説明

基礎代謝増強剤

【課題】基礎代謝を増強し、疲労を予防又は早期回復させ、活動意欲を高め、肥満を抑制し、肥満と関連する生活習慣病を予防する上で有用な基礎代謝増強剤、及び該基礎代謝増強剤を産業上有効活用できる態様の組成物を提供する。
【解決手段】チオクト酸類又はチオクト酸類とクレアチン等とを有効成分として含有してなる基礎代謝増強剤が提供され、ここでチオクト酸類はチオクト酸、その還元体、光学異性体、これらの塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選択される少なくとも1種、前記物質の脂質被覆物、該脂質被覆物を更に親水性物質で被覆した二重被覆物が望ましい。又、これらの組成物を含有してなる飲食品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎代謝増強剤、これを含有してなる飲食品及びこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物が生命活動を維持するためには生体産生エネルギーを必要とし、この生体エネルギーは次のような過程で産生される。すなわち、摂取した食物が消化、吸収され、細胞に移送、蓄積されたブドウ糖(グルコース)や主に肝臓や筋肉に貯蔵されたグリコーゲン等が解糖系の酵素反応によってグルコース6−リン酸を経てピルビン酸を生成し、これが細胞ミトコンドリア内でアセチルCoAに変換され、更にTCA回路でクエン酸やオキザロ酢酸等に変換される一連の代謝過程で生成するATP(アデノシン三リン酸)、NADH及びNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型及び酸化型)等を直接的エネルギー源として利用する。又、脂肪は脂肪酸のβ酸化反応を受け、アセチルCoAを経て、同様にTCA回路で代謝されて生体エネルギー産生に関与する。
【0003】
通常の精神的及び肉体的活動においては、十分な酸素が存在するため好気的解糖反応が優先し、グルコースやグリコーゲンが主に生体エネルギー源として利用され、生成したピルビン酸はTCA回路で順次代謝されて乳酸を生じない。これに対して、多量の生体エネルギーを必要とする強度の活動(過負荷状態の作業やスポーツ運動等)では、酸素不足状態での嫌気的解糖反応がおき、TCA回路における代謝エネルギー産生反応がその前段階のピルビン酸産生反応に対して律速になり、いわば過剰のピルビン酸が生成することになり、この一部が乳酸脱水素酵素によって乳酸に変換されるため、乳酸が生体内とりわけ筋肉組織に蓄積されることになる。
【0004】
基礎代謝とは、快適な温度(20〜25℃)で肉体、精神ともに安静で、空腹(食後12〜16時間)、横臥時覚醒状態における消費エネルギーであると一般に定義されている(非特許文献1)。すなわち、基礎代謝は生命を維持するために必要最小限の消費エネルギーを意味し、一定条件下で測定された基礎代謝量は各個体においてほぼ同じ値を有するが、個体間では体格、性別、年齢、環境条件等の要因によって変動する。例えば、体格が大きいほど体表面積が多くなり、体表からの放出エネルギー量が増えるため基礎代謝量は多くなり、女子は男子より体脂肪が多く、体格が小さいため基礎代謝量は通常6〜10%少ない。体表面積当たりの基礎代謝量は生後2〜3歳で最高値となり、その後急激に低下し、思春期以降はゆるやかに更に低下する。環境温度が低くなると体温維持のために発熱エネルギー量が多くなるから基礎代謝量は高くなり、運動や重労働の場合は基礎代謝量を高め、肥満者は体脂肪が多く、基礎代謝量は低い。
【0005】
加齢にともなう基礎代謝量の低下は、食事エネルギーの消費を低下させるため肥満傾向を促進し、肥満との因果関係が指摘されている生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、虚血性心疾患等)を誘発する要因や体質となる。又、体内で産生されるエネルギー量が低下するため、身体の疲労回復遅延や倦怠感を招き、活動意欲、やる気といった精神心理面へも負影響を及ぼす。
【0006】
乳酸は、従来、身体活動時のアンモニア産生や焦性ブドウ糖等とともに筋肉の疲労物質であり、疲労にともない生じる筋肉痛の主要因であると考えられてきたが、乳酸がアセチルCoAに変換されてTCA回路に入り代謝されることからむしろ疲労を緩和する物質の可能性があると解釈する考えもある(非特許文献2)ものの、一般的には、疲労発生にともなって乳酸が筋肉に蓄積すること、それにより筋肉組織の酸性度が高まり、酵素類の活性が低下し、筋肉運動に必要な生体エネルギーの産生が抑制されること等から、乳酸は疲労関連物質のひとつであると解釈する説が有力である。
【0007】
疲労を軽減させるために、日常的には、エネルギー不足を補う点から食事において生体エネルギー源となる炭水化物やビタミンB群の摂取が勧められ、疲労を回復させるための手軽な方法として栄養バランスのとれた食事をとり、入浴やマッサージで血行を良くして、十分な休養をとること等が行われている。又、疲労の予防や回復、体力増強の点から、特定のアミノ酸混合物(特許文献1)、牛肉分解ペプチド(特許文献2)、ミネラル酵母、ドロマイト、ヘム鉄及び海藻の組み合わせ(特許文献3)、霊芝成分(特許文献4)、コエンザイムQ10、カルニチン及び有機酸の組み合わせ(特許文献5)、乳ホエイ蛋白質(特許文献6)等の摂取が提案されている。しかしながら、これらを経口摂取する場合には消化吸収性の点で難点があるものがあり、実用面においても有効性が十分満足できるものは数少ないのが実情であった。
【0008】
ところで、後述するチオクト酸については次のようなことが知られてる。チオクト酸は、α−リポ酸、1,2−ジエチレン−3−ペンタン酸、1,2−ジエチレン−3−吉草酸、1,2−ジチオラン−6−ペンタン酸又は1,2−ジチアシクロペンタン−3−吉草酸等とも称せられる。淡黄色ないし黄色の結晶ないし結晶性粉末で、特異臭を有し、融点がラセミ体:60〜61℃、R体:46〜48℃、S体:45〜48℃であり、水にわずかに溶け、エタノール、アセトン等の有機溶剤や希アルカリ水に溶解する性質をもつ。チオクト酸は植物、動物・ヒト、微生物の生体内で合成され、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体や2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の種々ある補酵素のひとつとして生物利用され、又、アシル基転移反応を触媒することが知られている。
【0009】
