説明

塗料組成物及び塗装物品

【課題】 耐摩耗性と強度に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物を提供する。
【解決手段】 フッ素樹脂(A)、ポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕樹脂(B)、並びに、アミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C)を含む塗料組成物であって、上記フッ素樹脂(A)及び上記バインダー樹脂(C)との質量比率は、(A)/(C)=70/30〜5/95であり、上記ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)は、上記フッ素樹脂(A)及び上記バインダー樹脂(C)の合計100質量部あたり3〜50質量部であることを特徴とする塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、並びに、塗装物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、摺動性、耐熱性等が良好であり、耐熱性樹脂として優れているポリアミドイミド〔PAI〕、ポリイミド〔PI〕等と併用して、摺動部材、その他の工業部材等、各種用途に利用されている。
【0003】
フッ素樹脂と耐熱性樹脂とを含有する材料として、例えば、特定のフッ素樹脂をマトリックス材料として有し、更に、芳香族ポリマー、MoS等の化合物等とを有するすべり部材用の材料(例えば、特許文献1参照。)、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、PAI、ポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕等を含有し得るすべり軸受装置の樹脂材料(例えば、特許文献2参照。)、PTFE、PAI、PEEK等から選択した樹脂に、炭素繊維と固体潤滑剤とを含有させて成形した圧縮機における摺動部材用の樹脂材料(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
しかしながら、これらの材料は、PTFE、PAI、PEEK等を構成成分として選択するものであり、PAI等の耐熱性樹脂とPTFEとPEEKとを必須とするものではない。
【0004】
フッ素樹脂と耐熱性樹脂とを含有する材料として、PAI、ポリアミド〔PA〕、PES、PEEK等を含み得るバインダー樹脂と、該バインダー樹脂が有するアミド官能基及び/又はアミン化合物と反応し得るフッ素ポリマー樹脂とを含む組成物(例えば、特許文献4及び特許文献5参照。)が提案されているが、各文献にPEEK含有量等は記載されていない。
【0005】
PEEKを含有する樹脂材料として、PEEK樹脂を主材とし、更にフッ素樹脂、ポリエーテルサルホン〔PES〕、PI等を含有するPEEK複合被膜が提案されているが、PEEKを組成物中の主材又は50重量%以上であるとしており、バインダー樹脂として用いているものと考えられる(例えば、特許文献6参照。)。
【特許文献1】特表2000−505527号公報
【特許文献2】特開2001−173660号公報
【特許文献3】特開2001−115959号公報
【特許文献4】特表2004−506085号公報
【特許文献5】特表2004−508431号公報
【特許文献6】特開2000−229373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、耐摩耗性と強度に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フッ素樹脂(A)、ポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕樹脂(B)、並びに、アミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C)を含む塗料組成物であって、上記フッ素樹脂(A)及び上記バインダー樹脂(C)との質量比率は、(A)/(C)=70/30〜5/95であり、上記ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)は、上記フッ素樹脂(A)及び上記バインダー樹脂(C)の合計100質量部あたり3〜50質量部であることを特徴とする塗料組成物である。
【0008】
本発明は、フッ素樹脂(A)粒子並びにPEEK樹脂(B)粒子がアミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C′)を含むマトリックス中に分散している塗膜を有することを特徴とする塗装物品である。
【0009】
