説明

塗膜形成装置

塗装に要するスペースの省スペース化を実現することができる塗膜形成装置を提供する。
被塗装物(50)を移動する被塗装物移動装置(41)と、塗料を噴霧する噴霧ガン(30)を移動する噴霧ガン移動装置と、被塗装物移動装置(41)、噴霧ガン(30)および噴霧ガン移動装置の作動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、噴霧ガン(30)から塗料を噴霧させた状態で、被塗装物(50)を往復運動させながら部分的な重ね塗りが順次行われるように一定方向に移動させる塗膜形成装置であって、前記制御装置は、被塗装物(50)の塗装中において、被塗装物(50)と噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で被塗装物(50)および噴霧ガン(30)をシフト移動させる塗膜形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、均一な膜厚の塗装を被塗装物に行うには、噴霧ガンから噴霧された塗料の噴霧パターンを重ね塗りする方法が用いられている。重ね塗り塗装は、例えば、空調装置、噴霧ガンなどを備えた塗膜形成装置により、図7に示すようにして行われる。すなわち、塗装ブース151内の中央部に固定された噴霧ガンから塗料を噴霧して噴霧パターン153を形成すると共に、当該噴霧ガンの下方に配置された被塗装物152を図示しない被塗装物移動装置により図の上下方向に所定の速度で往復運動させながら、所定ピッチにて矢示S方向(図の左から右の方向)に横移動させることにより行われている。
【0003】
また、図8に示すように、塗装ブース151内の中央部に固定された被塗装物152に対して、その上方に配置された図示しない噴霧ガンから塗料を噴霧して噴霧パターン153を形成すると共に、当該噴霧ガンを図の上下方向に所定の速度で往復運動させながら、所定ピッチにて矢示S方向(図の左から右の方向)に移動させることによっても行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、噴霧ガンを固定した状態で被塗装物を移動させて重ね塗り塗装を行う場合には、被塗装物が噴霧パターンに対して離れた位置から塗装を開始し、被塗装物が噴霧パターン内を完全に通過するまで塗装を継続する必要がある。つまり、塗装に要するスペースとして、(被塗装物の縦幅×2+噴霧パターン幅)×(被塗装物の横幅×2+噴霧パターン幅)という大きなスペースが必要であった。
【0005】
また、被塗装物を固定した状態で噴霧ガンを移動させて重ね塗り塗装を行う場合には、噴霧パターンが被塗装物に対して離れた位置から塗装を開始し、噴霧パターンが被塗装物を完全に通過するまで塗装を継続する必要がある。つまり、塗装に要するスペースとして、(被塗装物の縦幅+噴霧パターン幅×2)×(被塗装物の横幅+噴霧パターン幅×2)という大きなスペースが必要であった。さらに、このような方法で塗装を行う場合、噴霧パターンが塗装ブースの内壁を汚さないようにするために、塗装ブース内壁と噴霧パターンとの間に余剰スペースを設ける必要があり、より一層大きなスペースが必要であった。
【0006】
このように塗装に要するスペースが大きいと、塗膜形成装置の設置場所に制約を受けると共に、塗装ブース内を空調するためのエネルギーが多大になるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたものであって、塗装に要するスペースの省スペース化を実現することができる塗膜形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、被塗装物を移動する被塗装物移動装置と、塗料を噴霧する噴霧ガンを移動する噴霧ガン移動装置と、前記被塗装物移動装置、噴霧ガンおよび噴霧ガン移動装置の作動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記噴霧ガンから塗料を噴霧させた状態で、前記被塗装物を往復運動させながら部分的な重ね塗りが順次行われるように一定方向に移動させる塗膜形成装置であって、前記制御装置は、前記被塗装物の塗装中において、前記被塗装物と前記噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で前記被塗装物および前記噴霧ガンをシフト移動させる塗膜形成装置により達成される。
【0009】
