説明

塗付用抗微生物性組成物

【課題】 生活環境中に多く生息する微生物、特に菌類に効果的であり、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い塗付用抗微生物性組成物の提供。
【解決手段】 塗付用抗微生物性組成物は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉ならびにキク科タイキンギク植物全植物体の1種あるいは複数種の水抽出物と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを少なくとも含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活環境中に存在する微生物の増殖を抑制あるいは微生物を死滅させるための塗付用抗微生物性組成物に関する。また、生活環境の清潔性向上、建築資材の劣化防止、居住者のアレルギー防止などに有効な塗付用抗微生物性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境中で使用される建築資材に黴が発生することで、美観を損なうとともに、建築資材の強度劣化を招く。また、黴がアレルギー源となり、居住者の健康も損ないかねない。一方、筆記具などの日用品に抗菌処理を施す「抗菌ブーム」が近年の消費者の志向に加わっている。したがって、身の回りの様々な材料に抗菌処理を施すことが望まれている。かかる要望に応えるべく、材料の表面に抗菌性塗膜を形成するための抗菌性組成物が種々開発されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000-154339 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年の消費者の天然物志向により、抗菌性組成物についても、自然界に産し、古くから多用されてきた素材を用いることが要望されている。本発明の目的は、生活環境中に多く生息する微生物、特に菌類に効果的であり、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い塗付用抗微生物性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、フトモモ科(Myrtaceae )ユウカリノキ属(Eucalyptus)植物の枝葉、ショウガ科(Zingiberaceae )バンウコン属(Kaempferia)植物の根茎、シソ科(Laminaceae(Labiatae))イソドン属(Isodon)植物の地上部の全植物体、シソ科(Laminaceae(Labiatae))タツナミソウ属(Scutellaria )植物の根茎、サルオガセ科(Usneaceae )サルオガセ属(Usnea )植物の全植物体、ウルシ科(Anacardiaceae )ランシンボク属(Pistacia)植物の樹皮およびその枝葉ならびにキク科(Compositae)サワギク属(Senecio )植物の全植物体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の水抽出物が用いられる。
【0005】
フトモモ科ユウカリノキ属植物の枝葉およびショウガ科バンウコン属植物の根茎の各水抽出物は、大腸菌(Escherichia coli)に代表されるグラム陰性菌に対し抗菌性能を有する。シソ科イソドン属植物の地上部の全植物体、シソ科タツナミソウ属植物の根茎、サルオガセ科サルオガセ属植物の全植物体、ウルシ科ランシンボク属植物の樹皮およびその枝葉ならびにキク科サワギク属植物の全植物体の各水抽出物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )に代表されるグラム陽性菌に対し抗菌性能を有する。
【0006】
本発明ではまた、シソ科(Labiatae)イソドン属(Isodon)植物の地上部の全植物体、シソ科(Labiatae)タツナミソウ属(Scutellaria )植物の根茎、サルオガセ科(Usneaceae )サルオガセ属(Usnea )植物の全植物体、ウルシ科(Anacardiaceae )ランシンボク属(Pistacia)植物の樹皮およびその枝葉ならびにタデ科(Polygonaceae)ダイオウ属(Rheum )植物の根茎よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の有機溶媒抽出物が用いられる。これら有機溶媒抽出物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )に代表されるグラム陽性菌に対し抗菌性能を有する。
【0007】
本発明で用いられる植物体は古くからその薬理作用が認められ、漢方薬として疾病の治療に用いられ、あるいは民間薬としてその作用が伝承されている。以下に、これら植物体の具体例を挙げるとともに、その用途を記載する。
【0008】
フトモモ科ユウカリノキ属に属する植物としては、Eucalyptus globulus Labill. Eucalyptus smithii R. T. BakerEucalyptus citriodora Hook. などが挙げられる。例えば中国産のユウカリノキ(Eucalyptus globulus Labill. )は、外用薬として神経痛の治療に用いられ、あるいは蒸気の吸入によって気管支炎の治療に用いられる。
【0009】
シソ科イソドン属に属する植物としては、Isodon eriocalyx (Dunn)Kuds Isodon longitubus Isodon shikokianus var. intermedius Isodon umbrosus Isodon umbrosus var. excisinflexusなどが挙げられる。マンシュウヒキオコシ(Isodon eriocalyx (Dunn)Kuds )は、感冒、咽喉の腫れ痛み、胃炎、肝炎、扁桃腺炎、乳腺炎、癌の初期、月経閉止、打撲傷、関節痛、蛇や虫の咬傷に用いられる。
【0010】
