説明

塗膜乾燥挙動測定方法及び装置

【課題】シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法及びその測定方法に用いられる測定装置を提供する。
【解決手段】加熱手段としてピーク波長が1.5〜3.0μmの赤外線加熱装置を用い、質量変化測定手段として電子天秤を用い、塗膜表面温度測定手段として測定波長が8〜14μmである赤外線放射温度計を用いる。赤外線放射温度計の最小測定スポット径は1cm以下であり、試料を空中に保持する架台を備える。架台は、試料をピン止め固定することが可能なシリコンゴムまたは発泡シリコンゴムからなるピン受容部材によりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法及び塗膜乾燥挙動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状の基材上に形成させた塗布層を乾燥させる工程は工業的に広く行われている。例えば、各種塗工紙、写真フィルム、印画紙、機能性フィルム、接着シート等がこの工程により製造されている。近年の省エネルギー、省資源化への要望が高まるにつれ、シート状の基材上に塗布層を形成させた機能シートの生産量はより増大している。
【0003】
シート状の基材上に塗布層を形成させた機能性シートの高品質化と効率的な製造のためには、塗布層の形成過程である乾燥工程での塗膜の挙動を把握することが非常に重要である。この場合、乾燥過程での重要なパラメーターは、加熱温度、塗膜の温度、基材の温度、乾燥の進行度合などが挙げられる。これらのパラメーターは必ずしも乾燥工程を通して一定ではなく、変化することが多いため、これらのパラメーターの乾燥の進行に伴う経時的な変化を把握することは非常に重要である。
【0004】
工業的な実際の製造工程は大型の塗布乾燥設備を使用して行われることが多く、これらの大型設備を使用して塗膜の乾燥挙動を観察したり把握したりしようとするのは非常に困難であるか、非効率的である。したがって、より小型の実験的設備で塗膜の乾燥挙動を観察し解析することが求められている。
【0005】
実験的スケールでの塗膜乾燥装置としては、各種小型の乾燥機が市販されている。これらの装置によって、温度や加熱方法、加熱時間、加熱風量等の乾燥条件の影響を検討することが可能である。しかしながら、このような装置での検討では、乾燥条件を変えること自体は可能であるが、その変更に伴って乾燥の進行がどのように変化したかを定量的に評価するのは難しい。特に、乾燥途中での塗膜の状態を把握しようとすれば、乾燥中途で試料を系外に取り出して評価せねばならず非常に労力を要するばかりか、系外に取り出すことによって試料の状態が必ずしも乾燥装置内部での状態と一致しない等の問題があった。
【0006】
乾燥の進行をリアルタイムに評価する方法もいくつか考案されている。例えば非特許文献1に示されるように、試料を温風乾燥しその重量変化を天秤で検出する装置が考案されている。あるいは、特許文献1に示すような赤外線加熱を行いながら質量変化を計測する装置もあり、これは赤外線水分計として市販されている。
【非特許文献1】今駒他、化学工学論文集2003年、29巻、4号、579−581頁
【特許文献1】特開平10−267821号公報
【0007】
上記非特許文献1に記載された、温風乾燥を行いながら質量変化を計測するという方法は、工業的に広く行われている温風を加熱手段として用いること、乾燥の進行を質量変化としてリアルタイムに計測できるという利点を持つ。しかしながら、温風を受けている試料の質量変化を精密に計測するのは、温風による試料の振動が障害となり困難である。特に、工業的な生産設備と同等の速い風速条件では極めて困難で、誤差の多いデーターしか得られない。非特許文献1ではこのような装置で質量計測をするのは風速0.6m/sec程度が限界だと述べられている。
【0008】
上記の方法に比べ、特許文献1に示すような赤外線加熱を行いながら質量変化を計測する装置には、風の影響を受けずに乾燥の進行を質量変化として精密に秤量できるという利点がある。しかしながら、特許文献1に示される水分計として市販されている赤外線加熱を行いながら質量変化を計測する装置は試料の温度を測定する機能が備わっておらず、試料とは別に設けた温度センサーの温度を代用的に表示しているだけである。試料の温度変化データーがなければ、赤外線加熱による乾燥による質量変化データーから、工業的により一般的な温風乾燥での乾燥挙動を推定するのは困難である。
