説明

埋設深さ測定方法及びその装置

【課題】埋設物の埋設深さの測定誤差を低減し、測定精度を上げることを目的とする。
【解決手段】検査媒体中に埋設された埋設物の埋設深さ測定方法である。送信部と受信部を平面上に近接配置した第1送受信ユニット26の第1送受信データと、前記第1送受信ユニット26と同一平面上であって送信部と受信部の中心に前記第1送受信ユニットの中心を配置した第2送受信ユニット30の第2送受信データとから得られる最も短い反射時間の伝播速度を演算処理して、見かけ上の埋設物の埋設深さを求め、前記埋設物の埋設深さに対して送受信ユニットと検査媒体との間の空隙により生じる屈折率の補正を行い、実際の反射時間を求めて前記埋設物の埋設深さを補正演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設深さ測定方法及びその装置に係り、特に、コンクリート構造物の鉄筋のかぶり深さを非破壊検査により効率的に測定することができる埋設深さ測定方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の鉄筋かぶり深さなど、埋設物の埋設深さを非破壊で測定する方法として、電磁波レーダ法や超音波法、電磁誘導法、X線透過撮像法などが知られている。
【0003】
本願出願人は、効率的に埋設深さを測定する装置として特に電磁波を用いた特許文献1に示す埋設深さ測定装置を開示している。特許文献1に開示の測定装置は、送信部と受信部からなる送受信ユニットを複数備えている。各送受信ユニットは、送信部と受信部の間隔が異なっているとともに、送信部と受信部の中心を一致させて支持部に取り付けている。そして各送受信ユニットを一体としてコンクリート構造物の表面を移動させて走査することにより、各送受信ユニットの走査距離を同じにして、反射波に基づく埋設物の深さdを求める収束計算を行っている。
【特許文献1】特開2006−300730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置は、送信アンテナと受信アンテナを走行台車からなるユニット支持部に取り付けている。そしてこの装置は走行台車をコンクリート構造物の表面を移動しながら送信アンテナが送信した電波を受信アンテナによって受信させて走査している。このときコンクリート表面は凹凸、段差など全くの平らでないことがある。よって送信アンテナ及び受信アンテナはいずれも地表面から数cm離間させて、僅かながらの隙間を設けて台車に取り付けて、アンテナと地表面との接触を回避する構成としている。
【0005】
ところが埋設物の深さdを求める収束計算においては、送受信アンテナと地表面との隙間を考慮せずに送受信アンテナが地表面に接していると仮定した状態で計算を行っている。一般に隙間としては空気などが考えられる。また隙間とコンクリートなどの被検査物が埋設された媒質とでは、屈折率が異なっている。このため屈折率の違いから隙間分の比誘電率が作用して埋設深さdの計算値に誤差が生じてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するためになされたもので、送受信アンテナと検査媒体の間の空隙に由来する埋設物の深さの測定値誤差を解消し、測定精度を上げることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る埋設深さ測定装置は、検査媒体中に埋設された埋設物の埋設深さ測定方法であって、第1送信部と第1受信部を平面上に近接配置した第1送受信ユニットの第1送受信データと、前記第1送受信ユニットと同一平面上であって第2送信部と第2受信部の中心に前記第1送受信ユニットの中心を配置した第2送受信ユニットの第2送受信データとから得られる最も短い反射時間の伝播速度を演算処理して、見かけ上の反射時間に基づく埋設物の埋設深さを求め、前記埋設物の埋設深さに対して送受信ユニットと検査媒体との間の空隙により生じる屈折率の補正を行い、実際の反射時間を求めて前記埋設物の埋設深さを補正演算することを特徴としている。
【0008】
本発明の埋設深さの測定装置は、送信波を送信する第1送信部と反射波を受信する第1受信部を平面上に近接配置した第1送受信ユニットと、前記第1送受信ユニットと同一平面上であって第2送信部と第2受信部の中心に前記第1送受信ユニットの中心を配置した第2送受信ユニットと、前記第1送受信ユニットと前記第2送受信ユニットを一体として検査媒体を直線上に移動するユニット支持部と、前記ユニット支持部の移動による各受信部の複数の出力信号に基づいて、各送信部の送信した送信波に対応する受信部の受信した反射波を求める信号処理部と、前記信号処理部による前記反射波のうち最も短い反射時間の伝播速度を演算処理して得られた埋設物の埋設深さに対して、送受信ユニットと検査媒体との間の空隙により生じる屈折率の補正を行い、実際の反射時間を求めて前記埋設物の埋設深さを補正する演算部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