シソ科タツナミソウ属に属する植物としては、Scutellaria baicalensis Georg.Scutellaria cavalerieiScutellaria hebeclada Scutellaria maireiScutellaria taquetiiScutellaria thieretii Scutellaria vaniotianaScutellaria veronicifolia などが挙げられる。コガネヤナギ(Scutellaria baicalensis Georg.)は、猩紅熱の予防や急性腸炎、下痢、急性・慢性肝炎の治療に用いられる。
【0011】
ショウガ科バンウコン属に属する植物としては、バンウコン(Kaempferia galanga L. )が挙げられる。バンウコンは、心腹注痛、寒湿吐瀉などに煎服して用いられる他、外用薬として歯痛の治療に用いられている。
【0012】
サルオガセ科サルオガセ属に属する植物としては、Usnea longissima Ach. Usnea pangianaUsnea rubescens Usnea diffracta などが挙げられる。ナガサルオガセ(Usnea longissima Ach. )は、肺結核、各種の炎症などに煎服して用いられる他、種々の潰瘍に散布薬として外用されている。ただし最近は、専ら薫香料の原料として輸入されることが多く、薬用として使用されることは少なくなっている。
【0013】
ウルシ科ランシンボク属に属する植物としては、ランシンボク(Pistacia weinmannifolia J. Poisson ex Franch)が挙げられる。ランシンボクは、下痢、皮膚痊痒症、瘡瘍などの症状に用いると言われているが、日本では薬用にされることはない。
【0014】
キク科サワギク属に属する植物としては、Senecio scandens Buch.-Ham. Senecio madagascariensis Poiret Senecio rowleyanusSenecio macroglossusSenecio nemorensisSenecio anteuphorbium Senecio glaberrimus Senecio keniodendronSenecio platyphylloides Senecio hybridusSenecio fremontii Senecio integrifolius subsp. faurieiSenecio vulgarisなどが挙げられる。タイキンギク(Senecio scandens Buch.-Ham. )は、上気道感染、扁桃炎、咽喉炎、肺炎、眼の結膜炎、赤痢、腸炎、虫垂炎、急性リンパ管炎丹毒、湿疹、アレルギー性皮膚炎などに用いられる。ただし、日本では薬用にされることはない。
【0015】
タデ科ダイオウ属に属する植物としては、Rheum officinale Baill. Rheum palmatum L. Rheum tanguticum Maxim. Rheum coreanum NakaiRheum rhaponticum Linn. Rheum undulatum L.などが挙げられる。ダイオウ(Rheum officinale Baill. )は、大腸性瀉下、消炎性健胃薬などとして用いられる。
【0016】
上述の通り、本発明で用いられる植物体は、疾病などの治療を主目的として用いられ、対症療法として利用されているに過ぎない。これら植物体の成分による抗微生物作用、例えば抗菌作用などに関する調査研究報告は少ない。例えば特開平11-80012号公報には、フトモモ科ユウカリ属植物の枝葉の極性有機溶媒抽出物が白癬菌、ニキビ菌またはMRSA(methicillin resistant Staphylococcus aureus )に効果的であることが開示されている。しかし後述するように、グラム陰性菌に対しては、同公報に開示された極性有機溶媒抽出物よりも、本発明の水抽出物のほうが高い抗菌性能を有する。
【0017】
本発明の第1の局面による塗付用抗微生物性組成物は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮およびその枝葉ならびにキク科タイキンギク植物全植物体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の水抽出物と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを少なくとも含有する。
【0018】
本発明の第2の局面による塗付用抗微生物性組成物は、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮およびその枝葉ならびにタデ科ダイオウ植物根茎よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の有機溶媒抽出物と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを少なくとも含有する。
【0019】
本明細書において「植物体」は、その植物の全体(全植物体)だけでなくその一部、例えば枝葉、根茎、樹皮を包含する。「微生物」は、細菌、糸状菌、酵母、変形菌、単細胞藻類、原生動物、ウイルスを包含する。「塗付用抗微生物性組成物」は、微生物の増殖を抑制あるいは微生物を死滅させるための塗付用組成物であり、例えば工業製品に塗付することにより抗菌加工するための抗菌性塗料、抗菌性スプレーなどを含む。
【0020】
「水抽出物」は水蒸気蒸留や浸漬などにより植物体から有効成分を抽出した抽出物であり、「有機溶媒抽出物」は有機溶媒(水と有機溶媒との混合溶媒を含む)に植物体を浸漬して植物体から有効成分を抽出した抽出物である。なお、水抽出物および有機溶媒抽出物を「植物体抽出物」と総称することがある。
【0021】
「塗付溶媒」は、植物体抽出物や塗料樹脂(バインダ)を溶解または分散させるための溶媒を言う。塗付溶媒は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる少なくとも一の溶媒が好ましい。
【0022】
有機溶媒抽出物は、有機溶媒または水と有機溶媒との混合溶媒を用いて抽出された抽出物である。有機溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、塩化メチレンなどが例示される。水と有機溶媒との混合溶媒としては、例えば水とアセトンとの混合溶媒や水とエチルアルコールとの混合溶媒が挙げられる。水と有機溶媒との混合重量比は、水5〜95重量部:有機溶媒95〜5重量部、好ましくは水15〜85重量部:有機溶媒85〜15重量部、より好ましくは水25〜75重量部:有機溶媒75〜25重量部である。