本発明は、被塗装物に上記本発明の塗料組成物を塗布したのちPEEK樹脂(B)の融点未満である温度にて焼成することよりなることを特徴とする塗装物品の製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の塗料組成物は、フッ素樹脂(A)及びポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕(B)、並びに、アミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C)を含むものである。
【0011】
本発明の塗料組成物は、フッ素樹脂(A)を含むことにより、摺動性、耐熱性に優れた塗膜を形成することができる。
上記フッ素樹脂(A)を構成するフルオロポリマーとしては、パーフルオロポリマーが好ましい。上記フッ素樹脂(A)は、1種のフルオロポリマーのみからなるものであってもよいし、2種以上のフルオロポリマーからなるものであってもよい。
上記フッ素樹脂(A)を構成するフルオロポリマーとしては、より好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔PFA〕及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕よりなる群から選択される少なくとも1種であり、更に好ましくはPTFEである。
【0012】
本明細書において、上記PTFEは、テトラフルオロエチレン〔TFE〕単独重合体であってもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。
本明細書において、上記「変性PTFE」とは、TFE単独重合体の性質を大きく損なわない範囲内で、TFEとともに微量のTFE以外の単量体をも重合に供することにより得られるTFE共重合体である。
上記TFE以外の単量体としては、例えば、エチレン性不飽和基を有する含フッ素単量体が挙げられる。
上記エチレン性不飽和基を有する含フッ素単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等が挙げられる。
上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕等が挙げられる。
上記TFE以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記TFE以外の単量体に基づく繰り返し単位の合計量は、一般に、PTFEを形成する全単量体に基づく繰り返し単位の総量の通常1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0013】
上記フッ素樹脂(A)としては、本発明の塗料組成物を溶剤系組成物として調製する場合、溶剤中に分散混合しやすい点で、数平均分子量1〜60万であるPTFEが好ましく、50万以下であるPTFEがより好ましく、30万以下であるPTFEが更に好ましい。
上記フッ素樹脂(A)として、PTFEとPTFE以外の種類のフルオロポリマーとを混合して使用する場合、PTFEは、フッ素樹脂(A)の25〜95質量%が好ましい。本明細書において、上記範囲内の数平均分子量を有するPTFEを「低分子量PTFE」ということがある。
上記PTFEの数平均分子量は、粘弾性測定機(レオメトリクス社製)により測定した値である。
【0014】
本発明の塗料組成物において、上記フッ素樹脂(A)は、通常、粒子の形態でバインダー樹脂(C)中に分散しており、その平均粒子径は、一般に1〜30μm、好ましくは2〜20μmである。
上記「平均粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子社製)により測定した値である。
上記フッ素樹脂(A)は、従来公知の方法にて調製することができ、例えば、本発明の塗料組成物を調製する際、粉体として供することができる。
【0015】
本発明の塗料組成物において、PEEK樹脂(B)は、一般に、溶剤不溶性であり、平均粒子径が1〜50μmであるものが好ましく、より好ましくは3〜30μmである。
本発明の塗料組成物は、PEEK樹脂(B)を含むことにより、耐摩耗性、塗膜強度に非常に優れた塗膜を形成することができる。
【0016】
本発明の塗料組成物において、上記アミド基〔−NH−C(=O)−〕及び/又はイミド基〔−C(=O)−NR−C(=O)−〕(Rは、有機基。)を有するバインダー樹脂(C)(以下、単に「バインダー樹脂(C)」ということがある。)は、フッ素樹脂(A)及び上記PEEK樹脂(B)以外の樹脂であって、アミド基及び/又はイミド基を有するものであれば特に限定されないが、融点がPEEK樹脂(B)の融点よりも低いもの又は溶剤可溶性のものが好ましい。
上記バインダー樹脂(C)は、上記塗料組成物において1種のみ含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0017】
