説明

基板の割断方法及び割断装置

【課題】磁石材料などの脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい基板の割断方法及び割断装置を提供すること。
【解決手段】割断用スリットM3を上面に形成した脆性材料の基板Mを前記割断用スリットM3に沿って割断する基板Mの割断方法において、
前記割断用スリットM3と隣接して前記基板Mの一方M1を固定チャック11が前記基板Mと平行に把持し、前記割断用スリットM3から前記固定チャック11と反対方向に所定距離Lずれた位置で前記基板Mの他方M2を可動チャック12が前記割断用スリットM3を通過する前記基板Mの垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することによって前記基板Mを割断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用回転電機に使用する磁石材料などの脆性材料の基板を割断する基板の割断方法及び割断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対応するためハイブリッド車や電気自動車などが注目されているが、その駆動用回転電機には、小型化、高出力化が求められている。例えば、駆動用回転電機に用いるACサーボモータとして、従来の永久磁石をロータ表面に貼った表面磁石型モータ(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor、以下「SPMモータ」と略す。)に代わって、直線状の永久磁石をローターの内部に埋め込む埋込磁石型モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor、以下「IPMモータ」と略す。)が開発されている。このIPMモータに使用する磁石材料は、通常、電解鉄に磁束密度を高めるためのネオジウム(Nd)や高温下で保磁力を低下させないためのジスプロシウム(Dy)などのレアアースを配合して溶解・合金化したものを粉砕・粉末化して板状に成形後、焼結・熱処理することによって製造する。そして、着磁する前に、焼結・熱処理した板状の磁石材料をIPMモータに埋め込むことができる所定のサイズに分割している。
【0003】
この磁石材料のような脆性材料を分割する脆性材料の割断方法及び装置が、特許文献1に開示されている。
特許文献1の技術は、レーザスクライブしたガラスなどの脆性材料において、材料表面の垂直方向に偏心した中心軸の周りの回転応力を材料に印加することによって、材料にスクライブ線位置で曲げと引き裂きを発生させ、割断する技術である。この技術によれば、曲げと同時に両側のワークに引き離し力を加えるので、割断時にワークが擦れ合って破砕屑(カレット)が発生することを防止する利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−137170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、図5に示すように、割断開始時には、回転軌跡R上の接線方向(矢印Q11の方向)に作用する引き裂き力P6、P7のみがワークにかかるので、ワークの引張り強さ以上に大きな引張り力が割断するために必要となる。このワークの引張り強さ以上の引き裂き力P6、P7をワークに摩擦力で伝達するためには、ワークの板厚方向に大きな圧縮力P4、P5が必要になるが、ワークは脆性材料であるので圧縮力が大きすぎると、割断した端面に欠損が生じる恐れがある。
【0006】
また、ワークが磁石材料の場合、平均粒径が数μm程度の粉末材料を焼結して成形されているため、ワークの長手方向に引張り荷重が作用すると粉末材料の粒界に沿ってワークの長手方向又は長手方向と傾斜する方向に亀裂が進行しやすい。そのため、割断した端面の平坦度や直角度を確保しにくい。図6に示すように、磁石材料を着磁したとき、磁石内部では磁化Iの方向とは逆向きに減磁界Hdが働くが、磁石材料の端面において平坦度や直角度が悪いと、その端面付近では磁化方向の長さが短いので減磁界の影響がより大きく現れるため、端面付近での磁力が自己減磁作用によって大きく低下する。そのため、磁石材料における端面の平坦度や直角度を確保することは、着磁したときの磁束密度を高め回転電機の高出力化を達成する上で重要な要素となる。したがって、磁石材料を割断したときの端面精度(平坦度や直角度等)を確保しやすい割断方法が求められている。
【0007】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁石材料などの脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい基板の割断方法及び割断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る基板の割断方法及び割断装置は、次のような構成を有している。
(1)割断用スリットを上面に形成した脆性材料の基板を前記割断用スリットに沿って割断する基板の割断方法において、
