説明

塗工方法

【課題】塗工幅CLを早期に目標値へと安定させることにより、準備段階における破棄製品を減少させることができる塗工方法を提供すること。
【解決手段】搬送される基材1の表面に塗工ダイ11により塗工液2を吐出して塗工膜を形成する塗工方法において、塗工ダイ11と塗工液2のタンク24との間で塗工液2を循環させる循環回路19、20内の塗工液2の圧力P1及び流量F1を検出すること、検出した圧力P1及び流量F1に基づいて、塗工液2の粘度V1を推定すること、推定した粘度V1と塗工ダイ11の塗工幅CLとの相関関係に基づいて、塗工幅CL1を目標値とするのに必要な、塗工ダイ11の吐出口と基材1との間の塗工ギャップGの初期値GL1を決定すること、塗工ギャップGを初期値GL1に設定して、塗工ダイ11への塗工液2の供給を開始すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される基材の表面に塗工液を塗工する塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータを駆動源として搭載したハイブリッド車両や電気自動車等の電動車両が普及しつつある。こうした電動車両には、充電や放電を行うための二次電池が搭載されている。二次電池の電極には、帯状の金属箔(基材)の表面に活物質、導電補助材、バインダ等を含む塗工液を塗工して乾燥させることにより、塗工膜を形成したものが用いられている。この二次電池では、充電や放電を行う際、正極板の塗工膜に含まれる正極活物質と、負極板の塗工膜に含まれる負極活物質との間で、イオンの吸蔵や放出が行われる。イオンの吸蔵や放出を適切に行うためには、正極板や負極板の表面に適切な塗工幅(基材幅方向の長さ)の塗工膜が形成されている必要がある。
【0003】
一方、塗工装置としては、バックアップロールにより搬送される基材の表面に、バックアップロールに対向する位置にある塗工ダイにより塗工液を吐出し、塗工するものが知られている。塗工ダイにより形成される塗工膜の塗工幅は、塗工ダイの吐出口と基材との間の隙間(塗工ギャップ)に応じて変化する。
そこで、例えば特許文献1には、塗工ダイにより形成される塗工液の塗工幅を測定し、測定した塗工幅と目標値とを比較した結果に基づいて、塗工ギャップをフィードバック制御する塗工方法が提案されている。この塗工方法によれば、塗工幅の測定値に基づいて塗工ギャップを調整することで、塗工幅を目標値へとフィードバック制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−258078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には、次のような問題があった。
一般に、塗工ダイにより吐出する塗工液は、供給タンクからポンプ等により汲み上げられ、供給回路を通じで塗工ダイに供給される。ここで、塗工ギャップを変更した場合、供給回路を流れる塗工液の圧力や流量も同時に変化する。そして、塗工ダイに供給される塗工液の圧力や流量が変化すると、その影響を受けて再び塗工幅も変化してしまう。
したがって、特許文献1のように、塗工幅の測定値を基に塗工ギャップを調整しても、塗工ギャップの変更分だけ塗工液の液圧や流量も変化し、その分だけ塗工幅にズレが生じる。
この場合にも、塗工幅のズレを再び塗工ギャップの変更により修正する動作(フィードバック)を繰り返すことで塗工幅を目標値へとフィードバック制御することができるが、塗工幅を目標値に安定させるのに3〜5分程度という比較的長い時間がかかるという問題があった。
【0006】
一方、この種の塗工ラインは、24時間休日無しで連続稼働するのが一般的であったので、生産ラインを停止した後、再度立ち上げるという作業を行うのは、年に数回であるため、一般的には、塗工ラインの立ち上げに少しくらい時間がかかっても問題とはならなかった。