近年、チオクト酸及びその還元型であるジヒドロチオクト酸(6,8−ジメルカプト−オクタン酸)の機能に関する研究が進み、これらは強力な抗酸化力を有することが注目されており、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシラジカル、ペルオキシラジカル、一重項酸素等の活性酸素種と親和性が高く容易に反応して該活性酸素種の作用を失わしめ、生体組織へのダメージを低減させ、ビタミンCやグルタチオンとの相互作用により細胞膜を保護し、又、ビタミンEを再生する効力を有するといわれている(非特許文献2)。チオクト酸の薬理作用については、虚血性再灌流時の組織損傷、糖尿病、白内障、神経変性、放射線障害、炎症性疾患等の酸化ストレスの病態モデルに対して有効であることが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、チオクト酸及びその誘導体が基礎代謝を増強させたり、これにより疲労を予防し又は早期回復させること、あるいは活動意欲を向上させること等に関する報告は見当たらない。
【0010】
尚、一般に、粉末や粒子等を芯物質としてその表面周囲を高分子物質や脂質等の疎水性物質で被覆する技術は従来から知られており、かかる被覆処理によって芯物質の味や香りを安定に保持させたり、吸湿を防止したり、粉体流動性を改善し、あるいは芯物質が水溶性成分である場合の該成分の漏出を防止したりすることが提案されている(特許文献7、8及び9)。しかし、かかる被覆処理による芯物質の保護作用は、香味成分等の品質保持、防湿性、水溶性成分の漏出防止等の物理的性状の改善効果をねらいとしたものである、
【0011】
【特許文献1】特開平8−198748号公報
【特許文献2】特開平10−113147号公報
【特許文献3】特開2003−198号公報
【特許文献4】特開平5−124974号公報
【特許文献5】特開2005−97161号公報
【特許文献6】特開2005−289861号公報
【特許文献7】特開昭63−226250号公報
【特許文献8】特開平9−70285号公報
【特許文献9】特許第3512238号公報
【非特許文献1】栄養学ハンドブック編集委員会編、「第三版栄養学ハンドブック」、技報堂出版株式会社、1996年11月発行
【非特許文献2】Thomas H.Pedersen等、“Intracellular Acidosis Enhances the Excitability of Working Muscle.”(アメリカ)、2004年、Science、第305巻、8月20日号、第1144頁〜第1147頁
【非特許文献3】Indrani Maitra等、“α−lipoic acid prevents buthionine sulfoximine−induced cataract formation in newborn rats.”(オランダ)、1995年、Free Radical Biology and Medicine、第18巻、4月号、第823頁〜第829頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
かかる現状に鑑み、本発明者らは、身体の基礎代謝を増強させ、これに基づき疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善、更には生活習慣病の予防のために有用な素材ないし組成物を開発し、これを産業上有効に活用できる態様の組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明者らは、各種多様な原料素材と基礎代謝増強能、疲労、活動意欲、肥満、各種疾病等との関連性について鋭意検討を重ねた結果、チオクト酸類が極めて顕著な効果を奏すること、又、これを飲食品、飼料、化粧品、医薬品等の分野に有効利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、チオクト酸類を有効成分として含有してなることを特徴とする基礎代謝増強剤が提供される。
【0015】
この基礎代謝増強剤において、チオクト酸類は、チオクト酸、その還元体であるジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものであることが望ましい。
【0016】
更には、チオクト酸類は、チオクト酸、その還元体であるジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなるものがより望ましい。又、チオクト酸類は、チオクト酸、その還元体であるジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなるものの外表面を更に親水性物質で被覆したものがより望ましい。尚、前記チオクト酸類は、光学異性体のうちラセミ体を利用することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、又、前記チオクト酸類と、カフェイン、クレアチン及びその誘導体、グルコサミン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン加水分解物、コリン、コリン塩、ホスファチジルコリン、セリン、ホスファチジルセリン、メチルスルホニルメタン、ホエー蛋白質、ピルビン酸及びその塩、L−カルニチン、その前駆体であるリジン又はメチオニン及びそれらの塩、D−リボース、アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、タウリン、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸、パントテン酸、ラクトフェリン、共役リノール酸、クエン酸、リンゴ酸、ミネラル酵母、ショウガ、トウガラシ、及びヒドロキシクエン酸からなる群から選択される少なくとも1種とを併用してなる基礎代謝増強剤が提供される。
【0018】
この基礎代謝増強剤において、併用する原料成分はクレアチン及び/又はその誘導体、L−カルニチン及び/又はその前駆体であるリジン又はメチオニン及び/又はそれらの塩、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ホスファチジルセリン、ショウガ、トウガラシ及びヒドロキシクエン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上がより望ましく、クレアチン及び/又はその誘導体が最も望ましい。クレアチン誘導体としては、クレアチン塩、クレアチン一水和塩、クエン酸クレアチン、ピルビン酸クレアチン及びホスホクレアチンからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることが好適である。
【0019】
本発明においては、基礎代謝の増強とは疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善、及び生活習慣病の予防からなる群のうち少なくとも1つであることを包含する。したがって、前記の基礎代謝増強剤は、基礎代謝増強による疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善、あるいは生活習慣病の予防のための剤として解釈されるべきものである。
【0020】
