説明

埋設管の損傷監視システムおよび埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ制御方法

【課題】高圧送電線近傍などにおいていわゆる交流誘導現象が生じた場合であっても、誘導された交流電圧が有する交流信号(つまりノイズ)のみを効果的に除去可能であり、損傷監視用の交流信号から得られる抵抗値を低減することがない埋設管の損傷監視システム、および埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ抑制方法を提供すること。
【解決手段】埋設管に監視用交流信号を印加するための送信部と、前記監視用交流信号を受信するための受信部と、前記送信部および受信部とは別の位置に設けられており、所定周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタを有する交流誘導電圧低減器と、を有する埋設管の損傷監視システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は埋設管の損傷監視システム、および当該システムにおけるノイズ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設される埋設管は、掘削工事における掘削機械により塗覆装が損傷を受ける場合があり、塗覆装が損傷を受けると埋設管の鋼面が土壌と接触し埋設管の腐食が進行してしまう。このため埋設管塗覆装の損傷をいち早く検出する必要があり、埋設管塗覆装の損傷を監視するための各種方法が検討されている。
【0003】
このような埋設管塗覆装の損傷発生を監視する方法としては、埋設管に接続された送信部から監視用交流信号を常時印加し、これを埋設管上に設けられた受信部において常時受信して、その抵抗値を観察して当該抵抗値が基準値より低下した場合には警報を出すなどの方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方で、埋設管塗覆装に既存の損傷があり、土壌と埋設管鋼面が接触している場合、埋設管から土壌には腐食電流が流出し、埋設管が腐食する危険性がある。
【0005】
ここで、腐食電流の流出による埋設管の腐食を防止する方法としては、外部電源装置から地中に埋設した電極に、埋設管に流出する腐食電流に対応する電気防食直流信号を印加することで電気化学的に埋設管の腐食を防止する方法が挙げられる。
【0006】
このように、現状においては埋設管の損傷監視と埋設管の腐食防止を行うために、埋設管に上記損傷監視用の交流信号と電気防食用の直流信号をそれぞれ別々に印加している。
【0007】
なお、埋設管の損傷監視システムにおいては、種々のノイズが問題となることが多く、これを抑制するための方法も開発されている。例えば、特許文献1には、埋設管に接続している排流器と並列に通過フィルタを接続することでノイズを低減する技術について開示がされている。
【特許文献1】特開平7−55751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、埋設管が高圧送電線の下などに位置する場合、埋設管に交流電圧が誘導されてしまい(いわゆる交流誘導現象)、誘導された交流電圧が有する交流信号が損傷監視用の受信器のノイズとなってしまう場合がある。
【0009】
特許文献1に開示されている方法では、排流器は回路抵抗を大きくすることはできないことから完全なフィルタができず、いわゆる交流誘導現象に起因するノイズを除去するには不十分である。
【0010】
また、ノイズの問題だけでなく、いわゆる交流誘導現象が生じた場合、電気防食下にあっても埋設管の腐食の原因となってしまうおそれがある。
【0011】
ここで、いわゆる交流誘導を防止する方法として、単純に埋設管に交流誘導電圧低減器を設置することも考えられる。しかしながら、単純に交流誘導電圧低減器を設置するのみだと、前述した損傷監視用の信号が交流信号であるため、高圧送電線から誘導された交流電圧が有する交流信号(50〜60Hz)のみならず、損傷監視用の交流信号(通常は100Hz〜1kHz)までも当該交流誘導電圧低減器によって低減されてしまい、その結果、受信部で受信する信号値が小さくなってしまい(電圧が低減されることにより、検出される抵抗値も小さくなくなってしまう。)、埋設管の損傷の検知が困難となってしまう。
【0012】
図2は、(a)埋設管に交流誘導電圧低減器を設置した場合と、(b)設置していない場合における、損傷監視用の受信器で受信した交流信号から算出される抵抗値の値を示す図である(損傷監視用の交流信号の周波数は200Hzである。)。
【0013】
図2の(a)と(b)を比べると分かるように、単純に埋設管に交流誘導電圧低減器を設置するのみでは、損傷監視用の交流信号が低減されてしまい、埋設管に損傷が生じている場合と生じていない場合との抵抗値の差が小さくなってしまい、損傷の検知が困難となってしまうことが分かる。