【0023】
植物体から有効成分を抽出する方法としては、一般に用いられる方法でよい。例えば溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。エバポレータやスプレードライ法を用いて、抽出液を濃縮することにより、抽出物を調製するのが望ましい。
【0024】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、水溶性樹脂塗料や合成樹脂エマルション塗料などの水性塗料であっても良い。水溶性樹脂塗料は、水溶性コロイドを形成する水溶性樹脂、例えばカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールを塗料樹脂(以下、塗料バインダともいう。)として用いた塗料である。合成樹脂エマルション塗料は、乳化重合などにより得た合成樹脂エマルションを塗料バインダとして水に分散させた塗料である。合成樹脂として、一般には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、尿素樹脂、不飽和樹脂、ビニル樹脂などが用いられる。具体例には、例えば親水性の高い塗料樹脂としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂が挙げられる。
【0025】
塗料樹脂は、固形分換算で、70重量部以上99重量部以下の植物体抽出物に対して、1重量部以上30重量部以下、好ましくは80重量部以上99重量部以下の植物体抽出物に対して、1重量部以上20重量部以下を塗料中に含んでいることが好ましい。
【0026】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、少なくとも一種の植物体抽出物が分散された分散液と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを混合して調製することができる。あるいは、塗料樹脂および/または塗付溶媒を含有する液に、少なくとも一種の植物体抽出物を分散させて、本発明の塗付用抗微生物性組成物を調製しても良い。
【0027】
植物体抽出物を分散させるための溶媒は、植物体抽出物の溶解性や塗料樹脂との相性から選択される。具体的には、植物体抽出物を分散させるための溶媒として、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。
【0028】
抽出物を分散させるための溶媒と塗付溶媒とは、典型的には、同じ種類の溶媒であるが、両溶媒が異なる種類の溶媒であっても良い。例えば、抽出物を分散させるための溶媒が水であり、塗付溶媒が水とエチルアルコールとの混合溶媒であっても良い。
【0029】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、無機担体をさらに含有していても良い。無機担体は、シリカゲルなどの多孔質な無機酸化物から主として構成されていることが好ましい。また、無機担体は、層間化合物からなる粒子状粉体であっても良い。層間化合物としては、ハイドロタルサイト類化合物やスメクタイト類化合物が挙げられる。ハイドロタルサイト類化合物は、下記の一般式で表される。
【0030】
〔M2+1-x 3+x (OH)2 x+〔An-x/n ・yH2 O〕x-
(式中、M2+はマグネシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛などの2価金属イオン、M3+はアルミニウム、鉄、マンガン、クロムなどの3価金属イオン、An-は水酸基、塩素、硝酸基、炭酸基、硫酸基などのn価の陰イオンである。)
【0031】
ハイドロタルサイト類化合物は、一般式A6 2 (CO3 )(OH)16・4H2 O〔但し、A=Mg,Ni ;B=Al,Cr3+ ,Fe3+ ,Mn2+ ,Co3+ 〕で表わせる三方晶系の炭酸塩鉱物を含む。この炭酸塩鉱物としては、例えば、Mg6Al2(CO3)(OH)16 ・4H2Oで表されるハイドロタルサイトが挙げられる。その他にもcomblainite 、desautelsite、iowaite 、pyroaurite、reevesite 、stichtite 、takoviteなどが挙げられる。
【0032】
スメクタイト類化合物は、一般式X0.3 2-3 4 10(OH)2 ・nH2 O〔但し、X(交換性イオン)=Ca/2,Li,Na;Y=Al,Cr3+ ,Cu2+ ,Fe2+ ,Fe3+ ,Li,Mg,Ni,Zn;Z=Al,Si 〕で表わせる単斜晶系の珪酸塩鉱物である。この珪酸塩鉱物として、例えば、(Na,Ca)0.3(Al,Mg)2Si4O10(OH)2 ・nH2Oで表されるモンモリロナイトが挙げられる。その他にも、aliettite 、beidellite、hectorite 、nontronite、saponite、sauconite 、stevensite、swinefordite、volkonskoite、yakhontoviteなどが挙げられる。
【0033】
無機担体の粒度は、例えば1μm以上2000μm以下、さらには10μm以上1000μm以下が好ましい。
【0034】
本発明の塗付用抗微生物性組成物が塗料樹脂を含有する場合、塗付後の塗料固形分のうち、塗料樹脂1重量部以上30重量部以下に対し、無機担体10重量部以上50重量部以下、植物体抽出物49重量部以上89重量部以下を含んでいることが好ましい。
【0035】
植物体抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物は、有効成分以外の抽出物も含む。有効成分およびそれ以外の抽出物は、ともに微生物資化性が大きいと考えられるので、腐敗が進行するおそれがある。抽出物の腐敗は、単に有効成分の低下のみならず、害虫の誘引をもたらすおそれがある。
【0036】