しかし、塗工ラインを例えば、毎日夜には停止して、朝に稼働させようとする場合、また、月曜から金曜まで24時間連続稼働して、土曜日と日曜日に停止する場合には、塗工開始時の塗工条件(塗工幅や塗工液の圧力、流量など)を早期に安定させることが強く要求されている。これは、生産ライン立ち上げ時には、塗工条件が安定するまで塗工ラインを準備運転させることが行われており、早期に塗工条件を安定させないと準備運転期間に製造される破棄製品の増加を招き、製造コストが上昇するからである。すなわち、従来の方法では、フィードバック制御により、塗工幅が安定するまでに3〜5分程度かかり、塗工した基材を100m以上廃棄する必要があったが、それを毎週行うことは製造コストのアップを招き、問題であった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、塗工幅を早期に目標値へと安定させることにより、準備段階における破棄製品を減少させることができる塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の塗工方法は、次のような特徴を有している。
(1)搬送される基材の表面に塗工ダイにより塗工液を吐出して塗工膜を形成する塗工方法において、塗工ダイと塗工液の供給タンクとの間で塗工液を循環させる循環回路内の塗工液の圧力及び流量を検出すること、検出した圧力及び流量に基づいて、塗工液の粘度を推定すること、推定した粘度と塗工ダイの塗工幅との相関関係に基づいて、塗工幅を目標値とするのに必要な、塗工ダイの吐出口と基材との間の塗工ギャップの初期値を決定すること、塗工ギャップを前記初期値に設定して、塗工ダイへの前記塗工液の供給を開始すること、を特徴とする。
【0009】
(2)(1)に記載する塗工方法において、前記塗工ダイにより塗工された前記塗工膜の前記塗工幅を計測し、前記塗工ギャップをフィードバック制御すると共に、前記塗工ギャップを変化させるときに、前記塗工液の流量をフィードフォワード制御により変化させること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する塗工方法において、前記変化させる流量の変化量を、前記推定した粘度と前記塗工ギャップの前記初期値に対する変化量とに基づいて決定すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記特徴を有する塗工方法は、次のような作用及び効果を奏する。
(1)搬送される基材の表面に塗工ダイにより塗工液を吐出して塗工膜を形成する塗工方法において、塗工ダイと塗工液の供給タンクとの間で塗工液を循環させる循環回路内の塗工液の圧力及び流量を検出すること、検出した圧力及び流量に基づいて、塗工液の粘度を推定すること、推定した粘度と塗工ダイの塗工幅との相関関係に基づいて、塗工幅を目標値とするのに必要な、塗工ダイの吐出口と基材との間の塗工ギャップの初期値を決定すること、塗工ギャップを前記初期値に設定して、塗工ダイへの前記塗工液の供給を開始すること、を特徴とするので、塗工ダイへの塗工液の供給開始後に必要となる塗工ギャップの変更量をあらかじめ小さくすることが可能となり、塗工幅を早期に目標値へと安定させることができる。
【0011】
すなわち、本出願人は、実験により、塗工幅が、塗工ギャップ(μm)と塗工液の粘度(mPas)との関数に近似することを発見した。一方、塗工液の粘度は、塗工液のロット差、塗工液を混練した後の経過時間等により変化することが知られているが、塗工液の粘度を理論的に計算することは困難である。特に、タンク内に貯蔵されている塗工液の粘度は、上層にある液と下層にある液とで粘度が大きく相違するため、タンク全体の塗工液の平均値を得ることは、さらに困難であった。
本出願人は、所定の循環回路内に塗工液を流して、そのときの圧力と流量を計測して、それらの値に基づいて塗工液の粘度をかなり正確に推定できることを実験により確認した。この場合、ある程度の量の塗工液を循環回路に流せば、タンク内の塗工液の平均粘度を推定できることを実験により確認している。
したがって、塗工ラインを立ち上げるときに、塗工開始前に塗工液を循環回路内で循環させ、塗工液の粘度を推定し、粘度の推定値から塗工ギャップの初期値を決定し、その塗工ギャップにより、塗工ラインを立ち上げることにより、塗工幅を速やかに目的地に安定させることができ、破棄する製品を大幅に減少させることができる。
【0012】
(2)(1)に記載する塗工方法において、前記塗工ダイにより塗工された前記塗工膜の前記塗工幅を計測し、前記塗工ギャップをフィードバック制御すると共に、前記塗工ギャップを変化させるときに、前記塗工液の流量をフィードフォワード制御により変化させること、を特徴とするので、塗工ギャップの変更に伴う塗工液の流量の変化を速やかに補正することができるため、塗工幅を早期に目標値へと安定させることができる。
