説明

垂直磁気記録媒体

【課題】磁気記録層の磁気特性を低下させる事なしに結晶粒径の低減を可能とし、それによって低ノイズ化、SNR向上、記録容易性(Write-ability)向上といった性能向上を可能とする垂直磁気記録媒体の提供。
【解決手段】非磁性基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層、非磁性下地層、強磁性中間層、非磁性中間層、および垂直磁気記録層が順次積層され、強磁性中間層がCoCr基合金で形成されており、強磁性中間層の飽和磁束密度と膜厚との積Bs・tが0.15〜3.6T・nmの範囲内であり、非磁性中間層が3nm以上の膜厚を有する垂直磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種磁気記録装置に搭載される垂直磁気記録媒体に関する。より詳細には、本発明は、コンピューター、AV機器等の外部記憶装置として用いられるハードディスクドライブ(HDD)に搭載される垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
1997年以降、HDDの記録密度は年率60〜100%の割合で急速に増加してきた。このような著しい成長の結果、これまで用いられてきた面内記録方式における高密度化が、限界に近づこうとしている。このような状況から、近年、高密度化が可能な垂直記録方式が注目を浴び、盛んにその研究開発がなされてきた。そしていよいよ2005年より、垂直記録方式を採用したHDDの製品化が開始された。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、主に、硬質磁性材料の磁気記録層と、磁気記録層を目的の方向に配向させるための下地層と、磁気記録層の表面を保護する保護膜と、磁気記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性材料の裏打ち層とから構成される。
【0004】
磁気記録媒体の基本的な特性を向上させるには、信号出力−ノイズ比(SNR)を向上させることが必要である。すなわち、磁気記録媒体からの信号出力を向上させ、ノイズを低減することが必要となる。信号出力低下およびノイズ増加の原因の1つは、磁気記録層の配向分散(結晶配向のバラツキ)の増大である。垂直磁気記録媒体では磁気記録層の磁化容易軸を媒体面と垂直に配向させる必要がある、この際に、その磁化容易軸の配向分散が大きくなると、垂直方向の磁束の低下から信号出力が低下する。また、本発明者らの検討では、配向分散の大きな媒体では、結晶粒間の磁気的な分離性が低下して磁気クラスタサイズが増加し、ノイズが増加するという結果が得られている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、磁気特性の向上および軟磁性裏打ち層に起因するノイズの低減による電磁変換特性の向上を目的として、磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間にFe、Cr、Co合金とRuとの2層の下地層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献1参照)。また、前述の目的のために、CoFe合金からなる軟磁性裏打ち層、および磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間にRuの下地層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、磁気記録層における配向分散の減少、初期成長層の低減、結晶粒径の低減などを目的として、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に、軟磁性パーマロイ系材料からなる下地層、ならびにRuまたはRu基合金からなる比較的に厚い膜厚を有する非磁性中間層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献3および4参照)。さらに、軟磁性裏打ち層、軟磁性パーマロイ系材料の下地層、RuまたはRu基合金材料の中間層、および磁気記録層を配設した垂直磁気記録媒体において、下地層と中間層との間に軟磁性Co層または軟磁性Co基合金層を挿入することによって、中間層の膜厚の低減と同時に、磁気記録層の保磁力および角型比の増大、および従来用いられている記録密度における記録信号のSNRの向上を実現することが提案されている(特許文献5参照)。
【0007】
