説明

塗布型制振材料

【課題】 塗布型制振材料において、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所を生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られること。
【解決手段】 実施例1は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンAを本発明の条件を満たす40重量%用いており、また鱗片状フィラー(マイカ)として本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす27重量%用いているため、曲げ剛性比が2.7と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.09以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂エマルジョンと鱗片状フィラーとを含有し、車両等に用いられる剛性と制振性に優れた水系の塗布型制振材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の車両のフロア等には振動を防止するために、アスファルトを主成分としたシート状の制振材が設置されていた。しかし、かかるシート状の制振材は車両等に用いる場合には、各車種ごとに設置する部分の形状に合わせて切断しなければならず、さらにシート状制振材の設置は作業者が行わなければならないため、自動化の障害になり工程時間の短縮を阻害していた。そこで、特許文献1,2,3に示されるように、ロボットによる自動化の可能な塗装式の制振組成物(塗布型制振材料)が開発されている。
【0003】
特許文献1に示される発明においては、ガラス転移温度が−10℃〜50℃の範囲にあり、かつガラス転移温度が異なる2種以上の合成樹脂を主成分とするエマルジョンと、粒子径範囲が0.1μm〜200μmであり、かつ平均粒子径が0.5μm〜80μmのマイカとを含み、合成樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対してマイカが30重量部〜350重量部である水系制振塗料によって、室温から高温までの広い温度領域において高い制振性能を示す制振塗膜を得られるとしている。ここで、2種以上の合成樹脂としては、アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル重合体、アクリル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル重合体、塩化ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニリデン重合体、ブタジエン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等から選ばれる。
【0004】
また、特許文献2に示される発明においては、ガラス転移温度が−50℃〜5℃の合成樹脂を主成分とする合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、無機充填材を250質量部〜550質量部、増粘剤と分散剤のの双方またはいずれか一方を0.1質量部〜35質量部含有する水系制振塗料によって、室温付近で高い制振性能を示すべく充填材を多量に配合するにも関わらず、塗料貯蔵時の安定性に優れ、しかもスプレー塗装、刷毛塗り等の塗装性にも優れた水系の制振塗料が得られるとしている。ここで、合成樹脂エマルジョンはアクリル酸エステル共重合体エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン等から選ばれ、無機充填材は炭酸カルシウム、転炉スラグ粉末等から選ばれる。
【0005】
さらに、特許文献3に示される発明においては、焼付け型水系塗料において加熱膨張型有機中空状充填材を0.1重量%以上5重量%未満含有する制振性を有する水系塗料、或いは焼付け型水系塗料において有機発泡剤を0.1重量%以上5重量%未満含有する制振性を有する水系塗料によって、従来の水系樹脂塗料と比較して飛躍的に高いワキ・クラックが発生しない限界膜厚を有する水系塗料を実現し、一度に厚膜に塗装できるため従来のシート状制振材と何ら変わらぬ制振性能を有し、しかも水系塗料であるため加熱乾燥時に有毒なガスを発生しない塗料が得られるとしている。ここで、加熱膨張型有機中空状充填材としてはポリビニリデンクロライド、ポリアクリロニトリル、或いはこれらの共重合体からなるプラスティック中空状充填材等が、有機発泡剤としてはニトロソ系発泡剤、スルホニルヒドラジド系発泡剤、アゾ系発泡剤等が、それぞれ用いられる。また、充填材として、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、珪藻土等が用いられる。
【0006】
これらの発明にかかる水系制振塗料(塗布型制振材料)は、塗装ロボットによる自動化が可能であり工程時間を短縮できるだけでなく、いずれも水系塗料であるため、施工時に従来のシート状制振材におけるアスファルト臭や有機溶剤系塗料における有機溶剤臭を発生しないという長所も兼ね備えている。
【特許文献1】特開平10−060311号公報
【特許文献2】特開平9−151335号公報
