説明

塗工液の塗布方法及び塗工装置

【課題】塗工液の塗布時の塗りムラの発生を防止する。
【解決手段】コイル線を密着巻きさせたアプリケートローラにより塗工液の塗布を行った後、アプリケートローラのコイル線のピッチを広げてから、円筒体とアプリケートローラを離間させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式プリンタや複写機等のOA機器に使用される各種ローラにおいて、ローラを構成する層を形成するための塗工液の塗布方法及び塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真式プリンタや複写機等のOA機器には、帯電ローラ、現像ローラなど様々な導電性ローラが使用されている。これらの導電性ローラは、電気特性の向上や感光ドラムへの汚染防止のため、塗工液を塗布、乾燥させることによって1層以上の塗工層が設けられている。
【0003】
従来、この塗工層を形成する方法としては、ローラ(円筒体)自体を塗工液中に浸漬させるディッピング式塗工やスプレー式塗工が挙げられる。また、これ以外にも塗工液を供給した回転するアプリケートローラをローラ(円筒体)に当接させるローラコート式塗工などが用いられている。
【0004】
これらの方法の中でも、ローラコート式塗工はローラの軸方向全体にわたって同時に塗工液を塗布する方法であり、以下のような利点を有している。
・1本ずつ短時間で塗工ができ、かつ塗工液の使用量も少量ですむ。
・他の塗布方法に比べて生産性が高い。
【0005】
しかし、このローラコート式塗工は、塗布終了後、被塗工物であるローラからアプリケートローラを離間させる工程が必要であった。そして、この際、塗工液が高い表面張力、粘度を有するため、ローラとアプリケートローラの離間時にアプリケートローラ側に引っ張られて、この跡がローラ表面に残る場合があった。この結果、ローラとアプリケートローラとの間のゴムローラ表面の軸方向にすじ状の塗りムラが残る場合があった。
【0006】
このすじ状の塗りムラは、塗工液自体の物性(表面張力、粘度)を改善することによりある程度、防ぐことができるものの、近年のプリンタの高速化及び高精細化に対する対応としては不十分であった。そこで、ローラコート式塗工装置自体の改良が必要となっていた。
【0007】
このため、特許文献1には、このすじ状の塗りムラの発生を防止する方法が開示されている。具体的には、特許文献1(特許第2665795号明細書)の方法では、アプリケートローラの回転軸を、ローラの軸に対して一定角度ずらして配置し、ローラの一方の端部より他方の端部まで順に塗工液を塗布している。そして、最後の塗りムラのすじをゴムローラの他方の端部まで逃がすことによって、ローラ全体のすじ状の塗りムラの発生を防止している。
【特許文献1】特許第2665795号明細書(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、塗りムラをゴムローラの他方の端部へ徐々に逃がしているため、塗工液の塗布に時間がかかることとなっていた。また、アプリケートローラ又はローラを移動させる機構が必要となるため、塗工装置自体が複雑になるなど装置のコストアップにつながるといった問題が生じていた。
【0009】
そこで、本発明者は鋭意、検討した結果、被塗工物である円筒体に塗工液を塗布する手段として、心棒にコイル線を巻いたワイヤーロッド形状のアプリケートローラを用いれば良いことを発見した。そして、塗工液の塗布時には、コイル線を密着巻きにすることで円筒体とアプリケートローラの当接性を高くして、円筒体の外周面上に均一に塗工液を塗布できることを発見した。また、塗布終了時には、コイル線のピッチを大きくすることで円筒体とアプリケートローラの当接性を低くしてから、円筒体とアプリケートローラを離間させる。これにより、円筒体の外周面上への塗工液の液だれや塗りムラの発生を防止できることを発見した。
【0010】
すなわち、本発明は、塗布終了後、アプリケートローラを被塗工物(円筒体)から離間させる際の、塗りムラの発生を防止する塗工液の塗布方法及び塗工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。
1.(1)円筒体と、心棒にコイル線を密着巻きさせてなるワイヤーロッド形状のアプリケートローラとを、円筒体とアプリケートローラの中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置する工程と、