このようになっている本発明は、送受信ユニットと地表の隙間により生じる屈折率を補正して反射波を演算処理することにより、実際の経路の伝播時間が得られる。これにより埋設深さの測定誤差を回避することができる。したがって、これまでアンテナと地表との間の隙間を考慮せずに送受信アンテナの伝播時間に基づき演算していた鉄筋の埋設深さによる測定誤差を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る埋設深さ測定方法及びその装置の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。なお、以下の実施形態においては、コンクリート構造物の鉄筋のかぶり深さの測定を例にして説明する。
【0011】
まず始めに埋設深さ測定装置の構成について以下説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る埋設深さ測定装置の説明図である。図2は深さ測定装置の計測の説明図である。この深さ測定装置10は、コンクリート構造物12の表面を走査させる送受信部14と、送受信部14に送信波を供給すると共に、反射波を受信するレーダ回路部16と、レーダ回路部16を制御するとともに、反射波に基づいて鉄筋(埋設物)18の深さ、すなわちかぶり深さを求める演算制御部20と、演算制御部20の求めた埋設深さを表示する表示部22とを有している。
【0012】
前記送受信部14は、2組の送受信ユニットから構成してあり、4素子のアンテナが矢印によって示した走査方向24に沿って直線状に配設してある。すなわち、送受信部14は、走査方向24に沿った中央部に、第1送受信ユニット26が配置してある。第1送受信ユニット26は、第1送信部である第1送信アンテナ28Aと、第1受信部である第1受信アンテナ28Bとからなり、これらが相互に接するように近接配置してある。
【0013】
一方、第2送受信ユニット30は、第2送信部である第2送信アンテナ32Aと第2受信部である第2受信アンテナ32Bとからなっていて、第1送受信ユニット26を挟むように構成してある。すなわち、第2送受信ユニット30は、第2送信アンテナ32Aが図3において第1送信アンテナ28Aの左側に、第2受信アンテナ32Bが第1受信アンテナ28Bの右側に配置してある。そして、実施形態の場合、第2送信アンテナ32Aと第1送信アンテナ28Aとの距離と、第1受信アンテナ28Bと第2受信アンテナ32Bとの距離が等しくなっている。このため、第1送受信ユニット26と第2送受信ユニット30との中心が一致している。
【0014】
これらの第1送受信ユニット26と第2送受信ユニット30とは、走行台車からなるユニット支持部34に取り付けてある。ユニット支持部34は、距離センサ36が設けてある。距離センサ36は、送受信部14を図示しない基準点から走査線に沿って走行させた距離を検出し、演算制御部20に入力する。また図2(1)に示すように、第1送受信ユニット及び第2送受信ユニットはいずれもコンクリート構造物12の表面から空隙(隙間)dcを開けて設置している。
【0015】
レーダ回路部16には、図3に示しているように、送信機38、受信機40、切替え部42が設けてある。切替え部42は、一対のアンテナ切替え器44、46から構成してある。一方のアンテナ切替え器44は、第1送信アンテナ28A、第2送信アンテナ32Aと送信機38との間に設けてあり、第1送信アンテナ28Aと第2送信アンテナ32Aとを切り替えて送信機38に接続する。他方のアンテナ切替え器46は、受信機40と第1受信アンテナ28B、第2受信アンテナ32Bとの間に設けてあり、第1受信アンテナ28Bと第2受信アンテナ32Bとを切り替えて受信機40に接続する。送信機38は、電波からなる送信波を生成してアンテナ切替え器44を介して送信アンテナ28A、32Aに供給する。受信機40は、受信アンテナ28B、32Bで受信した鉄筋18からの反射波(エコー)を復調する。
【0016】
演算制御部20は、レーダ制御部48、信号処理部50、演算部52、メモリ54を備えている。レーダ制御部48は、所定時間ごとに送信機38を駆動して送信波を出力させるとともに、切替え部42を切替え制御して、第1送信アンテナ28Aと第2送信アンテナ32Aとを切り替えて送信機38に接続するとともに、これに同期して第1受信アンテナ28Bと第2受信アンテナ32Bとを切り替えて受信機40に接続する。このレーダ制御部48が出力する送信機38の駆動信号、切替え部42の切替え制御信号は、信号処理部50にも与えられる。