【0009】
このような水分計が、試料の温度を測定する機能を備えていないのは、質量測定に影響を与えず、試料温度を測定するのが技術的に困難であったことによる。熱電対や白金温度センサー等の接触式温度検出器を試料に接触させて測定すればこれら検出器への接続ケーブルが精密な質量変化測定を妨げる。また、接触式温度検出器を使用する場合は、表面へのセンサーの密着が不可欠であるが、質量測定と、塗膜の乾燥に影響を与えずに未乾燥の塗膜に対して十分な密着を実現する方法は実質的に存在しない。
【0010】
これに対して、非接触式の温度センサー、例えば赤外線放射温度計で試料の温度を測定する場合は質量測定には支障を及ぼさないが、加熱装置である赤外線源からの赤外光が、反射光、迷光となって放射温度計に入射し温度測定を妨げる為、この方法も困難であった。
【0011】
また、上記赤外線放射温度計の検出器等の非接触式の温度センサーは通常60℃以下に保つ必要がある。そのためには、検出器を高温の試料から離して設置するか、検出器を冷却する必要がある。検出器を試料から離して設置した場合、通常、放射温度計は測定対象物からの距離が長くなるにつれより広い範囲(視野)の温度を測定する。したがって、例えば放射温度計を試料から15cm程度離して設置した場合、直径約5cm程度の範囲を測定することになり、試料と放射温度計の間に位置する風防を上記測定視野以上の範囲で切り欠かなければならない。風防をこのように大きく切り欠いた場合、風防としての機能が損なわれ、質量測定に支障が出るばかりか、試料の温度分布にも影響を与えることになり好ましくない。また、検出器を冷却することにより、検出器を風防内あるいは風防直近に設置した場合は、検出器冷却のためにコストがかかるばかりか、試料近くに冷却物体があることにより、試料が影響を受ける恐れがある。
【0012】
他に、試料からの放射赤外光をミラーや光ファイバー等により導光し、熱の影響を受けない場所に設置した放射温度計に導く方法も考えられるが、ミラー表面には試料からの蒸発水分が結露し、測定を妨げる。また室温〜100℃程度の試料からの放射赤外光は光ファイバー中で大きく減衰するためにこの方式での実用化はむずかしい。これらの理由により、放射温度計による試料温度計測と質量変化を同時に行う装置は考案されてはいるが実用化、市販されてはいない。
【0013】
また、市販の水分計は本来、塊状の固形物の水分を測定するために開発されたものであり、シート状の基材に塗布した塗工液膜の乾燥挙動を測定するための装置ではない。そのため、これら水分計は金属製の試料皿に試料をいれ、加熱しながら質量測定を行うようになっている。シート状の基材に塗工液を塗布した試料を試料皿にセットして赤外線加熱すると塗膜面は急速に加熱されるのに対して、金属製の試料皿に接している基材裏面の温度は相対的に低くなる。これは、両面加熱により基材側も温度上昇することが多い工業的なプロセスでの乾燥と状態が乖離することになり望ましくない。
【0014】
基材側が冷えたままで、実際の工業プロセスと同じような乾燥時間で同程度の乾燥を得ようとした場合には加熱過多となり、表面が焦げる等の障害を生じる。特に市販の水分計は赤外線源として、遠赤外線源であるセラミックヒーターを用いている場合が多い。遠赤外線は吸収効率が高いために試料表面で強く吸収されて表面を焦がすことが多い。
【0015】
さらにまた、これら市販の水分計は液状、あるいは塊状の試料を試料皿に置くことしか考慮されておらず、乾燥能力が過大であり、シート状の基材上に形成した塗膜試料では、焦げたりすることが多い。これら市販の装置は特に試料保持具を備えていない。このような装置でシート状の基材上に塗膜を形成させた試料を加熱乾燥させると、試料がカールして乾燥が不均一に進行するばかりか、試料皿以外の部分に接触して質量変化測定を妨げたり、加熱装置に接触して発火する危険があった。
【0016】