前記割断用スリットと隣接して前記基板の一方を固定チャックが前記基板と平行に把持し、前記割断用スリットから前記固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で前記基板の他方を可動チャックが前記割断用スリットを通過する前記基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することによって前記基板を割断することを特徴とする。
ここで、所定距離とは、固定チャックと可動チャックとの押圧力によって、割断用スリットを挟んで3点曲げの原理を利用することができ、主として曲げ荷重のみで割断することができる距離をいう。
【0009】
(2)(1)に記載された基板の割断方法において、
前記可動チャックの把持力を可変とし、前記可動チャックが円弧軌跡上を移動して前記所定距離ずれた位置で前記把持力を増大することを特徴とする。
(3)(1)に記載された基板の割断方法において、
前記可動チャックは、前記所定距離ずれた位置で前記固定チャックと当接することを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された基板の割断方法において、
前記基板は、板状の磁石材料であることを特徴とする。
(5)割断用スリットを上面に形成した脆性材料の基板を前記割断用スリットに沿って割断する基板の割断装置において、
前記基板を把持する固定チャックと可動チャックとを備え、
前記固定チャックは、前記割断用スリットと隣接する前記基板の一方を前記基板と平行に把持すること、
前記可動チャックは、前記割断用スリットから前記固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で前記基板の他方を前記割断用スリットを通過する前記基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明に係る基板の割断方法及び割断装置は、以下のような作用効果を奏する。
(1)の発明は、割断用スリットと隣接して基板の一方を固定チャックが基板と平行に把持し、割断用スリットから固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で基板の他方を可動チャックが割断用スリットを通過する基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することによって基板を割断するので、脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい。
【0011】
具体的には、割断用スリットと隣接して基板の一方を固定チャックが基板と平行に把持するので、基板の一方の内、割断用スリットを設けた上面側で割断用スリットと隣接する位置を固定チャックが押圧する。また、割断用スリットから固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で基板の他方を可動チャックが割断用スリットを通過する基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持するので、基板の他方の内、割断用スリットを設けた上面側で基板の前端位置と、割断用スリットを設けていない下面側で割断用スリットと略対向する位置と、を可動チャックが押圧する。この固定チャックと可動チャックとの押圧力によって、割断用スリットを挟んで3点曲げの原理を利用することができ、主として曲げ荷重のみで割断することができる。基板は脆性材料であるので、主として曲げ荷重のみで割断すれば、基板の長手方向に引張り荷重を用いて割断する場合に比べて、大幅に荷重を少なくすることができ、割断した端面で欠損を生じにくい。また、割断用スリットを挟んで3点曲げで割断するので、割断用スリットの先端部に応力が集中し、割断用スリットの先端部から亀裂が始まり、基板の垂直方向に亀裂が進行する。そのため、割断した端面は、割断用スリットを2等分した中心線上で基板の垂直方向に形成され、所定の端面精度(端面の平坦度や直角度)を確保できる。
よって、磁石材料などの脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい基板の割断方法を提供することができる。
【0012】
(2)の発明は、(1)に記載された基板の割断方法において、可動チャックの把持力を可変とし、可動チャックが円弧軌跡上を移動して所定距離ずれた位置で把持力を増大するので、割断用スリットから所定距離ずれた位置まで可動チャックを滑らせて移動できる。可動チャックは基板上を滑らせるので、割断用スリットから所定距離ずれた位置まで、可動チャックを正確に移動させることができる。
そのため、基板を3点曲げで割断するときの位置を正確に管理することができ、磁石材料などの脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損をより生じにくく、端面精度をより確保しやすい。
【0013】
