説明

塗料用樹脂組成物

【課題】スチレンを使用していなくても、従来と同等又はそれ以上の特性を有する塗料用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)(メタ)アクリル酸エステルからなる反応性単量体(但し、下記(C)成分を除く)と、(C)反応性希釈剤と、(D)有機過酸化物とを必須成分とする塗料用樹脂組成物において、(C)反応性希釈剤が、数平均分子量 250〜2000のポリアルキレンオキサイドのジアクリレート誘導体であることを特徴とする塗料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂をベース樹脂とし、反応性希釈剤としてスチレンを用いないスチレンフリーの塗料用樹脂組成物に関し、特に、化粧板等の木工塗装分野に適した塗料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧板等に用いられる木工用塗料は、そのベースとなる樹脂として、不飽和ポリエステルを主成分とし、反応性希釈剤としてスチレンを含有するものが一般的に用いられている。
【0003】
ところが、近年、スチレンモノマーは、その揮発性、臭気、毒性による作業環境の悪化が指摘されており、さらに、化学物質管理促進法(PRTR法)の施行に伴い、スチレンの使用はその排出量及び移動量の届出が必要となっている。
【0004】
これに伴い、該当分野で、その低減および代替検討の提案がなされ、例えば、スチレンの代わりに届出の必要がない(メタ)アクリル酸エステルを使うことが多くなってきており、その中でもコストの点からメタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)を用いるケースが一般的であった。
【0005】
また、スチレン臭を低減する目的で、併用する反応性希釈剤の量を制御して改善する提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−371232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、2−HEMAが、不飽和ポリエステルの二重結合を有機過酸化物、金属石鹸を介して架橋する働きをする一方、2−HEMAは、エステル結合を有しているため、吸湿により硬化物が加水分解しやすく、また、脂肪族炭化水素であることからスチレンを用いた場合よりも耐熱性や密着性が劣るという欠点があった。
【0007】
この欠点に対して、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のかさ高い化合物を使用することで解決を図ったが、この場合、耐熱性や密着性の向上はみられるものの、極端に耐割れ性が悪くなるという欠点が残っていた。
【0008】
また、併用する反応性希釈剤の量を制御する方法は、スチレンの完全代替ではなく、スチレンによる諸問題について完全に解決するものではなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を鑑み、スチレンを使用していなくても、従来と同等又はそれ以上の特性を有する塗料用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の欠点を解決するために鋭意研究を進めた結果、スチレンを使用せずに従来通りの耐熱性や耐乾燥性、耐割れ性を保ち、さらに代替候補の2−HEMAの使用により問題となっていた問題を、ポリアルキレンオキサイドのアクリレート誘導体を用いることで解決することができることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)(メタ)アクリル酸エステルからなる反応性単量体(但し、下記(C)成分を除く)と、(C)反応性希釈剤と、(D)有機過酸化物とを必須成分とする塗料用樹脂組成物において、(C)反応性希釈剤が、数平均分子量 250〜2000のポリアルキレンオキサイドのジアクリレート誘導体であることを特徴とする塗料用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗料用樹脂組成物は、従来の樹脂組成物と異なり、スチレン等を使用していないため、臭気問題を起こす心配がなく、スチレンを用いた場合と比較しても、同等以上の乾燥性、密着性、耐割れ性を有する塗料用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いる(A)不飽和ポリエステル樹脂は、(a)酸成分と(b)アルコール成分を反応させて得られるものである。ここで用いる(a)酸成分としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸酸等の不飽和酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の飽和酸等が挙げられ、これらは単独又は2種羽状を混合して使用することができる。
【0015】
