説明

塗膜形成方法

【課題】 凹凸のある被塗物に対しても均一な塗膜を形成できる方法によって、導電性と仕上り性と防食性及び耐酸性に優れた塗装物品を提供すること。
【解決手段】
金属基材を、下記特徴のカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬し電着塗装によって得られた塗膜を水洗及び加熱硬化する工程、次いでアルコール系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液を満たした浴に浸漬する工程、再びカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬して電着塗装を行って得られた塗膜を加熱硬化してなることを特徴とする塗膜形成方法。
カチオン電着塗料(I):ケッチェンブラックを含有する導電性粉末(a1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を用いて分散させてなる導電性顔料分散ペースト(A)、基体樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)を含む電着塗料

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、密着性、防食性、均一被覆性及び耐酸性が良好な塗膜を形成できる塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油燃料を燃焼させる際に発生するガスが地球環境に悪影響を与えることが問題となっており、環境面を配慮して二酸化炭素や二酸化窒素などの排気ガスを全く発生せずに、動力・熱などのエネルギーを得る手段として燃料電池が開発されている。
【0003】
燃料電池の中でも、セパレーター、燃料極、固体電解質、及びガス拡散電極から構成される固体電解質型燃料電池は、コンパクトで軽量であるため、多方面での利用が考えられている。
【0004】
固体電解質型燃料電池のセパレーターは、電力を取り出すために導電性材料からなり、電極表面で発生する反応性ガス(酸素、水素など)を効率よく透過させるため
に、通常、表面に凹凸の溝が形成されている(表面に凹凸が形成されたセパレーター
はリブ付セパレーターと呼ばれている)。
【0005】
このような機能及び形状を有するセパレーターとして、従来、黒鉛が用いられていたが、黒鉛は高価であり且つ切削加工に熟練を要し、物理的強度にも問題がある。そのため、平板状又は表面に凹凸の溝が形成された導電性金属材料の表面に導電性塗料を塗装したものをセパレーターとして使用することが提案されているが、一般に、金属材料表面に導電性塗料をスプレー塗装やロールコーター塗装などの方法で均一に塗布することは困難であり、特にリブ付セパレーターの場合には導電性塗膜を均一に設けることは極めて困難である。
【0006】
特許文献1には、金属系粉末、金属被覆粉末、炭素系粉末などの導電性粉末を含
有する電着塗料を用いて固体電解質型燃料電池の金属セパレーターを電着塗装するこ
とが開示されている。しかし、特許文献1に記載の電着塗料は、形成塗膜の導電性や
防食性が不十分で、しかも長期間塗装ラインで使用した場合に塗料安定性に問題が
あった。
【0007】
特許文献2には、ケッチェンブラックと、ファーネスブラック、黒鉛及び導電性ウィスカーから選らばれる少なくとも1種類の導電性粉末とからなる導電性フィラーを顔料分散用樹脂で分散させてなる分散ペーストを用いて調製したカチオン電着塗料が開示されている。しかし、特許文献2に記載のカチオン電着塗料から得られる塗膜は、導電性、密着性、防食性、均一被覆性(耐ヘコミ性)及び耐酸性のいずれかが不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−31166号公報
【特許文献2】特開2006−206869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、燃料電池におけるリブ付セパレーターに対しても均一で、かつ導電性、密着性、防食性、均一被覆性(耐ヘコミ性)及び耐酸性に優れた塗膜を有する塗装物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の塗膜形成方法によって、燃料電池におけるリブ付セパレーターに用いる場合にも均一で、かつ導電性、密着性、防食性、均一被覆性及び耐酸性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗膜形成方法を用いて形成される塗膜は、抵抗値が1Ωcm以下の電着塗膜を容易に形成でき、かつ密着性、防食性、均一被覆性(ピンホールやヘコミの発生がない塗膜を形成できる)及び耐酸性に優れる。燃料電池のリブ付セパレーターに対してもつきまわり性が良好である為、均一な導電性塗膜を形成できる。
また、カチオン電着塗料(I)は、塗料安定性に優れており、長期間にわたり塗装ラインで使用しても濾過残渣が増加せず、塗膜の仕上り性も低下することがなく、特に、固体電解質型燃料電池の金属セパレーターの塗装用として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、金属基材を、特定のカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬し電着塗装によって得られた塗膜を水洗及び加熱硬化する工程、次いでアルコール系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液を満たした浴に浸漬する工程、再びカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬して電着塗装を行って得られた塗膜を加熱硬化してなることを特徴とする塗膜形成方法、である。以下、工程順に説明する。
【0013】
工程(1):
金属基材を、特定のカチオン電着塗料(I)に浸漬し電着塗装によって得られた塗膜に、水洗及び加熱硬化を施す工程である。
【0014】
金属基材としては、電着塗装が可能な材料であれば特に制限はなく、例えば、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、アルマイトなどの金属類;これらの金属の合金;該金属をメッキしたシート;該金属が積層されたシートなどが挙げられ、これらは、必要に応じて、耐食性及び付着性を向上させるために、表面処理を施すことができ、例えば、ステンレスには、クロム系表面処理を施すことができる。具体的な被塗物には、自動車ボディ、自動車部品、各種工業用製品、例えば、固体電解質燃料電池などが挙げられる。
【0015】
カチオン電着塗料(I)は、ケッチェンブラックを含有する導電性粉末(a1)を、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を用いて分散させてなる導電性顔料分散ペースト(A)、基体樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物を含むカチオン電着塗料である。導電性粉末(a1)は、ケッチェンブラックを必須成分として含有し、ファーネスブラック、黒鉛などのその他の導電性粉末を含有するものである。
【0016】
上記ケッチェンブラックは、中空シェル状の構造を有するカーボンブラックであり、他のカーボンブラックより少ない量で樹脂に導電性を付与することができるという特性を有する。
【0017】
ケッチェンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JD、カーボンECP、カーボンECP600JD(以上、ライオン株式会社製、商品名)などの市販品を使用することができる。
本発明において使用するケッチェンブラックは、250〜600ml/100g、特に350〜500ml/100gの範囲内のDBP吸油量を有することが好ましい。
【0018】
本発明において、「DBP吸油量」は下記の方法によって測定される値である。
【0019】
乾燥試料1.0gを精確に秤かり取り、これを300mm×300mm以上の大きさの平滑なガラス板又は石板上に移し、もし粒状であれば、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要とされる予測量のDBP(ジブチルフタル酸)の約1/2量をガラス板又は石板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で丁寧に練る。
【0020】
へらに付着した試料は、他のへらで取り除き、さらに必要とされる予測量のDBPの約1/3〜1/4量を加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。終点に近くなったら1滴ずつ加えて、更に終点近くなったら1/2滴ずつ加え、全体が一つの締まった塊状となった点を終点とする。この操作は、10〜15分で終わるようにし、操作終了後3分経過してからビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量:OA(ml/100g)を算出する。
【0021】
OA=(V/W)×100
[式中、Vは終点までに用いた油の使用量(ml)であり、Wは乾燥試料の重さ(g)である]