本発明によれば、更に、前記いずれかの基礎代謝増強剤を含有してなることを特徴とする、基礎代謝増強による疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善あるいは生活習慣病の予防のための飲食品が提供される。更に又、前記いずれかの基礎代謝増強剤又は飲食品を運動前に経口摂取することを特徴とする、基礎代謝増強による疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善あるいは生活習慣病の予防のための方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の基礎代謝増強は、品質の安定性に優れ、これを経口的に摂取することにより、有効成分が体内で消化分解されることなく効率的に吸収され、基礎代謝量の増強に顕著な効果を奏し、基礎代謝増強にともなう疲労の予防及び/又は早期回復,とりわけ疲労予防に極めて有効であり、基礎代謝量の高まりによって活動意欲、やる気、活力といった精神心理面における改善に効果を発現し、更に肥満の予防及び改善、肥満と関連性のある各種生活習慣病の予防にも有益である。このため、本発明の基礎代謝増強剤は、飲食品、飼料、医薬品等の分野において、前記基礎代謝改善剤のままで又は従来の前記各種分野の製品に含有せしめた形態で有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に係る基礎代謝増強剤の第1の態様は、チオクト酸類を有効成分として含有してなることを特徴とする。
【0023】
ここで、チオクト酸類の起源や種類は特に限定されるものではなく、牛や豚の肝臓等臓器の天然物抽出物や、例えば、エチレン及びアジピン酸エステルを出発原料とする化学的合成品等公知の方法で採取、製造されたものでよい。尚、チオクト酸は不斉炭素を有するため光学的に鏡像異性体((R)−エナンチオマー及び(S)−エナンチオマー)が存在するが、本発明に係るチオクト酸はこれらのいずれか単独でも任意割合の混合物でもよく、又、ラセミ混合物やラセミ体でも差し支えない。工業生産レベルの実施においては、安価で容易に入手できる市販のラセミ体を利用するのが簡便であり、ラセミ体を用いると本発明の所望の効果をより強力に発現する傾向が大きいので望ましい。
【0024】
本発明に係る基礎代謝改善剤に使用するチオクト酸類は、前記チオクト酸のほか各種誘導体を適宜に利用することができる。そのうち、チオクト酸の還元体、これらの光学異性体、好適にはラセミ体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選択される1種又は2種以上のものであることが望ましい。チオクト酸の還元体の具体例としてジヒドロチオクト酸、ジヒドロリポ酸、6,8−ジメルカプト−オクタン酸等を挙げることができ、同様に光学異性体としては(R)−チオクト酸、(S)−チオクト酸、(R),(S)−チオクト酸、(R)−ジヒドロチオクト酸、(S)−ジヒドロチオクト酸、(R),(S)−ジヒドロチオクト酸等、光学ラセミ体としては(R),(S)−チオクト酸、(R),(S)−ジヒドロチオクト酸等、塩としては(R)−チオクト酸、(S)−チオクト酸、(R),(S)−チオクト酸、(R)−ジヒドロチオクト酸、(S)−ジヒドロチオクト酸、(R),(S)−ジヒドロチオクト酸等のカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等、エステルとしては(R)−チオクト酸、(S)−チオクト酸、(R),(S)−チオクト酸、(R)−ジヒドロチオクト酸、(S)−ジヒドロチオクト酸、(R),(S)−ジヒドロチオクト酸等と多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、エリスリトール、ポリグリセリン等のモノマーないしポリマー)との部分エステル若しくは完全エステル又はグリセリド類(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、あるいは炭素数10〜22の高級アルコール類(デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)とのモノエステル等、アミドとしては(R)−チオクト酸、(S)−チオクト酸、(R),(S)−チオクト酸、(R)−ジヒドロチオクト酸、(S)−ジヒドロチオクト酸、(R),(S)−ジヒドロチオクト酸等のアミドを例示することができる。又、シクロデキストリン包接物の例としては、前記チオクト酸類とα−、β−、γ−及び/又はδ−シクロデキストリンとの包接物があり、本発明においては、α−又はγ−シクロデキストリン包接物が好適である。尚、本発明はこれらの例示によって限定されるものではない。
【0025】
本発明に係る基礎代謝改善剤において使用できるチオクト酸類は、前記のチオクト酸類の1種又は2種以上の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなるものを包含し、この態様はチオクト酸類の熱的変質(分解、重合、変色等)、吸湿あるいは酸化的変性を抑制し、風味や味覚を改善し、又、摂取後の有効成分の緩効性等の点等から更に望ましいものである。
【0026】
かかるチオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を被覆する脂質類は、本発明の基礎代謝改善剤が利用される産業分野において許容されるものであればよく、一般の食用油脂類又は工業用油脂類、脂肪酸グリセリド類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、脂肪酸アミド類、高級アルコール類、ワックス類、ステロール類、糖脂質類、リン脂質類等を単独で又は組合せて利用できる。これらのうち、被覆作業性及び被覆物の物性(安定性、固化性、流動性、溶融性、溶解性等)を考慮すると、融点が約30℃以上の脂質類がよい。より好ましい形態は融点が約40℃〜約70℃の脂質類であり、最も好ましい形態は融点が約40℃〜約60℃の脂質類である。融点が約30℃を下回ると、被覆物がその使用時に固形状態を維持できない場合があり、塊状物を形成することがあり、あるいは流動性を損なう場合がある。逆に、約70℃を上回ると、本発明に係る組成物を製造する際の加熱処理や機械的エネルギーの影響でチオクト酸類自体が劣化するおそれがある。
【0027】