さらに、ノイズ特性および熱揺らぎ耐性の向上を目的として、磁気記録層を第1および第2垂直磁性膜に分離し、それらの間に下地膜および非磁性中間膜を挿入した構成の垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献6参照)。この構成においては、第1および第2垂直磁性膜は磁気的に結合している。この構成の目的は、下層である第1垂直磁性膜の磁気異方性エネルギーを上層である第2垂直磁性膜の磁気異方性エネルギーより大きくすることによる、第2垂直磁性膜の磁化揺らぎの防止、および第2垂直磁性膜の記録磁区の境界を直線的とすることによる、ノイズの低減である。また、この構成においては、垂直磁気異方性エネルギーの大きい第1垂直磁性膜の採用によって、熱揺らぎ耐性の向上が可能となる。
【0008】
また、ノイズ特性およびSNRの向上を目的として、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に第1下地層、第1非磁性中間層、第2下地層および第2非磁性中間層を配設し、第1下地層を少なくともNiおよびFeを含むfcc構造を有する材料で形成し、第2下地層を少なくともCoを含むfcc構造を有する軟磁性材料で形成した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献7参照)。この構成においては、第1非磁性中間層、第2下地層および第2非磁性中間層の積層構造を設けることによって、これら各層の結晶成長を抑制して、各層の結晶粒径が微細化される。その結果、少なくともNiおよびFeを含むfcc構造を有する材料で形成される第1下地層がもたらす結晶粒径の微細化効果を、磁気記録層7の結晶粒径の微細化に利用している。
【0009】
しかしながら、さらなる高記録密度化に向けて、高密度記録時においても高い信号出力と低いノイズとを実現し、高いSNRを達成することができる垂直磁気記録媒体に対する要求が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−100030号公報
【特許文献2】特開2002−298323号公報
【特許文献3】特開2002−358617号公報
【特許文献4】特開2003−123239号公報
【特許文献5】特開2004−288348号公報
【特許文献6】特開2001−101643号公報
【特許文献7】特開2008−117506号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】竹野入俊司、酒井泰志、榎本一雄、渡辺貞幸、上住洋之,「CoPtCr−SiO2垂直磁気記録媒体の開発と課題」、応用磁気学会第135回研究会資料(2004年3月12日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
垂直磁気記録媒体の信号出力の増大およびノイズの低減によって高いSNRを実現するためには、磁気記録層の配向分散を可能な限り小さくする必要がある。
【0013】
上記の点に加え、磁気記録媒体の低ノイズ化のためには、磁気記録層の結晶粒径を縮小することが必要である。なぜなら、磁気記録層の結晶粒径が大きくなると、ビットの遷移領域がギザギザになり、遷移ノイズが増加するためである。したがって、結晶粒径を縮小してビットの遷移領域を直線的にすることによって、遷移ノイズを低下させることが必要となる。この点に関して、下地層または中間層が、その上に形成される磁気記録層の結晶性、配向性および結晶粒径などを制御する機能を有し、磁気記録層の特性に影響を及ぼすことが知られている。特に、下地層または中間層の上にエピタキシャル成長によって磁気記録層を形成する場合、磁気記録層の結晶粒径が下地層または中間層の材料の結晶粒径に従うことがよく知られている。したがって、磁気記録層の結晶粒径を低減させるためには、下地層または中間層の結晶粒径を低減させることが有効である。
【0014】
さらに、垂直磁気記録媒体の記録密度向上の観点からも、ビットの遷移領域におけるノイズを低減する必要がある。そのためには、急峻な記録磁界を確保して、遷移をできる限り直線的にすることが有効である。ここで、急峻な記録磁界を得るためには軟磁性裏打ち層と磁気ヘッドとの間の距離を、できる限り小さくする必要がある。また、記録密度が向上するにつれて磁気ヘッドの記録磁界が低下するため、十分な記録磁界を確保するためにも軟磁性裏打ち層と磁気ヘッドとの間の距離を短縮する必要がある。一般に、磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間には、非磁性の下地層および/または中間層が設けられる。しかしながら、現時点において、この非磁性下地層および/または中間層は20〜30nm程度の膜厚を有し、その大きな膜厚が軟磁性裏打ち層−磁気ヘッド間距離を増加させる要因となっている。実際、前述のように現在提案されている構成においては、非磁性下地層および/または中間層は大きな膜厚(たとえば、特許文献1および特許文献2に記載の構成において35nm以上)を有し、磁気ヘッドと軟磁性裏打ち層との間の距離を短縮して、高密度記録時に高いSNRを得るという点では不十分であった。
