説明

垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体及び同媒体を搭載した磁気ディスクドライブ

【課題】サーボ情報が確実に埋め込み形成された、構造が簡単な垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体を提供する。
【解決手段】ディスク媒体1は、ディスク状の基板10の面10A側及び面10B側に、それぞれ磁性体3A及び3Bの有無によって形成されたサーボパターン部を備える。ディスク媒体1の両面にそれぞれ形成されたサーボパターン部の磁性体3A及び3Bは、当該ディスク媒体1の両面に垂直な同一方向に磁化され、磁性体3A及び3Bの表面の磁気極性は相異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク状の基板の各面側に磁性体の有無でサーボパターン部が物理的に形成された垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体に係り、特に当該各面側に形成されたサーボパターン部の磁性体が、いずれも当該各面に垂直な同一方向に磁化された垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体及び同媒体を搭載した磁気ディスクドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクドライブに搭載されるディスク状の磁気記録媒体(ディスク媒体)には、予め、或いは初期化時に、サーボ情報が記録されるのが一般的である。サーボ情報は、ヘッドを上記メディア上の目標位置に位置付けるのに必要な位置情報を含む。このサーボ情報が記録された領域はサーボ領域と呼ばれる。
【0003】
近年、このサーボ領域(サーボゾーン)を、表面に磁性層を有する基板の凹凸パターンで、サーボパターンとして予め形成する磁気ディスク媒体、いわゆるパターンドディスク媒体に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、データトラックもパターンにより形成し、当該トラックに沿ってグルーブを形成する、いわゆるDTR(discrete track recoding)方式についても記載されている。DTR方式は、データ領域でのエラー率を改善し、面記録密度の向上が可能と期待されている磁気記録方式である。
【0004】
さて、表面に磁性層を有する基板の凹凸のパターンでサーボパターンを形成するだけでは、当該パターンをサーボ情報として使用することはできない。このサーボ情報として使用可能なサーボパターンを実現するには、予め当該パターンの部分を確実に着磁する初期化処理が必要である。そこで、上記特許文献1では次のような2段階着磁法が適用される。まず、パターンドディスク媒体を回転させながら、着磁用のヘッドを当該ディスク媒体の内周と外周の間を移動させて、当該ヘッドにより第1の方向の強磁界を発生することで、ディスク媒体の凸部及び凹部の各磁性層、つまりディスク媒体の全面を第1の方向に着磁する。次に、ディスク媒体を回転させながら、ヘッドを当該ディスク媒体の内周と外周の間を移動させて、当該ヘッドにより上記第1の方向とは逆の第2の方向の磁界であって、凹部に影響を与えない程度の磁界を発生することで、ディスク媒体の凸部の磁性層を磁化反転させ、当該凸部のみを第2の方向に着磁させる。
【0005】
2段階着磁法は、例えば特許文献2にも記載されている。この特許文献2に記載されたパターンドディスク媒体は、長手磁化方式を適用し、表面に凹凸形状の磁性層が形成されたディスク状の磁気記録媒体である。この特許文献2に記載の2段階着磁法においては、まず着磁装置を使って、DC大電流で第1の方向の磁界を発生することで、ディスク媒体の凹凸部とも当該第1の方向に磁性の向きが揃えられる。次に凹部に影響を与えない程度のDC微弱電流で上記第1の方向とは逆の第2の方向の磁界を発生する。これにより、ディスク媒体の凸部のみが第2の方向に磁化される。
【0006】
2段階着磁法は、更に特許文献3にも記載されている。この特許文献3に記載された2段階着磁法は、両面垂直磁気記録媒体(両面垂直磁気ディスク媒体)に適用される。この特許文献3に記載の2段階着磁法においては、まずディスク媒体の両面に形成された凹凸のない磁性層が、表裏透過型外部磁界によって一方向に着磁される。この磁性層の表面の磁化極性は、ディスク媒体の両面で相異なる。次に、ディスク媒体の一方の面に形成された磁性層(第1磁性膜)に対して転写すべき信号パターンに応じて磁性体領域が配置された第1マスク媒体と、上記ディスク媒体の他方の面に形成された磁性層(第2磁性膜)に対して転写すべき信号パターンに応じて磁性体領域が配置された第2マスク媒体とを用いて、第1及び第2マスク媒体の信号パターンが、それぞれ第1及び第2磁性膜へ転写される。
【特許文献1】特開2003−22634号公報(段落0028、段落0063乃至0067、図3、図4、図8)
【特許文献2】特開平9−54946号公報(段落0020及び0045、図1乃至3)
【特許文献3】特開2004−22056号公報(段落0012及び0014、段落0030乃至0034、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1または2に記載された2段階着磁法においては、磁気ディスク媒体の全面を第1の方向に着磁させる場合に、たとえ着磁用の大型ヘッドを使用したとしても、磁気スペーシングが広いことから、当該ディスク媒体の特に凹部の磁性層には、磁気ディスクドライブのヘッドでの記録磁界よりも、むしろ弱い磁場しか印加されない虞がある。また、磁気ディスク媒体の全面を第1の方向に着磁させた後、凹部に影響を与えない程度の磁界を発生して、当該ディスク媒体の全領域について凸部の磁性層のみを確実に磁化反転させることは、必ずしも容易ではない。
【0008】
一方、特許文献3に記載された2段階着磁法においては、表裏透過型外部磁界によって両面垂直磁気ディスク媒体の全面を着磁させることから、上記特許文献1または2に記載された2段階着磁法に比べて十分強い磁場を磁気ディスク媒体の両面の磁性層に印加できる。しかしながら、特許文献3に記載の2段階着磁法の第2段階では、第1及び第2マスク媒体を用いて、当該第1及び第2マスク媒体の信号パターンを、それぞれ磁気ディスク媒体の両面の磁性層(第1及び第2磁性膜)へ転写しなければならない。
【0009】
