説明

垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド、該薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ、該ヘッドジンバルアセンブリを備えた磁気ディスク装置、及び該薄膜磁気ヘッドを用いた磁気記録方法

【課題】 主磁極の磁気ディスク側の端部における書き込み後の残留磁化を低減させることによってポールイレージャを回避することが可能な垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】 主磁極層と、一方の端部がこの主磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部がこの主磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助磁極層と、少なくとも主磁極層及び補助磁極層の間を通過するように形成されており主磁極層及び補助磁極層に磁束を誘導するためのコイル層とを有する書き込み用の電磁コイル素子を備えた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドであって、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に消磁用の磁界を印加するための少なくとも1つの磁界印加手段を備えた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式によってデータ信号の書き込み及び読み出しを行う垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置(HDD)に関する。さらに本発明は、このような薄膜磁気ヘッドを用いた垂直磁気記録方式による磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDにおける面記録密度のさらなる向上を実現するために、従来の面内磁気記録方式とは異なる垂直磁気記録方式の開発が盛んに行われている。
【0003】
垂直磁気記録方式においては、面内磁気記録方式に比べて磁気ディスク面内の磁化遷移領域での減磁界が非常に小さくなるので、磁化遷移幅を狭くすることができる。さらに、面内磁気記録方式において高記録密度化の際に問題となる磁化の熱揺らぎの影響を記録ビットが受けにくいので、安定した高記録密度を得ることが可能となる。
【0004】
従来より、垂直磁気記録方式に用いる磁気ヘッドにおいて、主磁極とリターンヨークである補助磁極と両磁極に作用する励磁コイルとを備えた単磁極構造が提案されている。一般には、この主磁極のリーディング側及びトレーリング側に磁気シールド層がさらに設けられる。一方、磁気ディスクとしては、磁気回路の一部として働く軟磁性裏打ち層と垂直磁気記録層との積層構造が提案されている。
【0005】
垂直磁気記録用の磁気ヘッドによって磁気ディスクにデータ信号の書き込みを行う場合、主磁極の磁気ディスク側の端部から発生する磁界を用いて磁気ディスクの垂直磁気記録層に記録ビットを形成する。ここで、書き込み後の主磁極になお、磁化が残留していると、この残留磁化からの漏洩磁界の大きさによっては記録ビットが消去又は改変されてしまう。
【0006】
このように記録ビットが消去又は改変される現象を、一般にポールイレージャと呼んでいるが、このポールイレージャを解決するために、主磁極を多層構造として主磁極の磁区構造を制御し、主磁極における磁化の残留を回避する技術が開示されている(例えば特許文献1、2)。さらに、反強磁性結合を用いて主磁極の磁化をキャンセルする技術が開示されている(例えば、非特許文献1)。
【0007】
さらにまた、信号の書き込み後、消磁用コイルに電流を流して磁化を減ずる方法も提案されている(例えば、特許文献3)。この技術においては、信号の読み出し用の磁気抵抗(MR)効果素子のフラックスガイドの周囲に消磁コイルを配置し、この消磁用コイルに最後の書き込み電流とは反対方向の電流を流して消磁を行う。この際、磁極は用いていない。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5108837号明細書
【特許文献2】米国特許第6259583号明細書
【特許文献3】特開2003−331402号公報
【非特許文献1】秋元、外4名「反強磁性結合多層膜、単磁極垂直ライトヘッドの膜厚最適化検討」、第28回日本応用磁気学会学術講演会講演概要集、平成16年、p.2、21aB−2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2及び非特許文献1に開示された従来技術においては、主磁極を構成する積層/多層構造の磁気特性が、この構造を形成する工程に強く依存してしまうので、形成工程におけるばらつきによって磁区構造の制御が非常に困難となってしまう。また、長期間の使用によって積層/多層構造の界面が拡散等の変化を起こし、これにより磁気特性が経時的に変化するので、磁区構造の制御はより困難になる。さらに、高記録密度化に対応するために狭トラック化が進むほど、主磁極内の形状磁気異方性がより強くなるので、磁化の残留を抑制することがますます困難となってしまう。
【0010】
また、特許文献3に開示された従来技術においては、平均的に残留磁化を低減することは可能となるが、毎回変化する主磁極の書き込み後の磁区構造を一定の電流を用いることによって安定して制御することが相当困難である。ましてや、磁区構造が突発的に変化する不安定な状態においても形成工程のばらつきを完全に吸収できるような電流値を設定することは、非常に困難となる。
【0011】
従って、本発明の目的は、主磁極の磁気ディスク側の端部における書き込み後の残留磁化を低減させることによってポールイレージャを回避することが可能な垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えたHDDを提供することにある。
【0012】
さらに本発明の他の目的は、主磁極の磁気ディスク側の端部における書き込み後の残留磁化を低減させることによって、書き込みエラーを防止することができる磁気記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明について説明する前に、明細書において用いられる用語の定義を行う。スライダ基板の素子形成面に形成された磁気ヘッド素子の構成要素において、磁気ディスクの回転の下流側、すなわちスライダの浮上面(ABS)の空気流出端側であるトレーリング側を「後ろ」側又は「後方」とし、反対のリーディング側を「前」側又は「前方」とする。さらに、ABSを底面として置いたスライダを素子形成面側から前方に向かって見た場合に、構成要素の左側を「左(側)」、右側を「右(側)」、とする。この場合、左右方向は、いわゆるトラック幅方向となる。さらにまた、構成要素のABSとは垂直な外面を「側端面」とする。従って、例えば「主磁極層の端部の側端面」とは、主磁極層の端部におけるABSに面した端面を底面とした場合の側面となる。なお、上述した「前方」、「後方」、「左側」及び「右側」は、後に示す図4、5、7及び8に、実施形態の構成要素との関係で明示されている。
【0014】
また、薄膜磁気ヘッドのスライダ基板の素子形成面に形成された層構造において、基準となる層よりも素子形成面側にある層又はその部分は「下部」とし、又は「下」にあるとし、素子形成面とは反対側にある層又はその部分は「上部」とし、又は「上」にあるとする。この場合、「上部」に向かう方向は、おおよそ前述の「後方」に相当し、「下部」に向かう方向は、おおよそ前述の「前方」に相当する。
【0015】
本発明によれば、主磁極層と、一方の端部がこの主磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部がこの主磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助磁極層と、少なくとも主磁極層及び補助磁極層の間を通過するように形成されており主磁極層及び補助磁極層に磁束を誘導するためのコイル層とを有する書き込み用の電磁コイル素子を備えた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドであって、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に消磁用の磁界を印加するための少なくとも1つの磁界印加手段を備えた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0016】
薄膜磁気ヘッドによるデータ信号の書き込み後、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部内においては、一般に形状磁気異方性によって磁化が残留している。この残留磁化からの漏洩磁界がポールイレージャを引き起こす原因となる。本発明によれば、この端部に消磁用の磁界を印加するために磁界印加手段が専用に設けられている。この磁界印加手段によって、この端部に十分な大きさの磁界が印加されると、この残留磁化が消滅又は減少する。これによりポールイレージャを回避することができる。この結果、エラーレートが改善されたより良好な再生出力が得られる。
【0017】
なお、ポールイレージャは、垂直磁気記録方式特有の現象であり、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドが有する主磁極層を使用する場合にのみ発生する。すなわち、従来の面内磁気記録用の薄膜磁気ヘッドにおいては、磁極層の端部に磁界を印加して消磁を行う必要はない。従って、磁界印加手段を含む本発明の構成は、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドであって初めて成立するものであって、面内磁気記録用の薄膜磁気ヘッドが有する構成から想到し得るものでないことは明らかである。
【0018】
ここで、少なくとも1つの磁界印加手段が、消磁磁極層と、この消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えていることが好ましい。この消磁コイル層に通電することにより消磁磁極層に磁束を誘導させて、主磁極層の端部に消磁用の磁界を印加することができる。
【0019】
また、消磁磁極層が少なくとも1つの磁極部を有しており、この少なくとも1つの磁極部のうち少なくとも1つが、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に近接して設けられていることが好ましい。さらに、消磁磁極層が2つの磁極部を有しており、この2つの磁極部が、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部の左右側端面にそれぞれ近接して設けられていることがより好ましい。磁極部を主磁極層の端部に近接して設置することによって、十分な大きさの消磁用の磁界をこの端部に印加することが可能となる。さらに、2つの磁極部によって主磁極層の端部を左右から挟み込むことによって、この端部に左右方向(トラック幅方向)の強力かつ均一な消磁磁界を印加することが可能となり、より効率良く消磁又は減磁を行うことができる。
【0020】
さらに、この少なくとも1つの磁界印加手段が、補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に磁界を印加可能な位置に設置されており、この磁界の印加によって、この端部の磁区構造を安定させる手段となっていることも好ましい。この場合、この少なくとも1つの磁界印加手段が、2つの磁極部を有する消磁磁極層とこの消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えており、この2つの磁極部が、補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部の左右側面にそれぞれ近接して設けられていることが好ましい。また、補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部が、補助磁極層の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部となっていることがより好ましい。