信号処理部50は、受信機40の出力信号に基づいて、反射波の強度に応じた信号を演算部52に入力する。
【0017】
演算部52は、送受信部14に設けた距離センサ36の出力信号が入力するようになっていて、距離センサ36と信号処理部50の出力信号とを対応させてメモリ54に書き込むとともに、詳細を後述するように、鉄筋18からの反射波による像を生成し、また鉄筋18のかぶり深さを演算するとともに、空隙dcにより生じる屈折率の補正を行い表示部22に出力して表示するとともに、メモリ54に書き込む。
【0018】
このようになっている深さ測定装置10による鉄筋18のかぶり深さの測定は次のように行う。
図1は埋設深さ測定方法の全体フロー図を示している。以下このフロー図に従って説明する。まず深さ測定装置10による鉄筋18の計測を行い、鉄筋18の水平位置を求める(S200)。
【0019】
最初に深さ測定装置10を鉄筋18が埋設されたコンクリート構造物12上に配置する。図2(1)〜(3)に示すように、コンクリート構造物12の表面を鉄筋18の軸線と直交させて送受信部14を左から右に向かって走査させる。
【0020】
このとき送信機38は送信波を生成し、送信アンテナ28A、32Aから予め定めた所定間隔で送信波を発している。そして受信アンテナ28B、32Bで送信波を受信し、受信機40で復調する。走査線上の各位置において、第1送信アンテナ28A、第2送信アンテナ32Aを切り替えて送信機38に接続し、これに同期して第1受信アンテナ28B、第2受信アンテナ32Bを切り替えて受信機40に接続し、第1受信アンテナ28Bと第2受信アンテナ32Bとの受信データを、演算制御部20の信号処理部50において連続的に収集し、演算部52に送出する。
【0021】
深さ測定装置10は、図2(1)に示すように第1送受信ユニットの送受信の反射時間taおよび第2送受信ユニットの送受信の反射時間tbが鉄筋18の真上に近づくまでは次第に短くなる(t1a,t1b)。そして図2(2)に示すように深さ測定装置10が鉄筋18の真上に来たとき反射時間ta,tbは最も短くなる(t2a,t2b)。鉄筋18の真上を通過した後は、図2(3)に示すように徐々に反射時間ta,tbは長くなる(t3a,t3b)。
【0022】
次に鉄筋の検出を行う(S300)。
まず演算部52は、信号処理部50の出力する受信データを距離センサ36の出力する走査基点からの走査距離信号とともにメモリ54に書き込む。さらに、演算部52は、信号処理部50と距離センサ36とから入力したデータに基づいて、コンクリート構造物12のBモードの像(垂直断面像)を生成し、表示部22に表示するとともに、メモリ54に書き込む。
【0023】
図4は実施形態に係る第1送受信ユニット及び第2送受信ユニットによる反射像を説明する図である。同図の横軸は走査距離を示し、縦軸は時間(t)を示している。第1受信アンテナ28Bの受信した鉄筋18からの反射波によるBモードの像は、同図(1)に示すように、三日月状(逆双曲線パターン)の反射像56として表示される。同様に、第2受信アンテナ32Bの受信した鉄筋18からの反射波によるBモードの像は、(2)に示すように、三日月状の反射像58として表示される。
【0024】
表示部22は、実施形態の場合、第1送受信ユニット26により得られた反射像56と、第2送受信ユニット30により得られた反射像58とを上下に並べて表示するようになっている。第1送受信ユニット26の第1受信アンテナ28Bの受信データによる反射像56と、第2送受信ユニット30の第2受信アンテナ32Bの受信データによる反射像58とは、それぞれに対応して送信アンテナ28A、32Aが設けられて一体に移動させられるため、各送信アンテナ28A、32Aの送信波の同一鉄筋18からの反射像56、58が同じ走行(走査)距離Lxの位置に表示される。
【0025】
鉄筋の抽出方法は、第1送受信ユニットおよび第2送受信ユニットについていずれも深さ測定装置の移動方向Xの各位置において表面から所定深度(例えば20cm)までの反射データのピークをサーチしてその深さdjを求める。
【0026】
第2送受信ユニットの鉄筋反射時間が第1送受信ユニットに対してt1b−t1aだけ深いところにあるかどうかを調べて合致していれば鉄筋18の反射とする。それ以外の反射波は無効データとして移動方向X上の次の測定位置に移動する。
【0027】
この鉄筋反射の第1送受信ユニット及び第2送受信ユニットの深さの合計値の最小点(l2a+l2b)になるところを真の鉄筋位置Xn、および深度ynとする。
ここでコンクリート構造体12の伝播速度をvとし、鉄筋が図2(1)〜(3)の場所の第1送受信ユニットの反射時間は次のように表すことができる。
【数1】

