説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】 トラック幅の狭小化を図り、同時にSNRの向上も図ることにより、さらなる高記録密度化の達成が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 基板上に少なくとも、Ru合金を主成分とする下地層150を成膜する工程と、下地層の上方に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなるグラニュラ構造を有する複数の磁性層(第1記録層161、第2記録層162)を成膜する工程と、を包含し、複数の磁性層は、少なくとも下地層に接する磁性層(第1記録層161)はバイアス電圧を印加せずに成膜し、バイアス電圧を印加せずに成膜した磁性層よりも表層側に成膜する1または複数の磁性層のうち少なくとも1層の磁性層(第2記録層162)はバイアス電圧を印加しながら成膜することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内磁気記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録媒体においてさらなる高記録密度化を達成するために、媒体の特性(電磁変換特性、静磁気特性等)を向上させる種々の技術が提案され、開示されている。例えば特許文献1には、配向調整層(下地層)および磁気記録層のそれぞれの成膜時に、基板表面に直流バイアスを印加する垂直磁気記録媒体の製造方法が開示されている。特許文献1によれば、磁気記録層の膜表面を平坦にすることができ、かつ磁性粒子の孤立化を促進させ、良好な配向性を持つグラニュラ構造を形成できるため、媒体の特性の向上が実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−90918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、垂直磁気記録媒体において、上述した500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現するためには、媒体の特性(静磁気特性、電磁変換特性)をさらに向上させる必要がある。特に、高いTPI(Track per Inch)が要求されているため、トラック幅の狭小化を実現した上で、SNRを向上させる必要がある。
【0007】
上記の特許文献1のようにバイアスを印加しながら成膜すれば、結晶性を向上できることは知られている。しかし発明者らが確認したところ、500GBit/Inchレベルのトラック幅およびSNRを達成するには不十分であることが判明した。
【0008】
そこで本発明は、トラック幅の狭小化を図り、同時にSNRの向上も図ることにより、さらなる高記録密度化の達成が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために発明者らは鋭意検討したところ、バイアスを印加しながら成膜を行う場合、その下の層とのミキシングの程度が通常の成膜時よりも強くなり、上下の層の材料が混ざった「ミキシング層」が発生してしまうのではないかと考えた。すなわち、Ru下地層の上にCoCrPtを含む磁性層を成膜する際にバイアスを印加すると、CoCrPtとRuが混ざった材料からなるミキシング層が発生し、結果として磁性層の初期成長段階での結晶性および微細構造が乱れるために磁気特性が悪化してしまうのではないかと考えた。そこで発明者らは、バイアスを印加する際に、土台となっている層(最表面層)とバイアスを印加しながら成膜する層とが類似の組成であれば、ミキシング層が発生しても結晶性および微細構造の乱れを生じないであろうと予測し、さらに研究を重ねることにより本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、基板上に少なくとも、Ru合金を主成分とする下地層を成膜する工程と、下地層の上方に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなるグラニュラ構造を有する複数の磁性層を成膜する工程と、を包含し、複数の磁性層は、少なくとも下地層に接する磁性層は(基板に)バイアス電圧を印加せずに成膜し、バイアス電圧を印加せずに成膜した磁性層よりも表層側に成膜する1または複数の磁性層のうち少なくとも1層の磁性層は(基板に)バイアス電圧を印加しながら成膜することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、基板にバイアス電圧を印加しながら成膜することによって磁性層の結晶性を向上させることができる。このとき、下地層の直上の磁性層の成膜時には基板にバイアス電圧をかけず、その上の磁性層の成膜時に基板にバイアス電圧をかけることにより、下地層のRu合金等と磁性層のCoCrPt合金等とが混ざったミキシング層の発生を防ぐことができる。これにより、バイアス電圧を印加した磁性層の磁性粒子の結晶性等に乱れが生じることはない。したがって、トラック幅の狭小化を図りながらSNRを向上させることができ、さらなる高記録密度化を図ることができる。
【0012】
上記構成は、基板にバイアス電圧を印加せずに成膜する磁性層を、下地層の直上の磁性層のみに限るものではない。換言すれば、バイアス電圧を印加せずに成膜する磁性層は、下地層の直上の磁性層を含んだ1または複数の磁性層である。したがって、上述のグラニュラ構造を有する複数の磁性層は、バイアス電圧を印加せずに成膜した1または複数の磁性層と、その上方にバイアス電圧を印加しながら成膜した1または複数の磁性層とを含んでいる。
【0013】
なお、本願で言うところの「主成分」とは、全体組成をat%(もしくはmol%)としたときに、最も多く含まれる成分を指す。例えば、90(70Co−10Cr−20Pt)−10(SiO)という組成を考えた場合、CoCrPt合金は全体の90%を占めるため主成分であるとする。また、CoCrPt合金中においてCoは70%を占めるため、CoはCoCrPt合金の主成分であるとする。
【0014】