また、ここで用いる(b)アルコール成分としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ポリエーテルポリアルコール等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。それ以外の変性部分としては、アマニ油、大豆油、トール油、ジシクロペンタジエン等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
本発明に用いる(B)反応性単量体は、下記(C)成分を除く、(メタ)アクリル酸エステルからなるものであり、アクリル酸エステルおよびその誘導体、メタクリル酸エステルおよびその誘導体等の各種の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。この(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル等のモノ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる(C)反応性希釈剤は、数平均分子量が250〜2000のポリアルキレンオキサイドのジ(メタ)アクリレート誘導体である。この反応性希釈剤としては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは単独で用いることもでき、また、これらのうちの2種類以上を組合せるか又はトリメチロールプロパントリメタクリレートを組合せて用いることもできる。
【0018】
ポリアルキレンオキサイドのアクリレート誘導体は、エーテル結合を有しており、また、フリーの水酸基を有していないため、本発明の課題の解決に大きく貢献していると考えられる。ただし、この(C)反応性希釈剤の数平均分子量は、250未満であると塗膜の可撓性を損ない耐割れ性が悪くなってしまい、また、2000を超えると乾燥性を損なってしまうため、好ましくない。
【0019】
また、上記(B)反応性単量体及び(C)反応性希釈剤の配合量は、(A)不飽和ポリエステル樹脂 100質量部に対して40〜300質量部であることが好ましい。配合量が40質量部未満では、粘度が高く作業性が損なわれてしまい、配合量が300質量部を超えると十分な密着性、耐熱性が得られなくなってしまう。また、このとき、(B)反応性単量体と(C)反応性希釈剤との配合割合は、98:2〜33:67であることが好ましく、96:4〜70:30であることが特に好ましい。
【0020】
本発明に用いる(D)有機過酸化物としては、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させるものであって、従来からエポキシ樹脂の硬化剤として用いられているものが挙げられる。この有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、アシルパーオキサイド、クメンパーオキサイド等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用できる。
【0021】
この(D)有機過酸化物の配合量は(A)不飽和ポリエステル樹脂 100質量部に対して0.5〜3質量部であることが好ましい。3質量部を超えるとワニスライフが短くなってしまう。
【0022】
本発明の樹脂組成物の硬化を促進させるために、樹脂組成物中に硬化促進剤を添加することもでき、このとき用いる硬化促進剤としては、ナフテン酸又はオクチル酸の金属塩(コバルト、亜鉛、ジルコニウム、マンガン、カルシウム等の金属塩)が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0023】
さらに、本発明の樹脂組成物に添加することができる重合禁止剤としてはハイドロキノン、メトキノン、p−t−ブチルカテコール、ピロガロール等のキノン類が挙げられ、これらは単独又は2種類以上混合して使用することができる。
【0024】
その他、本発明の効果を損なうことのない範囲で、無機充填剤、反応性希釈剤、着色剤、沈降防止剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物の調製は、不飽和ポリエステル樹脂、反応性単量体、反応性希釈剤、有機過酸化物、硬化促進剤、必要に応じて無機充填剤、着色剤、沈降防止剤等を配合し、混合することにより行うことができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物に対して(B)反応性単量体及び(C)反応性希釈剤を併用すること、特に(C)の反応性希釈剤からなる架橋剤を用いることで、重合度が向上し、未反応のアクリル系成分が硬化物の中に残りにくくなったものである。つまり、本発明により、スチレンを使用しなくとも、塗料としての乾燥性、硬化性、塗膜性能を安定させた樹脂組成物が得られるものである
【実施例】
【0027】
以下、参考例及び実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0028】
(参考例)
[不飽和ポリエステル樹脂A−1の合成]
無水フタル酸 7質量部、大豆油 54質量部、ペンタエリスリトール 14質量部、無水マレイン酸 14質量部、プロピレングリコール 11質量部、ハイドロキノン 0.02質量部を加えて、180〜210℃で反応させ、酸価25の樹脂を得、さらに、これにハイドロキノン0.01質量部を配合し、不飽和ポリエステル樹脂A−1を得た。