本発明は上記事情を考慮してなされたものでその目的は、ディスク状の基板の各面側に磁性体の有無で形成されたサーボパターン部の当該磁性体が、いずれも当該各面に垂直な同一方向に確実に磁化された、構造が簡単な垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体及び同媒体を搭載した磁気ディスクドライブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの観点によれば、垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体が提供される。このパターンドディスク媒体は、第1の面及び当該第1の面とは反対側の第2の面とを持つディスク状の平坦な基板と、上記第1及び第2の面側に磁性体の有無によってそれぞれ形成された第1及び第2のサーボパターン部であって、当該第1及び第2のサーボパターン部の上記磁性体が、いずれも上記第1及び第2の面に垂直な同一方向に磁化され、当該第1及び第2のサーボパターン部の上記磁性体の表面の磁気極性、つまり磁極が当該第1及び第2のサーボパターン部の間で相異なる第1及び第2のサーボパターン部とを備える。
【0011】
このように、上記の構成のパターンドディスク媒体においては、ディスク状の平坦な基板の第1及び第2の面側に、磁性体の有無によってそれぞれ第1及び第2のサーボパターン部が形成され、当該第1及び第2のサーボパターン部の磁性体(つまり凸部)が、いずれも上記第1及び第2の面に垂直な同一方向に磁化されるだけで、サーボパターンに対応したサーボ情報が埋め込み形成される。つまり、本発明の1つの観点によれば、サーボ情報が確実に埋め込み形成された、簡単な構造のパターンドディスク媒体を提供できる。
【0012】
ここで、上記の構成のパターンドディスク媒体を製造する際に必要となる、上記第1及び第2のサーボパターン部の磁性体を当該媒体の面に垂直な方向に磁化する初期化(着磁)処理に、当該パターンドディスク媒体を、表裏透過型外部磁界によって初期化する初期化方法を適用すると良い。この方法によれば、初期化の対象となるパターンドディスク媒体に形成された第1及び第2のサーボパターン部が、それぞれディスク状の平坦な基板の第1及び第2の面側に磁性体の有無によって形成されたものであることから、つまり第1及び第2のサーボパターン部が磁性部と非磁性部の組み合わせパターンで形成されたものであることから、1回の初期化(着磁)処理で、第1及び第2のサーボパターン部を確実に初期化でき、サーボ不良の発生を防止できる。
【0013】
また、上記の構成のパターンドディスク媒体では、パターンドディスク媒体の一方の面に形成された第1のサーボパターン部の磁性体の表面の磁極と、当該ディスク媒体の他方の面に形成された第2のサーボパターン部の磁性体の表面の磁極とが、相異なる。このため、上記パターンドディスク媒体の少なくとも一方の面における漏れ磁束の方向を検出することにより、当該パターンドディスク媒体の表裏を簡単に且つ確実に判定することができる。
【0014】
また、上記の構成のパターンドディスク媒体を搭載したディスクドライブでは、ヘッド切り替え時に、磁気検出極性を反転すると良い。更に、磁気検出極性を反転する際には、
磁気記録極性も併せて反転すると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1及び第2のサーボパターン部の磁性層が正しい方向に確実に磁化された、つまりサーボ情報が確実に埋め込み形成された、簡単な構造の垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体を実現できる。また、このようなパターンドディスク媒体に形成されたサーボパターン部を確実に初期化でき、サーボ不良の発生を防止できる。また、初期化済みのパターンドディスク媒体を簡単に表裏判定することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
[両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体のパターン概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体1のパターン構成の概要を示す平面図である。ディスク媒体1は、2つの面、つまり上面SA及び下面SB(図3参照)を有する、小径(例えば0.85インチ型)のパターンドディスク媒体である。図1に示すように、ディスク媒体1の面SAには、複数のサーボ領域(サーボパターン部)11が当該媒体1の半径方向に円弧状に且つ当該媒体1の円周方向に等間隔で形成されている。この円弧は、ディスク媒体1が磁気ディスクドライブに組み込まれて使用される際に、当該ドライブ内のヘッド110-0がディスク媒体1上を浮上して移動する軌跡(ヘッドアクセス軌跡)に対応する。各サーボ領域11のディスク媒体1の円周方向に沿った長さ(幅)は、当該ディスク媒体1の半径位置に依存して比例して長く(広く)なるように設定されている。また、ディスク媒体1の面SBにも、複数のサーボ領域(図示せず)が、サーボ領域11と同様に形成されている。面SA上の複数のサーボ領域11と面SB上の複数のサーボ領域とは、ミラー対称に配置される。つまり、ディスク媒体1には表裏がある。
【0017】
ディスク媒体1は、後述するように、2つの面10A及び10Bを持つ平坦な基板(ガラス基板)10(図3参照)を含む。基板10の各面10A及び10Bには、それぞれ下地層2A及び2Bが形成されている。この下地層2A及び2Bの表面には、記録層(磁性層)となる磁性体がパターン状に形成されている。サーボ領域11は、この記録層の一部によって形成されている。
【0018】
以下では、ディスク媒体1の面SAについて述べるが、面SBについても同様である。ディスク媒体1の面SA上の複数のサーボ領域11は、当該面SAをディスク媒体1の円周方向に等分割するように配置されている。ディスク媒体1の面SAは、この複数のサーボ領域11により同数のセクタ(サーボセクタ)に分割される。なお、図1では、作図の都合上、ディスク媒体1の面SAが15サーボセクタに分割されている。しかし面SAは、実際には100サーボセクタ以上に分割される。
【0019】
ディスク媒体1の面SAにおいて、隣接するサーボ領域11で挟まれた領域はデータ領域12と呼ばれる。データ領域12は、一般にユーザデータを記録再生するのに用いられる領域である。本実施形態において、ディスク媒体1はDTRタイプのバターンドディスク媒体である。このため、ディスク媒体1のデータ領域12には、DT(ディスクリート・トラック)と呼ばれる複数の円環(リング)状の磁性トラック(図示せず)がデータ領域12の半径方向に一定長(トラックピッチTp)周期で予め形成されている。ユーザデータは、この磁性トラックに磁化パターンとして記録される。複数の磁性トラックは、記録層(磁性層)となる強磁性体(例えばCoCrPt)を用いて、基板10の下地層2A(図3参照)上に凸状に且つ円環(リング)状に形成される。隣接する磁性トラック間は、非磁性ガードと呼ぶ、凹状の記録不可能な非磁性部となっている。このように、複数の磁性トラックは、ディスク媒体1の半径方向に磁性分断する円環状に形成され、データ領域12は当該複数の磁性トラックが非磁性部を介して一定長周期で配設されたパターンにより構成される。このようなDTRタイプのディスク媒体1では、各磁性トラックが、隣接トラックの干渉の影響を受けるのを抑えることが可能となり、ディスク媒体1の高密度化に寄与する。上記したように、ディスク媒体1の面SAは、複数のサーボ領域11により同数のサーボセクタに分割される。このことは、面SA上の各磁性トラックが、複数のサーボ領域11によりディスク媒体1の円周方向に同数のサーボセクタに分割されることを表す。なお、データ領域12が必ずしもパターン化されている必要はない。