【特許文献3】特開平7−145331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜特許文献3にかかる塗布型制振材料においては、得られる制振塗膜の剛性については何らの考慮も払っていない。近年、乗用車等の車両においてはフロアの高剛性化が進んでおり、これに合った高い剛性を有する制振材が要求されているが、上記特許文献1〜特許文献3にかかる塗布型制振材料はいずれも剛性が不足しており、車両フロア等の剛性の高い箇所には適用できないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所は生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる塗布型制振材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明にかかる塗布型制振材料は、樹脂エマルジョンと鱗片状フィラーとを含有する塗布型制振材料であって、前記樹脂エマルジョンの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が約20℃〜約60℃の範囲内であり、前記tanδのピークが1.5〜10で、前記樹脂エマルジョンが前記塗布型制振材料中に約15重量%〜約65重量%の範囲内で含有され、前記鱗片状フィラーのアスペクト比が約5〜約50、粒子径が約3μm〜約50μmの範囲内であり、前記鱗片状フィラーが前記塗布型制振材料中に約1重量%〜約40重量%の範囲内で含有されているものである。
【0010】
なお、「約20℃〜約60℃の範囲内」には「20℃〜60℃の範囲内」も含まれ、「約15重量%〜約65重量%の範囲内」には「15重量%〜65重量%の範囲内」も含まれ、「アスペクト比が約5〜約50」には「アスペクト比が5〜50」も含まれ、「約3μm〜約50μmの範囲内」には「3μm〜50μmの範囲内」も含まれ、「約1重量%〜約40重量%の範囲内」には「1重量%〜40重量%の範囲内」も含まれるものであり、例えば、「約1重量%〜約40重量%」は、両方の数値が概ねであり、当然、誤差を含む概略値であることを示す。
【0011】
請求項2の発明にかかる塗布型制振材料は、請求項1の構成において、前記塗布型制振材料をED鋼板に塗布して乾燥した試験体について次式、
曲げ剛性比=(試験体の重量/ED鋼板のみの重量)×(試験体の2次共振周波数/ED鋼板のみの2次共振周波数)2
で算出される曲げ剛性比が2.0〜5.0の範囲内であるものである。
【0012】
請求項3の発明にかかる塗布型制振材料は、請求項1または請求項2の構成において、前記樹脂エマルジョンはアクリルエマルジョン及び/またはアクリル−スチレンエマルジョン及び/またはスチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルジョンであるものである。
【0013】
請求項4の発明にかかる塗布型制振材料は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記鱗片状フィラーのアスペクト比が約10〜約35、粒子径が約3μm〜約35μmの範囲内であるものである。
【0014】
なお、「アスペクト比が約10〜約35」には「アスペクト比が10〜35」も含まれ、「約3μm〜約35μmの範囲内」には「3μm〜35μmの範囲内」も含まれるものとする。
【0015】
請求項5の発明にかかる塗布型制振材料は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記鱗片状フィラーがマイカ(雲母)であるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明にかかる塗布型制振材料は、樹脂エマルジョンの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が約20℃〜約60℃の範囲内であり、tanδのピークが1.5〜10で、樹脂エマルジョンが塗布型制振材料中に約15重量%〜約65重量%の範囲内で含有され、鱗片状フィラーのアスペクト比が約5〜約50、粒子径が約3μm〜約50μmの範囲内であり、鱗片状フィラーが塗布型制振材料中に約1重量%〜約40重量%の範囲内で含有されている。
【0017】
ここで、樹脂エマルジョンとしては、アクリルエマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン―ラテックス(NBR)樹脂エマルジョン、等を用いることができる。
【0018】
また、鱗片状フィラーとしては、マイカ(雲母)、グラファイト、タルク(滑石)、クレー、ガラスフレーク、ヒル石、カオリナイト、等を用いることができる。
【0019】
本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルジョンのガラス転移点(Tg)が約20℃未満であると剛性が低下し、tanδのピークが1.5未満であると塗布型制振材料を塗布して得られる制振塗膜の制振性が低下し、tanδのピークが10を超えるとピーク温度以外の温度のtanδが低くなる場合が多く制振材料の制振性がピーク温度以外では低下しやすいことが判明した。また、鱗片状フィラーを混入することによって得られる制振塗膜の剛性が大幅に向上することを見出し、さらに鱗片状フィラーのアスペクト比は約5以上必要であること、但し約50を超えると塗布型制振材料の粘度が上昇して塗装工程における作業性が低下すること、及び鱗片状フィラーの塗布型制振材料中の含有率は約1重量%以上必要であること、但し約40重量%を超えると塗布型制振材料の粘度が上昇して塗装工程における作業性が低下することを見出し、これらの知見に基いて本発明を完成したものである。