ケッチェンブラック以外の導電性粉末(a1)のDBP吸油量は、30〜250ml/100g、特に50〜200ml/100gの範囲内が好ましい。粒状、板状、短繊維状などの任意の形状である。
【0022】
具体的には、バルカンXC−72、バルカンXC−605(以上、キャボット社製、商品名、ファーネスブラック)、ラーベン1255(コロンビアカーボン株式会社製、商品名、ファーネスブラック);RPシリーズ及びAGBシリーズ(以上、伊藤黒鉛株式会社、商品名、黒鉛)、黒鉛粉SP−10、SP−20、HAG−15、HAG−150、HAG−300(以上、日本黒鉛(株)製、商品名、黒鉛)、人造黒鉛POG−2、POG−10、POG−20(以上、住友化学(株)製、商品名、黒鉛)、UFG−5、UFG−10、UFG−30(以上、昭和電工株式会社製、商品名、黒鉛)などの市販品を使用することができる。
【0023】
これらの導電性粉末(a1)は、それぞれ単独で又は2種類以上組合せて用いることができる。特に、ケッチェンブラックとケッチェンブラック以外の導電性粉末(a1)と併用することにより、電着塗膜中に形成される導電経路がより緻密なものとなる。ここで、本来少ない添加量で樹脂に導電性を付与することができるという特性をもつケッチェンブラックと併用することによって、カチオン電着塗料(I)中の導電性粉末(a1)の含有量が比較的少なくても塗膜の導電性を十分に確保することができる。このことから均一被覆性や防食性及び耐酸性の向上に寄与する。
【0024】
さらに、導電性粉末(a1)/ケッチェンブラックの質量比が2〜25、好ましくは5〜20の範囲内にあることが、均一被覆性と塗膜の導電性の面からも好ましい。
【0025】
導電性顔料分散ペースト(A)の調製について
以上に述べた導電性粉末(a1)は、カチオン電着塗料(I)中に配合するに先立ち、予め、顔料分散用樹脂を用いて分散させることによって、導電性顔料分散ペースト(A)が調製される。
【0026】
本発明では、この導電性顔料分散ペースト(A)の調製に際して、顔料分散用樹脂として、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などのオニウム塩基を有するオニウム塩型の顔料分散用樹脂、好ましくはアンモニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を使用する。
【0027】
かかるオニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を使用することによって、他の顔料分散用樹脂、例えば、酸中和型の顔料分散用樹脂を用いた場合に比べて、塗膜の導電性をさらに一層高めることができ、さらに形成塗膜の均一被覆性や塗料安定性が向上したカチオン電着塗料(I)が得られる。
【0028】
オニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を構成する樹脂種としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられるが、中でもエポキシ樹脂が好適である。そのようなオニウム塩型のエポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂に、3級アミノ基を含有する化合物及びカルボン酸を反応させてなるアンモニウム塩型のエポキシ樹脂が好適である。
【0029】
さらに、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)には、塗膜の導電性に加え、防食の向上を目的として、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)に他の顔料分散用樹脂を併用することができる。
【0030】
併用する場合の割合は、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)/他の顔料分散用樹脂=99/1(質量比)〜50/50(質量比)、好ましくはオニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)/他の顔料分散用樹脂=90/10(質量比)〜60/40(質量比)の範囲が、導電性を確保した上で防食性を得る為にも好ましい。
【0031】
なお導電性粉末(a)の配合量は、顔料分散用樹脂の固形分100質量部あたり、合計で250〜900質量部、特に320〜750質量部の範囲内で配合することがよい。
【0032】
なお顔料分散ペーストは、例えば、導電性粉末(a1)を、通常の顔料分散ペーストの調製法に従い、上記の如きオニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)の分散液に添加・混合し、ボールミル、ペブルミル、サンドミル等の分散機中で分散処理することによって調製することができる。
【0033】
さらに、顔料分散ペーストには、必要に応じて、酸化チタン、ベンガラなどの着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、タルク、炭酸カルシウム、シリカなどの体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム等の防錆顔料、キシレン樹脂等の石油樹脂;及びジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド等の有機錫化合物;他の導電性粉末;界面活性剤などを分散時に加えることもできる。
【0034】
[カチオン電着塗料(I)の調製について]
カチオン電着塗料(I)は、通常のカチオン電着塗料の調製法と同様にして、例えば、基体樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物を含んでなる電着塗料用エマルションに、前述の如くして調製される導電性顔料分散ペースト(A)を添加し、均一に混合することにより調製することができる。
【0035】
その際の導電性顔料分散ペースト(A)の配合割合は、基体樹脂とポリイソシアネート化合物の固形分合計100質量部あたり、導電性粉末(a1)が30〜120質量部、好ましくは35〜110質量部、さらに好ましくは40〜100質量部の範囲内であることが、塗膜の導電性を確保する面からも好ましい。
また、導電性顔料分散ペースト(A)の調製に用いられる顔料分散用樹脂の配合割合は、基体樹脂とポリイソシアネート化合物の固形分合計100質量部あたり3〜40質量部、特に5〜25質量部、さらに特に8〜20質量部の範囲内であることが望ましい。
【0036】
基体樹脂(B)
カチオン電着塗料(I)に用いる基体樹脂(B)としては、例えば、分子中にアミノ基、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などの水性媒体中でカチオン化可能な基を有する樹脂が挙げられる。該基体樹脂の樹脂種としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリブタジエン樹脂系、アルキド樹脂系、ポリエステル樹脂系などが挙げられる。これらの組合せにおいて防食性の為にもアミノ基含有エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
アミノ基含有エポキシ樹脂の製造は、通常、適当な有機溶剤中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。上記の有機溶剤中としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0038】
このようにして得られたアミノ基含有エポキシ樹脂のアミン価としては、30〜100mgKOH/g樹脂固形分の範囲、さらには40〜90mgKOH/g樹脂固形分が好ましい。
【0039】
本発明の塗膜形成方法には、いっそうの導電性、密着性及び均一被覆性(耐ヘコミ性)が良好な塗膜を得る為に、特に、基体樹脂として、アルキレンオキシド基を含む変性エポキシ樹脂(B1)とアミノ基含有化合物(B2)を反応させてなるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B12)を用いることが好ましい。
【0040】
上記アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B12)の製造には、出発材料として、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)、エポキシ当量170〜500のポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)及びビスフェノール化合物(b3)とを反応させて得られる変性エポキシ樹脂(B1)を用いる。
【0041】
ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1):
なお、上記ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)には、一般式(1)で表される「化合物(b11)」や「化合物(b12)」を用いることができる。
【0042】
「化合物(b11)」
【0043】
【化1】

