培養容器中の溶存酸素を増大する方法
以前に見出した効率的なバイオリアクタシステムの研究に基づいた培地中の溶存酸素を増大する方法を開示する。この方法は、最適な混合の追加とともに、効率的なバイオリアクタ設計およびプロトタイプ構築のための理論的基礎を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2006年6月8日に出願した「懸濁培養容器」と題する特許出願PCT/US06/22312に継続するものである。
発明の技術分野
本発明は、効率的なバイオリアクタを作製する方法について記載する。
【背景技術】
【0002】
「懸濁培養容器」と題する特許出願PCT/US06/22312に記載されている以前の発見において、我々は、哺乳類細胞の懸濁培養に適した軌道振盪台(orbital shaker platform)上の逆円錐台形の底部を有した広胴型培養容器について記載した。驚くべきことに、このシステムは、古典的なバイオリアクタや平底振盪瓶に比べて著しく優れたものであった。我々は、このシステムによってより少ない流体力学的応力(hydro-mechanical stress)で容易に培地が容器の壁を伝って上ることについて記載した。このシステムは、より広い表面、より強い曝気、およびより良好な混合に適した広くて薄い培地層を生み出した。
【0003】
興味深いことに、我々は、振盪器を元にしたこの逆円錐台形底部容器システムの作用の正確なメカニズムを知らなかった。本発明において、我々はその作用のメカニズムを見出した。その作用のメカニズム、すなわち、培地中の溶存酸素レベルを増大する方法に基づいて、我々は、いくつかの種類の哺乳類細胞培養バイオリアクタを設計してテストした。
発明の開示
本発明は、以前に記載した逆円錐台形または逆錐台形の底部を有した懸濁培養容器(特許出願PCT/US06/22312)の作用のメカニズムについて記載する。本発明は、効率的な哺乳類細胞培養バイオリアクタの設計および作成の基礎となる培地中の溶存酸素(DO)を増大する方法を開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明は、少なくとも部分的に、高度なコントロールタワーならびに関連するDOプローブおよびpHプローブを用いることなく、懸濁に適合した哺乳類細胞が、一定の動作長さを有する振盪台上に設けられた逆円錐台形または逆錐台形の底部を有する培養容器中において、古典的なアプリコン(Applikon)バイオリアクタならびに平底振盪瓶よりも著しく良好に増殖するという以前の発見に基づいている(図1)。
【0005】
その作用のメカニズムを調べるために、DOセンサ、pHセンサおよびそれらの検出システム(www.flurometrix.com)(図2a、図2b)を使用した。また、円錐台形の底部を有した容器における振盪動作中の詳細な培地の動きを捕らえて調べるために、デジタルカメラ(ニコン)も使用した。
【0006】
まず最初に、逆円錐形の底部を有したワーキングボリューム150mLの容器中の培地のDOを測定した(図3)。DOレベルは容易に100%に達することがわかった(表1)。次に、空気ポンプを用いて、静置状態で同じ容器中の培地をバブリングした(図4)。驚くべきことに、然るべき時間で100%に達することができなかった(表2)。我々は、3リットルのアプリコンバイオリアクタ内でDOプローブを較正するために空気バブリング法を常套的に使用しており、DOが100%に達すると考えていただけに、この現象には非常に驚いた。この現象の背後には何らかの作用のメカニズムがあるに違いない。
【0007】
【表1】
【0008】
【表2】
その答えを求めて、我々は、高速カメラを用いて、逆円錐台形の底部を有した培養容器中の培地の振盪中の瞬間的な動きを捕らえた(図5a、図5b、図5c、図5d)(図3)。すべての写真は、瞬間的に培地の大半が培養容器の片側にあり、反対側の大部分が空気との接触に晒されることを明確に示していた。逆円錐形の底部のために、振盪動作によって培地は容易に片側の容器壁を伝って上に移動する。これにより、空気に晒された容器壁を繰り返し“掃き流す(sweeping)”、すなわち洗い流す(washing)培地の流れからなる循環運動が生み出される。我々は、この循環運動およびその反復性の“掃き流し”が培地中のDOを増大しているとの仮説を立てた。
【0009】
溶存酸素(DO)は、水または培地中に混合されて水分子の間で発生する微細な酸素泡中に見られる。上記の我々のケースでは、空気に晒されている瞬間に平滑なガラス表面またはプラスチック表面に小さな酸素泡が吸収されて酸素泡からなる微小層を形成した可能性がある。次に、我々は、平滑面上に瞬間的に形成された気泡層が水中のDOの微細泡のサイズと同等の非常に小さいものであるとの仮説を立てた。この微細泡層がその後、循環する培地の流れによって“掃き流される”、すなわち洗い流されることにより、容易に酸素が水中に溶解される。この循環運動は、円錐台形の底部および振盪動作のために、何度も繰り返して起こり、スパージング(sparging)のような培地中への直接的な空気バブリングに比べて効率的にDOレベルを増大する。
