説明

塗料ミスト回収装置

【課題】洗浄液体の所要量を減少させることができる塗料ミスト回収装置を提供することを課題とする。
【解決手段】図(a)は空気の流れを説明する図であり、下向きに流れる空気46は、ガイドベーン44により旋回流47となる。縮径部43で流れがせき止められるため、旋回流47の滞留時間が長くなる。(b)は液体の流れを説明する図であり、液体25は、ガイドベーン44で旋回されつつ塗料ミスト回収装置40の内面に沿って流下する。(c)は、(a)と(b)を合わせた図であり、空気46が旋回しているため、空気46と液体25との接触時間が大幅に延び、塗料ミストを液体25に効果的に吸収させることができる。
【効果】少量の液体であっても、塗料ミストを良好に吸収させることができ、洗浄液体の所要量を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースに付設される塗料ミスト回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装ブース内では、塗装ガンなどの塗装手段から噴射した塗料粒を被塗装物(以下、ワークと言う。)へ塗布する。この際に塗布に供されなかった塗料粒が塗料ミストとなってワークの周囲に大気中に浮遊する。塗装品質を確保する上では、このような塗料ミストは速やかにワークの周囲から除去することが求められる。
【0003】
そこで、塗装ブースではワークの上方からクリーンな空気を下向きに流し、塗料ミストを含んだダーティな空気を塗装ブースの底から排出する方式を一般に採用する。
ただし、環境保全の観点から、ダーティな空気から塗料ミストを除去し、その後の空気を大気へ放出する必要がある。
【0004】
そのために、塗料ミスト回収装置が塗装ブースに備えられている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0005】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本原理を説明する図であり、水槽101に溜められた水102は浄化され、ポンプ103で吸引、加圧され、給水管104を介して塗装ブース105に供給される。塗装ブース105の底面106はV字状になっている。供給された水は底面106の中央排出口107へ流下し、塗料ミストを含む空気を巻き込んで落下する。空気が水で洗われるため、空気が浄化される。
【0006】
中央排出口107の下方では、比重差により水と空気が分離され、水だけが落下する。中央排出口107から分離するまでの間だけ空気は水に接触する。この接触時間は長いとは言えない。
この限られた接触時間で、所望の浄化作用を確保しようとすると、水量を増やす必要がある。結果、ポンプ103が大型化し、その運転費用が嵩む。
【0007】
そこで、所要水量(洗浄液体の所要量)を減少させることができる塗料ミスト回収装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−149249公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、洗浄液体の所要量を減少させることができる塗料ミスト回収装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、塗装ブース内で塗装手段から噴射した塗料をワークに塗布する際に発生する塗料ミストを回収する塗料ミスト回収装置であって、
前記塗料ミストを混入させて回収するための液体と該液体及び前記塗料ミストを含む空気とを通過させるために前記塗装ブースの下部に設けられる排出口と、
この排出口を上方へ拡開したテーパ状の吸入部と、
このテーパ状の吸入部に径方向に流れを発生させるガイドベーンとを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、排出口は、テーパ状の吸入部の下方に繋がる筒状部と、その下端に接続され開口面積が縮小された縮径部とを備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、平面視で、左排出口と右排出口は、一方が時計回りに旋回流を発生する右旋回発生型ガイドベーンを備え、他方が反時計回りに旋回流を発生する左旋回発生型ガイドベーンを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、ガイドベーンは、上方から下方にかけて湾曲した複数の湾曲羽根からなることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、テーパ状の吸入部に、平面視で環状を呈する溝が設けられ、この溝に液体を旋回させて流す噴水手段が、ガイドベーンの上流側に付設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、塗装ミストを含む空気と洗浄用の液体が共に排出口から塗装ブース外へ排出される。排出口にガイドベーンが備えられ、このガイドベーンで塗装ミストを含む空気を旋回せる。