【0015】
しかしながら、下地層または中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下、磁性結晶粒間の磁気的分離の阻害が起こり、磁気記録層の磁気特性が低下することが知られている。以上の点を考慮すると、単に膜厚を減少させるのではなく、磁気記録層の磁気特性を維持ないし向上させながら、下地層または中間層の膜厚の減少を行う必要がある。
【0016】
したがって、本発明の課題は、磁気記録層の磁気特性を低下させることなしに下地層または中間層の膜厚の実効的な減少を可能とし、それによって低ノイズ化、SNR向上、記録容易性(Write-ability)向上といった性能向上を可能とする垂直磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような状況を鑑み、本発明者らは鋭意検討を進めた結果、fcc構造、hcp構造あるいはアモルファス構造の非磁性金属膜からなる非磁性下地層、およびその上に配設された強磁性中間層を有する構成において、強磁性中間層の飽和磁束密度Bsに膜厚tを乗じた値Bs・tを0.15〜3.6T・nmの範囲に設定した時に、磁気記録層の磁気特性を維持しつつ実効的な非磁性中間層の厚さを低減することができることを見いだした。また、本発明者らは、上記の手段によって媒体ノイズ低減、SNR向上、記録容易性向上といった垂直磁気記録媒体性能の向上を同時に実現できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
本発明に係る垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層、非磁性下地層、強磁性中間層、非磁性中間層、および垂直磁気記録層が順次積層されており、強磁性中間層がCoCr基合金で形成されており、強磁性中間層の飽和磁束密度Bsと膜厚tとの積Bs・tが0.15〜3.6T・nmの範囲内であり、非磁性中間層が3nm以上の膜厚を有することを特徴とする。
【0019】
ここで、非磁性下地層は、fcc構造あるいはhcp構造をもった非磁性金属、あるいはアモルファス構造をもった非磁性金属で形成されていることが好ましい。また、非磁性下地層が、Ni、CoおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む合金で形成されている合金で形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
前述のような構成を採ることによって、磁気記録層における磁性結晶粒の磁気的な分離を確保しつつ、実効的な非磁性中間層の膜厚を低減することが可能となる。それによって、媒体ノイズの低減、SNRの向上、軟磁性裏打ち層−磁気ヘッド間距離の短縮による記録容易性の向上を同時に達成することができる垂直磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録媒体の断面模式図である。
【図2】強磁性中間層のBs・tとO/Wとの関係を表すグラフである。
【図3】強磁性中間層のBs・tと媒体ノイズとの関係を表すグラフである。
【図4】強磁性中間層のBs・tとSNRとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい形態について説明する。図1は本発明に係る垂直記録媒体を説明するための断面模式図である。図1に示すように、本発明に係る垂直磁気記録媒体は、非磁性基板10、軟磁性裏打ち層20、非磁性下地層30、強磁性中間層42、非磁性中間層44、垂直磁気記録層50、保護層60、液体潤滑層70を有する。これらの層のうち、保護層60および液体潤滑層70は、必要に応じて配設することができる層である。
【0023】
当該技術において知られている、表面が平滑である様々な基体を、非磁性基板10として用いることができる。例えば、磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、または結晶化ガラスなどを、非磁性基体10として用いることができる。
【0024】
軟磁性裏打ち層20は、FeTaC、またはセンダスト(FeSiAl)合金のような結晶性材料、あるいは、CoZrNbまたはCoTaZrのようなCo合金を含む非晶質材料を用いて形成することができる。軟磁性裏打ち層2の膜厚の最適値は、記録に使用する磁気ヘッドの構造および特性に依存して変化する。しかしながら、生産性の観点から、軟磁性裏打ち層20は、おおむね10nm以上500nm以下の膜厚を有することが望ましい。
【0025】