【0010】
この仮説を確かめるために、我々は、4mLの培地を入れた12mLのプラスチックチューブ(NUNC)と、60rpmの速度のローラードラムを使用した(図6a、図6b)。回転を始めてから10分を少し過ぎた後に、チューブ内のすべての培地試料が100%DOに達した。この実験から、空気に晒された平滑面を一定の速度または力で培地、すなわち培地の流れが繰り返し掃き流す、すなわち接触することによって、驚くほど効率的に培地のDOが増大することが示された。
【0011】
次に、我々は60rpmおよび100rpmの速度のローラードラム上のチューブ内で4日間、CHOK懸濁細胞を培養した。予想されるように、すべての場合において、DOはこれらの4日間の培養中に100%に達した。しかしながら、細胞は全く増殖していなかった。したがって、我々は、最適な懸濁細胞培養のためには、十分な培地のDOに加えて、効率的な混合の必要があると結論づけた。次に、調整が可能な振盪台上に設けられた逆円錐台形の底部を有した50mL遠心管(NUNC)中で、細胞を4日間培養した(図7)。すべての細胞が増殖し、容易に2.2%充填細胞容量(packed cell volume(pcv))に達した。この結果は、最適な懸濁細胞培養のためには、十分なDOに加えて、混合動作が必要であることを示した。
【0012】
上記の発見に基づいて、我々は、プロトタイプ構築のためにいくつかの種類のバイオリアクタを設計した。各種類について、我々は、空気に晒された平滑面を掃き流す、すなわち力でもってこれに接触させるべく培地の流れを繰り返し用いることにより培地中のDOを増大する方法を、十分な培地の混合動作と合わせて考慮した(図8a、図8b、図8c)。詳細を実施例1〜4においてさらに記載する。
【0013】
我々はまた、無血清懸濁培地中でTNFR2−Fc−IL−lraを発現するCHOK懸濁細胞株を用いて、回分(batch)培養プロセスの詳細を調べた。逆円錐台形の底部を有した培養容器が最適DOレベル、細胞密度、および産物収量に理想的であることが明確に示された(表3)。詳細をこれもまた実施例1において記載する。
実施例1
逆円錐台形の底部を有したワーキングボリューム150mLの容器を調べる回分培養
ワーキングボリューム150mLの小スケール振盪容器を使用して、TNFR2−Fc−IL−lra薬物候補を発現するCHO生産細胞株の回分培養を無血清培地B001中で8日間行った。フルロメトリクス(Flurometrix)DOパッチセンサ検出システムを用いて、DOを毎日測定した(図2a、図2b)。フルロメトリクス検出システムの使用に加えて、携帯式pHメータによるpHの検出も行った(図2b)。グルコースは、ワンタッチ式グルコースメータにより測定した(図2b)。表3は、逆円錐台形の底部を有した培養容器が最適DOレベル、細胞密度、および産物収量に理想的であることを明確に示した。
【0014】
【表3】
実施例2
逆円錐台形の底部を有したバイオリアクタ容器ベース上での使い捨てプラスチック細胞培養バッグの作成。
【0015】
逆円錐台形の底部を有したバイオリアクタ容器ベースと軟質のプラスチックバッグ(図9a、図9b)を設計及び構築した。これらのベースおよびバッグは、動作長さを調整可能な振盪台において使用するように設計した。設計した円錐台形の底部は、培地中のDOレベルを増大し、高細胞密度培養条件における高濃度O2の使用という課題を解決するべく、調整が可能な振盪台とともに、できるだけ高くかつできるだけ容易に(最小限の振盪エネルギーを用いて)培地を上昇させることを意図したものであった。3,10,20,40,100,500および1000リットルサイズの容器ベースおよびプラスチックバッグをプロトタイプ構築および試験のために設計した。我々の目的は、研究開発および工業用途に適した費用効率が高く、剪断力のない、使い捨ての哺乳類培養バイオリアクタを構築することである。
実施例3
高スループットタンパク質発現力価スクリーニング後の生産クローンのロバスト性スクリーニングに適した逆円錐台形の底部を有する振盪器を元にした多数ウェルプレートの設計
生産細胞株のロバスト性は、スケールアッププロセスの安定性および所与のタンパク質薬物の最終的な発現収率にとって重要である。何千もの細胞クローンからスクリーニングした高発現細胞株のうちいくつかは、工業的な生産細胞の基準を満たすロバスト細胞株である。選択されたロバスト細胞株は、より長い間、高密度で増殖することができ、元のスクリーニングした細胞クローン発現力価に比べて、10倍以上の高い発現力価を与える。
【0016】
細胞株のロバスト性スクリーニングおよびプロセス最適化(図10a)のための現行のミニバイオリアクタ装置(www.flurometrix.com)は、高い細胞密度での細胞増殖に最適化されておらず、高密度細胞群を維持する最適なDOレベルを有していない。したがって、ロバスト細胞クローンのスクリーニングを行えない。十分な培地DOが無い状態では、高細胞密度でのフェドバッチ(fed-batch)プロセスを最適化する手だてはない。
【0017】