このような脂質類の具体例として、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、小麦胚芽油、米油、ゴマ油、オリーブ油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、亜麻仁油、落花生油等の植物系油脂、牛脂、ラード、魚油等の動物系油脂、これらに分別、エステル交換、脱色、脱臭等の処理のうち1以上を施した加工油脂、これらを部分的又は完全に水素添加処理した各種硬化油、炭素数2〜22の飽和脂肪酸(酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等)若しくは不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、リシノール酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸(EPA)、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)等)、これらの任意の脂肪酸の塩類(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、1価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)とのエステル類、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、エリスリトール等のモノマーないしポリマー)との部分若しくは完全エステル類、又はグリセリド類(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、炭素数10〜22の高級アルコール類(デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、ワックス類(カルナウバワックス、ライスワックス(米糠ロウ)、キャンデリラワックス等の植物由来ワックス、ミツロウ、鯨ロウ、セラックロウ等の動物由来ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油由来ワックス、モンタンロウ、オゾケライト等の鉱物由来ワックス、ポリエチレンワックス、前記脂肪酸類と前記高級アルコール類とのエステル等の合成ワックス)、ステロール類(動物性のコレステロール、植物性のカンペステロール、スチグマステロール、シトステロール等、菌類由来のエルゴステロール、これらの誘導体)、リン脂質類(動植物由来のレシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン等)、糖脂質類(モノグルコシルジグリセリド、モノガラクトシルジグリセリド、ジグルコシルモノグリセリド、ジガラクトシルモノグリセリド、モノグルコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル等)を挙げることができる。尚、本発明はこれらの例示によって何ら限定されるものではない。
【0028】
本発明では前記各種脂質類のいずれか1種又は2種以上の混合物として使用できるが、好適な脂質類の種類は、前記の食用油脂類又は工業用油脂類、脂肪酸グリセリド類、脂肪酸エステル類及びワックス類であり、より好ましくは食用油脂類及び脂肪酸グリセリド類であり、又、これらと脂肪酸類、高級アルコール類、ステロール類、糖脂質類又はリン脂質類から選ばれる1種又は2種以上との組み合わせは被覆脂質の融点調整、被覆膜強化等の点からさらに望ましい態様である。
【0029】
チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被膜するには、公知の方法を利用できる。すなわち、ボールミル、フラッシュブレンダー(粉粒体混合機)、V型混合機、高速ミキサー、高速パドルミキサー、加熱溶融混合機、超音波過湿加液型混合機、タンブラー混合機、加圧押出機等を用い、チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子と加熱溶融した脂質類とを均一に混合し、冷却して固化させた後これを粉砕する方法、前記形態のチオクト酸類に適宜加熱して液状化した脂質類を噴霧あるいは滴下して被覆する方法、前記形態のチオクト酸類と粒子状の脂質類とを高速攪拌して混合し、両者を接触又は衝突させることによってチオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子の表面全体に粒子状の脂質類を均一に付着させて被覆する方法等が可能である。本発明では、これらのうち、チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子と前述の特定融点以上の粒子状脂質類とを高速攪拌して混合し、両者を接触又は衝突させて、前記形態のチオクト酸類の表面全体に粒子状の脂質類を均一に被覆させる方法が望ましい。
【0030】
前述の被覆処理にあたり、チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子と脂質類との比率は、チオクト酸類の結晶、粉末及び粒子の形状やサイズ、脂質類の種類及び融点、被覆膜の厚みと性状等の要因によって一律に規定することは難しいが、概ね、チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子1重量部に対して脂質類約0.05重量部〜約10重量部、好ましくは約0.1重量部〜約5重量部である。脂質類が約0.05重量部未満であると被覆状態が十分でなく所望の効果を発現し難くなり、逆に約10重量部を超えると被覆物中のチオクト酸含量が少なく、被覆物を利用する場面において配合率等が制限され実用的価値を損なう場合がある。
【0031】
なお、前述したチオクト酸類の脂質類による被覆物は、これを飲料等の水系組成物に適用する場合を含めて、更にその外表面を親水系物質で被覆してなる態様のものがより一層望ましい。ここで、親水系物質とは、脂質類による被覆物の外表面を更に被覆し、水性物質と親和性を有する被覆膜形成能のあるものをいい、具体例として多糖類(キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム等)、澱粉及び化工澱粉、酵母細胞壁成分、グルカン、マンナン、シェラック、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カラギーナン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、大豆たん白、ホエーたん白、ツェイン等を挙げることができる。より好適には多糖類、澱粉、酵母細胞壁成分、シェラック、ゼラチン、大豆たん白、ツェイン及びマンナンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくは酵母細胞壁成分、シェラック及びゼラチンである。
【0032】
かかる親水系物質を被覆するには、前記の脂質類の被覆方法に準じた方法を採用すればよい。すなわち、前記親水系物質を適宜に水、エタノール、その他の溶媒に溶解させた液状物となし、これを予め脂質類で被覆したチオクト酸類の外表面に付着、乾燥して親水系物質の被覆膜を形成させることができる。かくして得られる被覆物は親水系物質を最外層とする二重被覆構造体となり、これを飲食品、飼料、化粧品、医薬品等に利用する場合、水性の原料や成分との親和性が高まり、これらと水溶解性の低いチオクト酸類との均質な組成物を調製することが容易になる。
【0033】