【0044】
式(1)
(式(1)中、繰り返し単位中のRは、同一又は相異なってもよい水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数であるm及びnはm+n=1〜20、となる整数を表す)。
【0045】
化合物(b11)の製造は、ビスフェノールAに、下記式(4)で示されるアルキレンオキシドを付加させてヒドロキシル末端のポリエーテル化合物を得た後、
【0046】
【化2】

【0047】
(式(4)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す)
該ポリエーテル化合物とエピハロヒドリンと反応させてジエポキシ化することにより製造することができる。
【0048】
ここで上記式(4)のアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドが挙げられる。この中でも、エチレンオキシド(式(4)のRが水素原子である化合物)、プロピレンオキシド(式(4)のRがメチルである化合物)が好適である。
「化合物(b12)」
また、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)には、一般式(2)で表される化合物(b12)を用いることもできる。
【0049】
【化3】

【0050】
式(2)
(式(2)中、繰り返し単位中のRは、同一又は相異なってもよい水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9、Yは1〜50、となる整数を表す)
なお化合物(b12)の製造は、アルキレングリコールを開始剤として、前記式(4)のアルキレンオキシドを開環重合させることにより得られるヒドロキシル末端のポリアルキレンオキシドを得た後、次いで、該ポリアルキレンオキシドにエピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化する方法(1)が挙げられる。
又は、下記式(5)
【0051】
【化4】

【0052】
(式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、Xは1〜9の整数を表す)、で示されるアルキレングリコール又は該アルキレングリコール分子2個以上を脱水縮合させることにより得られるポリエーテルジオールに、エピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化する方法(2)が挙げられる。
【0053】
ここで使用される上記式(5)のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の炭素数2〜10のアルキレングリコールが挙げられる。
上記式(1)又は式(2)で表されポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)としては、デナコールEX−850、EX−821、EX−830、EX−841、EX−861、EX−941、EX−920、EX−931(ナガセケムテックス株式会社)、グリシエールPP−300P、BPP−350(三洋化成工業株式会社)などが挙げられる。また、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)として、「化合物(b11)」と「化合物(b12)」を混合して用いることもできる。
【0054】
ポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2):
前記変性エポキシ樹脂(B1)の製造に用いるポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であり、その分子量は340〜1,500、さらに好ましくは340〜1,000の「数平均分子量」、及び170〜500、さらに好ましくは170〜400の範囲内の「エポキシ当量」を有するものが適しており、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。
【0055】
ここで「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、分離カラムとして「TSK GEL4000HXL」、「TSK G3000HXL」、「TSK G2500HXL」、「TSK G2000HXL」(東ソー株式会社製)の4本を用いて、溶離液としてGPC用テトラヒドロフランを用いて40℃及び流速1.0ml/分において、RI屈折計で得られたクロマトグラムと標準ポリスチレンの検量線から求めた。
【0056】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0057】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(6)
【0058】
【化5】

【0059】
式(6)中、n=0〜2で示されるものが好適である。
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1001なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0060】
ビスフェノール化合物(b3):
前記変性エポキシ樹脂(B1)の製造に用いるビスフェノール化合物(b3)には、下記一般式(7)
【0061】
【化6】

