説明

基地局アンテナのビーム特性の設定方法

【課題】直方体状の屋内で容易に良好なチャネル容量を実現する、基地局のアンテナのビーム特性の設定方法を提供する。
【解決手段】基地局1の二つのアンテナ11,12をそれぞれ指向性を有するものとして、各アンテナ11,12を部屋100上部の隅部110に並べて配置し、各アンテナ11,12の指向性ビームの半値幅をそれぞれ同じとして、半値幅を30度以上90度以下から選択する。そして、一方のアンテナ11の指向性ビームの最大放射方向を、隅部110に対向する部屋100の壁面150の縦隅部の一方111aに対して向け、他方のアンテナ12の指向性ビームの最大放射方向を、縦隅部の他方111bに対して向ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、屋内における基地局と端末局との信号伝送に用いる基地局のアンテナのビーム特性の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信の大容量化(高速化)技術として送信側および受信側のそれぞれに複数のアンテナを用いるマルチアンテナ技術の研究が盛んに行われている。そのようなマルチアンテナ技術の一例としてMIMO〔Multiple-Input Multiple-Output〕システムが挙げられる。
【0003】
MIMOシステムでは送信局に複数のアンテナ〔以下、送信アンテナという。〕を設け、これら送信アンテナを用いて複数の送信信号〔以下、ストリームという。〕を送信する。この場合、各ストリームが伝搬媒体である空間で多重化されていると考えることができて、これを空間多重〔spatial multiplexing〕と云う。このような空間多重では、一般的に送信局に入力されたストリームを複数のストリーム〔以下、サブストリームという。〕に分割してそれぞれを各送信アンテナによって同時に送信する。受信局では複数のアンテナで受信した信号から多重された信号系列を分離する。このような空間分割多重伝送(例えば、非特許文献1参照)は特にマルチパスが沢山存在する環境で有効であることが知られている。
【0004】
空間分割多重伝送の中で最も単純な手法は、送信局に無指向性の送信アンテナを複数用いて、各送信アンテナに別々のサブストリームを入力してこれを送信する手法である。これは、送信局で伝搬路のチャネル情報(例えば振幅や位相)を用いずに送信を行う場合として、サブストリームを等電力で送信する手法であり、空間分割多重方式〔SDM : space division multiplexing〕と呼ばれる。また、送信局で伝搬路の状況を受信局からのフィードバック等を行うことで予め把握し、伝搬路の状況から求めた複数の送信指向性でサブストリームを空間的に多重して送信する手法も提案されている。これは、複数のサブストリームごとに最適ウェイトを掛けてマルチビームを形成する手法であり、固有ビーム空間分割多重方式〔E−SDM: Eigenbeam space division multiplexing〕と呼ばれる。最適ウェイトは、送信アンテナと受信アンテナとの間の複素伝達関数を成分とするチャネル行列を特異値分解して得られる。そして、送信指向性を伝搬路のチャネル行列を特異値分解して得られる固有ベクトルビームとすることでチャネルの伝送容量を最大とできることが理論的に示されている。
【0005】
しかし、E−SDMを適用する場合、予め送信局で伝搬路のチャネル情報がわかっていなくてはならない。時間分割で送受共用を行うTDD〔Time Division Duplex〕方式を用いたシステムではアップリンク信号からチャネル情報を推定することが可能であるが、送受信の時間差の間でのチャネル変動により特性劣化が生じるなどの問題がある(非特許文献2参照)。また周波数分割で送受共用を行うFDD〔Frequency Division Duplex〕方式を用いたシステムでは、受信局でチャネル情報の推定をしてその信号をフィードバックする必要があり、フィードバックによるスループットの低下や推定時と送信時の時間差に伴うチャネル変動により特性劣化が生じるという問題がある。また送信指向性を計算するための信号処理回路も必要となり、ハードウエアが複雑になるという問題もある。
【0006】
これに対してSDMは、送信局でチャネル情報を必要としないため、チャネル情報の推定やその変動による特性劣化が生じず、また、電力配分や送信アンテナの選択を行なわなくてすむため、簡易に構成・実装できる特徴があるが、無指向性アンテナを用いることもありE−SDMよりも特性が劣る。
そこで、簡易な構成で空間分割多重伝送の伝送品質を改善する手法として、送信局に用いる複数の送信アンテナをそれぞれ指向性を有するアンテナとして、各送信アンテナに異なるサブストリームを入力して多重伝送する構成が提案されている(非特許文献3参照)。送信アンテナとして指向性アンテナを用いると、主にアンテナ利得の増加により伝送品質を改善することができる。
【非特許文献1】唐沢好男、「MIMO伝搬チャネルモデリング」、電子情報通信学会論文誌B、Vol. J86-B No.9、pp.1706-1720