すなわち、塗膜の乾燥挙動を精密に測定する小型の手段及び装置は、実質上存在していなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は前記事情を鑑みてなされたものであり、従来技術の有する前記問題点を解決し、シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法及びその測定方法に用いられる測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、シート状の基材上に形成した塗膜の乾燥挙動を考察するための手段として、シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法について検討した結果、以下の塗膜乾燥挙動測定方法及び塗膜乾燥挙動測定装置を発明した。
【0019】
本発明は以下に示す各技術を基礎とするものである。
[1]シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法であって、加熱手段としてピーク波長が1.5〜3.0μmの赤外線加熱装置を用い、質量変化測定手段として電子天秤を用い、塗膜表面温度測定手段として測定波長が8〜14μmである赤外線放射温度計を用いることを特徴とする塗膜乾燥挙動測定方法。
[2]前記[1]記載の塗膜乾燥挙動測定方法に用いられる装置であって、ピーク波長が1.5〜3.0μmの赤外線加熱装置と、電子天秤と、測定波長が8〜14μmである赤外線放射温度計を備えることを特徴とする塗膜乾燥挙動測定装置。
[3]前記赤外線放射温度計の最小測定スポット径が1cm以下であることを特徴とする[2]記載の塗膜乾燥挙動測定装置。
[4]試料を空中に保持する架台を備えることを特徴とする[2]又は[3]記載の塗膜乾燥挙動測定装置。
[5]試料を空中に保持する架台が、試料をピン止め固定することが可能なシリコンゴムまたは発泡シリコンゴムからなるピン受容部材を備えることを特徴とする[2]〜[4]記載の塗膜乾燥挙動測定装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の塗膜乾燥挙動測定方法及び塗膜乾燥挙動測定装置によれば、塗膜を形成させたシート状の試料を空中に保持し、これを乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の塗膜乾燥挙動測定装置の一実施形態を例にとって説明する。
【0022】
図1に本実施形態の塗膜乾燥挙動測定装置10(以下、測定装置10と略す)を示す。この測定装置は、試料1の質量を測定するための風防11a、試料皿11b、質量測定装置11cからなる電子天秤11と、試料を加熱するための近〜中赤外線ヒーター12a、赤外線反射板12b、減光板12c、試料の表面温度を非接触で測定する放射温度計13a、赤外窓13b、試料を空中に浮かした状態で保持するための固定ピン14a、架台14bを具備するものである。
【0023】
試料1は図2に示すように基材シート1a上に塗膜1bを形成したものである。塗膜1bを形成させる方法は特に限定されず、印刷、塗布、含浸、転写等任意の方法を用いることができる。基材シート1a及び塗膜1bを構成する材料は任意に選ぶことができる。基材シート1a及び塗膜1bの厚みはそれぞれ任意に設定することができる。
【0024】
試料1の質量変化を測定する電子天秤11の質量測定装置11cの測定精度は試料の大きさ、塗膜の質量変化量にもよるが10mg以下であることが好ましく、1mg以下であることがより好ましい。精度が悪いと薄い塗膜の質量変化を精度良く測定できない。秤量(測定できる最大の質量)は10g以上であることが望ましく、100g以上であることがより好ましい。秤量が小さいと試料量を少なくしなければならず、誤差が大きくなる。また、試料架台14c等、試料以外で質量測定装置上に載っている部材を必要以上に軽量化しなければならず、強度が不足して試料を適切に保持できなくなる。
【0025】
質量測定装置11cは通常の電子天秤で用いられる質量検出方式を用いたものでよい。加熱の影響により変動を受けにくいものが好適である。試料皿と質量測定部の間に放熱板、断熱材、遮蔽板等を設けて熱の影響を少なくすることが好ましい。また、測定中に随時0点補正と、質量校正を行う機構を備えていてもよい。
【0026】
質量測定部での質量測定結果は、質量測定装置11cにあるいは別に設けた質量表示部に表示される。また、通信によって外部機器、例えばパーソナルコンピューター等に送信するようになっていてもよい。特に質量測定部が一定時間間隔で質量を測定し、出力を時刻とともに出力する機能を持っていると便利である。
【0027】
