説明

塗膜除去装置、感光体ドラムの製造方法、感光体ドラムおよび、それを具備する画像形成装置

【課題】装置構成が複雑となることなく基体を拭取る拭取り部材を清浄に保ち、塗膜を効率的に除去すること。
【解決手段】本発明の塗膜除去装置1は、昇降機構29による基体25の降下により拭取り装置36の力点部38が押下されることにより、溶剤40に浸漬されている拭取り部材27を上昇させて、少なくともその一部を液面より露呈させて、該拭取り部材27を基体25の下端部および下端部の内外面に接触させる拭取り部材昇降機構44により該拭取り部材27が基体25の下端部および下端部の内外面に接触された状態で、回転機構30にて拭取り部材27と基体25とが相対的に回転されることで塗膜を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜除去装置、感光体ドラムの製造方法、感光体ドラムおよび、それを具備する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用した複写機やレーザビームプリンタなどの画像形成装置には感光体ドラム(以下、感光体と略記する)が搭載される。この感光体は、少なくとも表面が導電性を有する円筒状の基体の表面に有機性の感光層を塗布法によって設けて構成される。基体は、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、黄銅、オーステナイト系ステンレス鋼などの非磁性金属製である。画像の形成は、このような感光体の表面の帯電によって行われる。
【0003】
基体表面への感光層塗膜の形成方法としては、浸漬による塗布方法、スプレーによる塗布方法およびローラを用いた塗布方法が実用化されているが、特に、浸漬による塗布方法は、吊り下げられた基体を感光層用の塗液中に浸漬した後、引き上げる方法であって、形成される感光層塗膜の厚さを塗液の粘度や基体の引上げ速度によって容易に調整できることから、他の方法に比べて多く用いられている。なお、感光層は、通常、負電荷をブロックするための中間層、電荷を発生するための電荷発生層および電荷を輸送するための電荷輸送層を積層した3層構造を成し、これらの各層の塗膜が順次的に上記浸漬法によって基体上に形成される。
【0004】
浸漬法で得られる前記感光体は、基体の下端部内外面に塗布液が付着してしまい、この付着した塗布液により種々問題が生じてしまう。具体的には、基体下端部の内面に塗膜が形成されると、搬送ラインのパレットに付着し、パレットを汚すことがある。パレットに付着した塗膜が感光層膜中に混入し、不良品を生産する恐れがある。
【0005】
また、感光体を搭載する画像形成装置では、複写時に感光体端部の内面を電荷零のアースとして用いるので、基体端部の内面に塗布液が付着しているとアース不良を引き起こす原因になる。
【0006】
さらに、端部内面に不要な塗膜が残っていると、フランジを精度よく挿入、装着できず、基体の変形、寸法、精度、接着強度に問題が生じてしまい、画像欠陥を引き起こす恐れがある。
【0007】
また、基体下端外面に付着した塗布液部は膜厚が平坦部に比べ厚くなっているため、クリーニングブレードとの接触が悪くなり、クリーニング不良が生じたり、ブレードが破損する恐れがある。
【0008】
さらに、画像の品質向上のため、基体の両端部の面に各種突き当て部材を接触させて精度を持たせる場合があるが、その場合、端部外面の塗膜が平坦でなければ、精度は著しく低下してしまう。
【0009】
したがって、基体両端部の内外周面には感光層塗膜は不要である。しかし、上述の浸漬法では基体下端部および基体下端部の内外面に感光層塗膜が形成されるため、不要な塗膜を除去する必要がある。
【0010】
このような問題解決のため、種々の端部塗膜除去方法、装置がこれまで開発されてきている。例えば、溶剤浸漬法として、塗膜を溶解する溶剤中に塗膜を特定の条件で浸漬し、塗膜を除去する方法が特許文献1,2に記載されており、位置決め機構を持つ除去装置を用いて溶剤に浸漬し、塗膜を除去する方法が特許文献3に提案されている。
【0011】