【非特許文献2】堤貴彦、西村寿彦、大鐘武雄、小川恭孝、「各種空間分割多重方式におけるチャネル情報誤差の影響に関する検討」、電子情報通信学会論文誌B、Vol. J87-B No.9、pp.1496-1504
【非特許文献3】伊藤直人、新井宏之、丸山珠美、長敬三、「非均一指向性を有する切替型送信アンテナによる室内MIMO伝送特性の改善効果」、電子情報通信学会技術研究報、Vol. 105、No.561(20060119)、AP2005-134、pp.21-24、Jan.2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
指向性を有するアンテナを送信アンテナとして空間分割多重伝送に用いる場合、伝送品質は指向性アンテナの半値幅(半値角)や指向方向に依存する。有効な半値幅や指向方向は送信局が設置される環境に依存すると考えられ、送信局の送信アンテナをどのような指向性とするのか、また指向方向をどの方向に設定すればよいかは、実際に設置される環境下で種々の半値幅や指向方向を試してチャネル容量ができるだけ良くなるように決定していた。
【0008】
このような実情に鑑みて、本発明は、直方体状の屋内における信号伝送を前提として、容易に屋内環境下での良好なチャネル容量を実現する、固定局である送信局(基地局)のアンテナのビーム特性の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、基地局の二つのアンテナをそれぞれ指向性を有するものとして、各アンテナを屋内上部の隅部に並べて配置し、各アンテナの指向性ビームの半値幅をそれぞれ同じとして、当該半値幅を30度以上90度以下から選択する。そして、一方のアンテナの指向性ビームの最大放射方向を、上記隅部に対向する屋内壁面の縦の隅部である縦隅部の一方に対して向け、他方のアンテナの指向性ビームの最大放射方向を、縦隅部の他方に対して向ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビーム特性設定方法に拠ることで、実際に設置される環境下で種々の半値幅や指向方向を試行することなく、容易に屋内環境下での良好なチャネル容量が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1(a)に本発明の実施形態における屋内環境での基地局(1)および例えば移動局とされる端末局(2)の配置関係を示す模式図を示す。
基地局(1)と端末局(2)との間で信号伝送が行なわれる屋内環境は、図1(a)に示すように直方体状の部屋(100)の内部空間とする。
基地局(1)は二つのアンテナ(11)(12)を備えており、各アンテナ(11)(12)はそれぞれ指向性を有する指向性アンテナとする。
また、端末局(2)も二つのアンテナ(21)(22)を備えており、各アンテナ(21)(22)はそれぞれ無指向性アンテナとする。
【0012】
基地局(1)は、部屋(100)の上部の隅部(110)に配置される。なお、基地局(1)はアンテナ(11)、アンテナ(12)および各アンテナ(11)(12)にサブストリームを供給するなどの処理を行う処理部(80)などを備えているが、これらが外観上一つの筐体に収まった構成のように一体的構成とされる必要はなく、給電線を延長することでアンテナ(11)、アンテナ(12)を処理部から離した構成とすることもできる。従って、より正確には、基地局(1)の各アンテナ(11)(12)を、部屋(100)の上部の隅部(110)に配置する。以下の説明では、基地局(1)が部屋(100)の上部の隅部(110)に配置される場合を例にとり、単に『基地局(1)を配置する』などとも表現する。このとき、要求される仕様〔例えば搬送波周波数である。〕にもよるが、アンテナ(11)とアンテナ(12)とを近接するように並べて配置する。
【0013】
部屋(100)の上部の隅部(110)とは、部屋(100)の壁面の一つと天井とが接する部分およびその近傍である〔図1(b)参照〕。
近傍の程度は、基地局(1)と端末局(2)との間で信号伝送が行なわれる屋内環境の状況や信号伝送の用途などにもよるので厳格に定義されるものではないが、基地局(1)の各アンテナ(11)(12)の指向性ビームをできるだけ有効に部屋(100)の内部空間に向けられるように、天井に基地局(1)を配置する場合であれば壁面になるべく近い部分に設置するのがよい。また、壁面に基地局(1)を配置する場合であれば、部屋(100)の内部空間を見渡せるようになるべく高い位置、つまりなるべく天井に近い位置に設置するのがよい。
各アンテナ(11)(12)は、天井や壁面の面上に設置される必要はなく、面から或る程度離して設置することができる。
【0014】
基地局(1)は隅部(110)のどこにでも配置できるが、部屋(100)の内部空間においてマルチパスを有効に活用するという観点からは、部屋(100)の壁面のうち一つと天井とで特定される隅部(110)のその中央部(140)に基地局(1)を配置することがよい。ここで中央部(140)とは、隅部(110)の中央を中心とする隅部(110)の長手方向に沿って1/3〜1/4程度の範囲を云い〔図1(b)参照〕、好ましくは、隅部(110)の中央において基地局(1)の設置誤差や基地局(1)の設置幅などを含む程度の範囲である。