非磁性下地層30は、面心立方(fcc)構造または六方最密充填(hcp)構造を有する非磁性金属を用いて形成することができる。fcc構造またはhcp構造を有する非磁性金属としては、Co合金またはNi合金を用いることができる。これらの材料を用いた場合、非磁性下地層30に、その上に形成される層の結晶配向性の制御機能を付与することができる。あるいはまた、非磁性下地層30は、アモルファス構造を有する非磁性金属を用いて形成することができる。アモルファス構造を有する非磁性金属としては、CrTi、CrB、またはCrTaのようなCr合金を用いることができる。いずれの場合においても、非磁性下地層30は、1nm以上30nm以下、より好ましくは2nm以上15nm以下の範囲内の膜厚を有する。望ましくは、非磁性下地層30は、軟磁性裏打ち層20と接触して形成される。
【0026】
本発明で用いる強磁性中間層42は、CoCr基合金で形成される。強磁性を有するために、CoCr基合金中のCr含有量は、全原子を基準として33原子%以下であることが望ましい。CoCr基合金で形成される本発明の強磁性中間層42は、hcp構造またはfcc構造を有する。
【0027】
本発明において、強磁性中間層42の飽和磁束密度Bsと膜厚tとの積Bs・tが、0.15〜3.6T・nmの範囲である事が必要である。強磁性中間層42のBs・tが0.15T・nmより低い場合、垂直磁気記録媒体の記録容易性が低下する。逆に、強磁性中間層42のBs・tが3.6T・nmより高い場合には、垂直磁気記録媒体のSNRの劣化を招く。なぜなら、強磁性中間層42のDCノイズ源としての影響が大きくなるためである。このような理由により、強磁性中間層42のBs・tを0.15〜3.6T・nmの範囲内とすることによって、垂直磁気記録媒体における記録容易性とSNRとを両立させることができると考えている。
【0028】
非磁性中間層44は、Ru、Re、もしくはこれらを主成分とする合金を用いて形成される単層膜であってもよい。あるいはまた、非磁性を示すCoCr(全原子を基準とするCr含有量が33原子%を超える)のようなCo合金またはNi合金で形成される下層と、Ru、Re、もしくはこれらを主成分とする合金を用いて形成される上層とからなる積層膜であってもよい。
【0029】
非磁性中間層44は、3nm以上、好ましくは3nm以上30nm以下、より好ましくは3nm以上20nm以下の範囲内の膜厚を有する。このような範囲内の膜厚とすることによって、垂直磁気記録層50の磁気特性および電磁変換特性を劣化させることなしに、高密度記録に必要な特性を垂直磁気記録層50に付与することが可能となる。非磁性中間層の膜厚を3nm未満とした場合、強磁性中間層42と垂直磁気記録層50の間に磁気的な結合が生じてSNR特性が低下する。逆に、非磁性中間層の膜厚を30nmより大きくすると、軟磁性裏打ち層20と垂直磁気記録層50との間の距離が長くなり、軟磁性裏打ち層20の機能(磁気ヘッドが発生する磁束を垂直磁気記録層50に集中させる機能)が低下する。
【0030】
垂直磁気記録層50は、好適には、少なくともCoとPtとを含む合金の強磁性材料を用いて形成することができる。本発明の磁気記録媒体を垂直磁気記録媒体として用いるためには、垂直磁気記録層50の材料の磁化容易軸(六方最密充填(hcp)構造のc軸)が非磁性基体10表面に垂直方向に配向していることが必要である。たとえば、CoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料の単層膜、あるいはCo膜とPt膜との交互積層膜([Co/Pt]n)、Co膜とPd膜との交互積層膜([Co/Pd]n)などの多層積層膜を、垂直磁気記録層50として使用することができる。
【0031】
あるいはまた、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて、単層または多層からなる垂直磁気記録層50を形成することがさらに好ましい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO2、CoCrPtO、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−Al23、CoPt−AlN、CoCrPt−Si34などを含むが、これらに限定されるものではない。本発明においては、グラニュラー構造を有する材料を用いることによって、垂直磁気記録層50内で近接する磁性結晶粒間の磁気的分離を促進し、ノイズの低減、SNRの向上および記録分解能の向上といった媒体特性の改善を図ることができる。
【0032】
垂直磁気記録層50の膜厚は、特に限定されるものではない。しかしながら、生産性および高密度記録の観点から、垂直磁気記録層50は、好ましくは40nm以下、より好ましくは20nm以下の膜厚を有することができる。
【0033】
任意選択的に設けることができる保護層60は、その下にある垂直磁気記録層50以下の各構成層を保護するための層である。保護層60として、たとえば、カーボンを主成分とする薄膜を用いることができる。その他にも、当該技術において磁気記録媒体保護層用の材料として知られている種々の薄膜材料を使用して、保護層60を形成してもよい。