(3)の発明は、(1)に記載された基板の割断方法において、可動チャックは、所定距離ずれた位置で固定チャックと当接するので、基板の他方を可動チャックが基板と傾斜して把持する位置を正確に再現することができる。可動チャックの把持位置を正確に再現できれば、割断用スリットを挟んで3点曲げで割断するときの固定チャックに対する可動チャックの位置関係が安定する。
そのため、基板を3点曲げで割断するときの位置を正確に管理することができ、磁石材料などの脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損をより生じにくく、端面精度をより確保しやすい。
【0014】
(4)の発明は、(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された基板の割断方法において、基板は、板状の磁石材料であるので、割断した磁石材料を着磁したときに、割断した端面付近の磁力が自己減磁作用によって低下することを防止しつつ、割断した端面で欠損を生じにくく、端面精度を確保しやすい。
【0015】
(5)の発明は、割断用スリットを上面に形成した脆性材料の基板を前記割断用スリットに沿って割断する基板の割断装置において、基板を把持する固定チャックと可動チャックとを備え、固定チャックは、割断用スリットと隣接する基板の一方を基板と平行に把持すること、可動チャックは、割断用スリットから固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で基板の他方を割断用スリットを通過する基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持するので、脆性材料の基板を割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】割断開始時の模式的断面図である。
【図2】割断完了時の模式的断面図である。
【図3】第1の実施形態における可動チャックの把持力と可動チャックの回転角との 関係を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態における割断開始時の模式的断面図である。
【図5】従来技術における割断開始時の模式的断面図である。
【図6】割断した端面における自己減磁作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る基板の割断方法及び割断装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、はじめに本発明に係る基板の割断方法における割断メカニズムを説明した上で、これを応用した第1及び第2の実施形態について説明する。
【0018】
(割断メカニズム)
はじめに、本発明に係る基板の割断方法における割断メカニズムについて説明する。図1に、割断開始時の模式的断面図を示し、図2に、割断完了時の模式的断面図を示す。
図1に示すように、本発明に係る基板の割断装置1は、板状の磁石材料である基板Mを上下から把持する固定チャック11と可動チャック12とを備えている。
基板Mは、水平方向(X軸方向)に配置され、上面には、所定のピッチで割断用スリットM3が複数個、形成されている。割断用スリットM3は、基板Mの垂直方向(Y軸方向)にクサビ状に形成され、その深さは板厚の10〜20%程度である。なお、基板Mの厚さは、3〜5mm程度である。
割断用スリットM3と隣接して基板Mの一方M1を、固定チャック11が基板Mと平行に把持する。固定チャック11は、上部把持部11Aと下部把持部11Bとを備え、図示しない駆動装置によってそれぞれ垂直方向(矢印K1、K2の方向)に駆動して基板Mを上下から把持する。そのため、基板Mの一方M1の内、割断用スリットM3を設けた上面側で割断用スリットM3と隣接する位置M11を固定チャック11の上部把持部11Aが押圧力P1にて押圧する。
【0019】
また、図1に示すように、可動チャック12は、円弧軌跡上を矢印Q1の方向に移動する。可動チャック12が移動する円弧軌跡の回転中心は、割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線上にある。
可動チャック12は、円弧軌跡上を移動して割断用スリットM3から固定チャック11と反対方向に所定距離Lずれた位置で基板Mの他方M2を、可動チャック12が割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持する。可動チャック12は、上部把持部12Aと下部把持部12Bとを備え、図示しない駆動装置によってそれぞれ割断用スリットM3を通過する垂直線に対して傾斜角θだけ傾斜する方向(矢印K3、K4の方向)に駆動して基板Mを上下から把持する。そのため、基板Mの他方M2の内、割断用スリットM3を設けた上面側で基板Mの前端位置M21を可動チャック12の上部把持部12Aが押圧力P3にて押圧し、割断用スリットM3を設けていない下面側で割断用スリットM3と略対向する位置M22を可動チャック12の下部把持部12Bが押圧力P2にて押圧する。