試料皿は耐熱性があり、加熱によって質量変化が少ないものが好ましい。また試料皿は化学的に安定で、静電気や磁気を帯びにくいものが好適である。例えば、金属、セラミック、ガラス等を用いることができる。特に、軽量であることからアルミ及びその合金、化学的安定性からはステンレスが好適に用いられる。試料皿の大きさは試料より大きいことが望ましい。小さいと試料から塗料が落ちた場合、質量測定装置11cが影響を受ける恐れがある。試料皿11bは、後述の試料架台14cと一体であっても別部品であってもよい。試料皿11bに、後述の試料架台14cと同等の試料を保持する機能を持たせることにより試料架台と兼用とし、独立した試料架台を省略してもよい。
【0028】
風防は周囲からの風により、試料が振動し質量測定値に影響するのを防止するだけでなく、試料や加熱装置、装置構成部材の加熱によって生じた気流を安定化させる役割をもつ。風防は反射材と一体であっても別部品であってもよい。風防には下部に吸気孔、上部に排気孔が設けられていることが望ましい。風防11aには内部の試料状態を観察するための窓が設けられていると便利である。風防11aは一重でも2重以上の構造となっていてもよい。多重構造の場合、内部には金属等の耐熱材料、外部にはプラスチック等の易成型材料を用いることができる。風防は試料をセットする際に開閉できることが必要である。
【0029】
架台14cは試料の裏面を装置構成部材に実質的に接触させることなく実質的に浮かせて保持するために必要である。また、加熱により試料が変形し装置構成部材に接触して質量変化測定を妨げたり、試料が加熱源に接触して焦げたりするのを防止する。架台14cは架台本体と、試料保持部から構成される。架台本体は試料保持部を適切な位置に維持する構造的強度をもつ。架台本体は耐熱性があり、加熱によって質量変化が少ないものが好ましい。また架台本体は化学的に安定で、静電気や磁化を帯びにくいものが好適である。例えば、金属、セラミック、ガラス、耐熱性プラスチック等を用いることができる。特に、軽量であることからアルミまたはその合金が好適に用いられる。架台本体は必要強度を満たす限りにおいて、軽量化されていることがのぞましい。軽量化の観点からはアルミ板をパターン状に打ち抜いて孔を穿ったパンチングプレート等が好適である。架台の大きさは測定試料を展開保持するのに充分な大きさがあり、なおかつ試料皿の大きさより小さいことが必要である。架台は、前述の試料皿と一体であっても別部品であってもよい。架台に、前述の試料皿の機能を兼ね備えさせることにより試料皿と兼用とし、独立した試料皿を省略してもよい。
【0030】
架台14cの試料保持部は、試料裏面を実質的に本装置測定部材に接触することがないように保ちながら試料を懸架保持する機能をもつ。すなわち試料の乾燥進行や、表面温度測定に影響を及ぼさないように必要最小限の接触によって試料を保持する機能をもつということである。
【0031】
試料保持部において、試料を懸架保持する方法は、挟み込み保持、接着保持、粘着保持、ねじ止め保持、ピン止め保持、引っ掛け保持等があげられる。短時間で着脱できる点、試料への接触面積が最小限である点からピン止め保持が好適である。ピン止め保持は試料をピンで刺して固定・保持するものである。したがってピンの先端は鋭利であることがのぞましい。ピンの形状、材質は特に限定されないが、強度や、熱による影響が少ない点から金属製のピンが好適である。ピンの形状としては抜き差しが容易である点から、画鋲状あるいは虫ピン状が好適である。ピンの太さは特に限定されないが、細すぎると強度が不足し、太すぎると試料を刺せないため、直径0.1〜2mmが好適である。ピンの長さはピン先が後述のピン受容部材14bに充分に保持される長さがある必要がある。一般には3〜40mmが好適である。短すぎるとピンが不用意に外れることがあり、長すぎると装置に接触するため不適である。
【0032】
試料を懸架保持する方法としてピン止めを選択した場合、試料保持部はピンとピン受容部材から構成される。ピン受容部材は試料を突き抜けたピン先端部を保持する機能を持っていることが必要である。ピンを保持する方法としては突き刺され保持、挟み込み保持、接着保持、粘着保持、磁力保持等があげられる。構造の簡便さから、ゴム状の弾性体による突き刺され保持が好ましい。
【0033】
ピンを突き刺され保持するゴム状の弾性体としては、各種天然ゴム、合成ゴム等を用いることができる。特に、耐熱性と白色である点からシリコンゴムが好ましい。また、架台を軽量化する点から発泡ゴムが好ましい。したがって白色の発泡シリコンゴムは非常に好適である。