【0014】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、高圧送電線近傍などにおいていわゆる交流誘導現象が生じた場合であっても、誘導された交流電圧が有する交流信号(つまりノイズ)のみを効果的に除去可能であり、損傷監視用の交流信号から得られる抵抗値を低減することがない埋設管の損傷監視システム、および埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ抑制方法を提供することを主たる課題とする。
【0015】
なおここで、監視用交流信号は、交流誘導現象により誘導された交流電圧が有する交流信号に比べ周波数が高く、信号の大きさも小さいため交流腐食への影響は小さい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための本願発明の埋設管の損傷監視システムは、埋設管に監視用交流信号を印加するための送信部と、前記監視用交流信号を受信するための受信部と、前記送信部および受信部とは別の位置に設けられており、所定周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタを有する交流電圧低減器と、を有することを特徴とする。
【0017】
前記システムにおいては、前記交流信号遮断フィルタが、所定周波数の監視用交流信号を遮断可能なフィルタであることが好ましい。
【0018】
また、前記課題を解決するための本願発明の埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ抑制方法は、送信部において埋設管に印加した監視用交流信号を受信部において受信して、当該受信した信号により埋設管の損傷を監視するシステムにおいて、前記埋設管に、所定周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタを有する交流電圧低減器が設けることを特徴とする。
【0019】
前記方法にあっては、前記交流信号遮断フィルタが、所定周波数の監視用交流信号を遮断可能なフィルタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の埋設管の損傷監視システム、および当該システムにおけるノイズ制御方法によれば、交流誘導電圧低減器のみを単純に埋設管に設置するのではなく、所定周波数の交流信号を選択・遮断することができる交流信号遮断フィルタを有する特別な交流誘導電圧低減装置を埋設管に設置しているので、いわゆる交流誘導現象により、誘導された交流電圧が有する交流信号(例えば50〜60Hz)が埋設管に印加された場合であっても、このような損傷監視システムにおいてノイズとなる交流信号のみを通過させることにより、当該ノイズとなる交流信号を埋設管の外に逃がし、一方で、損傷監視用の交流信号を遮断(ブロック)することにより、当該損傷監視用の交流信号の強度はそのままとすることができる。従って、損傷監視の精度・感度を向上することができる。
【0021】
また、本発明のシステム、および当該システムにおけるノイズ制御方法によれば、交流誘導現象によって埋設管に誘導された交流電圧が有する50〜60Hzの交流信号を効率よく通過させ、埋設管の外に逃がすことができるので、当該交流信号が埋設管に印加されることにより生じる交流腐食を防止でき、したがって埋設管の電気防食の効果をより向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本願発明の埋設管の損傷監視システム、および当該システムにおけるノイズ制御方法について、図面を用いて具体的に説明する。
【0023】
図1は、本願発明の埋設管の損傷監視システムの概念図である。
【0024】
図示するように、本願発明のシステムは、埋設管Pに監視用交流信号を印加するための送信部11と、当該送信部11から印加される監視用交流信号を受信するための受信部12とが一体となった損傷監視ユニット10を有している。
【0025】
送信部11は、通電電極13と、埋設管Pに接続され、当該埋設管Pに監視用交流信号を印加するための発信電極14とを備えている。一方で、受信部12は、埋設管Pに接続され、送信部11の発信電極14から発信された監視用交流信号を受信するための受信電極15と、照合電極16とを備えている。
【0026】
ここで、監視用交流信号の周波数については特に限定されることはないが、100Hz〜1kHz程度が一般的である。
【0027】
加えて、本願発明のシステムは、前記送信部11および受信部12とは別の位置に、所定の周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタ21を有する交流誘導電圧低減器20が設けられている。当該交流誘導電圧低減器20は、これを構成する交流信号遮断フィルタ21を介して埋設管Pと接続されているとともに、交流信号を埋設管Pの外(地面)へ逃がすための低接地体22と接続されている。
【0028】