塗装ミストを含む空気が排出口を、直進的に下降する場合に比べ、本発明のように旋回させることで、排出口における空気の滞留時間を延ばすことができ、液体との接触時間を大幅に延ばすことができる。結果、少ない液体であっても塗装ミストを含む空気を洗浄することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、排出口は、テーパ状の吸入部の下方に繋がる筒状部と、その下端に接続され開口面積が縮小された縮径部とを備えている
塗装ミストを含む空気は、筒状部と縮径部とを旋回しながら下降する。この間に塗装ミストを含む空気は、液体と良好に接触する。
【0017】
請求項3に係る発明では、平面視で左排出口と右排出口は、一方が時計回りに旋回流を発生する右旋回発生型ガイドベーンを備え、他方が反時計回りに旋回流を発生する左旋回発生型ガイドベーンを備える。
ワークの搬送に適合した旋回方向を得ることができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、ガイドベーンは、上方から下方にかけて湾曲した複数の湾曲羽根からなる。
湾曲羽根により、下向き流れを円滑に旋回流に変換できる。加えて、複数の湾曲羽根により、簡単に且つ安価でガイドベーンを構成することができる。
【0019】
請求項5に係る発明では、テーパ状の吸入部に、平面視で環状を呈する溝が設けられ、この溝に液体を旋回させて流す噴水手段が、ガイドベーンの上流側に付設されている。
空気と同様に液体を旋回させることで、吸入部と筒状部と縮径部における液体の滞留時間を延ばすことができ、空気との接触時間を更に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】塗装ブースの原理図である。
【図2】本発明に係る塗料ミスト回収装置の断面図である。
【図3】図2の3矢視図である。
【図4】塗料ミスト回収装置の作用図である。
【図5】図1の5−5矢視図である。
【図6】図2の変更例を示す断面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】図6の作用説明図である。
【図9】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0022】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、塗装ブース10では、コンベア11で図面表裏方向に搬送される車両ボディなどのワーク12に、左右側方(左は上流側から下流側を見て左を指す。右も同様)に配置される塗装手段13、13により塗料が噴射される。
【0023】
塗装ブース10は出入り口を除き、密閉され、上方に配置されるフレッシュ空調機14により調和された空気がダクト15を介して下向きに塗装ブース10内に供給される。また、リターンダクト16に設けられたリサイクル空調機17により調和された空気がリターンダクト16を介して塗装ブース10内に供給される。
【0024】
供給された空気は、プレナムチャンバー18、19で拡げられ、網天井(又は格子天井)21を介して、下向きに流される。この下向き空気流れは、ワーク12の周囲に浮遊する塗料ミストを巻き込み、格子床22を通り、格子床22とその下方の底面23との間に到達する。
【0025】
底面23にはスプレー管24から洗浄用の液体25が流される。底面23には複数の排出口26が設けられ、これらの排出口26を通って、塗料ミストを含む空気と液体25とが、気液分離室27に入る。この気液分離室27で軽い空気と重い液体とが分離される。液体は、貯液槽28に導かれ浄化され、浄化された液体がポンプ29によりスプレー管24へ戻される。
空気は、排気ファン31で吸引され、排気ダクト32に導かれ、一部がリターンダクト16へ流れ、残りが外へ放出される。
【0026】
本発明では、排出口26に塗料ミスト回収装置40を取付けたことを特徴とする。
図2に示すように、塗料ミスト回収装置40は、上方へ拡開したテーパ状の吸入部41と、その下方に繋がる筒状部42と、その下端に接続され開口面積が縮小された縮径部43と、筒状部42の上部に取付けられ旋回流を発生させるガイドベーン44とからなる。
【0027】
図3に示すように、ガイドベーン44は、等ピッチで配置された複数(この例では6枚)の湾曲羽根45からなる。これらの湾曲羽根45は上方から下方へ湾曲しているため、下向き流れを円滑に旋回流に変える働きをする。
(a)に示すガイドベーン44は、平面視で時計廻りの旋回流を発生させる右旋回発生型ガイドベーン44Rである。
(b)に示すガイドベーン44は、平面視で反時計廻りの旋回流を発生させる左旋回発生型ガイドベーン44Lである。
【0028】
次に、塗料ミスト回収装置40の作用を説明する。
図4(a)は空気の流れを説明する図であり、下向きに流れる空気46は、ガイドベーン44により旋回流47となる。縮径部43で流れがせき止められるため、旋回流47の滞留時間が長くなる。
【0029】
(b)は液体の流れを説明する図であり、液体25は、ガイドベーン44で旋回されつつ、塗料ミスト回収装置40の内面に沿って流下する。
【0030】
(c)は、(a)と(b)を合わせた図であり、空気46が旋回しているため、空気46と液体25との接触時間が大幅に延び、塗料ミストを液体25に効果的に吸収させることができる。