【0062】
式(7)
(式(7)中、R及びRはそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R、R、R、R10、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す)で示される化合物が包含される。具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]が挙げられる。
【0063】
なお変性エポキシ樹脂(B1)の製造は、通常、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)とポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)とビスフェノール化合物(b3)を混合し、適宜、反応触媒として、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミンのような3級アミン、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような4級アンモニウム塩などの存在下、反応温度としては約80〜約200℃、好ましくは約90〜約180℃、反応時間として1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。
【0064】
また上記反応において、反応触媒として2級アミンを少量用いることもでき、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、メチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらの2級アミンは、ポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)のエポキシ基と反応して3級アミンを生じ、この3級アミンが反応触媒として作用する。なお変性エポキシ樹脂(B1)の製造方法としては、以下の1〜3の方法が挙げられる。
【0065】
方法1:ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)とポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)とビスフェノール化合物(b3)をすべて混合し反応させて変性エポキシ樹脂(B1)を得る方法;方法2:ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)とビスフェノール化合物(b3)を反応させて反応物を得た後、次に該反応物にポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)を混合し、反応させて変性エポキシ樹脂(B1)を得る方法;方法3:ポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)とビスフェノール化合物(b3)を反応させて反応物を得た後、次に該反応物にポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)を混合し、反応させて変性エポキシ樹脂(B1)を得る方法;等が挙げられる。なお反応状態は、エポキシ価によって追跡することができる。
【0066】
なお変性エポキシ樹脂(B1)の製造における各成分の配合割合としては、該変性エポキシ樹脂(B1)の構成成分であるポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)とポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)及びビスフェノール化合物(b3)の固形分合計質量を基準にして、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)が1〜35質量%、好ましくは2〜30質量%、ポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)が10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、ビスフェノール化合物(b3)が10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%であることが、均一被覆性と防食性の向上の為にも好ましい。
【0067】
上記の製造には適宜、有機溶剤を用いることができる。用いる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物などが挙げられる。かくして得られた変性エポキシ樹脂(B1)は、エポキシ当量500〜3,000、好ましくは600〜2,500のエポキシ当量を有する。
【0068】
アミノ基含有化合物(B2):アミノ基含有エポキシ樹脂(B12)の製造において、前記変性エポキシ樹脂(B1)に反応するアミノ基含有化合物(B2)は、該変性エポキシ樹脂(B1)をカチオン化するためのカチオン性付与成分である。
【0069】
このようなアミノ基含有化合物(B2)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノ−もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジンなどの環状アミンなどが挙げられる。これら上記のアミンのうち、1級アミンをケチミン化したアミンも併せて用いることができる
本発明の塗膜形成方法において使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(B12)は、変性エポキシ樹脂(B1)にアミノ基含有化合物(B2)を付加反応させることにより製造することができる。
【0070】
上記付加反応における各成分の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(B)の製造に使用される変性エポキシ樹脂(B1)とアミノ基含有化合物(B2)の合計固形分質量を基準にして、変性エポキシ樹脂(B1)が70〜95質量%、好ましくは75〜93質量%、アミノ基含有化合物(B2)が5〜30質量%、好ましくは7〜25質量%である。
【0071】
なお上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。
上記反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0072】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)
カチオン電着塗料(I)において、基体樹脂と共に配合されるブロック化ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物である。ここでポリイソシアネート化合物は、従来から知られているものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(通常「MDI」と呼ばれる)、クルードMDI、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイシアネート化合物の環化重合体、イソシアネートビゥレット体;これらのポリイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物などを挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0073】
一方、ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温においては安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約100〜約200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが望ましい。
【0074】
このような要件を満たすブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物等を挙げることができる。
以上に述べた基体樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)は、一般に、両者の合計固形分を基準にして、基体樹脂は50〜95重量%、特に55〜80重量%の範囲内、ブロック化ポリイソシアネート化合物は5〜60重量%、特に15〜50重量%の範囲内で使用することができる。基体樹脂の水酸基とブロック化ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比が、OH/NCOを基準に0.4〜1.5、好ましくは0.5〜1.3、さらに好ましくは0.6〜1.2となる範囲が塗膜性能向上の為に好ましい。
【0075】
有機溶剤(D)
さらに、カチオン電着塗料(I)には、必要に応じて、均一被覆性の向上を目的として、溶解性パラメーター(SP値)が9.0〜11.0の範囲の有機溶剤(D)を配合することが好ましい。具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値10.41)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.33)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(SP値9.63)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値9.78)が挙げられる。この中でも、特に、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが、均一被覆性の面からも好ましい。
【0076】
なお溶解性パラメーターは、下記式(1)においてフェドーズ(Fedors)が提案した25℃における△ei、△Viの値より化合物の基本構造式から計算した値である(参考文献:向井淳二、金城徳幸著、講談社、「技術者のための実学高分子」、1981年10月発行、P71〜77)。SP値(δ)=√(Σ△ei/Σ△Vi)・・式(1)
カチオン電着塗料(I)における有機溶剤(C)の添加量は、基体樹脂とポリイソシアネート化合物の固形分合計100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜6質量部、さらに好ましくは1〜3質量部が、塗料安定性の面から好ましい。
【0077】
また、カチオン電着塗料(I)には、必要に応じて、例えば、ノニオン系界面活性剤、ハジキ防止剤、造膜剤等の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製し、それに水性媒体中で、ぎ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、それらの1種もしくはそれ以上の混合物などから選ばれる中和剤を添加して水分散化することによりエマルションを調製できる。
【0078】
なおカチオン電着塗料(I)は、上記の如くして調製されたエマルションに、前述の導電性顔料分散ペースト(A)を加え、浴固形分濃度が5〜40質量%となるように脱イオン水などで希釈し、さらにpHを5.0〜9.0の範囲内に調整して製造できる。