この塗膜形成装置において、前記被塗装物および前記噴霧ガンのシフト移動方向は、部分的な重ね塗りを順次行うための前記被塗装物の移動方向と反対の方向であることが好ましい。
【0010】
また、前記被塗装物および前記噴霧ガンのシフト移動は、前記噴霧ガンの噴霧中心が、前記移動方向における前記被塗装物の長さの略半分の位置にあるときに行われることが好ましい。
【0011】
また、前記制御装置は、前記被塗装物の往復運動に対して、その往復方向と逆方向に前記噴霧ガンを同期往復運動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗装に要するスペースの省スペース化を実現することができる塗膜形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の塗膜形成装置について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る塗膜形成装置の断面概略構成図であり、図2はそのX−X断面図である。
【0014】
図1に示すように、塗膜形成装置1は、空調装置10、配管15、塗装装置本体20、格納部40及び図示しない制御装置を備えている。空調装置10は、温度及び湿度を調整した空気を塗装装置本体20に供給する装置であり、その上部と塗装装置本体20の上部とが、配管15を介して連通している。
【0015】
塗装装置本体20は、上部から給気チャンバー21、塗装ブース22及び排気チャンバー23に区分けされており、給気チャンバー21と塗装ブース22とは給気フィルター24により隔てられており、塗装ブース22と排気チャンバー23とはダスト捕集用フィルター25により隔てられている。
【0016】
給気チャンバー21は、当該給気チャンバー21の温度及び湿度を計測する図示しない温度検知手段及び湿度検知手段を備えている。温度検知手段としては、例えば、サーミスタや熱電対等の温度センサを用いることができる。また、湿度検知手段としては、例えば、高分子膜湿度センサ、セラミック湿度センサ、電解質湿度センサ等の湿度センサを用いることができる。
【0017】
塗装ブース22は、塗料を噴霧する噴霧ガン30を備えている。この噴霧ガン30には、図示しない噴霧ガン移動装置、塗料供給装置、エア制御盤、高電圧発生器、ケーブル等が接続されている。また、噴霧ガン30は、被塗装物50との距離を変更することができるように構成されている。
【0018】
噴霧ガン30としては、回転ベル型霧化塗装機やエア霧化型塗装機等を例示することができる。回転ベル型霧化塗装機は、ガン先端部に高速回転するベルカップを有し、当該ベルカップの回転による遠心力によりベルカップに吐出された塗料を霧化するタイプの塗装機である。また、回転ベル型霧化塗装機は、ベルカップの外周エッジから半径方向外側に飛散する塗料の霧化粒子の飛散方向を調節して塗料の噴霧パターンのパターン幅を制御するシェーピングエアを噴出するエアノズルを備えている。また、エア霧化型塗装機は、塗料の吐出口近傍を取り囲む圧縮エア(霧化エア)用の噴出口を備えており、塗料を吐出口から吐出すると共に、当該噴出口から圧縮エアを噴出することによって、塗料の霧化を行うタイプの塗装機である。また、噴霧パターンのパターン幅の制御を行うパターンエア噴出口を圧縮エアの噴出口の外側に備えるのが一般的である。
【0019】
図示しない噴霧ガン移動装置は、後述する制御装置からの指令を受けて噴霧ガン30を移動する装置であり、例えばエアシリンダや2軸アクチュエータなどを例示することができる。また、塗料供給装置としては、例えば、一定量の塗料を充填したシリンジのピストン部をマイクロアクチュエータで押し出しながら、塗料を供給する注射器型のシリンジポンプ等を例示することができる。エア制御盤は、回転ベル型霧化塗装機のベル回転用の空気圧やシェーピングエアの流量等を制御する装置である。高電圧発生器は、霧化装置により微粒化された霧化粒子を静電気で被塗装物50に塗着させるための装置である。
【0020】
排気チャンバー23は、空調装置10から供給された空気を外部に排出する図示しない排気装置を備えている。
【0021】
格納部40は、図2の断面図に示すように、塗装ブース22に隣接して設けられており、被塗装物50を移動する被塗装物移動装置41を備えている。格納部40と塗装ブース22とを隔てる仕切り板43の下部には所定の大きさの空間部44が形成されている。被塗装物移動装置41は、当該空間部44を介して塗装ブース22内の被塗装物50を固定する固定治具42を備えている。なお、被塗装物移動装置41は、塗装ブース22内の同一平面上において被塗装物50を自由に移動することが可能である装置であれば特に限定されない。本実施形態においては、被塗装物移動装置41として2軸アクチュエータを採用している。
