、均質化、特にHPHは、清澄化、限外ろ過及び、随意にBenzonase(商標)の連続したステップの後に実施される。清澄化/限外ろ過/Benzonase(商標)/HPHのこの組み合わせは、さらなる精製ステップ、例えば、スクロース勾配超遠心分離ステップと関連していてもよく、この後者の組み合わせは、本発明の別の目的を形成する。
【0069】
本発明の方法によると、スクロース勾配超遠心分離等の精製ステップをウイルス分割ステップと組合せることが可能であり得る。具体的には、分割剤をスクロース勾配に添加することができる。この実施形態は、ウイルスの精製及び分割の両方が単一作業で可能になるため、本発明の方法のステップの総数を最小限に抑えることが望ましい場合、特に好適である。したがって、ある実施形態では、少なくとも1つのスクロース勾配超遠心分離が実施される場合、スクロース勾配は分割剤をさらに含む。
【0070】
あるいは、本発明の方法のウイルス分割ステップは、実施される場合は、バッチで実施される。
【0071】
ウイルス精製段階の終わりで、本発明の方法にしたがって得られたウイルス調製物は、好適にはろ過滅菌法にかけられ、これは免疫原性組成物又はワクチン等の医薬品等級物質のプロセスと共通しており、当業者に公知である。そのようなろ過滅菌は、例えば好適には、0.22μmフィルターで調製物をろ過することにより実施することができる。無菌調製した後で、ウイルス又はウイルス抗原は、所望により、臨床使用の準備ができている状態である。
【0072】
免疫原性組成物、特にワクチンは、一般的にはサブビリオン形態、例えば、脂質エンベロープが溶解されているか又は分解されている分割ウイルスの形態で、又は1つ若しくは複数の精製ウイルスタンパク質(サブユニットワクチン)の形態で製剤することができる。代案として、免疫原性組成物は、全ウイルス、例えば生菌弱毒化全ウイルス、又は不活化全ウイルスを含んでいてもよい。
【0073】
インフルエンザウイルス等のウイルスを分割する方法は、当技術分野で周知である(国際公開第02/28422号パンフレット)。ウイルスの分割は、分解濃度の分割剤を用いて、感染性(野生型又は弱毒化)か又は非感染性(不活化)かに関わらず、全ウイルスを分解又は断片化することにより実施される。分割剤には、一般的に、脂質膜を分解及び溶解可能な作用剤が含まれる。伝統的に、分割インフルエンザウイルスは、トリ−n−ブチルホスフェート、又はTween(商標)と組合せたジエチルエーテル(「Tween−エーテル」分割として知られている)等の溶媒/界面活性剤処理を使用して生産され、このプロセスは、幾つかの生産設備で未だに使用されている。現在使用されている他の分割剤には、界面活性剤又はタンパク質分解酵素又は胆汁酸塩、例えばデオキシコール酸ナトリウムが含まれる。分割剤として使用することができる界面活性剤には、陽イオン性界面活性剤、例えばセチルトリメチル臭化アンモニウム(CTAB)、他のイオン性界面活性剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、タウロデオキシコレート、又はTween若しくはトリトンX−100等の非イオン性界面活性剤、又は任意の2つ以上の界面活性剤の組合せが含まれる。
【0074】
1つの実施形態では、分割剤はデオキシコレートである。別の実施形態では、分割剤はトリトンX−100である。更なる実施形態では、本発明による方法では、分割剤としてトリトンX−100及びラウリル硫酸ナトリウムの組合せが使用される。
【0075】
分割プロセスは、バッチプロセス、連続プロセス、又は半連続プロセスとして実施することができる。バッチで実施される場合、分割ウイルスは、クロマトグラフィーステップ等の、追加的精製ステップが必要とされる場合がある。精製ステップと同時に分割を実施することが可能であるため、分割ステップそれ自体は実施する必要はない。例えば、界面活性剤は、上述のように、超遠心分離によりウイルスタンパク質を精製することを目的としたスクロース勾配に添加することができる。1つの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの均質化ステップに加えて、界面活性剤、特に、トリトンX−100を用いてバッチで実施される分割ステップを含む。
【0076】
ワクチンの安全性のため、精製プロセスの様々なステップにわたってウイルス懸濁液の感染力を低減することが必要とされる場合がある。ウイルスの感染力は、ウイルスが細胞系で複製する能力により決定される。したがって、本発明による方法は、随意に、少なくとも1つのウイルス不活化ステップを含む。不活化は、本方法の任意の好適なステップで、例えばベータ−プロピオラクトン(BPL)、ホルムアルデヒド、若しくはUV、又はそれらの任意の組み合わせを使用することにより実施することができる。1つの特定の実施形態では、本発明による方法は、少なくとも1つのBPL処理ステップをさらに含む。特定の実施形態では、本発明による方法は、少なくとも1つのBPL処理ステップ及び少なくとも1つのホルムアルデヒド処理ステップをさらに含む。ホルムアルデヒド及びBPLは、連続して任意の順序で使用することができ、例えばホルムアルデヒドは、BPLの後に使用される。1つの実施形態では、ホルムアルデヒド処理に続いて少なくとも1つの均質化ステップを行う。特に、UVを不活化法として用いる場合、UV照射の前にウイルス調製物の均質化を実施することは、ウイルス不活化の効率を改善する助けになり得る。凝集体内に存在するウイルス又はウイルスの一部は、前記凝集体内に埋設され、したがって一部のウイルス又はウイルス部分が不活化剤に接近しにくいので、ウイルス凝集体であるか又はウイルス/細胞凝集体であるかにかかわらず、照射を免れ得る。1つの実施形態では、本発明の方法にしたがって得られたウイルス調製物は、例えば、UV照射により不活化され、均質化を前記不活化の直後に実施する。したがって、本発明の具体的な実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を清澄化し、HPHにより均質化し、そしてUVでさらに処理する。別の実施形態では、ウイルス含有細胞培養培地を連続して、HPHにより均質化し、ろ過又は遠心分離により清澄化し、そしてBPL又はUVでさらに処理する。ウイルス不活化の条件は様々であってもよく、具体的には、組織培養感染量(TCID50/ml)を測定することにより残留ウイルス感染力を評価することにより決定されるだろう。
【0077】
ワクチンを含む本発明の免疫原性組成物は、随意にワクチン用に通例となっている添加剤、具体的には組成物を受容する患者に誘発される免疫応答を増加させる物質、つまりいわゆるアジュバントを含有することができる。
【0078】
1つの実施形態では、免疫原性組成物は、好適な医薬担体と混合された本発明のウイルス又はそのウイルス抗原を含むことが企図される。特定の実施形態では、それらはアジュバントを含む。
【0079】