(2)前記アプリケートローラを回転させながら、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することにより、前記円筒体の外周面上に前記塗工液を塗布する工程と、
(3)前記アプリケートローラのコイル線のピッチを広げる工程と、
(4)前記塗工液を塗布した円筒体と前記アプリケートローラを離間させる工程と、
を有することを特徴とする塗工液の塗布方法。
【0012】
2.前記工程(2)において、
前記アプリケートローラの外周面の一部を、容器A内に満たした前記塗工液中に浸漬させることにより、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することを特徴とする上記1に記載の塗工液の塗布方法。
【0013】
3.前記工程(2)において、
前記アプリケートローラと、サクションローラとを、アプリケートローラとサクションローラの中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置し、
前記サクションローラを回転させながら、その外周面の一部を容器B内に満たした前記塗工液中に浸漬させることにより、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することを特徴とする上記1に記載の塗工液の塗布方法。
【0014】
4.コイル線を巻いた心棒と、前記コイル線のピッチを変化させることが可能なスライド機構と、を有するアプリケートローラと、
前記アプリケートローラの回転手段と、
前記アプリケートローラの外周面上へ塗工液を供給する液供給手段と、
前記アプリケートローラと中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように、円筒体を把持可能な把持手段と、
前記円筒体を前記アプリケートローラから離間させるように移動可能な移動手段と、
を備えたことを特徴とする塗工装置。
【0015】
5.前記液供給手段が、塗工液を満たした容器Aであり、
前記液供給手段は、前記アプリケートローラの外周面の一部を、前記塗工液中に浸漬させるように配置されていることを特徴とする上記4に記載の塗工装置。
【0016】
6.前記液供給手段は、
前記アプリケートローラと中心軸が互いに平行で、且つ互いの外周面が対向するように配置されたサクションローラと、
前記サクションローラの回転手段と、
塗工液を満たした容器Bであって、前記サクションローラの外周面の一部を前記塗工液中に浸漬させるように配置された容器Bと、
を備えたことを特徴とする上記4に記載の塗工装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗工液の塗布方法及び塗工装置によれば、塗布終了後、被塗工物である円筒体をアプリケートローラから離間させる際に、アプリケートローラのコイル線のピッチを広げる。これにより、コイル線とコイル線の間に塗料が流れ込んで、アプリケートローラから円筒体への塗工液の供給が絶たれる。また、被塗工物である円筒体とアプリケートローラとの接触が、軸方向の線接触から複数の点接触となる。この結果、円筒体表面に液だれやアプリケートローラに引っ張られた跡が残らなくなり、離間する際のすじ状の塗りムラの発生を防止した状態で円筒体に塗工液の塗布を行うことができ、均一な膜厚の塗布層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.塗工装置
本発明の塗工装置は、以下の部材を有する。
コイル線を巻いた心棒と、コイル線のピッチを変化させることが可能なスライド機構と、を有するアプリケートローラ。
アプリケートローラの回転手段。
アプリケートローラの外周面上へ塗工液を供給する液供給手段。
アプリケートローラと中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように、円筒体を把持可能な把持手段。
円筒体をアプリケートローラから離間させるように移動可能な移動手段。
【0019】
図1は、本発明のアプリケートローラの一例を示したものである。本発明のアプリケートローラ5は、塗工液の塗布時には、心棒2にコイル線1を密着巻きさせたワイヤーロッド形状となっている。ここで、「密着巻き」とは、図1(a)に示されるように、隣接するコイルの一巻き同士が密着して、接するように巻かれた状態を表す。この時、アプリケートロールの直径は特に限定されるものではないが、直径が小さいと機械的強度が保てなかったり軸受などの設計が困難となる。また、直径が大きいと空気中に露出する表面積が大きくなりアプリケートロール表面の塗工液が乾燥してしまう。このため、アプリケートロールの直径は、10mm以上、30mm以下が好ましい。