このときt1a〜t3aはそれぞれ、図2(1)〜(3)の場所における第1送受信ユニットの反射時間を示し、l1a〜l3aはそれぞれ図2(1)〜(3)の場所における第1送受信ユニットの伝播距離を示す。上記反射時間t1a〜t3aは、図4(1)に示すように矢印aのt1a/2から矢印bのt2a/2に向かって反射時間が短くなり、鉄筋18直上を通過後(矢印b)、矢印bから矢印cのt3a/2に向かって反射時間が長くなる。
【0028】
また第2送受信ユニットの反射時間は次のように表すことができる。
【数2】

ここでt1b〜t3bはそれぞれ、図2(1)〜(3)の場所における第1送受信ユニットの反射時間を示し、l1b〜l3bはそれぞれ図2(1)〜(3)の場所における第1送受信ユニットの伝播距離を示す。上記反射時間t1b〜t3bは、図4(2)に示すように矢印a1のt1b/2から矢印b1のt2b/2に向かって反射時間が短くなり、鉄筋18直上を通過後(矢印b1)、矢印b1から矢印c1のt3b/2に向かって反射時間が長くなる。なお、第2送受信ユニットは第1送受信ユニットよりも伝播距離が長いため(例えばl1b−l1a)、反射時間が長くなる(例えば矢印b1>矢印b)。
【0029】
これらの反射像56、58において、鉄筋18の頂部からの反射波が最も浅く表示される。すなわち三日月パターンの頂点位置P(P1、P2)のデータが得られたときが、送信アンテナ、受信アンテナの中間点が鉄筋18の真上となることから、鉄筋18の水平位置が特定できる。これは距離センサ36により走査起点から移動距離(走査距離)をカウントしておくことにより、走査起点からの距離Lxとして算出すればよい。鉄筋18からの反射波の波形データ(Aモード)68は、図5に示したようになる。したがって、演算部52は、鉄筋18の頂部Pからの反射波がアンテナの回り込み波を除けば最大となるので、信号処理部50から入力する反射強度(エコー強度)の受信データを比較することにより、鉄筋頂部Pからの反射時間(送信アンテナが送信波を送信してから受信アンテナが反射を受信するまでの時間)を容易に自動計算することができる。この結果、図6に示したような判定結果の図が得られる。
【0030】
演算部52は、上記のようにして第1送受信ユニット26による鉄筋頂部の反射時間2ta(以下図2(2)のt2a/2に相当)と、第2送受信ユニット30による鉄筋頂部の反射時間2tb(以下図2(2)のt2b/2に相当)を求めると、次のようにして鉄筋18の頂部Pの深さ(鉄筋かぶり深さ)dが求まる。
【0031】
鉄筋かぶり深さdの計算は以下のように行う(S400)。
第1送受信ユニット26の第1送信アンテナ28Aと第1受信アンテナ28Bとの中心間距離を2xa、第2送受信ユニット30の第2送信アンテナ32Aと第2受信アンテナ32Bとの中心間距離を2xbとする(図2参照)。また、第1送受信ユニット26の中心が鉄筋18の真上にある場合、第1送信アンテナ28Aの中心と鉄筋18の頂部Pとの距離をSa(以下図2(2)のl2a/2に相当)とし、第2送受信ユニット30の中心が鉄筋18の真上にある場合、第2送信アンテナ32Aの中心と鉄筋18の頂部Pとの距離をSb(以下図2(2)のl2b/2に相当)とする。
【0032】
このとき、送信アンテナが送信した送信波が鉄筋頂部で反射されて受信アンテナで受信されるまでの時間(反射時間)2taとxa、Saとの間、および反射時間2tbとxb、Sbとの間には、コンクリート構造物12中の電波(送信波)の伝播速度をv、鉄筋18の頂部Pの深さをdとした場合、次の数式3、数式4の関係がある。
【数3】