アジュバント組成物は、代謝可能な油及び乳化剤を含む水中油型乳剤を含んでいてもよい。任意の水中油型組成物がヒト投与に好適であるためには、乳剤系の油相は、代謝可能な油で構成されていなければならない。代謝可能な油という用語の意味は、当技術分野で周知である。代謝可能とは、「代謝により変換することが可能である」と定義することができる(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary, W.B. Sanders Company, 25th edition (1974))。油は、任意の植物油、魚油、動物油、又は合成油であってもよく、受容者に毒性でなく、代謝により変換が可能である。ナッツ、種子、及び穀物は、植物油の一般的供給源である。合成油も本発明の一部であり、NEOBEE(登録商標)等の市販の油が含まれていてもよい。
特に好適な代謝可能な油は、スクアレンである。スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)は、鮫肝油中に多量に見出され、オリーブ油、麦芽油、米糠油、及び酵母中により少量見出される不飽和油であり、本発明で使用するために特に好ましい油である。スクアレンは、コレステロール生合成の中間体であるという事実により、代謝可能な油である(メルクインデックス、第10版、エントリー番号8619)。本発明の更なる実施形態では、代謝可能な油は、免疫原性組成物中に、組成物の全容積の0.5%〜10%(容積/容積)の量で存在する。
【0080】
水中油型乳剤は、乳化剤をさらに含む。乳化剤は、適切にはポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートであってもよい。さらに前記乳化剤は、好適には、ワクチン又は免疫原性組成物中に、組成物の全容積の0.125〜4%(容積/容積)で存在する。
【0081】
本発明の水中油型乳剤は、随意にトコール含む。トコールは、当技術分野で周知であり、欧州特許第0382271号明細書に記述されている。好適には、トコールは、アルファ−トコフェロール又はアルファ−トコフェロールスクシナート(ビタミンEスクシナートとしても知られている)等のその誘導体であってもよい。前記トコールは、好適にはアジュバント組成物中に、免疫原性組成物の全容積の0.25%〜10%(容積/容積)の量で存在する。
【0082】
水中油型乳剤を生成する方法は、当業者に周知である。一般的には、その方法は、油相(随意にトコールを含む)をPBS/TWEEN80(商標)溶液等の界面活性剤と混合し、その後ホモジナイザーを使用して均質化することを含み、少量の液体を均質化するには、混合物を注射器針に2回通すことを含む方法が好適であることは、当業者であれば明らかだろう。同様に、当業者であれば、マイクロ流動化器(microfluidiser)(M110Sマイクロ流体装置、最高50回通過、最大圧力入力6bar(約850barの出力圧力)で2分間)による乳化プロセスを応用して、より少量又はより大量の乳剤を生成することができるだろう。この応用は、要求直径の油滴で調製が達成されるまで、その結果生じる乳剤を測定することを含む日常的な実験作業により達成することができるだろう。
【0083】
水中油型乳剤では、油及び乳化剤は水性担体中にある。水性担体は、例えばリン酸緩衝生理食塩水であってもよい。
【0084】
具体的には、本発明の水中油型乳剤系は、サブミクロン範囲の小さな油滴サイズを有する。好適には、液滴サイズは、直径が120〜750nmの範囲、より具体的には120〜600nmのサイズであろう。更により具体的には、水中油型乳剤は、強度で少なくとも70%が、500nm未満の直径であり、より具体的には強度で少なくとも80%が、300nm未満の直径であり、より具体的には強度で少なくとも90%が、120〜200nmの範囲の直径である油滴を含有する。
【0085】
油滴サイズ、つまり直径は、本発明によると、強度により与えられる。油滴サイズの直径を強度により決定するには幾つかの方法がある。強度は、サイズ測定装置、好適には、Malvern Zetasizer 4000又は好適にはMalvern Zetasizer 3000HS等の動的光散乱を使用することにより測定される。詳細な手順は、実施例II.2に示されている。第1の可能性は、動的光散乱(PCS−光子相関分光法)によりz平均直径ZADを決定することであり、この方法では、多分散性指数(PDI)がさらにもたらされ、ZAD及びPDIは両方ともキュミュラントアルゴリズムで算出される。これらの値は、粒子屈折率に関する知識を必要としない。第2の手段は、別のアルゴリズム、Contin、又はNNLS、又は自動化「Malvern」アルゴリズム(サイズ測定装置により提供される初期設定アルゴリズム)のいずれかにより全粒度分布を決定することにより、油滴の直径を計算することである。ほとんどの場合、複雑な組成物の粒子屈折率は未知であるため、強度分布のみが考慮され、必要に応じて、強度平均はこの分布からもたらされる。
【0086】
アジュバント組成物は、トール様受容体(TLR)4アゴニストをさらに含んでいてもよい。「TLR4アゴニスト」とは、リガンドとして直接的に、又は内在性若しくは外来性リガンドの生成により間接的にのいずれかで、TLR4シグナル伝達経路を介してシグナル伝達応答を引き起こすことが可能な成分を意味する。TLR4は、リピドA誘導体、具体的にはモノホスホリルリピドA、又はより具体的には3脱アシル化モノホスホリル(monophoshoryl)リピドA(3D−MPL)であってもよい。
【0087】
3D−MPLは、GlaxoSmithKline Biologicals North America社によるMPL(登録商標)の商標で入手可能であり、IFN−g(Th1)表現型を有するCD4+T細胞応答を主に促進する。3D−MPLは、英国特許出願公開第2 220 211号明細書に開示されている方法により生成することができる。化学的には、これは、3−脱アシル化モノホスホリルリピドAと3、4、5、又は6つのアシル化鎖との混合物である。具体的には、本発明のアジュバント組成物では、小粒子3D−MPLが使用される。小粒子3D−MPLは、0.22μmフィルターで滅菌ろ過することができるような粒子サイズを有する。そのような調製物は、国際公開第94/21292号パンフレットに記述されている。リピドAの合成誘導体は公知であり、TLR4アゴニストであると考えられており、これらに限定されないが、以下のものを含む:
OM174(2−デオキシ−6−o−[2−デオキシ−2−[(R)−3−ドデカノイルオキシテトラ−デカノイルアミノ]−4−o−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル]−2−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]−α−D−グルコピラノシルジヒドロゲンホスフェート)、(国際公開第95/14026号パンフレット)
OM294 DP (3S,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカンオイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9(R)−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカノ−1,10−ジオール,1,10−ビス(ジヒドロゲノホスフェート)(国際公開第99/64301号パンフレット及び国際公開第00/0462号パンフレット)