【0020】
このようにして、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所を生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる塗布型制振材料となる。
【0021】
請求項2の発明にかかる塗布型制振材料は、塗布型制振材料をED鋼板に塗布して乾燥した試験体について次式、
曲げ剛性比=(試験体の重量/ED鋼板のみの重量)×(試験体の2次共振周波数/ED鋼板のみの2次共振周波数)2
で算出される曲げ剛性比が2.0〜5.0の範囲内である。なお、曲げ剛性比は、2.0〜3.5の範囲内であることがより好ましい。
【0022】
本発明者らは、塗布型制振材料をED鋼板に塗布して乾燥した試験体について、上記式で表される曲げ剛性比の最適範囲について鋭意実験研究を行った結果、曲げ剛性比が2.0〜5.0の範囲内であること、より好ましくは2.0〜3.5の範囲内であることが最適であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0023】
即ち、上記式で表される曲げ剛性比が2.0未満であると、剛性が低く車両フロア等の剛性の高い箇所に適用することが困難となり、また塗膜のTgが低くなる傾向にあるため、60℃における損失係数が低くなる。一方、上記式で表される曲げ剛性比が5.0を超えると、塗膜のTgが高くなる傾向にあるため、20℃における損失係数が低下してしまう。
【0024】
このようにして、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所を生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる塗布型制振材料となる。
【0025】
請求項3の発明にかかる塗布型制振材料は、樹脂エマルジョンがアクリルエマルジョン及び/またはアクリル−スチレンエマルジョン及び/またはスチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルジョンである。
【0026】
本発明者らがさらに鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルジョンとしてアクリルエマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、SBRエマルジョンのいずれか、またはこれらのうち2種以上の混合物を使用した場合に、制振性についても剛性についてもより優れた制振塗膜が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。また、これら3種のエマルジョンは入手が容易であり、低コストであるという利点も有している。
【0027】
このようにして、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所を生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる塗布型制振材料となる。
【0028】
請求項4の発明にかかる塗布型制振材料は、鱗片状フィラーのアスペクト比が約10〜約35、粒子径が約3μm〜約35μmの範囲内であるものである。請求項1の発明において、鱗片状フィラーのアスペクト比が約5〜約50、粒子径が約3μm〜約50μmの範囲内である場合に制振性にも剛性にも優れた制振塗膜が得られることを明らかにしたが、本発明者らがさらに鋭意実験研究を積み重ねた結果、その範囲内でも鱗片状フィラーのアスペクト比が約10〜約35、粒子径が約3μm〜約35μmの範囲内である場合に、より優れた制振性・剛性が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0029】
このようにして、施工を自動化でき、アスファルト臭や有機溶剤臭を発生しないという水系塗布型制振材料の長所を生かしつつ、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる塗布型制振材料となる。
【0030】
請求項5の発明にかかる塗布型制振材料は、鱗片状フィラーがマイカ(雲母)であるものである。雲母とは、薄い層に剥がし易く弾力性・電気絶縁性・耐熱性を備えた天然鉱物の総称であり、成分の違いから白雲母・金雲母・黒雲母があるが、アスペクト比と粒子径の条件を満たすものであれば、これらのいずれでも用いることができ、また各成分を熱で溶かして合成した人造雲母でも良い。天然雲母の主要産出国は、インド・スリランカ・カナダ・アメリカ・ロシア・ブラジル・中国・南アフリカ・マダガスカル等であり、非常に安価に入手することができる。また、雲母は強度に優れているため、より剛性の高い制振塗膜を得ることができる。
【0031】
このようにして、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できるより高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態にかかる塗布型制振材料について説明する。
【0033】