該カチオン電着塗料(I)による塗膜形成は、該塗料(I)を浴として浴温15〜35℃及び印加電圧30〜300Vの条件下で、金属被塗物を陰極として電着塗装を行い、乾燥膜厚に基づいて1〜40μm、好ましくは5〜30μmの範囲内の塗膜を被覆する。
上記によって得られたカチオン電着塗料(I)の塗膜を有する金属基材は、限外濾過(UF)水洗水、工業用水水洗水、純水水洗水の少なくとも1種の水洗水を用いて、スプレーによる水洗又は浸漬による水洗を施すことができる。なお、水洗水は、要求される塗膜性能に応じて適宜調整でき、例えば、限外濾過(UF)液又は純水水洗を施すこともできる。
【0079】
その後、塗膜を有する金属基材に加熱乾燥を施す。加熱乾燥は、被塗物表面で一般に120〜230℃、好ましくは140〜220℃の範囲内の温度が適しており、加熱時間は5〜60分間、好ましくは10〜40分間乾燥して塗膜を得る。
【0080】
工程(2):
工程(2)は、工程1で得られた金属被塗物に、アルコール系有機溶剤とグリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液に浸漬する工程である。
【0081】
工程(2)の目的は、工程1によって得られた塗膜面とカチオン電着塗料(I)との「濡れ性」を良好として、次工程である工程(3)のカチオン電着塗料(I)の電着塗装時に均一析出性をより一層向上させて、均一被覆性に優れた塗膜を得ることである。
上記のアルコール系有機溶剤の水溶液又はグリコールエーテル系有機溶剤の水溶液の濃度は、水媒体を基準として、0.01質量%〜90.0質量%、好ましくは0.1質量%〜50.0質量%の範囲であること、また、界面活性剤の水溶液の濃度は、水媒体を基準として、0.01質量%〜20.0質量%、好ましくは0.1質量%〜約5.0質量%の範囲であることがよい。
【0082】
上記のアルコール系有機溶剤の水溶液又はグリコールエーテル系有機溶剤の水溶液の濃度、又は界面活性剤の水溶液の濃度が上記範囲であると、工程3において塗膜を有する金属被塗物をカチオン電着塗料(I)に浸漬した際に、塗膜面とカチオン電着塗料(I)との「濡れ性」を良好とし、カチオン電着塗料(I)の電着塗装時に均一析出性をより一層向上させて、被塗面の均一被覆性の向上を図ることができる。
上記、アルコール系有機溶剤は、炭素数1〜4個のアルコールが好適であり、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが挙げられる。
【0083】
グリコールエーテル系溶剤は、具体的には、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールが好ましい。
【0084】
また、界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどのノニオン系界面活性剤;例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン系界面活性剤;例えば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;例えば、両性イオン界面活性剤としてアルキルベダインが挙げられる。 この中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが均一被覆性の面からも好ましい。
【0085】
さらに、アルコール系有機溶剤とグリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液を満たした槽中、或いは上水を満たした槽中において、塗膜を有する金属被塗物に超音波発振器を用いて超音波振動を照射することもできる。塗膜を有する金属基材に超音波振動を照射する時間は、要求される塗膜性能に応じて変動することができ、0〜600秒間、好ましくは1〜180秒間である。
上記のように、塗膜を有する金属被塗物に超音波振動を加えることによって、さらに、塗膜面とカチオン電着塗料(I)との「濡れ性」を良好として、カチオン電着塗料(I)の電着塗装時に均一析出性をより一層向上させて、被塗面の均一被覆性を図ることができる。
【0086】
工程(2)においては、アルコール系有機溶剤の水溶液又はグリコールエーテル系有機溶剤の水溶液の濃度、又は界面活性剤の水溶液(以下、「水溶液(A)」と略することがある)が塗膜に付着した状態で(つまり、塗膜面を乾燥状態にさせることなく)、工程3へ移行することが、均一被覆性向上の為に好ましい。なお乾燥状態は、塗膜面に上記の水溶液(A)が目視によって認められない状態を言う。
【0087】
工程(3):
塗膜面に工程(2)における水溶液が付着した金属被塗物を、再び、カチオン電着塗料(I)に浸漬して電着塗装を施し、得られた塗膜を加熱硬化する工程である。
なおカチオン電着塗料(I)の電着塗装は、該塗料(I)を浴として、浴温15〜35℃及び印加電圧30〜400Vの条件下で電着塗装を行った後、金属被塗物に水洗を施す。上記水洗は、限外濾過(UF)水と工業用水洗と上水水洗及び純水工程からなる少なくとも1種の水洗水によって行う。
【0088】
次いで、被塗物表面で一般に120〜230℃、好ましくは140〜220℃の範囲内の温度で、5分間〜60分間、好ましくは10分間〜30分間加熱乾燥して、乾燥膜厚1〜40μm、好ましくは乾燥膜厚5〜30μmを有する金属基材を得ることができる。
【0089】
塗膜形成方法について
以上に述べた工程(1)〜工程(3)による塗膜形成方法は、金属被塗物に2回の電着塗装を施し、かつ1回目の電着塗膜(例えば、10μmを塗装)及び2回目の電着塗膜(例えば、10μmを塗装)に加熱乾燥を施して所定の乾燥膜厚を得る、2コート2ベーク方法による塗膜形成方法である。
【0090】
上記の2コート2ベーク方法(必要に応じて、多数回コート多数回ベーク方法)が、本発明の課題とする塗膜性能に優れる理由としては、1回目の電着塗装及び加熱乾燥によって得た導電性塗膜上に、第2回目の電着塗装を行うことから、ガス発生は塗膜表面からが多く塗膜内部は皆無となる。このため塗膜中には空隙が残存しにくく、均一被覆性に優れる塗膜を得ることができる。
【0091】
一方、従来からの1回の電着塗装によって所定の乾燥膜厚を得る方法(いわゆる、
「1コート1ベーク方法」で成膜させると、電着塗装時のガス発生が、金属被塗物と塗膜の界面から塗膜表面に至るまで、塗膜全体(例えば、20μm)に亘って広く生じるために塗膜中に空隙が多く残存することとなり、均一被覆性が著しく劣る。
【0092】
このようにして形成される電着塗膜の導電性は、膜厚20μmに塗装された塗膜の表面抵抗値(注1)が1Ωcm以下、特に0.7Ωcm以下、さらに特に0.5Ωcm以下である導電性塗膜を容易に形成することができる。
【0093】
従って、本発明の塗膜形成方法は、固体電解質型燃料電池の金属セパレーターの片面又は両面の塗装に極めて適している。
【0094】
(注1)表面抵抗値:塗膜の「表面抵抗値」は、図2のような装置を用いて測定した。
(1)平滑な表面の無酸素銅板を電極(図2の1)として用い、膜厚20μmに両面塗装されたテストパネル(寸法50mm×50mm)に同寸法のカーボンペーパー(図2の2)を両面から挟み込み、テストパネル(図2の3)を設置して固定する。
無酸素銅電極板の側面にリード線を冷間圧着によって接合し、図2のように定電流電源(ケースレーインスツルメンツ株式会社製、ソースメーター2400、図2の5)および微小電圧計(ケースレーインスツルメンツ株式会社、ナノボルトメーター2182A、図2の4)を接続する(4端子法による抵抗値測定)。
このとき微小電圧計にリード線を互いに撚って接続し、外界からのノイズを最小限にする。テストパネルが固定された電極板の平面部に、プレス機で250kg重の荷重をかけた状態で、0.1A〜1.0Aの一定電流値を印加して試料間の電位差を、微小電圧計によって測定する。これらの数値をもとに、下記式に従って塗膜の表面抵抗値を求めた。
=(E/I)×25
:表面抵抗値[Ωcm]
:電位差[V]
:印加電流値[A]
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」を示す。
【0096】
製造例1 4級アンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂No.1
jER828EL(注2)1,010部に、ビスフェノールA 390部、ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量約1,200)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び酢酸90部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテルを加えて固形分を調整し、4級アンモニウム塩価44mgKOH/g、固形分60%の4級アンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂No.1を得た。
【0097】
(注2)jER828EL:ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名、エポキシ樹脂、エポキシ当量190。
【0098】
製造例2 アクリル樹脂系の顔料分散用樹脂No.2
エチレングリコールモノブチルエーテルを200部を反応容器に入れ、加熱して120℃にした。次に以下に示す割合の混合物(I)と混合物(II)を、反応容器中に別々に約2時間かけて滴下した。反応は窒素注入下で行った。
混合物(I)
ブレンマーPE−350(注3) 113部
N−ビニルピロリドン 126部
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート 15部
メチルメタクリレート 50部
n−ブチルアクリレート 10部
ヒドロキシエチルアクリレート 10部
混合物(II)
アゾビスジメチルバレロニトリル 18部
エチレングリコールモノブチルエーテル 50部
(注3)プレンマーPE−350:日本油脂社製、ポリエチレングリコールとメタクリル酸の反応物
反応温度を120℃に保ち、反応溶液をかきまぜながら、上記の混合物を滴下した。滴下終了後にアゾビスイソブチロニトリル25部を反応溶液に加え、さらに2時間後、アゾビスイソブチロニトリル25部を反応溶液に加え、その後2時間120℃に保ったまま反応を行った。反応終了後未反応の単量体とエチレングリコールモノブチルエーテルを減圧蒸留し、アミン価16.4mgKOH/g、固形分60%のアクリル樹脂系の顔料分散用樹脂No.2を得た。
【0099】
製造例3 顔料分散ペーストNo.1
固形分60%の顔料分散用樹脂No.1を16.7部(固形分10部)、バルカンXC−72(注6)60部及び脱イオン水140.0部をボールミルに配合して20時間分散し、固形分35%の顔料分散ぺーストNo.1を得た。
【0100】
製造例4〜14 顔料分散ペーストNo.2〜No.12の製造
製造例3と同様にして、下記表1に示す配合で顔料分散ペーストNo.2〜No.12を得た。
【0101】
比較製造例1 顔料分散ペーストNo.13
固形分60%の顔料分散用樹脂No.2を16.7部(固形分10部)、ケッチェンブラックEC 4.0部、バルカンXC−72(注6)60.0部及び脱イオン水130.7部をボールミルに配合して20時間分散し、固形分35%の顔料分散ぺーストNo.13を得た。
【0102】
【表1】