【0021】
ここで、層断面とは、この補助磁極層をABSと平行な面で切断した際の切り口面である。
【0022】
一般に、補助磁極層の端部の磁化状態は、主磁極層の端部から発生する書き込み磁界に大きな影響を与えるため、できるだけ一定にすることが望ましい。ここで、補助磁極層の端部に左右方向の磁界をバイアス的に印加することによって、データ信号の書き込み時を含めて、この端部内の磁区構造を一定にすることができる。これにより、書き込み磁界が安定して良好な記録特性が得られる。なお、補助磁極層に上述したトレーリングシールド部を設けることによって、トレーリングシールド部の端部と主磁極層の端部との間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、磁気記録媒体上に書き込みされた記録ビットの磁化遷移領域が狭くなるので、ジッタが小さくなってエラーレートを小さくすることができる。
【0023】
また、本発明によれば、上述した垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドと、この垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構とを備えたHGAが提供される。
【0024】
さらにまた、本発明によれば、上述したHGAと、このHGAが有する垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドによって信号の書き込みが行われる垂直磁気記録層と磁束路の一部となる軟磁性裏打ち層とを備えた垂直磁気記録媒体と、少なくとも1つの磁界印加手段へ供給する電流を制御する電流制御手段とを備えたHDDが提供される。
【0025】
この場合、少なくとも1つの磁界印加手段が、軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加可能な位置に設置されており、このバイアス磁界の印加によって軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させる手段となっていることも好ましい。
【0026】
ここで、本明細書において用いられる用語である「磁区構造を安定させる」の意味を説明する。通常、磁性層は複数の磁区を有する。これらの磁区は各々、所定の方向を向いた磁化ベクトルを有しており、各磁区の磁化ベクトルの総和が磁性層の磁化となる。ここで、「磁区構造を安定させる」とは、所定の領域内の磁区数を低減させ単磁区状態に近づけると同時に、磁区間の境界である磁壁の多数を所定の方向、例えばトラック幅方向に揃えることとする。例えば、軟磁性裏打ち層の磁区構造をこのように「安定させる」ことによって、MR効果素子による信号磁界の読み出しの際、MR多層膜が磁壁による不均一な磁界を感受することによって発生するスパイク状のノイズ等を抑制可能となる。また、磁極層端部の磁区構造をこのように「安定させる」ことによって、磁化変化が、主に磁壁移動ではなく磁化回転によることとなり、磁壁の層内欠陥によるピニング等に起因する信号磁界の乱れを抑制することができる。
【0027】
上述したように、垂直磁気記録媒体が、基板の媒体形成面の全面に形成された軟磁性裏打ち層と垂直磁気記録層との積層構造である場合、一般に、この軟磁性裏打ち層の基板側の層面全面に接面するように、磁化配向層が設けられている。この磁化配向層は、軟磁性裏打ち層にトラック幅方向の磁気異方性を付与している。この磁気異方性によって、軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させて、再生波形におけるスパイク状のノイズの発生を抑制している。ここで、磁化配向層は、一般に反強磁性層となっており、トラック幅方向の磁気異方性の付与を反強磁性の強い異方性によって行っている。このため、磁化配向層のみによって、磁気記録媒体の全面において軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させることはかなり困難となり、歩留まり低下の原因ともなっていた。
【0028】
これに対して、本発明においては、磁界印加手段を用いて書き込み動作中に軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加することによって、同層の磁区構造を安定させることができる。その結果、主に磁気記録媒体の成膜工程に起因する軟磁性裏打ち層の磁区構造のばらつきを抑制可能となり、同層の磁気特性のロバストネスを補償し、より信頼性の高いHDDを提供することができる。
【0029】
ただし、このようなバイアス磁界の印加は、バイアス磁界が印加される軟磁性裏打ち層の部分の直上に位置する磁気記録層の部分に対して信号の書き込みがなされると同時に、又はその直後に、行われなければならない。バイアス磁界が、信号の書き込みがなされる前に印加されたとしても、この印加後の書き込み動作における書き込み磁界によって、軟磁性裏打ち層に、書き込み磁界パターンに応じた磁区パターンが形成されてしまう。この磁区パターンによっては、再生出力波形にスパイク状のノイズが発生する。従って、少なくとも1つの磁界印加手段を用いてバイアス磁界を印加する場合、消磁磁極層の磁極部がいずれも、前後方向における位置関係において、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部と同位置又は後方(トレーリング側)の位置に設けられていればよい。
【0030】
本発明によれば、また、上述した少なくとも1つのHGAと、このHGAが有する垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドによって信号の書き込みが行われる垂直磁気記録層と磁束路の一部となる軟磁性裏打ち層とを備えた少なくとも1つの垂直磁気記録媒体と、少なくとも1つの磁界印加手段へ供給する電流を制御する電流制御手段とを備えたHDDであって、この少なくとも1つの垂直磁気記録媒体が、少なくとも垂直磁気記録層がトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えており、少なくとも1つの磁界印加手段が、これら複数のディスクリートトラックの各々における軟磁性裏打ち層の部分にバイアス磁界を印加可能な位置に設置されており、このバイアス磁界の印加によって軟磁性裏打ち層の部分の磁区構造を安定させる手段となっているHDDが提供される。
【0031】
ディスクリートトラックを有する磁気記録媒体は、隣接するトラック間の磁気的干渉が低減しており、高トラック密度化に適した媒体である。この媒体においても、上述したように、磁化配向層のみによって軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させることはかなり困難である。これに対して、本発明によれば、磁界印加手段を用いて書き込み動作中に軟磁性裏打ち層の部分にバイアス磁界を印加することによって、同層の磁区構造を安定させることができる。
【0032】
ここで、少なくとも1つの垂直磁気記録媒体が、垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部又は全部とがトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えていてもよい。
【0033】
このように、垂直磁気記録層のみならず、軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部又は全部が、非磁性離隔層によって分断されている場合、同層内のトラック長手方向に形状磁気異方性が発生する。ここで、軟磁性裏打ち層においては、上述したように磁化配向層によってトラック幅方向に磁気異方性が付与されているが、ディスクリートトラックのトラック幅及び凸部の形状によってはトラック長手方向の形状磁気異方性の方が強くなり、トラック長手方向が容易軸となってしまう。その結果、書き込み毎に軟磁性裏打ち層に大きな磁化が残留し、この残留磁化が再生出力内のノイズとなってエラーレート等の記録再生特性が劣化することになる。
【0034】
これに対して、本発明によれば、磁界印加手段を用いて、左右方向(トラック幅方向)に、上記のトラック長手方向の形状磁気異方性よりも強いバイアス磁界を印加することによって、このような記録再生特性の劣化を解消することができる。さらに、外乱磁界による磁区構造の不安定化も防止することができる。この結果、低ノイズの良好な磁気記録が達成可能となる。
【0035】
本発明によれば、さらに、垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが備えている電磁コイル素子を用いて垂直磁気記録媒体に信号の書き込みを行った後に、電磁コイル素子内の主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に消磁用の磁界を印加することによって、この端部を消磁又は減磁する磁気記録方法が提供される。この方法においては、主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部が、垂直磁気記録媒体上においてデータ領域とサーボ領域との間に存在するギャップ部の直上に位置しているときに、この端部を消磁又は減磁することが好ましい。また、この垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが少なくとも1つの磁界印加手段を備えており、このような消磁磁界の印加を、この少なくとも1つの磁界印加手段を用いて行うことが好ましい。
【0036】
また、この少なくとも1つの磁界印加手段が、消磁磁極層と、この消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えており、消磁用の磁界の印加を、この消磁コイル層に通電することによって行うことも好ましい。さらに、消磁用の磁界の印加を、消磁磁極層が有する少なくとも1つの磁極部のうち少なくとも1つを用いて行うことが好ましい。さらにまた、この少なくとも1つの磁極部が2つの磁極部であって、この2つの磁極部によって、主磁極層の端部に左右方向又は略左右方向の消磁用の磁界を印加することがより好ましい。
【0037】
主磁極層の端部が、垂直磁気記録媒体上においてデータ領域とサーボ領域との間に存在するギャップ部の直上に位置しているときに、磁界印加手段の消磁コイル層に消磁電流が供給される。これにより、消磁磁極層の有する磁極部に挟まれた主磁極層の端部に、左右方向又は略左右方向の磁界が印加され、この端部を消磁又は減磁することができる。その結果、ポールイレージャを回避して書き込みエラーを防止することができる。この際、主磁極層端部がギャップ部直上を通過しているギャップ時間内においてのみ消磁用の磁界を印加しているので、データ領域及びサーボ領域に書き込まれた信号を消去又は改変することなく、ポールイレージャを回避することが可能となる。
【0038】
ここで、消磁コイル層に、振幅が時間と共に減衰する交流電流を流すことによって主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に、振幅が時間と共に減衰する交流磁界を印加することが好ましい。
【0039】
消磁コイル層に流す電流としては、直流、交流、又はパルス電流でもよいが、振幅が時間と共に減衰する交流電流を流すことによって、振幅が時間と共に減衰する交流磁界を印加することができて、非常に効率の良い磁極層の端部の消磁が可能となる。
【0040】
