説明

塗料、該塗料を塗布した磁性基板および被磁着面の形成方法

【課題】家や店舗の内壁、展示スペースに設置されるパネル等、本来、非磁性体であるスペースを、容易かつ安価に磁石を磁着することができる磁着スペースに加工することができる塗料、該塗料を塗布した磁性基板、および被磁着面の形成方法を提供する。
【解決手段】鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができることを特徴とする塗料であり、鉄粉は、還元鉄粉であり、粒径は、10μm〜60μmであり、鉄粉防錆加工を施してあり、塗料に対して40重量部〜60重量部混入したことを特徴とする塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料と、該塗料を塗布した磁性基板と、該塗料を塗布して形成する被磁着面の形成方法に関するものであり、マグネットブロック、マグネットシート、マグネットフック、マグネットクリップ等の掲示用マグネットに代表される各種磁石を磁着することができる磁着スペースを提供するための塗料、磁性基板、被磁着面の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネットブロック、マグネットシート、マグネットフック、マグネットクリップ等様々な形状のマグネットに用いられるフェライト磁石やネオジウム磁石等の磁石は、磁性体に対して磁着される。したがって、壁やパネルにマグネットシートやマグネットフック等の磁石を磁着させるために、金属製パーテーションを設置し、または、ホワイトボード等の基板を取り付けて、これにマグネットシートやマグネットフック等の掲示用磁石を磁着させ、所望の物を掲示していた。しかしながら金属製パーテーションを設置した場合、金属製パーテーションを設置する場合には多大面積を必要とするとともに金属製パーテーションが重く、また設置のコストが高いという問題があった。また、ホワイトボードを取り付ける場合には、取り付ける壁面の材質や構造により設置する場所が限られ、何処にでも取り付けられるものではないという問題があった。
【0003】
尚、塗料に鉄粉等の金属粉を混入したものとしては、下記のいくつかの技術が案出されている。電磁波シールド塗料は、鉄粉と鉄粉を構成する鉄粒子の表面に対し非濡れ性を発現するバインダー液を少なくとも含有する電磁波シールド塗料であり、鉄粒子の表面に対し非濡れ性を有しているバインダー溶液は、大きな表面張力を有しており、鉄粒子表面に対し非親和性を発現するという現象を利用して電磁波ノイズを有効に遮断させようとする塗料である(特許文献1)。また、軟性顔料とその使用法は、金属光沢のある着色効果顔料として、鉄粉自体をフレーク状に粉砕しこれを光沢顔料として用いるものである(特許文献2)。また、着色顔料用酸化鉄粉末もいわゆる磁性トナー用の光沢顔料としての粉末である(特許文献3)。さらに一次防錆塗料組成物は、シロキサン系結合剤と、顔料としての亜鉛末と、亜鉛末以外の顔料としての酸化第二鉄源およびモリブデン化合物とを含有することを特徴とする一次防錆塗料組成物であり、いわゆる塗装の最初の段階で下地膜を形成するために塗装する防錆剤である(特許文献4)。しかしながら、これらはいずれも磁石を磁着させるための塗料および磁性基板としての構成は備えていない。
【特許文献1】特開2005−294305号公報
【特許文献2】特開2003−12963号公報
【特許文献3】特開平8−259238号公報
【特許文献4】特開平8−60039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対して、家屋や店舗の壁面、展示スペースに設置されるパネル等、本来は非磁性体である場所を、磁石を磁着することのできる磁着スペースとして利用したいという要請がある。そして、この磁着スペースを、金属製パーテーションを設置する、ホワイトボード等の金属基板を取り付けて形成することなく、所望の位置に容易かつ安価に形成したいという要請がある。そして、この磁着スペースは、看者が視認したときに磁石を磁着させるための対象物が目立たないことが望まれる。またこの磁着スペースは強磁性体である鉄粉等の濃灰色乃至黒色に発色することなく、美観に優れた所望の色か、または、下地の色がそのまま発色した状態で提供されることが望まれる。さらに、上述の家屋や店舗の壁面、展示スペース以外にも様々な物を容易かつ安価に磁石を磁着することができる被磁着面とすることができることが望まれる。
【0005】
そこで本発明にあっては、家や店舗の内壁、展示スペースに設置されるパネル等、本来、非磁性体であるスペースを、容易かつ安価に磁石を磁着することができる磁着スペースに加工することができるとともに、磁着スペースである壁面や展示パネル等がほぼそのままの状態で磁着個所として提供され、この磁着スペースを美観に優れた所望の色で提供することができる塗料、該塗料を塗布した磁性基板、および被磁着面の形成方法を提供することを目的とする。また、容易に着脱できる薄型の磁性基体を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の塗料は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができることを特徴とする塗料である。