【0103】
(注4)ケッチェンブラックEC:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラッ
ク、DBP吸油量368ml/100g。
(注5)ケッチェンブラックEC600JD:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック、DBP吸油量495ml/100g。
(注6)バルカンXC−72:キャボット社製、商品名、ファーネスブラック、DBP吸油量178ml/100g。
(注7)UFG−5:昭和電工社製、商品名、黒鉛、DBP吸油量55ml/100g。
【0104】
製造例15 基体樹脂No.1の製造
攪拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却器を取りつけたフラスコに、jER828EL(注2参照)636部を仕込み、ビスフェノールA 225部及びトリフェニルエチルホスホニュウムアイオダイド0.2部仕込み、エポキシ当量900となるまで反応させた。
次いで、ジエチルアミン30部ジエタノールアミン51部を加え80℃で4時間反応後、エチレングリコールモノブエチルエーテル250部で希釈し、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.1溶液を得た。基体樹脂No.1は、アミン価56mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
【0105】
製造例16 基体樹脂No.2の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−931(注8)228部、jER828EL(注2)460部、ビスフェノールAを224部及びトリフェニルエチルホスホニュウムアイオダイド0.2部を加え、160℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
ついで、ジエチルアミン30部ジエタノールアミン51部を加え80℃で4時間反応後、エチレングリコールモノブエチルエーテル250部で希釈し、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.2溶液を得た。基体樹脂No.2は、アミン価55mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
【0106】
(注8)デナコールEX−931:ナガセケムテックス社製、商品名、エポキシ樹脂(ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1))、エポキシ当量471。
【0107】
製造例17 基体樹脂No.3の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−931(注8)115部、jER828EL(注2)548部、ビスフェノールAを249部及びトリフェニルエチルホスホニュウムアイオダイド0.2部を加え、160℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
ついで、ジエチルアミン30部ジエタノールアミン51部を加え80℃で4時間反応後、エチレングリコールモノブエチルエーテル250部で希釈し、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.2溶液を得た。基体樹脂No.3は、アミン価55mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
【0108】
製造例18 ブロック化ポリイソシアネート硬化剤の製造
反応容器中にイソホロンジイソシアネート222部及びメチルエチルケトンオキシム174部を加え70℃に昇温した。経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアネート基の吸収がなくなったことを確認し、エチレングリコールモノブチルエーテル44部を加えて、樹脂固形分90%のブロック化ポリイソシアネート硬化剤を得た。
【0109】
製造例19 カチオン電着塗料用のエマルションNo.1の製造
製造例15で得た樹脂固形分80%の基体樹脂No.1を87.5部(固形分70部)、製造例18で得た樹脂固形分90%のブロック化ポリイソシアネート硬化剤33.3部(固形分30部)、及び10%ぎ酸15部を混合し均一に撹拌した後、
脱イオン水158.2部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着塗料用のエマルションNo.1を得た。
【0110】
製造例20 カチオン電着塗料用のエマルションNo.2の製造
製造例16で得た樹脂固形分80%の基体樹脂No.2を87.5部(固形分70部)、製造例18で得た樹脂固形分90%のブロック化ポリイソシアネート硬化剤33.3部(固形分30部)、及び10%ぎ酸15部を混合し均一に撹拌した後、
エチレングリコールモノヘキシルエーテル3部、脱イオン水155.2部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着塗料用のエマルションNo.2を得た。
【0111】
製造例21 カチオン電着塗料用のエマルションNo.3の製造
製造例17で得た樹脂固形分80%の基体樹脂No.3を87.5部(固形分70部)、製造例18で得た樹脂固形分90%のブロック化ポリイソシアネート硬化剤33.3部(固形分30部)、及び10%ぎ酸15部を混合し均一に撹拌した後、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル3部、脱イオン水155.2部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着塗料用のエマルションNo.3を得た。
【0112】
製造例22 カチオン電着塗料用のエマルションNo.4の製造
製造例15で得た樹脂固形分80%の基体樹脂No.1を87.5部(固形分70部)、製造例18で得た樹脂固形分90%のブロック化ポリイソシアネート硬化剤33.3部(固形分30部)、及び10%ぎ酸15部を混合し均一に撹拌した後、
プロピレングリコールモノフェニルエーテル(注7)3部、脱イオン水155.2部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着塗料用のエマルションNo.4を得た。
(注7)プロピレングリコールモノフェニルエーテル:溶解性パラメーター11.8
カチオン電着塗料(I)の製造
製造例23 カチオン電着塗料No.1の製造例
製造例20で得たエマルションNo.1を294部(固形分100部)に、製造例3で得た顔料分散ペーストNo.1を200部(固形分70部)及び脱イオン水356部を加えて、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を得た。
【0113】
製造例24〜38 カチオン電着塗料No.2〜No.16の製造例
製造例23と同様にして、下記表2に示す配合で、カチオン電着塗料No.2〜No.16を得た。
【0114】
【表2】

