説明

場所打ち杭主筋の無溶接固定金物

【課題】場所打ち杭に使用する鉄筋籠の主筋と補強リングとの固定方法において溶接という手段は、主筋の断面欠損や変質による強度不足を招くことが当該機関の調査で判明している。したがって溶接することなく強固に主筋と補強リングとを固定できる金物を開発する必要がある。
【解決手段】場所打ち杭の主筋径に準じて直径8〜12mmの丸鋼を使用し、その両端をネジ加工したものに締付けナットを締め込んだとき変形することのない強度を発揮する形状にプレス加工を施したものを主要部分とし、これと杭の主筋と補強リングとを締付けナットで締め込んだとき上述の主要部分が逃げて固定力が損なわれないようにするための特徴的な形状を有する付属部品とを組み合わせた金物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模建築物の杭の鉄筋に関する。大規模建築物においては、その基礎である耐圧盤の更に下に岩盤に達するまでの杭を打ち込む。この杭が該建築物の全体を安定的に支持している。本発明は、この杭の中に配される鉄筋が座屈しないようにその主筋と補強のリングとを固定する金物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製の杭を補強するために杭の中に所定のピッチで配される主筋とこれの座屈を防止するために主筋に内接して収められるリングとの固定は溶接にて成されていた。
しかし近年、特に阪神淡路大震災において倒壊した鉄筋コンクリート建築物の調査の結果溶接による鉄筋の断面欠損や変質がその強度に重大な影響を与えていたことが判明し、躯体強度の設計基準を損なうような鉄筋に対する溶接は禁止されつつある。
場所打ち杭の主筋に関しても例外ではなく、主筋とその補強リングとを溶接せずに堅固に固定できるような金物の出現が待望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
場所打ち杭の中に配される主筋とその補強リングとを固定するために溶接を行なうことは、躯体である主筋の断面欠損や変質といった重大な問題につながるので要所における固定は溶接することなく主筋とその補強リングを堅固に固定することのできる金物が必要である。
また溶接工法においては、上述のごときの溶接そのものによる変質劣化に加えて天候による影響も鑑みる必要がある。即ち場所打ち杭の施工に伴う溶接作業は、必然的に屋外での作業となるが雨天における溶接処理は、溶接部の品質を確保しようとするとき水分の存在下における著しい悪影響が周知されているため事実上不可能である。したがって、ある意味ですべての建築工事における最も重要な要素のひとつである工期という観点からも、天候に全く左右されることのない杭の主筋と補強リングとの固定方式が望まれている。
また、設計で求めている杭の外径や深さによって杭の中に配される主筋の本数は変わってくるが、上述の金物は主筋と補強リングの要所要所の交差部に取り付ける必要があり、本金物の所要数は相当数になる。したがって、この金物の市場性を鑑みるとき可能な限りのコストダウンを図り安価な溶接による固定の価格に近づける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意研究した結果、市販の丸鋼を所定の長さに切断してその両端をネジ加工したものを僅か1工程のプレス加工で本固定金物の主要部分を造ることに成功した。またこの主要部分と組み合わせて使用する付属のプレート類についても極めて単純な形状で強固な固定力を発揮させることに成功した。
【0005】
以下、本発明を図に従い詳しく説明する。
図1は本発明による固定金物を取り付ける前の杭の主筋と補強リングの状態を示しており、(a)は補強リングに帯鋼を使用した場合のイメージ図であり、(b)は同じくアングルを使用した場合のイメージ図である。ここで符号1は杭の主筋、符号2は補強リングである。
図2は補強リングが帯鋼のときに円筒状に組んだ主筋(通称籠という)の内側に本発明による金物の締付けナットを配したときの図であり、(c)は正面図、(d)は側面図、(e)は上面図である。図3は同じく金物の締付けナットを籠の外側に配したときの図であり、(f)は正面図、(g)は側面図、(h)は上面図である。図4は補強リングがアングルのときに籠の内側に本発明による金物の締付けナットを配したときの図であり、(i)は正面図、(j)は側面図、(k)は上面図である。図5は同じく金物の締付けナットを籠の外側に配したときの図であり、(l)は正面図、(m)は側面図、(n)は上面図である。
【0006】
これらの図の中で符号3は本発明による金物の主要部分でいづれも丸鋼の両端をネジ加工した後、プレスにより図のごときの所定の形状に曲げ加工してある。同じく符号4、符号5は符号6の締付けナットを締め込んだときに本発明品の主要部分が主筋や補強リングから逃げることがないようにするための付属品である。
【発明の効果】
【0007】
上述のような構成からなる本発明品たる場所打ち杭主筋の無溶接固定金物は、いづれも上述の如く杭の主筋と補強リングとを固定する仕組みが極めて単純であるためその主要部分及び付属部品とも製造コストが低減され、充分な市場性を有するに至った。
また、無溶接固定金物において最も重要な固定力においても引き抜き試験の結果、本金物1個で2.5tまで耐えることが確認された。これは籠の寸法や重機で吊り上げる箇所にもよるが、所謂安全率に換算して2〜8であり充分な結果が得られた。
また、試験をするという性質のものではないが、前述の如く天候に左右されることなく使用できるので品質の確保と工期の管理という両面で著しい優位性を発揮する。
【実施例】
【0008】
D32、長さ8mという規格の異形鉄筋を主筋としてこの主筋を籠の円周方向均等に26本配し、また断面の厚さ9mm、幅75mmの帯鋼を直径1300mmのリング状にしたものを籠の補強リングとして上下に各1本、中央部に均等に2本の計4本を配した鉄筋籠において、上下の補強リングと主筋の交差部のすべて、および中央部の2本の補強リングと主筋の交差部ではひとつおきに本発明による無溶接固定金物を使用した。したがってこの鉄筋籠においては合計で78個の無溶接固定金物を使用した。
この籠の総重量は26本の主筋、籠の外周に巻かれたスパイラル筋、および4本の補強リングの合計で1540Kgfであった。
上述の鉄筋籠において使用した無溶接固定金物の主要部分である丸鋼の直径は9.5mmまた付属品の厚さは4.5mmとして前述の図3の如きの取付方法とした。
【0009】
以上の要領で製作された鉄筋籠を重機により2本のワイヤーロープで吊り上げ、場所打ち杭として掘った直径1500mmの縦坑内に収めたが、吊り上げの当初から所定の位置に収納するまでの間、主筋のズレもなく籠全体の変形なども全く見られず充分な市場性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】場所打ち杭の主筋と補強リングのイメージ図。
【図2】締付けナットを籠の内側に配して主筋と帯鋼とを固定する金物。
【図3】締付けナットを籠の外側に配して主筋と帯鋼とを固定する金物。
【図4】締付けナットを籠の内側に配して主筋とアングルとを固定する金物。
【図5】締付けナットを籠の外側に配して主筋とアングルとを固定する金物。
【符号の説明】
【0011】
1,杭の主筋
2,補強リング
3,本無溶接金物の主要部分
4,本無溶接金物の付属部品
5,本無溶接金物の付属部品
6,締付けナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
場所打ち杭に使用するために円筒状に組んだ主筋とこれに内接する座屈防止用の補強リングとを強固に固定するための特徴的形状を有する金物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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