【0022】
制御装置は、空調装置10、温度センサ、湿度センサ、噴霧ガン30、噴霧ガン移動装置及び被塗装物移動装置41などに接続しており、これらの作動を制御する。
【0023】
次に、本実施形態に係る塗膜形成装置1を用いて、被塗装物50に塗料を塗布する方法について説明する。
【0024】
まず、噴霧ガン30に接続している塗料供給装置に所定量の塗料を供給する。また、塗装ブース22内において、被塗装物移動装置41に設けられている固定治具42に塗膜を形成する被塗装物50を固定する。その後、塗膜形成装置1を駆動することにより、空調装置10、温度センサ、湿度センサ、噴霧ガン30、被塗装物移動装置41、噴霧ガン移動装置、排気装置及び制御装置を作動させる。
【0025】
空調装置10は、配管15を介して給気チャンバー21に空気を供給する。制御装置は、給気チャンバー21内に設けられている温度センサ及び湿度センサからの出力信号をフィードバックしながら、空調装置10が供給する空気の温度及び湿度が略一定となるように制御する。このように温度及び湿度が調整された空気は、給気フィルター24を介して塗装ブース22に供給される。
【0026】
塗装ブース内の温度及び湿度を一定とした条件下において、噴霧ガン30から塗料を噴霧させた状態で、被塗装物50を往復運動させながら、部分的な重ね塗りが順次行われるように一定方向に被塗装物50を移動させて塗装を行い、当該被塗装物50上に塗膜を形成する。塗膜を形成する際の被塗装物50および噴霧ガン30の制御方法およびその動作については後述する。
【0027】
被塗装物50に積層されなかった余分な塗料の霧化粒子は、空調装置10から供給される空気の流れに乗って、排気チャンバー23側に送られる。このとき、塗料の霧化粒子は、ダスト捕集用フィルター25によって除去される。また、空気は、ダスト捕集用フィルター25を通過して排気チャンバー23に送られ、排気装置によって排出される。
【0028】
以下に、被塗装物50および噴霧ガン30の制御方法およびその動作について図3の塗装ブース22の要部断面図を用いて説明する。まず、塗装開始時において、図3(a)に示すように、制御装置は、図示しない噴霧ガンから噴霧される噴霧パターン31と被塗装物50とが互いに離れた位置となるように噴霧ガンおよび被塗装物50を配置する。そして、噴霧ガンから塗料を噴霧させた状態で、図示しない被塗装物移動装置を作動させて被塗装物50を図の上下方向に往復運動させながら、部分的な重ね塗りが順次行われるように被塗装物50を矢示S方向に移動させる。本実施形態においては、制御装置は、被塗装物50の各往動および復動が終了する毎に矢示S方向に所定ピッチで被塗装物50を順次移動させて、当該被塗装物50上に重ね塗り塗装を施すように制御している。
【0029】
次に、図3(b)および図3(c)に示すように、被塗装物50の塗装中において、被塗装物50と噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で被塗装物50および噴霧ガンを所定方向にシフト移動させる。本実施形態においては、被塗装物50および噴霧ガンのシフト移動方向は、部分的な重ね塗りを被塗装物50に順次行うための移動方向(矢示S方向)と反対の方向としている。この方向にシフト移動することにより、塗装に要するスペースの最小化を図ることができる。
【0030】
また、シフト移動を行うタイミングは、噴霧パターン31の中心(噴霧ガンの噴霧中心に対応)が、部分的な重ね塗りを順次行うための被塗装物50の移動方向(矢示S方向)における被塗装物50の長さの略半分の位置にあるときに行われるように設定されている。このようなタイミングでシフト移動することにより、噴霧パターン31が塗装ブース22の内壁22aを汚すことを防止するためのスペースを確保しつつ、塗装に要するスペースの最小化を図ることができる。なお、このタイミングは、被搬送物50が矢示S方向へ移動している最中であってもよく、また、被塗装物50が往復運動している最中であってもよい。
【0031】
また、被塗装物50および噴霧ガンのシフト移動量は、噴霧ガンから噴霧される塗料の噴霧パターン31が塗装ブースの内壁を汚さない範囲内で設定されている。