振盪台上の設計された多数ウェルプレート(図10b)は、振盪動作および培養ウェルの円錐台形の底部による培地中の十分なDOを提供して高細胞密度増殖を支援し、所与の細胞株の最高密度での最大の増殖能をスクリーニングすることができるとともに、非ロバスト細胞クローンと区別することができる。このシステムは、扱いやすいことに加えて、費用効果が非常に高い。
実施例4
効率的な混合動作と組み合わせた培地中のDOを増大する方法に基づく効率的なバイオリアクタの設計
上で実施したローラードラム実験に基づいて(図6a、図6b)、我々は、哺乳類細胞培地中のDOを増大する方法を発見した。そして我々は、回転式バイオリアクタを設計した(図8a、図8b、図8c)。図8aは、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることによる球形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。基準面での前後運動によって回転運動中に培地はよく混合される(図8a)。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【0018】
図8bは、球形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることにより、培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。基準面での軌道振盪台によって回転運動中に培地はよく混合される。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【0019】
図8cは、円錐形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることにより、培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。内向きに突出した軌道レール(orbital rail)によって培地は、上端まで上昇させられるとともに、回転しながら下端まで降下させられる。この追加的な動きは、回転運動中の培地の混合に役立つ。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】哺乳類細胞懸濁培養用の逆円錐台形の底部を有した広胴容器。
【図2a】フルロメトリクスDO/pHパッチセンサ検出技術の説明図。
【図2b】フルオロメトリクス(Fluorometrix)DO/pHパッチセンサ検出システム。
【図3】振盪台上の逆円錐台形の底部を有したワーキングボリューム150mLの培養容器。
【図4】DOレベルを増大するべく静置下で培地をバブリングするための空気ポンプの使用。
【図5a】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5b】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5c】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5d】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図6a】傾斜したプラスチックチューブを回転動作させることにより、空気に晒される平滑な容器壁面をチューブ内の培地で繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流す。この動きによって培地中のDOは迅速に100%にまで増大する。
【図6b】傾斜したプラスチックチューブを回転動作させることにより、空気に晒される平滑な容器壁面をチューブ内の培地で繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流す。この動きによって培地中のDOは迅速に100%にまで増大する。
【図7】逆円錐台形の底部(直径3cm)を有したプラスチックチューブを使用し、調整が可能な振盪台上でDOを100%で一定にして懸濁培養したCHOK細胞は、培養4日以内に容易に2.2%pcvに達した。これにより、細胞クローンロバスト性スクリーニングに適した効率的なミニバイオリアクタシステムが創作された。
【図8a】培地を混合するべく前後運動する球形自転式バイオリアクタ。
【図8b】培地を混合するべく軌道振盪台上に設けられた球形自転式バイオリアクタ。
【図8c】内向きに突出した軌道レールを有する円錐形自転式バイオリアクタ容器。
【図9a】プラスチック培養バッグ用の逆円錐台形の底部を有した10リットル容器ベース。
【図9b】逆円錐台形の底部を有した10リットル容器ベース。
【図10a】現行のフルロメトリクス細胞クローンロバスト性スクリーニングおよびプロセス最適化高スループットミニバイオリアクタシステム。
【図10b】細胞株のロバスト性スクリーニングに適した円錐台形の底部を有する振盪器を元にした多数ウェル。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2006年6月8日に出願した「懸濁培養容器」と題する特許出願PCT/US06/22312に継続するものである。