そこで、植物体抽出物の腐敗を防止するために、本発明の塗付用抗微生物性組成物は、銀系抗菌剤および/または天然系抗菌剤を含んでいることが望ましい。銀系抗菌剤は、銀錯体および/または銀イオンが担持された担体を含んでいても良い。銀錯体が担持された担体としては、チオスルファト銀錯体が担持されたシリカゲル(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)が挙げられる。銀イオンが担持された担体としては、銀イオン担持ゼオライト、銀イオン担持リン酸塩、銀イオン担持ガラスなどが挙げられる。これら担体に、少なくとも一種の植物体抽出物が吸着担持されていても良い。
【0037】
天然系抗菌剤としては、カテキン類、ワサビ(アブラナ科Eutrema japonica)抽出物、孟宗竹(イネ科Phyllostachys pubescens )抽出物などを用いることができる。また、天然系抗菌剤に含まれる有効成分の合成品を用いても良い。例えば、ワサビ抽出物に含まれるアリルイソチオシアネートの合成品を用いても良い。
【0038】
銀系抗菌剤または天然系抗菌剤の添加量は、全固形分100重量部に対して、0.1重量部以上50重量部以下が好ましい。
【0039】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、他の抗菌または殺菌剤、界面活性剤、効力増強剤、防虫剤、誘引剤、消臭剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、増粘剤、安定剤、光沢剤などを含有していても良い。さらに、合成系の抗黴剤を含有していても良い。
【発明の効果】
【0040】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、生活環境中に存在する有害な微生物、言い換えればアメニティ環境創出に際し駆除すべき微生物に対して、強い抗微生物性能を発揮する。また本発明で用いる植物体抽出物は、漢方の原料として古くより利用された実績から、その安全性が確認されている。本発明の塗付用抗微生物性組成物が塗付された生活環境中の資材(什器備品や建材など)は高い安全性を有するので、安心して利用することができる。この利用上の効果は、緊急の場合にのみ限定的に使用される合成系抗菌剤と異なり、生活環境中に常在させるために必要な効果である。
【0041】
したがって、本発明の塗付用抗微生物性組成物を生活環境中の資材の抗微生物処理に使用することで、安全性が確保された上で、生活環境を清潔に保ちかつ建築資材などの生活関連資材の微生物による劣化を防ぐことができる。さらに、有害微生物の増殖を抑止することにより、微生物の浮遊飛散に伴うアレルギー発症を未然に防止できる。このように、本発明による工業的効果は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態では、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の水抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物枝葉の水抽出物、キク科タイキンギク植物全植物体の水抽出物、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の有機溶媒抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の有機溶媒抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物枝葉の有機溶媒抽出物およびタデ科ダイオウ植物根茎の有機溶媒抽出物のうち少なくとも一種の植物体抽出物を用いる。
【0043】
(実施形態1)
中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物による抗菌性能と、本抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法を簡略に以下に記す。抽出に供したフトモモ科ユウカリノキ植物枝葉は、摘み取った後に陰干ししたものである。フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって、温水可溶な物質が得られた。これをロータリーエバポレータにより濃縮することによって、茶褐色飴状物質が得られた。
【0044】
抗菌性能の評価については、抽出物そのものに対する抗菌性能評価と、実使用に適用できるように抽出物を加工した塗付用抗微生物性組成物に対する評価とがある。まず抽出物そのものに対する抗菌性能評価を行った後に、塗付用抗微生物性組成物に対する評価を行う。
【0045】
本実施形態の水抽出物と、特開平11-80012号公報に開示された極性有機溶媒抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、極性有機溶媒としてはケトン類のアセトンを使用した。
【0046】
供試菌種として、グラム陰性の代表菌としての大腸菌(Escherichia coli)、グラム陽性の代表菌としての黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )をそれぞれ用いた。抗菌性能の指標として一般的に用いられる最小発育阻止濃度(MIC)を用い、その試験方法は定法(日本化学療法学会法、抗菌製品技術協議会法)に従った。抗菌性能は、菌株に対する最小発育阻止濃度(MIC)で評価する。したがって、MICの値が小さいほど、抗菌性能が強いことを示す。なお、MICの値(ppm )が1600以下の場合に、抗菌性能を有することとした。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、本実施形態のユウカリノキ水抽出物は、大腸菌を初めとするグラム陰性菌および黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して抗菌性能を示した。一方、ユウカリノキ有機溶媒抽出物は、黄色ブドウ球菌に対してのみ抗菌性能を示し、大腸菌に対しては良好なあるいは実用的な抗菌性能を示さなかった。
【0049】