【0020】
[サーボパターン構成]
図2は、図1中のサーボ領域11の詳細パターン構成を示す。この図2に示すサーボ領域11のパターン(サーボパターン)は、ディスク媒体1がディスクドライブに組み込まれた際に、当該ドライブ内のヘッドが紙面の左から右に通過する箇所の、当該媒体1の面(上面)SA側のパターンを表している。
【0021】
サーボ領域11は、ヘッド位置決めのために必要な情報であるサーボ情報を、磁性部と非磁性部との組み合わせで埋込み形成したプリビット領域である。サーボ領域11は、大別すると、図2(a)に示すように、プリアンブル部11A、アドレス部11B及び偏差検出用のバースト部11Cから構成されている。このサーボ領域11の構成は、周知のサーボ情報記録パターン(サーボパターン)を、磁性/非磁性がそれぞれ1/0に対応するようにプリビット形成したものである。以下、各パターン内容について簡単に説明する。
【0022】
プリアンブル部11Aは、ディスク媒体1の回転偏芯等により生ずる時間ズレに対し、サーボ情報(サーボ信号)再生用クロックを同期させるPLL(位相ロックループ)処理や、信号再生振幅を適正に保つAGC(自動利得制御)処理を行うために設けられる。プリアンブル部11Aは、図2(b)に示すように、ディスク媒体1の半径方向に連続し、当該ディスク媒体1の円周方向に分断された縦縞の繰返しパターンで構成される。図2(b)では、ハッチングが施された部分が非磁性部(凹部)を、ハッチングが施されていない部分が磁性部(凸部)を表している。これとは逆に、ハッチングが施された部分が磁性部(凸部)を、ハッチングが施されていない部分が非磁性部(凹部)を表す構造であっても構わない。プリアンブル部11Aの円周方向磁性幅は、繰返し周期のほぼ50%となるように形成されている。
【0023】
アドレス部11Bは、マンチェスタコードと呼ばれるパターンで、1/0がそれぞれ磁性/非磁性に対応するように構成されている。このアドレス部11Bのパターンは、サーボアドレスマーク(SAM)と呼ばれるサーボ領域識別コード、セクタ情報及びシリンダ情報等を表す。アドレス部11Bの情報のうち、シリンダ情報以外は、各サーボセクタで一定となるので、プリアンブル部11Aと同様に、磁性/非磁性幅が一様でない縦縞パターンで構成される。一方、シリンダ情報は、サーボトラック毎に変化するパターンとなり、ディスク媒体1の半径方向で磁性分断が起こる。このシリンダ情報には、シーク動作時のアドレス判読ミスの影響が小さくなるように、隣接サーボトラックとの間の情報の変化が最小(1ビット)となる、例えばグレイコードに変換された情報を、更にマンチェスタコード化したパターンが用いられる。このため、シリンダ情報は、磁性分断頻度がLSB(最下位ビット)側ほど激しく、ディスク媒体1の半径方向に対称性を持つ模様のようなパターンとなる。
【0024】
バースト部11Cは、シリンダアドレスのオントラック状態からのオフトラック量(位置偏差)を検出するためのオフトラック検出用領域である。バースト部11Cには、ディスク媒体1の半径方向にパターン位相をずらした4種のマークが形成されている。この4種のマークはバーストA,B,C,Dと呼ばれる。バースト部11Cには、図2(c)に示すように、ディスク媒体1の円周方向に複数個のマークがプリアンブル部11Aと同一のピッチ周期で配置されたパターンが用いられる。バースト部11Cのパターンの半径方向周期は、アドレス部11Bのアドレスパターンの変化周期に比例した周期、換言すれば、サーボトラック周期に比例した周期に設定される。図2(c)では、作図の都合上、バースト部11Cの各バーストA,B,C,Dがディスク媒体1の円周方向に3周期分で記載されている。しかし、実際のバースト部11Cには、各バーストA,B,C,Dがディスク媒体1の円周方向に例えば10周期分形成され、ディスク媒体1の半径方向にサーボトラック周期の2倍長周期で繰り返すパターンが用いられる。このバースト部11Cの各バーストA,B,C,Dの再生信号の平均振幅値を演算処理することにより、オフトラック量が算出される。なお、本実施形態では、バースト部11Cに、バーストA,B,C,Dのパターン(バーストパターン)を適用している。しかし、周知の位相差サーボパターン等、オフトラック量検出に利用可能なパターンであれば、バーストパターン以外のパターンを適用することも可能である。
【0025】
[ディスク媒体1の断面構成と磁化方向]
図3は、ディスク媒体1の断面を示す。図3において、ディスク媒体1は平坦なガラス基板10を含む。基板10は、面10A及び10Bを持つ。この基板10の面10A及び10Bには、それぞれ下地層(SUL)2A及び2Bが形成されている。下地層2A及び2Bは、軟磁性層(高透磁率層)を含む。下地層2A及び2B上の一部には、それぞれ、強磁性体(例えばCoCrPt)からなる垂直磁気異方性を持つ磁性体3A及び3Bが、記録層として凸状にパターン化されて形成されている。ディスク媒体1の面SA及びSB側には、図示しない薄膜のDLC保護膜が形成され、当該保護膜には潤滑剤としてルブが塗布されている。なお、基板10は、必ずしもガラス基板である必要はない。即ち基板10は、非磁性体であれば良く、例えばアルミ基板であってもよい。また、記録層をなす磁性体(強磁性体)3A及び3Bは、必ずしもCoCrPt系である必要はなく、他の垂直磁気異方性を持つ強磁性体、例えばFePt系の強磁性体であっても良い。また、ディスク媒体1は、その面SA及びSBが磁性体の有無を反映した凹凸形状をなす。しかし、凹部にSiO2等の非磁性体を埋め込むことにより、面SA及びSBが平坦化された磁気ディスク媒体であっても良い。
【0026】
さて、図3には、ディスク媒体1上のパターン化された磁性体3A及び3Bに、矢印「↑」が記載されている。この、矢印「↑」の向きは、磁性体3A及び3Bの内部磁化方向を表す。本実施形態では、次に述べるディスク媒体1の生成後の着磁処理により、磁性体3A及び3Bは、図3に示す矢印「↑」の方向に磁化される。ここでは、磁性体3A及び3Bは、矢印「↑」の先端側がN極、基端側がS極となるように磁化されている。
【0027】
[ディスク媒体製造方法の概略]
次に、ディスク媒体1の製造方法について、そのプロセスを簡単に説明する。ディスク媒体1の製造プロセスは、転写工程、磁性加工工程及び仕上げ工程からなる。まず、転写工程に使用するスタンパの製造方法から説明する。
【0028】
スタンパの製造工程は、パターン描画、現像、電鋳及び、仕上げの各処理に細分化される。パターン描画処理では、原盤回転型の電子線露光装置を用いて、磁気ディスク媒体上で非磁性化させる部位が、レジスト塗布された原盤上に、内周から外周まで露光描画される。現像処理では、原盤に塗布された露光描画後のレジストを現像し、その現像後の原盤にRIE等の処理をすることにより、凹凸パターンを持つ原盤が作成される。電鋳処理では、凹凸パターンを持つ原盤に導電化処理してNiを表面に電鋳し、当該原盤から凹凸パターンを持つNi板を剥離し、最後に当該Ni板に対して内径/外径を打ち抜き加工することで、Niのディスク状スタンパが形成される。なお、スタンパは、非磁性化させる部位が凸部として形成される。このスタンパを使って、パターンドディスク媒体1が製造される。