【0020】
このコイル線1の材質は特に限定されるわけではないが、バネ性を持たせるため、例えば、硬鋼線、ピアノ線、バネ用ステンレス鋼線を用いるのが好ましい。この時、コイル線の直径は塗工膜厚、塗工液の粘度、表面張力などの条件にもよるが、特に限定されるものではない。ただし、コイル線の直径が小さいと表面が平滑な円柱状態となり塗工液の塗布量が減ったり機械的強度が保てない可能性がある。また、コイル線の直径が大きいと隣り合うコイル線の隙間に塗工液が回らず塗工ムラの原因となる。このため、コイル線の直径は、0.2mm以上、2mm以下であることが好ましい。
【0021】
また、心棒2の材質は特に限定されるわけではないが、好ましくは導電性で所定の機械的強度を有するものを用いるのが良い。具体的には金属製の心棒を挙げることができる。
【0022】
このアプリケートローラ5は、コイル線のピッチを変化させることが可能なスライド機構を備えている。そして、塗布終了時には、図1(b)に示すように、このスライド機構によりコイル線が密着巻きした状態からコイル線のピッチが広がった状態に変化させることができる。コイル線を広げる間隔としては、塗工液の粘度、表面張力により、特に限定されるわけではない。一般的には、コイル線の間隔をコイルの直径分以上に広げれば、コイル線とコイル線の間に塗工液が保持できなくなり塗工を終了できるが、最終的には塗り上がりの表面状態で判断するのが好ましい。
【0023】
このスライド機構により、コイル線1のピッチを変化させる方法としては、コイル線1の少なくとも一方を他方に対して軸方向に引っ張る方法が挙げられる。この引っ張る方法としては例えば、図4に示されるように、心棒2にスライドするリング3を挿入し、リング3にコイル線1の一端を溶接又は引っ掛けて固定させ、リング3をエアシリンダ等で軸方向10に移動させる方法がある。
【0024】
また、コイル線1を圧縮バネのように心棒2に隙間を空けた状態で巻き付け、コイル線1の少なくとも一方を心棒2に取り付けたリング3等で軸方向に押し付けて密着状態にする方法を挙げることができる。この方法では、ゴムローラ4を離間する際にリング3の押し付け力を開放させることにより、コイル線1のピッチを広げることができる。
【0025】
このアプリケートローラには回転手段が備え付けられており、所定の回転数でアプリケートローラを回転させることができるようになっている。この時、アプリケートロールの回転数は特に限定されるものではないが、回転が速すぎると遠心力により液が飛び散り、回転が遅いと生産性が落ちることとなる。このため、被塗工物である円筒体の回転数は30rpm以上、120rpm以下となるように設定するのが好ましい。この回転手段による回転方法としては例えば、アプリケートローラ5を把持する軸をモータ9a等で回転させる方法が挙げられる。また、図3に示すように、液供給手段として設けたサクションローラ7をモータ9b等で回転させ、アプリケートローラ5をこのサクションローラ7の回転に従動回転させても良い。この場合、サクションローラ7が回転手段となる。
【0026】
また、本発明では、アプリケートローラの外周面上へ塗工液を供給する液供給手段が設けられている。この液供給手段により、アプリケートローラの外周面上へ供給された塗工液は、アプリケートローラの回転に伴ってアプリケートローラの外周面と対向する円筒体の外周面上まで運ばれて、円筒体の外周面上に塗布される。
【0027】
この液供給手段としては、塗工液を満たしたパン状容器Aを挙げることができる。図2はこの液供給手段を備えた本発明の塗工装置の一例を示したものである。この液供給手段を用いる場合、アプリケートローラ5の外周面の一部を直接、塗工液を満たしたパン状容器A内8に浸漬させる。そして、アプリケートローラ5を回転させることにより、アプリケートローラ5の外周面上に塗工液を順次、供給することができる。
【0028】
また、この液供給手段としては、サクションローラ7と、塗工液を満たしたパン状容器B8を挙げることができる。図3は、この液供給手段を備えた本発明の塗工装置の一例を示したものである。この液供給手段では、塗工液を満たしたパン状容器B8は、サクションローラ7の外周面の一部を塗工液中に浸漬させるように配置されている。
【0029】