【0034】
ピン受容部材の(ピンを刺す方向の)長さはピンが不用意に抜けることがない程度のピン保持力を保持する突き刺し長さがあればよい。適切な突き刺し長さはピンの素材、ピンの太さ、ピン先形状等によって異なるが、一般には3〜20mm程度である。ピン受容部材の太さ(ピンと直交する方向の長さ)は、ピンを刺しやすいだけの大きさがあればよく特に限定されないが、一般には3〜20mmである。
【0035】
架台の試料保持部の個数は1個以上あればよく特に限定されないが、試料が四角形の場合は試料各頂点を保持できるように4個程度が好ましい。少なすぎると試料のカールを生じたり、試料の熱による変形により保持がはずれ適切な懸架保持ができなくなったりすることがある。多すぎると架台の質量が重くなる。
【0036】
本装置の加熱熱源には赤外線ヒーターを用いる。赤外線ヒーターとしては種々の形状、方式のものが市販されているが、試料の温度測定にもちいる放射温度計の測定波長に重ならないために、放射波長の主成分が0.8〜4μmの所謂近〜中赤外線ヒーターである必要がある。
【0037】
本装置に用いる放射波長の主成分が0.8〜4μmの近〜中赤外線ヒーターとしては、ピーク波長が1.5〜3.0μmである管状の石英ガラス管内にタングステン等の抵抗発熱線と不活性ガスあるいは、不活性ガスと微量のハロゲンガスを封入した、ハロゲンヒーター、ハロゲンランプ、石英ヒーター、クォーツヒータ等と呼ばれる管状赤外線ヒーターが好適である。これらの管状赤外線ヒーターは赤外線電球やキセノンランプ等にくらべ装置を大幅に小型化することができる。また、赤外線電球や、キセノンランプに比べ可視光領域の放射が少ないため試料の色による加熱の違いを生じない利点を持つ。
【0038】
赤外線ヒーターとしてセラミックヒーター等の波長4μm以降〜1mm程度の遠赤外線を主成分として放射するタイプのヒーターは、放射波長が放射温度計の測定波長と重なるので温度測定に支障をきたすため本装置には不適である。またこれらの遠赤外線は非常に吸収効率が高く試料表面近傍が局所的に熱せられる形になり、薄い塗膜試料の場合焦げることがある。
【0039】
本装置に用いる赤外線ヒーターは直管状のものを複数本、あるいはU字曲管状のものを用いると試料中心部上に放射温度計の為の視野を確保できるので好適である。
【0040】
赤外線ヒーターは風防内部に固定保持してもよく、あるいは専用の部材で保持してもよい。赤外線ヒーターの保持部分は赤外線ヒーターからの熱に耐え得る構造と材料であることが必要である。
【0041】
赤外線ヒーターの出力制御即ち、温度調節機構は通常の温調装置を用いることができる。ただし、電圧制御によって温度調節を行うと光源温度の変化により放射される赤外線の波長が一定でなくなってしまうため、デューティ比制御(ON−OFFの時間比率を変える方式)が好適である。デューティ比制御の制御サイクルタイムは0.1〜10秒程度が好適である。長すぎると試料の温度が安定せず、短すぎると制御素子の寿命が短くなる。
【0042】
上記赤外線の出力制御は任意の一定の出力値としても良く、また必要に応じて放射温度計で測定した試料表面温度、あるいは試料表面近傍に設置した参照用温度センサー等の温度によりフィードバック制御等を行ってもよい。
【0043】
赤外線ヒーターからの放射を均一にかつ効率的に試料に入射させるため、反射板を風防内部に設けることが好ましい。反射板の素材は赤外線を効率よく反射するものであれば良く特に限定されないが、赤外線の放射率が低い材料の方が放射温度計による試料温度測定に及ぼす影響が少ない。従って、金属、あるいは金属ミラーが好適に用いられる。反射板は風防と一体、あるいは兼用であっても、別部品であってもよい。また、赤外線ヒーターの管の一部を蒸着膜等によって反射効果をもたせることにより赤外線ヒーターと一体にしてもよい。
【0044】
赤外線ヒーターと試料との距離は1cm〜30cmが好適である。近すぎると試料の加熱が不均一になったり、試料が焦げたり場合がある。遠すぎると加熱の効率が落ちるだけでなく装置が必要以上に大きくなる。
【0045】
必要に応じて赤外線ヒーターと試料の間に減光板を設置し、加熱強度を調整してもよい。減光板としては金属板に一定の間隔で孔の開いたパンチングメタルや、耐熱性のメッシュ(網)、ガラス板等を用いることができる。
【0046】
<放射温度計>