しかしながら、溶剤浸漬法では、完全に除去することはできず、また除去するのに時間がかかり、液面のゆれにより塗膜にムラが生じ、溶剤蒸気によるタレも発生して必要な塗膜まで除去、又はムラになるおそれがある。
【0012】
一方、特許文献4,5には、ノズルにて溶剤を散布しブラシやスポンジなどの除去部材によって塗膜を溶解除去する方法が記載されており、特許文献6には、ブラシやスポンジなどの除去部材に溶剤をかけ流しながら塗膜が形成された感光体の端部を拭き取るように構成された塗膜除去装置やその方法が提案されている。
【0013】
また、特許文献7には、塗膜が形成された基体の浸漬方向下端部と基体よりも大きい直径を有する溶剤を染み込ませた多孔質弾性体(スポンジ状構造体)とを接触させ、多孔質弾性体および基体のうちのいずれか一方、またはその両方を回転させることによって、基体の下端部に形成された塗膜を除去することが記載されている。また、塗膜除去後に、多孔質弾性体に向けて溶剤を噴出することによって、多孔質弾性体を洗浄することが記載されている。
【0014】
このため、特許文献4〜7に記載の技術を利用すれば、特許文献1〜3において生じていた問題を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平06−202352号公報(1994年7月22日公開)
【特許文献2】特開平05−173339号公報(1993年7月13日公開)
【特許文献3】実開平07−42533号公報(1995年8月4日)
【特許文献4】特開平10−207084号公報(1998年8月7日公開)
【特許文献5】特開2000−275870号公報(2000年10月16日公開)
【特許文献6】特開2002−278104号公報(2002年9月27日公開)
【特許文献7】特開2001−157864号公報(2001年6月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献4〜7に記載の従来技術は、ノズルにて溶剤を多孔質弾性体に供給するため、ノズルに溶剤を供給するための溶剤供給管などを有する必要がある。溶剤供給管は、比較的複雑な構造の装置であるため、製造コストの上昇をもたらす。また、ノズルから溶剤を供給するだけでは、ブラシやスポンジなどの除去部材や多孔質弾性体を常に清浄な状態に保つことは困難である。除去部材や多孔質弾性体は、繰り返し使用する場合にその一部が乾きやすい。また、除去部材や多孔質弾性体を介して、除去した塗膜が再度基体に付着する等、再汚染の恐れがある。
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、装置構成が複雑となることなく基体を拭取る拭取り部材を清浄に保ち、塗膜を効率的に除去することが可能な塗膜除去装置、感光体ドラムの製造方法、感光体ドラムおよび、それを具備する画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の塗膜除去装置は、浸漬法によって塗膜が形成された円筒状の基体を、該基体の軸心が鉛直方向となるように昇降する基体昇降機構と、前記基体に形成された不要な塗膜を拭取る拭取り装置とを備え、前記拭取り装置は、塗膜を除去するための溶剤を溜めた溶剤槽と、前記溶剤槽に浸漬された拭取り部材と、前記拭取り部材と前記基体とを相対的に回転させる回転機構と、前記基体昇降機構による前記基体の降下により前記拭取り装置の力点が押下されることにより、前記溶剤に浸漬された拭取り部材を上昇させて、少なくともその一部を液面より露呈させて、該拭取り部材を前記基体の下端部および下端部の内外面に接触させる拭取り部材昇降機構とを備え、前記拭取り部材昇降機構により該拭取り部材が前記基体の下端部および下端部の内外面に接触された状態で、前記回転機構にて前記拭取り部材と前記基体とが相対的に回転されることで塗膜を除去する。
【0019】
上記の構成によれば、基体昇降機構による、基体を降下させるといった簡単な動作にて、塗膜を除去するための溶剤を含む拭取り部材を基体の下端部および下端部の内外面と接触させることができる。そして、その状態で、回転機構にて、基体と拭取り部材とが相対的に回転されるので、基体の下端部全域に相当する大きさを有する拭取り部材でなくとも、基体の下端部全域に接触して、その下端部および下端部の内外面において、形成された不要な塗膜を容易かつ高精度に除去することができる。