【0029】
さて、ディスク媒体1の製造プロセスの転写工程では、両面同時転写型のインプリント装置を用い、インプリントリソグラフィー法による転写が次のように行われる。まず、垂直磁気記録用ディスク基板の両表面にレジストが塗布される。垂直磁気記録用ディスク基板とは、図3に示した、基板(ガラス基板)10の両面に形成された下地層2A,2Bの全面に垂直磁気異方性を持つ磁性層が形成された基板をいう。この垂直磁気記録用ディスク基板の中心部には、後述するスピンドルモータに支持可能とするための透孔が形成されている。そこで、垂直磁気記録用ディスク基板を、当該基板の透孔でチャッキングする。そして、ディスク基板を裏面用、表面用に準備した2種スタンパで、全面均等押圧で挟み込み、レジスト表面に凹凸転写する。この転写工程により、非磁性化させる部位が、レジストの凹部として形成される。
【0030】
次に、磁性加工工程で、凹部レジストを除去することにより、非磁性化させる部位の磁性層表面が露出する。この状態では、磁性層を図3に示す磁性体3A,3Bとして残す部位に、レジストが凸部として形成されている。そこで、このレジストをガード層として、ディスク基板の両面を例えばイオンミリングすることで、凹部に位置する磁性層のみが除去され、図3に示すような所望のパターンの磁性体3A及び3Bが形成される。
【0031】
最後の仕上げ工程では、磁性体3A及び3Bが形成されたディスク基板の両面にDLC保護層を形成し、潤滑用ルブを塗布することで、ディスク媒体1が完成する。但し、この段階では、ディスク媒体1の磁性体3A及び3Bは、磁化されておらず、次に述べるディスク媒体着磁法で磁性体3A及び3Bを磁化させる必要がある。
【0032】
[ディスク媒体着磁方法]
次に、メディア着磁方法について説明する。図4は、ディスク媒体1の初期化(着磁)に用いられる専用の着磁装置40の概略構成を示す断面図である。着磁装置40は、ディスク媒体1上の凸状にパターン化された磁性体3A及び3Bを着磁するのに用いられる。この着磁装置40は、強力な磁場を発生するための巨大な電磁コイル41を有する。電磁コイル41の先端には空隙部42が形成されている。着磁装置40はまた、ディスク媒体1を回転させるスピンドルモータ(SPM)43を有する。ディスク媒体1は、その一部が着磁時に空隙部42に位置するようにSPM43にチャッキングされる。
【0033】
今、ディスク媒体1の一部が空隙部42に位置しているものとする。この状態で、電磁コイル41に直流電流を通電すると、当該電磁コイル41により強力な直流(DC)磁場が発生される。これにより、空隙部42において、ディスク媒体1を表裏透過する方向にDC磁場(表裏透過型外部磁界)が印加される。ここで、ディスク媒体1をSPM43により回転させるならば、ディスク媒体1の同一半径位置の円環状領域に含まれる磁性体3A及び3Bが、ディスク媒体1の面SA及びSBに垂直な一方向(ここでは、図3に示す矢印「↑」の方向)に磁化される。
【0034】
本実施形態において、電磁コイル41は、図示しないリニアモータのような移動機構(アクチュエータ)により、紙面に垂直な方向(ディスク媒体1の面SA及びSBに平行な方向)に直動移動可能なように支持されている。そこで、SPM43によって回転されているディスク媒体1を表裏透過する方向に、電磁コイル41によりDC磁場を印加する。そして、この電磁コイル41によりディスク媒体1にDC磁場を印加しながら、当該電磁コイル41を、例えばディスク媒体1上で、磁性体3A及び3Bによってパターン化されている最内周位置より更に内側の位置と磁性体3A及び3Bによってパターン化されている最外周位置より更に外側の位置との間で往復移動させる。このときディスク媒体1は、SPM43により回転させられている。したがって、この状態で、上述のように電磁コイル41を往復移動すると、ディスク媒体1の全域が、当該電磁コイル41の先端の空隙部42によって走査される。これにより、ディスク媒体1の面SA及びSBに形成されている全ての磁性体3A及び3Bは、図3に示すように、矢印「↑」の方向に一様に磁化される。よって、ディスク媒体1の面SAに配置された各サーボ領域11に属する磁性体3Aと、ディスク媒体1の面SBに配置された各サーボ領域に属する磁性体3Bも、図3に示すように、矢印「↑」の方向に磁化(着磁)される。このことは、各サーボ領域11を構成する、磁性体3Aの有無によって形成されるサーボパターン(サーボ情報)が、初期化されたことを示す。これは、ディスク媒体1の面SBに配置された各サーボ領域についても同様である。
【0035】
さて、上記した磁化の方向、つまり漏れ磁束の方向は、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bの、それぞれ表面から見た場合、ディスク媒体1の面SA及びSBで逆方向となる。つまり、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bの表面の磁気極性(磁極)は、磁性体3A及び磁性体3Bで相異なる。図3の例では、磁性体3Aの表面の磁極はN、磁性体3Bの表面の磁極はSである。
【0036】
なお、上述したディスク媒体の製造及びディスク媒体の着磁(初期化)処理、更には着磁後のディスク媒体の梱包処理は、一連の自動化作業によりなされ、ディスク媒体を誤った方向(図3とは逆の方向)に磁化する危険等は発生しない。
【0037】
[本実施形態の効果]
一般に、サーボパターンが磁性部と非磁性部との組み合わせで埋込み形成されたパターンドディスク媒体であっても、磁性部の磁化特性を揃えなければ、ディスクドライブでのサーボ情報再生は困難である。特許文献1に記載されたような一般的な垂直磁気ディスク媒体でも、外部磁界の印加を伴う出荷前着磁(初期化)処理が行われる。しかし特許文献1に記載された初期化処理は、本実施形態とは異なって、ディスク媒体の表裏を透過する表裏透過型(ディスク媒体透過型)の磁場印加ではない。このため、外部磁界の磁束密度は、ディスクドライブの記録ヘッドに比べててかなり弱く、埋め込みサーボパターンの十分な着磁(初期化)は困難である。結局、この種のパターンドディスク媒体は、ディスクドライブに組み込んでから、当該ドライブ内のヘッドでDC消去して、サーボパターンを初期化する処理が必要になる。
【0038】
確かに、メディア透過型でなくとも外部磁界を上げて初期化することは可能である。しかし、ディスク媒体の上下両面の磁化特性を揃えるには、微妙な磁界強度調整が必要であり、ディスク媒体を初期化する装置(ディスク媒体初期化装置)での磁気空隙管理等も高精度化する必要がある。また、ディスク媒体初期化装置に外部振動等が加わると、サーボパターンの磁化が部分的に消失する欠陥が発生し、ディスク媒体の歩留まりを悪化させる要因にもなる。