【0115】
製造例39 処理液No.1の製造
脱イオン水600部に、イソプロピルアルコール400部を加えて、処理液No.1を得た。
【0116】
製造例40 処理液No.2の製造
脱イオン水600部に、エチレングリコールモノブチルエーテル400部を加えて、処理液No.2を得た。
【0117】
製造例41 処理液No.3の製造
脱イオン水990部に、EA−152(第一工業製薬社製、ポリオキシジエチレンオクチルフェニルエーテル、ノニオン系界面活性剤)10部を加えて、処理液No.3を得た。
【0118】
実施例1
以下の「工程1〜工程3」によって、試験板No.1を得た。
工程1:製造例23で得たカチオン電着塗料No.1の3リットル浴中に、ステンレス鋼板(SUS304、0.8mm(厚さ)、150mm(縦)、70mm(横))を浸漬し、該ステンレス鋼板をカソードとして、乾燥膜厚10μmとなるように電着塗装を行った。
次いで、塗膜を有するステンレス鋼板を純水によってスプレー洗浄した。塗膜を有するステンレス鋼板を190℃の乾燥機に30分間入れて、加熱乾燥を行った。
工程2:28℃に調整した製造例38で得た処理液No.1に120秒間浸漬した。
工程3:工程2による処理液No.1が塗膜面に付着した該ステンレス鋼板を、再び、カチオン電着塗料No.1の3リットル浴中に浸漬し、トータル乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行った。被塗物を引き上げて、純水によって30秒間スプレー水洗した。その後、190℃で30分間加熱乾燥して試験板No.1を作成した。
【0119】
実施例2〜24
カチオン電着塗料及び工程を表3〜表5の内容とする以外は、実施例1と同様にして、試験板No.2〜No.24を得た。
【0120】
【表3】