試料表面の温度測定は、非接触の表面温度計で行う必要がある。接触式の温度計では、サンプルの状態や、質量変化測定に影響を与えずに温度測定を行うことは不可能である。非接触式表面温度計は一般に放射温度計として市販されている。放射温度計は、物体はその温度に応じたエネルギーを赤外線として照射するという原理に基づくもので、物体から放射された赤外線を集光し赤外線センサーで測定し、物体の放射率や機器の固有定数で補正した後、被測定物体の温度として表示するものである。種々の測定波長領域の放射温度計が市販されているが、本装置には空気中の水分や炭酸ガスの影響を受けにくく、本装置の赤外線加熱源の波長と重なることがない、波長領域8〜14μmの赤外線を検知する赤外線放射温度計が望ましい。
【0047】
放射温度計によって測定された試料表面温度は、放射温度計の温度表示部に表示させるようにし、それを記録してもよい。あるいは、電圧または電流信号としてデーターロガー等の記録機器で記録しても良い。また、通信により外部機器へと送信し、外部機器たとえばパーソナルコンピューターに記録するようにすると便利である。
【0048】
放射温度計の設置位置は、放射温度計が熱の影響を受けない場所でなければならない。通常、放射温度計の使用可能周囲温度は60℃以下であるので、試料を加熱中であっても、60℃を超えない場所に設置しなければならない。ただし、放射温度計またはその周囲を冷却する場合はこの限りではない。放射温度計は通常、試料中央直上の風防外に設置する。風防には放射温度計の為の視野確保の為の孔を設ける。但し、この孔からの熱風が直接当たることを避けるために、冷風を横から当てて熱風を逸らすのは有効な手段である。また熱風を避けるために試料中央直上を避けて設置し、斜めから試料表面を測定することも可能である。ただし、斜めから測定する場合には装置構成部材が放射温度計の測定視野をさえぎらないように広めに視野を確保する必要がある。また、斜めに設置する場合は、試料以外の物体からの放射光が試料表面で反射して放射温度計に入射し、測定値に影響を及ぼすことが無いようにする必要がある。
【0049】
風防に放射温度計の視野確保のために孔を設けるのではなく、赤外線の透過率の高い材料で窓を作り、この窓上部に放射温度計を設置し温度を測定するようにしてもよい。このような装置構成にすると放射温度計が熱風排気の影響を受けることがなく、また視野確保のために風防に設けた孔による不均一な空気の流れを生じることがなく望ましい。この場合の窓材は放射温度計の測定波長域の赤外線の透過率が高い材料を用いる必要がある。例えば、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、等が好適に用いられる。窓材の厚みは特に限定されないが、強度、赤外線透過率、価格との兼ね合いから1〜5mmが好適に用いられる。
窓材からの放射による温度測定誤差を減らすために、窓材を結露を生じない範囲で冷却することも有効である。
【0050】
放射温度計の測定視野は、放射温度計内の検出器と光学系によって決定される装置固有の値である。通常、測定視野が放射温度計から離れるほど広くなる放射温度計が多いが、本装置には測定視野が距離で大きく変化しない狭視野タイプ、あるいはある特定の距離で最小値を持つスポット型の放射温度計が望ましい。特に視野の最小径が1cm以下の放射温度計を用いると、放射温度計の為の孔や、赤外窓を最小限にすることが出来、放射温度計設置の影響を最小限にすることができる。また、前記赤外透過窓を使用した装置構成の場合、高価な赤外窓材を小さくすることが出来、好ましい。さらにまたこのように視野の狭い放射温度計を用いると、視野上に障害物がないような装置内部部材の配置構成にすることが容易になる。これらの理由により、視野の狭い放射温度計を用いると、放射温度計を試料中央直上に配置することが容易になり、ミラーや光ファイバーを使うより非常に簡潔な装置構成が実現可能になる。また、放射温度計を試料斜め上に配置した場合より、表面の反射(他の物体からの放射光の映り込み)の影響を最小限にすることが可能になる。
【実施例】
【0051】
以下にこの発明の実施例を図面に基づいて説明する。第1図はこの発明の実施例を示す模式図である。
【0052】