【0015】
図1(a)に示す実施形態では、基地局(1)を、上述した隅部(110)の中央部において、部屋(100)の天井であって壁面の一つにできるだけ近い部位に設けるとし、さらに、両アンテナを前記壁面に平行になるように並べて配置している。
【0016】
そして、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームのビーム特性〔半値幅、指向方向〕の設定を、結論から述べれば次のとおりとする。
基地局(1)の各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの半値幅をそれぞれ同じとして、30度以上90度以下から選択した角度に設定する。より好ましい半値幅は60度である。以降の説明では、角度は記号「°」をもって表す。
また、アンテナ(11)の指向性ビームの最大放射方向を、基地局(1)が設置された隅部(110)に対向する部屋(100)の壁面(150)の縦の隅部である縦隅部(111a)(111b)の一方に対して向け、他方のアンテナ(12)の指向性ビームの最大放射方向を、縦隅部(111a)(111b)の他方に対して向ける。このことを、図1を参照して説明すると、アンテナ(11)の指向性ビームの最大放射方向は、縦隅部(111a)へと向けられ、アンテナ(12)の指向性ビームの最大放射方向は、縦隅部(111b)へと向けられる。あるいは、アンテナ(11)の指向性ビームの最大放射方向は、縦隅部(111b)へと向けられ、アンテナ(12)の指向性ビームの最大放射方向は、縦隅部(111a)へと向けられる。
【0017】
ここで、基地局(1)の各アンテナ(11)(12)の指向性ビームのビーム特性を上述の如く設定することで、良好なチャネル容量が実現されることをレイトレーシング伝搬シミュレーションで示す。
【0018】
部屋(100)内部の大きさを横6.0[m]×縦6t[m]×高さ2.7[m]とし、異なる大きさの部屋で比較するためパラメータtを0.5から2まで変化させることでアスペクト比を変化させた。部屋(100)の6面は厚さ0.15[m]のコンクリートとした。なお、図1(a)では、用いる搬送波周波数を5[GHz]としたのでその波長λで規格化し、部屋(100)の大きさを横100λ[m]×縦100λt[m]×高さ45λ[m]で表している。また、部屋(100)の内部空間には障害物を設置せず、どの地点も各アンテナ(11)(12)からの見通し内とした。
【0019】
図1に示すように各アンテナ(11)(12)は、部屋(100)の一つの壁面と天井とで特定される隅部(110)のその中央部であって部屋(100)の天井から0.2[m]、上記壁面から4λ、つまり0.24[m]離れた位置に設置した。各アンテナ(11)(12)の水平面内の指向性は、図2に示すようにF/B比〔Front to Back ratio〕が∞のペンシルビームとした。ペンシルビームの電力強度D(θ)は、その半値幅をθhalfとして式(1)に表すとおりとした。式(1)でαF/BはF/B比の逆数を表す。ここではF/B比が∞のペンシルビームを想定しているためαF/B=0である。
【数1】

【0020】
ペンシルビームの利得は、E面、H面における半値幅をθHP、φHPとして式(2)のように定義した。
【数2】

【0021】
端末局(2)の二つのアンテナ(21)(22)は、端末局(2)を人間が持ち歩く場合やテーブルの上に設置される場合などを想定して、床から1.0[m]の高さにあるものとし、図3に示すようにx方向〔横方向〕、y方向〔縦方向〕ともに部屋サイズ×1/6間隔で端末局(2)を移動させ、全部で25の測定地点〔図3中の×印〕についてチャネル容量を算出した。なお、端末局(2)の二つのアンテナ(21)(22)は等方性アンテナ〔無指向性アンテナ〕とした。
【0022】
チャネル容量Cは式(3)によって導出し、25測定地点の平均値で評価した。式(3)においてmは基地局(1)のアンテナ本数であり、この場合m=2である。Pは総送信電力、σは雑音電力を表す。Aはチャネル行列であり、Hは複素共役転置を表す。Iは単位行列である。チャネル容量は、或る周波数の伝搬路において単位時間当たりに符号間干渉することなく多重できる電磁波の最大密度を表していて、チャネル容量が高いほど周波数利用効率が優れ、一周波数当たりのデータ通信速度が速いことを示す。λはチャネル行列Aのi番目の固有値を表す。
【数3】

【0023】
伝搬シミュレーションではアンテナ(11)およびアンテナ(12)は共に同じ半値幅を持つものとした。さらに、図2、図3に示すように、互いの指向性ビームの最大放射方向〔以下、指向方向とも云う。〕を、基地局(1)に最も近い壁面に垂直な方向に関して対称になるようにした。各指向性ビームの最大放射方向の間の角度をθとする。
【0024】
その他のシミュレーションシステムの諸元を表1にまとめた。
【表1】

【0025】
チャネルモデリングは、レイトレース法に基づき、各パスにおける電界強度を合成し計算した。なお、チャネルの変動、回折、散乱は考慮しなかった。