磁石材料である基板Mは、平均粒径が数μm程度の粉末材料を焼結して成形されたセラミックスであるので、伸びはほとんど生じない。そのため、固定チャック11と可動チャック12との押圧力P1、P2、P3によって、割断用スリットM3を挟んで3点曲げの原理を利用して、主として曲げ荷重のみで基板Mを割断することができる。つまり、3つの押圧力P1、P2、P3の内、押圧力P1、P2によって割断用スリットM3の近傍を支持した状態で、押圧力P3による曲げ荷重が、割断用スリットM3の先端部に作用して基板Mの抗折力を超えたときに、基板Mは割断されるのである。
【0020】
基板Mは脆性材料であるので圧縮荷重に対して脆いが、主として曲げ荷重のみで割断することによって、基板の長手方向に引き裂き力を用いて割断する場合に比べて、大幅に圧縮荷重を少なくすることができるので、割断した端面で欠損を生じにくい。
また、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断するので、割断用スリットM3の先端部に応力が集中し、割断用スリットM3の先端部から亀裂が始まり、基板Mの垂直方向に亀裂が進行する。そのため、図2に示すように、割断した端面M12、M23は、割断用スリットM3を2等分した中心線上で基板Mの垂直方向に形成され、割断が完了する。その結果、所定の端面精度(端面の平坦度や直角度)を確保しやすい。
なお、割断が完了すると、可動チャック12は、基材Mの他方M2を把持した状態で、円弧軌跡を矢印Q1の方向に移動する。
【0021】
(第1の実施形態)
次に、本発明に係る基板の割断方法及び割断装置の第1の実施形態について説明する。図3に、第1の実施形態における可動チャック12の把持力と可動チャック12の回転角との関係を示す。
第1の実施形態では、上記割断メカニズムで説明したように、基板Mの割断装置1は、板状の磁石材料である基板Mを上下から把持する固定チャック11と可動チャック12とを備えている。また、可動チャック12の把持力は、可変としている。可動チャック12の把持力を可変する方法は、例えば、図示しない油圧バルブを切り替えることによって行う。
図1に示すように、固定チャック11は、割断用スリットM3と隣接して基板Mの一方M1を基板Mと平行に把持する。固定チャック11は、上部把持部11Aと下部把持部11Bとを備え、図示しない駆動装置によってそれぞれ垂直方向(矢印K1、K2の方向)に駆動して基板Mを上下から把持する。
【0022】
一方、図示しないが、可動チャック12は、把持開始時においては、割断用スリットM3と隣接した位置で基板Mの他方M2を基板Mと平行に把持する。しかし、図3に示すように、把持開始時における可動チャック12の把持力は、割断時における把持力に比べて小さいレベル(例えば、1/2程度)である。したがって、可動チャック12を円弧軌跡上で図1に示す矢印Q1の方向に引っ張ると、可動チャック12は基板M上を滑って移動する。そして、可動チャック12が回転角θだけ回転すると、割断用スリットM3から固定チャック11と反対方向に所定距離Lずれた位置で基板Mの他方M2を、可動チャック12が割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して傾斜角θだけ傾斜して把持することになる(図1に示す状態)。
図3に示すように、可動チャック12の回転角がθ1のとき、可動チャック12の把持力を増大させる。そして、押圧力P3による曲げ荷重が、割断用スリットM3の先端部に作用して基板Mの抗折力に達したときに、前述した割断メカニズムによって基板Mを割断する。本実施形態では、可動チャック12による割断時の把持力が3〜4(キロニュートン)程度である。可動チャック12の回転角がθ2のとき、把持力を零にして、基板Mをアンクランプして、割断した基板Mの他方M2を取り出す。
なお、可動チャック12の回転角θは、図示しない角度センサやカムスイッチ等で検出して可動チャック12の把持力を制御している。また、固定チャック11は割断完了後にアンクランプし、アンクランプしている間に、基板Mを図示しない送り装置によって送り込む。これによって、所定の位置で確実に基板Mを割断することができる。
【0023】
(作用効果)
以上、詳細に説明したように、本第1の実施形態によれば、割断用スリットM3と隣接して基板Mの一方M1を固定チャック11が基板Mと平行に把持しているので、基板Mの一方M1の内、割断用スリットM3を設けた上面側で割断用スリットM3と隣接する位置M11を固定チャック11が押圧する。また、割断用スリットM3から固定チャック11と反対方向に所定距離Lずれた位置で、基板Mの他方M2を、可動チャック12が割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持するので、基板Mの他方M2の内、割断用スリットM3を設けた上面側で基板Mの前端位置M21と、割断用スリットM3を設けていない下面側で割断用スリットM3と略対向する位置M22と、を可動チャック12が押圧する。