まず、本実施の形態にかかる塗布型制振材料の製造方法について、図1のフローチャートを参照して説明する。図1は本実施の形態にかかる塗布型制振材料の製造方法を示すフローチャートである。図1に示されるように、まずステップS1で容器(樹脂カップまたは琺瑯ビーカー)に液体状の樹脂エマルジョンを入れて、これに添加剤(分散剤・消泡剤等)を添加し(ステップS2)、さらに鱗片状フィラー、充填材を混入して(ステップS3)、ディスパーで均一になるまで混合する(ステップS4)。それから、脱泡用の容器に移して(ステップS5)、脱泡装置に入れて真空ポンプで吸引しながら約15分〜約30分攪拌することによって脱泡する(ステップS6)。以上の工程で、塗布型制振材料の製造が完了する(ステップS7)。
【0034】
次に、本実施の形態にかかる塗布型制振材料の配合について説明する。樹脂エマルジョンとしてアクリルエマルジョンまたはSBRエマルジョンのいずれかまたはこれら2種の混合物を用い、鱗片状フィラーとしてマイカを用い、さらに充填材として炭酸カルシウム及びケイ酸化合物、そして添加剤を配合して総計100重量%となるようにした。
【0035】
これらの配合比を変えたものを実施例1〜実施例7まで製造し、さらに比較のために比較例1〜比較例5をも製造して、特性試験を行った。実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例5の各配合を表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
ここで、アクリルエマルジョンAはTg=40℃,tanδ=1.8であり、アクリルエマルジョンBはTg=20℃,tanδ=2.1であり、アクリルエマルジョンCはTg=60℃,tanδ=2.3であり、アクリルエマルジョンDはTg=15℃,tanδ=1.1である。即ち、アクリルエマルジョンA,B,Cは、Tgが約20℃〜約60℃の範囲内でありtanδのピークが1.5〜10という請求項1にかかる発明の条件を満たしているが、アクリルエマルジョンDはTgについてもtanδについても請求項1にかかる発明の条件を満たしていないものである。
【0038】
また、SBRエマルジョンについては、Tg=20℃,tanδ=1.5であり、いずれも請求項1にかかる発明の条件を満たしている。
【0039】
なお、樹脂エマルジョンのTg(ガラス転移温度)及びtanδ(損失正接)は、次のようにして測定した。樹脂エマルジョンを厚さ0.5mmのフィルム状になるように常温で3日間乾燥後、120℃で20分乾燥した。このフィルムについて固体粘弾性測定装置を用いて、Tg(tanδが最大の温度)及び損失正接(tanδ)を測定した。測定条件は、周波数1Hz,昇温速度3℃/分である。
【0040】
また、鱗片状フィラー(マイカ)Aは粒子径が25μm,アスペクト比が30であり、マイカBは粒子径が5μm,アスペクト比が5であり、マイカCは粒子径が55μm,アスペクト比が55であり、マイカDは粒子径が3μm,アスペクト比が3である。
【0041】
即ち、マイカA,Bは、粒子径が約3μm〜約50μmでアスペクト比が約5〜約50の範囲内という請求項1にかかる発明の条件を満たしているが、マイカCは、粒子径についてもアスペクト比についても請求項1にかかる発明の条件を満たしていないものである。また、マイカDは粒子径については請求項1にかかる発明の条件を満たしているが、アスペクト比については3と小さく、請求項1にかかる発明の条件を満たしていないものである。
【0042】
次に、特性試験の試験方法について説明する。
[制振性(損失係数)]
10mm×220mm×厚さ1.6mmのED鋼板に塗布型制振材料を10mm×200mmの大きさで面密度4kg/m2 になるように塗布し、130℃で30分の2回焼付けして試験片を作製し、この試験片について片持ち梁法によって2次共振周波数を測定し、半値幅法によって損失係数を算出した。
[曲げ剛性比]
曲げ剛性比は、上記のED鋼板の重量及び塗布型制振材料を塗布した試験片の重量と、ED鋼板を試験体とした場合の片持ち梁法による2次共振周波数と、塗布型制振材料を塗布した試験片を試験体とした場合の片持ち梁法による2次共振周波数とを用いて、次の数式1によって算出した。
【0043】
【数1】

【0044】
[塗布作業性(粘度)]
塗布作業性については、BH型粘度計で塗布型制振材料の粘度を測定し、測定可能上限粘度である200Pa・s以下のものを○、測定不能な200Pa・sを超える粘度のものを×と評価した。
【0045】
以上の制振性(損失係数)、曲げ剛性比、塗布作業性についての試験結果を、実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例5について、前記表1の下段にまとめて示す。
【0046】
表1に示されるように、実施例1は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンAを本発明の条件を満たす40重量%用いており、また鱗片状フィラー(マイカ)として本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす27重量%用いているため、曲げ剛性比が2.7と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.09以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0047】