【0007】
また、塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることを特徴とする。
【0008】
塗料に混入される鉄粉の粒径は、10μm〜60μmであることを特徴とする。
【0009】
また、塗料に混入される鉄粉には、防錆加工を施してなることを特徴とする。
【0010】
また、鉄粉を塗料に対して40重量部〜60重量部混入したことを特徴とする。
【0011】
また、塗料は、有色塗料であることを特徴とする。
【0012】
また、塗料は、透明塗料であることを特徴とする。
【0013】
また、塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等の溶剤で希釈してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の磁性基板は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を基板表面に塗布してなることを特徴とする。
【0015】
また、塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることを特徴とする。
【0016】
また、塗料に混入される鉄粉は、平均粒径10μm〜60μmであることを特徴とする。
【0017】
また、塗料に混入される鉄粉には、防錆加工を施してなることを特徴とする。
【0018】
また、鉄粉を塗料に対して40重量部〜60重量部混入したことを特徴とする。
【0019】
また、塗料は、有色塗料であることを特徴とする。
【0020】
また、塗料は、透明塗料であることを特徴とする。
【0021】
また、塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等の溶剤で希釈してなることを特徴とする。
【0022】
また、基板は、壁面に接着される壁紙、掲示面を形成するパネル、建物の内壁面を形成する壁面建材であることを特徴とする。
【0023】
また、基板は、前記塗料の塗布面の裏面に粘着剤を塗布してなる粘着シート、または、前記塗料の塗布面の裏面に接着剥離自在な弱粘着剤を塗布してなる再剥離シートであることを特徴とする。
【0024】
本発明の被磁着面の形成方法は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して被磁着面を形成することを特徴とする。
【0025】
また、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に所望の色の塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することを特徴とする。
【0026】
また、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる有色塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に第一の塗膜層を形成する塗料と同色の塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することを特徴とする。
【0027】
被磁着面に磁着される磁石は、マグネットブロック、マグネットシート、マグネットフック、マグネットクリップ等の掲示用マグネットであることを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれかに記載の被磁着面の形成方法。
【発明の効果】
【0028】
上記目的を達成するため本発明の塗料は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができることにより、当該塗料を家や店舗の内壁、展示スペースに設置されるパネル等に代表される、本来は非磁性体であるスペースや物に塗布するだけで、本来、磁石が磁着しない個所を、容易かつ安価に磁石を磁着することのできる磁着スペースや物に加工することができる。そして、この磁着スペースは、塗料により形成されるので、塗料を塗布した箇所自体を被磁着面として利用することができ、金属製パーテーションや、ホワイトボードを設置する場合のように壁面とは別に被磁着対象物を用意する必要はなく、壁面の面積を有効に利用することができるともに、壁面の美観を損ねることがない。これにより、例えば、家、事務所、店舗においては、壁面自体を被磁着面とすることができ、壁面に孔をあける、補強材を取り付ける等の特別の工事を施すことなく、また壁面の美観を損ねることなく、被磁着面を形成することができる。よって、たとえば絵、図形、文字等を表したマグネットシートや被服や額等を掛けるマグネットフック等の磁石を所望する位置に直に磁着することができる。また展示場などにおいては、限られた展示面積において利用されるパネル自体を被磁着面とすることができる。よって、展示内容を表示したマグネットシートや展示物をパネルに直に磁着することができ、限られたスペースを有効に活用することができる。また、当該塗料をたとえば玩具や文房具などの物に塗布した場合には、当該塗料を塗布した物に磁石を磁着することができる。