ここで、前記交流信号遮断フィルタ21にあっては、所定の周波数の交流信号のみを遮断し、それ以外の交流信号は通過させる性能を有するフィルタであれば特に限定されることはなく、いわゆるバンドエリミネーション(帯域阻止)フィルタ等を用いることができる。当該交流信号遮断フィルタによって遮断する周波数としては、本願発明のシステムにおいて使用されている監視用交流信号の周波数とすればよく、特に限定することはない。例えば、監視用交流信号として周波数200Hzの交流信号が使用されている場合、当該200Hzの交流信号を遮断し、一方でいわゆる交流誘導現象によって埋設管Pに誘導された交流電圧が有する交流信号(50〜60Hz)は通過させる性能を有するバンドエリミネーション(帯域阻止)フィルタを用いることが好ましい。
【0029】
図3は、交流信号遮断フィルタが設けられた交流誘導電圧低減器を接地した場合における、損傷監視用の受信器で受信した交流信号から算出される抵抗値の値を示す図である(損傷監視用の交流信号の周波数は200Hzである。)
図3と前述した図2(a)を比較すれば明らかなように、単純に交流誘導電圧低減器を接地した場合と比べ、本発明によれば、損傷監視用の信号が低減されることがなく、従って損傷監視の精度を向上することができる。
【0030】
また、埋設管Pには、図示するように埋設管Pの腐食を防止するための電気防食用直流信号を埋設管Pに印加するための外部電源30が設けられていてもよい。
【0031】
外部電源30の+側端子は直流信号用通電電極31に接続されており、−側端子は埋設管Pに接続されており、また、直流信号用照合電極32が埋設管Pの近傍に埋設されている。
【0032】
当該外部電源30により、埋設管Pの電位は常に−(マイナス)となるため、埋設管Pが腐食することを防止することが可能となる。
【0033】
このような、本願発明のシステムによれば、埋設管Pが高圧送電線の下などに位置し、いわゆる交流誘導現象によって当該埋設管Pに誘導された交流電圧が有する50〜60Hzの交流信号が印加されてしまった場合であっても、当該50〜60Hzの交流信号は、埋設管Pに接続されている交流信号遮断フィルタ21を通過し、交流誘導電圧低減器20を介して埋設管Pの外へ逃がされて除去されるのに対し、埋設管の損傷監視のための交流信号は、交流信号遮断フィルタ21によってブロックされるため、埋設管Pの外に逃がされることはなく、従って、受信器12における信号強度は高いままを維持することができる。その結果、損傷監視システムにおけるノイズ制御を行うことができるとともに、交流誘導現象によって印加される交流電圧の有する交流信号に起因する埋設管の腐食も効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】埋設管損傷監視システムの概念図である。
【図2】(a)埋設管に交流電圧低減器を設置した場合と、(b)設置していない場合における、損傷監視用の受信器で受信した交流信号から算出される抵抗値の値を示す図である。
【図3】交流信号遮断フィルタが設けられた交流誘導電圧低減器を接地した場合における、損傷監視用の受信器で受信した交流信号から算出される抵抗値の値を示す図である
【符号の説明】
【0035】
10 … 損傷監視ユニット
11 … 送信部
12 … 受信部
13 … 通電電極
14 … 発信電極
15 … 受信電極
16 … 照合電極
20 … 交流誘導電圧低減器
21 … 交流信号遮断フィルタ
22 … 低接地体
30 … 外部電源
31 … 直流信号用通電電極
32 … 直流信号用照合電極
P … 埋設管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設管に監視用交流信号を印加するための送信部と、
前記監視用交流信号を受信するための受信部と、
前記送信部および受信部とは別の位置に設けられており、所定周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタを有する交流誘導電圧低減器と、
を有することを特徴とする埋設管の損傷監視システム。
【請求項2】
前記交流信号遮断フィルタが、所定周波数の監視用交流信号を遮断可能なフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の埋設管の損傷監視システム。
【請求項3】
送信部において埋設管に印加した監視用交流信号を受信部において受信して、当該受信した信号により埋設管の損傷を監視するシステムにおいて、
前記埋設管に、所定周波数の交流信号を遮断可能な交流信号遮断フィルタを有する交流誘導電圧低減器が設けることを特徴とする、埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ抑制方法。
【請求項4】
前記交流信号遮断フィルタが、所定周波数の監視用交流信号を遮断可能なフィルタであることを特徴とする請求項3に記載の埋設管の損傷監視システムにおけるノイズ抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236806(P2009−236806A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85339(P2008−85339)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】