また、実施例2は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB及びアクリルエマルジョンCを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす27重量%用いている。したがって、曲げ剛性比は2.6と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.1以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0048】
また、実施例3は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンC及びSBRエマルジョンを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす27重量%用いているため、曲げ剛性比が2.8と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.09以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0049】
また、実施例4は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB及びアクリルエマルジョンCを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす10重量%用いているため、曲げ剛性比は2.5と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.09以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0050】
また、実施例5は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB及びアクリルエマルジョンCを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカBを本発明の上限条件を満たす40重量%用いているため、曲げ剛性比は2.8と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.09以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0051】
また、実施例6は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB及びアクリルエマルジョンCを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の下限条件を満たす1重量%用いているため、曲げ剛性比は2.1と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.07以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0052】
また、実施例7は樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB、アクリルエマルジョンC及びSBRエマルジョンを本発明の条件を満たす合計40重量%用いており、また鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす5重量%用いているため、曲げ剛性比は2.3と大きく剛性に優れ、損失係数も20℃〜60℃で0.08以上の値を保っており制振性も良好である。そして、塗布作業性についても○の評価であり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料である。
【0053】
これに対して、比較例1は鱗片状フィラーとしては本発明の条件を満たすマイカAを本発明の条件を満たす27重量%用いているものの、樹脂エマルジョンとして本発明の条件を満たさない(Tgの値もtanδの値も小さい)アクリルエマルジョンDを40重量%用いているため、曲げ剛性比が1.7と小さく剛性が不足しており、また損失係数も20℃については0.11と良好であるが、40℃,60℃においては0.05,0.02と小さくなってしまい、高温における制振性が不足している。
【0054】
また、比較例2は樹脂エマルジョンとしては本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンAを本発明の条件を満たす40重量%用いているが、鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たさない(粒子径もアスペクト比も大きい)マイカCを27重量%用いているため、曲げ剛性比は2.9と大きく剛性に優れており、また損失係数も20℃〜60℃で0.1以上の値を保っているが、塗布作業性については×の評価となっており、粘度が高くなり過ぎることが分かる。
【0055】
また、比較例3は樹脂エマルジョンとしては本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンAを本発明の条件を満たす40重量%用いているが、鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たすマイカAを本発明の上限条件を超える44重量%も用いている。このため、曲げ剛性比は3.2と大きく剛性には優れており、損失係数も20℃〜60℃で0.11以上の値を保っているが、塗布作業性については×の評価となっており、粘度が高くなり過ぎて鱗片状フィラー(マイカA)を入れ過ぎた結果となっている。