【数4】

【0033】
電波の伝播速度vは、媒質(コンクリート構造物12)の比誘電率に依存する。しかし、コンクリート構造物12の比誘電率は、コンクリート構造物12を構成している骨材の種類や量、含水量などによって異なるため、一般に知ることができない。そこで、上記の数式3、数式4を連立方程式として解くことにより、深さ(鉄筋かぶり深さ)dを求める。この実施形態においては、図7に示した手順によって深さdの近似値を求めるようにしている。
【0034】
まず、数式3において、d=d=0と仮定し、電波のコンクリート構造物12中における仮の伝播速度v´を求める(ステップ100)。すなわち、
【数5】

【数6】

を演算する。
【0035】
次に、数式6として求めた仮の伝播速度v´を数式4に代入して深さd(=dn)を演算する(ステップ102)。
【数7】

【数8】

【数9】

【0036】
次に、数式10に示す収束条件を満足しているか否かを判断する(ステップ104)。この場合、dn−1=d=0であり、dnは数式9によって求めた値である。また、δは、深さdをどの程度の精度まで求めるかによって異なり、例えば深さdをmmの精度まで求めたい場合、δ=0.1mmとする。
【数10】

【0037】
演算部52は、ステップ104において収束条件を満足していない場合、数式3に数式9によって求めたdnを代入し、再び伝播速度v´を演算する(ステップ106)。
【数11】

【0038】
さらに、ステップ106からステップ102に戻り、数式11によって求めた伝播速度v´を数式4に代入してdnを算出し、ステップ104の収束条件を満足しているか否かを判断する。収束条件が満足されていない場合、ステップ102からステップ106までの処理が収束条件を満足するまで繰り返される。演算部52は、上記のようにして収束条件が満足されると、鉄筋18のかぶり深さd、コンクリート構造物12中の電波の伝播速度vをメモリ54に書き込むとともに、表示部22に出力する(ステップ108)。
【0039】
なお、演算部52は、上記のようにして求めた電磁波の速度vを用いて、必要に応じてコンクリートの比誘電率εを求めて出力する。すなわち、媒質中の電磁波の伝播速度vは、
【数12】

のように求めることができる。ただし、cは真空中における光の速度、εはコンクリートの比誘電率、μはコンクリートの比透磁率である。したがって、コンクリート構造物12の比誘電率εは、コンクリートの比透磁率μがほぼ1であるので、
【数13】