次に、本実施形態の水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法について説明する。先ず、塗料バインダ(塗料樹脂)として、水性アクリル樹脂エマルション(東洋インキ製造(株)製、商品名:PAW水性スクリーンインキ)10重量部(固形重量換算)を準備した。これに水抽出物1重量部を混合し、十分に分散させて、塗付用抗微生物性組成物を調製した。
【0050】
得られた塗付用抗微生物性組成物について、下記の通り、抗菌性能を評価した。
【0051】
1.塗料樹脂と水抽出物を混練し、PETフィルム上に薄く伸ばして塗付する。塗付量は約0.1g/枚(乾燥前)である。なお、PETフィルムとして、125μm厚のPETフィルム(東レ製、商品名:ルミラー(U943))を用いた。
【0052】
2.塗装した後、常温で風乾させる。その後、乾燥機を用いて60℃で1時間の強制乾燥を行い、試験に供する。
【0053】
3.塗膜上に菌液(0.4ml)を滴下し、その上をフィルムでカバーする。37℃で24時間放置した後、菌液を回収し、培養を行って生菌数を求める。なお、培養時間は、黄色ブドウ球菌については48時間、大腸菌については24時間とした。
【0054】
水抽出物を用いない以外は、本実施形態と同様にして試験片を作成し、これをブランクとして評価に供した。また有機溶媒抽出物を用いて、本実施形態と同様に試験片を作成した。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を用いた場合の抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0055】
なお、表2および表3中のEとその後の数字は、べき乗の数字を表す。また表2および表3において、MICの値(ppm )が3200以上のものについては、その抗菌性が乏しいので、表への記載を省略した。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物に高い抗菌性能が認められた。具体的には、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対して、ユウカリノキ水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物が高い抗菌性能を示した(表2参照)。一方、ユウカリノキ有機溶媒抽出物については、その塗付用抗微生物性組成物もグラム陰性菌に対して良好な抗菌性能を示さなかった(表3参照)。
【0059】
黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、ユウカリノキ水抽出物および有機溶媒抽出物の両方の塗付用抗微生物性組成物が高い抗菌性能を示した(表2および表3参照)。以上の結果から、ユウカリノキ水抽出物を用いた本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。
【0060】
(実施形態2)
中国産ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物による抗菌性能と、本抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法と、本組成物の抗菌性能について簡略に以下に記す。抽出に供したショウガ科バンウコン植物根茎は、摘み取った後に陰干ししたものである。ショウガ科バンウコン植物根茎を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって、温水可溶な物質が得られた。これをロータリーエバポレータにより濃縮することによって、薄茶色液状物質が得られた。
【0061】
本実施形態の水抽出物と、有機溶媒(アセトン)抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有するとした。
【0062】
その結果、本実施形態のバンウコン水抽出物は、大腸菌を初めとするグラム陰性菌および黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、実施形態1のユウカリノキ水抽出物よりも少し弱いが、抗菌性能を示した。しかし、バンウコン有機溶媒抽出物については、グラム陰性菌およびグラム陽性菌のいずれの供試菌に対しても抗菌性能を示さなかった。
【0063】
次に、実施形態1と同様の製法で、水抽出物を用いた塗付用抗微生物性組成物を調製した。得られた塗付用抗微生物性組成物について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を用いた場合の抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0064】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物に抗菌性能が認められた。具体的には、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対して、バンウコン水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物が抗菌性能を示した。また、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対しても、バンウコン水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物が抗菌性能を示した。
【0065】
しかし、バンウコン有機溶媒抽出物については、グラム陰性菌およびグラム陽性菌のいずれの供試菌に対しても抗菌性能を示さなかった(表への記載を省略)。以上の結果から、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物を含有する、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対し抗菌性能を示すことが確認された。
【0066】
(実施形態3)
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の水抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉の水抽出物、キク科タイキンギク植物全植物体の水抽出物それぞれの抗菌性能と、各水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法と、各組成物の抗菌性能について簡略に以下に記す。