【0029】
[不飽和ポリエステル樹脂A−2の合成]
無水テトラヒドロフタル酸 14質量部、無水マレイン酸 22質量部、大豆油脂肪酸 24質量部、エチレングリコール22質量部、ジエチレングリコール 14質量部、ハイドロキノン 0.02質量部を加えて、180〜210℃で反応させ、酸価25の樹脂を得、さらに、これにハイドロキノン0.01質量部を配合し、不飽和ポリエステル樹脂A−2を得た。
【0030】
(実施例1)
参考例で得られた不飽和ポリエステルA−1 50質量部、メタクリル酸メチル 28質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート(数平均分子量:302) 2質量部、6%ナフテン酸コバルト 0.15質量部、1,4−(ジ−t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 1.0質量部を配合し、十分に撹拌、混合して塗料用樹脂組成物を得た。
【0031】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
実施例1と同様に、表1に示した組成により、原料を十分に撹拌、混合して塗料用樹脂組成物を得た。
【0032】
次に、実施例1〜3および比較例1〜2で得られた樹脂組成物について、スチレン臭気、乾燥性、密着性、耐割れ性の各特性に関する試験を行い、その結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
[臭気試験]
(a)作業時、塗布作業場の臭気を評価するために、アプリケータの1m離れた位置で、5人の測定者が、臭気の強度を官能評価した。
(b)硬化物、密着試験サンプル10gを、500mLの密閉ガラス瓶に入れ、100℃の熱風乾燥機中に5時間放置後、取り出して、室温まで冷却した後、作業時と同様に5人の測定者が官能評価した。
ここで、官能評価は、[1点:臭気を強く感じる、2点:臭気をやや強く感じる、3点:臭気を感じる、4点:臭気をわずかに感じる、5点:臭気を感じない]の評価点に基づいて各測定者が出した評価点の平均をとって、次の基準により判定を行った。
○:平均評価点が4.0以上
△:平均評価点が3.0以上4.0未満
×:平均評価点が3.0以下
【0035】
[乾燥性試験]
樹脂組成物をガラス板にアプリケータで厚み25μmに塗布し、120℃熱風乾燥機中で、20分乾燥させて、冷却後、樹脂表面のタック性を確認した。
○:タック性あり、×:タック性なし
【0036】
[密着性試験]
20cm角の突板合板からなる基材上にバーコーターで試験用樹脂組成物を25g/mで塗布し、120℃熱風乾燥機中で、60分乾燥させた。その塗膜上に、同じ試験用硬化性樹脂組成物を同条件で塗布、硬化したものを試験板とした。この試験板にカッターナイフで100個の2mm角の碁盤目を付け、基材−塗膜間および塗膜層間の密着性をセロテープ(登録商標)剥離試験で行い、試験板側に残った数を数えた。
【0037】
[耐割れ性試験]
密着性試験時と同様に作製した試験板を80℃で2時間および−20℃で2時間の寒熱繰り返し条件で2回処理した後、塗膜に発生した割れの長さを測定した。
【0038】
以上の結果から、数平均分子量250〜2000のポリアルキレンオキサイドのジアクリレート誘導体を用いることで、スチレン等を使用しなくても、従来の塗料用樹脂組成物と比較して、同等の密着性、乾燥性、耐割れ性を有し、かつスチレン臭気を完全に無くすことができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)(メタ)アクリル酸エステルからなる反応性単量体(但し、下記(C)成分を除く)と、(C)反応性希釈剤と、(D)有機過酸化物とを必須成分とする塗料用樹脂組成物において、
前記(C)反応性希釈剤が、数平均分子量 250〜2000のポリアルキレンオキサイドのジアクリレート誘導体であることを特徴とする塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)不飽和ポリエステル樹脂 100質量部に対し、前記(B)反応性単量体と前記(C)反応性希釈剤との合計が40〜300質量部、前記(D)有機過酸化物が0.1〜3.0質量部の割合で配合されることを特徴とする請求項1記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)反応性単量体と前記(C)反応性希釈剤の配合割合が、98:2〜33:67であることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)反応性希釈剤が、トリエチレングリコールジメタクリレートであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗料用樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−56812(P2008−56812A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235768(P2006−235768)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】