【0039】
一方、特許文献3に記載されたディスク媒体の初期化処理では、表裏透過型外部磁界によって、当該ディスク媒体の全面が着磁される。しかし、この全面着磁の後、第1及び第2マスク媒体を用いて、当該第1及び第2マスク媒体の信号パターンを、それぞれ磁気ディスク媒体の両面の磁性層(第1及び第2磁性膜)へ転写しなければならない。
【0040】
これに対して本実施形態では、ディスク媒体1の各面上での磁性体の有無によってサーボパターンが形成され、且つその磁性体(サーボパターン)が表裏透過型外部磁界(ディスク媒体透過型のDC磁界)だけで着磁(初期化)される。このため、サーボパターン自体が物理的に正しく形成されている限り、磁化不良による欠陥を生ずることがなく、ディスクドライブに搭載された記録ヘッドによる、DC消去等のサーボパターン初期化処理も不要になる。
【0041】
また、本実施形態では、表裏透過型外部磁界によって着磁(初期化)された磁気ディスク媒体(パターンドディスク媒体)1の上面/下面(表裏)を、以下に述べるように簡単に判定できる。即ち、表裏透過型外部磁界によって着磁されたディスク媒体1は、当該媒体1がディスクドライブに組み込まれた場合、当該ドライブのダウンヘッドが対面する当該媒体1の上面(表面)SAは、漏れ磁界方向が当該ダウンヘッドに対して「↑」方向(N極)となる、一方、アップヘッドが対面するディスク媒体1の下面(裏面)SBは、漏れ磁界方向が当該ダウンヘッドに対して「↓」方向(S極)となる。したがって本実施形態に係るディスク媒体1においては、当該媒体1の少なくとも一方の面の磁性方向(磁気極性)を調べることで、当該媒体1の表裏を簡単に判定できるという利点もある。
【0042】
一般に、本実施形態におけるディスク媒体1を初めとして、パターンドディスク媒体には、図1のように円弧状のサーボ領域が形成されている。しかし、サーボ領域が高記録密度に形成されたパターンから構成されている場合、可視光波長(400nm程度)よりも遥かに短いパターン(百数十nm程度)となる。このようなディスク媒体では、サーボパターンが、たとえ凹凸形成されていても、光ディスク等に見られるような、虹状回折を認識することは困難であり、当該媒体の表裏を判定することは難しい。ディスク媒体をディスクドライブに組み込んだ状態でサーボトラックを形成する場合には、当該媒体の表裏は問題にならない。しかし、本実施形態におけるディスク媒体1のように、サーボ領域が予め形成されたパターンドディスク媒体では、前述したサーボ領域内の信号(プリアンブル部11A、アドレス部11B及びバースト部11C)の出現順が重要であり、ヘッドディスクアセンブリ(HDA)を組み立てる際のディスク媒体の表裏管理が大きな問題となる。本実施形態におけるディスク媒体1では、上面(表面)SA側がN極、下面(裏面)SB側がS極となる。したがって本実施形態においては、ディスクドライブ製造メーカーに納入される磁気ディスク媒体の、ディスクドライブへの組み込みに際しての表裏確認検査が、当該媒体からの漏れ磁束の方向を検出することにより容易に実施可能になる効果もある。
【0043】
[磁気ディスクドライブ構成]
次に、磁気ディスクドライブの構成について簡単に説明する。図5は、ディスク媒体1を搭載した磁気ディスクドライブの構成を示すブロック図である。このディスクドライブは、大きく分けて、ヘッドディスクアセンブリ部(以下、HDA部と称する)100と、印刷回路基板部(以下、PCB部と称する)200とから構成される。
【0044】
HDA部100は、磁気ディスクドライブの本体部であり、両面がDTR用に加工されたディスク媒体(垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体)1と、ダウンヘッド110-0及びアップヘッド110-1の対と、スピンドルモータ(SPM)120と、アクチュエータ130と、ヘッドアンプIC(以下、HICと称する)140を有する。ディスク媒体1は、前述したように、DTRタイプのパターンドディスク媒体であり表裏がある。しかし、ディスク媒体1は、先に述べた表裏確認(表裏判定)方法による表裏確認がされた上で、ディスクドライブに適正方向に組み込まれれている。
【0045】
ヘッド110-0及び110-1は、ディスク媒体1のそれぞれ上面SA及びSBに対応して配置される。ヘッド110-0及び110-1は、それぞれヘッド本体であるスライダ(ABS)に、リード素子(GMR素子)及びライト素子を有する磁気ヘッド素子が実装されることにより構成される。ヘッド110-0及び110-1は、アクチュエータ130に搭載されている。
【0046】
アクチュエータ130は、ヘッド110-0及び110-1をそれぞれ支持するサスペンションアーム131-0及び131-1と、当該アーム131-0及び131-1を回転自在に支持するピボット軸132と、ボイスコイルモータ(VCM)133とを有する。VCM133はアクチュエータ130の駆動源であり、アーム131-0及び131-1にピボット軸132周りの回転トルクを発生させて、ヘッド110-0及び110-1をディスク媒体1の半径方向に移動させる。
【0047】
ヘッド110-0及び110-1は、当該ヘッド110-0及び110-1の入出力信号を増幅するためのHIC140と接続されている。HIC140は、例えばアクチュエータ130の所定部位に固定され、フレキシブルケーブル(FPC)で、PCB部200側と電気的に接続されている。但し、図5では、作図の都合で、HIC140は、アクチュエータ130から離れた箇所に配置されている。このように本実施形態では、HIC140は、ヘッド信号のSN低減のために、ヘッド110-0及び110-1の近傍のアクチュエータ130に設けられている。しかし、HIC140がPCB部200に固定された構成であっても良い。
【0048】
一方、PCB部200は、主として4つのシステムLSI、即ちモータドライバIC210、リード/ライトチャネルIC220、ディスクコントローラ(HDC)230及びCPU240を有している。
【0049】
モータドライバIC210は、SPM120及びVCM133を駆動する。即ちモータドライバIC210は、SPM120を一定の回転速度で駆動制御する。モータドライバIC210はまた、CPU240から指定されたVCM操作量を、電流値としてVCM133に与えることで、アクチュエータ130を駆動する。
【0050】
リード/ライトチャネルIC220は、リード/ライトに関連する信号処理を行うデバイスである。リード/ライトチャネルIC220は、HIC140のチャネル切り替え、更にはヘッドの記録再生信号を処理する回路で構成される。
HDC230は、ディスクドライブと当該ディスクドライブを利用するホストシステム(例えばパーソナルコンピュータ)とのインターフェースを構成する。
【0051】
