説明

基礎下免震周辺土の排出構造

【課題】建物の躯体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震において、基礎周りに埋め戻される埋め戻し土が地震時に排出される基礎下免震周辺土の排出構造を提供する。
【解決手段】基礎周りに埋め戻される埋め戻し土6と地盤面7との間に土すべり境界面が形成され、基礎下免震が稼働時に基礎の移動によって、土すべり境界面を境として埋め戻し土が外部へ押し出される。基礎周りに埋め戻される埋め戻し土6と地盤面7との間に土すべり境界面が形成されているため、地震時に埋め戻し土6が押しつぶされることなく、側方に掻き出される。また、一旦掻き出された埋め戻し土6は基礎周辺の地盤面に掻き出されたままなので、地震の揺れにより上部構造が逆方向に揺れ戻る時にも抵抗とならない。
土すべり境界面として、埋め戻し土と地盤面との間に挿入される境界部材が用いられているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎下免震周辺土の排出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震対策として、建物本体を支承材で受けて地盤面と分離させ、地震時の揺れを吸収する免震装置は様々提案されている。
【0003】
しかし、基礎と建物本体との間に免震支承材を設けた従来の免震装置では、建物を支持する構造架台を設けなければならず、架台にかかるコストが大きくなるといった問題があった。
【0004】
そこで、建物の躯体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−147783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、基礎下免震では、地震時に基礎を含む建物全体が地盤面に対して動き地震の揺れを吸収するため、基礎の周囲に埋め戻した埋め戻し土は、排出されることなく、基礎部の変位にともなって押しつぶされてしまう。そのため、埋め戻し土の固さによって抵抗力にばらつきがでるため、免震設計をすることが難しく、十分な免震効果を発揮させることが難しかった。
【0007】
また、土の抵抗力の不明確さを排除するために、基礎周辺にクリアランスを設けると通常時に敷地を有効に使用する妨げとなる。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑み、建物本体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震において、基礎周りに埋め戻される埋め戻し土が地震時に排出される基礎下免震周辺土の排出構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、建物本体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震において、
該基礎周りに埋め戻される埋め戻し土と地盤面との間に土すべり境界面が形成され、
基礎下免震が稼働時に基礎の移動によって、土すべり境界面を境として埋め戻し土が外部へ押し出されることを特徴とする基礎下免震周辺土の排出構造により解決される。
【0010】
基礎周りに埋め戻される埋め戻し土と地盤面との間に土すべり境界面が形成されているため、地震時に埋め戻し土が押しつぶされることなく、側方に掻き出される。また、一旦掻き出された埋め戻し土は基礎周辺の地盤面に掻き出されたままなので、地震の揺れにより上部構造が逆方向に揺れ戻る時にも抵抗とならない。
【0011】
埋め戻し土が土すべり境界面にそって基礎周辺へ掻き出されるとき、土すべり境界面と埋め戻し土との摩擦係数を管理することで、埋め戻し土の掻き出し時の摩擦抵抗を定量的に把握でき、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0012】
また、上記の基礎下免震周辺土の排出構造において、土すべり境界面が基礎周りに埋め戻される埋め戻し土と地盤面との間に介設される土すべり境界部材からなっているとよい。
【0013】
土すべり境界面として、埋め戻し土と地盤面との間に介設される境界部材が用いられることで、埋め戻し土と地盤面との境界からなる土すべり境界面より一層、効果的に埋め戻し土が基礎の側方に掻き出される。
【0014】
さらに、埋め戻し土が土すべり境界面にそって基礎周辺へ掻き出されるときの土すべり境界面と埋め戻し土との摩擦係数を管理しやすくなり、埋め戻し土の掻き出し時の摩擦抵抗を定量的に把握でき、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0015】
また、上記土すべり境界部材がシートからなり、シートの一方の端部が基礎下端部外周側に密着されているとよい。
【0016】
土すべり境界部材がシートからなり、シートの一方の端部が基礎下端部外周側に密着しているので、建物上部構造が変位したとき、基礎によって埋め戻し土が掻き出されるとともに、土すべり境界部材であるシートは圧縮されるが、土すべり境界部材がシートであるため、シートの変形による抵抗は小さく、免震性能に影響を与えることはない。また、埋め戻し土が掻き出されるときの摩擦抵抗を把握することで、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0017】