【0121】
【表4】

【0122】
【表5】

【0123】
比較例1〜10
カチオン電着塗料種及び工程を表6の内容とする以外は、実施例1と同様にして試験板No.25〜試験板No.34を得た。
【0124】
比較例11
以下の「工程1〜工程3」によって、試験板No.35を得た。
工程1:製造例23で得たカチオン電着塗料No.1の3リットル浴中に、ステンレス鋼板(SUS304、0.8mm(厚さ)、150mm(縦)、70mm(横))を浸漬し、該ステンレス鋼板をカソードとして、乾燥膜厚10μmとなるように電着塗装を行った。
次いで、塗膜を有するステンレス鋼板を、純水をスプレーすることによって洗浄した。塗膜を有するステンレス鋼板を190℃の乾燥機に30分間入れて、加熱乾燥を行った。
工程2:28℃に調整した製造例39で得た処理液No.1に120秒間浸漬した。その後、常温にて自然乾燥を施して塗膜面が乾燥した状態とした。
工程3:該ステンレス鋼板を、再び、カチオン電着塗料No.1の3リットル浴中に浸漬し、乾燥膜厚20μmとなるように電着塗装を行った。被塗物を引き上げて、純水によって30秒間スプレー水洗した。その後、190℃で30分間焼付けして試験板No.35を作成した。
【0125】
各試験板を用いて、試験方法に従って試験に供した。性能結果を表3〜表6に併せて示す。
【0126】
【表6】

【0127】
(注10)表面抵抗値:(注1)に記載の条件に従って測定した。
【0128】
(注11)均一被覆性:試験板No.1〜No.34の塗膜表面を、電子顕微鏡(50倍)にて観察した。
◎:塗膜表面にヘコミやワレなどの発生がなく良好
○:塗膜表面にわずかなヘコミが見られるが、製品としては問題なし
△:塗膜表面にヘコミやワレ及び肌荒れの少なくともいずれかがみられる
×:塗膜表面にヘコミやワレ及び肌荒れの少なくともいずれかが著しい。
【0129】
(注12)防食性:試験塗板に、素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、JISZ−2371に準じて840時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2mm未満(片側)
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2mm以上でかつ3mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上でかつ4mm未満(片側)
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4mm(片側)を越える。
【0130】
(注13)耐酸性:80℃1モルの硫酸溶液に試験板を浸漬する。浸漬試験5時間後に取り出し直ちに上水で洗浄し室内に放置する。放置10分後に塗膜の付着性試験を行う。付着性は粘着テープを塗面に貼り付け密着させた後急速に剥がし残存する塗膜の面積により評価を行う。
を目視で評価した。
◎:異常なし、剥離面積0%
○:剥離面積1〜10%
△:剥離面積11〜50%
×:剥離面積51〜100%
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のカチオン電着塗料は、導電性と防食性及び耐酸性を必要とし、かつ凹凸を有する工業用部品の塗装に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】固体電解質型燃料電池のモデル図である。
【図2】表面抵抗値の測定装置のモデル図である。
【符号の説明】
【0133】
1.無酸素銅電極板
2.カーボンペーパー(カーボン不織布、厚さ270μm)
3.塗装テストパネル(基材SUS304、塗装膜厚20μm、両面塗装)
4.微小電圧計
5.定電流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材を、下記特徴のカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬し電着塗装によって得られた塗膜を水洗及び加熱硬化する工程、次いでアルコール系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液を満たした浴に浸漬する工程、再びカチオン電着塗料(I)を満たした浴に浸漬して電着塗装を行って得られた塗膜を加熱硬化してなることを特徴とする塗膜形成方法。
カチオン電着塗料(I):ケッチェンブラックを含有する導電性粉末(a1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(a2)を用いて分散させてなる導電性顔料分散ペースト(A)、基体樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)を含む電着塗料
【請求項2】
カチオン電着塗料(I)が、基体樹脂(B)として、アルキレンオキシド基を含む変性エポキシ樹脂(B1)とアミノ基含有化合物(B2)を反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(B12)を含有する請求項1に記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
アルキレンオキシド基を含む変性エポキシ樹脂(B1)が、一般式(1)又は一般式(2)で表されるポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1)と、エポキシ当量170〜500のポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物(b2)及びビスフェノール化合物(b3)とを反応させて得られる変性エポキシ樹脂である請求項2に記載の塗膜形成方法。
【化1】

式(1)
(式(1)、繰り返し単位中のRは、同一又は相異なってもよい水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数である、m及びnはm+n=1〜20となる整数を表す)
【化2】

式(2)
(式(2)中、繰り返し単位中のRは、同一又は相異なってもよい水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9、Yは1〜50となる整数を表す)
【請求項4】
基体樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物の固形分合計100質量部に対して、溶解性パラメーター(SP値)が9〜11の範囲の有機溶剤(D)を0.1〜10質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
導電性顔料分散ペースト(A)において、導電性粉末(a1)/ケッチェンブラック=2〜25(質量比)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗膜形成方法によって得られた塗装膜厚20μmにおける塗膜の表面抵抗値が1Ωcm以下である塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の塗膜で被覆してなる金属セパレーター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221564(P2009−221564A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68844(P2008−68844)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】