前述したようなチオクト酸類の脂質類による被覆物及び該被覆物を更に親水系物質で被覆した二重被覆物においては、これらにガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びこれらの抽出物(水及び/又は親水性有機溶媒(エタノール等の低級1価アルコール、アセトン等)による抽出エキス、その分画物や溶剤分別物又は精製物等)、カルニチンからなる群から選択される1種又は2種以上、より好ましくはアカショウマ根茎抽出物及び/又はカルニチン、最も好ましくはカルニチンを共存させることにより、チオクト酸類の熱的及び/又は酸化的変性や劣化をより一層抑制でき安定性に優れたチオクト酸類含有被覆物が得られるため、かかる態様のチオクト酸類は更に望ましい。
【0034】
これらの併用原料を、前述のチオクト酸類含有被覆物に共存せしめるには、(i)チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子に脂質類を被覆した被覆物に前記併用原料を混合する、(ii)チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子と前記併用原料とを混合したものに脂質類を被覆する、(iii)チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子に、前記併用原料の一部を分散ないし溶解させた脂質類を被覆する、(iv)チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子に脂質類を被覆した被覆物に、前記併用原料及び前記親水系物質を含む溶解液、分散液又は乳化液を付着、乾燥して被覆する、のいずれも可能であり、これらの態様を組み合せたものでも差し支えない。本発明では、(i)及び(iv)の態様が本発明の所望効果を奏し、製造が簡便であり、被覆物の取扱い作業性もよいが、(ii)及び(iii)の態様が所望の効果をより強力に発現しやすい。
【0035】
かかる態様において、チオクト酸類の結晶、粉末及び/又は粒子に脂質類又は脂質類及び親水系物質を被覆した被覆物と前記共存原料との混合比率は、該被覆物1重量部に対して前記共存原料が約0.01重量部〜約10重量部、より好ましくは約0.1重量部〜約1重量部である。約0.01重量部未満の場合は、共存原料の混合による所望効果の向上が認められなくなり、約10重量部を超える量では前記被覆物中更にはこれを使用する基礎代謝増強剤中のチオクト酸含量が低下し、ひいてはチオクト酸類含有基礎代謝増強剤を配合する各種製品中のチオクト酸含量を制限することになり、該製品段階においてチオクト酸自体の所望効果が期待できなくなる。
【0036】
本発明に係る基礎代謝増強剤の第2の態様は、前述のチオクト酸類、すなわち、チオクト酸、ジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体(望ましくはラセミ体)、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のもの、これらの結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなる脂質類被覆物、あるいは該脂質類被覆物の外表面を更に親水性物質で被覆した二重被覆物の単独又は複数と、カフェイン、クレアチン及びその誘導体、グルコサミン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン加水分解物、コリン、コリン塩、ホスファチジルコリン、セリン、ホスファチジルセリン、メチルスルホニルメタン、ホエー蛋白質、ピルビン酸及びその塩、L−カルニチン、その前駆体であるリジン又はメチオニン及びそれらの塩、D−リボース、アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、タウリン、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸、パントテン酸、ラクトフェリン、共役リノール酸、クエン酸、リンゴ酸、ミネラル酵母、ショウガ、トウガラシ、及びヒドロキシクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用してなる基礎代謝増強剤である。
【0037】
本発明においては、かかる併用原料成分のうち、クレアチン及び/又はその誘導体、L−カルニチン及び/又はその前駆体であるリジン又はメチオニン及び/又はその塩、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ホスファチジルセリン、ショウガ、トウガラシ及びヒドロキシクエン酸からなる群から選択される1種又は2種がより望ましく、クレアチン及び/又はその誘導体が最も望ましい。ここに、クレアチン誘導体としては、クレアチン塩、クレアチン−水和塩、クエン酸クレアチン、ピルビン酸クレアチン及びホスホクレアチンからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることが好適である。
【0038】
前述したように、本発明に係る基礎代謝増強剤の第2の態様は、チオクト酸類と併用原料成分の少なくとも1種とを含有してなるものであり、この場合のチオクト酸類と併用原料成分との割合は、これらの種類や形態によって一律に規定し難いが、概ねチオクト酸類:併用原料成分=90〜10:10〜90(重量比)が好ましく、70〜50:30〜50がより好ましい。
【0039】
本発明に係る基礎代謝増強剤は、これ自体を飲食品、医薬品、化粧品、飼料その他産業分野の様々な製品とすることができ、あるいは該各種製品の配合原料の一部として使用する態様でも利用できる。とりわけ飲食品用途が好適である。これらの例を以下に述べるが、本発明はこれによって何ら制限を受けるものではない。
【0040】
本発明に係る基礎代謝改善剤を適用することができる飲食品の具体例として、野菜ジュース、果汁飲料、清涼飲料、茶等の飲料類、スープ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、ふりかけ、味噌、醤油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、植物性クリーム、味噌、焼肉用たれや麺つゆ等の調味料、麺類、うどん、蕎麦、スパゲッティ、ハムやソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ハンバーグ、コロッケ、ふりかけ、佃煮、ジャム、牛乳、クリーム、バター、スプレッドやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム等の各種一般加工食品や、粉末状、顆粒状、丸剤状、錠剤状、ソフトカプセル状、ハードカプセル状、ペースト状又は液体状の栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、濃厚流動食や嚥下障害用食品の治療食等を挙げることができる。
【0041】