バイアス電圧は、−50〜−200Vの範囲内で印加するとよい。この範囲内であれば、磁性層の結晶性を好適に向上させることができる。バイアス電圧が小さすぎると、結晶性改善効果が十分得られない可能性があり、また、逆に高すぎると、グラニュラ構造が乱れて磁気特性が劣化する恐れがあるからである。
【0015】
バイアス電圧を印加せずに成膜する磁性層は、総膜厚が1nm以上に成膜されるとよい。これにより、下地層のRu合金等と磁性層のCoCrPt合金等とが混ざったミキシング層の発生を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トラック幅の狭小化を図り、同時にSNRの向上も図ることにより、さらなる高記録密度化の達成が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】実施例および比較例について説明する図である。
【図3】第1記録層の膜厚が異なる実施例を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(垂直磁気記録媒体)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、前下地層140、下地層150、第1記録層161、第2記録層162、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。なお、第1記録層161および第2記録層162は、あわせて主記録層160を構成する。
【0020】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0021】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0022】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金、や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0023】
前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。前下地層140は、hcp構造であってもよいが、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向した面心立方構造(fcc構造)であることが好ましい。前下地層140の材料としては、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、Ru、Co、Hfや、さらにこれらの金属を主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta、等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr、CuW、CuCr等を好適に選択することができる。前下地層140の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。また前下地層140を複数層構造としてもよい。
【0024】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成される主記録層160のhcp構造の磁性結晶粒の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、主記録層160のグラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、主記録層160の結晶配向性を向上させることができ、また、下地層150の粒径を微細化することによって、主記録層の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0025】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方の主記録層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0026】
第1記録層161は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有した磁性層である。本実施形態では、CoCrPt系合金にSiO、TiOを含有させたターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる。また第1記録層161の磁性粒子は、下地層に含まれるRuの結晶構造から継続してエピタキシャル成長することができる。
【0027】
第2記録層162は、第1記録層161の上に設けられ、第1記録層161と同様に、グラニュラ構造を有した磁性層である。その組成の説明は、第1記録層161と重複するため省略する。
【0028】
そして本実施形態では、下地層150に接する第1記録層161は基板110にバイアス電圧を印加せずに成膜し、第1記録層161よりも表層側に成膜する第2記録層162は基板110にバイアス電圧を印加しながら成膜する。これにより、微細構造(グラニュラ構造)を乱すことなく、第2記録層162の磁性粒子の結晶性を向上させることができる。したがって、狭トラック幅においてSNRを向上させることができる。
【0029】
バイアス電圧は、−50〜−200Vの範囲内で印加するとよい。この範囲内であれば、第2記録層162の結晶性を好適に向上させることができる。バイアス電圧が小さすぎると、結晶性改善効果が十分得られない可能性があり、また、逆に高すぎると、グラニュラ構造が乱れて磁気特性が劣化する恐れがあるからである。
【0030】
一般的に、基板110にバイアス電圧を印加しながら金属膜を成膜することで、当該金属膜の結晶性を向上できることが知られている。しかし今回、単純に主記録層160にバイアス電圧をかけるだけでは期待した効果が得られなかった。これは、バイアス電圧の印加によって下地層150のRu合金等と第1記録層161のCoCrPt合金等との両方の材料を含有するミキシング層が発生し、ミキシング層より上部の磁性粒子の結晶性および微細構造が乱れてしまったためと考えられる。
【0031】