第2図に示される試料1は基材1aに塗料1bを塗布したものである。この試料1は固定ピン14aにより架台14cに設けられた発泡シリコンゴム製のピン受容部材14bに固定され浮いた状態で保持されている。2本の近〜中赤外線クォーツヒーター12a(定格100V250W)からの赤外線輻射が、開口率50%のアルミパンチングメタル製減光板12cにより減光されて試料1を加熱する。試料1からの放射赤外光は厚さ2mm直径2cmのフッ化バリウム窓13bを透過して、試料直上15cmに設置した放射温度計13aに入射し、試料温度として計測される。
【0053】
図3に使用した放射温度計の測定視野を示した。測定視野は試料の位置で直径40mm、フッ化バリウム窓位置で直径8mmである。
【0054】
試料として10cm×10cmの厚さ200μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に濃度10%のポリビニルアルコール溶液をメイヤーバーで塗布量156g/mになるように塗った試料をヒーター出力20%で加熱した場合の温度変化と質量変化のグラフを図4に示した。
【0055】
図4の質量変化のグラフを微分することにより単位時間あたりの水分蒸発量(乾燥速度)を求めることが出来た(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の塗膜乾燥挙動測定方法及び塗膜乾燥挙動測定装置によれば、塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定できるため、塗膜の乾燥過程の解析や乾燥プロセスの最適化検討が行える。本装置は塗膜の乾燥に特化した保持部材を持ち、試料を空中に保持した状態での乾燥が行えるために、工業的な乾燥プロセスに近い状態での乾燥実験が行える。また本装置で乾燥させた試料は、乾燥の履歴が明白な標準塗膜試料として他の実験に有効に供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の塗膜乾燥挙動測定装置の構成図である。
【図2】本発明の試料1の構成図である。
【図3】本発明の放射温度計13aの視野図である。
【図4】試料として10cm×10cmの厚さ200μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に濃度10%のポリビニルアルコール溶液をメイヤーバーで塗布量200g/mになるように塗った試料をヒーター出力20%で加熱した場合の温度と質量(1mあたりに換算した値)の経時変化のグラフ(乾燥曲線)
【図5】図4の質量変化のグラフを微分して水分蒸発速度(1mあたりに換算した値)を求めたグラフ。
【符号の説明】
【0058】
1 試料
1a 基材
1b 塗膜
11 電子天秤
11a 風防
11b 試料皿
11c 質量測定装置
12a 近〜中赤外線クォーツヒーター
12b 反射板
12c 減光板
13a 放射温度計
13b フッ化バリウム製赤外窓
14a 試料固定ピン
14b ピン受容部材
14c 試料架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材上に形成した塗膜を乾燥させる際の質量変化と、塗膜表面の温度変化を同時に測定することが可能な塗膜乾燥挙動測定方法であって、加熱手段としてピーク波長が1.5〜3.0μmの赤外線加熱装置を用い、質量変化測定手段として電子天秤を用い、塗膜表面温度測定手段として測定波長が8〜14μmである赤外線放射温度計を用いることを特徴とする塗膜乾燥挙動測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗膜乾燥挙動測定方法に用いられる装置であって、ピーク波長が1.5〜3.0μmの赤外線加熱装置と、電子天秤と、測定波長が8〜14μmである赤外線放射温度計を備えることを特徴とする塗膜乾燥挙動測定装置。
【請求項3】
前記赤外線放射温度計の最小測定スポット径が1cm以下であることを特徴とする請求項2記載の塗膜乾燥挙動測定装置。
【請求項4】
試料を空中に保持する架台を備えることを特徴とする請求項2又は3記載の塗膜乾燥挙動測定装置。
【請求項5】
試料を空中に保持する架台が、試料をピン止め固定することが可能なシリコンゴムまたは発泡シリコンゴムからなるピン受容部材を備えることを特徴とする請求項2〜4記載の塗膜乾燥挙動測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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