また、土すべり境界部材としてのシートが基礎下端部外周側に密着しているため、埋め戻し土やその他の地中埋設物などが、建物本体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面に入り込むことがなく、建物本体を支持する基礎と地盤面の間の摩擦係数は一定に保たれ、基礎下免震は設計どうりの免震性能を発揮することができる。
【0018】
また、土すべり境界部材がシートからなるため、土すべり境界面をコスト的にも有利に実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以上のとおりであるから、建物本体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震において、基礎周りに埋め戻される埋め戻し土が地震時に排出される基礎下免震周辺土の排出構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示す基礎下免震構造において、1は建物本体を支持する上部基礎、2は建物本体、4は上部基礎1と建物本体2からなる上部構造3を地盤面より支持する地盤基礎、5は上部基礎1と地盤基礎4との間に介設され、上部構造1が地盤基礎4間の横滑りを円滑に行うための基礎下すべり材、6は上部基礎の周辺に埋め戻される埋め戻し土、7は地盤、8は埋め戻し土6と地盤7との境界面に介設される土すべり境界面としての土すべり境界シートである。
【0022】
本基礎下免震構造では、地盤面上に地盤基礎4を設置したあと、基礎下すべり材5を介して、地盤基礎4上に上部基礎1を設置し、その上に建物本体2を施工する。上部基礎1が地盤基礎4上を基礎下すべり材5を介して水平方向に相対移動可能に配置されているため、地震時に揺れが発生した場合に、上部構造3は、地盤基礎4上を水平方向に移動することによって、地震の揺れを吸収し、地震による建物の損害を防止する。
【0023】
なお、図示しないが免震構造では、地盤基礎4と上部構造3間によるすべり機構の他に、地震による揺れによる振動を減衰する減衰装置や、地震の揺れが終わった後に、上部構造3を原点位置に復帰する原点復帰装置、平常時に風による建物の揺れを防止する風揺れ防止装置などの装置により構成されている。
【0024】
土すべり境界シート8は、一方の端部を上部基礎1の下端面外周側に貼り付けられる。上部基礎1と基礎下すべり材5との間に土などの異物が侵入するのを防止するため、上部基礎1の下端面と土すべり境界シート8との境界面にはコーキング等がなされているとよい。
【0025】
土すべり境界シート8の上部基礎1の下端面に貼り付けられる端部と反対側の端部は、上部基礎1周辺部の地盤面へ敷き広げられる。上部構造3の移動によって後述する埋め戻し土6が、小さな抵抗でしなやかに地盤面へ掻き出されるために、図1に示すように、土すべり境界シート8は敷き広げられる上部基礎1の周辺部の地盤7は外周部から上部基礎側方向に傾斜する傾斜面7aが形成されている。傾斜面7aの形状はここでは、下に凸の円弧状に形成されている。この傾斜面7aに沿って土すべり境界シート8は敷き広げられ、その上から埋め戻し土6が埋め戻される。
【0026】
土すべり境界シート8の上部基礎1の下端面に貼り付けられる端部と反対側の端部は、地震のない通常時に邪魔にならないように折り返されて、埋め戻し土8の中に埋め込まれていてもよいし、地上面から飛び出ない寸法に端部を切り落とされていてもよい。
【0027】
地震時の埋め戻し土6が掻き出される状況は次のようになる。
【0028】
図2に順次示すように図(イ)の平常時から地震が発生し、上部構造3が地盤基礎4上を水平方向に揺れると、図(ロ)に示すように上部構造3は水平方向(左方向)に移動し、上部基礎1の周辺部にある埋め戻し土6が側方へと掻き出される。土すべり境界シート8の一方の端部は上部基礎1の下端面に貼り付けられており、上部基礎1の移動によって、上部基礎1の下端面に貼り付けられている土すべり境界シート8も周辺側に押しつけられる。埋め戻し土6は、上部基礎1に押されることにより、土すべり境界シート8上をすべり、地盤面上に掻き出されるが、埋め戻し土6は土すべり境界シート8上をすべるため、埋め戻し土6が上部基礎1により掻き出させるときの摩擦抵抗は定量的に把握することができる。
【0029】
地震の揺れにより、上部構造3が逆方向(右方向)に移動したとき、上部構造3は地盤基礎4上を水平方向に移動し、掻き出された埋め戻し土6は、地盤7上に残るか一部は境界シート8上に崩れ落ちるが、掻き出されたあと元の位置に復元しない。そのため、再び最初の方向(左方向)に移動したときでも上部基礎1が移動するときに埋め戻し土6が抵抗となることはない。
【0030】
また、上部構造3が逆方向(右方向)に移動したときは、上部基礎1の周辺にある埋め戻し土6は上記と同様に掻き出される。
【0031】
埋め戻し土が土すべり境界面にそって基礎周辺へ掻き出され、また、土すべり境界面と埋め戻し土との摩擦係数を管理することで、埋め戻し土の掻き出し時の摩擦抵抗を定量的に把握でき、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0032】