CPU240は、ディスクドライブのメインコントローラである。CPU240は、ディスク媒体1に形成されたサーボ領域11のパターン(サーボパターン)をサーボ情報として利用するヘッド位置決め制御システムを実現する。CPU240は、ROM、RAM、MPU(マイクロプロセッサユニット)及びDSP(デジタル信号処理プロセッサ)を含む。ROMは、制御プログラム(ファームウェアプログラム)を保存する。CPU240(内のMPU)は、この制御プログラムに従ってディスクドライブを制御する。RAMの領域は、CPU240(内のMPU)のワーク領域等に用いられる。DSPは、ハードウェア回路で構成された演算処理部で、高速演算処理に用いられる。なお、CPU240がDSPを持たずに、制御プログラムに従って当該DSPに要求される演算処理を行う構成であっても良い。
このように、図5に示したディスクドライブは、当該ドライブに搭載されるディスク媒体1を除き、基本的に従来と同様の構成である。
【0052】
[ヘッド位置決め制御システム]
次に、主として図5中のCPU240によって実現されるヘッド位置決め制御システムの構成について説明する。図6は、ヘッド位置決め制御システムの構成を示すブロック図である。図6において、C,F,P,Sはそれぞれシステムの伝達関数を表す。制御対象Pは、具体的にはVCM133を含むアクチュエータ130に相当する。信号処理部Sは、具体的にはリード/ライトチャネルIC220とCPU240により実現される要素である。オフトラック量検出処理の一部はCPU240により行われる。
【0053】
制御処理部CPは、第1のコントローラとしてのフィードバック制御部C及び第2のコントローラとしての同期抑圧補償部Fにより構成される。制御処理部CPは、具体的にはCPU240により実現される。
【0054】
信号処理部Sは、ヘッド110-i(i=0,1)の位置、つまりヘッド位置(HP)の直下のサーボ領域11から再生されるアドレス情報を含む再生信号(サーボ再生信号)をもとに、ヘッド位置に対応するディスク媒体1上の現在のトラック位置(TP)を示す位置情報を生成する。
【0055】
第1コントローラ(フィードバック制御部C)は、ディスク媒体1上の目標トラック位置(RP)とヘッド110-iの現在のトラック位置(TP)との位置誤差(E)をもとに、位置誤差が小さくなる方向に、フィードバック(FB)操作値U1を出力する。
【0056】
第2コントローラ(同期抑圧補償部F)は、ディスク媒体1上のトラック形状またはディスク回転に同期した振動等を補正するためのフィードフォワード(FF)補償部である。第2コントローラは、事前に較正した回転同期補償値を保存したメモリテーブル(同期補償値テーブル)を有している。第2コントローラは、通常は、位置誤差(E)を使用せず、信号処理部Sから与えられる図示しないサーボセクタ情報をもとに、上記メモリテーブルを参照して、FF操作値U2として出力する。
【0057】
制御処理部CPは、第1及び第2のコントローラの出力U1及びU2を加算し、その加算結果を制御操作値Uとして制御対象P(VCM133)に供給することにより、ヘッド110-iを駆動する。なお、上記メモリテーブル(同期補償値テーブル)は、ディスクドライブの初期動作時に較正処理される。また、位置誤差(E)が設定値以上に大きくなる場合にも、再較正処理が開始される。これにより、メモリテーブルに記憶された同期補償値が更新される。
【0058】
[ディスクドライブでのオフトラック量検出処理]
次に、サーボ再生信号からオフトラック量(位置偏差)を検出する処理について簡単に説明する。
【0059】
ディスク媒体1はSPM120により一定回転速度で回転される。ヘッド110-i(i=0,1)は、サスペンションアーム131-iに設けられたジンバルを介して弾性支持され、且つディスク媒体1の回転に伴なう空気圧とのバランスで当該媒体1との間に微小間隙を保持して浮上するように設計されている。これにより、ヘッド110-iのヘッド再生素子は一定の磁気空隙をもって、ディスク媒体1の磁性層からの漏れ磁束を検出することができる。
【0060】
ディスク媒体1に形成されたサーボ領域11は、当該媒体1の回転により、一定周期でヘッド110-iの直下を通過する。これにより、サーボ領域11に形成されるサーボパターンの情報は、一定周期でヘッド110-iにより再生される。そこで、このヘッド110-iより再生されたサーボパターンの情報、つまりサーボ情報(サーボ再生信号)から、トラック位置情報を検出することで、一定周期のサーボ処理を実行できる。
【0061】
HDC230は、一旦、サーボアドレスマーク(サーボ領域識別コード)を認識すると、ヘッド110-iの直下に次のサーボ領域11が到達するタイミングを予測可能となる。その理由は、上述のようにサーボ領域11が一定周期でヘッド110-iの直下を通過するためである。そこで、HDC230は、ヘッド110-iの直下にサーボ領域11中のプリアンブル部11Aが到達するタイミングで周知のサーボゲート信号をアサートして、リード/ライトチャネルIC220にサーボ処理開始を促す。
【0062】
以下、リード/ライトチャネルIC220での信号処理について、図7を参照して説明する。図7は、リード/ライトチャネルIC220に含まれているアドレス検出回路のブロック構成を示す。ヘッド110-iにより再生され、HIC140により増幅された再生信号は、リード/ライトチャネルIC220に入力される。リード/ライトチャネルIC220に入力された再生信号は、等化器221によってアナログフィルタ処理(長手信号等化処理)された後、アナログ/ディジタル変換器(ADC)222によってデジタル値としてサンプリングされる。
【0063】
ディスク媒体1からの漏れ磁界は垂直磁化で、且つサーボパターンは磁性部と非磁性部との組み合わせのパターンである。しかし、HIC140の持つハイパス特性と、長手等化するための等化器221の処理とにより、プリアンブル部11Aからの再生信号に含まれているDCオフセット成分は完全に除去される。これにより、プリアンブル部11Aからの再生信号を等化器221でアナログフィルタ処理した後の信号、つまり等化器221の出力信号は、ほぼ疑似正弦波となる。従来の垂直磁気記録用のディスク媒体との違いは、信号振幅の大きさが半減している程度である。
【0064】
リード/ライトチャネルIC220では、再生信号フェーズに応じて、処理が切替えられる。これにより、再生信号クロックをメディアパターン周期に同期させる同期引き込み処理、アドレス情報(セクタ・シリンダ情報)を読み取るアドレス判読処理、オフトラック量を検出するのに必要な情報を取得するためのバースト部処理等が行われる。
【0065】
同期引込み処理では、ADC222でのサンプリングタイミングを正弦波状再生信号と同期させ、且つADC222の出力であるデジタルサンプル値の信号振幅をあるレベルに揃えるAGC処理とが行われる。ここでは、メディアパターンの1,0周期が4点でサンプリングされる。
【0066】
次にアドレス判読処理では、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ223によりデジタルサンプル値の系列のノイズが低下させられる。次に、このFIRフィルタ223の出力に対して、ビタビ復号器224による最尤推定に基づくビタビ復号処理が行われ、2値化データに復号される。そして、復号された2値化データをグレイ処理器224によりグレイコード逆変換処理することにより、アドレス情報(セクタ・シリンダ情報)に変換される。これにより、ヘッド110-iが位置しているサーボトラックの情報を取得できる。