また、このサクションローラ7は、サクションローラ7とアプリケートローラ5の中心軸が互いに平行となり、且つサクションローラ7とアプリケートローラの外周面が互いに対向するように配置されている。このサクションローラ7には回転手段9bが設けられており、サクションローラ7が回転できるようになっている。この回転手段9bとしては、アプリケートローラと同様の回転手段を用いることができる。また、アプリケートローラ5は、このサクションローラ7の回転に伴い、従動回転するようになっている。このサクションローラ7は、塗工の膜厚や塗料の粘度等の特性に合わせて、その表面にローレット加工を施したグラビアローラを用いても良い。
【0030】
このサクションローラ7を用いた液供給手段を用いる場合、サクションローラ7の外周面の一部を直接、塗工液を満たしたパン状容器B8内に浸漬させる。そして、サクションローラ7を回転させることにより、サクションローラ7の外周面上に塗工液を順次、供給することができる。このサクションローラ7の外周面上へ供給された塗工液は、サクションローラ7の回転に伴ってサクションローラ7の外周面と対向するアプリケートローラ5の外周面上まで運ばれる。そして、サクションローラ7からアプリケートローラ5の外周面上へと供給される。
【0031】
また、本発明の塗工装置には、アプリケートローラと中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように、円筒体を把持可能な把持手段が設けられている。また、円筒体は、それ単独で又は、アプリケートローラ5の回転に伴っ従動回転できるようになっている。なお、ここで「円筒体」とは、中心軸を有する円筒形状のものを表しており、芯金や芯金上に1以上の層が設けられたものを挙げることができる。
【0032】
円筒体を単独で回転させる場合、例えば、把持手段6をモータ等でアプリケートローラ5とは独立して回転させる方法を挙げることができる。この場合、円筒体の回転方向は、アプリケートローラの回転方向と同じ方向又は逆方向の何れの方向の回転であっても良いが、液切れを考慮し、せん断速度を上げるために同じ方向の回転とすることが好ましい。
【0033】
また、上記以外の円筒体の回転方法としては、アプリケートローラ5と円筒体を当接させ、アプリケートローラ5の回転に伴い、円筒体を従動回転させる方法を挙げることができる。この場合、円筒体の回転方向は、アプリケートローラの回転方向と逆方向の回転となる。
更に、本発明の塗工装置は、円筒体をアプリケートローラから離間させるように移動可能な移動手段を有いている。なお、一つの手段が、把持手段と移動手段としての機能を有していても良い。
【0034】
2.塗工液の塗布方法
本発明の塗工液の塗布方法は以下の工程を有する。
(1)被塗工物である円筒体と、心棒にコイル線を密着巻きさせてなるワイヤーロッド形状のアプリケートローラとを、円筒体とアプリケートローラの中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置する工程。
(2)アプリケートローラを回転させながら、アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することにより、円筒体の外周面上に塗工液を塗布する工程。
(3)アプリケートローラのコイル線のピッチを広げる工程。
(4)塗工液を塗布した円筒体とアプリケートローラを離間させる工程。
【0035】
本発明の塗工液の塗布方法では、まず、工程(1)で、円筒体と、アプリケートローラとを、中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置する。この時、円筒体とアプリケートローラの外周面は間隙を設けて配置しても、当接させても良い。
【0036】
次に、工程(2)では、アプリケートローラを回転させながら、アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給する。このようにアプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することにより、アプリケートローラの回転に伴って塗工液は、アプリケートローラの円筒体に対向する外周面上まで運ばれる。そして、アプリケートローラの円筒体に対向する外周面から、この円筒体の外周面上に塗工液を塗布する。図1(a)はこの状態を表したものである。
【0037】