【0020】
そして、上記構成による塗膜の除去は、基体の下端部および下端部の内外面を、塗膜を除去するための溶剤に浸漬して除去するものではないので、塗膜を除去するための溶剤に下端部を浸漬させる浸漬法での不具合である塗膜ムラや塗膜ダレを抑制できる。また、拭取り部材は、不要な塗膜を除去するとき以外は、溶剤槽に浸漬した状態に保たれるので、溶剤を拭取り部材に供給するポンプ等を設けなくても、拭取り部材を清浄に保つことができる。
【0021】
したがって、装置構成が複雑となることなく基体を拭取る拭取り部材を清浄に保ち、塗膜を効率的に除去することが可能な塗膜除去装置を提供することができる。
【0022】
また、本発明の塗膜除去装置において、前記回転機構は、該拭取り部材が前記基体の下端部および下端部の内外面に接触していないときに、前記溶剤に浸漬された状態の前記拭取り部材を回転させる。
【0023】
上記の構成によれば、一定の洗浄効果が得られ、拭取り部材を清浄な状態に保つことができる。これにより、拭取り部材により拭取った塗膜が再度、基体の下端部および下端部の内外面に付着することを防止することができる。
【0024】
また、本発明の塗膜除去装置において、前記拭取り部材は、前記基体の下端部と接触する部位に、前記下端部の形状に合った切込み部が形成されている。
【0025】
上記の構成によれば、拭取り部材を基体の下端部および下端部の内外面に精度良く密着させることができる。このため、高い密着性を保ったまま、基体の下端部に拭取り部材が当接した状態で摺動するので、基体の下端部および下端部の内外面形成された塗膜を確実に除去することができる。
【0026】
また、本発明の塗膜除去装置において、前記拭取り部材昇降機構は、前記力点と前記拭取り部材との間に支点が設けられ、前記支点が設けられる位置は、前記基体の軸心の延長上から、該基体の半径の1/2以内である。
【0027】
上記の構成によれば、拭取り部材昇降機構の力点に力が加えられることによる拭取り部材の上昇幅を、小さくならない正常な幅とすることができる。これにより、拭取り部材と基体の下端部および下端部の内外面とを接触させる精度を高くすることができる。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の感光体ドラムの製造方法は、円筒状の基体表面に、中間層、電荷発生層、電荷輸送層がこの順に成膜されてなる感光体ドラムの製造方法であって、前記基体の下端部および下端部の内外面に成膜された中間層、電荷発生層、電荷輸送層を除去する各工程において、上記塗膜除去装置を用いる。
【0029】
上記の構成によれば、装置構成が複雑となることなく基体を拭取る拭取り部材を清浄に保ち、塗膜を効率的に除去することが可能な感光体ドラムの製造方法を提供することができる。
【0030】
なお、感光体ドラムの製造方法を用いて製造された感光体ドラム、およびそれを具備した画像形成装置も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、基体を拭取る拭取り部材を清浄に保ちつつ、塗膜を効率的に除去することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の感光体ドラムをフランジとともに示す図である。
【図2】感光体ドラムの構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図3】本実施の形態における塗膜除去装置の一例を示す概略図である。
【図4】塗膜除去時および塗膜非除去時の拭取り装置の一例を示す拡大図である。
【図5】拭取り部材を示す図である。
【図6】基台の支点と力点に設けられる力点部と作用点に設けられる拭取り部材の位置関係を示す図である。
【図7】変形例における塗膜除去装置の一例を示す概略図である。
【図8】画像形成装置の概略構造の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0034】