OM197 MP−Ac DP(3S−、9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカンオイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカノ−1,10−ジオール,1−ジヒドロゲノホスフェート10−(6−アミノヘキサノアート)(国際公開第01/46127号パンフレット)。
【0088】
使用することができる他のTLR4リガンドは、国際公開第9850399号パンフレット又は米国特許第6303347号明細書(AGPを調製するためのプロセスも開示されている)で開示されているもの等のアルキルグルコサミニドホスフェート(AGP)、又は米国特許第6764840号明細書で開示されているようなAGPの薬学的に許容される塩である。幾つかのAGPは、TLR4アゴニストであり、幾つかは、TLR4アンタゴニストである。両方ともアジュバントとして有用であると考えられる。加えて、さらに好適なTLR−4アゴニストは、米国特許出願公開第2003/0153532号明細書及び米国特許出願公開第2205/0164988号明細書で開示されている。
本発明は、ワクチンを含むインフルエンザウイルス免疫原性組成物を調製するために特に好適である。種々の形態のインフルエンザウイルスが、現在入手可能である。それらは、一般的に、生ウイルス又は不活化ウイルスのいずれかに基づく。不活化ワクチンは、全ビリオン、分割ビリオン、又は精製された表面抗原(HAを含む)に基づいていてもよい。インフルエンザ抗原は、ビロソーム(無核酸のウイルス様リポソーム粒子)の形態で提示することもできる。
ウイルス不活性化法及び分割法は上述されており、インフルエンザウイルスに適用可能である。
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス株は、季節毎に変化する。現行の大流行間期では、ワクチンは、典型的には2つのインフルエンザA型株及び1つのインフルエンザB型株を含んでいる。三価ワクチンが典型的であるが、4価等のより高い価数も本発明で企図される。本発明は、大流行株(つまりワクチン受容者及び一般ヒト集団が免疫学的に未感作である菌株)に由来するHAを使用することもでき、大流行株のインフルエンザワクチンは一価であってもよく、大流行株で補完された通常の三価ワクチンに基づいていてもよい。
【0089】
本発明の組成物は、インフルエンザA型ウイルス及び/又はインフルエンザB型ウイルスを含む、1つ又は複数のインフルエンザウイルス株に由来する抗原(複数可)を含んでいてもよい。具体的には、2つのインフルエンザA型ウイルス株及び1つのインフルエンザB型ウイルス株に由来する抗原を含む三価ワクチンが、本発明により企図される。あるいは、2つのインフルエンザA型ウイルス株及び2つのインフルエンザB型ウイルス株に由来する抗原を含む四価ワクチンも本発明の範囲内に含まれる。
【0090】
本発明の組成物は、つまり1つの菌株タイプのみ、つまり季節性株のみ又は大流行株のみを含む一価組成物に制限されない。本発明は、季節性株及び/又は大流行株の組合せを含む多価性組成物も包含する。具体的には、3つの季節性株及び1つの大流行株を含み、アジュバント化されていてもよい4価組成物は、本発明の範囲内にある。本発明の範囲内にある他の組成物は、H1N1、H3N2、及びB型株等の、2つのA型株及び1つのB型株を含む三価組成物、並びにH1N1、H3N2、B/Victoria、及びB/Yamagata等の異なる系統の2つのA型株及び1つのB型株を含む4価組成物である。
HAは、現行の不活化インフルエンザワクチンの主な免疫原であり、ワクチン用量は、典型的にはSRDにより測定されるHAレベルを基準にすることにより正規化される。既存のワクチンは典型的には1株当たり約15μgのHAを含有していが、例えば、小児用には、又は大流行の状況においては、又はアジュバントを使用する場合は、より低い用量を使用することができる。半量(つまり1株当たり7.5μgのHA)又は4分の1量等の分割量が使用されており、同様により高い用量、具体的には3倍又は9倍の用量も使用されている。したがって、本発明の免疫原性組成物は、1インフルエンザ株当たり0.1〜150μg、具体的には0.1〜50μg、例えば0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μg等のHAを含んでいてもよい。特定の用量には、1株当たり約15、約10、約7.5、約5μg、1株当たり約3.8μg、及び1株当たり約1.9μgが含まれる。
特定の菌株のインフルエンザウイルスが精製されれば、例えば、上述のような三価ワクチンを製作するために、他の菌種に由来するウイルスと混合することができる。ウイルスを混合し、DNAを分解し、多価性混合物からそれを精製するのではなく、各菌株を別々に処理し、一価性バルクを混合して、最終多価性混合物を得ることがより好適である。
【0091】
本発明は、下記の非限定的な例を参照することによりさらに説明される。
【0092】
下記の実施例では、インフルエンザウイルスを細胞培養により生産し、細胞がウイルスに感染し、細胞培養培地中にそれが放出された後に細胞培養液上清を集めることによって回収する。したがって、下記の実施例全てにおいて、「ウイルス回収物」又は「ウイルス性回収物」という表現は、どちらもインフルエンザウイルス含有細胞培養液上清又は細胞培養培地を指す。
【実施例】
【0093】
下記実施例では、圧力をバール又はpsi(ポンド/平方インチ)のいずれかで表示する。バール及びpsiは下記の変換式を用いることにより互いに変換することができる:1バール=14.5psi
実施例I:清澄化の前にインフルエンザウイルス回収物を均質化すると、前記清澄化後により高いウイルス収率が得られる
I.1.MDCK細胞培養条件及びウイルス感染(NCP124、NCP127、NCP134、NYP132、NYP133、JP115、JP128、JP129、JP130、JP131、EFC3APA001及びEFC3APA002)
MDCK接着細胞を、36.5℃で、灌流培養法でマイクロキャリア上で増殖させた。増殖段階の後、適切な細胞密度(5×10細胞/ml超)に到達したら、インフルエンザウイルス(1×10−5の感染多重度)を灌流法で細胞に接種し、温度を33℃に切替えた。ウイルスを、接種後の3、4及び5日目に、灌流によって回収した。灌流回収物を貯留し、さらに処理するまで2〜4℃の範囲の温度で保管した。
【0094】
インフルエンザウイルス含有細胞培養培地を回収した後、ウイルス回収物を直ちに清澄化すると、典型的にはウイルスの約30%が失われることになる。この断定を、Profile 5μm(Ref:BYA050P6)−Profile 0.5μm(Ref:BYY005P6)−Preflow 0.2μm(Ref:DFA3001UUAC)の公称多孔度を有し、共に全て事前均質化ステップがない3つの異なる深さのフィルターで構成された連続ろ過(Pall)で清澄化した後に得られた、A型株又はB型株であるかどうかにかかわらず、多くの独立した実験で得られたインフルエンザウイルス収率を記載する表1に示す。セクションI.6で後述するように、SRDアッセイにしたがって清澄化前後にHA含有量を測定することによって、インフルエンザウイルス収率を評価した。結果を、出発物質中に存在する、つまり清澄化前のウイルス回収物中に存在する全HA量である対照値100%と比較したパーセンテージの形態で表1に記載する。