なお、この際、アプリケートローラは心棒にコイル線を密着巻きさせたワイヤーロッド形状となっているため、円筒体の外周面上に均一に塗工液を塗布することができる。また、円筒体は独立して又は、アプリケートローラの回転に従動させて回転させているため、上記方法により、円筒体の外周面上に順次、塗工液を塗布することができる。
【0038】
次に、工程(3)では、塗工液の塗布を終了した後、アプリケートローラのコイル線のピッチを広げる。図1(b)はこの状態を表したものである。これにより、コイル線とコイル線の間に塗料が流れ込んで、アプリケートローラから円筒体への塗工液の供給が絶たれる。また、被塗工物である円筒体とアプリケートローラとの接触が軸方向の線接触から複数の点接触となる。この結果、円筒体の表面に液だれやアプリケートローラに引っ張られた跡が残らなくなり、離間する際のすじ状の塗りムラの発生を防止した状態で、円筒体に塗工液の塗布を行うことができる。
【0039】
次に、工程(4)では、塗工液を塗布した円筒体と、アプリケートローラを離間させる。この時、典型的には、移動手段により円筒体を移動させてアプリケートローラから離間させる。なお、円筒体とアプリケートローラの離間方法は、上記方法に限定されず、円筒体単独、アプリケートローラ単独、円筒体とアプリケートローラの両方を移動させることによって離間させても良い。
【0040】
この後、円筒体の外周面上に塗布した塗工液を加熱乾燥させることによってすじ状の塗りムラの発生がなく、均一な膜厚を有する塗布層を得ることができる。
3.塗工液
本発明に用いられる塗工液は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の材料、水系、溶剤系溶媒、顔料の有無などが特に限定されるものではない。また、塗工液の粘度については、粘度が高いとアプリケートロールから被塗工物である円筒体を離間する際に糸引きを起こしてしまうため、一般的には100Pa・s以下が好ましい。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
電子写真装置用現像ローラを製造するための、本発明の塗工液の塗布方法を、図4を参照して説明する。
まず、被塗工物である円筒体を準備した。なお、この円筒体は、φ6で、長さ260mmの、表面が無電解ニッケルメッキをされた快削鋼SUM24Lのシャフト4aを芯金として用いている。そして、金型により、この芯金の外周面上にφ12で長さ235mmの導電性シリコーンゴムからなる弾性層4bを形成した。なお、この弾性層4bを構成する導電性シリコーンゴムは、東レ・ダウコーニング社製のものであり、2液の液状材料から構成され、白金触媒や硬化剤、導電性付与のためのカーボンブラック等が適宜、配合されている。この弾性層4bは、2液の液状材料を混合した後、シャフトを内包した金型内に射出、熱硬化させて形成した。
【0042】
また、塗工装置としては、図3に示す各部材から構成されたものを用いた。
・ゴムローラ4を把持すると共に上下移動が可能な手段6。
・アプリケートローラ5
・軸受機構
・アプリケートローラに当接し回転する、当接部の大きさが外径φ30で、長さ260mmのサクションローラ7(SUS304製)。
・サクションローラ7を駆動させるモータ(回転手段)9b。
・サクションローラ7の下部が浸漬し、塗工液を満たしたパン状容器B8。
(手段6は、把持手段と移動手段に相当する。このサクションローラ7、サクションローラ7の回転手段9b、パン状容器B8が液供給手段を構成する。また、サクションローラ7、サクションローラ7の回転手段9bが、アプリケートローラ5の回転手段に相当する)。
【0043】
次に、この塗工装置を用いて、心棒にコイル線を密着巻きさせたワイヤーロッド形状のアプリケートローラに対して、上記円筒体を、中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置させた(工程(1))。なお、このアプリケートローラ5には、図4に示すように、両端部の外径がφ8、中央部の外径がφ11.8mmで、全長350mmのステンレス鋼SUS304製心棒2を用いた。そして、この心棒2に、φ2.1mmのSUS304−WPB製コイル線1を115巻き密着巻きしたものを用いた。このアプリケートローラ5の、コイル線1を密着巻きさせた部分の外径φ16mmで、長さは241.5mmとなる。
【0044】