のように求めることができる。
【0040】
次に上記得られた計算値に対して空隙dcにより生じる屈折率の補正を行う(S500)。
図8は空隙dcの補正の説明図である。同図は第1送受信ユニット26及び第2送受信ユニット30の中心が鉄筋18の真上にある場合の図である。図示のように第1送受信ユニット26の見かけ上の送信波及び反射波は経路jであり、第2送受信ユニット30の見かけ上の送信波及び反射波は経路kである。そしてアンテナとコンクリート構造物の間に空隙dcを有する第1送受信ユニット26の実際の送信波及び反射波を経路lで示し、第2送受信ユニット30の実際の送信波及び反射波を経路mで示している。
【0041】
本発明では、数式14に示すスネルの法則に基づいて空隙dcを介した実際の経路l,mを求めている。
【数14】

ここでθ1は鉄筋18から受信アンテナに向かう反射波の屈折角を示し、θ2はこのときの入射角を示す。またn1は空気の屈折率(1.0)を示し、n2はコンクリート構造体などの媒質中の屈折率(〜1.3程度)を示している。
【0042】
まず入力パラメータとして
第1送受信ユニット26の収束後の時間:ta
第2送受信ユニット30の収束後の時間:tb
第1送受信ユニット26の収束後の距離:la
第2送受信ユニット30の収束後の距離:lb
空隙の距離:dc
屈折率:n
第1送受信ユニット26のアンテナ距離:2xa
第2送受信ユニット30のアンテナ距離:2xb
第1送受信ユニット26からの鉄筋の深さ:da
第2送受信ユニット30からの鉄筋の深さ:db
とする。
【0043】
上記パラメータに基づいて、da−db=0となるように伝播速度vを変化させて収束させる(数式15〜数式18)。
第1送受信ユニットおよび第2送受信ユニットの収束後の各距離la,lbは、収束後の各時間ta,tbおよび伝播速度vにより数式15,16のように表すことができる。
【数15】

【数16】

そして鉄筋深さda,dbは得られた距離la,lbにより数式17,18のように表すことができる。
【数17】

【数18】

【0044】
次に第1送受信ユニット26の送信波及び反射波の経路について数式19となるようにθ1を変化させて収束計算する。数式19は、空隙dcとコンクリート構造物12の境界面と経路lの反射波との交点hに基づいて、距離xaを求める式である。このとき屈折角θ1の初期値は鉄筋の中心を通る垂線と見かけ上の経路jとの間の角度となるθa0とし、屈折角θ1を0.1度ずつ増やしながら、数式14のスネル法則を用いて経路jから経路lを求める。
【数19】

ここでxnaはtanθ1×dcにより求めることができる。
【0045】
次に上記第1送受信ユニット26の送信波及び反射波の経路と同様に、第2送受信ユニット30の送信波及び反射波の経路についても数式20となるようにθ1を変化させて収束計算する。数式20は、空隙dcとコンクリート構造物12の境界面と経路mの反射波との交点iに基づいて距離xbを求める式である。このとき屈折角θ1の初期値は鉄筋の中心を通る垂線と見かけ上の経路kとの間の角度となるθb0とし、屈折角θ1を0.1度ずつ増やしながら経路kから、数式14のスネル法則を用いて経路kから経路mを求める。
【数20】

【0046】
ここでxnbはtanθ1×dcより求めることができる。
次に第1送受信ユニット26の送信波及び反射波の経路と、第2送受信ユニット30の送信波及び反射波の経路について空気中反射時間について数式21,22に基づいて補正計算を行う。
【数21】