【0032】
その後、図3(d)に示すように被塗装物50を往復運動させながら、各往動および復動が終了する毎に矢示S方向に所定ピッチで被塗装物50を順次移動させて重ね塗り塗装を継続する。そして、図3(e)に示すように、被塗装物50が噴霧パターン31内を完全に通過したときに塗装が終了する。
【0033】
このように、本実施形態に係る塗膜形成装置1は、被塗装物50の塗装中において、被塗装物50と噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で被塗装物50および噴霧ガンをシフト移動できるように構成しているため、被塗装物50上の重ね塗り位置にズレが発生すること防止しつつ、塗装に要するスペースを小さくすることができる。
【0034】
また、塗装に要するスペースを削減することが可能となった結果、塗装ブース22をコンパクトな形状に形成することができるため、塗装ブース22の温度及び湿度を一定に保つために必要な空調エネルギーを削減することができる。
【0035】
また、少ないエネルギーにより塗装ブース22の温度及び湿度を一定に保つことが可能となるため、空調能力の低い小型の空調装置10を採用することができ、塗膜形成装置1をより一層コンパクトな構成にすると共に、設備費用を低減することができる。
【0036】
また、塗装ブース22のコンパクト化により、塗膜形成装置1全体をコンパクトな形状に形成することができるため、塗膜形成装置1の設置工事の作業効率を高めることができると共に、設置場所の制約を受けにくくなる。
【0037】
また、噴霧ガンから噴霧される塗料の噴霧パターン31が塗装ブース22の内壁22aを汚さない範囲で噴霧ガンのシフト移動量を制御しているため、内壁22aに塗料が付着するおそれもなく、清掃などのメンテナンスに要する工程を削減することが可能となり、塗装の作業効率が向上する。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されない。例えば、被塗装物50の往復運動に対して、その往復方向と逆方向に噴霧ガン30を同期往復運動させるように噴霧ガン移動装置の作動を制御してもよい。以下に、このような制御方法を採用した場合の被塗装物50および噴霧ガン30の動作について図4を用いて具体的に説明する。
【0039】
まず、塗装開始時においては、図4(a)に示すように、制御装置は、噴霧ガンから噴射される噴霧パターン31と被塗装物50とが互いに離れた位置となるように、被塗装物50および噴霧ガンを配置する。そして、噴霧ガンから塗料を噴霧させた状態で、図示しない被塗装物移動装置を作動させ、被塗装物50を矢示H方向に移動させると共に、噴霧ガン移動装置を作動させて噴霧パターン31が矢示H方向と逆方向(矢示I方向)に移動するように噴霧ガンを移動させる。
【0040】
被塗装物50の往動が終了したときには噴霧ガンの往動も終了し、図4(b)に示すように、噴霧パターン31の塗料が被塗装物50に塗布されない位置となるように被塗装物移動装置及び噴霧ガンの動きは制御されている。次に、被塗装物50を所定ピッチだけ矢示S方向に移動させる。そして、図4(c)に示すように、被塗装物50を復動させると共に、噴霧ガンも復動させて噴霧パターン31を矢示J方向に移動する。このような動作を繰り返すことにより塗装を進行させる。なお、噴霧ガンと被塗装物50との相対速度を一定とすることにより、均一な塗膜を形成することができる。
【0041】
次に、図4(d)および図4(e)に示すように、被塗装物50の塗装中において、被塗装物50と噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で被塗装物50および噴霧ガンを所定方向(矢示S方向の反対方向)にシフト移動させる。
【0042】
その後、図4(f)および図4(g)に示すように、被塗装物50及び噴霧ガンを相互に逆方向に同期往復運動させながら、被塗装物50の各往動および復動が終了する毎に、矢示S方向に所定ピッチで被塗装物50を順次移動させて塗料の重ね塗り塗装を継続する。そして、図4(h)に示すように、往復運動を行っている被塗装物50が噴霧パターン31内を完全に通過したときに塗装が終了する。
【0043】