しかし本実施形態の構成によれば、第1記録層161は基板110にバイアス電圧をかけずに成膜しているため、第1記録層161に下地層150のRu等がミキシングするおそれはない。また、第1記録層161と第2記録層162とは類似の組成であるため、両者間にミキシングが発生しても磁性粒子の結晶性および微細構造に乱れが生じることはない。そのため、バイアス電圧を印加したことによる結晶性向上の効果を効果的に得ることができたと考えられる。
【0032】
なお、上記に示した主記録層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、などを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0033】
分断層170は主記録層160の上かつ補助記録層180の下に設けられ、上下の層の磁性のつながりを調節する層である。分断層170は非磁性であることが好ましいが、弱い磁性を有していてもよい。
【0034】
分断層170は、主記録層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これにより主記録層160と補助記録層180の間、および主記録層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な結合の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0035】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO2、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO2、CoCr−TiO2などが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、主記録層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としては、CoCrPt系合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0037】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0038】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0039】
潤滑層200は、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0040】
以上、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の製造方法について説明した。上述したように、本実施形態では、基板110にバイアス電圧を印加せずに成膜した第1記録層161より表層側に、基板110にバイアス電圧を印加して第2記録層162が成膜される。そのため、トラック幅の狭小化を図りながらSNRを向上させることが可能となる。こられによって、さらなる高記録密度化の達成が可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【0041】
(実施例)
上記構成の垂直磁気記録媒体の製造方法の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0042】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120は50Cr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrを40nm成膜した。なお、軟磁性層130の間にRu層を介在させる場合には、Ruを0.7nm成膜することができる。これにより軟磁性層130は上下それぞれ20nmの2層構造とすることができる。前下地層140は95Ni−5Wを8nm成膜した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に、5PaでRuを10nm成膜した。第1記録層161は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−5(SiO)−5(TiO)を成膜した。第2記録層162は3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を成膜した。第1記録層161および第2記録層162は、次に述べる実施例および比較例を作成して比較した。分断層170の組成は0.3nmのRuを成膜した。補助記録層180は5.5nmの62Co−18Cr−15Pt−5Bを成膜した。保護層190はCVD法によりCを5nm成膜し、表層を窒素処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1nm形成した。
【0043】
図2は、実施例および比較例について説明する図である。実施例1〜4および比較例1〜3では、異なる条件のバイアス電圧を基板110に印加して第1記録層161および第2記録層162を成膜した。また、第1記録層161は2nm成膜し、第2記録層162は厚みを調整(概ね12nm)してMWWが一定の値に近づくように静磁気特性(保磁力Hc)を調整した上で、各実施例および比較例のSNRの値を比較した。
【0044】
図2において、実施例1〜4は、第1記録層161の成膜時には基板110にバイアス電圧を印加せず、第2記録層162の成膜時にそれぞれ−50V、−100V、−200V、−250Vのバイアス電圧を基板110に印加したものである。
【0045】
また、比較例1は、第1記録層161と第2記録層162とを基板110にバイアス電圧を印加せずに成膜したものである。比較例2は、第1記録層161および第2記録層162の成膜時にそれぞれ−100Vのバイアス電圧を基板110に印加して成膜したものである。比較例3は、第1記録層161の成膜時にのみ−100Vのバイアス電圧を基板110に印加し、第2記録層162を基板110にバイアス電圧を印加せずに成膜したものである。
【0046】
実施例1〜4を比較例1と比較すると、実施例1〜4ではSNRが向上していることがわかる。これは、磁性層(第2記録層162)の成膜時における基板110へのバイアス電圧の印加によって磁性粒子の結晶性が向上したためと考えられる。