【0034】
任意選択的に設けることができる液体潤滑層70は、記録/読み出し用ヘッドが磁気記録媒体上を浮上または接触する際の潤滑を付与するための層である。液体潤滑層70は、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤、または当該技術において知られている種々の液体潤滑剤材料を使用して形成することができる。
【0035】
非磁性基板10の上に積層される各層は、磁気記録媒体の分野で通常用いられる様々な成膜技術によって形成することが可能である。軟磁性裏打ち層20から保護層60に至る各層の形成には、たとえば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法などを用いることが出来る。また、カーボンを主成分とする保護層60の形成においては、前記の方法に加えてプラズマCVD法を用いることもできる。一方、液体潤滑層70の形成には、たとえば、ディップ法、スピンコート法などを用いることができる。
【0036】
任意選択的に、非磁性基板10と軟磁性裏打ち層20との間に、軟磁性裏打ち層20の磁区を制御する磁区制御層を設けてもよい。あるいは、非磁性基板10と軟磁性裏打ち層20との密着性を改良する密着層を設けてもよい。
【0037】
本発明の垂直磁気記録媒体においては、強磁性中間層42の飽和磁束密度Bsおよび膜厚tの積Bs・tを制御しているために、高密度記録時においても高い信号出力と低いノイズとを実現し、高いSNRおよび高い記録容易性を達成することが可能となる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−5ガラス基板)を洗浄し、非磁性基板10として用いた。非磁性基板10をDCマグネトロンスパッタ装置内に導入し、圧力0.67PaのArガス中にてCo3Zr5Nb(全原子を基準として、3at%のZr、5at%のNbおよび残余のCoで構成される。以下同様。)ターゲットを用いて、膜厚40nmのCoZrNb非晶質軟磁性裏打ち層20を成膜した。次に、圧力0.67PaのArガス中にてNi25Crターゲットを用いて、膜厚6nmのNi25Cr非磁性下地層30を成膜した。得られたNi25Cr膜は非磁性であり、fcc構造を有した。
【0039】
次に、圧力0.67PaのAr−4%N2ガス中にてCo25Crターゲットを用いて、膜厚2nmのCo25Cr強磁性中間層42を成膜した。ここで、振動式磁化計により測定したCo25Cr強磁性中間層42の飽和磁束密度Bsはおおよそ0.39Tであった。得られたCo25Cr強磁性中間層42はhcp構造を有した。
【0040】
引き続いて、圧力0.67PaのAr−4%N2ガス中にてCo35Crターゲットを用いて、非磁性中間層44の下層として膜厚10nmのCo35Cr膜を成膜した。得られたCo35Cr積層膜はfcc構造を有していた。続いて、圧力4.0PaのArガス中にてRuターゲットを用いて、非磁性中間層44の上層として膜厚8nmのRu膜を成膜した。
【0041】
引き続いて、2層構成の垂直磁気記録層50を成膜した。最初に、圧力5.3Paにて92(Co12Cr18Pt)−8SiO2ターゲットを用いて、膜厚8nmのCoCrPt−SiO2第1磁気記録層を成膜した。次に、圧力1.2Paにて96(Co20Cr12Pt)−4SiO2ターゲットを用いて膜厚8nmのCoCrPt−SiO2第2磁気記録層を成膜し、総膜厚16nmの垂直磁気記録層50を得た。次に、圧力0.13Paにおいて、エチレンを材料ガスとするプラズマCVD法により、膜厚4nmのカーボンからなる保護層60を成膜した。保護層60以下の層を形成した積層体を、真空装置から取り出した。最後に、保護層60の上に膜厚2nmのパーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑層70をディップ法を用いて形成し、垂直磁気記録媒体を得た。
【0042】
[実施例2〜6、比較例1〜2]
各実施例において、Co25Cr強磁性中間層42と非磁性中間層44の下層であるCo35Cr膜との総膜厚を12nmに固定した。Co25Cr強磁性中間層42およびCo35Cr膜の膜厚を第1表に示すように変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を得た。Co25Cr強磁性中間層42の飽和磁束密度Bsと膜厚tとの積Bs・tも、第1表に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例7〜9]