【0026】
レイトレーシング伝搬シミュレーションでは、上記設定の屋内伝搬モデルにおいて、半値幅を固定した状態で、ビーム間角度θを0°から180°まで変化させた。各半値幅の場合についてビーム間角度θと平均チャネル容量との関係を図4−1、図4−2〔以下、図4と略記する。〕に示す。図4(a)〜(d)は、半値幅を30°、60°、90°、120°、150°および無指向性〔omni〕として、アスペクト比のパラメータtを0.5、1.0、1.5、2.0とした場合を示している。
【0027】
ここで、平均チャネル容量が最大となる半値幅およびビーム間角度を有する指向性ビームを最適ビームと定義する。
【0028】
図4(a)〜(d)から、部屋(100)のアスペクト比を増加させたときの全体的な傾向として、アスペクト比が1以上においては、指向性ビームを採用した場合の方が無指向性ビームを採用した場合よりも平均チャネル容量が優れることがわかる。このことから、基地局(1)は、部屋(100)上部の短手方向の隅部に設けることが良い。なお、アスペクト比が1未満であっても、複数の基地局を設ける場合には、指向性ビームを採用することで他の基地局への干渉を低減できることなどから、無指向性ビームを採用した場合と同程度の平均チャネル容量を得ることができるならば、指向性ビームを採用することが好ましい。
【0029】
そして、ビーム間角度θが小さい場合には平均チャネル容量は増大し、逆に、ビーム間角度θが大きい場合には平均チャネル容量は低下することがわかる。半値幅を小さくするとその傾向は顕著となり、特に半値幅が30°の場合、ビーム間角度θを小さくし過ぎると無指向性ビームを採用した場合よりも特性が劣化してしまう。また、最適ビームの半値幅、ビーム間角度θは共にパラメータtを増加させると小さくなる傾向にあった。
【0030】
次に、アスペクト比と最適ビームの半値幅との関係を示すグラフを図5(a)に、アスペクト比とビーム間角度θとの関係を示すグラフを図5(b)に示す。さらに、各アンテナ(11)(12)の半値幅を60°、各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けるとした場合の平均チャネル容量とアスペクト比に応じた最大の平均チャネル容量との比較を図6に示す。
【0031】
図5(a)に示す結果から、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの半値幅を30°以上90°以下とすることが良いとの知見を得る。特に、半値幅をほぼ60度とすることが好ましい。また、図5(b)に示す実線の曲線は、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けるとしたときのビーム間角度を表している。この曲線とグラフ中にプロットした最大平均チャネル容量となるビーム間角度との比較結果から、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けることで、良好な平均チャネル容量を得ることができることがわかる。この要因の一つとして、各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けることで、室内空間におけるマルチパスが部屋(100)の内部空間で平均チャネル容量が向上するように形成されたことにあると考えられる。
【0032】
さらに、図6に示す結果から、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの半値幅を60度とし、各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けることで、アスペクト比に係らずほぼ最大の平均チャネル容量を得ることができることがわかる。
【0033】
上述のレイトレーシング伝搬シミュレーションでは、各アンテナ(11)(12)の最大放射方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向ける、つまり、アンテナ(11)の指向性ビームの最大放射方向を縦隅部(111a)へ向け、アンテナ(12)の指向性ビームの最大放射方向を縦隅部(111b)へ向けるとした。
しかし、上述のシミュレーション結果で、各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けることで良好な平均チャネル容量を得ることができたことは、主として室内空間におけるマルチパスが部屋(100)の内部空間で平均チャネル容量が向上するように形成されることによるものと考えられるところ、このような観点からすれば、各指向方向を交差しないものとすることは必須の技術事項ではなく、アンテナ(11)の指向性ビームの最大放射方向を縦隅部(111b)へ向け、アンテナ(12)の指向性ビームの最大放射方向を縦隅部(111a)へ向けるとしてもよい。
【0034】
なお、以上に説明した実施形態では、基地局(1)の各アンテナ(11)(12)を単一のアンテナとしてそれぞれが指向性を有するとした。