【表1】

【0095】
−結果−結論:
清澄化に得られた平均収率は約70%であり、清澄化ステップ中にウイルス量の約30%が失われることを示す。
【0096】
I.2.MDCK細胞培養条件及びウイルス感染−WiP136、WiP144、WiP145、SOP138、SOP151、MAP140及びMAP142
細胞培養及びウイルス感染をセクションI.1で記載する様にして実施した。ただし、実験WiP144では、ウイルスを1×10−6の感染多重度で使用した。ウイルスを、接種後の3、4及び5日目に.灌流によって回収した。灌流回収物を貯留し、さらに処理するまで2〜4℃の範囲の温度で保管した。
【0097】
表1で見られるものに反して、事前均質化ステップを実施する場合、高圧均質化又は超音波処理のいずれかに関わらず、清澄化後のウイルス損失は大幅に減少し、ほとんど認識できない。これを表2に示し、表2は、清澄化後に得られた、A型株又はB型株に関わらず多くのHA収率(セクションI.6で後述するようなSRDアッセイにより測定)を記載する。全ての実験で、表2に示すように、均質化ステップ(HPH又は超音波処理に関係ない)を清澄化前に実施した。実験WiP144、SOP138、SOP151、MaP140、Map142及びWiP136では、清澄化を、Profile 5μm(Ref:BYA050P6)−Profile 0.5μm(Ref:BYY005P6)−Preflow 0.2μm(Ref:DFA3001UUAC)の公称多孔度を有する3つの異なる深さのフィルターから構成される連続ろ過(Pall)で実施した。実験WiP145では、収集されたウイルス含有培養培地をまずProfile 1μmフィルター上で前清澄化し、次いでHPH(700バール及び1000バールの2つの異なる圧力で)により均質化し、そしてPreflow 0.2μmフィルター上でさらに清澄化した。結果を、出発物質中に存在する、すなわち未処理ウイルス回収物中に存在する全HA量である対照値100%と比較したパーセンテージの形態で表す。
【表2】

【0098】
−結果−結論
清澄化後に得られた平均収率は約100%であり、このことは、事前均質化ステップを実施した場合、清澄化ステップ中に起こる損失は、あったとしてもごくわずかであることを示す。(i)A型株及びB型株はどちらも100%に近い清澄化収率をもたらし、(ii)そのような高収率は、高圧均質化及び超音波処理の両方で得られたことに注意すべきである。
【0099】
興味深いことに、70%の低い清澄化収率しか示さない実験(WiP144)では、標準より小さなサイズであると思われるフィルターのために、清澄化中にフィルターの填塞が起こった。均質化は、凝集体の量及びサイズを減少させることによってフィルター填塞を防止又は制限し、より高い収率をもたらすと考えられる。したがって、フィルター填塞と関連したWiP144で得られる低い収率は、この仮説を強化する。そのような理由で、WiP144を平均計算から除外した。
【0100】
I.3.EB66(登録商標)細胞培養条件及びウイルス感染−EB66 17
EB66(登録商標)細胞をバッチ法において懸濁状態で増殖させた。それらをH5N1で感染させ、数日後に細胞培養培地を収集することによりウイルスを回収した。インフルエンザウイルス含有細胞培養培地を回収した後、300gで15分間遠心分離することによりウイルス回収物を直ちに清澄化すると、ウイルスの約50%が失われることとなる。表2においてMDCK細胞上で生産されたインフルエンザウイルスについて見られるように、遠心分離による清澄化前に均質化ステップを実施すると、清澄化前後のHA含有量を測定することにより分析されるように、清澄化後のウイルス損失が大幅に減少する。結果を、表3で、出発物質中に存在する、すなわち未処理ウイルス回収物中に存在する全HA量である対照値100%と比較したパーセンテージの形態で表す。
【表3】

【0101】
I.4.高圧均質化
この研究で使用したホモジナイザーは、交互に動作する2つのピストンから構成されるRannie(商標)装置MiniLab 7.30VH(APV製)であった。蠕動ポンプを用いて、ホモジナイザーを通る一定の流れを維持する。ポンプは生成物を圧力下で小さな調節可能なギャップに送り込む。装置は製造業者の推奨にしたがって使用する。表示した実験から収集したウイルス含有細胞培養培地を約100ml/分の流量及び、表2に示すように700バール又は1000バール、又は表3に示すように100、150及び200の圧力で均質化した。均質化流体を氷上で回収して、温度の上昇を制限した。いくつかの実験では、Niro Soavi(SOP151)製のPanda(商標)装置を用いて高圧均質化を実施した。
【0102】
I.5.超音波処理
Sonics&Materials製のSonics Vibra−Cell(商標)CV33超音波処理器を用いて超音波処理を実施した。表示した実験から収集したウイルス含有細胞培養培地を、70ml/分の流量並びに、表2及び3に表示するように、80%、60%、70%又は40%の振幅で超音波処理した。超音波処理された生成物を氷上で収集して、温度上昇を制限した。
【0103】
I.6.HA含有量を測定するために使用したSRD法
ガラス板(12.4×10cm)を、NIBSCにより推奨されている濃度の抗インフルエンザHA血清を含有するアガロースゲルでコーティングした。ゲルをセットした後、72個の試料ウエル(直径3mm)をアガロースに打抜き、10μlの適切な希釈された参照及び試料をウエルに負荷した。プレートを、室温(20〜25℃)の加湿チャンバー内で24時間インキュベートした。その後、プレートを、NaCl溶液に終夜浸漬し、蒸留水で短期間洗浄した。その後ゲルを圧迫して乾燥した。完全に乾燥したら、プレートをクーマシーブリリアントブルー溶液で10分間染色し、明らかにはっきりとした染色帯域が目に見えるようになるまで、メタノール及び酢酸の混合物で2回脱染した。プレートを乾燥した後、抗原ウエルを取り囲む染色帯域の直径を、直角に交わる2つの方向で測定した。あるいは、表面を測定する機器を使用することができる。表面に対する抗原希釈物の用量反応曲線を構築し、結果は、標準傾斜比アッセイ法(standard slope−ratio assay method)に従って計算された(Finney, D.J. (1952) Statistical Methods in Biological Assay. London: Griffin, Quoted in: Wood, JM, et al (1977). J. Biol. Standard. 5, 237−247)。
【0104】
実施例II:清澄化収率に対する均質化効果:高圧均質化及び超音波処理間の比較
2つの均質化技術、高圧均質化(HPH)(700バール)及び超音波処理(振幅80%)は、清澄化の前にウイルス含有細胞培養培地上でそれらのうちの1つを実施することのそれぞれの効果を分析することによって、比較した。それぞれの技術について、Profile(5μm/0.5μm)及びPreflow(0.2μm)フィルター上での清澄化も平行して試験した。HPH及び超音波処理を、実施例I、セクションI.4.及びI.5.にそれぞれ記載する様にして実施した。
【0105】