このように、被塗装物50及び噴霧ガンを相互に逆方向に同期往復運動させながら、塗装を行うことにより、被塗装物50の往復運動の往動開始位置と往動終了位置との間の距離を短くすることができるので、被塗装物50の往復運動の方向における塗装に要するスペースを更に削減することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、被塗装物50および噴霧ガン30のシフト移動方向は、矢示S方向と反対の方向としているが、塗装に要するスペースを削減することができる方向であれば特に限定されない。
【0045】
また、本実施形態においては、噴霧パターン31の中心が、矢示S方向における被塗装物50の長さの略半分の位置にあるときに、被塗装物50および噴霧ガン30のシフト移動が行われるように制御されているが、このようなタイミングに特に限定されるものではない。
【0046】
また、本実施形態において、図3(c)に示すように、制御装置は、被塗装物50および噴霧ガン30のシフト移動を1回行うように被塗装物移動装置および噴霧ガン移動装置の作動を制御しているが、シフト移動回数は1回に限定されるものではなく、例えば、被塗装物50および噴霧ガン30のシフト移動を複数回行うように制御してもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、制御装置は、図3に示すように、被塗装物50の各往動および復動が終了する毎に矢示S方向に所定ピッチで被塗装物50を順次移動させるように被塗装物50の動作を制御しているが、例えば、被塗装物50を往復運動させると共に、矢示S方向に所定の一定速度で被塗装物50を移動させるように制御してもよい。
【0048】
また、本実施形態における塗膜形成装置1において、以下に示すように噴霧ガン30から噴霧される塗料の噴霧パターンにおける霧化粒子の霧化粒子径、霧化粒子濃度及び霧化粒子速度を制御すると共に、噴霧ガン30と被塗装物50との相対的な移動を制御することにより、実際の塗装工程における塗装条件での仕上りと略同等の仕上りを有する塗膜を効率よく形成することができる。
【0049】
まず、噴霧ガン30から噴霧される塗料の噴霧パターンにおける霧化粒子の霧化粒子径、霧化粒子濃度及び霧化粒子速度の制御方法について説明する。なお、霧化粒子径とは、噴霧ガン30で霧化(微粒化)された塗料の霧化粒子の粒子群が、被塗装物50面上に到達する時点での平均粒子径のことであり、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置等によって計測することができる。また、霧化粒子濃度とは、噴霧パターンの単位面積を通過する全粒子の体積の総和を意味し、簡易的には、噴霧のパターン面積に対する塗料の吐出流量から算出される平均霧化粒子濃度として推定することができる。なお、パターン面積は、噴霧パターンを板等に吹き付けることにより簡便に求めることができる。また、霧化粒子速度とは、霧化粒子が被塗装物50面上に到達する時点における粒子群の被塗装物50方向への平均粒子速度のことであり、例えば、ドップラー式レーザー粒子速度測定装置等によって計測することができる。
【0050】
霧化粒子径は、噴霧ガン30として回転ベル型霧化塗装機を使用する場合には、回転ベル型霧化塗装機のベルカップ径の選択、ベル回転数及び塗料の吐出流量等を適宜調整することにより、実際の塗装工程における霧化粒子径と略同等となるように容易に制御することができる。ベル回転数は、回転ベル型霧化塗装機のベル回転用の空気圧を変更すること等により調整することができ、塗料の吐出流量は、塗料供給装置の吐出流量を変更することにより調整することができる。通常、実際の塗装工程において使用される回転ベル型霧化塗装機は、ベルカップ径が60mmφ〜70mmφ程度で、回転数が20000〜30000rpm、吐出流量が200〜300cm/minで使用するのが一般的であるが、本実施形態において、小型ベルカップを使用した場合、20〜30cm/min程度の少量の吐出流量で、回転数が10000rpm程度で、実際の塗装工程と略同等の霧化粒子径を再現することができる。
【0051】
また、噴霧ガン30として、エア霧化型塗装機を使用する場合には、霧化エア流量及び塗料の吐出流量等を適宜調整することにより、実際の塗装工程における霧化粒子径と略同等となるように容易に決定することができる。霧化エア流量は、流出エアを絞ること等により調整可能である。
【0052】