これらの飲食品を製造するには、公知の原材料及び本発明に係る基礎代謝改善剤を用い、あるいは公知の原材料の一部を本発明の基礎代謝改善剤で置き換え、公知の方法によって製造すればよい。例えば、本発明に係る基礎代謝改善剤と、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)、デキストリン、乳糖、澱粉又はその加工物、セルロース粉末等の賦形剤、ビタミン、ミネラル、動植物や魚介類の油脂、たん白(動植物や酵母由来の蛋白質、その加水分解物等)、糖質、色素、香料、酸化防止剤、その他の食用添加物、各種栄養機能成分を含む粉末やエキス類等の食用素材とともに混合して粉末、顆粒、ペレット、錠剤等の形状に加工したり、常法により前記例の一般食品に加工処理したり、これらを混合した液状物をゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等で被覆してカプセルを成形したり、飲料(ドリンク類)の形態に加工して、栄養補助食品や健康食品として利用することは好適である。とりわけ錠剤、カプセル剤やドリンク剤が望ましい。
【0042】
本発明に係る基礎代謝改善剤を飲食品に配合する場合の比率は、飲食品の形態、本発明に係る基礎代謝改善剤中のチオクト酸類や併用原料成分の種類、含有量、他の配合原料の種類や成分等のちがいによるため一律には規定しがたいが、飲食品中のチオクト酸含量が約0.01重量%〜約90重量%、より望ましくは約1重量%〜約50重量%となるように、チオクト酸類、その脂質被覆物及び二重被覆物を、更にはガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉、これらの抽出物及びカルニチン等から適宜選ばれる共存原料を、クレアチン及び/又はその誘導体、L−カルニチン、その前駆体であるリジン又はメチオニン及び/又はそれらの塩、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ホスファチジルセリン、ショウガ、トウガラシ及びヒドロキシクエン酸等から適宜に選択される併用原料成分を、及びその他の飲食品製造用原料を適宜に組み合わせて処方を設計し、常法に従い本発明が目的とする飲食品を調製すればよい。チオクト酸含量が約0.01重量%を下回るような飲食品ではチオクト酸類による所望効果を期待するためには多量の当該飲食品を摂取しなければならず、一方、チオクト酸類の特有の風味を考慮した飲食品の実用的な態様から、本発明に係る飲食品中の最多チオクト酸含量は約95重量%である。本発明に係る飲食品は、ヒトの場合1日あたりのチオクト酸摂取量の目安を約10mg〜約1000mg、望ましくは約30mg〜約500mg、さらに望ましくは約50mg〜約200mgとして、例えば、経口摂取、経管投与等の方法で体内に取り込むことができる。
【0043】
本発明に係る基礎代謝増強剤及び飲食品は、本発明の目的に沿って、スポーツ、重労働、身体運動等の諸活動に先立って経口摂取することが望ましく、この使用上の態様によって本発明の所望効果の1つである身体基礎代謝量が高まり、とりわけ基礎代謝増強にともない、疲労の予防及び早期回復に著効が認められる。この観点から、本発明においては、チオクト酸類やチオクト酸類及びクレアチン類等の前記併用原料成分を必ずしも同一組成物中に含有せしめる制限はなく、これらを別々に含む複数の組成物あるいは飲食品として調製し、かかる組成物あるいは飲食品をほぼ同時に経口摂取することは本発明の技術的範囲に属する。又、本発明に係る基礎代謝増強剤及び飲食品は、前記運動等にかかわらず、日常生活において摂取することにより、基礎代謝増強効果に基づき活動意欲、活力等の精神心理面での促進効果が認められ、肥満の予防又は改善、肥満を起因とする生活習慣病の予防にも有効である。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。各例において、%、部及び比率はいずれも重量基準である。
【0045】
(製造例1)
(1)チオクト酸の脂質被覆物
結晶粉末のチオクト酸(ドイツ・デグサ社製、商品名:ALIPURE(登録商標)、ラセミ体)400gに加熱溶融したナタネ硬化油(川研ファインケミカル(株)製、融点:67℃、フレーク状)200gを加え、よく混合して均一に分散させた後、室温に冷却固化させた。次いで、該固化物を高速ミキサーで粉砕し、100メッシュ(タイラーメッシュ。以下同じ)で篩過して粒子径150μm以下のチオクト酸脂質被覆物(試料1)を得た。
【0046】
前記チオクト酸200g及びクレアチンモノハイドレート(ドイツ・デグサ社製、商品名:CREAPURE(登録商標))200gと粉末状ナタネ硬化油(川研ファインケミカル(株)製、融点:60℃、平均粒子径が約20μm)200gとを微粒子コーティング造粒装置((株)パウレック製、型式:MP−25SFP)に仕込み、攪拌混合ファンブレードの回転数1000rpmで30分間流動、混合して前記両原料を接触、衝突させて平均粒径が約100μmのチオクト酸脂質被覆物(試料2)を得た。
【0047】
前記チオクト酸脂質被覆物(試料2)の製造例において、チオクト酸200g及びクレアチン200gをチオクト酸150g及びグアバ葉エキス(ビーエイチェヌ(株)製、商品名:グアバ葉エキス末−S)50gの混合物に置きかえたこと以外は同様にして処理し、チオクト酸脂質被覆物(試料3)を得た。
【0048】
前記チオクト酸脂質被覆物(試料2)の製造例において、コーティング造粒装置にチオクト酸200gを仕込み、攪拌流動させながら、大豆油:40部、カルナウバワックス:40部及び大豆ステロール:20部からなる脂質混合物100g、L−カルニチン−L−酒石酸塩(ロンザジャパン(株)製)及びクレアチン(試料2の場合と同じ)各30g、及びショ糖ベヘン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、リョートー(登録商標)シュガーエステル、HLB:1〜2)20gを70℃に加熱、溶融、混合した均質液状物をスプレーノズルから噴出させてチオクト酸表面を被覆し、チオクト酸脂質被覆物(試料4)を得た。
【0049】
(製造例2)
(2)チオクト酸の二重被覆物
前記のチオクト酸脂質被覆物(試料1、試料3)のいずれかの一部を前記チオクト酸脂質被覆物(試料2)の製造例で使用したコーティング造粒装置(但し、同社製、型式:MP−01SFP)に仕込み、攪拌流動させながら、酵母細胞壁8.0%を含む分散液(キリンビール(株)製、商品名:イーストラップ(登録商標))を噴霧させて各チオクト酸脂質被覆物粒子の表面を親水系物質で被覆し、チオクト酸二重被覆物(試料5、試料7)を得た。又、前記のチオクト酸脂質被覆物(試料2、試料4)について、酵母細胞壁8.0%含有分散液をシェラック20%含有含水エタノール液に置きかえることを除いて同様に処理し、チオクト酸二重被覆物(試料6、試料8)を得た。
【0050】
(試験例1)