発明の技術分野
本発明は、効率的なバイオリアクタを作製する方法について記載する。
【背景技術】
【0002】
「懸濁培養容器」と題する特許出願PCT/US06/22312に記載されている以前の発見において、我々は、哺乳類細胞の懸濁培養に適した軌道振盪台(orbital shaker platform)上の逆円錐台形の底部を有した広胴型培養容器について記載した。驚くべきことに、このシステムは、古典的なバイオリアクタや平底振盪瓶に比べて著しく優れたものであった。我々は、このシステムによってより少ない流体力学的応力(hydro-mechanical stress)で容易に培地が容器の壁を伝って上ることについて記載した。このシステムは、より広い表面、より強い曝気、およびより良好な混合に適した広くて薄い培地層を生み出した。
【0003】
興味深いことに、我々は、振盪器を元にしたこの逆円錐台形底部容器システムの作用の正確なメカニズムを知らなかった。本発明において、我々はその作用のメカニズムを見出した。その作用のメカニズム、すなわち、培地中の溶存酸素レベルを増大する方法に基づいて、我々は、いくつかの種類の哺乳類細胞培養バイオリアクタを設計してテストした。
発明の開示
本発明は、以前に記載した逆円錐台形または逆錐台形の底部を有した懸濁培養容器(特許出願PCT/US06/22312)の作用のメカニズムについて記載する。本発明は、効率的な哺乳類細胞培養バイオリアクタの設計および作成の基礎となる培地中の溶存酸素(DO)を増大する方法を開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明は、少なくとも部分的に、高度なコントロールタワーならびに関連するDOプローブおよびpHプローブを用いることなく、懸濁に適合した哺乳類細胞が、一定の動作長さを有する振盪台上に設けられた逆円錐台形または逆錐台形の底部を有する培養容器中において、古典的なアプリコン(Applikon)バイオリアクタならびに平底振盪瓶よりも著しく良好に増殖するという以前の発見に基づいている(図1)。
【0005】
その作用のメカニズムを調べるために、DOセンサ、pHセンサおよびそれらの検出システム(www.flurometrix.com)(図2a、図2b)を使用した。また、円錐台形の底部を有した容器における振盪動作中の詳細な培地の動きを捕らえて調べるために、デジタルカメラ(ニコン)も使用した。
【0006】
まず最初に、逆円錐形の底部を有したワーキングボリューム150mLの容器中の培地のDOを測定した(図3)。DOレベルは容易に100%に達することがわかった(表1)。次に、空気ポンプを用いて、静置状態で同じ容器中の培地をバブリングした(図4)。驚くべきことに、然るべき時間で100%に達することができなかった(表2)。我々は、3リットルのアプリコンバイオリアクタ内でDOプローブを較正するために空気バブリング法を常套的に使用しており、DOが100%に達すると考えていただけに、この現象には非常に驚いた。この現象の背後には何らかの作用のメカニズムがあるに違いない。
【0007】
【表1】
【0008】
【表2】
その答えを求めて、我々は、高速カメラを用いて、逆円錐台形の底部を有した培養容器中の培地の振盪中の瞬間的な動きを捕らえた(図5a、図5b、図5c、図5d)(図3)。すべての写真は、瞬間的に培地の大半が培養容器の片側にあり、反対側の大部分が空気との接触に晒されることを明確に示していた。逆円錐形の底部のために、振盪動作によって培地は容易に片側の容器壁を伝って上に移動する。これにより、空気に晒された容器壁を繰り返し“掃き流す(sweeping)”、すなわち洗い流す(washing)培地の流れからなる循環運動が生み出される。我々は、この循環運動およびその反復性の“掃き流し”が培地中のDOを増大しているとの仮説を立てた。
【0009】
溶存酸素(DO)は、水または培地中に混合されて水分子の間で発生する微細な酸素泡中に見られる。上記の我々のケースでは、空気に晒されている瞬間に平滑なガラス表面またはプラスチック表面に小さな酸素泡が吸収されて酸素泡からなる微小層を形成した可能性がある。次に、我々は、平滑面上に瞬間的に形成された気泡層が水中のDOの微細泡のサイズと同等の非常に小さいものであるとの仮説を立てた。この微細泡層がその後、循環する培地の流れによって“掃き流される”、すなわち洗い流されることにより、容易に酸素が水中に溶解される。この循環運動は、円錐台形の底部および振盪動作のために、何度も繰り返して起こり、スパージング(sparging)のような培地中への直接的な空気バブリングに比べて効率的にDOレベルを増大する。
【0010】
この仮説を確かめるために、我々は、4mLの培地を入れた12mLのプラスチックチューブ(NUNC)と、60rpmの速度のローラードラムを使用した(図6a、図6b)。回転を始めてから10分を少し過ぎた後に、チューブ内のすべての培地試料が100%DOに達した。この実験から、空気に晒された平滑面を一定の速度または力で培地、すなわち培地の流れが繰り返し掃き流す、すなわち接触することによって、驚くほど効率的に培地のDOが増大することが示された。