【0067】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉、キク科タイキンギク植物全植物体は、摘み取った後に陰干ししたものをそれぞれ抽出に供した。
【0068】
それぞれの植物体あるいはその一部を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって温水可溶な物質が得られた。さらにロータリーエバポレータにより成分を濃縮した。それぞれの水抽出物は以下の特徴を有する。シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体は茶褐色飴状、シソ科コガネヤナギ植物根茎は茶褐色飴状、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体は淡茶色粉末、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉は茶褐色飴状、キク科タイキンギク植物全植物体は黒色グリス状である。
【0069】
各植物体の水抽出物と、有機溶媒(アセトン)抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有することとした。
【0070】
その結果、水抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクが抗菌性能を示した。一方、有機溶媒抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボクが抗菌性能を示した。
【0071】
次に、実施形態1と同様の製法で、各水抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物をそれぞれ調製した。得られた塗付用抗微生物性組成物について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を用いた場合の抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0072】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物に抗菌性能が認められた。具体的には、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクの各水抽出物をそれぞれ含有する塗付用抗微生物性組成物が高い抗菌性能を示した。
【0073】
以上の結果から、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクの各水抽出物を含有する、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、グラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。なお、本実施形態ではウルシ科ランシンボク植物の樹皮および枝葉の水抽出物を用いたが、ウルシ科ランシンボク植物の樹皮の水抽出物または枝葉の水抽出物のいずれか一方を用いた場合でも、両者の水抽出物と同等の抗菌性能を示した。
【0074】
(実施形態4)
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の有機溶媒抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の有機溶媒抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉の有機溶媒抽出物、タデ科ダイオウ植物根茎の有機溶媒抽出物それぞれの抗菌性能と、各有機溶媒抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法と、各組成物の抗菌性能について簡略に以下に記す。
【0075】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉、タデ科ダイオウ植物根茎は、摘み取った後に陰干ししたものをそれぞれ抽出に供した。
【0076】
それぞれの植物体(全植物体あるいはその一部)を有機溶媒、具体的にはアセトン70%と水30%の混合有機溶媒で抽出し、ロータリーエバポレータによる蒸留によって上記有機溶媒に可溶な物質が得られた。さらにロータリーエバポレータにより成分を濃縮した。それぞれの有機溶媒抽出物は以下の特徴を有する。シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体は濃土色粉末状、シソ科コガネヤナギ植物根茎は黄色粉末状、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体はアイボリー色針状結晶粉末状、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉は薄オレンジ色粉末状、タデ科ダイオウ植物根茎は茶褐色高粘凋である。
【0077】
各植物体の有機溶媒抽出物と水抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有することとした。
【0078】
その結果、水抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボクが抗菌性能を示した。一方、有機溶媒抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウが抗菌性能を示した。
【0079】
次に、それぞれの植物体の有機溶媒抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物の製法について説明する。先ず、塗料バインダ(塗料樹脂)として、水系ウレタン樹脂10重量部(固形重量換算)とアクリル系ラテックス1重量部(固形重量換算)の混合液を準備した。これに有機溶媒抽出物1重量部を混合し、十分に分散させて、塗付用抗微生物性組成物を調製した。
【0080】