この固定チャック11と可動チャック12との押圧力P1、P2、P3によって、割断用スリットM3を挟んで3点曲げの原理を利用することができ、主として曲げ荷重のみで割断することができる。したがって、所定距離Lとは、固定チャック11と可動チャック12との押圧力によって、割断用スリットを挟んで3点曲げの原理を利用することができ、主として曲げ荷重のみで割断することができる距離の意味である。基板Mは脆性材料であるので、主として曲げ荷重のみで割断すれば、基板Mの長手方向に引張り荷重を用いて割断する場合に比べて、大幅に荷重を少なくすることができ、割断した端面M12、M23で欠損を生じにくい。
【0024】
また、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断するので、割断用スリットM3の先端部に応力が集中し、割断用スリットM3の先端部から亀裂が始まり、基板Mの垂直方向に亀裂が進行する。そのため、割断した端面M12、M23は、割断用スリットM3を2等分した中心線上で基板Mの垂直方向に形成され、所定の端面精度(端面の平坦度や直角度)を確保しやすい。
よって、磁石材料などの脆性材料の基板Mを割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断したときの端面精度を確保しやすい基板Mの割断方法を提供することができる。
【0025】
また、本第1の実施形態によれば、可動チャック12の把持力を可変とし、可動チャックが円弧軌跡上を移動して所定距離Lずれた位置で把持力を増大するので、割断用スリットM3から所定距離Lずれた位置まで可動チャック12を滑らせて移動できる。可動チャック12は基板M上を滑らせるので、割断用スリットM3から所定距離Lずれた位置まで、可動チャック12を正確に移動させることができる。
そのため、基板Mを3点曲げで割断するときの位置を正確に管理することができ、磁石材料などの脆性材料の基板Mを割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断した端面精度を確保しやすい。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る基板の割断方法及び割断装置の第2の実施形態について説明する。図4に、第2の実施形態における割断開始時の模式的断面図を示す。
第2の実施形態では、上記割断メカニズムで説明したように、基板Mの割断装置2は、板状の磁石材料である基板Mを上下から把持する固定チャック21と可動チャック22とを備えている。また、固定チャック21の上部把持部21Aには、突部21A1が形成されていて、可動チャック22は、所定距離Lずれた位置で固定チャック21と当接する。
第2の実施形態は、固定チャック21の上部把持部21Aに突部21A1を形成した点が第1の実施形態と相違し、その他の点は、第1の実施形態と共通している。ここでは、第1の実施形態と相違する点を中心に説明し、第1の実施形態と共通している箇所には、図面に第1の実施形態と同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
図4に示すように、固定チャック21は、割断用スリットM3と隣接して基板Mの一方M1を基板Mと平行に把持する。固定チャック21は、上部把持部21Aと下部把持部21Bとを備え、図示しない駆動装置によってそれぞれ垂直方向(矢印K1、K2の方向)に駆動して基板Mを上下から把持する。
【0027】
一方、可動チャック22は、割断用スリットM3から固定チャック21と反対方向に所定距離Lずれた位置で、基板Mの他方M2を、割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して傾斜角θ1だけ傾斜して把持する。このとき、可動チャック22の回転角はθ1となり、可動チャック22の上部把持部22Aは、固定チャック21の上部把持部21Aに形成された突部21A1と当接している。そして、固定チャック11と可動チャック12との押圧力P1、P2、P3によって、割断用スリットM3を挟んで3点曲げの原理を利用することができ、主として曲げ荷重のみで割断することができる。
したがって、可動チャック21の把持位置を正確に再現できるので、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断するときの固定チャック21に対する可動チャック22の位置関係が安定する。
【0028】
(作用効果)
以上、詳細に説明したように、本第2の実施形態によれば、可動チャック22は、所定距離Lずれた位置で固定チャック21と当接するので、可動チャック22は基板M上を滑って移動することなく、初めから割断位置(割断用スリットM3から所定距離Lずれた位置)で、基板Mの他方M2を、割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して傾斜角θ1だけ傾斜して把持することができる。そのため、前記第1の実施形態による作用効果に加えて、基板Mの他方M2を可動チャック22が基板Mと傾斜して把持する位置を正確に再現することができる。可動チャック22の把持位置を正確に再現できるので、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断するときの固定チャック21に対する可動チャック22の位置関係が安定する。