【0011】
次に、我々は60rpmおよび100rpmの速度のローラードラム上のチューブ内で4日間、CHOK懸濁細胞を培養した。予想されるように、すべての場合において、DOはこれらの4日間の培養中に100%に達した。しかしながら、細胞は全く増殖していなかった。したがって、我々は、最適な懸濁細胞培養のためには、十分な培地のDOに加えて、効率的な混合の必要があると結論づけた。次に、調整が可能な振盪台上に設けられた逆円錐台形の底部を有した50mL遠心管(NUNC)中で、細胞を4日間培養した(図7)。すべての細胞が増殖し、容易に2.2%充填細胞容量(packed cell volume(pcv))に達した。この結果は、最適な懸濁細胞培養のためには、十分なDOに加えて、混合動作が必要であることを示した。
【0012】
上記の発見に基づいて、我々は、プロトタイプ構築のためにいくつかの種類のバイオリアクタを設計した。各種類について、我々は、空気に晒された平滑面を掃き流す、すなわち力でもってこれに接触させるべく培地の流れを繰り返し用いることにより培地中のDOを増大する方法を、十分な培地の混合動作と合わせて考慮した(図8a、図8b、図8c)。詳細を実施例1〜4においてさらに記載する。
【0013】
我々はまた、無血清懸濁培地中でTNFR2−Fc−IL−lraを発現するCHOK懸濁細胞株を用いて、回分(batch)培養プロセスの詳細を調べた。逆円錐台形の底部を有した培養容器が最適DOレベル、細胞密度、および産物収量に理想的であることが明確に示された(表3)。詳細をこれもまた実施例1において記載する。
実施例1
逆円錐台形の底部を有したワーキングボリューム150mLの容器を調べる回分培養
ワーキングボリューム150mLの小スケール振盪容器を使用して、TNFR2−Fc−IL−lra薬物候補を発現するCHO生産細胞株の回分培養を無血清培地B001中で8日間行った。フルロメトリクス(Flurometrix)DOパッチセンサ検出システムを用いて、DOを毎日測定した(図2a、図2b)。フルロメトリクス検出システムの使用に加えて、携帯式pHメータによるpHの検出も行った(図2b)。グルコースは、ワンタッチ式グルコースメータにより測定した(図2b)。表3は、逆円錐台形の底部を有した培養容器が最適DOレベル、細胞密度、および産物収量に理想的であることを明確に示した。
【0014】
【表3】
実施例2
逆円錐台形の底部を有したバイオリアクタ容器ベース上での使い捨てプラスチック細胞培養バッグの作成。
【0015】
逆円錐台形の底部を有したバイオリアクタ容器ベースと軟質のプラスチックバッグ(図9a、図9b)を設計及び構築した。これらのベースおよびバッグは、動作長さを調整可能な振盪台において使用するように設計した。設計した円錐台形の底部は、培地中のDOレベルを増大し、高細胞密度培養条件における高濃度O2の使用という課題を解決するべく、調整が可能な振盪台とともに、できるだけ高くかつできるだけ容易に(最小限の振盪エネルギーを用いて)培地を上昇させることを意図したものであった。3,10,20,40,100,500および1000リットルサイズの容器ベースおよびプラスチックバッグをプロトタイプ構築および試験のために設計した。我々の目的は、研究開発および工業用途に適した費用効率が高く、剪断力のない、使い捨ての哺乳類培養バイオリアクタを構築することである。
実施例3
高スループットタンパク質発現力価スクリーニング後の生産クローンのロバスト性スクリーニングに適した逆円錐台形の底部を有する振盪器を元にした多数ウェルプレートの設計
生産細胞株のロバスト性は、スケールアッププロセスの安定性および所与のタンパク質薬物の最終的な発現収率にとって重要である。何千もの細胞クローンからスクリーニングした高発現細胞株のうちいくつかは、工業的な生産細胞の基準を満たすロバスト細胞株である。選択されたロバスト細胞株は、より長い間、高密度で増殖することができ、元のスクリーニングした細胞クローン発現力価に比べて、10倍以上の高い発現力価を与える。
【0016】
細胞株のロバスト性スクリーニングおよびプロセス最適化(図10a)のための現行のミニバイオリアクタ装置(www.flurometrix.com)は、高い細胞密度での細胞増殖に最適化されておらず、高密度細胞群を維持する最適なDOレベルを有していない。したがって、ロバスト細胞クローンのスクリーニングを行えない。十分な培地DOが無い状態では、高細胞密度でのフェドバッチ(fed-batch)プロセスを最適化する手だてはない。
【0017】
振盪台上の設計された多数ウェルプレート(図10b)は、振盪動作および培養ウェルの円錐台形の底部による培地中の十分なDOを提供して高細胞密度増殖を支援し、所与の細胞株の最高密度での最大の増殖能をスクリーニングすることができるとともに、非ロバスト細胞クローンと区別することができる。このシステムは、扱いやすいことに加えて、費用効果が非常に高い。
実施例4