【0029】
また、塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることにより、粒子中に多数の空隙を有する還元鉄粉は塗料との親和性がよく、この還元鉄粉を塗料に混入したときに鉄粉の黒色がほとんど発色されない。また、扁平状の還元鉄粉は粒子に光が乱反射し塗料の色彩成分の一部しか可視できず塗料の色がくすんで見えるという問題点が解消される。このことは、有色顔料を含有する着色塗料に鉄粉を混入したときに特に顕著であり、鉄粉を混入しても着色塗料の色がほとんど変化しない。したがって、発色がよく所望の色の磁性基板を提供することができる。
【0030】
また、鉄粉の粒径は、10μm〜60μmであることにより、塗料との親和性がよく、この鉄粉を塗料に混入したときに鉄粉の黒色がほとんど発色されない。また、粒子に光が乱反射し塗料の色彩成分の一部しか可視できず塗料の色がくすんで見えるという問題点が解消される。このことは、有色顔料を含有する着色塗料に鉄粉を混入したときに特に顕著であり、鉄粉を混入しても着色塗料の色がほとんど変化しない。したがって、発色がよく所望の色の磁性基板を提供することができる。る。
【0031】
また、鉄粉には、防錆加工を施してなることにより、塗料に混入した後も、磁石が磁着しなくなる、鉄粉が錆びて塗料の色が変色するという問題が生じない。したがって、長時間にわたって磁石の磁着が確実であるとともに、発色がよい塗料を提供することができる。
【0032】
また、鉄粉を塗料に対して40量部〜60重量部混入したことにより、磁石が落下することなく確実に磁着することができる強度の塗料を提供することができる。
【0033】
また、塗料は、有色塗料であることにより、この塗料を塗布すれば磁石を磁着することができる所望の色の被磁着面を提供することができる。
【0034】
また、塗料は、透明塗料であることにより、この塗料を塗布すれば地の色を変えることなく、磁石を磁着することができる被磁着面を提供することができる。
【0035】
また、塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等に溶剤で希釈してなることにより、塗布が容易な液体塗料を提供することができる。
【0036】
本発明の磁性基板は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を基板表面に塗布してなることにより、磁石を磁着することができる容易、軽量、かつ安価な磁性基板を提供することができる。したがって、この磁性基板を接着、設置等するだけで本来、磁石が磁着しない個所を何処でも磁着スペースにすることができる。
【0037】
また、塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることにより、粒子中に多数の空隙を有する還元鉄粉は塗料との親和性がよく、この還元鉄粉を塗料に混入したときに鉄粉の黒色がほとんど発色されない。また、扁平状の還元鉄粉は粒子に光が乱反射し塗料の色彩成分の一部しか可視できず塗料の色がくすんで見えるという問題点が解消される。このことは、有色顔料を含有する着色塗料に鉄粉を混入したときに特に顕著であり、鉄粉を混入しても着色塗料の色がほとんど変化しない。したがって、発色がよく所望の色の磁性基板を提供することができる。
【0038】
また、鉄粉の粒径は、10μm〜60μmであることにより、塗料との親和性がよく、この鉄粉を塗料に混入したときに鉄粉の黒色がほとんど発色されない。また、粒子に光が乱反射し塗料の色彩成分の一部しか可視できず塗料の色がくすんで見えるという問題点が解消される。このことは、有色顔料を含有する着色塗料に鉄粉を混入したときに特に顕著であり、鉄粉を混入しても着色塗料の色がほとんど変化しない。したがって、発色がよく所望の色の磁性基板を提供することができる。
【0039】
また、鉄粉には、防錆加工を施してなることにより、塗料に混入した後も、磁石が磁着しなくなる、鉄粉が錆びて塗料が変色するという問題が生じない。したがって、長時間にわたって磁石の磁着が確実であるとともに、発色がよい磁性基板を提供することができる。
【0040】
また、鉄粉を塗料に対して40量部〜60重量部混入したことにより、磁石が落下することなく確実に磁着することができる強度の磁性基板を提供することができる。
【0041】
塗料は、有色塗料であることにより、この塗料を塗布すれば磁石を磁着することができる所望の色の被磁着面を提供することができる。
【0042】
塗料は、透明塗料であることにより、この塗料を塗布すれば地の色を変えることなく、磁石を磁着することができる被磁着面を提供することができる。