本発明に係る組成物が基礎代謝、疲労等に及ぼす影響を以下に述べる方法で調べた。すなわち、試験物質は本発明に係る組成物であるチオクト酸、チオクト酸の脂質被覆物(製造例1の試料1及び試料3)、チオクト酸の二重被覆物(製造例2の試料5及び試料7)、チオクト酸及びクレアチンの混合物(1:1)、チオクト酸及びクレアチンの混合物の脂質被覆物(製造例1の試料2及び試料4)、チオクト酸及びクレアチンの混合物の二重被覆物(製造例2の試料6及び試料8)とし、比較試験物質をクレアチンとした。ここに、チオクト酸はドイツ・デグサ社製、商品名:ALIPURE(登録商標)、クレアチンはドイツ・デグサ社製、商品名:CREAPURE(登録商標)、クレアチンモノハイドレートを用いた。
【0051】
4週齢のウィスター系雄性ラット(平均体重:110g)を1週間予備飼育後、1群20匹とし、対照群、試験物質投与群(各試験物質につき10匹ずつ)及び比較試験物質投与群に分けた。各群のラットに、表1に示した標準餌料(AIN−76A)を1日2回所定時間に与え、対象群には生理食塩水を、試験物質投与群及び比較試験物質投与群には試験物質(チオクト酸投与量として100mg/kg体重)又は比較試験物質(クレアチン投与量として200mg/kg体重)を生理食塩水に溶解ないし分散させた水溶液をそれぞれ1日1回経口投与し、3週間飼育した。この期間中、後述する負荷遊泳運動試験の遊泳運動に慣れさせるために、毎日30分間、負荷をかけずに自由に遊泳させた。
【0052】
【表1】

【0053】
本試験飼育3週間後に安静時の酸素消費量及び二酸化炭素排出量を測定し、公知の方法(J.A.Weststrate、Am.J.Clin.Nutr.、1993年、第58巻、第592頁〜第601頁に記載の代謝率計算式)に準じて、ラット体重あたりの基礎代謝量を次の計算式により求めた。すなわち、基礎代謝量(kJ/kg/min)=4.184×〔{4.686+1.096×(呼吸商−0.707)}×VO2〕。ここで、呼吸商=(単位時間あたりの二酸化炭素排出量)/(単位時間あたりの酸素消費量)であり、VO2はラットが体重(kg)あたり1分間に消費する酸素量(mL)を意味し、VO2(mL/kg/min)={(測定時の大気中の酸素濃度−呼気ガス中の酸素濃度)/100}×(15分間の呼気量(mL))×(1000/ラット体重(g))×(1/15(分))とした。この結果を表2に示す。又、前記条件で飼育後、各ラットの胴体に体重の4%に相当する錘をつけ、水槽で強制的に1時間遊泳運動させ、該遊泳運動後に採血して血中乳酸値を測定した。この結果を表3に示す。
【0054】
表2から、試験物質投与群では対照群と比較して基礎代謝量が顕著に高まること、試験物質投与群の中でも本発明に係るチオクト酸類を投与した場合にはクレアチンのみ投与の場合よりも基礎代謝増強能が大きいこと、更に、チオクト酸類及びクレアチンを併用した場合では相乗効果が認められた。又、表3から、遊泳運動負荷による血中乳酸値は、対照群では著しく上昇するが、チオクト酸類投与群では低く、とくにチオクト酸類及びクレアチンの併用投与群では相乗的に顕著な低下が認められた。このことから、チオクト酸類は、基礎代謝量を増強し、疲労物質のひとつと考えられている乳酸の産生を抑制して疲労を予防する効果を有しており、チオクト酸類とクレアチンとの併用は基礎代謝増強効果及び運動後の乳酸産生抑制効果を相乗的に発揮する作用を有しているものと判断した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
前述の本試験飼育を同条件で更に1週間継続して本試験飼育全期間が4週間後に、各群のラットの半数(n=10)を屠殺し、体重、血液成分(血糖値、遊離脂肪酸含量、中性脂肪含量及びコレステロール含量)、脂肪組織重量、筋肉中の乳酸含量及びグリコーゲン含量をそれぞれ測定した。この結果の一部を表4に示す。
【0058】
表4から、チオクト酸類を経口投与することによって体重増加が著しく抑制され、腹腔内脂肪組織の重量も少なくなること、これらの傾向はチオクト酸類及びクレアチンを併用投与すると相乗的に顕著なものになることが明らかになった。したがって、チオクト酸類やチオクト酸類及びクレアチンの経口摂取がとりわけ内臓脂肪の蓄積抑制とともに肥満の予防に有効であると解釈できる。又、チオクト酸類投与やチオクト酸類及びクレアチン併用投与により、血糖値及び血中脂質含量がいずれも低減することが明らかになり、これは糖尿病や高脂血症等のいわゆる生活習慣病の予防との関連において有用である。更に、チオクト酸類やチオクト酸類及びクレアチンの併用によって筋肉中のグリコーゲン量が増加することが明らかになり、グリコーゲンが瞬間的な無酸素運動時に即効的エネルギー源として利用される点を考慮すると、本発明に係る基礎代謝増強剤は身体の運動機能の増強、疲労の予防や早期回復にとって有用であると考えられる。
【0059】
【表4】

【0060】
次に、前述した本試験飼育全期間が4週間後の各群のラットの残り半数(n=10)について、各ラットの胴体に体重の4%に相当する錘をつけ、水槽で強制的に1時間遊泳運動させた後直ちに屠殺し、筋肉中の乳酸含量を測定した。この結果を表5に示す。表5のデータから、遊泳運動負荷によりヒフク筋中の乳酸含量は著しく増加する(対照群)が、チオクト酸類投与群やチオクト酸類及びクレアチンの併用投与群ではこの増加が顕著に低減されることが明らかになった。乳酸は運動にともない産生される疲労物質であるから、本発明に係る前記試験物質は疲労の回復にとって有効であると考えられる。
【0061】
【表5】

【0062】
(試験例2)
ボランティアの成人女性10名(21〜54歳、平均年齢:32.3歳)に、試験例1で用いたチオクト酸67mg及び難消化性デキストリン130mgを充填したゼラチンカプセルを1日3カプセル(1日あたりのチオクト酸摂取量:200mg)を3回に分けて毎食後に摂取してもらい、これを2週間続けた。対照群(10名)は難消化性デキストリン200mgを充填したゼラチンカプセルを同様に摂取してもらった。前記カプセル摂取開始から2週間後、各人の心理面への影響をアンケート調査(3段階評価)した。
【0063】
この結果、(1)活動意欲について、対象群では強い:1人、普通:6人、弱い:3人であり、チオクト酸配合カプセル摂取群では強い:5人、普通:4人、弱い:1人であった。(2)体のだるさ・倦怠感について、対照群では多い:4人、普通:4人、少ない:2人であり、チオクト酸配合カプセル摂取群では多い:2人、普通:2人、少ない:6人であった。このことから、チオクト酸類を継続的に摂取することにより、精神心理面において身体のだるさや倦怠感を軽減させ、元気・やる気・活動意欲といった自発性や意欲を高める効果が発現されることが認められた。
【0064】
(試作例1:飲食品)
チオクト酸(ドイツ・デグサ社製、商品名:ALIPURE(登録商標)、ラセミ体)170部、ミツロウ30部及び中鎖脂肪酸トリグリセリド(日清オイリオ(株)製、商品名:ODO(登録商標)50部を約50℃に加熱混合して均質にした後、カプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が300mgのゼラチン被覆ソフトカプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は経口摂取できる栄養補助食品として利用できる。
【0065】
(試作例2:飲食品)