主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部における残留磁化をMとし、この端部からの漏洩磁界をHPOLEとした場合に、少なくとも1つの磁界印加手段を用いてこの端部に消磁用の磁界を印加してM及びHPOLEを低減させることによって、HPOLE+4πMの値を、垂直磁気記録媒体の保持力H及び保持力角型比Sの積であるSよりも小さくすることが好ましい。
【0041】
反磁界、及びこの反磁界と向きの揃った漏洩磁界の和が、保持力角型比Sを考慮した保持力よりも小さいこと、すなわち4πM+HPOLE<Sが、本発明においてポールイレージャを回避するための条件となる。すなわち、磁界印加手段を用いて、残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEを低減させることによって、HPOLE+4πMの値を、保持力H及び保持力角型比Sの積であるSよりも小さくすることによってポールイレージャによる悪影響の無い良好な再生出力を得ることができる。
【0042】
また、上述の磁気記録方法において、電磁コイル素子内の補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部にバイアス磁界を印加することによって、この端部の磁区構造を安定させることも好ましい。
【0043】
また、上述の磁気記録方法において、信号の書き込みを行っている間又は該書き込みの直後をも含む間、垂直磁気記録媒体内の軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加することによって、この軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させることも好ましい。
【0044】
さらにまた、上述の磁気記録方法において、垂直磁気記録媒体が、少なくとも垂直磁気記録層がトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えており、信号の書き込みを行っている間又は該書き込みの直後をも含む間、この複数のディスクリートトラックの各々における軟磁性裏打ち層の部分にバイアス磁界を印加することによって、この軟磁性裏打ち層の部分の磁区構造を安定させることも好ましい。
【0045】
さらにこの場合、垂直磁気記録媒体が、垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部又は全部とがトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えていてもよい。
【0046】
ここで、以上に述べたバイアス磁界の印加においては、信号の書き込み用の磁界が印加されている時又はその直後に、この信号の書き込み用の磁界によって形成されつつある又は形成された垂直磁気記録媒体内の記録ビットの直下に位置する軟磁性裏打ち層の部分に、バイアス磁界を印加することが好ましい。
【0047】
もし、信号の書き込みがなされる前にバイアス磁界が印加されたとしても、この印加後の書き込み動作における書き込み磁界によって、軟磁性裏打ち層に、書き込み磁界パターンに応じた磁区パターンが形成されてしまう。この磁区パターンによっては、再生出力波形にスパイク状のノイズが発生する。これに対して、このようにバイアス磁界を印加することによって、この磁化の残留を防止して軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させることができる。
【0048】
さらにまた、以上に述べたバイアス磁界の印加を、垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが備えている少なくとも1つの磁界印加手段を用いて行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明による垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えたHDDによれば、主磁極の磁気ディスク側の端部における書き込み後の残留磁化を低減させてポールイレージャを回避することができる。これによりエラーレートが改善されたより良好な再生出力が得られる。
【0050】
さらに、本発明による磁気記録方法によれば、主磁極の磁気ディスク側の端部における書き込み後の残留磁化を低減させることによって、書き込みエラーを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0052】
図1は、本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図であり、図3は、図2の実施形態におけるHGAの先端部に装着されている垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド(スライダ)を示す斜視図である。
【0053】
図1において、10は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する、複数の垂直磁気記録媒体である垂直磁気記録用の磁気ディスク、12は、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド(スライダ)21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13は、この薄膜磁気ヘッドの書き込み及び読み出し動作と後述する消磁用磁界の印加とを制御するための記録再生及び消磁制御回路をそれぞれ示している。
【0054】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、薄膜磁気ヘッド(スライダ)21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及びスライダ21は、単数であってもよい。
【0055】
図2に示すように、HGA17は、サスペンション20の先端部に、磁気ヘッド素子を有するスライダ21を固着し、さらにそのスライダ21の端子電極に配線部材25の一端を電気的に接続して構成される。
【0056】
サスペンション20は、ロードビーム22と、このロードビーム22上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ23と、ロードビーム22の基部に設けられたベースプレート24と、フレクシャ23上に設けられておりリード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材25とから主として構成されている。
【0057】
本発明のHGAにおけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではないことは明らかである。なお、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップを装着してもよい。
【0058】
図3に示すように、本実施形態における薄膜磁気ヘッド(スライダ)21は、適切な浮上量を得るように加工されたABS30と、素子形成面31上に形成された磁気ヘッド素子32と、素子形成面31上に形成されており磁気ヘッド素子32に接続された4つの信号端子電極36及び2つの駆動端子電極37とを備えている。ここで、磁気ヘッド素子32は、読み出し用のMR効果素子33と、書き込み用の電磁コイル素子34と、電磁コイル素子34の主磁極層に消磁用磁界を印加する磁界印加手段としての消磁磁界印加素子35とから構成されている。ここで、4つの信号端子電極36は、MR効果素子33及び電磁コイル素子34に接続されており、2つの駆動端子電極37は、消磁磁界印加素子35に接続されている。
【0059】
2つの駆動端子電極37は、4つの信号端子電極36の群の両側にそれぞれ配置されている。これは、特開2004−234792号公報に記載されているように、MR効果素子33の配線と電磁コイル素子34の配線との間におけるクロストークを防止することができる配置である。ただし、クロストークが許容される場合には、2つの駆動端子電極37が、例えば4つの信号端子電極36のいずれかの間の位置等に配置されていてもよい。なお、これらの端子電極の数も、図3の形態に限定されるものではない。図3において端子電極は6つであるが、例えば、電極を5つとした上でグランドをスライダ基板に接地した形態でもよい。
【0060】
図4は、図3の実施形態における磁気ヘッド素子32を素子形成面31側から透視的に見た平面図である。
【0061】
図4によれば、素子形成面31上に、MR効果素子33、電磁コイル素子34及び消磁磁界印加素子35が形成されている。ここで、消磁磁界印加素子35は、消磁磁極層350と、消磁磁極層350に磁束を誘導するための消磁コイル層351とを備えている。この消磁コイル層351に通電することによって、消磁磁極層350の端部である消磁磁極部350aの間に磁界が発生する。その結果、この磁界が、電磁コイル素子34の主磁極層の端部340a、及び電磁コイル素子34の補助磁極層の端部であるトレーリングシールド部3450に印加される。
【0062】
ここで、データ信号の書き込み後、主磁極層の端部340a内においては、一般に形状磁気異方性によって磁化が残留している。この残留磁化からの漏洩磁界がポールイレージャを引き起こす原因となる。この状況において、この端部340aに左右方向(トラック幅方向)の磁界が印加されると、この残留磁化が消滅又は減少して端部340aが消磁又は減磁される。これによりポールイレージャを回避することができる。
【0063】
図5は、図3の実施形態の磁気ヘッド素子32における、図4のA−A線断面図である。
【0064】
図5によれば、スライダ基板210上に、MR効果素子33と、素子間シールド層62と、電磁コイル素子34及び消磁磁界印加素子35とが、順次形成されている。消磁磁界印加素子35における消磁磁極層350の端部である消磁磁極部350aは、主磁極層340及びその端部340aに近接しているが若干後方(トレーリング側)にあって、トレーリングシールド部3450を挟み込む位置に設置されている。すなわち、消磁磁極部350aからの磁界は、主磁極層340の端部340aのみならずトレーリングシールド部3450にも印加可能となる。ここで、消磁磁極部350aは、他の消磁磁極層350の部分に比べて前後方向の長さ(厚さ)が大きくなっており、安定した磁界の印加を可能としている。
【0065】
一般に、トレーリングシールド部の磁化状態は、主磁極層の端部から発生する書き込み磁界に大きな影響を与えるため、できるだけ一定にすることが望ましい。ここで、トレーリングシールド部3450にも左右方向の磁界がバイアス的に印加されることによって、データ信号の書き込み時を含めて、トレーリングシールド部3450の磁区構造が安定する。これにより、書き込み磁界が安定して良好な記録特性が得られる。
【0066】
図6は、図3の実施形態の消磁磁界印加素子35における、図4のB−B線断面図である。
【0067】
図6によれば、後述するギャップ層341上に、複数の第1の消磁コイル部3510と、第1の消磁コイル絶縁層50と、消磁磁極層350と、第2の消磁コイル絶縁層51と、複数の第2の消磁コイル部3511と、被覆層52とが、順次積層されている。ここで、各第1の消磁コイル部3510と各第2の消磁コイル部3511とは、それぞれ交互に端部が重なり合っていて電気的に直列に接続されている。すなわち、複数の第1の消磁コイル部3510及び複数の第2の消磁コイル部3511は、消磁磁極層350の周りに巻かれた消磁コイル層351を形成している。なお、同図における消磁コイル層351の巻き数は2.5となるが、0.5以上であればいくつにも設計可能である。
【0068】
次いで、同じく図6を用いて、消磁磁界印加素子35の構成を詳述する。消磁磁極層350は、例えば厚さ約0.5μm〜約3.0μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。第1の消磁コイル部3510及び第2の消磁コイル部3511は、例えば厚さ約0.5μm〜約3μmのCu等から形成されている。第1の消磁コイル絶縁層50は、例えば厚さ約0.1μm〜約5μmの熱硬化されたレジスト層等から形成されている。第2の消磁コイル絶縁層51は、例えば厚さ約0.01μm〜約0.5μmのAl又はDLC等から形成されている。被覆層52は、例えばAl等から形成されている。