【0043】
また、塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等に溶剤で希釈してなることにより、塗布が容易な液体塗料を提供することができる。
【0044】
また、基板は、壁面に接着される壁紙、掲示面を形成するパネル、建物の内壁面を形成する壁面建材であることにより、壁面にこの壁紙を接着するだけで磁石を磁着できる被磁着面を提供することができ、所望の色の部屋を提供することができる。また、このパネルを設置するだけで容易に磁着スペースを形成することができる。また、この壁面建材を用いて内装をするだけで磁石を磁着できる被磁着壁面を提供することができる。よって、容易に直に磁石を磁着することができる所望の色の室内装飾を提供することができる。
【0045】
また、基板は、前記塗料の塗布面の裏面に粘着剤を塗布してなる粘着シート、または、前記塗料の塗布面の裏面に接着剥離自在な粘着剤を塗布してなる再剥離シートであることにより、磁石を磁着したい個所にこのシートを接着するだけで被磁着面とすることができる。また、再剥離シートを用いることにより、接着と剥離を繰り返すことができ、一時的に被磁着面を形成することもできる。
【0046】
本発明の被磁着面の形成方法は、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して被磁着面を形成することにより、当該塗料を塗布するだけで所望の位置に被磁着面を形成することができる。
【0047】
また、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に所望の色の顔料を含有する有色塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することにより、被磁着面を形成することができるとともに、顔料の色がそのまま発色される発色のいい被磁着面を提供することができる。また、第二の塗膜層を形成する塗料をも鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料とした場合には被磁着面に対する磁石の磁着がより確実なものとなる。
【0048】
また、鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる有色塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に第一の塗膜層を形成する塗料と同色の塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することで、鮮やかな色の表面層を提供することができる。例えば、第一の塗膜層を鉄粉を混入した黄色塗料で形成し、第二の塗膜層を鉄粉を混入しない同色の黄色塗料で形成すると第一の塗膜層が黄色の下地を形成し、第二の塗膜層が鮮やかな黄色を発色し、鮮やかな色の被磁着面を提供することができる。
【0049】
塗膜に磁着される磁石は、マグネットブロック、マグネットシート、マグネットフック、マグネットクリップ等の掲示用マグネットであることにより、各種磁石を磁着するだけで、所望の掲示をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図1は、本発明の塗料を塗布しこれにマグネットシートを磁着した状態の模式断面図、図2は、基体に対して本発明の塗料を塗布して第一の塗膜層を形成しその表面にさらに塗料を塗布して第二の塗膜層を形成しこれにマグネットシートを磁着した状態の模式断面図、図3は、本発明の塗料を壁面に塗布しこれにマグネットフックを磁着した状態の斜視図、図4は、本発明の塗料を塗布した壁紙を壁面に接着しこれにマグネットフックを磁着した状態の斜視図、図5は、裏面に弱粘着剤が塗布されてなる再剥離シートの表面に塗料を塗布した再剥離シートの模式断面図、図6は、裏面に粘着剤が塗布されてなる粘着シートの表面に塗料を塗布した再剥離シートの模式断面図、図7は、本発明の塗料に混入されてなる還元鉄粉を示す図、図8は、還元鉄粉の粒子形状を示す図、図9に示す還元鉄粉の粒子断面図である。
【0051】
本発明の塗料1は、赤、青、黄やこれらを混ぜ合わせた着色剤が含有されてなる有色塗料であり、ここに、磁性体である鉄粉を混入しこれを混練した塗料である。
【0052】
塗料に混入される還元鉄粉は、アトマイズ鉄粉に代表される粒子中に空隙を有さず丸みのある形状の他の鉄粉とは異なり、図7乃至図9に示すように、粒子中に多数の空隙を有し扁平状の粒形を有する鉄粉である。したがって、還元鉄粉は塗料との親和性がよく、この還元鉄粉を塗料に混入したときに塗料と還元鉄粉とはしっかりと密着し、また、扁平状であることから光の乱反射が少なく、鉄粉の黒色はほとんど視認されず、顔料の色彩成分をしっかり視認することができる。よって、発色のよい塗料を提供できる。このことは、有色顔料を含有する着色塗料に還元鉄粉を混入したときに特に顕著であって、塗料の色は、ほとんど変化せず、各々の色の色調を際立たせ最も好適な塗料を提供することができた。