均質化後及び清澄化後のHA収率を、実施例I(I.6.セクション)に記載する様に、SRDアッセイにしたがって算出した。結果を、出発物質中に存在する、すなわち未処理ウイルス回収物中に存在する全HA量である対照値100%と比較したパーセンテージの形態で、表4に記載する。
【表4】

【0106】
−結果−結論
均質化技術(HPH又は超音波処理)のいずれも、それ自体はHA含有量(均質化の列)に有意に影響を及ぼさない。表2で見られるように、事前均質化ステップを実施する場合、HPH又は超音波処理に関わらず、HA清澄化収率は、清澄化に使用したフィルターの種類(清澄化の列)に関係なく、約100%に達する。HPH及び超音波処理間でHA清澄化収率に関して有意な差はなく、このことは、両均質化技術が清澄化ステップ中に起こるウイルス損失を制限するのに役立つことを示す。
【0107】
実施例III:事前均質化なしで清澄化した後に得られたウイルス収率と均質化及び清澄化後に得られたウイルス収率とを比較することによる、清澄化収率に対する事前均質化の直接的影響
清澄化に対する均質化のプラスの影響を証明するために、一連の4つの実験を重複して実施した。これらの実験のうちのそれぞれ一方を、特定の清澄化条件にしたがって実施した。各実験内で、一方の実験は均質化した後に清澄化し、第二の実験は他方と同じ条件で清澄化し、事前の均質化は行わず、従って各清澄化条件後に得られた収率に対する均質化の直接的影響の評価を可能にする内部対照を提供した。
【0108】
細胞培養及びウイルス感染を、実施例IのセクションI.1.及びI.2.に記載されているようにして実施した。
【0109】
灌流回収物を貯留し、2つの部分に分けた。一方を対照実験として処理し、清澄化前に事前の均質化を実施せず、もう一方は清澄化前に高圧均質化によって均質化した。2シリーズの実験を実施した:(i)均質化をウイルス回収物に対して直接実施する(WiP136)か、又は(ii)ウイルス回収物をまず前清澄化し、次いで均質化した(WiP137、WiP137ビス及びMaP141)。いずれの場合も、事前の前清澄化を実施するかどうかにかかわらず、均質化された回収物を清澄化ステップに付した。
【0110】
III.1.実験WiP136
III.1.1対照実験(事前均質化なし):
容積2リットルのウイルス回収物を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整した、表面積23cmのMillistack C0HCフィルター(Millipore、カタログ番号MC0HC23HH3)上でろ過した。このフィルターの最大入口圧は2.1バールである。負荷流量は20ml/分であった。圧力をろ過全体にわたって記録し、圧力が1.5バールに達したら実験をやめた。フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留した。回収された全容積は695mlであった。HA含有量を全容積に関して測定した。
【0111】
III.1.2.均質化実験:
2リットルの容積のウイルス回収物を、Rannie(商標)装置MiniLab7.30VHシステム(APV)を用いて110ml/分の流量及び700バールの圧力で均質化した。均質化回収物を氷上で回収して、温度上昇を制限した。Rannie(商標)装置を、PBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄し、洗浄緩衝液を均質化回収物とともに貯留して、2.2リットルの最終容積を得た。均質化回収物を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整したMillistack C0CHCフィルター上に負荷した。負荷流量は20ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、圧力が1.6バールに達したら実験をやめた。1350mlの容積をろ過した。負荷後、フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留して、1460mlの清澄化回収物容積を得た。HA含有量を全容積に関して測定した。
【0112】
III.2.実験WiP137
この実験では、回収物を、均質化する前に、前清澄化し、濃縮した。2リットルの容積のウイルス回収物を90cmのMini Profile II 5μm(Pall)フィルター上でろ過した。4649gの前清澄化回収物を回収した。前清澄化回収物を次いで3つのMillipore膜(カットオフ:300kD、500kD及び100kD)上で12回濃縮した。3つの残留物を貯留して、300mlの容積を得た。前記容積を150mlの2画分に分割した。
【0113】
III.2.1.対照実験(事前均質化なし):
150mlの容積の残留物を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整した23cmの表面を有するMillistak C0HCフィルター(Millipore、カタログ番号MC0HC23HH3)上に負荷した。平均負荷流量は16ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、試料がすべてろ過されたら、実験をやめた。ろ過液の全重量は230gであった。HA含有量をろ過液に関して測定した。
【0114】
III.2.2.均質化実験:
150mlの容積の残留物を、Rannie(商標)装置MiniLab7.30VHを用いて100ml/分の流量及び700バールの圧力で均質化した。均質化回収物を氷上で回収して、温度上昇を制限した。Rannie(商標)装置を、PBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄し、洗浄緩衝液を均質化回収物とともに貯留して、232mlの最終容積を得た。均質化残留物を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整したMillistak C0HCフィルター上に負荷した。平均負荷流量は19ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、試料がすべてろ過されたら、実験をやめた。HA含有量をろ過液に関して測定した。
【0115】
III.3.実験WiP137ビス
この実験では、回収物を均質化する前に前清澄化した。20リットルの容積のウイルス回収物を90cmの2つのProfile5μmフィルター(Pall)上、54ml/分の平均流量でろ過した。清澄化回収物を次いで450cmのProfile 5μm(Pall)上、476ml/分の流量でろ過した。フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄して、27617gの全前清澄化回収物重量を得た。21.5リットルの容積の前清澄化回収物を次いで0.1mのUltracell 100kDカットオフ膜(Millipore)上で11回濃縮した。
【0116】
III.3.1.対照実験(事前均質化なし):