得られた塗付用抗微生物性組成物について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物による抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0081】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物に高い抗菌性能が認められた。具体的には、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウの各有機溶媒抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物が高い抗菌性能を示した。一方、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対しては、高い抗菌性能を示すものはなかった。
【0082】
以上の結果から、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウの各有機溶媒抽出物を含有する、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、グラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。なお、本実施形態ではウルシ科ランシンボク植物の樹皮および枝葉の有機溶媒抽出物を用いたが、ウルシ科ランシンボク植物の樹皮の有機溶媒抽出物または枝葉の有機溶媒抽出物のいずれか一方を用いた場合でも、両者の有機溶媒抽出物と同等の抗菌性能を示した。
【0083】
(実施形態5)
本実施形態では、植物体の有効成分が無機担体に担持された塗付用抗微生物性組成物について説明する。植物体としてウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉を用いた。まず、この植物体を充分乾燥させた後、抽出に供した。乾燥が不十分なままで抽出工程に移した場合、抽出成分のゲル化などの品質低下を伴うことがあり、抽出物の品質安定性を欠くおそれがある。
【0084】
ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉を水中に浸漬させ、温水に可溶な物質を抽出した。スプレードライ法を用いて、抽出された物質を粉末化した。無機担体としてハイドロタルサイト類化合物(板面径0.3μm、厚み0.06μm、比表面積14m2 /g)の粉体(戸田工業(株) 製)を準備した。この粉体1重量部および本抽出物1重量部を70%エチルアルコールと30%水の混合溶媒に分散させた。充分に分散させた後、撹拌させながら溶媒を蒸発させると、無機担体に本抽出物が担持された抗微生物性粒子が得られる。
【0085】
塗料樹脂としてのポリビニルアルコールを水に溶解した水性塗料中にこの抗菌性粒子を分散させて、塗付用抗微生物性組成物を調製した。具体的には、塗布後の膜重量換算として、本抽出物を5重量部、無機担体としてハイドロタルサイト類化合物を5重量部、ポリビニルアルコールを90重量部の比率で含むように、塗付用抗微生物性組成物を調製した。この塗付用抗微生物性組成物について、実施形態1で記載した評価方法を用いて、同様に抗菌性能を評価した。その結果、本抽出物が担持された抗微生物性粒子を分散させた塗付用抗微生物性組成物は、実用的な塗膜性能と、グラム陽性菌に対する抗菌性能を有することが確認された。
【0086】
本実施形態では、本抽出物が無機担体に担持されているので、本抽出物の耐熱性を向上させることができる。また、本抽出物が無機担体の外側表面だけでなく、無機担体の細孔中にも存在するので、外側表面の本抽出物が雨水などにより喪失した場合でも、細孔中の本抽出物が残存し、抗微生物性作用を持続させることができる。
【0087】
(実施形態6)
本実施形態では、近年注目を集めているカテキン類と、少なくとも一種の植物体抽出物を含有する塗付用抗微生物性組成物について説明する。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物、カテキン類および塗付溶媒を含有する。
【0088】
カテキン類は、茶葉に含まれる水溶性成分であり、渋味があることから一般にはタンニンと呼ばれている。茶のカテキン類には、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、カテキンなどの種類がある。
【0089】
本実施形態で使用するカテキン類は茶葉の抽出物であり、グラム陽性菌に対するMICは黄色ブドウ球菌に対して250〜800ppm であると報告されている(抗菌剤の化学II、工業調査会刊)。しかし、グラム陰性菌に対するカテキン類の抗菌性能については報告されていない。
【0090】
実施形態1で説明した製法により、中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物を準備した。本抽出物とカテキン類とを重量比で1:1になるように混合し、これらを塗装性能の出る程度の濃度で塗付溶媒(水)に分散させて、塗付用抗微生物性組成物を調製した。この塗付用抗微生物性組成物をスプレー容器内に充填し、紙にスプレー塗装した。スプレー塗装された紙について、抗菌性能を評価した。その結果、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。すなわち、スプレー塗装された紙は十分に抗菌処理がなされた。
【0091】
(実施形態7)
本実施形態では、銀系抗菌剤を含有する塗付用抗微生物性組成物について説明する。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、銀錯体系抗菌剤、塗料樹脂および塗付溶媒を含有する。
【0092】
シソ科コガネヤナギ植物根茎を充分乾燥させた後、抽出に供した。シソ科コガネヤナギ植物根茎を水中に浸漬させることによって、温水可溶な物質が得られた。スプレードライ法を用いて、この物質を粉末化することにより、黄色粉末が得られた。
【0093】