図4に示すように、このアプリケートローラ5においては、コイル線1の一方の端部は心棒2内に挿入して固定した。また、もう一方の端部は心棒2を挿入した外径φ16、内径φ11.8、長さ10mmの、コイル線ピッチ拡大用リング3の中央に挿入した。なお、この心棒2にはリングが軸方向10に可動させてコイル線1のピッチを広げた場合に、コイル線1のリング3側の端部を軸方向に逃がすための溝2aが開けられている。
【0045】
この塗工装置では、モータ9bよりカップリングを介してサクションローラ7を駆動させ、サクションローラ7の回転に伴いサクションローラ7に当接させたアプリケートローラ5を従動回転させている。また、被塗工物であるローラ(円筒体)4は、アプリケートローラ5に従動回転するよう、シャフト4aに片側300gf、両側で600gfの荷重をかけてアプリケートローラに当接されている。また、サクションローラ7を駆動させるモータ9bは、回転速度が変えられるようにACスピードコントローラモータ25Wが用いられている。本実施例では、ローラの回転数が30rpmとなるよう、サクションローラの回転数を12rpmに設定した。
【0046】
本実施例では、上記のようにサクションローラ及びアプリケートローラを回転させることにより、パン状容器B内の塗工液をアプリケートローラの外周面上に供給した。なお、この塗工液を得る際にはまず、ウレタン塗料(日本ポリウレタン社製 ニッポランN5033(商品名))を、固形分濃度が10質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。次に、この希釈液に更に導電剤としてカーボンブラック、絶縁性ウレタン粒子、硬化剤等を適宜、配合させた。そして、塗工液の粘度を、14mPa・sに調整した。
【0047】
より具体的には、被塗工物であるローラ(円筒体)を把持した状態で、このアプリケートローラに当接させて、このローラを5回転、従動回転させることにより、ローラ5の外周面上に塗工液を塗布した(工程(2))。この後、アプリケートローラのコイル線の片端に取り付けたリング3を、軸方向に約50mm移動させた。この時、コイル線のピッチは約2.5mmとなり、隣り合うコイル線の隙間は約0.4mmとなった(工程(3))。次に、現像ローラを引き上げて、塗工液を塗布した円筒体からアプリケートローラを離間させた(工程(4))。
【0048】
(比較例1)
比較例1として、図5に示す、塗工部の大きさがφ16、長さ245mmで、コイル線を巻いていない円柱状のアプリケートローラを用いて、ローラ(円筒体)に塗工液の塗布を行った。なお、図6に示すように、このアプリケートローラ以外の装置構成は、実施例1と同様にした。
【0049】
すなわち、比較例1では、サクションローラ7を用いてパン状容器B8内の塗工液をアプリケートローラ5の外周面上に供給した。また、これと共に、サクションローラ7の回転によりアプリケートローラ5を従動回転させた。
【0050】
更に、アプリケートローラ5の回転によって、被塗工物である円筒体4a、4bを従動回転させ、この円筒体の回転数が30rpmとなるように調整した。そして、被塗工物である円筒体を5回転、従動回転させることにより、ローラ5の外周面上に塗工液を塗布した。次に、塗工液を塗布した円筒体をアプリケートローラから離間させた。
【0051】
(実施例1と比較例1の評価)
実施例1では、塗工液の塗布終了後、コイル線のピッチを広げることにより塗料がコイル線の隙間に流れ込み円筒体への塗工液の供給が絶たれ、円筒体とアプリケートローラの接触は複数の点接触となった。このため、塗工液を塗布した円筒体の表面を観察すると、軽微な螺旋状の塗りムラが認められただけであった。なお、この螺旋状の塗りムラは、アプリケートローラのコイル線のピッチを広げた際に、円筒体表面とコイル線が接触していた位置に相当する部分に形成されたものである。実施例1では、回転しながら、被塗工物である円筒体とアプリケートローラの接触位置が移動するため、このような螺旋状の塗りムラが形成されたものと考えられる。
【0052】
一方、比較例1で塗工液を塗布した円筒体は、軸方向全域にわたって1本の太いすじ状の塗りムラが観察され、実施例と比較して塗りムラ部の段差が大きかった。この塗りムラの位置は、円筒体をアプリケートローラから離間した位置と一致していた。このため、この塗りムラは、ローラとアプリケートローラ間の離間時に、これらのローラ間で表面張力や粘度により引っ張られた塗工液が切れ、その時に塗料が塗りムラとして円筒体表面上に残ったものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のアプリケートローラの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の塗工装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の塗工装置の一例を示す概略図である。