【0069】
図7は、図3の実施形態の磁気ヘッド素子32における、図4のC−C線断面図である。なお、図7におけるコイルの巻き数は図を簡略化するため、図4における巻き数より少なく表されている。コイルは1層、2層以上又はヘリカルコイルでもよい。また、図7においては、磁気ディスク10の断面図も併せて示している。
【0070】
図7において、210はスライダ基板であり、ABS30を有し、書き込み又は読み出し動作時には回転する磁気ディスク表面10a上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上している。このスライダ基板210のABS30を底面とした際の一つの側面である素子形成面31に、読み出し用のMR効果素子33と、書き込み用の電磁コイル素子34及び消磁磁界印加素子35(図示せず)と、素子間を磁気的にシールドするための素子間シールド層62と、これらの素子を保護する被覆層52とが主に形成されている。
【0071】
MR効果素子33は、MR積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層330及び上部シールド層334とを含む。MR積層体332は、面内通電型(CIP(Current In Plain))巨大磁気抵抗(GMR(Giant Magneto Resistive))多層膜、垂直通電型(CPP(Current Perpendicular to Plain))GMR多層膜又はトンネル磁気抵抗(TMR(Tunnel Magneto Resistive))多層膜を含み、非常に高い感度で垂直磁気記録用の磁気ディスク10からの信号磁界を感知する。
【0072】
このMR積層体332がCIP-GMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330とMR積層体332とのそれぞれの間に絶縁用の上下部シールドギャップ層333及び331がそれぞれ設けられる。上下部シールド層334及び330は軟磁性層であり、MR積層体332に対して雑音となる外部磁界を遮断するシールドの役割を有する。さらに、MR積層体332がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330はそれぞれ上下部電極層として兼用される。
【0073】
電磁コイル素子34は、主磁極層340、補助磁極層345及びコイル層343を含む。主磁極層340は、コイル層343によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気ディスク10の垂直磁気記録層104にまで収束させながら導くための磁路である。ここで、コイル層343は、主磁極層340及び補助磁極層345の間を通過する層のみであってもよい。
【0074】
主磁極層340は、主磁極補助層3400及び主磁極主要層3401から構成されている。ここで、主磁極層340のヘッド端面300側の端部340aにおける前後方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層3401のみの層厚に相当しており小さくなっている。この結果、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界を発生させることができる。この端部340aから発生する磁界のうち、端部340aのトレーリング側すなわち後方の磁界が、主に垂直磁気記録層104に書き込みを行う。
【0075】
補助磁極層345のヘッド端面300側の端部は、補助磁極層345の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部3450になっている。ここで、主磁極層340の端部340a及びトレーリングシールド部3450の磁気ディスク表面10a側の端は、ヘッド端面300に達している。ただし、ヘッド端面300には、極薄の保護膜としてDLC(Diamond Like Carbon)等のコーディングが施されている。
【0076】
磁束65は、主磁極層340の端部340aから始まって非常に高い磁束密度で磁気ディスク10内の垂直磁気記録層104を通過し、軟磁性裏打ち層102で折り返して比較的低い磁束密度に拡がってトレーリングシールド部3450へ帰ってくる。一方、主磁極層340及び補助磁極層345は、ヘッド端面300とは反対側においてバックギャップ部を形成しており磁気的に結合されている。その結果、主磁極層340と補助磁極層345とは、環状磁束路を形成することになる。
【0077】
なお、補助磁極層345にトレーリングシールド部3450を設けることによって、トレーリングシールド部3450の端部3450aと主磁極層340の端部340aとの間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、磁気ディスク上に書き込みされた記録ビットの磁化遷移領域が狭くなるので、ジッタが小さくなってエラーレートを小さくすることができる。
【0078】
磁気ディスク10は、基板100上に、磁化配向層101と、磁束路の一部として働く軟磁性裏打ち層102と、中間層103と、垂直磁気記録層104と、保護層105とを順次積層した多層構造となっている。磁化配向層101は、軟磁性裏打ち層102にトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層102の磁区構造を安定させて、再生波形におけるスパイク状のノイズの発生を抑制している。また、中間層103は、垂直磁気記録層104の磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
【0079】
ここで、磁化配向層101は、一般に反強磁性層となっており、トラック幅方向の磁気異方性の付与を反強磁性の強い異方性によって行っている。このため、磁化配向層101のみによって、磁気ディスク10の全面において軟磁性裏打ち層102の磁区構造を安定させることはかなり困難となり、歩留まり低下の原因ともなっていた。
【0080】
これに対して、本発明においては、消磁磁界印加素子35(図4)を用いて書き込み動作中に軟磁性裏打ち層102にバイアス磁界を印加することにより、同層の磁区構造を安定させることができる。その結果、主に磁気ディスクの成膜工程に起因する軟磁性裏打ち層102の磁区構造のばらつきを抑制可能となり、同層の磁気特性のロバストネスを補償し、より信頼性の高いHDDを提供することができる。このバイアス磁界の印加について、以下に詳述する。
【0081】
図8は、消磁磁界印加素子35から発生する磁界を利用して、軟磁性裏打ち層102にバイアス磁界を印加することを説明する概略図である。なお、図を見易くするために、補助磁極層は省略されている。
【0082】
同図によれば、消磁磁極層の消磁磁極部350a間に発生した磁界のうち、主磁極層の端部340aを通過する磁界は消磁用磁界70となり、軟磁性裏打ち層102に及ぶ磁界は、バイアス磁界71として作用する。このバイアス磁界71によって、軟磁性裏打ち層102に磁気異方性が付与されて同層の磁区構造が安定する。この際、軟磁性裏打ち層102には、すでに磁化配向膜101によって反強磁性による磁化バイアスが付与されているので、バイアス磁界71は、この磁化バイアスを補助する形となる。従って、バイアス磁界71の方向は、磁化配向膜101の反強磁性の磁化方向、すなわちトラック幅方向と揃える必要がある。
【0083】
ここで、バイアス磁界71の印加は、バイアス磁界71が印加される軟磁性裏打ち層102の部分の直上に位置する磁気記録層104の部分に対して信号の書き込みがなされると同時に、又はその直後に行われる。もし、信号の書き込みがなされる前にバイアス磁界71が印加された場合、書き込み後、軟磁性裏打ち層102に磁化が残留してしまうためである。このようなバイアス磁界の印加を実現するために、2つの消磁磁極部350aはともに、前後方向における位置関係において、主磁極層の端部340aと同位置又は後方(トレーリング側)の位置に設けられていればよい。実際に、本実施形態においては、消磁磁極部350aは、図5に示すように、主磁極層340及びその端部340aに近接しているが若干後方にあって、トレーリングシールド部3450と同程度の位置に設置されている。
【0084】
なお、バイアス磁界の大きさは、垂直磁気記録層104内の記録ビットの状態に悪影響を与えることなく、軟磁性裏打ち層102の磁区構造を安定させるのに必要となる数十〜数百Oe(数〜数十kA/m)であることが好ましい。
【0085】
次いで、図7に戻って、上述した磁気ヘッド素子32の構成を詳述する。スライダ基板210は、例えばアルティック(Al−TiC)等から形成されている。60は、スライダ基板210上に積層された例えばAl等からなる厚さ約0.05μm〜約10μmの絶縁層である。下部シールド層330は、絶縁層60上に積層されており、例えば厚さ約0.3μm〜約3μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。331は、下部シールド層330上に積層された例えばAl又はDLC等からなる厚さ約0.005μm〜約0.5μmの下部シールドギャップ層である。
【0086】
MR効果層332は、例えばCIP-GMR多層膜、CPP-GMR多層膜又はTMR多層膜から構成される。335は、例えば磁気バイアス層を備えておりMR効果層332の両端に接続された例えばCu等からなる素子リード導体層、333は、MR効果層332及び素子リード導体層335上に積層された例えばAl又はDLC等からなる厚さ約0.005μm〜約0.5μmの上部シールドギャップ層である。なお、MR効果層332がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜で構成される場合、上下部シールドギャップ層333及び331、並びに素子リード導体層335は不要となる。上部シールド層334は、上部シールドギャップ層333上に積層されており、例えば厚さ約0.3μm〜約4μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。なお、上下部シールド層334及び330の間隔である再生ギャップ長は、約0.03μm〜約1μmである。
【0087】
61は、上部シールド層334上に積層された例えばAl等からなる厚さ約0.1μm〜約2.0μmの下部非磁性層である。62は、下部非磁性層61上に積層された例えばNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等からなる厚さ約0.3μm〜約4μmの素子間シールド層である。63は、素子間シールド層62上に積層された非磁性金属酸化物等、例えばAl等からなる厚さ約0.7μm〜約2.0μmの中間非磁性層である。なお、同層内にはコイル層343の一部が形成されていて、層上面は化学的機械的研磨(CMP)等によって平坦化されている。また、素子間シールド層62と上部シールド層334とが一体となって、1つの層で両層の機能を兼ねる場合、下部非磁性層61は省略される。
【0088】
主磁極補助層3400は、中間非磁性層63上に積層された例えば厚さ約0.5μm〜約3.0μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。また、主磁極主要層3401は、主磁極補助層3400上に積層された例えば厚さ約0.01μm〜約0.5μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。
【0089】