チオスルファト銀錯体をシリカゲルに吸着担持させ、その表面をテトラエトキシシラン加水分解物で被覆した銀錯体系抗菌剤(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)1重量部と、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物1重量部とを、溶媒としての20重量部の水に分散させた後、撹拌しながら水分を蒸発乾燥させた。これにより、銀錯体抗菌剤表面に本抽出物が固着した抗菌性粒子が調製された。塗装性能が出る程度に、カルボキシメチルセルロース98重量部を塗付溶媒(水)に分散させて、塗料バインダを調製した。この塗料バインダ中に上記抗菌性粒子2重量部を分散させて、塗付用抗微生物性組成物を調製した。
【0094】
実施形態1と同様にして、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物を用いて塗装された試験片を作成し、その抗菌性能を評価した。その結果、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物が実用的な抗菌性能を示すことが確認された。
【0095】
(実施形態8)
本実施形態では、複数種の植物体抽出物、カテキンおよび銀系抗菌剤を含有する塗付用抗微生物性組成物について説明する。本実施形態の塗付用抗微生物性組成物は、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物、カテキン、銀錯体系抗菌剤、塗料樹脂および塗付溶媒を含有する。
【0096】
実施形態2と同様にしてショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物を調製し、実施形態3と同様にしてサルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物を調製した。銀錯体系抗菌剤(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)1重量部と、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物1重量部と、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物1重量部と、カテキン1重量部とを、溶媒としての20重量部の水に分散させた後、撹拌しながら水分を蒸発乾燥させた。これにより、銀錯体抗菌剤表面に2種の水抽出物およびカテキンが固着した抗菌性粒子が調製された。以下、実施形態7と同様にして、塗付用抗微生物性組成物を調製した。
【0097】
実施形態1と同様にして、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物を用いて塗装された試験片を作成し、その抗菌性能を評価した。その結果、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物が実用的な抗菌性能を示すことが確認された。
【0098】
(実施形態9)
実施形態8で用いた2種の水抽出物を2種の有機溶媒抽出物に変更した以外は実施形態8と同様にして、塗付用抗微生物性組成物を調製した。具体的には、実施形態4でそれぞれ調製したシソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の有機溶媒抽出物およびサルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の有機溶媒抽出物に変更した。
【0099】
実施形態1と同様にして、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物を用いて塗装された試験片を作成し、その抗菌性能を評価した。その結果、本実施形態の塗付用抗微生物性組成物が実用的な抗菌性能を示すことが確認された。
【0100】
実施形態1〜9で説明した塗付用抗微生物性組成物は、植物体の水抽出物または有機溶媒抽出物のいずれかを含有する。しかし本発明の塗付用抗微生物性組成物は、植物体の水抽出物および有機溶媒抽出物の両方を含有していても良い。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されない。上記実施形態は例示であり、それらの各構成要素を種々変更した変更例が可能なこと、またそうした変更例も本発明の技術的範囲に属することは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の塗付用抗微生物性組成物は、微生物に起因した様々な弊害を防止するために利用することができる。例えば、生活関連資材に対する抗菌加工表面処理、工業製品およびその部材に対する防腐処理、微生物による建築関連資材の腐食を防止するための処理、食品関連資材に対する防腐処理、流通包装資材に対する微生物制御および悪臭防止、水処理における微生物制御などの用途等に有用である。また、医薬関連資材に対する微生物制御薬剤、公衆衛生用消毒薬剤等としても適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉ならびにキク科タイキンギク植物全植物体の1種あるいは複数種の水抽出物と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを少なくとも含有する塗付用抗微生物性組成物。
【請求項2】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉ならびにタデ科ダイオウ植物根茎の1種あるいは複数種の有機溶媒抽出物と、塗料樹脂および/または塗付溶媒とを少なくとも含有する塗付用抗微生物性組成物。
【請求項3】
無機担体をさらに含有する、請求項1または2記載の塗付用抗微生物性組成物。
【請求項4】
カテキン類および/または銀系抗菌剤をさらに含有する、請求項1から3のいずれか1項記載の塗付用抗微生物性組成物。
【請求項5】
前記銀系抗菌剤は、銀錯体および/または銀イオンが担持された担体を含む、請求項4記載の塗付用抗微生物性組成物。

【公開番号】特開2006−22075(P2006−22075A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203745(P2004−203745)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】