【0013】
(3)(2)に記載する塗工方法において、前記変化させる流量の変化量を、前記推定した粘度と前記塗工ギャップの前記初期値に対する変化量とから決定すること、を特徴とするので、補正に必要となる流量の変化量を簡単かつ迅速に決定することができるため、塗工幅を早期に目標値へと安定させることができる。特に、圧力は、粘度により大きな影響を受けるため、粘度が所定値より大きいときに、この方法を行うと効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る塗工制御システムの全体構成を示す断面図である。
【図2】循環回路状態における流量・圧力と、粘度との関係を示すグラフである。
【図3】塗工幅・粘度と、ギャップとの関係を示すグラフである。
【図4】制御ブロック図である。
【図5】塗工幅制御の作用を示す図である。
【図6】粘度V・ギャップ幅Gと、流量Fとの関係を示すグラフである。
【図7】塗工幅CLの説明図である。
【図8】塗工幅CLとギャップ幅Gとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る塗工制御システムを具体化した実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態の塗工制御システムは、電動車両に搭載するリチウムイオン二次電池の製造工程において、電極を形成する基材1の表面に塗工液2を塗工する塗工ダイ11を制御するものである。
まず、本実施形態に係る塗工システムの全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る塗工システムの全体構成を示す概念図である。
【0016】
塗工ダイ11は、上面に形成されたファウンテン溝から塗工液2を噴出して、基材1の塗工面1aとの間にビードを形成し、形成されたビードにより、基材1の塗工面1aに塗工液2を塗工する装置である。塗工ダイ11の上面には、ギャップ幅Gの隙間をおいて、バックアップロール13の外周面に密着して保持されている基材1がある。バックアップロール13は、モータ14により、時計回りの方向に回転され、基材1は、別の駆動手段により、矢印Aで示す方向に搬送されている。
本実施形態の基材1としては、アルミ箔や銅箔等の金属箔が用いられている。また、塗工材としては、活物質、導電補助材、バインダ等を含むペースト状の塗工液2が用いられている。
図7に、基材1に塗工された塗工液2の一部分を、斜視図として示す。塗工幅CLは、基材1上に塗工された塗工液2の幅である。最終的には、乾燥された後の塗工材の幅として管理されるが、塗工後乾燥前の状態では、塗工液2の幅として管理している。
バックアップロール13の上流側には、従動ロール17が設けられ、基材1を保持している。また、バックアップロール13の下流側には、従動ロール15が設けられ、基材1を保持している。従動ロール15が保持している基材1に対向する位置に、塗工幅計測カメラ16が取付けられている。塗工幅計測カメラ16は、リアルタイムで塗工液2の幅を計測して、中央制御装置に計測データを送信している。
【0017】
塗工ダイ11は、バックアップロール13の軸心に対して近接する方向に移動、または離間する方向に移動可能に保持されている。また、塗工ダイ11を、1μm単位で精確に移動することのできる塗工ダイ移動用モータ12が、付設されている。
塗工ダイ11には、塗工液2を供給するための供給回路18の一端が接続されている。供給回路18の途中流路には、供給回路圧力センサ25が取り付けられている。供給回路18の他端は、3方弁である切替バルブ26の第2ポートに接続している。切替バルブ26の第1ポートは、共通回路20により、サーボモータにより駆動されるモノホンプ23の吐出ポートに接続されている。モノポンプ23は、精確な量の塗工液2を送ることができる。
モノポンプ23の入力ポートは、塗工液2を貯蔵しているタンク24に接続されている。共通回路20には、流量センサ21が取り付けられている。切替バルブ26の第3ポートは、循環回路19により直接、タンク24に接続されている。循環回路19の途中流路には、循環回路圧力センサ22が取り付けられている。