効率的な混合動作と組み合わせた培地中のDOを増大する方法に基づく効率的なバイオリアクタの設計
上で実施したローラードラム実験に基づいて(図6a、図6b)、我々は、哺乳類細胞培地中のDOを増大する方法を発見した。そして我々は、回転式バイオリアクタを設計した(図8a、図8b、図8c)。図8aは、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることによる球形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。基準面での前後運動によって回転運動中に培地はよく混合される(図8a)。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【0018】
図8bは、球形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることにより、培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。基準面での軌道振盪台によって回転運動中に培地はよく混合される。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【0019】
図8cは、円錐形の自転式バイオリアクタ容器を示す。この回転運動によって、空気に晒された容器の内面が繰り返し洗い流されることにより、培地中のDOが増大し、高細胞密度増殖が支援される。内向きに突出した軌道レール(orbital rail)によって培地は、上端まで上昇させられるとともに、回転しながら下端まで降下させられる。この追加的な動きは、回転運動中の培地の混合に役立つ。これらが一緒になって最適な懸濁細胞培養を支援する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】哺乳類細胞懸濁培養用の逆円錐台形の底部を有した広胴容器。
【図2a】フルロメトリクスDO/pHパッチセンサ検出技術の説明図。
【図2b】フルオロメトリクス(Fluorometrix)DO/pHパッチセンサ検出システム。
【図3】振盪台上の逆円錐台形の底部を有したワーキングボリューム150mLの培養容器。
【図4】DOレベルを増大するべく静置下で培地をバブリングするための空気ポンプの使用。
【図5a】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5b】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5c】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図5d】ニコンのデジタルカメラで捕らえた培地表面の瞬間特性。培地表面は瞬間的にはすべての写真において容器壁の片側に大半が傾斜(titled)して示された。この培地の動き特性によって、空気に晒される平滑な容器表面を繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流すことにより培地中のDOは増大する。
【図6a】傾斜したプラスチックチューブを回転動作させることにより、空気に晒される平滑な容器壁面をチューブ内の培地で繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流す。この動きによって培地中のDOは迅速に100%にまで増大する。
【図6b】傾斜したプラスチックチューブを回転動作させることにより、空気に晒される平滑な容器壁面をチューブ内の培地で繰り返し“掃き流す”、すなわち洗い流す。この動きによって培地中のDOは迅速に100%にまで増大する。
【図7】逆円錐台形の底部(直径3cm)を有したプラスチックチューブを使用し、調整が可能な振盪台上でDOを100%で一定にして懸濁培養したCHOK細胞は、培養4日以内に容易に2.2%pcvに達した。これにより、細胞クローンロバスト性スクリーニングに適した効率的なミニバイオリアクタシステムが創作された。
【図8a】培地を混合するべく前後運動する球形自転式バイオリアクタ。
【図8b】培地を混合するべく軌道振盪台上に設けられた球形自転式バイオリアクタ。
【図8c】内向きに突出した軌道レールを有する円錐形自転式バイオリアクタ容器。
【図9a】プラスチック培養バッグ用の逆円錐台形の底部を有した10リットル容器ベース。
【図9b】逆円錐台形の底部を有した10リットル容器ベース。
【図10a】現行のフルロメトリクス細胞クローンロバスト性スクリーニングおよびプロセス最適化高スループットミニバイオリアクタシステム。
【図10b】細胞株のロバスト性スクリーニングに適した円錐台形の底部を有する振盪器を元にした多数ウェル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素または空気バブリングを用いることなく哺乳類細胞の懸濁培養用の培地中の溶存酸素を増大する方法であって、平滑な壁を有する培養容器中に細胞培養物を収容することを特徴とする方法。
【請求項2】