【0067】
次にバースト部処理では、リード/ライトチャネルIC220内の図示せぬバースト部処理回路によりオフトラック量の検出処理が行われる。ここでは、バースト(バースト信号パターン)A,B,C,Dの順に、各信号振幅がサンプルホールド積分処理される。バースト部処理回路は、各信号振幅の平均値相当の電圧値をCPU240に出力し、当該CPU240へサーボ処理割り込みを発行する。CPU240は、このリード/ライトチャネルIC220からの割り込みを受けると、内部のADCにて各バースト信号(各信号振幅の平均値相当の電圧値)を時系列に読み込み、DSPでオフトラック量に変換する処理を行う。
【0068】
CPU240は、このオフトラック量と、アドレス判読処理で取得されたサーボトラック情報とにより、ヘッドのサーボトラック位置を精密に検出することができる。
【0069】
[ヘッドチェンジ時処理]
次に、記録再生に用いるヘッドをヘッド110-0からヘッド110-1、またはヘッド110-1からヘッド110-0に切り替えるヘッドチェンジ時の処理について説明する。
【0070】
図5に示したディスクドライブでは、ディスク媒体1の上面SA側の記録層からの信号の再生にはヘッド110-0が用いられ、当該媒体1の下面SB側の記録層からの信号の再生にはヘッド110-1が用いられる。ところが、ディスク媒体1の各面の磁極特性が上面SAと下面SBとで異なるため、ヘッドチェンジ時の処理が従来と異なる。
【0071】
今、ホストシステムからのユーザデータのアクセス要求により、アクセス先のトラック(目標トラック)を変える必要が生じたものとする。この場合、CPU240は、制御プログラムに従い、現在のヘッドとアクセス先のトラック(目標トラック)に対応するヘッド(つまり目標ヘッド)が同一であるかを判定し、異なる場合は、ヘッドチェンジ時処理に移行する。
【0072】
従来のヘッドチェンジ時処理では、リード/ライトチャネルIC220が処理するHIC140の信号が切り替えられ、目標トラックに対応するヘッドで読み取られるトラック位置情報をもとに、目標トラックへのシーク処理が開始される。これに対して本実施形態では、従来とは異なるヘッドチェンジ時処理が行われる。
【0073】
以下、本実施形態で適用されるヘッドチェンジ時処理について、図8のフローチャートを参照して説明する。まずCPU240は、HDC230に対するレジスタ操作により、目標ヘッド(アクセス先ヘッド)へのチェンジを依頼すると同時に、ヘッド極性の反転を依頼する(ステップS1)。ヘッド極性の反転は、目標ヘッドのヘッド番号の偶数/奇数に応じた適正極性の設定として行われる。また、このヘッド極性の設定は、再生信号の極性反転のみならず、記録時のライト極性も反転させるものである。
【0074】
次にCPU240は、サーボサーチモードに移行して、サーボサーチをHDC230に依頼する(ステップS2,S3)。サーボサーチモードとは、目標ヘッド110-iの直下をサーボ領域11が通過するタイミングを取るため、当該サーボ領域11のアドレス部11Bの先頭に埋め込まれたサーボアドレスマーク(SAM)を検出することを目的とした処理モードである。サーボサーチモードは、ディスクドライブの起動時等、サーボ領域通過タイミングが不明な場合に用いられる。また、サーボサーチモードは、予測されたタイミングでサーボ領域11が検出されないサーボロストエラーが発生した際に実行されるリカバリ処理等でも用いられる。
【0075】
一方、HDC230は、CPU240からの依頼に応じて、HIC140に対する再生信号の極性設定と、リード/ライトチャネルIC220での処理信号切り替えとを行う。これにより、リード/ライトチャネルIC220で処理される再生信号が、目標ヘッドにより再生された信号に対応するHIC140の出力に切り替わり、且つ再生信号の正負が逆転する。本実施形態で適用されるディスク媒体1では、表面からの漏れ磁束は当該媒体1の上下面で逆特性となっている。しかし、上述の極性設定をヘッドチェンジ時に同時に行うことで、目標ヘッドがアップヘッドまたはダウンヘッドのいずれであるかによらず、リード/ライトチャネルIC220で処理される再生信号は見かけ上同一となる。
【0076】
次にリード/ライトチャネルIC220は、目標ヘッドによって再生されて且つ適正方向に極性反転されたHIC140の出力に対し、SAM検出処理を実行し、SAM検出の成功の有無をHDC230を介してCPU240に通知する(ステップS4)。
【0077】
CPU240は、SAM検出に成功したことが通知された場合(ステップS5)、HDC230に対するレジスタ操作により、サーボサーチモードを解除して、通常のサーボ再生処理に戻す設定を行う(ステップS6)。この通常のサーボ再生処理では、一定のサーボ周期毎に、サーボパターン情報(サーボ情報)を読み出し、ヘッド位置決め制御量を演算して、ヘッド110-iを目標トラックに追従動作させる処理が行われる。
【0078】
[ヘッドチェンジ時処理の効果]
本実施形態で適用されるディスク媒体1は、当該媒体1の上下面でサーボパターンの極性が反転している。このため、極性反転せずにサーボ情報(サーボ信号)の再生処理をすると問題である。つまり、ディスク媒体1の上下面で1,0の関係が逆となるため、アドレス部11Bの記録コードを誤認することになる。また、プリアンブル同期で180度位相差が発生するため、SAM検出自体が困難となり、ディスク媒体1の一方の面からのサーボ情報の再生は困難となる。そこで、少なくともサーボ情報の再生処理時には、ディスク媒体1の対応する面での磁化方向に合わせた極性反転(磁気検出極性の反転)が必要になる。
【0079】
本実施形態では、ヘッド毎の極性反転は、サーボ情報の再生処理のみならず、データ領域12へのデータの書き込み及びデータ領域12からのデータの読み出しにも適用される。ここでは、HIC140でのGMR検出アンプ出力の極性反転(磁気検出極性の反転)のみならず、記録ヘッドでの電流極性の反転処理(磁気記録極性の反転処理)も行われる。このため、データ領域12に関しては、ディスク媒体1の上下面で完全等価であり、エラー率等に影響を及ぼすものではない。つまり、ユーザデータの1,0と記録層の磁化方向との対応が、ディスク媒体1の上下面で単に逆になっているだけであり、本実施形態のように処理しても何ら問題とならない。
【0080】
逆に、記録ヘッドでの電流極性は反転させないとする場合、データ領域の1,0と記録層磁化方向とはディスク媒体1の両面で同一に揃うが、データリード時には、ディスク媒体1のどちらかの面で、データ領域12とサーボ領域11の再生の度に、極性反転を繰り返すことになる。この場合、CPU240での制御プログラム処理が複雑となると共に、磁性反転処理の応答に多大な時間を要することになり、望ましくない。
【0081】