【0056】
また、比較例4は樹脂エマルジョンとしては本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンAを本発明の条件を満たす40重量%用いているが、鱗片状フィラーを用いていない。このため、曲げ剛性比は1.7と小さく剛性が不足しており、また損失係数も20℃,40℃においては0.11,0.1と良好であるが、60℃においては0.05と小さくなっており、高温における制振性が不足し、実用的な塗布型制振材料は得られないことが分かる。
【0057】
また、比較例5は樹脂エマルジョンとしては本発明の条件を満たすアクリルエマルジョンB及びアクリルエマルジョンCを本発明の条件を満たす合計40重量%用いているが、鱗片状フィラーとして本発明の条件を満たさないマイカDを1重量%用いている。このため、曲げ剛性比は1.8と小さく剛性が不足しており、また損失係数も20℃,40℃においては0.10,0.11と良好であるが、60℃においては0.06と小さくなっており、高温における制振性が不足し、実用的な塗布型制振材料は得られないことが分かる。
【0058】
このように、比較例1〜比較例5の配合にかかる塗布型制振材料は、いずれも本発明の条件を満たさない点があり、その結果曲げ剛性比、制振性(損失係数)、塗布作業性のいずれかについて実用性に欠けるものとなっている。これに対して、実施例1〜実施例7の配合にかかる塗布型制振材料は、いずれも本発明の条件を全て満たしており、その結果曲げ剛性比、制振性(損失係数)、塗布作業性のいずれについても優れたものであり、車両フロア等の剛性の高い箇所にも適用できる高剛性の制振塗膜が得られる低コストの塗布型制振材料が得られている。
【0059】
本実施の形態においては、樹脂エマルジョンとしてアクリルエマルジョン、SBRエマルジョンのいずれかまたはこれら2種の混合物を用いた例について説明しているが、これら以外にもTg及びtanδの条件さえ満たせば、アクリル−スチレンエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン―ラテックス(NBR)樹脂エマルジョン、等を用いることができる。
【0060】
また、本実施の形態においては、鱗片状フィラーとしてマイカ(雲母)を用いているが、他にも粒子径とアスペクト比の条件を満たすものであれば、グラファイト、タルク(滑石)、クレー、ガラスフレーク、ヒル石、カオリナイト、等を用いることができる。
【0061】
塗布型制振材料のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は本実施の形態にかかる塗布型制振材料の製造方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルジョンと鱗片状フィラーとを含有する塗布型制振材料であって、
前記樹脂エマルジョンの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が約20℃〜約60℃の範囲内であり、前記tanδのピークが1.5〜10で、前記樹脂エマルジョンが前記塗布型制振材料中に約15重量%〜約65重量%の範囲内で含有され、
前記鱗片状フィラーのアスペクト比が約5〜約50、粒子径が約3μm〜約50μmの範囲内であり、前記鱗片状フィラーが前記塗布型制振材料中に約1重量%〜約40重量%の範囲内で含有されていることを特徴とする塗布型制振材料。
【請求項2】
前記塗布型制振材料をED鋼板に塗布して乾燥した試験体について次式、
曲げ剛性比=(試験体の重量/ED鋼板のみの重量)×(試験体の2次共振周波数/ED鋼板のみの2次共振周波数)2
で算出される曲げ剛性比が2.0〜5.0の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の塗布型制振材料。
【請求項3】
前記樹脂エマルジョンはアクリルエマルジョン及び/またはアクリル−スチレンエマルジョン及び/またはスチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルジョンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗布型制振材料。
【請求項4】
前記鱗片状フィラーのアスペクト比が約10〜約35、粒子径が約3μm〜約35μmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の塗布型制振材料。
【請求項5】
前記鱗片状フィラーがマイカ(雲母)であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の塗布型制振材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249413(P2006−249413A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20459(P2006−20459)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】