上記バインダー樹脂(C)としては、従来公知のものであれば特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられるが、熱硬化性樹脂の方が好ましい。
上記バインダー樹脂(C)としては、ポリアミドイミド未硬化のポリアミック酸、ポリイミド未硬化若しくは一部イミド基を形成したポリアミック酸等が挙げられるが、なかでもPAIが好ましい。
上記バインダー樹脂(C)は、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤に溶解したワニスとして本発明の塗料組成物調製に供することができる。
【0018】
本発明の塗料組成物は、得られる塗膜の摺動性向上の点で、更に、固体潤滑剤(D)をも含むものであってもよい。
上記固体潤滑剤(D)としては特に限定されず、例えば、グラファイト、炭素ファイバー、コークス、MoS、BN、CaF等が挙げられる。
上記塗料組成物において、上記固体潤滑剤(D)は、バインダー樹脂(C)100質量部あたり10〜40質量部であることが好ましい。
【0019】
本発明の塗料組成物は、フッ素樹脂(A)、PEEK樹脂(B)、バインダー樹脂(C)及び所望により添加する固体潤滑剤(D)に加え、更に本発明の効果を損なわない範囲で、顔料、溶剤等の従来公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0020】
本発明の塗料組成物において、上記フッ素樹脂(A)と上記バインダー樹脂(C)との質量比率は、一般に(A)/(C)=70/30〜5/95であり、好ましくは(A)/(C)=50/50〜20/80である。
上記塗料組成物において、上記PEEK樹脂(B)は、一般に、上記フッ素樹脂(A)及び上記バインダー樹脂(C)の合計100質量部あたり3〜50質量部、好ましくは該合計100質量部あたり5〜25質量部である。
【0021】
本発明の塗料組成物としては、特に限定されず、使用するバインダー樹脂(C)の種類にもよるが、分散性、塗膜均質形成の点で、液状組成物であることが好ましい。
上記塗料組成物は、バインダー樹脂(C)として、PAI未硬化のポリアミック酸、及び/又は、PI未硬化若しくは一部イミド基を形成したポリアミック酸を用いる場合、液状組成物であることが好ましい。
本発明の塗料組成物は、液状組成物である場合、通常、溶剤を含む溶剤系組成物として調製する。該溶剤として、使用するバインダー樹脂(C)の種類、量等に応じて適宜選択することができ、一般に有機溶剤を使用することができる。
上記有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、メチルイソブチルケトン、キシレン等が挙げられる。
上記塗料組成物において、上記溶剤は、1種のみ使用するものであってもよいし、2種以上混合して使用するものであってもよい。
上記塗料組成物が液状組成物である場合、その固形分濃度は、使用する(A)〜(C)や溶剤の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0022】
本発明の塗料組成物は、例えば、フッ素樹脂(A)、PEEK樹脂(B)及びバインダー樹脂(C)と、必要に応じて添加する固体潤滑剤(D)等とを、上述の組成比となるよう、上述の有機溶剤に溶解させたバインダー樹脂(C)中に、フッ素樹脂(A)とPEEK樹脂(B)とを分散させることにより調製することができる。
上記溶解及び混合は、ディスパー、バスケットミル、ダイナモミル、ボールミル等を用いて行うことができる。
本発明の塗料組成物は、上記混合後、所望により更に有機溶剤を加え、粘度調整を行ったものであってもよい。
【0023】
本発明の塗料組成物は、多種多様な被塗装物上に塗装することができ、例えば、アルミニウム板、銅板等の比較的耐熱性が低い物品に対しても、適用可能である。上記塗料組成物から得られる塗膜は、塗膜強度に優れ、更に、耐磨耗性、摺動性等にも優れている。
【0024】
本発明の塗装物品は、フッ素樹脂(A)粒子並びにPEEK樹脂(B)粒子がアミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C′)を含むマトリックス中に分散している塗膜を有するものである。
【0025】
本発明の塗装物品における被塗装物としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス〔SUS〕、鉄等の金属;耐熱樹脂;セラミック等からなるものが挙げられ、金属からなるものであることが好ましい。金属としては、単体金属又は合金であってよい。
上記被塗装物は、塗膜との接着性を向上させる点で、塗膜を塗装する前に予め、ブラスト処理等の粗面化処理及び/又はリン酸塩等を用いた化成処理を行ったものであることが好ましい。
【0026】