【0053】
表1に、有色の油性塗料に還元鉄粉を1:1の割合で混入した塗料と、有色の塗料にアトマイズ鉄粉を1:1の割合で混入した塗料と、鉄粉を混入しない状態の有色の塗料を、木板に同量塗布したとき、鉄粉を混入しない状態の有色の塗料の色に対する、有色の油性塗料に還元鉄粉を1:1の割合で混入した塗料と有色の塗料にアトマイズ鉄粉を1:1の割合で混入した塗料との色の変化を視認した結果を示す。赤色塗料、青色塗料においては、有色の塗料に還元鉄粉を1:1の割合で混入した塗料の発色にはほとんど変化はなかった。これに対し、有色の塗料にアトマイズ鉄粉を1:1の割合で混入した塗料は、赤色塗料、青色塗料共にグレー色に近づき発色がくすみ、明度、彩度共に低下したことを視認することができた。また、黄色塗料においては、有色の塗料に還元鉄粉を1:1の割合で混入した塗料は極わずかながらグレー色に近づき発色がくすみ、明度、彩度共に低下したが黄色を発色した。これに対し、有色の塗料にアトマイズ鉄粉を1:1の割合で混入した塗料は、グレー色を発色した。
【0054】
また、塗料に混入される還元鉄粉の粒径は、10μm〜60μmであることが好適であり望ましい。粒径が10μm未満であると鉄粉が微細すぎ塗料に混入したときにも粒子に光が乱反射し塗料の色彩成分の一部しか可視できず塗料の色がくすんで見える等の問題がある。また、粒径が60μmを超えると混入する塗料によっては親和性が悪く、塗料中の鉄粉の粒子の黒色をはっきり視認することができるようになるという問題がある。尚、さらにのぞましくは、鉄粉の平均粒径が40μm〜50μmであれば、塗料に混入しやすく、また各種塗料との親和性がよく、鉄粉の黒色は発色されず、各々の顔料の色調を際立たせ最も好適な塗料を提供することができた。このことは、各々の顔料の色調を際立たせることが確認された粒径の還元鉄粉のうち平均粒径44.3μm、平均粒径31.9μm、平均粒径23.1μmの各試料を同じ塗料に混入させたところ、平均粒径44.3μmの還元鉄粉は、最も各々の顔料の色調を際立たせることにより確認された。
【0055】
また、鉄粉は、表面が酸化されていないか、表面が酸化しないようにあらかじめ防錆加工を施してなることが望ましい。これにより、塗料に混入した後も、磁石が酸化により磁着しなくなる、鉄粉が錆びて塗料が変色するという問題が生じない。
【0056】
また、鉄粉を塗料に対して40量部〜60重量部混入すればさらに望ましい。還元鉄粉を塗料に対して40量部より少なく混入した塗料を塗布しこの面に磁石を磁着させた場合、重い磁石や磁着力の弱い磁石は落下する可能性がある。一方、還元鉄粉を塗料に対して60量部より多く混入した塗料は、塗料に対する還元鉄粉の量が多すぎ、塗料がグレー色に近づく可能性がある。還元鉄粉を塗料に対して40量部〜60重量部混入すれば、塗料に対する還元鉄粉の量が多すぎず、かつ、磁石が確実に磁着する。尚、塗料に対する鉄粉の量は、磁着する磁石の磁力や重量、塗布面と磁石との間に非磁性体を介在させるか否か等様々な要因により異なるものであり、上述の量に限定されるものではない。
【0057】
このように、平均粒子径が10μm〜60μmであり扁平状の鉄粉で酸化膜(錆)のない粉体であれば、塗料に混入させて塗料を作ったときに、その粉体の光反射率が大きく塗料に含有されてなる顔料の色彩がより多く目に到達し、塗料各々の色調を際立たせ塗料を媒体とした磁石を磁着できる磁性体として理想のものとなる。
【0058】
このようにして作られる塗料1は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム等の溶剤により希釈することで、塗布しやすくなる。そして、塗料1のまま、または容器に封入して提供され、この塗料1を所望の箇所に塗布することで、家屋や店舗の内壁または建物の外壁等の壁面や、シート体やパネル等の他、玩具、文房具等の物等、様々な面に磁石が磁着する被磁着面を形成することができる。
【0059】
次に塗料の第二の実施の形態は、有色顔料を含有しない透明の塗料である。透明の塗料は、透明塗料に磁石が磁着される磁性体である鉄粉を混入しこれを混練した塗料である。すなわち、塗料1には、有色顔料を含有する着色塗料を示したが、塗料に有色顔料を含有させなければ、透明色の磁性を有する塗料を提供することができる。特に、メジウム樹脂からなる塗料に鉄粉を混入した場合には好適な透明塗料を作ることができ、これを塗布したときには、壁面等の色を変化させることなく被磁着面を形成することができる。
【0060】
次に被磁着面の形成方法を説明する。上述のごとき、液体状の塗料に、磁石が磁着される性質を有する鉄粉、特に、還元鉄粉を混入しこれを混練した塗料1を図1に示すように、磁石が磁着される被磁着面を形成しようとする塗布面2に、刷毛、ローラー等による塗布、スプレーによる噴きつけ等、さまざまな方法で塗布する。これにより塗布面2に塗料1を塗布した箇所に被磁着面が形成され、磁石3をこの面に磁着することができる。
【0061】