500gの前記Ultracell 100kD残留物に相当する容積を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整した23cmの表面を有するMillistak C0HCフィルター(Millipore、カタログ番号MC0HC23HH3)上に負荷した。このフィルターの最大入口圧は1.4バールである。平均負荷流量は13ml/分であった。ろ過の間中、圧力を記録し、そして圧力が20psiに達したら実験をやめた。フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4、PBS−クエン酸塩(125mM)、NaCl(1M)、pH7.4で連続して洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留した。ろ過液の全容積は287mlであった。HA含有量を全容積に関して測定した。
【0117】
III.3.2.均質化実験:
930gの前記Ultracell 100kD残留物に相当する容積を、Rannie(商標)装置を用いて110ml/分の流量及び700バールの圧力で均質化した。均質化回収物を氷上で回収して、温度上昇を制限した。Rannie(商標)装置を、PBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄し、洗浄緩衝液を均質化回収物とともに貯留して、1035mlの最終容積を得た。500gの均質化残留物に相当する容積を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4であらかじめ調整したMillistak C0HCフィルター上に負荷した。平均負荷流量は14ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、試料がすべてろ過されたら、実験をやめた。負荷後、フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留して、670mlの最終清澄化及び均質化回収物容積を得た。HA含有量を最終容積に関して測定した。
【0118】
III.4.実験MaP141
この実験では、回収物を均質化する前に前清澄化した。8リットルの容積のウイルス回収物を、90cmのProfile1μmフィルター(Pall)上、18.5ml/分の平均流量でろ過した。フィルターを、PBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄して、8328gの全前清澄化回収物重量を得た。6.5リットルの容積の前清澄化回収物を、0.1mのUltracell 1000kDカットオフ膜(Millipore)上で5回濃縮し、1.5リットルの容積の前清澄化回収物を、0.005mのUltracell 1000kDカットオフ膜(Millipore)上で濃縮した。2つのUltracell残留物を貯留した。
【0119】
III.4.1.対照実験(事前均質化なし)
160mlの容積の前記貯留残留物を、PBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(0.3M)、pH7.4であらかじめ調整した13.6cmのPreflow 0.2μmフィルター上に負荷した。平均負荷流量は4.3ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、そして圧力が20psiに達したら実験をやめた。フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留した。ろ過液の全容積は87mlであった。HA含有量を全容積に関して測定した。
【0120】
III.4.2.均質化実験
容積1120mlの前記残留物を、Rannie(商標)装置を用いて110ml/分の流量及び700バールの圧力で均質化した。均質化回収物を氷上で回収して、温度上昇を制限した。Rannie(商標)装置をPBS−クエン酸塩(125mM)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積を均質化回収物とともに貯留して、1341mlの最終容積を得た。192mlの容積の均質化残留物をPBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(0.3M)、pH7.4であらかじめ調整した13.6cmのPreflow 0.1μmフィルター上に負荷した。平均負荷流量は4.7ml/分であった。圧力をろ過の間中記録し、試料が全部ろ過されたら実験をやめた。負荷後、フィルターをPBS−クエン酸塩(125mM)−NaCl(1M)、pH7.4で洗浄し、洗浄容積をろ過回収物とともに貯留して、253mlの清澄化回収物容積を得た。HA含有量を全容積に関して測定した。
【0121】
清澄化前に均質化ステップを実施することの影響を、事前均質化ステップの存在下又は非存在下で清澄化後に得られたHA収率を評価することによって査定した。HA含有量を、実施例I(セクションI.6.)に記載されているようにして、SRDアッセイによって測定する。対照実験(事前均質化なし)及び均質化実験の両方で、HAをまず未処理ウイルス回収物に関して測定し、次いで処理回収物に関して測定し、前記処理は、事前HPHステップを伴うか又は伴わない清澄化を含んでいた。結果を表5で、出発物質中に存在する、すなわち未処理ウイルス回収物中に存在する全HA量である対照値100%と比較したパーセンテージの形態で表す。
【表5】

【0122】
−結果−結論
表5に示した結果は、清澄化ステップ収率が、清澄化並びにA型株及びB型株の両方について用いたフィルターの種類に関係なく、高圧均質化を前記清澄化の前に実施する場合に増加することを明らかに示す。実際、C0HCフィルターは、均質化がない場合、Preflowフィルターよりも低い収率をもたらすことが観察できるが、それでもC0HCろ過の前に高圧均質化を実施することにより、ウイルス収率が最高3.6倍高くなることは注目に値する。興味深いことに、HPHにより誘発されるHA収率の増加が、ウイルス回収物が未処理のままであるか(WiP136)、又はHPHの前に前清澄化されるか(WiP137、WiP137ビス及びMaP141)に関係なく観察される。
【0123】
実施例IV:凝集に対するウイルス含有細胞培養培地の高圧均質化の効果
HPHステップがウイルス回収物中に存在する凝集を減少させることに関してでどれほど効率的であるかをチェックするために、CPSディスク遠心分離器、粒子サイズアナライザを用いて、HPHにより処理した試料を分析した。アナライザは、光学的に透明な回転ディスク内の遠心沈降を用いて粒子サイズ分布を測定する。評価しようとする試料は、18000rpmの回転速度で連続スクロース勾配(6%〜18%)上を移動する。試料中の粒子は、薄いバンドとして沈殿し始める。すべての粒子が同じサイズであるならば、それらは同じ速度で沈降し、薄いバンドとして検出器ビームに到達する。検出器に到達するのに必要な時間を用いて、粒子のサイズを算出する。試料内の粒子サイズの分布を、差動モード(differential mode)で作製したグラフとして表すことができる。すなわち、グラフは各サイズの物質の量を示し、分布を吸収分布として表す(吸収/散乱された光を粒子サイズ直径に対してプロットする)。均質化後に予想される非凝集ウイルスの集団について信頼できるサイズ制御を得るために、精製されたインフルエンザウイルスの溶液(約80nmの球状粒子直径を有することが文献で公知である)を正の対照として使用した。