タンク24には、活物質、導電助材、バインダ、及び溶媒等が混練されたペースト状の塗工液2が貯蔵されている。タンク24に貯蔵されている塗工液2の量は、数ロット分である。1ロット分は、数1000mの基材1に塗工液2を塗工する量である。塗工液2の粘度Vは、材料や、混練後の時間経過により50%程度変化する場合がある。
【0018】
次に、上記構成を有する塗工システムの作用について説明する。例えば、金曜日の夜に塗工ラインを停止して、塗工ダイ11を洗浄した場合について説明する。このとき、一例として、タンク24内に未だ1ロット分の塗工液2が貯蔵されていたとする。月曜日の朝に、塗工ラインを再稼働しようとしたときに、塗工液2の粘度は、50%程度上昇している可能性がある。従来のように、そのまま塗工ラインを立ち上げた場合には、フィードバック制御により、塗工幅CLが安定するまでに3〜5分程度かかり、塗工した基材を100m以上廃棄する恐れがあった。そして、基材の廃棄を毎週月曜日の朝に行うことは製造コストのアップを招き、問題であった。
それと比較して、本実施例の塗工システムでは、始めに、切替バルブ26の第1ポート(共通回路20)と第3ポート(循環回路19)を連通させて、モノポンプ23を稼働させて、塗工液2をタンク24から吸い上げて、共通流路20、切替バルブ26、及び循環回路19を経て、タンク24に戻している。これが、循環回路状態である。循環回路状態において、流量センサ21により循環回路状態における流量Fを計測し、循環回路圧力センサ22により循環回路状態における圧力Pを計測する。
【0019】
図2に、循環回路状態における流量・圧力と、粘度との関係をグラフで示す。グラフの横軸は、塗工液2の流量(単位は、g/min)であり、縦軸は、粘度(単位は、Pas)である。P0は、循環回路圧力センサ22で計測した圧力がP0のときの圧力曲線を示し、P1は、圧力がP1のときの圧力曲線を示し、P2は、圧力がP2のときの圧力曲線を示している。これらのデータは、実験により得たものである。
始めに、循環状態における圧力Pを循環回路圧力センサ22から読み出し、その圧力値に最も近い圧力曲線Pを選択する。例えば、P1とすると、圧力曲線P1を選択する。ここで、計測した圧力値がP1とP2の間にあるときには、近似法により中間値を近似すれば良い。
次に、流量センサ21より流量Fを読み出す。例えば、読み出された流量が、F1(一例として、400g/min)であるとする。図2に示すように、圧力曲線P1において、流量F1ならば、粘度V1(一例として、400mPas)が求められる。これにより、3日間貯蔵してあった塗工液2の現在の粘度V1(400mPas)を推定することができる。
【0020】
図3に、塗工幅CL・粘度Vと、ギャップ幅Gとの関係をグラフで示す。グラフの横軸は、塗工幅CL(単位は、μm)であり、縦軸は、ギャップ幅G(単位は、μm)である。塗工幅CLは、全体の最低基準幅に対する差である。ギャップ幅Gは、本実施例では、最大値が100〜200μmであり、塗工ダイ移動用モータ12により1μm単位で制御可能である。V0は、推定された粘度V0のときの粘度曲線を示し、V1は、推定された粘度V1のときの粘度曲線を示し、V2は、推定された粘度V2のときの粘度曲線を示す。
始めに、図2を用いて推定された粘度に最も近い粘度曲線を選択する。次に、必要とする塗工幅CLを決定する。例えば、必要とする塗工幅CLがCL1(例えば、最低基準幅が100mmであり、その差分が100μmとする。)であるとする。必要とする塗工幅CLは、別途与えられる値である。
図3に示すように、粘度曲線V1(400mPas)において、塗工幅CL1(100μm)ならば、ギャップ幅Gとして、GL1(例えば、80μm)が求められる。
【0021】
次に、塗工ダイ移動用モータ12を駆動して、バックアップロール13の外周面に密着して保持されている基材1の外表面と、塗工ダイ11の上面とのギャップ幅GをGL1(80μm)に設定する。
次に、切替バルブ26を切り替えて、第1ポート(共通回路20)と第2ポート(供給回路18)とを連通させる。また、モータ14を駆動させて、バックアップロール13を回転させ、基材1の送りを始める。