これに対して本実施形態で適用されるヘッドチェンジ時処理は、極めて簡単な処理でありながら、サーボ領域12の磁化方向が表裏で異なるディスク媒体1に対応できている。
【0082】
また、上記のヘッドチェンジ時処理では、SAM検出(SAMサーチ)処理が行われる。このSAM検出処理より、通常のサーボ再生処理の方が、得られるサーボ情報の信頼性は高い。しかし、ディスク媒体1の上下面で、対応するサーボ領域(サーボセクタ)相互間に位相誤差があると、問題である。従来の磁気ディスク媒体のように、HDAに組み込んだ状態で、サーボ情報がライト(サーボトラックライト)される場合には、ヘッドチェンジしてもサーボセクタの横断タイミングは保たれるため、SAM検出に失敗する危険は少ない。しかし、異なるスタンパを用いて、上側のパターンと下側のパターンとが転写により形成されたディスク媒体1においては、上下面で十分な位置合わせをしていても、プリアンブルでの同期引込みに失敗して、SAM検出に失敗する危険が高い。
【0083】
CPU240は、通常、SAM検出に失敗すると、リトライ処理に移行する。このリトラクト処理で再失敗すると、サーボロストエラーとなる。この場合、CPU240は、リカバリのSAM検出処理に移行する。しかし、これでは、ヘッドチェンジでのアクセス性能劣化に繋がる。
【0084】
これに対して本実施形態では、ヘッドチェンジ時に最初からSAM検出処理に移行する。これにより、上下面のサーボ領域相互間での位相ずれを防止するのが困難なディスク媒体1を搭載したディスクドライブにおけるアクセス性能劣化を防止できる。
【0085】
このように本実施形態においては、上述した構成のディスク媒体1、即ち上面側と下面側とでそれぞれサーボパターンを形成する磁性体の表面側から見た垂直磁化方向が逆方向のパターンドディスク媒体をディスクドライブに搭載することにより、高密度化が可能となると同時に、サーボトラックライト等の初期化処理が不要となる。これにより、ディスクドライブの生産性を改善し、ディスクドライブの製造コストを大幅に下げることが可能になる。
【0086】
上記ヘッドチェンジ時の処理では、磁気検出極性のみならず、磁気記録極性も同時に反転処理される。しかしヘッドチェンジ時に、磁気検出極性のみ反転する構成としても構わない。但し、この場合、サーボ情報の再生は問題ないが、データ領域12のリード時に工夫が必要となる。つまり、リード時には、ディスク媒体1のどちらか一方の面で、データ領域12とサーボ領域11の再生の度に、極性反転を繰り返す処理が必要になる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態に係る両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体1のパターン構成の概要を示す平面図。
【図2】図1中のサーボ領域11の詳細パターン構成を示す図。
【図3】ディスク媒体1の断面を示す図。
【図4】ディスク媒体1の初期化に用いられる着磁装置40の概略構成を示す断面図。
【図5】ディスク媒体1を搭載した磁気ディスクドライブの構成を示すブロック図。
【図6】ヘッド位置決め制御システムの構成を示すブロック図。
【図7】図5中のリード/ライトチャネルIC220に含まれているアドレス検出回路の構成を示すブロック図。
【図8】ヘッドチェンジ時処理の手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0088】
1…パターンドディスク媒体(両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体)、2A,2B…下地層、3A,3B…磁性体、11…サーボ領域(サーボパターン部)、12…データ領域、10…基板、40…着磁装置、41…電磁コイル、110-0,110-1…ヘッド、130…アクチュエータ、140…HIC(ヘッドIC)、220…リード/ライトチャネルIC、230…HDC(ディスクコントローラ)、240…CPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面及び当該第1の面とは反対側の第2の面とを持つディスク状の平坦な基板と、
前記第1及び第2の面側に磁性体の有無によってそれぞれ形成された第1及び第2のサーボパターン部であって、当該第1及び第2のサーボパターン部の前記磁性体が、いずれも前記第1及び第2の面に垂直な同一方向に磁化され、当該第1及び第2のサーボパターン部の前記磁性体の表面の磁気極性が当該第1及び第2のサーボパターン部の間で相異なる第1及び第2のサーボパターン部と
を具備することを特徴とする垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体。
【請求項2】
第1の面及び当該第1の面とは反対側の第2の面とを持つディスク状の平坦な基板の前記第1及び第2の面側に、磁性体の有無によってそれぞれ第1及び第2のサーボパターン部が形成された垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体を、表裏透過型外部磁界によって初期化することにより、前記第1及び第2のサーボパターン部の前記磁性体を、いずれも前記第1及び第2の面に垂直な同一方向に磁化して、当該第1及び第2のサーボパターン部の前記磁性体の表面の磁気極性が当該第1及び第2のサーボパターン部の間で相異なるようにしたことを特徴とするパターンドディスク媒体の初期化方法。
【請求項3】
請求項1に記載の垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体の少なくとも一方の面における漏れ磁束の方向を検出することにより、当該パターンドディスク媒体の表裏を判定することを特徴とするパターンドディスク媒体の表裏判定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体と、
前記パターンドディスク媒体の前記第1の面側に配置される第1のヘッドと、
前記パターンドディスク媒体の前記第2の面側に配置される第2のヘッドと、
前記第1のヘッドから前記第2のヘッドへ、または前記第2のヘッドから前記第1のヘッドへのヘッド切り替え時に、磁気検出極性を反転するための極性反転手段と
を具備することを特徴とする磁気ディスクドライブ。
【請求項5】
前記極性反転手段は、前記ヘッド切り替え時に、前記磁気検出極性に加えて磁気記録極性も反転することを特徴とする請求項4記載の磁気ディスクドライブ。
【請求項6】
前記ヘッド切り替え時に、サーボサーチモードに移行する手段を更に具備することを特徴とする請求項4記載の磁気ディスクドライブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−31856(P2006−31856A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210463(P2004−210463)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】