【0124】
700バールの圧力の影響
細胞培養及びB Malaysia株でのウイルス感染は、実施例IのセクションI.1.で記載したとおりであった。収集後、ウイルス含有細胞培養培地を、GEA Niro Soavi Panther(商標)システムを700バールの圧力及び100L/時の流量で使用して、高圧均質化に付した。前記ウイルス含有細胞培養培地の試料を均質化の前後で採取し、上述のように、CPSディスク遠心分析法に付した。結果を図1に示す。
【0125】
−結果−結論:
図1に表示したグラフで示すように、HPHのない負の対照に相当する曲線(「非HPH」曲線)上に、2つの集団:(i)0〜2μmの直径サイズを有する粒子の第1のピーク、及び(ii)2〜6μmの直径を有する大きな凝集体の第2のピークを表した。均質化試料(「HPH」曲線、700バール)に対応する曲線は、集団(ii)の大幅な減少と、それに伴って集団(i)の増加を示し、このことにより、HPHは凝集の分散を誘発することが確認される。
【0126】
実施例V:インフルエンザウイルス含有細胞培養培地の均質化はウイルス完全性に影響を及ぼさない
ウイルス完全性が均質化の間中維持されることを証明するために、様々な分析をあらかじめ高圧均質化により処理したインフルエンザウイルス含有細胞培養培地上で実施した。ウイルス滴定を測定することにより感染性をモニターしながら、インフルエンザウイルスの構造完全性をスクロースクッション分析及び電子顕微鏡分析によって評価した。
【0127】
V.1.スクロースクッション分析
B/Malaysia株を、本質的に実施例IのセクションI.1.で記載したようにMDCK細胞上で生産した。ウイルス含有細胞上清を収集することによってウイルスを回収した後、ウイルス回収物を、2つの異なる装置を様々な圧力で用いて(Rannie(商標)ホモジナイザーでは700及び1000バール、Panda(商標)ホモジナイザーでは700、1000、1250及び1500バール)高圧均質化に付した。各均質化の後、均質化されたウイルス回収物の試料を注意深く30%スクロース溶液管上に入れ、次いで3時間、30000rpm、4℃にてBeckman50.4Tiローターで実施した。遠心分離後、管を3画分で収集した:
−管の最上部から収集した1mlを上清の画分Sと呼んだ
−1mlを次いで収集し、中間部の画分Mと呼んだ(中間相)
−管の残りをペレットと混合し、ペレットのPと記載した。
【0128】
これらの3画分を次いで抗HA抗体に暴露したウェスタンブロットにより分析した。ウイルスが溶解した場合、すなわちその完全性が改変された場合、ウイルスバンドは3画分中で検出されるはずである。反対に、ウイルスが無傷形態で回収された場合、すなわちその完全性が維持されている場合、ウイルスバンドはペレット画分においてのみ検出されるはずである。ウェスタンブロット分析を図2に示す。
【0129】
−結果−結論
図2で明らかに示されるように、均質化に使用した圧力値(700バール〜1500バール)と関係なく、HAシグナルは、スクロースクッション遠心分離のペレット画分においてのみ回収され、このことは、高圧均質化処理がウイルス完全性に対してマイナスの影響を及ぼさないことを示す。
【0130】
V.2.電子顕微鏡分析
ウイルス完全性を評価するための別の分析として、実施例IVの実験で記載したように、700バールの圧力で均質化したインフルエンザウイルス含有細胞培養液上清(図3A)を、電子顕微鏡法により調べ、均質化前に調べた対応する上清(図3B)と比較した。代表的な写真を図3に示す。
【0131】
−結果−結論
図3は、細胞残屑以外に見ることができるウイルスを示す。ウイルスは均質化前に凝集し(図3A)、均質化後は個々の形態である(図3B)。両方の状態で、ウイルスは無傷であり、区別不可能であり、このことは、HPHによる均質化がウイルス完全性に影響を及ぼさないことを意味する。
【0132】
V.3.ウイルス滴定
細胞の50%を感染することができるウイルスの量を表す組織培養感染量(TCID50/ml)を決定することによってウイルス滴定を測定することにより、ウイルス生存性を評価した。96ウエルマイクロプレート中で培養したコンフルエントMDCK細胞を、前記セクションV.1.で記載した実験に従って1時間37℃で異なって均質化したすべてのインフルエンザウイルス含有試料の連続希釈物で感染させた。ウイルス溶液を除去した後、培地を添加し、細胞を35℃で5〜7日間保持した。細胞を次いで顕微鏡で調べ、細胞における細胞変性効果(CPE)をモニターすることによって感染したかどうかを得点化した。感染性ウイルスの懸濁液を正の対照として使用して、細胞の感染しやすさを証明し、非接種培養を負の対照として使用する。CPEが検出されたウエルの数を、感染細胞として各希釈について得点化し、ウイルス価をReed及びMuenchの方法(Reed, L.J. and Muench, H., 1938, The American Journal of Hygiene 27: 493−497)にしたがって算出した。滴定結果を表6に記載し、log TCID50/mlとして表す。
【表6】

【0133】
−結果−結論
表6は、インフルエンザウイルスが、高圧均質化の間中その感染性を維持することを示す。なぜなら、このステップは、圧力値に関係なく、ウイルス価を有意に減少させないからである。
【0134】
実施例VI:ウイルス回収物のその後のろ過性に対する事前均質化ステップの影響
清澄化しようとするウイルス回収物中に存在する大きな凝集体の数及び/又はサイズを減じると、ろ過性が改善される。特に、凝集を減少させると、フィルターの填塞が防止され、少なくとも大幅に制限されるであろう。この効果によりもたらされる1つの利点は、所定量のウイルス回収物を清澄化するために必要なフィルター面積が減少することである。懸濁液のろ過性は、2つの尺度:(i)ろ過中に測定される入口圧、及び(ii)前記懸濁液をろ過するために必要な表面積(すなわち、ろ過性が高いほど、必要なろ過表面積は小さくなる)により評価することができる。
【0135】
VI.1.入口圧に対する影響
実験WiP137ビス及びMaP141中(それらの説明については実施例IIIを参照)、入口圧をろ過に基づく清澄化ステップの間モニターした。また、全容積がろ過されたため(事前HPHステップ)、又は全容積をろ過できる前に圧力の最大限度(20psi)に達したため(事前HPHステップなし)のいずれかの理由で、最終入口圧値、すなわち、ろ過を停止したときに到達した値を記録した。実験WiP137ビス及びMaP141を重複して実施し、一方の実験は、表示された清澄化ステップの前に事前均質化ステップを行わず、もう一方の実験は、同じ表示された清澄化ステップの前に事前均質化ステップを行い、事前均質化ステップの有無によらず清澄化した時に到達した入口圧の比較を行うことができる。結果を表7に示す。
【表7】

【0136】
−結果−結論
表7は、最終入口圧は高圧均質化がプロセス中に含まれる場合、系統的に低く、2〜2.5倍低いことを示し、このことは、均質化後の試料のろ過性が高いことを示す。
【0137】
VI.2.ろ過表面積に対する影響