また、他の被磁着面の形成方法は、図2に示すように、塗料1を磁石が磁着される被磁着面を形成しようとする基体としての塗布面2に塗布して第一の塗膜層を形成する。これにより塗料1塗布した塗布面に被磁着面が形成される。そして、第一の塗膜層が完全に、または、ある程度乾燥した時点で、第一の塗膜層の表面2に第一の塗料に含有される色と同色の塗料8を塗布して第二の塗膜層を形成する。塗料8の色がくすみなく鮮やかに発色されてなる被磁着面が形成され、磁石3をこの面に磁着することができる。
【0062】
尚、磁石の磁着がより確実にしたい場合には、第二の塗膜層を形成する塗料をも液体塗料用の塗料に磁石が磁着される性質を有する鉄粉を混入しこれを混練した塗料とすればよい。また、第一の塗膜層を形成する塗料を透明色の塗料としてもよい。
【0063】
図3に塗料1を塗布した具体例を示す。家屋の内壁4に対して、塗料1をスプレーガン5等により噴きつけて塗布することにより、内壁4を所望の色に着色できるとともに、内壁4を容易に被磁着面とすることができる。この塗料1が塗布された内壁4に、マグネットフック6を磁着すれば、フック部61には、額、被服等あらゆるものを掛止することができる。
【0064】
また、磁性基板の例を図4に示す。壁紙7は、壁面装材として用いられる紙木材、樹脂等からなるシート体であり、この壁紙7にあらかじめ塗料1を塗布したものである。この壁紙7を家屋の内壁4に対して接着すれば、内壁4に所望の色の壁紙を接着して所望の色の壁を形成できるとともに、壁紙7を接着した箇所の内壁4を容易に被磁着面とすることができる。この壁紙7に、マグネットフック6を磁着すれば、フック部61には、額、被服等あらゆるものを掛けることができる。
【0065】
また、不図示の磁性基板の例としては、掲示面を形成するパネルを形成するボードにあらかじめ塗料1を塗布したものを提供することもできる。これにより、所望の色で磁石を磁着することのできる掲示面を提供することができる。このパネルを用いて展示パネルを形成することで、所望の色で磁石を磁着することのできる掲示面を提供することができる。
【0066】
また、不図示の磁性基板の他の例としては、家屋や店舗の壁面を形成する壁面建材にあらかじめ塗料1を塗布したものを提供することもできる。これにより、所望の色で磁石を磁着することのできる壁面を提供することができる。この壁面建材を用いて建物の内壁を形成することで、所望の色で磁石を磁着することのできる壁を提供することができる。
【0067】
また他の例の磁性基板は、図5に示す再剥離シート9である。この再剥離シート9は、シート状の再剥離シート本体91の表面92に塗料1が塗布されており、裏面93に再剥離性のある弱粘着剤10が塗布されている。したがって、再剥離シート9の裏面93を被磁着面としたい個所に接着すれば塗料1が塗布されてなる表面92には磁石3を磁着することができ、不要になった場合には再剥離シート9をはがせば現状復帰することができる。そして再剥離シート9は、接着と剥離とを何度もくりかえすことができる。そして再剥離シート本体91は薄いシート体であるためテープ状に巻き取った状態で提供することもできる。
【0068】
また他の例の磁性基板は、図6に示す粘着シート11である。この粘着シート11は、シート状の粘着シート本体12の表面13に塗料1が塗布されており、裏面14に粘着剤15が塗布されている。したがって、粘着シート11の裏面14を被磁着面としたい個所に接着すれば塗料1が塗布されてなる表面13には磁石3を磁着することができ、この粘着シート11はしっかりと接着状態を保持することができる。そして粘着シート本体12は薄いシート体であるためテープ状に巻き取った状態で提供することもできる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の塗料を塗布しこれにマグネットシートを磁着した状態の模式断面図。
【図2】本発明の塗料を塗布して第一の塗膜層を形成しその表面にさらに塗料を塗布して第二の塗膜層を形成しこれにマグネットシートを磁着した状態の模式断面図。
【図3】本発明の塗料を壁面に塗布しこれにマグネットフックを磁着した状態の斜視図。
【図4】本発明の塗料を塗布した壁面装材を壁面に接着しこれにマグネットフックを磁着した状態の斜視図。
【図5】本発明の再剥離シートを示す模式断面図。
【図6】本発明の粘着シートを示す模式断面図。
【図7】本発明の塗料に混入されてなる還元鉄粉を示す図。
【図8】還元鉄粉の粒子形状を示す図。
【図9】図7に示す還元鉄粉の粒子断面図。
【符号の説明】
【0070】
1 塗料
2 塗布面
3 磁石
4 内壁
5 スプレーガン
6 マグネットフック
7 壁紙
8 塗料
9 再剥離シート
91 再剥離シート本体
92 再剥離シート表面
93 再剥離シート裏面
10 弱粘着剤
11 粘着シート
12 粘着シート本体
13 粘着シート表面
14 粘着シート裏面
15 粘着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができることを特徴とする塗料。
【請求項2】
塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることを特徴とする請求項1記載の塗料。
【請求項3】
塗料に混入される鉄粉の粒径は、10μm〜60μmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の塗料。
【請求項4】
塗料に混入される鉄粉には、防錆加工を施してなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の塗料。
【請求項5】
鉄粉を塗料に対して40重量部〜60重量部混入したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の塗料。
【請求項6】
塗料は、有色塗料であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の塗料。
【請求項7】
塗料は、透明塗料であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の塗料。
【請求項8】
塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等の溶剤で希釈してなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の塗料。
【請求項9】
鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を基板表面に塗布してなることを特徴とする磁性基板。
【請求項10】
塗料に混入される鉄粉は、還元鉄粉であることを特徴とする請求項9記載の磁性基板。
【請求項11】
塗料に混入される鉄粉は、平均粒径10μm〜60μmであることを特徴とする請求項9または請求項10記載の磁性基板。
【請求項12】
塗料に混入される鉄粉には、防錆加工を施してなることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項13】
鉄粉を塗料に対して40重量部〜60重量部混入したことを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項14】
塗料は、有色塗料であることを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項15】
塗料は、透明塗料であることを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項16】
塗料は、水、石油、アルコール、アセトン、ヘキサン、メジウム樹脂等の溶剤で希釈してなることを特徴とする請求項9乃至請求項15のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項17】
基板は、壁面に接着される壁紙、掲示面を形成するパネル、建物の内壁面を形成する壁面建材であることを特徴とする請求項9乃至請求項16のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項18】
基板は、前記塗料の塗布面の裏面に粘着剤を塗布してなる粘着シート、または、前記塗料の塗布面の裏面に接着剥離自在な弱粘着剤を塗布してなる再剥離シートであることを特徴とする請求項9乃至請求項16のいずれかに記載の磁性基板。
【請求項19】
鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して被磁着面を形成することを特徴とする被磁着面の形成方法。
【請求項20】
鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に所望の色の塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することを特徴とする請求項19に記載の被磁着面の形成方法。
【請求項21】
鉄粉を塗料に混入し磁石が磁着される塗膜を形成することができる有色塗料を塗布して第一の塗膜層を形成し、前記第一塗膜層の表面に第一の塗膜層を形成する塗料と同色の塗料を塗布して第二の塗膜層を形成することを特徴とする請求項19または請求項20に記載の被磁着面の形成方法。
【請求項22】
被磁着面に磁着される磁石は、マグネットブロック、マグネットシート、マグネットフック、マグネットクリップ等の掲示用マグネットであることを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれかに記載の被磁着面の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−79996(P2011−79996A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234566(P2009−234566)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000137339)株式会社マグエックス (16)
【Fターム(参考)】