各実施例において、(a)Crの組成比を28原子%から32%原子%まで変化させたCoCr合金からなり、12nmの膜厚を有する強磁性中間層42を形成したこと、および(b)非磁性中間層44下層のCo35Cr膜を省略し、非磁性中間層44を8nmの膜厚を有する単層膜としたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を得た。CoCr強磁性中間層42の組成、飽和磁束密度Bs、および飽和磁束密度Bsと膜厚tとの積Bs・tを、第2表に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
[評価]
上記の実施例および比較例で得られた垂直磁気記録媒体について、Kerr効果測定装置を用いて保磁力Hcを測定した。さらに、リード・ライトテスタを用いて、各垂直磁気記録媒体のSNR、媒体ノイズ、オーバーライト特性(OW)を測定した。なお、SNRおよび媒体ノイズの評価は、記録密度510kfciの信号を用いて行った。媒体ノイズは、信号出力に対して規格化した値を示す。OWは、最初に、トラックに記録密度510kfciの第1信号を記録し、その信号の信号出力(T1)を測定し、次いで、同一トラックに記録密度68kfciの第2信号を上書きし、上書き後の第1信号の消し残り信号出力(T2)を測定し、以下の式(「log」は常用対数を示す)によって得られる値として評価した。
OW=−20×log(T2/T1) [単位:dB]
このように高密度記録信号上に低密度記録信号を上書きするOWはリバースオーバーライトと呼ばれ、垂直磁気記録媒体における記録容易性を明確に評価できる指標となっている。
【0047】
第3表に、実施例1〜9および比較例1〜2の垂直磁気記録媒体の磁気特性(保磁力Hc)、および電磁変換特性(SNR、媒体ノイズ(規格化値)、およびO/W)の評価結果を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
以下、強磁性中間層42の飽和磁束密度Bsと膜厚tとの積Bs・tが本発明の範囲内である実施例1〜9を、Bs・tが本発明の範囲外となる比較例1〜2と比較する。なお、実施例1〜9および比較例1〜2において、保磁力Hcがほぼ同じ値となるように調整している。Bs・tの変化に伴うO/W、媒体ノイズおよびSNRの挙動を、それぞれ図2〜4に示す。
【0050】
図2から、Bs・tの増加に伴いO/Wの値が上昇し、記録容易性が向上していることが分かる。しかしながら、図3から、Bs・tが2T・nmより大きくなると媒体ノイズの増加が始まることが分かる。これらの結果から、記録容易性の向上と媒体ノイズの増加とは、異なる挙動を示すことが分かる。
【0051】
一方、図4に示したBs・tの変化に伴うSNRの挙動から、強磁性中間層42の挿入によりSNRが改善されることが分かる。しかしながら、媒体ノイズの増加が始まるBs・tが2T・nm以上の領域において、SNRの低下が認められる。
【0052】
以上の結果から、Bs・tが0.15〜3.6(T・nm)の範囲内で、SNRの向上、記録容易性(O/W)の向上、および媒体ノイズの低下が達成されていることが分かった。
【符号の説明】
【0053】
10 非磁性基体
20 軟磁性裏打ち層
30 非磁性下地層
42 強磁性中間層
44 非磁性中間層
50 磁気記録層
60 保護膜
70 液体潤滑剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層、非磁性下地層、強磁性中間層、非磁性中間層、および垂直磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、前記強磁性中間層がCoCr基合金で形成されており、前記強磁性中間層の飽和磁束密度と膜厚との積Bs・tが0.15〜3.6T・nmの範囲内であり、前記非磁性中間層が3nm以上の膜厚を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性下地層が、fcc構造あるいはhcp構造を有する非磁性金属で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性下地層が、アモルファス構造を有する非磁性金属で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性下地層が、Ni、CoおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む合金で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216173(P2011−216173A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217511(P2010−217511)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】