341は、主磁極主要層3401上に積層された例えばAl又はDLC等からなる厚さ約0.01μm〜約0.5μmのギャップ層である。ギャップ層341の厚さが、主磁極層340の端部340aとトレーリングシールド部3450の端部3450aとの間に形成されるトレーリングシールド部ギャップ長を規定する。344は、例えば熱硬化されたレジスト層等からなる厚さ約0.1μm〜約5μmのコイル絶縁層である。コイル層343は、コイル絶縁層344上及び中間非磁性層63内にそれぞれ形成されており、例えば厚さ約0.5μm〜約3μmのCu等から形成されている。補助磁極層345は、例えば厚さ約0.5μm〜約5μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。52は、例えばAl等から形成されている被覆層である。
【0090】
次いで、磁気ディスク10について構成を詳述する。基板100は、ガラス、NiP被覆Al合金、Si等から形成されている。磁化配向層101は、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層102は、軟磁性材料であるCoZrNb等のCo系アモルファス合金、Fe合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層103は、非磁性材料であるLu合金から形成されている。ここで、中間層103は、垂直磁気記録層104の垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。垂直磁気記録層104は、SiO等の酸化物系材料の中にCoPtなどの強磁性粒子をマトリックス状に含ませた材料、CoCrPt系合金、FePt系合金、又はCoPt/Pd系の人口格子多層膜等から形成されている。保護層105は、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
【0091】
なお、本発明による垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド及び磁気ディスクは、当然に上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態の消磁磁界印加素子においては、2つの消磁用の磁極部が主磁極層の端部の左右側面にそれぞれ近接して設けられているが、複数の磁極部が左右側面に分けられて設けられていてもよい。又は、1つの磁極部のみが左右側面のいずれか1つに近接して設けられていてもよい。いずれにしても、消磁磁界印加素子によって、主磁極層の端部に左右方向(トラック幅方向)の消磁磁界が印加することができる構成であれば、本発明の範囲内である。この場合、消磁又は減磁が目的であるので、完全に左右方向である必要はなく、略左右方向であればよい。さらに、主磁極層の端部における形状磁気異方性の方向によっては、前後方向若しくは略前後方向であってもよい。また、本実施形態において、消磁コイル層は、左右2箇所において消磁磁極層に巻かれた形となっているが、消磁磁極層のいずれか1箇所において巻かれていてもよく、さらに、3箇所以上において巻かれていてもよい。
【0092】
図9(A)は、図1の実施形態におけるHDDの記録再生及び消磁制御回路13の回路構成を示すブロック図である。また、図9(B)は、この回路構成のうち消磁磁界印加素子に消磁電流を供給する回路を示すブロック図である。
【0093】
図9(A)において、80はホストインターフェース、81は記録再生制御LSI、82は記録再生アンプ、83はプリアンプ、84はサーボ制御回路、85はデジタル信号プロセッサ、86は位置決めドライバ、87はVCM駆動回路、88はスピンドルドライバをそれぞれ示している。
【0094】
記録再生制御LSI81から出力される記録データは、記録再生制御LSI81から出力される記録制御信号が書き込み動作を指示するときのみ、記録再生アンプ82を介してプリアンプ83へ供給される。プリアンプ83は、この記録データに従って薄膜磁気ヘッド21の電磁コイル素子に書き込み電流を流し、磁気ディスク10上に書き込みを行う。
【0095】
また、記録再生制御LSI81から出力される再生制御信号が読み出し動作を指示するときのみ、薄膜磁気ヘッド21内のMR効果素子に定電流が流れる。このMR効果素子により再生された信号はプリアンプ83で増幅復調されて再生データとして記録再生アンプ82を介して記録再生制御LSI81に出力される。
【0096】
さらに、記録再生制御LSI81から出力される消磁制御信号が消磁動作を指示するときにのみ、消磁電流がプリアンプ83内の電源によって薄膜磁気ヘッド21の消磁コイル層351に流されて、主磁極層の端部の消磁動作を行う(図9(B))。この際、消磁用磁界によって磁気ディスク10上に存在するデータセクタ内及びサーボセクタ内の情報が消去又は改変されないようにする必要がある。そこで後に詳述するように、この主磁極層の端部が、磁気ディスク10のデータ領域とサーボ領域との間に存在するギャップ部の直上に位置するときにこの消磁動作を行う。そのために、まず、サーボ制御信号を受けたサーボ制御回路84及びデジタル信号プロセッサ85から、位置決めドライバ86にVCM制御信号が出力され、VCM駆動回路87によってVCM15が駆動される。このVCM15の駆動によって薄膜磁気ヘッド21が所定のトラック位置に保持される。次いで、スピンドルドライバ88によって駆動されているスピンドルモータ11の動きと連動させて薄膜磁気ヘッド21による書き込み動作を行った後に、所定時間、消磁動作を行う。これによって、主磁極層の端部がギャップ部直上を通過しているギャップ時間内においてのみ、消磁動作を行うことが可能となる。なお、主磁極層がギャップ部の境界付近に位置する場合は、隣接するデータセクタ内又はサーボセクタ内の情報を消去又は改変してしまう恐れがあるため、消磁動作を行わないことが好ましい。
【0097】
また、上述したように、消磁電流の電源をプリアンプ83に持たせたのは、消磁電流を流すタイミングが、データ信号の書き込み電流が流されていない時間内であることによる。すなわち、相当の大きさを持つ消磁電流を流す際に、データ信号の書き込み電流を流すことがないので、従来容量のプリアンプを用いることによっても十分な消磁動作を行うことができる。この結果、現在、HDDに求められている省電力小型化の要請にも適合する。なお、軟磁性裏打ち層に印加するバイアス磁界の強度は、消磁用磁界の強度に比べて十から百分の1程度であり、プリアンプへの負担は小さくて済む。
【0098】
なお、記録再生回路13の回路構成は、図9に示したものに限定されるものでないことは明らかである。消磁電流の電源を独立して設けることも可能である。また、消磁電流として、直流だけではなく、交流又はパルス電流等を用いることも可能である。
【0099】
ここで、上述した磁気ディスク上のギャップ部の説明を行う。図10(A)は、磁気ディスクにおけるデータ領域及びサーボ領域を示す概略図であり、図10(B)は、データ領域及びサーボ領域に書き込みされた信号パターンの構成を示す概略図である。
【0100】
図10(A)において、一般に、磁気ディスク10上には、データ領域1000と、このデータ領域1000の境界をなすようにサーボ領域1001とが設けられている。データ領域1000には、データ信号が、薄膜磁気ヘッドによって書き込みされている。また、サーボ領域1001には、薄膜磁気ヘッドのトラッキング用のサーボ信号が、サーボトラックライタによって記録されている。さらに、このサーボ領域1001は、サーボ信号を検出する薄膜磁気ヘッドがロータリアクチュエータによる揺動運動を行うことに対応して、円弧状となっている。
【0101】
図10(B)によれば、サーボ領域1001は、主にISG(Initial Signal Gain)部1003、SVAM(SerVo Address Mark)部、グレイコード部、バースト部、及びパッド部から構成されており、それぞれ所定の機能を有している。ここで、ISG部1003、SVAM部及びパッド部はディスク径方向に連続して記録されている。グレイコード部もディスク径の方向に少なくとも数トラック以上に亘って設けられている。バースト部は、ディスク径の方向に1トラック分の幅で記録されている。
【0102】
なお、後述するディスクリートトラックを有する磁気ディスクの場合、各ディスクリートトラックには、上述した通常の磁気ディスクと同様に、データ領域とこのデータ領域の境界をなすサーボ領域とが形成されている。そして、同様に、このデータ領域とサーボ領域との間にギャップ部が存在する。ただし、ディスクリートトラックを有する磁気ディスクの場合、トラッキング用のサーボ信号パターンは、凹凸構造からなるトラックパターンそのものからなっている。また、各ディスクリートトラックのサーボ領域へのパターンの書き込みは、一括着磁により行われている。
【0103】
一方、データ領域1000は、複数のデータセクタから構成されている。ここで、データ領域1000の最後のデータセクタ1004と次のサーボ領域1001のISG部1003との間には、ギャップ部1002が存在している。このギャップ部1002は、データ信号とサーボ信号とを分離するために設けられている。上述したように、主磁極層の端部が、このギャップ部1002の直上に位置するときにのみ消磁動作を行うことによって、適切にポールイレージャを回避することができる。
【0104】
以下に、本発明による消磁磁界印加素子を用いて、ポールイレージャによる書き込みエラーを防止することができる磁気記録方法を説明する。
【0105】
図11及び図12は、それぞれ、本発明による消磁磁界印加素子を用いたポールイレージャによる書き込みエラーを防止する磁気記録方法の一実施形態を説明するためのシーケンス図である。
【0106】
図11によれば、まず、薄膜磁気ヘッドのMR効果素子を用いてサーボ領域内のISG部、SVAM部及びグレイコード部の検出及び処理を行い、さらにパッド部を検出する。この間、書き込み電流及びバイアス磁界/消磁電流は流れていない。次いで、所定の時間経過後に、データ信号から変換された信号コード列に対応する書き込み電流1100によって、データ領域にデータ信号の書き込みを行う。
【0107】
一方、データ信号の書き込み電流1100が供給されると同時又はその直後に、軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加するためのバイアス磁界電流1101が、プリアンプ83(図9(B))の電源を用いて消磁磁界印加素子に供給される。
【0108】
ここで、バイアス磁界を軟磁性裏打ち層に印加するタイミング、及び軟磁性裏打ち層において印加すべき場所について説明する。
【0109】
バイアス磁界の印加が、書き込みがなされる前に行われた場合、この印加後の書き込み動作における書き込み磁界によって、軟磁性裏打ち層に、書き込み磁界パターンに応じた磁区パターンが形成される。この磁区パターンによっては、再生出力波形にスパイク状のノイズが発生してしまう。従って、データ信号の書き込み電流1100によって書き込み用の磁界が垂直磁気記録層に印加されている時又はその直後に、この書き込み用の磁界によって形成されつつある又は形成された磁気ディスク内の記録ビットの直下に位置する軟磁性裏打ち層の部分に、バイアス磁界電流1101を通電することによってバイアス磁界を印加する。このような書き込み後のバイアス磁界の印加によって、垂直磁気記録層内の記録ビットに影響を及ぼすことなく、この記録ビットの直下の軟磁性裏打ち層の部分の磁区構造を安定させることが可能となる。
【0110】
次いで、データ信号の書き込み電流1100がゼロとなり、データ領域への書き込みが終了したことを受けて、主磁極層端部の残留磁化を消去するために、直流の消磁電流1102が供給される。なお、消磁電流は、消磁電流1102のように直流でもよいが、交流又はパルス電流でもよく、さらに図12における消磁電流1202のように、振幅が時間と共に減衰する交流でもよい。
【0111】