しかしながら、基地局(1)の各アンテナ(11)(12)は、指向性を有する単一のアンテナとすることは必須ではない。例えば図7に示すように、各アンテナ(11)(12)をそれぞれ従来よく知られているアレーアンテナで構成することもできる。このとき、各アンテナ(11)(12)を構成する複数の無指向性アンテナ素子の位相を電力合成器(31)(32)によって調整することで、各アンテナ(11)(12)に指向性を持たせる。
また、図8に示すように、二つのアンテナ(11)(12)を同じアレーアンテナ(15)で共有し、指向性合成回路(40)で二つの指向性ビームを形成する構成としてもよい。つまり、アレーアンテナ(15)を構成する全てのアンテナ素子に対して接続する入出力ポートと、信号多重数分だけアンテナ素子に接続する入出力ポートを有する指向性合成回路(40)によって二つの指向性ビームを形成する構成である。このような構成を採用することによって基地局(1)に備えるアンテナを小型のものとすることができる。
【0035】
以上に説明したように、基地局(1)のアンテナに指向性アンテナを採用したことによるアンテナ利得向上効果に加え、指向性ビームの半値幅を30度以上90度以下から選択して設定し、室内空間におけるマルチパスの影響を考慮した指向方向の設定、即ち、各アンテナ(11)(12)の指向性ビームの最大放射方向を縦隅部(111a)(111b)に向けるという設定によって、室内空間のチャネル容量を上げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、例えば空間分割多重伝送を行うMIMOシステムなどに用いる基地局のアンテナのビーム特性設定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)屋内環境での基地局(1)および端末局(2)の配置関係を示す模式図。(b)部屋の隅部(110)(111a)(111b)を説明する図。
【図2】基地局(1)のアンテナ(11)、アンテナ(12)の指向性ビーム、その半値幅、各アンテナのビーム間角度を示す図。
【図3】測定地点を図示する平面図。
【図4−1】(a)アスペクト比1:0.5の場合の、ビーム間角度θと平均チャネル容量との関係を示すグラフ。(b)アスペクト比1:1の場合の、ビーム間角度θと平均チャネル容量との関係を示すグラフ。
【図4−2】(c)アスペクト比1:1.5の場合の、ビーム間角度θと平均チャネル容量との関係を示すグラフ。(d)アスペクト比1:2の場合の、ビーム間角度θと平均チャネル容量との関係を示すグラフ。
【図5】(a)アスペクト比と最適ビームの半値幅との関係を示すグラフ。(b)アスペクト比とビーム間角度θとの関係を示すグラフ。
【図6】基地局(1)の各アンテナ(11)(12)の半値幅を60°、各指向方向をそれぞれ交差することなく縦隅部(111a)(111b)に向けるとした場合の平均チャネル容量とアスペクト比に応じた最大の平均チャネル容量とを比較したグラフ。
【図7】基地局(1)のアンテナ構成例を示す図。
【図8】基地局(1)のアンテナ構成例を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 基地局
11 アンテナ
12 アンテナ
100 部屋
110 隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体状の屋内における基地局と端末局との信号伝送に用いる基地局のアンテナのビーム特性の設定方法であって、
二つの上記アンテナをそれぞれ指向性を有するものとして、上記各アンテナを上記屋内上部の隅部に並べて配置し、
上記各アンテナの指向性ビームの半値幅をそれぞれ同じとして、当該半値幅を30度以上90度以下から選択し、
一方の上記アンテナの指向性ビームの最大放射方向を、上記隅部に対向する上記屋内壁面の縦の隅部である縦隅部の一方に対して向け、
他方の上記アンテナの指向性ビームの最大放射方向を、上記縦隅部の他方に対して向ける
ことを特徴とする基地局アンテナのビーム特性の設定方法。
【請求項2】
上記隅部の中央部に上記各アンテナが配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の基地局アンテナのビーム特性の設定方法。
【請求項3】
上記各アンテナが配置される上記隅部は、上記屋内上部の短手方向の隅部である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基地局アンテナのビーム特性の設定方法。
【請求項4】
上記各アンテナの指向性ビームの半値幅をそれぞれ60度とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の基地局アンテナのビーム特性の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−283369(P2008−283369A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124556(P2007−124556)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】