【0047】
ここで、一般的な保磁力Hcを向上させる方法として膜厚を増大させた場合、保磁力HcとSNRとはトレードオフの関係にある。しかし、上記のように本発明にかかる実施例1〜4では、保磁力Hcを低下させることなく、SNRの向上を達成できることが理解できる。
【0048】
また、上記のように実施例1〜4が比較例1と略同等のMWWで高いSNRの値を達成しているということは、換言すれば、実施例1〜4は比較例1と略同等のSNRをより厚い膜厚で達成することができる。このため、保磁力Hcを向上させてトラック幅の狭小化を図ることが可能である。
【0049】
比較例2および比較例3は、比較例1よりもSNRが低い値となっている。これは、第1記録層161の成膜時のバイアス電圧の印加によって、下地層150のRu合金等と第1記録層161のCoCrPt合金等とが混ざったミキシング層が発生してしまった結果であると考えられる。すなわち、比較例2および比較例3では、ミキシングによって初期成長段階における第1記録層161の磁性粒子にRuが混入し、第1記録層161の結晶性および微細構造(グラニュラ構造)が比較例1よりも乱れてしまったものと考えられる。
【0050】
実施例1〜4同士を比較すると、−100Vのバイアス電圧を基板110に印加した実施例2が、最も高いSNRの値を達成していることが確認できる。また、−50Vのバイアス電圧を基板110に印加した実施例1および−200Vのバイアス電圧を基板110に印加した実施例3も、実施例2ほどではないものの、比較例1よりもSNRの値が向上している。−250Vのバイアス電圧を基板110に印加した実施例4は、SNRの値は比較例1よりも若干向上しているが、実施例1〜3と比較するとその値は低いものである。これは、バイアス電圧が高すぎたため、主記録層160のグラニュラ構造が乱れてしまったものと考えられる。一方、バイアス電圧が−50Vよりも小さいと結晶性改善効果が十分得られないためにSNRの向上が図れない可能性がある。したがってバイアス電圧の印加は、−50〜−200Vの範囲内で印加することが好適であることが理解できる。
【0051】
図3は、第1記録層161の膜厚が異なる実施例2、5、6を比較する図である。実施例5、6は、図2において最も高いSNRの値を達成した実施例2(第1記録層161:2.0nm)とバイアス印加条件を同様にした上で、第1記録層161の膜厚をそれぞれ1.0nm、0.5nmに固定し、さらにMWWが同等となるよう第2記録層162の膜厚を調整して、SNRの値を比較した。
【0052】
実施例同士を比較すると、膜厚を2.0nmに設定した実施例2が、最も高いSNRを達成していることが確認できる。また、膜厚を1.0nmに設定した実施例5も、実施例2ほどではないものの高いSNRの値を達成している。しかし、膜厚を0.5nmに設定した実施例6では、SNRが低下している。これは、第1記録層161の膜厚が薄すぎたため、バイアス電圧の印加によって類似の組成である第1記録層161と第2記録層162との間で発生するミキシング層が、異なる組成である下地層150まで届いて発生し、結果としてCoCrPtとRuが混ざったミキシング層が生じることによって磁性粒子の結晶性および微細構造が乱れてしまったものと考えられる。これらのことから、第1記録層161(バイアス電圧を印加せずに成膜する磁性層)は、膜厚(総膜厚)を1.0nm以上に成膜することが好適であることが理解できる。
【0053】
なお、上記実施形態においては主記録層を2層であるとして説明した。しかしさらに、主記録層を3層、4層としてもよい。この場合において、少なくとも下地層に接する磁性層は基板にバイアス電圧を印加せずに成膜し、その磁性層よりも表層側に成膜する1または複数の磁性層のうち少なくとも1層の磁性層は基板にバイアス電圧を印加しながら成膜すればよい。したがって例えば磁性層が3層であるとき、一番下の磁性層の成膜時にはバイアス電圧をかけず、2番目の磁性層の成膜時にはバイアス電圧をかけて、一番上の磁性層の成膜時にはバイアス電圧をかけないという構成であってもよい。このようにすることでも、好適に本発明の利益を享受することができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気記録媒体およびその製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100 …垂直磁気記録媒体
110 …基板
120 …密着層
130 …軟磁性層
140 …前下地層
150 …下地層
160 …主記録層
161 …第1記録層
162 …第2記録層
170 …分断層
180 …補助記録層
190 …保護層
200 …潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも、
Ru合金を主成分とする下地層を成膜する工程と、
前記下地層の上方に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなるグラニュラ構造を有する複数の磁性層を成膜する工程と、
を包含し、
前記複数の磁性層は、少なくとも前記下地層に接する磁性層はバイアス電圧を印加せずに成膜し、該バイアス電圧を印加せずに成膜した磁性層よりも表層側に成膜する1または複数の磁性層のうち少なくとも1層の磁性層はバイアス電圧を印加しながら成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記バイアス電圧は、−50〜−200Vの範囲内で印加することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記バイアス電圧を印加せずに成膜する磁性層は、総膜厚を1nm以上に成膜することを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−96307(P2011−96307A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248180(P2009−248180)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】