【図4】実施例1のアプリケートローラを示す概略図である。
【図5】比較例1のアプリケートローラを示す概略図である。
【図6】比較例1の塗工装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1.コイル線
2.心棒
2a.溝
3.コイル線ピッチ拡大用リング
4.ゴムローラ
4a.ゴムローラシャフト
4b.弾性体層
5.アプリケートローラ
6.ゴムローラ把持機構
7.サクションローラ
8.パン状容器
9a.サクションローラ駆動用モータ
9b.アプリケートローラ駆動用モータ
10.コイル線ピッチ可変シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被塗工物である円筒体と、心棒にコイル線を密着巻きさせてなるワイヤーロッド形状のアプリケートローラとを、円筒体とアプリケートローラの中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置する工程と、
(2)前記アプリケートローラを回転させながら、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することにより、前記円筒体の外周面上に前記塗工液を塗布する工程と、
(3)前記アプリケートローラのコイル線のピッチを広げる工程と、
(4)前記塗工液を塗布した円筒体と前記アプリケートローラを離間させる工程と、
を有することを特徴とする塗工液の塗布方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、
前記アプリケートローラの外周面の一部を、容器A内に満たした前記塗工液中に浸漬させることにより、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することを特徴とする請求項1に記載の塗工液の塗布方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、
前記アプリケートローラと、サクションローラとを、アプリケートローラとサクションローラの中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように配置し、
前記サクションローラを回転させながら、その外周面の一部を容器B内に満たした前記塗工液中に浸漬させることにより、前記アプリケートローラの外周面上に塗工液を供給することを特徴とする請求項1に記載の塗工液の塗布方法。
【請求項4】
コイル線を巻いた心棒と、前記コイル線のピッチを変化させることが可能なスライド機構と、を有するアプリケートローラと、
前記アプリケートローラの回転手段と、
前記アプリケートローラの外周面上へ塗工液を供給する液供給手段と、
前記アプリケートローラと中心軸が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように、円筒体を把持可能な把持手段と、
前記円筒体を前記アプリケートローラから離間させるように移動可能な移動手段と、
を備えたことを特徴とする塗工装置。
【請求項5】
前記液供給手段が、塗工液を満たした容器Aであり、
前記液供給手段は、前記アプリケートローラの外周面の一部を、前記塗工液中に浸漬させるように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の塗工装置。
【請求項6】
前記液供給手段は、
前記アプリケートローラと中心軸が互いに平行で、且つ互いの外周面が対向するように配置されたサクションローラと、
前記サクションローラの回転手段と、
塗工液を満たした容器Bであって、前記サクションローラの外周面の一部を前記塗工液中に浸漬させるように配置された容器Bと、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−290019(P2008−290019A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138948(P2007−138948)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】