なお、以上に述べた磁気記録方法は、専用に設けられた本発明の消磁磁界印加素子を用いることによって適切な実施が可能となる。特に、消磁磁界及びバイアス磁界を、書き込み動作とは独立して自由に印加可能であって初めて実施することができる。この際、主磁極層端部がギャップ部直上を通過しているギャップ時間内においてのみ消磁用磁界を印加することによって、データ領域及びサーボ領域に書き込まれた信号を消去又は改変することなく、ポールイレージャを回避することが可能となる。さらに、書き込み動作時においても磁気ディスク内の軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加して同層の磁区構造を安定させることが可能となる。
【0112】
以下、本発明によるHDDにおいて、消磁磁界印加素子を用いて主磁極層の端部の消磁又は減磁を実際に行った2つの実施例を説明する。これらの実施例において、それぞれポールイレージャに最も影響のある主磁極層端部のサイズ及び形状を変えた2つの薄膜磁気ヘッドを用いた。
【0113】
図13は、2つの実施例において使用された垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドの主磁極層端部の基本的な形状パラメータを示す概略図である。各主磁極層端部の形状パラメータ値を表1に示す。
【表1】

【0114】
表1によれば、主磁極層2の端部は、主磁極層1の端部よりもサイズが小さくなっていてより高い記録密度に対応する形状となっている。ここで、いずれの主磁極層の端部においても、主磁極層全体の形状により、主磁極長さ方向に形状磁気異方性が強く働いている。
【0115】
ここで、各主磁極層の飽和磁束密度Bは、2.0テスラ(T)であった。また、磁気異方性定数Kuは、10erg/ccであった。さらに、主磁極層端部のベベル角α(図13)は、15°であった。さらに、消磁磁界印加素子の消磁磁極層は、めっき法によるFeCoNi合金によって形成し、同層の厚さを2.0μmとした。消磁コイル層は、めっき法による厚さ1μmのCuによって形成した。
【0116】
さらに、2つの実施例において使用した垂直磁気記録用の磁気ディスクの磁気特性を表2に示す。ここで、各磁気特性は、試料振動型磁力計(VSM)を用いて測定された。
【表2】

【0117】
表2によれば、飽和磁化Mは、磁気ディスク1及び2ともに、300emu/cc(377mWb/m)であり、残留磁化Mは、ともに285emu/cc(358mWb/m)であった。保持力Hは、垂直磁気記録層のスパッタ成膜条件を変化させることによって、それぞれ5050Oe(402kA/m)及び7000Oe(557kA/m)とした。
【0118】
ここで、垂直磁気記録層の厚さは13nmであり、中間層の厚さは15nm、軟磁性裏打ち層の厚さは150nm、磁化配向層の厚さは10nm、保護層の厚さは4nmであった。また、磁気ディスク表面の潤滑剤として、フォンブリン系潤滑剤を用い、同剤を平均厚さが1nmとなるように塗布した。
【0119】
(実施例1)
図14は、主磁極層1を備えた薄膜磁気ヘッドにおける、消磁磁界印加素子の消磁磁極部から発生する印加消磁磁界と、主磁極層端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEとの関係を示した特性図である。
【0120】
図14によれば、主磁極層端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEは、印加消磁磁界が大きくなるほど減少する。印加消磁磁界が2000Oe(159kA/m)において、残留漏洩磁界HPOLEは2400Oe(191kA/m)程度である。さらに、印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)において、残留漏洩磁界HPOLEは、印加消磁磁界がゼロの場合に比べて半分以下の1200Oe(96kA/m)程度にまで低減する。
【0121】
ここで、消磁磁界印加素子及び主磁極層1を備えた薄膜磁気ヘッドと、磁気ディスク1とを備えたHDDにおいて、再生出力における消磁又は減磁の効果を調べる記録再生実験を行った。本実験においては、主磁極層1によって磁気ディスク1上の1つのトラックに書き込みを行い、その後、書き込み電流をOFFとした上で同一トラック上に主磁極層1を保持しながら、出力の経時変化を観測してポールイレージャの影響を測定した。
【0122】
その結果、本実施例の条件においては、印加した消磁用磁界が、6000Oe(478kA/m)未満である場合、同磁界によって主磁極層1の端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEを低減させても、再生出力の低下が測定された。これに対して、6000Oe(478kA/m)以上の消磁用磁界を印加して残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEをより十分に低減させることによって、再生出力の低下が見られなくなることが明らかとなった。
【0123】
(実施例2)
図15は、主磁極層2を備えた薄膜磁気ヘッドにおける、消磁磁界印加素子の消磁磁極部から発生する印加消磁磁界と、主磁極層端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEとの関係を示した特性図である。
【0124】
図15によれば、主磁極層端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEは、印加消磁磁界が大きくなるほど減少する。印加消磁磁界が2000Oe(159kA/m)において、残留漏洩磁界HPOLEは、5000Oe(398kA/m)程度と実施例1よりも大きな値となっている。これは、主磁極層2の主磁極幅が主磁極層1に比べて小さくなっており、形状磁気異方性もより強くなっていることによる。印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)では、残留漏洩磁界HPOLEが、印加消磁磁界がゼロの場合に比べて半分の約3200Oe(255kA/m)程度となる。
【0125】
ここで、消磁磁界印加素子及び主磁極層2を備えた薄膜磁気ヘッドと、磁気ディスク2とを備えたHDDにおいて、再生出力における消磁又は減磁の効果を調べる記録再生実験を行った。本実験においては、主磁極層2によって磁気ディスク2上の1つのトラックに書き込みを行い、その後、書き込み電流をOFFとした上で同一トラック上に主磁極層2を保持しながら、出力の経時変化を観測してポールイレージャの影響を測定した。
【0126】
その結果、本実施例の条件においては、印加した消磁用磁界が、6000Oe(478kA/m)未満である場合、同磁界によって主磁極層2の端部の残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEを低減させても、再生出力の低下が測定された。これに対して、6000Oe(478kA/m)以上の消磁用磁界を印加して残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEをより十分に低減させることによって、再生出力の低下が見られなくなることが明らかとなった。
【0127】
(実施例1及び2の検証)
以下、実施例1及び2による消磁又は減磁の効果を検証する。
【0128】
図16は、両実施例における磁気ディスク1及び2の保持力H、保持力角型比S、反磁界4πM、及び残留漏洩磁界HPOLEの関係を説明するための磁気ディスクのM−H曲線の概略図である。同図のM−H曲線においては、反磁界補正がなされている。
【0129】
一般に、垂直磁気記録層内の記録ビットである垂直磁化が、安定的に保持される条件として、磁気ディスクの保持力角型比を考慮した保磁力が、反磁界よりも大きいこと、すなわち、S>4πMであることが求められる。ここで、保持力角型比Sは、図16のM−H曲線上の点(0,−H)における接線の傾きと残留磁化Mの値によって決定される値であり、この接線と直線M=Mとの交点のH座標値をH´とすると、S=H´/Hとなる。
【0130】
次いで、さらに主磁極層端部からの残留漏洩磁界HPOLEの影響を考慮する。図16によれば、反磁界4πMと残留漏洩磁界HPOLEとの向きが同じである場合、両者の和が、保持力角型比を考慮した保磁力Sを上回る値となる場合に、磁化反転が発生し、記録ビットが破壊されることがわかる。すなわち、
(1) 4πM+HPOLE<S
ならば、ポールイレージャは発生せず、
(2) 4πM+HPOLE>S
ならば、ポールイレージャが発生することになる。
【0131】
ここで、実施例1の場合をポールイレージャが発生しない条件式である(1)に当てはめてみる。まず、M=285emu/cc(358mWb/m)であるから、4πM=3581Oe(285kA/m)となる。また、S=0.95、H=5050Oe(402kA/m)であるから、S=4798Oe(382kA/m)となる。従って、残留漏洩磁界HPOLEが、反磁界4πMと同じ向きである場合、HPOLEが1217Oe(97kA/m)未満であれば、ポールイレージャは発生しないことになる。
【0132】
ここで、実施例1においては、上述したように印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)以上であれば再生出力の低下は測定されなかったが、図14において、印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)以上の場合、HPOLEが約1200Oe(96kA/m)以下となっていることがわかる。従って、実施例1において再生出力の低下が測定されなかったのは、式(1)の条件を満たすことによってポールイレージャが発生しなかったからであることが理解される。
【0133】
次いで、実施例2の場合をポールイレージャが発生しない条件式である(1)に当てはめてみる。まず、M=285emu/cc(358mWb/m)であるから、4πM=3581Oe(285kA/m)となる。また、S=0.98、H=7000Oe(557kA/m)であるから、S=6860Oe(546kA/m)となる。従って、残留漏洩磁界HPOLEが、反磁界4πMと同じ向きである場合、式(1)により、HPOLEが3280Oe(261kA/m)未満であれば、ポールイレージャは発生しないことになる。
【0134】
ここで、実施例2においては、上述したように印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)以上であれば再生出力の低下は測定されなかったが、図15において、印加消磁磁界が6000Oe(478kA/m)以上の場合、HPOLEが約3200Oe(255kA/m)以下となっていることがわかる。従って、実施例2において再生出力の低下が測定されなかったのは、式(1)の条件を満たすことによってポールイレージャが発生しなかったからであることが理解される。
【0135】
以上に述べたように、実施例1及び2において、式(1)を満たす場合に再生出力の低下がみられなくなる事実は、式(1)を導いた上述のモデルが本発明に適用可能であることを意味している。従って、式(1)4πM+HPOLE<Sが、本発明においてポールイレージャを回避するための条件となる。すなわち、消磁磁界印加素子を用いて、残留磁化M及び残留漏洩磁界HPOLEを低減させることによって、HPOLE+4πMの値を、保持力H及び保持力角型比Sの積であるSよりも小さくすることによってポールイレージャによる悪影響の無い良好な再生出力を得ることができる。
【0136】
次に、ディスクリートトラックを有する磁気ディスクを用いた場合の、本発明による消磁磁界印加素子を用いることの効果を以下に説明する。ここで、ディスクリートトラックを有する磁気ディスクは、隣接するトラック間の磁気的干渉が低減しており高トラック密度化に適した磁気記録媒体である。
【0137】
図17は、本発明による垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドと、ディスクリートトラックを有する垂直磁気記録用の磁気ディスクとの構成を示す概略図である。なお、図を見易くするために、補助磁極層は省略されている。