霧化粒子濃度は、噴霧ガン30により噴霧された噴霧パターンによって被塗装物50に形成されるパターン面積に対する塗料の吐出流量から簡易的に算出される。したがって、塗料の吐出流量を調整することにより、実際の塗装工程における霧化粒子濃度と略同等な濃度を容易に決定することができる。例えば、実スケールのパターン幅が30cmで吐出流量200cm/minの場合に対して、本実施形態において、パターン幅を10cmとすれば、パターン面積比は1/9になるので、吐出流量22.2cm/min(200×(1/9))で同等の霧化粒子濃度が得られることになる。なお、噴霧パターンのパターン幅は、回転ベル型霧化塗装機のシェーピングエアの噴出角度や流量を調節することにより容易に変更することができる。
【0053】
霧化粒子速度は、噴霧ガン30として回転ベル型霧化塗装機を使用する場合には、回転ベル型霧化塗装機のシェーピングエア流量及び塗装距離等を適宜調整することにより、実際の塗装工程における霧化粒子速度と略同等な値に容易に決定することができる。なお、噴霧ガン30としてエア霧化型塗装機を使用する場合には、霧化エア流量及び塗装距離を適宜調整することにより、実際の塗装工程における霧化粒子速度と略同等な値に容易に制御することができる。
【0054】
このように、噴霧ガン30における塗料の吐出流量、塗装距離などを調整することにより、被塗装物50に積層する塗料の微粒化状態(霧化粒子径、霧化粒子濃度及び霧化粒子速度)を、実際の塗装工程におけるものと略一致させることができる。
【0055】
次に、噴霧ガン30と被塗装物50との相対的な移動を制御する方法について説明する。具体的には、実際の塗装工程における塗膜形成時間と塗膜の膜厚の変化との関係により決定される塗膜形成プロファイルに基づいて、噴霧ガン30と被塗装物50との相対的な移動を制御する。
【0056】
まず、実際の塗装工程における塗膜形成プロファイルについて、図5及び図6を用いて以下に説明する。図5は、被塗装対象物101上のある微小面積部分103での実際の塗装工程における噴霧ガン100の軌跡を示す説明図であり、図6は、その微小面積部分103における時間と塗膜の厚みとの関係を示す説明図である。
【0057】
図5において、噴霧ガン100は垂直レシプロ102に取り付けられ、被塗物面に対し塗料を噴霧する。この例では、被塗装対象物101上のある微小面積部分103を噴霧ガン100が7回通過し、その部分に噴霧パターンが7回塗り重ねられて塗膜が形成されていることを示している。
【0058】
噴霧ガン100が微小面積部分103を1回通過するときの霧化粒子の降り積もり時間TFは、(微小面積部分103の通過距離L1/レシプロ速度)から算出できる。回転ベル型霧化塗装機100はこの微小面積部分103以外にもレシプロされるものであり、この微小面積部分103以外の所を通過する時間、即ち、微小面積部分103の通過から次通過までのインターバル時間TIは、((レシプロ幅L2−微小面積部分103の通過距離L1)/レシプロ速度)から算出できる。したがって、横軸を塗膜形成時間とし、縦軸を膜厚とすると、図6に示すような塗膜形成プロファイルを得ることができる。膜厚は、例えば、電磁膜厚計やレーザー変位計等により計測することができる。尚、図6において、積膜を模式的に直線で表現しているが、実際にはロジスティック関数的に積膜するものである。
【0059】
この実際の塗装工程における塗膜形成時間と塗膜の膜厚の変化との関係により決定される塗膜形成プロファイルを再現するように、制御装置は被塗装物移動装置41を制御する。つまり、実際の塗装工程における塗膜形成プロファイルに合わせるように、噴霧ガン30が噴霧する塗料の噴霧パターン内を通過する被塗装物50の通過時間、通過回数、及び、通過完了から次通過開始までのインターバル時間TIによって被塗装物移動装置41を制御する。なお、インターバル時間TIにおいて、被塗装物移動装置41は、塗料の霧化粒子が被塗装物50上に積層しない塗装ブース内の任意の領域内にて被塗装物50を静止させ或いは移動させることにより、被塗装物50に塗料の霧化粒子が積層しないように制御されている。
【0060】
これにより、噴霧ガン30によって噴霧された塗料の霧化粒子の被塗装物50上への降り積もり方(積膜挙動)を実際の塗装工程における積膜挙動と略一致させることができる。
【0061】