これにより、塗工液2が、供給回路18、塗工ダイ11を経て、基材1の表面に塗工される。塗工幅CLは常時、塗工幅計測カメラ16により計測されている。
【0022】
以上説明したように、本実施例の塗工方法によれば、搬送される基材1の表面に塗工ダイ11により塗工液2を吐出して塗工膜を形成する塗工方法において、塗工ダイ11と塗工液2のタンク24との間で塗工液2を循環させる循環回路19、20内の塗工液2の圧力P1及び流量F1を検出すること、検出した圧力P1及び流量F1に基づいて、塗工液2の粘度V1を推定すること、推定した粘度V1と塗工ダイ11の塗工幅CLとの相関関係に基づいて、塗工幅CL1を目標値とするのに必要な、塗工ダイ11の吐出口と基材1との間の塗工ギャップGの初期値GL1を決定すること、塗工ギャップGを初期値GL1に設定して、塗工ダイ11への塗工液2の供給を開始すること、を特徴とするので、塗工ダイ11への塗工液2の供給開始後に必要となる塗工ギャップGの変更量をあらかじめ小さくすることが可能となり、塗工幅CLを早期に目標値へと安定させることができる。
【0023】
すなわち、本出願人は、実験により、塗工幅CLが、塗工ギャップGと塗工液2の粘度V(mPas)との関数に近似することを発見した。また、所定の循環回路19,20内に塗工液2を流して、そのときの圧力P1と流量F1を計測して、それらの値に基づいて塗工液の粘度V1をかなり正確に推定できることを実験により確認した。
したがって、塗工ラインを立ち上げるときに、塗工開始前に塗工液2を循環回路19、20内で循環させ、塗工液2の粘度V1を推定し、粘度Vの推定値V1から塗工ギャップGの初期値GL1を決定し、その塗工ギャップGL1により、塗工ラインを立ち上げることにより、塗工幅CLを速やかに目的地に安定させることができ、破棄する製品を大幅に減少させることができる。
【0024】
次に、稼働中の塗工幅CLの管理制御について説明する。
図4に制御ブロック図を示す。ギャップ幅Gは、粘度Vと塗工幅CLにより決定される。ここで、粘度Vは、流量Fと圧力Pにより決定される。ギャップ幅Gと粘度Vとにより、流量Fをフィードフォワード制御(ゲインΔF)する。
塗工液2の塗工幅CLが基準値より所定値以上小さい場合には、図8の(a)に示すように、塗工ダイ移動用モータ12を駆動して、ギャップ幅Gを狭くする。これにより、塗工幅CLは広がって、基準値に近づく。一方、塗工幅CLが基準値より所定値以上大きい場合には、図8の(b)に示すように、塗工ダイ移動用モータ12を駆動して、ギャップ幅Gを広げる。これにより、塗工幅CLは狭くなって、基準値に近づく。
一方、ギャップ幅Gを変化させると、塗工される塗工液2の量が変化するため、供給回路圧力センサ25で計測している圧力P、及び流量センサ21で計測している流量Fが同時に変化する。
このとき、本実施例では、例えば、ギャップ幅Gを広くして、ギャップ幅GL2とする場合には、塗工幅CLのフィードバック制御を待たずに、ギャップ幅Gをギャップ幅GL2に変化させると同時に、モノポンプ23への指令値を変化させて、流量Fをギャップ幅GL2に適応した値である流量F2に変化させる。すなわち、フィードフォワード制御を行っている。
【0025】
その作用を図5に示す。従来、流量Fの変化は、フィードバック制御を行っているため、流量がFaと大きく変化するため、収束するまでの変動が大きかったが、本実施例では、流量F2に直接フィードフォワード制御しているため、流量Fbと小さな変動で流量F2に収束できる。
圧力Pについても、流量F2が小さな変動で収束するため、同様に、フィードバック制御による変動Paと比較して、小さな変動Pbで収束させることができる。
本実施例の塗工方法によれば、塗工ダイ11により塗工された塗工膜の塗工幅CLを塗工幅計測カメラ16により計測し、塗工ギャップGをフィードバック制御すると共に、塗工ギャップGを変化させるときに、塗工液2の流量Fをフィードフォワード制御により変化させること、を特徴とするので、塗工ギャップGの変更に伴う塗工液2の流量Fの変化を速やかに補正することができるため、塗工幅CLを早期に目標値へと安定させることができる。
【0026】
一方、図4、5の制御に加えて、次のような制御を追加すると良い。すなわち、圧力Pは、ギャップ幅Gの影響と共に、塗工液2の粘度Vの影響を大きく受ける。したがって、循環回路19で推定した粘度V1が所定値より大きい場合には、次の手順で補正すると良い。