そのため、基板Mを3点曲げで割断するときの位置を正確に管理することができ、磁石材料などの脆性材料の基板Mを割断するときに端面で欠損を生じにくく、割断した端面精度を確保しやすい。
【0029】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
(1)例えば、上記第1の実施形態では、可動チャック12の回転角θを検出して、可動チャック12の把持力を増大させたが、必ずしも回転角θに限定する必要はない。例えば、把持開始からの時間を検出して、所定時間経過後に可動チャック12の把持力を増大させてもよい。可動チャック12は、割断用スリットM3から所定距離Lずれた位置で、基板Mの他方M2を、割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することができれば、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断することができるからである。
(2)例えば、上記第2の実施形態では、固定チャック21の上部把持部21Aに突部21A1を形成して、可動チャック22と当接させたが、必ずしも突部21A1の形成を固定チャック21の上部把持部21Aに限定する必要はない。例えば、固定チャック21の下部把持部21Bでもよいし、可動チャック22の上部把持部22A又は下部把持部22Bでもよい。可動チャック22が、割断用スリットM3から所定距離Lずれた位置で基板Mの他方M2を割断用スリットM3を通過する基板Mの垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することができれば、割断用スリットM3を挟んで3点曲げで割断することができるからである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、例えばハイブリッド車や電気自動車等に用いる回転電機に好適な磁石材料の基板を割断する割断方法及び割断装置として利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1、2 割断装置
11、21 固定チャック
12、22 可動チャック
21A、22A 上部把持部
21B、22B 下部把持部
21A1 突部
M 基板
M1 基板の一方
M2 基板の他方
M3 割断用スリット
M12、M23 割断した端面
θ 可動チャックの回転角、傾斜角
P1、P2、P3 押圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
割断用スリットを上面に形成した脆性材料の基板を前記割断用スリットに沿って割断する基板の割断方法において、
前記割断用スリットと隣接して前記基板の一方を固定チャックが前記基板と平行に把持し、前記割断用スリットから前記固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で前記基板の他方を可動チャックが前記割断用スリットを通過する前記基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することによって前記基板を割断することを特徴とする基板の割断方法。
【請求項2】
請求項1に記載された基板の割断方法において、
前記可動チャックの把持力を可変とし、前記可動チャックが円弧軌跡上を移動して前記所定距離ずれた位置で前記把持力を増大することを特徴とする基板の割断方法。
【請求項3】
請求項1に記載された基板の割断方法において、
前記可動チャックは、前記所定距離ずれた位置で前記固定チャックと当接することを特徴とする基板の割断方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された基板の割断方法において、
前記基板は、板状の磁石材料であることを特徴とする基板の割断方法。
【請求項5】
割断用スリットを上面に形成した脆性材料の基板を前記割断用スリットに沿って割断する基板の割断装置において、
前記基板を把持する固定チャックと可動チャックとを備え、
前記固定チャックは、前記割断用スリットと隣接する前記基板の一方を前記基板と平行に把持すること、
前記可動チャックは、前記割断用スリットから前記固定チャックと反対方向に所定距離ずれた位置で前記基板の他方を前記割断用スリットを通過する前記基板の垂直線に対して上方が開く方向に傾斜して把持することを特徴とする基板の割断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250491(P2012−250491A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126099(P2011−126099)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】