実施例1において、チオクト酸170部をチオクト酸100部及びクレアチン一水和物(ドイツ・デグサ社製、商品名:CREAPURE(登録商標))70部に置きかえて同様に処理して栄養補助食品を試作した。
【0066】
(試作例3:飲食品)
実施例1において、チオクト酸170部をチオクト酸及びグアバ葉エキスの混合物(試料3)170部に置きかえて同様に処理して栄養補助食品を試作した。
【0067】
(試作例4:飲食品)
チオクト酸、クレアチン及びL−カルニチン−L−酒石酸塩を含む脂質被覆物(試料4)150部、アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ(株)製)20部、ミツロウ30部及び月見草油50部の割合の原料を約45℃で十分に混合して均質な状態にした後、カプセル充填機に供して、常法により1粒あたりの内容量が250mgのゼラチン被覆カプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は栄養補助食品として経口摂取できるものである。
【0068】
(試作例5:飲食品)
チオクト酸脂質被覆物(試料1)47部、ブドウ種子エキス(キッコーマン(株)製、「グラビノール」)20部、シスチン25部、ハス胚芽エキス末(丸善製薬(株)製)20部、クレアチン(ドイツ・デグサ社製、前出と同じ。)25部、リボフラビン(DSMニュートリション・ジャパン(株)製)7部、マルチトール(東和化成(株)製)105部、リン酸三カルシウム(米山化学工業(株)製)105部及びセルロース26部を混合機に仕込み、10分間攪拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径7mm、高さ4mm、重量150mg/個の素錠を作成し、ついでコーティング機でシェラック被膜を形成させて錠剤形状の食品を試作した。
【0069】
(試作例6:飲食品)
市販のオレンジジュース1Lに本発明のチオクト酸二重被覆物(試料5)20gを加えて十分に混合し均質なオレンジ風味飲料を試作した。これは冷蔵庫で1週間保存しても外観及び風味に異状及び違和感は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のチオクト酸類あるいはチオクト酸類及びクレアチン等を含有してなる組成物は、これを経口や経管で摂取することにより、基礎代謝を増強し、疲労を予防し、疲労の回復を早め、肥満を予防し、血糖値や血中脂質濃度を低減させて生活習慣病を予防し得る効果を奏し、更には倦怠感の抑制や活動意欲の高揚等の精神心理面へも好影響を及ぼすものであるから、日常活動はもとよりスポーツ運動や過重負荷作業等を行う上で、食事の補助や栄養補給のために適用される飲食品、医薬品、飼料等に有効利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオクト酸類を有効成分として含有してなることを特徴とする基礎代謝増強剤。
【請求項2】
チオクト酸類がチオクト酸、ジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項3】
チオクト酸類がチオクト酸、ジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなるものである請求項1に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項4】
チオクト酸類がチオクト酸、ジヒドロチオクト酸、これらの光学異性体、前記各物質の塩、エステル並びにアミド、及びこれらのシクロデキストリン包接物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の結晶、粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなるものの外表面を更に親水性物質で被覆したものである請求項1に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項5】
チオクト酸類がチオクト酸のラセミ体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項6】
カフェイン、クレアチン及びその誘導体、グルコサミン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン加水分解物、コリン、コリン塩、ホスファチジルコリン、セリン、ホスファチジルセリン、メチルスルホニルメタン、ホエー蛋白質、ピルビン酸及びその塩、L−カルニチン、その前駆体であるリジン又はメチオニン及びそれらの塩、D−リボース、アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、タウリン、コエンザイムQ10、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸、パントテン酸、ラクトフェリン、共役リノール酸、クエン酸、リンゴ酸、ミネラル酵母、ショウガ、トウガラシ、及びヒドロキシクエン酸からなる群から選択される少なくとも1種を併用するものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項7】
クレアチン誘導体がクレアチン塩、クレアチン一水和塩、クエン酸クレアチン、ピルビン酸クレアチン及びホスホクレアチンからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項8】
基礎代謝の増強が疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善、生活習慣病の予防からなる群のうち少なくとも1つである請求項1〜7のいずれか1項に記載の基礎代謝増強剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の基礎代謝増強剤を含有してなることを特徴とする、基礎代謝増強による疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善あるいは生活習慣病の予防のための飲食品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の基礎代謝増強剤又は請求項9に記載の飲食品を運動前に経口摂取することを特徴とする、基礎代謝増強による疲労の予防又は早期回復、活動意欲の向上、肥満の予防又は改善あるいは生活習慣病の予防のための方法。

【公開番号】特開2007−308468(P2007−308468A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166664(P2006−166664)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(500081990)ビーエイチエヌ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】