上記フッ素樹脂(A)粒子は、上述のフッ素樹脂(A)が形成している粒子であり、PEEK樹脂(B)粒子は、上述のPEEK樹脂(B)が形成している粒子である。
上記塗膜におけるフッ素樹脂(A)及びPEEK樹脂(B)の種類並びに特徴は、上述の本発明の塗料組成物と同様である。
上記塗膜におけるフッ素樹脂(A)としては、数平均分子量50万以下のPTFEが好ましい。
【0027】
上記バインダー樹脂(C′)は、一般に、上述のバインダー樹脂(C)を、PEEK樹脂(B)の融点未満の温度に焼成して得られたものであり、上記塗膜においてマトリックスを構成する樹脂であり、硬化したものであってもよい。
上記バインダー樹脂(C′)としては、ポリアミドイミド〔PAI〕、ポリイミド〔PI〕等が挙げられ、なかでもPAIが好ましい。
上記バインダー樹脂(C′)は、熱硬化性樹脂である場合、硬化していることが好ましく、特に、塗装物品を摺動部材等として用いる場合、硬化していることが、摩擦熱に対する耐熱性の点で好ましい。
【0028】
上記塗膜は、上述の本発明の塗料組成物と同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、固体潤滑剤(D)、従来公知の添加剤等をも含むものであってもよい。
【0029】
上記塗膜において、フッ素樹脂(A)粒子、PEEK樹脂(B)粒子及びバインダー樹脂(C′)の各含有量は、上述の本発明の塗料組成物と同様の割合とすることができる。
上記塗膜は、厚みが一般に10〜100μm、好ましくは20〜50μmである。
本明細書において、上記厚みは、渦電流式膜厚測定器(ケツト科学研究所社製)を用いて測定した値である。
【0030】
本発明の塗装物品が有する塗膜は、PEEK樹脂(B)粒子がバインダー樹脂(C′)を含むマトリックス中に分散しているものであるので、該PEEK樹脂(B)粒子の硬さ及び摺動特性から塗膜の摩擦、摩耗を防ぎ、しかもフッ素樹脂(A)により摺動性を大きく損なうことがなく、また仮に塗膜が摩耗し表面に該PEEK樹脂(B)の摩耗された粒子が露出した場合であっても、該PEEK樹脂の摺動特性及び柔軟性により該塗膜の損傷を防止することができる(塗膜非攻撃性)。
従来、耐摩耗性が求められる塗膜は、例えば、PAI及び/又はPIに、PTFEのみを加えたものである場合、塗膜硬度に劣るので、MoS、アルミナ等の充填材を配合していた。しかしながら、充填材が塗膜摩耗により露出した場合、他材との摩擦により、クレンザー粒子のように該塗膜に引っかき傷を与えてしまっていた。
【0031】
本発明の塗装物品が有する塗膜は、上述のように耐磨耗性に優れることに加え、強度にも優れている。
【0032】
本発明の塗装物品は、例えば、後述の本発明の塗装物品製造方法により製造することができる。
【0033】
本発明の塗装物品製造方法は、被塗装物に上述の本発明の塗料組成物を塗布したのちPEEK樹脂(B)の融点未満である温度にて焼成することよりなる。
上記塗装物品製造方法は、焼成温度をPEEK樹脂(B)の融点未満である温度とすることにより、PEEK樹脂(B)を溶融させず粒子状のものとして、バインダー樹脂(C)を含むマトリックス中に分散させるものである。
【0034】
本発明の塗装物品製造方法における被塗装物としては、特に限定されず、上述の本発明の塗装物品に関し例示したものを挙げることができる。
上記塗装物品製造方法において、上記被塗装物は、塗膜との接着性を向上させる点で、上記塗料組成物の塗布を行う前に、予めブラスト処理等の粗面化処理及び/又はリン酸塩等を用いた化成処理を行うことが好ましい。
上記塗装物品製造方法において、上記被塗装物は、平均表面粗さ〔Ra〕が2〜10μmであることが好ましい。
上記平均表面粗さは、JIS D 0601に準拠して測定した値である。
【0035】
上記塗装物品製造方法において、上記塗料組成物の塗布は、従来公知の方法であれば特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ローラーによる塗布等が挙げられる。
上記塗装組成物は、得られる塗装物品の塗膜の厚み(乾燥膜厚)が上述の本発明の塗装物品と同様の範囲となるよう塗布することが好ましい。
上記塗装物品製造方法は、上記塗布を行い、所望により80〜150℃で塗料組成物を乾燥させた後に焼成するものであってもよい。
【0036】
本発明の塗装物品製造方法において、焼成温度は、PEEKを均一に分散させた塗膜を得る点で、好ましくは200〜300℃、より好ましくは230〜280℃である。
上記焼成は、一般に15〜120分間、好ましくは30〜60分間行うことができる。
本発明の塗装物品製造方法は、塗装対象の被塗装物として多種多様な物品を選択することができ、焼成温度が上記範囲内である点で、アルミニウム板、銅板等の耐熱性があまり高くない被塗装物であっても採用することができ、また、バインダー樹脂(C)としても、耐熱性があまり高くない樹脂であっても用いることができる。