培養細胞に対する有意な剪断力の使用を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養容器の壁のうち空気に晒された平滑面を繰り返し掃き流す動作をする培地の動きを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培地の動きは、振盪、回転、揺動、前後動、および流動のうちのいずれかからなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記平滑面はガラスからなる請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記平滑面はプラスチックからなる請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記平滑面は金属からなる請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁培養における最適な細胞増殖のために培地を混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
追加的に前後動作する自転式球形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項10】
追加的に軌道振盪動作する自転式球形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項11】
培地を追加的に運動させるために内向きに突出した軌道レールを備えた自転式円錐形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項12】
請求項9,10または11の容器中で行われる請求項8に記載の方法。
【請求項1】
酸素または空気バブリングを用いることなく哺乳類細胞の懸濁培養用の培地中の溶存酸素を増大する方法であって、平滑な壁を有する培養容器中に細胞培養物を収容することを特徴とする方法。
【請求項2】
培養細胞に対する有意な剪断力の使用を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養容器の壁のうち空気に晒された平滑面を繰り返し掃き流す動作をする培地の動きを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培地の動きは、振盪、回転、揺動、前後動、および流動のうちのいずれかからなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記平滑面はガラスからなる請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記平滑面はプラスチックからなる請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記平滑面は金属からなる請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁培養における最適な細胞増殖のために培地を混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
追加的に前後動作する自転式球形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項10】
追加的に軌道振盪動作する自転式球形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項11】
培地を追加的に運動させるために内向きに突出した軌道レールを備えた自転式円錐形容器である哺乳類細胞の懸濁培養用容器。
【請求項12】
請求項9,10または11の容器中で行われる請求項8に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【公表番号】特表2009−539373(P2009−539373A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514250(P2009−514250)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/037468
【国際公開番号】WO2007/142664
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507119261)アンプロテイン コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/037468
【国際公開番号】WO2007/142664
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507119261)アンプロテイン コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
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