【数22】

ここでta1,tb1は補正後の第1送受信ユニット26の収束時間、第2送受信ユニットの収束時間を示し、C(≒2.998×10m/sec)は真空中の伝播速度を示す。
【0047】
以降、補正後のta1,tb1を用いて上記数式15から数式22の演算処理を繰り返す。そして複数回、例えば5回無条件に計算した後のdaを真のかぶり深さとし計算を終了する。
【0048】
次に補正後のかぶり深さを表示する(S600)。表示は、例えば横軸に距離をとり、縦軸に深さをとり、コンクリート中の鉄筋のBモード(垂直断面像)と、計算で求めた被り深さdを合わせて表示させている。
【0049】
なお、実施形態において、図2に示すように深さ測定装置10は、コンクリート構造体12の表面を鉄筋18の軸線と直交させて送受信部14を左から右に向かって走査させる構成について説明したが走査方向はこれに限らない。すなわち図9に示すように深さ測定装置は、コンクリート構造体の表面を鉄筋18の軸線と平行となるように送受信部14を左から右に向かって走査させるようにしても同様に埋設深さを求めることができる。
【0050】
また、前記実施形態においては、送信波として電磁波を用いた場合について説明したが、超音波を送信波に使用してもよい。また、前記実施形態においては、鉄筋18の深さを測定する場合について説明したが、配管などの他の埋設物の深さを測定する場合にも適用することができる。そして、送信アンテナと受信アンテナとの距離を変えられるようにすることにより、送信アンテナから受信アンテナに直接回り込む電波やコンクリート構造物12の表面で反射した電波の影響を小さくすることができ、種々の深さの埋設物を測定することができる。
【0051】
このように、実施形態の深さ測定装置10によれば、2組の送受信ユニット26、30を一体に移動させて走査することにより、得られた見かけ上の伝播時間を、空隙dcにより生じる屈折率を補正して伝播時間を補正しているので、鉄筋の埋設深さの計算による誤差を低減し、正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態に係る測定方法の全体フローを示す。
【図2】埋設深さ測定の計測の説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る埋設物深さ測定装置の説明図である。
【図4】実施形態に係る第1送受信ユニット及び第2送受信ユニットによる反射像を説明する図である。
【図5】実施形態の鉄筋の頂部からの反射時間を求める方法の説明図である。
【図6】実施形態に係る埋設物深さ測定装置による判定結果の図である。
【図7】実施形態の鉄筋頂部の深さを求める方法を説明するフローチャートである。
【図8】空隙補正の説明図である。
【図9】走査方向の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10………深さ測定装置、12………コンクリート構造物、14………送受信部、16………レーダ回路部、18………埋設物(鉄筋)、20………演算制御部、22………表示部、26………第1送受信ユニット、28A………第1送信部(第1送信アンテナ)、28B………第1受信部(第1受信アンテナ)、30………第2送受信ユニット、32A………第2送信部(第2送信アンテナ)、32B………第2受信部(第2受信アンテナ)、34………ユニット支持部、36………距離センサ、42………切替え部、50………信号処理部、52………演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査媒体中に埋設された埋設物の埋設深さ測定方法であって、
第1送信部と第1受信部を平面上に近接配置した第1送受信ユニットの第1送受信データと、前記第1送受信ユニットと同一平面上であって第2送信部と第2受信部の中心に前記第1送受信ユニットの中心を配置した第2送受信ユニットの第2送受信データとから得られる最も短い反射時間の伝播速度を演算処理して、見かけ上の反射時間に基づく埋設物の埋設深さを求め、
前記埋設物の埋設深さに対して送受信ユニットと検査媒体との間の空隙により生じる屈折率の補正を行い、実際の反射時間を求めて前記埋設物の埋設深さを補正演算することを特徴とする埋設深さ測定方法。
【請求項2】
送信波を送信する第1送信部と反射波を受信する第1受信部を平面上に近接配置した第1送受信ユニットと、
前記第1送受信ユニットと同一平面上であって第2送信部と第2受信部の中心に前記第1送受信ユニットの中心を配置した第2送受信ユニットと、
前記第1送受信ユニットと前記第2送受信ユニットを一体として検査媒体を直線上に移動するユニット支持部と、
前記ユニット支持部の移動による各受信部の複数の出力信号に基づいて、各送信部の送信した送信波に対応する受信部の受信した反射波を求める信号処理部と、
前記信号処理部による前記反射波のうち最も短い反射時間の伝播速度を演算処理して得られた埋設物の埋設深さに対して、送受信ユニットと検査媒体との間の空隙により生じる屈折率の補正を行い、実際の反射時間を求めて前記埋設物の埋設深さを補正する演算部と、
を有することを特徴とする埋設深さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−298633(P2008−298633A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146046(P2007−146046)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(501497264)西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社 (17)
【Fターム(参考)】