本発明の塗装物品製造方法は、上記焼成後、得られた塗膜の表面処理、各種用途に応じて所望の形状に加工する等、その他の工程を含むものであってもよい。
【0037】
本発明の塗装物品製造方法から得られる塗装物品(以下、該塗装物品及び本発明の塗装物品を、「本発明における塗装物品」と総称することがある。)は、本発明の塗装物品と同様、フッ素樹脂(A)粒子及びPEEK樹脂(B)粒子がアミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C′)を含むマトリックス中に分散している塗膜を有するものであり、耐磨耗性、摺動性等に優れている。
【0038】
本発明における塗装物品は、耐磨耗性、摺動性等に優れているので、例えば、摺動部材、製紙ロール、カレンダーロール、金型離型部品、ケーシング、バルブ、弁、パッキン、コイルボビン、オイルシール、継ぎ手、アンテナキャップ、コネクター、ガスケット、バルブシール、埋設ボルト、埋設ナット等の工業部品として使用することができ、なかでも、摺動部材として好適に使用することができる。
上記摺動部材としては、例えば、カーエアコンのコンプレッサー等及びそれに用いる斜板等、軸受け材、軸受けプレート、各種ギアを含む精密機構摺動部材が挙げられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の塗料組成物は、上述の構成よりなるので、耐摩耗性と強度に優れた塗膜を形成することができる。本発明の塗装物品は、耐摩耗性と強度に優れているので、摺動部材等の工業部品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に実験例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実験例のみに限定されるものではない。
各実験例における組成物の量は、特に断りがない場合は、質量基準である。
各実験例に記載の各測定値は、以下の方法により求めた値である。
1.PTFEの数平均分子量
特開平10−147617号公報に記載の方法(S.Wuの方法)で測定した。
2.平均表面粗さ〔Ra〕
表面粗さ測定装置(東京精密社製)を用い、JIS D 0601に準拠して測定した。
3.乾燥膜厚
230℃焼付により得られた乾燥塗膜の膜厚を、渦電流式膜厚測定機(ケツト科学研究所社製)を使用して測定した。
【0041】
実験例1
(1)塗料組成物の調製
ポリアミドイミド〔PAI〕樹脂溶液(商品名:HI−680、日立化成工業社製、30%N−メチル−2−ピロリドン溶液)、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕(商品名:ルブロンL−2、ダイキン工業社製)、グラファイト(製品名J−CPB、日本黒鉛社製)及びポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕樹脂(製品名:150XF、VICTOREX社製)を、専用シンナー(N−メチル−2−ピロリドン/メチルイソブチルケトン/キシレン=60/20/20)中に、表1記載の配合組成で加え、ディスパー(商品名:スリーワンモーター、ヘイドン社製)を用いて、PAI樹脂を溶解し、PTFEとPEEK樹脂とを分散させることにより、固形分濃度22.0%の塗料組成物を得た。
【0042】
(2)塗装物品の作成
アルミナ粉(商品名:トサエメリー#40、宇治電化学工業社製)を用いて吹き付け圧力1.0MPaでブラスト処理したアルミニウム鋼板(A1050P、平均表面粗さ〔Ra〕=2〜3μm)上に、得られた塗料組成物を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗装し、120℃で45分間乾燥した後、230℃にて45分間焼成し、塗装物品を得た。
【0043】
得られた塗装物品を表面粗度〔Ra〕=0.1μmになるようにサンドペーパーにて表面を研磨し、以下の評価を行った。
1.摩擦係数測定
ピンオンディスク型摩耗試験機(レスカ社製)を用いて、下記条件で測定を行った。
摺動速度:200mm/秒
荷重:2kg
時間:20分
相手材:炭素鋼
潤滑:無潤滑
2.鉛筆硬度試験
JIS K 5400−8.4.1に準拠して、鉛筆引っかき硬度試験機(安田精機社製)を用いて測定した。
3.スラスト摩耗試験
スラスト型試験機(A&D社製)を用いて、下記条件にて塗膜の摩耗深さを求めた。
摺動速度:1500mm/秒
荷重:1000N
時間:10分
相手材:ADC12(アルミダイカスト)
潤滑:無潤滑
【0044】
実験例2〜42
PAI樹脂溶液、PTFE、グラファイト及びPEEK樹脂を、表1記載の配合組成に変える以外は、実験例1と同様にして、塗料組成物を調製し、塗装物品を作成し、得られた塗装物品について各試験を行った。