【0138】
同図によれば、垂直磁気記録層104´、中間層103´、及び軟磁性裏打ち層102´の層厚方向における一部が、トラック長手方向に伸長した非磁性材料からなる非磁性離隔層1700によって分断されることによって、ディスクリートトラック1701が形成されている。このようなディスクリートトラック1701を備えた磁気ディスクは、主磁極層の端部340a´からの書き込み磁界が、非磁性離隔層1700を介して直下の軟磁性層に吸収され易くなるため、隣接するトラックに広がり難くなるという大きな利点を有する。
【0139】
しかしながら、軟磁性裏打ち層102´が非磁性離隔層1700によって分断されるため、同層内のトラック長手方向に形状磁気異方性が発生する。ここで、軟磁性裏打ち層102´においては、磁化配向層101´によってトラック幅方向に磁気異方性が付与されているが、ディスクリートトラックの凸部の形状によってはトラック長手方向の形状磁気異方性の方が強くなり、トラック長手方向が容易軸となってしまう。その結果、書き込み毎に軟磁性裏打ち層102´に大きな磁化が残留し、この残留磁化が再生出力内のノイズとなってエラーレート等の記録再生特性が劣化することになる。
【0140】
これに対して、図17のように、消磁磁界印加素子35´を用いて、左右方向(トラック幅方向)に、上記のトラック長手方向の形状磁気異方性よりも強いバイアス磁界1702を印加することによって、このような記録再生特性の劣化を解消することができる。さらに、外乱磁界による磁区構造の不安定化も防止することができる。この結果、低ノイズの良好な磁気記録が達成可能となる。
【0141】
以下、ディスクリートトラックを有する磁気ディスクを備えた本発明によるHDDにおいて、消磁磁界印加素子によるバイアス磁界印加の効果を調べた実施例について説明する。
【0142】
(実施例3)
最初に、同じく図17を用いて、本実施例に用いたディスクリートトラックを有する磁気ディスク10´の構成を説明する。ディスク基板100´として、1インチ径のガラス基板を用いた。磁化配向層101´には、厚さ13nmの反強磁性材料であるPtMnを用いた。軟磁性層裏打ち層102´には、厚さ150nmの非晶質磁性体であるCoZrNbを用いた。この軟磁性裏打ち層102´の保磁力は、10Oe(0.80kA/m)であった。また、この軟磁性裏打ち層102´に対して、磁界中でのアニール処理を行い、磁化配向層101´との反強磁性結合によるトラック幅方向の磁気異方性を付与した。中間層103´には、厚さ10nmの非磁性のCoCrを用いた。垂直磁気記録層104´には、厚さ15nmであるSiO及びCoPt結晶粒子の混晶層を用いた。この垂直磁気記録層104´の垂直磁気異方性定数Kuは、2×10erg/ccであった。
【0143】
ディスクリートトラック1701を形成するための非磁性離隔層1700には、非磁性材料であるSiOを用いた。この非磁性離隔層1700が埋め込まれた凹部は、磁気ディスク表面から軟磁性裏打ち層102´に達しており、軟磁性裏打ち層102´において深さ30nmとなるように形成された。この非磁性離隔層1700用のSiO膜を成膜後、平坦化処理を行い、この平坦化された磁気ディスク表面に、保護層として厚さ5nmのCVDカーボン(C)を成膜した。潤滑剤にはフォンブリン系潤滑剤を用い、同剤を平均厚さが1nmとなるように塗布した。なお、図17においては、保護層、潤滑剤層は省略されている。
【0144】
ディスクリートトラック1701のトラックピッチを150nmとし、磁気記録層104´を含む凸部の頂辺の長さを100nmとし、非磁性離隔層が埋め込まれている凹部の底辺の長さを30nmとした。
【0145】
また、本実施例に用いた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドの主磁極幅(図13)は120nmとした。主磁極層には、FeCo系合金を用い、飽和磁束密度を2.3T(テスラ)とした。データ信号の読み出し用のMR効果素子には、CIP−GMR効果素子を用いた。同素子のトラック幅は110nmとした。
【0146】
次いで、以上の磁気ディスク及び薄膜磁気ヘッドを用いて、データ信号の記録再生実験を行い、消磁磁界印加素子によるバイアス磁界の印加によって、外乱磁界に対する信頼性が向上する効果を調べた。比較例として、バイアス磁界を印加しない状態での外乱磁界に対する信頼性評価も併せて行った。
【0147】
実際に用いた評価方法を以下に説明する。最初に、外乱磁界の無い状態において、上述した薄膜磁気ヘッドを用いて、400Oe(31.8kA/m)のバイアス磁界を印加しながら、ディスクリートトラックを有する磁気ディスクに所定の書き込みを行った。次いで、ランダムな方向を有する外乱磁界を印加した上で、同一トラック上のデータ信号を読み出して、再生出力内のスパイクノイズの有無を調べた。ここで、スパイクノイズとは、軟磁性裏打ち層における不安定な磁区構造によって再生出力内に発生するスパイク状のノイズである。この際、外乱磁界強度を徐々に強く設定しながら、スパイクノイズが観測されるまで繰り返し評価を行った。なお、同一条件で作製された磁気ディスクのサンプル数は、50であった。
【0148】
図18は、実施例3及び比較例において、スパイクノイズの発生した外乱磁界強度を示した特性図である。ここで、スパイクノイズ発生磁界とは、1つのサンプルの評価において外乱磁界強度を徐々に強くした場合に、最初にスパイクノイズを観測した際の外乱磁界強度である。
【0149】
同図から明らかなように、バイアス磁界を印加した本実施例において、スパイクノイズの発生磁界強度は、バイアス磁界を印加しなかった比較例よりも2倍程度大きくなっている。しかも発生磁界強度値のばらつきも小さい。従って、本発明による消磁磁界印加素子を用いて軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加することによって、外乱磁界に対する耐性が安定的に向上することが理解される。
【0150】
なお、本実施例においては、垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部とが非磁性離隔層により分断されているが、垂直磁気記録層のみ、又は垂直磁気記録層及び中間層のみが分断されている場合でも、上述した通常の磁気ディスクと同様に、本発明によってノイズ低減及び抑制効果が得られる。さらに、垂直磁気記録層と軟磁性裏打ち層の全部とが非磁性離隔層により分断されている場合においても、本実施例と同様に、ノイズ低減及び抑制効果が得られることが明らかである。
【0151】
以上、本発明によるHDDにおいて、磁気記録媒体が、通常の垂直磁気記録用の磁気ディスク、及びディスクリートトラックを有する磁気ディスクである場合をそれらの効果を含めて説明した。しかしながら、磁気記録媒体が、垂直磁気記録用のパターンドメディアである場合も本発明の範囲内であることは明らかである。
【0152】
ここで、パターンドメディアは、形状や大きさを人工的にそろえた単磁区構造体、例えば微粒子をアレイ状に並べて、各微粒子を1ビットとして記録を行う媒体である。パターンドメディアにおいては、トラック間のみならず記録ビット間における信号磁界の干渉を低減させており、高記録密度化に非常に適した構造が実現される。このパターンドメディアにおいて軟磁性裏打ち層が使用される場合には、上述したディスクリートトラックを有する磁気ディスクの場合と同様の課題が存在するが、本発明の磁界印加手段である消磁磁界印加素子を用いることによって、同様のノイズ低減及び抑制効果が得られる。
【0153】
さらに、以上に述べた実施形態及び実施例は、全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができることは明らかである。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2の実施形態におけるHGAの先端部に装着されている垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを示す斜視図である。
【図4】図3の実施形態における磁気ヘッド素子を素子形成面側から透視的に見た平面図である。
【図5】図3の実施形態の磁気ヘッド素子における、図4のA−A線断面図である。
【図6】図3の実施形態の消磁磁界印加素子における、図4のB−B線断面図である。
【図7】図3の実施形態の磁気ヘッド素子における、図4のC−C線断面図である。
【図8】消磁磁界印加素子から発生する磁界を利用して、軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加することを説明する概略図である。
【図9】図1の実施形態におけるHDDの記録再生及び消磁制御回路の回路構成を示すブロック図である。
【図10】磁気ディスクにおけるデータ領域及びサーボ領域、並びにデータ領域及びサーボ領域に書き込みされた信号パターンの構成を示す概略図である。
【図11】本発明による消磁磁界印加素子を用いたポールイレージャによる書き込みエラーを防止する磁気記録方法の一実施形態を説明するためのシーケンス図である。
【図12】本発明による消磁磁界印加素子を用いたポールイレージャによる書き込みエラーを防止する磁気記録方法の一実施形態を説明するためのシーケンス図である。
【図13】実施例1及び2において使用された垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドの主磁極層端部の基本的な形状パラメータを示す概略図である。
【図14】主磁極層1を備えた薄膜磁気ヘッドにおける、消磁磁界印加素子の消磁磁極部から発生する印加消磁磁界と、主磁極層端部の残留磁化及び残留漏洩磁界との関係を示した特性図である。
【図15】主磁極層2を備えた薄膜磁気ヘッドにおける、消磁磁界印加素子の消磁磁極部から発生する印加消磁磁界と、主磁極層端部の残留磁化及び残留漏洩磁界との関係を示した特性図である。
【図16】実施例1及び2における磁気ディスク1及び2の保持力、保持力角型比、反磁界、及び残留漏洩磁界の関係を説明するための磁気ディスクのM−H曲線の概略図である。
【図17】本発明による垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドと、ディスクリートトラックを有する垂直磁気記録用の磁気ディスクとの構成を示す概略図である。
【図18】実施例3及び比較例において、スパイクノイズの発生した外乱磁界強度を示した特性図である。
【符号の説明】
【0155】
10 磁気ディスク
10´ ディスクリートトラックを有する磁気ディスク
100 基板
101 磁化配向層
102 軟磁性裏打ち層
103 中間層
104 垂直磁気記録層
105 保護層
10a 磁気ディスク表面
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び消磁制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 HGA
20 サスペンション
21 スライダ(薄膜磁気ヘッド)
210 スライダ基板
22 ロードビーム
23 フレクシャ
24 ベースプレート
25 配線部材
30 ABS
300 ヘッド端面
31 素子形成面
32 磁気ヘッド素子
33 MR効果素子
330 下部シールド層
331 下部シールドギャップ層
332 MR効果層
333 上部シールドギャップ層
334 上部シールド層
335 素子リード導体層
34 電磁コイル素子
340 主磁極層
340a 主磁極層の端部
3400 主磁極補助層
3401 主磁極主要層
341 ギャップ層
343 コイル層
344 コイル絶縁層
345 補助磁極層
35 消磁磁界印加素子
350 消磁磁極層
350a 消磁磁極部
351 消磁コイル層
3510 第1の消磁コイル層
3511 第2の消磁コイル層
36 信号端子電極
37 駆動端子電極
50 第1の消磁コイル絶縁層
51 第2の消磁コイル絶縁層
52 被覆層
60 絶縁層
61 下部非磁性層