特に、土すべり境界面として、埋め戻し土と地盤面との間に介設される境界部材が用いられることで、埋め戻し土と地盤面との境界からなる土すべり境界面より一層、効果的に埋め戻し土が基礎側方に掻き出される。
【0033】
さらに、埋め戻し土が土すべり境界面にそって基礎周辺へ掻き出されるときの土すべり境界面と埋め戻し土との摩擦抵抗を把握しやすくなり、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0034】
土すべり境界部材が土すべり境界シートからなり、土すべり境界シートの一方の端部が基礎下端部外周側に密着しているので、上部構造が変位したとき、基礎によって埋め戻し土が掻き出されるとともに、土すべり境界部材である土すべり境界シートは圧縮されるが、土すべり境界部材が土すべり境界シートであるため、圧縮するための抵抗は少なく、土すべり境界シートの変形による抵抗は小さく、免震性能に影響を与えることはなく、埋め戻し土が掻き出されるときの摩擦抵抗を把握することで、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0035】
また、土すべり境界部材としての土すべり境界シートが基礎下端部外周側に密着しているため、埋め戻し土やその他の地中埋設物などが、建物の躯体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面に入り込むことがなく、建物の躯体を支持する基礎と地盤面の間の摩擦係数は一定に保たれ、基礎下免震は設計どうりの免震性能を発揮することができる。
【0036】
また、土すべり境界部材が土すべり境界シートからなるため、土すべり境界面をコスト的にも有利に実現することができる。
【0037】
図3に示す本発明の第2の実施形態において、土すべり境界部材として第1実施形態の土すべり境界シートの変わりにコンクリート成形品9が使用されている。
【0038】
土すべり境界部材としてコンクリート成形品9を埋め戻し土と地盤面の境界面に配置されているため、埋め戻し土が土すべり境界面にそって基礎周辺へ掻き出される。また、土すべり境界面と埋め戻し土との摩擦係数を管理することで、埋め戻し土の掻き出し時の摩擦抵抗を定量的に把握でき、基礎下免震構造を定量的に設計することができる。
【0039】
また、土すべり境界面をコンクリート成形品9で形成しているので、地震後の復旧時には、基礎の周囲に掻き出された埋め戻し土をコンクリート成形品9で形成された土すべり境界面に埋め戻すだけでよく、地震後の復旧を容易に行うことができる。
【0040】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、土すべり境界面に傾斜をつけ、地震時に埋め戻し土が土すべり境界面周辺部に掻き出される場合について示したが、土すべり境界面を緩やかな傾斜面として、地震時に埋め戻し土が基礎に押し出されることで、土すべり境界面周辺部に掻き出させることなく、土すべり境界面上で盛り上がるように設定されていてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、土すべり境界部材として、境界シートやコンクリート成形品など定型性のある部材を用いた場合について示したが、地盤面と埋め戻し土を仕切り、地震時の基礎の移動の際に埋め戻し土が圧縮されることなく、周辺に掻き出され、掻き出されるときの摩擦抵抗が管理できればよく、境界部材として砂やビーズ等の不定形部材であってもよい。また、埋め戻し土は、土ではなく砂利などの粒状物であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態を示す断面正面図である。
【図2】図(イ)乃至(ニ)は、地震時に埋め戻し土が掻き出される状況を順に示す断面正面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す断面正面図である
【符号の説明】
【0043】
1・・・上部基礎
2・・・建物本体
3・・・上部構造
4・・・地盤基礎
5・・・基礎下すべり材
6・・・埋め戻し土
7・・・地盤
8・・・境界シート
9・・・コンクリート成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物本体を支持する基礎と地盤面の間を摺動面とする基礎下免震において、
該基礎周りに埋め戻される埋め戻し土と地盤面との間に土すべり境界面が形成され、
基礎下免震が稼働時に基礎の移動によって、土すべり境界面を境として埋め戻し土が外部へ押し出されることを特徴とする基礎下免震周辺土の排出構造。
【請求項2】
前記土すべり境界面が基礎周りに埋め戻される埋め戻し土と地盤面との間に介設される土すべり境界部材からなる請求項1に記載の基礎下免震周辺土の排出構造。
【請求項3】
前記土すべり境界部材がシートからなり、該シートの一方の端部が基礎下端部外周側に密着されている請求項2に記載の基礎下免震周辺土の排出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138576(P2010−138576A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314384(P2008−314384)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】