各実験例の配合組成及び各試験の結果を、それぞれ表1及び表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
各試験の結果より、PTFEとPAIとの質量比率がPTFE/PAI=5/95〜70/30であり、且つ、PEEKがPTFEとPAIとの合計質量100質量部あたり3〜50質量部である塗料組成物から得られた塗装物品は、スラスト磨耗試験において焼付が生じておらず、また、摩擦係数が0.260以下であることから、耐磨耗性及び耐摩擦性に優れていることが分かった。
【0048】
実験例43〜54
実験例3、9、13〜18、21、27、33及び39において得られた塗料組成物を用いて、焼成条件を380℃で45分間とした以外は、実験例1と同様に塗装物品を作成し、得られた塗装物品について各試験を行った。
各試験の結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
各試験の結果より、焼成温度を高くして焼成を行った塗装物品は、摩耗深さが大きくなることが分かった。その理由として、焼成温度が高いと、溶融樹脂であるフッ素樹脂、PEEK樹脂が成膜化し、初期の摩擦摩耗には有効だが持続性が無く、またマトリックス中に分散、保持されていない為強度が低下するものと考えられる。
上記の結果において、フッ素樹脂(A)/PAI樹脂(C)溶液の含有量比が70/30〜50/50の範囲内にある実験例8〜11及び実験例14〜17の塗装物品は、滑り易さ(低摩擦係数)を有するので、ピストン等の比較的低荷重の工業部材として好適であり、フッ素樹脂(A)/PAI樹脂(C)溶液の含有量比が50/50〜5/95の範囲内にある実験例20〜23、実験例26〜29及び実験例32〜35の塗装物品は、塗膜強度と耐磨耗性に優れているので、軸受け等の高荷重の工業部材として好適であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の塗料組成物は、上述の構成よりなるので、耐摩耗性と強度に優れた塗膜を形成することができる。本発明の塗装物品は、耐摩耗性と強度に優れているので、摺動部材等の工業部品として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)、並びに、アミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C)を含む塗料組成物であって、
前記フッ素樹脂(A)と前記バインダー樹脂(C)との質量比率は、(A)/(C)=70/30〜5/95であり、
前記ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)は、前記フッ素樹脂(A)及び前記バインダー樹脂(C)の合計100質量部あたり3〜50質量部である
ことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂(A)を構成するフルオロポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
フッ素樹脂(A)を構成するフルオロポリマーは、数平均分子量50万以下のポリテトラフルオロエチレンである請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
バインダー樹脂(C)は、ポリアミドイミド樹脂を含む請求項1、2又は3記載の塗料組成物。
【請求項5】
フッ素樹脂(A)粒子並びにポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)粒子がアミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C′)を含むマトリックス中に分散している塗膜を有する
ことを特徴とする塗装物品。
【請求項6】
フッ素樹脂(A)は、数平均分子量50万以下のポリテトラフルオロエチレンである請求項5記載の塗装物品。
【請求項7】
バインダー樹脂(C′)は、硬化したものであってもよいポリアミドイミド樹脂を含む請求項5又は6記載の塗装物品。
【請求項8】
摺動部材である請求項5、6又は7記載の塗装物品。
【請求項9】
被塗装物に請求項1、2、3又は4記載の塗料組成物を塗布したのちポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)の融点未満である温度にて焼成することよりなる
ことを特徴とする塗装物品の製造方法。

【公開番号】特開2007−238686(P2007−238686A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60359(P2006−60359)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】