前記で観察された圧力の降下が、所定の容積を清澄化するために必要なろ過表面積に対して影響を及ぼすかどうかを究明するために、以下の原理に従って外挿計算を行った。xcmの表面積を有するフィルターが、詰まる前又は最大入口圧に達する前にymlの容積を処理できる場合、清澄化しようとするウイルス含有流体1mあたり必要なフィルター表面(m)は、次式x/0.01yを用いた外挿により決定することができる。表の最後から手前の2列は、それぞれ、ろ過された容積(y)及びフィルターの表面積を示す。表の最後の列は、前記原理にしたがって算出された外挿ろ過表面積を示す。
【0138】
−結果−結論
表7の最終列は、均質化ステップを実施することにより、清澄化に必要な表面ろ過面積を、事前の均質化を実施しない場合に必要な表面と比較して、少なくとも2.4倍、そして最高3倍まで有意に減少させることができることを示す。この減少は、圧力降下と相関した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養において生産されたウイルス、又はそのウイルス抗原を回収する方法であって、少なくとも:
(a)前記ウイルス、又はそのウイルス抗原を含む流体を取得するステップと、
(b)前記流体を少なくとも1つの均質化ステップに付して、ウイルスホモジネートを得るステップとを含む、方法。
【請求項2】
感染細胞の培養からウイルス、又はそのウイルス抗原を精製する方法であって、少なくとも:
(c)ウイルス含有細胞培養培地を収集するステップと、
(d)前記ウイルスを精製するステップとを含み、
少なくとも1つの均質化ステップを前記精製中に実施して、ウイルスホモジネートを得る、方法。
【請求項3】
前記流体が前記収集されたウイルス含有細胞培養培地である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1つの均質化ステップを前記ウイルス含有細胞培養培地上で実施する、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルスホモジネートをさらに清澄化する、請求項1〜4記載の方法。
【請求項6】
清澄化、核酸分解、限外ろ過及びスクロース勾配超遠心分離、又はそれらの任意の組み合わせの群から選択される少なくとも1つの精製ステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d)が、清澄化、核酸分解、限外ろ過及びスクロース勾配超遠心分離、又はそれらの任意の組み合わせの群から選択される少なくとも1つの精製ステップを含む、請求項2記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの清澄化ステップを実施し、少なくとも1つの均質化ステップを前記清澄化前に実施する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの核酸分解ステップを実施し、少なくとも1つの均質化ステップを前記核酸分解の前及び/又は後に実施する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの限外ろ過ステップを実施し、少なくとも1つの均質化ステップを前記限外ろ過後に実施する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのスクロース勾配超遠心分離ステップを実施し、少なくとも1つの均質化ステップを前記スクロース勾配超遠心分離の前に実施する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項12】
少なくとも、清澄化、限外ろ過及びスクロース勾配超遠心分離のステップを実施する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項13】
少なくとも2つの均質化ステップを実施する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの均質化ステップを清澄化の前に実施し、少なくとも1つの均質化ステップを前記スクロース勾配超遠心分離の前に実施する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
少なくとも、ステップ(a)で得られた流体又はステップ(c)で収集された前記ウイルス含有細胞培養培地を均質化し、それらを清澄化し、それらを限外ろ過により濃縮し、随意にそれらを再均質化し、そしてそれらをスクロース勾配超遠心分離ステップに付す連続したステップを実施する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
清澄化をろ過により実施する、請求項5、8及び12〜15記載の方法。
【請求項17】
清澄化を遠心分離により実施する、請求項5、8及び12〜15記載の方法。
【請求項18】
前記流体又は前記ウイルス含有細胞培養培地を前清澄化した後、均質化に付す、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
均質化を高圧均質化により実施する、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
均質化を超音波処理により実施する、請求項1〜18に記載の方法。
【請求項21】
前記圧力が、100〜1500バール、500〜1200バール、700〜1000バールの範囲である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
分割ステップをさらに含む、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つのウイルス不活化ステップをさらに含む、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記細胞がMDCK細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記細胞がトリ細胞である、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記細胞がEB66(登録商標)細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれかに記載の方法に従って取得可能な、ウイルス、又はそのウイルス抗原。
【請求項30】
好適な医薬担体と混合された、請求項1〜28のいずれかにしたがって取得されたウイルス、又はそのウイルス抗原を含む、免疫原性組成物。
【請求項31】
少なくとも、請求項1〜28のいずれかにしたがって取得された前記ウイルスを薬学的に許容される担体と混合するステップを含む、ワクチンの調製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−525830(P2012−525830A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509038(P2012−509038)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056164
【国際公開番号】WO2010/128100
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】