図6に粘度V・ギャップ幅Gと、流量Fとの関係をグラフで示す。横軸がギャップ幅G(単位は、μm)であり、縦軸が流量F(単位は、g/min)である。V0は、粘度がV0であるときの粘度曲線であり、V1は、粘度がV1のときの粘度曲線であり、V2は、粘度がV2のときの粘度曲線である。
粘度曲線は、V2、V1、V0の順で、粘度が大きくなっている。推定した粘度Vが、粘度V1であるときには、ギャップ幅Gを、GL1からGL1´に変更するときに、図4、5で行う流量Fのフィードフォワード制御のときのゲインΔFとして、図6に示すゲインΔF(推定粘度が粘度V1であるときの流量変化)を用いると良い。
これにより、変化させる流量Fの変化量を、推定した粘度V1と塗工ギャップGの初期値GL1に対する変化量とから決定すること、を特徴とするので、補正に必要となる流量の変化量を簡単かつ迅速に決定することができるため、塗工幅CLを早期に目標値へと安定させることができる。
【0027】
なお、上記した実施形態及びその変更例は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
例えば、本実施例では、循環回路19に循環回路圧力センサ22を設け、供給回路18に供給回路圧力センサ25を設けているが、循環回路圧力センサ22を共通回路20に設けて、供給回路圧力センサ25を省略しても良い。
本実施例では、循環回路状態における流量・圧力と、粘度との関係をグラフで記憶しているが、近似式で記憶して、計算により算出しても良い。同様に、塗工幅・粘度と、ギャップとの関係についても、近似式で記憶して、計算により算出しても良い。
また、本実施例では、一度粘度を推定しているが、循環回路状態における流量、圧力、及び塗工幅を関数として、直接ギャップを決定しても同じである。すなわち、そのような計算式においても、流量・圧力により粘度を推定していると考えられるからである。
また、本実施例では、塗工幅を塗工幅計測カメラ16を用いて計測しているが、その他の光センサ、または膜厚センサ等のセンサを用いても良い。
【符号の説明】
【0028】
1 基材
1a 塗工面
2 塗工液
11 塗工ダイ
12 塗工ダイ移動用モータ
13 バックアップロール
16 塗工幅計測カメラ
18 供給回路
19 循環回路
20 共通回路
21 流量センサ
22 循環回路圧力センサ
23 モノポンプ
24 タンク
25 供給回路圧力センサ
CL 塗工幅
G 塗工ギャップ
F 流量
P 圧力
V 粘度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される基材の表面に塗工ダイにより塗工液を吐出して塗工膜を形成する塗工方法において、
前記塗工ダイと前記塗工液の供給タンクとの間で前記塗工液を循環させる循環回路内の前記塗工液の圧力及び流量を検出すること、
前記検出した圧力及び流量に基づいて、前記塗工液の粘度を推定すること、
前記推定した粘度と前記塗工ダイの塗工幅との相関関係に基づいて、前記塗工幅を目標値とするのに必要な、前記塗工ダイの吐出口と前記基材との間の塗工ギャップの初期値を決定すること、
前記塗工ギャップを前記初期値に設定して、前記塗工ダイへの前記塗工液の供給を開始すること、
を特徴とする塗工方法。
【請求項2】
請求項1に記載する塗工方法において、
前記塗工ダイにより塗工された前記塗工膜の前記塗工幅を計測し、前記塗工ギャップをフィードバック制御すると共に、前記塗工ギャップを変化させるときに、前記塗工液の流量をフィードフォワード制御により変化させること、
を特徴とする塗工方法。
【請求項3】
請求項2に記載する塗工方法において、
前記変化させる流量の変化量を、前記推定した粘度と前記塗工ギャップの前記初期値に対する変化量とに基づいて決定すること、
を特徴とする塗工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254401(P2012−254401A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128050(P2011−128050)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】