また、実際の塗装工程が、被塗装物への塗装を行った後、再度の塗装を行う2ステージ塗装である場合、図9の塗膜形成プロファイルに示すように、1stステージの塗装完了から次の2ndステージの塗装開始までの間、塗装が行われないフラッシュタイムが設けられる。このように実際の塗装工程において2回の重ね塗りが行われ、フラッシュタイムが設けられるような場合には、フラッシュタイムが設定されるタイミングにおけるインターバル時間T1を適宜変更することにより、回転ベル型霧化塗装機30によって噴霧された塗料の霧化粒子の被塗装物50上への降り積もり方(積膜挙動)を実際の塗装工程における積膜挙動と略一致させることができる。
【0062】
また、3回以上の複数回にわたって被塗装物上への塗料が行われるような多ステージの塗装工程の場合であっても、上記と同様に、複数のフラッシュタイムが設定されるタイミングにおけるインターバル時間T1を適宜変更すればよい。
【0063】
このように、塗装ブース22における空気の温度及び湿度、並びに、噴霧ガン30から噴霧される塗料の霧化粒子の霧化粒子径、霧化粒子濃度及び霧化粒子速度、並びに、被塗装物50の塗装面上に積層される霧化粒子の積膜挙動を実際の塗装工程におけるものと略同等となるように制御することにより、実際の塗装工程における塗装条件を再現することが可能となり、実際の塗装工程における塗膜の仕上りと略同等の仕上りを有する塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗膜形成装置の断面概略構成図である。
【図2】図1のX−X断面図である。
【図3】被塗装物および噴霧ガンの作動を説明するための要部断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る塗膜形成装置の作動を説明するための要部断面図である。
【図5】実際の塗装工程における塗装機の被塗物上での軌跡を示す説明図である。
【図6】実際の塗装工程における塗膜形成プロファイルを説明する説明図である。
【図7】従来の塗膜形成装置を用いた場合の塗装方法を説明するための説明図である。
【図8】その他の従来の塗膜形成装置を用いた場合の塗装方法を説明するための説明図である。
【図9】実際の塗装工程における他の塗膜形成プロファイルを説明する説明図。
【符号の説明】
【0065】
1 塗膜形成装置
10 空調装置
15 配管
20 塗装装置本体
21 給気チャンバー
22 塗装ブース
23 排気チャンバー
24 給気フィルター
25 ダスト捕集用フィルター
30 噴霧ガン
40 格納部
41 被塗装物移動装置
42 固定治具
50 被塗装物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物を移動する被塗装物移動装置と、
塗料を噴霧する噴霧ガンを移動する噴霧ガン移動装置と、
前記被塗装物移動装置、噴霧ガンおよび噴霧ガン移動装置の作動を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記噴霧ガンから塗料を噴霧させた状態で、前記被塗装物を往復運動させながら部分的な重ね塗りが順次行われるように一定方向に移動させる塗膜形成装置であって、
前記制御装置は、前記被塗装物の塗装中において、前記被塗装物と前記噴霧ガンとの相対位置を一定に保った状態で前記被塗装物および前記噴霧ガンをシフト移動させる塗膜形成装置。
【請求項2】
前記被塗装物および前記噴霧ガンのシフト移動方向は、部分的な重ね塗りを順次行うための前記被塗装物の移動方向と反対の方向である請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記被塗装物および前記噴霧ガンのシフト移動は、前記噴霧ガンの噴霧中心が、前記移動方向における前記被塗装物の長さの略半分の位置にあるときに行われる請求項2に記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記被塗装物の往復運動に対して、その往復方向と逆方向に前記噴霧ガンを同期往復運動させる請求項1に記載の塗膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−534242(P2008−534242A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531120(P2007−531120)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【国際出願番号】PCT/JP2006/305472
【国際公開番号】WO2006/103964
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】