62 素子間シールド層
63 中間非磁性層
5450 トレーリングシールド部
5450a トレーリングシールド部の端部
65 磁束
70 消磁用磁界
71、1702 バイアス磁界
80 ホストインターフェース
81 記録再生制御LSI
82 記録再生アンプ
83 プリアンプ
84 サーボ制御回路
85 デジタル信号プロセッサ
86 位置決めドライバ
87 VCM駆動回路
88 スピンドルドライバ
1000 データ領域
1001 サーボ領域
1002 ギャップ部
1003 ISG部
1004 最後のデータセクタ
1100 書き込み電流
1101 バイアス磁界電流
1102、1202 消磁電流
1700 非磁性離隔層
1701 ディスクリートトラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主磁極層と、一方の端部が該主磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部が該主磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助磁極層と、少なくとも前記主磁極層及び前記補助磁極層の間を通過するように形成されており該主磁極層及び該補助磁極層に磁束を誘導するためのコイル層とを有する書き込み用の電磁コイル素子を備えた垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドであって、前記主磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に消磁用の磁界を印加するための少なくとも1つの磁界印加手段を備えていることを特徴とする垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
前記少なくとも1つの磁界印加手段が、消磁磁極層と、該消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記消磁磁極層が少なくとも1つの磁極部を有しており、該少なくとも1つの磁極部のうち少なくとも1つが、前記主磁極層の前記端部に近接して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記消磁磁極層が2つの磁極部を有しており、該2つの磁極部が、前記主磁極層の前記端部の左右側端面にそれぞれ近接して設けられていることを特徴とする請求項3に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記磁極部がいずれも、前後方向における位置関係において、前記主磁極層の前記端部と同位置又は後方の位置に設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
前記少なくとも1つの磁界印加手段が、前記補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に磁界を印加可能な位置に設置されており、該磁界の印加によって該端部の磁区構造を安定させる手段となっていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記少なくとも1つの磁界印加手段が、2つの磁極部を有する消磁磁極層と該消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えており、該2つの磁極部が、前記補助磁極層の前記端部の左右側面にそれぞれ近接して設けられていることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
前記補助磁極層の前記端部が、該補助磁極層の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部となっていることを特徴とする請求項6又は7に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドと、該垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構とを備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項10】
請求項9に記載の少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリと、該ヘッドジンバルアセンブリが有する垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドによって信号の書き込みが行われる垂直磁気記録層と磁束路の一部となる軟磁性裏打ち層とを備えた少なくとも1つの垂直磁気記録媒体と、前記少なくとも1つの磁界印加手段へ供給する電流を制御する電流制御手段とを備えていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの磁界印加手段が、前記軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加可能な位置に設置されており、該バイアス磁界の印加によって該軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させる手段となっていることを特徴とする請求項10に記載の磁気ディスク装置。
【請求項12】
請求項9に記載の少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリと、該ヘッドジンバルアセンブリが有する垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドによって信号の書き込みが行われる垂直磁気記録層と磁束路の一部となる軟磁性裏打ち層とを備えた少なくとも1つの垂直磁気記録媒体と、前記少なくとも1つの磁界印加手段へ供給する電流を制御する電流制御手段とを備えた磁気ディスク装置であって、前記少なくとも1つの垂直磁気記録媒体が、少なくとも前記垂直磁気記録層がトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えており、前記少なくとも1つの磁界印加手段が、該複数のディスクリートトラックの各々における軟磁性裏打ち層の部分にバイアス磁界を印加可能な位置に設置されており、該バイアス磁界の印加によって該軟磁性裏打ち層の部分の磁区構造を安定させる手段となっていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの垂直磁気記録媒体が、前記垂直磁気記録層と前記軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部又は全部とがトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えていることを特徴とする請求項12に記載の磁気ディスク装置。
【請求項14】
垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが備えている電磁コイル素子を用いて垂直磁気記録媒体に信号の書き込みを行った後に、該電磁コイル素子内の主磁極層の該垂直磁気記録媒体と対向する側の端部に消磁用の磁界を印加することによって、該端部を消磁又は減磁することを特徴とする磁気記録方法。
【請求項15】
前記主磁極層の前記端部が、前記垂直磁気記録媒体上においてデータ領域とサーボ領域との間に存在するギャップ部の直上に位置しているときに、該端部を消磁又は減磁することを特徴とする請求項14に記載の磁気記録方法。
【請求項16】
前記主磁極層の前記端部における残留磁化をMとし、該端部からの漏洩磁界をHPOLEとした場合に、該端部に消磁用の磁界を印加してM及びHPOLEを低減させることによって、HPOLE+4πMの値を、前記垂直磁気記録媒体の保持力H及び保持力角型比Sの積であるSよりも小さくすることを特徴とする請求項14又は15に記載の磁気記録方法。
【請求項17】
前記垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが少なくとも1つの磁界印加手段を備えており、前記消磁用の磁界の印加を、該少なくとも1つの磁界印加手段を用いて行うことを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの磁界印加手段が、消磁磁極層と、該消磁磁極層に磁束を誘導するための消磁コイル層とを備えており、前記消磁用の磁界の印加を、該消磁コイル層に通電することによって行うことを特徴とする請求項17に記載の磁気記録方法。
【請求項19】
前記消磁用の磁界の印加を、前記消磁磁極層が有する少なくとも1つの磁極部のうち少なくとも1つを用いて行うことを特徴とする請求項18に記載の磁気記録方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの磁極部が2つの磁極部であって、該2つの磁極部によって、前記主磁極層の前記端部に左右方向又は略左右方向の消磁用の磁界を印加することを特徴とする請求項19に記載の磁気記録方法。
【請求項21】
前記消磁コイル層に、振幅が時間と共に減衰する交流電流を流すことによって前記主磁極層の前記端部に、振幅が時間と共に減衰する交流磁界を印加することを特徴とする請求項18から20のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項22】
前記電磁コイル素子内の補助磁極層の垂直磁気記録媒体と対向する側の端部にバイアス磁界を印加することによって、該端部の磁区構造を安定させることを特徴とする請求項14から21のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項23】
前記信号の書き込みを行っている間又は該書き込みの直後をも含む間、前記垂直磁気記録媒体内の軟磁性裏打ち層にバイアス磁界を印加することによって、該軟磁性裏打ち層の磁区構造を安定させることを特徴とする請求項14から22のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項24】
前記垂直磁気記録媒体が、少なくとも前記垂直磁気記録層がトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えており、前記信号の書き込みを行っている間又は該書き込みの直後をも含む間、該複数のディスクリートトラックの各々における軟磁性裏打ち層の部分にバイアス磁界を印加することによって、該軟磁性裏打ち層の部分の磁区構造を安定させることを特徴とする請求項14から22のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項25】
前記垂直磁気記録媒体が、前記垂直磁気記録層と前記軟磁性裏打ち層の層厚方向における一部又は全部とがトラック長手方向に伸長した複数の非磁性離隔層により分断されることによって形成された複数のディスクリートトラックを備えていることを特徴とする請求項24に記載の磁気記録方法。
【請求項26】
前記信号の書き込み用の磁界が印加されている時又はその直後に、該信号の書き込み用の磁界によって形成されつつある又は形成された前記垂直磁気記録媒体内の記録ビットの直下に位置する軟磁性裏打ち層の部分に、前記バイアス磁界を印加することを特徴とする請求項23から25のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項27】
前記バイアス磁界の印加を、前記垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドが備えている少なくとも1つの磁界印加手段を用いて行うことを特徴とする請求項22から26のいずれか1項に記載の磁気記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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