結果、少量の液体25であっても、塗料ミストを良好に吸収させることができ、洗浄液体の所要量を減少させることができる。
【0031】
次に、複数の排出口26の配列について説明する。
図5に示すように、排出口26は、ワーク12の搬送路中心線上に配置される中央排出口26Cと、ワーク12の左右側方に配置される左右排出口26L、26Rとからなり、中央排出口26Cと左右排出口26L、26Rとは、ワーク12の搬送方向に沿って千鳥状に複数配設する。
【0032】
中央排出口26Cは、間欠的にワーク12で塞がれる。千鳥配置することで、中央排出口26Cが一時的に塞がれたときに、左右排出口26L、26Rで排出を維持することができる。
【0033】
好ましくは、平面視で、左排出口26Lに左旋回発生型ガイドベーン44Lを備え、右排出口26Rに右旋回発生型ガイドベーン44Rを備える。
図中、破線矢印で示すように、中央に空気の流れが集まる。結果として壁48側の空気の流れが少なくなる。結果、塗装ブース10の壁面48に塗料ミストが付着することが少なくなり、塗装ブース10の汚れを抑制することができる。
【0034】
次に、図2の変更例を説明する。
図6(a)に示すように、塗料ミスト回収装置40Bは、上方へ拡開したテーパ状の吸入部41と、その下方に繋がる筒状部42と、その下端に接続され開口面積が縮小された縮径部43と、筒状部42の上部に取付けられ旋回流を発生させるガイドベーン44とからなるが、テーパ状の吸入部41には、溝49が設けられ、この溝49に液体を旋回させて流す噴水手段51が、テーパ状の吸入部41に付設されている。
【0035】
図7に示すように、噴水手段51は、テーパ状の吸入部41を囲う環状室52と、この環状室52からガイドベーン44の旋回方向に倣うように斜めに液体を噴出する斜め噴出口53と、環状室52へ液体を供給する給液管55と、環状室52に配置され環状室52内の流れを一方向に制限する仕切り56からなる。
【0036】
図6(b)に示すように、給液管55は、ポンプ29からスプレー管24へ向かう管から分岐してもよい。または、別のポンプから給液されるようにしてもよい。
【0037】
次に、塗料ミスト回収装置40Bの作用を説明する。
図8(a)は空気の流れを説明する図であり、下向きに流れる空気46は、ガイドベーン44により旋回流47となる。
(b)は液体の流れを説明する図であり、液体25は、噴水手段51により旋回流54となる。
【0038】
空気46と同様に液体25を旋回させることで、吸入部41と筒状部42と縮径部43における液体25の滞留時間を延ばすことができ、空気との接触時間を更に延ばすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車両ボディのための塗装ブースに装着する塗料ミスト装置に好適である。
【符号の説明】
【0040】
10…塗装ブース、12…ワーク、13…塗装手段、25…液体、26…排出口、26C…中央排出口、26L…左排出口、26R…右排出口、40、40B…塗料ミスト回収装置、41…吸入部、42…筒状部、43…縮径部、44…ガイドベーン、44L…左旋回発生型ガイドベーン、44R…右旋回発生型ガイドベーン、45…湾曲羽根、46…空気、49…溝、51…噴水手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブース内で塗装手段から噴射した塗料をワークに塗布する際に発生する塗料ミストを回収する塗料ミスト回収装置であって、
前記塗料ミストを混入させて回収するための液体と該液体及び前記塗料ミストを含む空気とを通過させるために前記塗装ブースの下部に設けられる排出口と、
この排出口を上方へ拡開したテーパ状の吸入部と、
このテーパ状の吸入部に径方向に流れを発生させるガイドベーンとを備えたことを特徴とする塗料ミスト回収装置。
【請求項2】
前記排出口は、前記テーパ状の吸入部の下方に繋がる筒状部と、
その下端に接続され開口面積が縮小された縮径部とを備えていることを特徴とする請求項1記載の塗料ミスト回収装置。
【請求項3】
平面視で、前記左排出口と前記右排出口は、一方が時計回りに旋回流を発生する右旋回発生型ガイドベーンを備え、他方が反時計回りに旋回流を発生する左旋回発生型ガイドベーンを備えていることを特徴とする請求項2記載の塗料ミスト回収装置。
【請求項4】
前記ガイドベーンは、上方から下方にかけて湾曲した複数の湾曲羽根からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の塗料ミスト回収装置。
【請求項5】
前記テーパ状の吸入部には、平面視で環状を呈する溝が設けられ、この溝に前記液体を旋回させて流す噴水手段が、前記ガイドベーンの上流側に付設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の塗料ミスト回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−187478(P2012−187478A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51863(P2011−51863)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】