図1は、本発明の感光体ドラムをフランジとともに示す図である。図2は、感光体ドラムの構成を簡略化して示す部分断面図である。図1,2に示されるように、感光体ドラム103は、円筒状の基体25を有している。基体25の両端の開口部には、フランジ200が取り付けられる。また、基体25の周囲には、中間層52、感光層53が順に形成されている。
【0035】
感光層53は、電荷発生層54と、電荷輸送層55とを有している。基体25は、感光体ドラム103の電極としての役割を果たすとともに、中間層52、電荷発生層54および電荷輸送層55の支持部材としても機能する。感光体ドラム103の各部の材料については後述する。
【0036】
図3は、本実施の形態における塗膜除去装置の一例を示す概略図である。塗膜除去装置1は、感光体ドラム103の基体25を塗液中に浸漬した後、引き上げる浸漬法によって基体25の表面に形成された塗膜を、基体25において塗膜が形成される必要のない部分を対象に除去する装置である。なお、基体25以外に、塗膜除去装置1により塗膜が拭取られる層としては、中間層52、電荷発生層54、電荷輸送層55がある。
【0037】
基体25における塗膜の不要な部分についての塗膜は、塗膜除去装置1が備える拭取り部材27が表面に塗膜が形成された状態の基体25の端部部分を摺動することにより、拭き取られる。塗膜除去装置1は、塗膜を除去しないときには、基体25と拭取り部材27とを離反させ、塗膜を除去するときには、基体25における塗膜の不要な部分と拭取り部材27とを接触させる。
【0038】
図3の(a)は、塗膜除去装置による塗膜非除去時の状態を示す図である。図3の(b)は、塗膜除去装置による塗膜除去時の状態を示す図である。図3の(a),(b)に示されるように、塗膜除去装置1は、円筒状の基体25を保持するチャック装置26と、チャック装置26を昇降する昇降機構(基体昇降機構)29と、基体25表面における塗膜の不要な部分を拭取る拭取り装置36とを備える。
【0039】
昇降機構29は、アーム部材33を備え、アーム部材33にチャック装置26の支持軸31が接続される。また、昇降機構29は、昇降モータ34の駆動により、アーム部材33を昇降させる。これにより、アーム部材33に接続されたチャック装置26が昇降可能となる。昇降機構29は、塗膜非除去時にチャック装置26を上昇させ、塗膜除去時にチャック装置26を降下させる。
【0040】
チャック装置26は、基体25の軸心方向が略鉛直方向となるよう支持する。具体的には、チャック装置26は、円筒状の基体25内部に挿入され、支持軸31の所定の取付位置に取り付けられた風船体32が膨張することにより、基体25を内部から支持する。風船体32は、支持軸31の内部に形成された流路を通じて加圧空気などの流体が供給され、膨張する。なお、ここでは、風船体32が2箇所設けられていることを示している。
【0041】
拭取り装置36は、チャック装置26の下方に配置される。拭取り装置36は、塗膜を基体25の表面より剥離するための溶剤40を溜める溶剤槽37と、回転機構30と、拭取り部材昇降機構44と、拭取り部材27とを備える。
【0042】
回転機構30は、溶剤槽37に対して回転自在に設けられた回転台35を有する。回転台35の上部には、拭取り部材昇降機構44が設けられている。
【0043】
拭取り部材昇降機構44は、回転台35により支持される基台28と、該基台28の頂点部を支点39として相対する方向に延びる2本のアーム43a,43bと、アーム43aの先端部(力点)に取り付けられた力点部38と、アーム43bの先端部(作用点)に取り付けられた拭取り部材27とを備える。
【0044】
力点部38および拭取り部材27それぞれが設けられる位置は、チャック装置26により保持された基体25の下端部25aと対向する位置である。
【0045】
拭取り部材27は、溶剤40の保持力が良好であること、耐溶剤性が高いこと、および繊維屑などが生じ難いこと等の条件を満たす素材であることが好ましい。これら条件を満たす素材としては、海綿体などの天然素材であるセルロース、合成素材であるポリエチレン、ポリセルロース等が好適である。
【0046】
また、拭取り部材昇降機構44は、力点部38に外部から力が加えられていない状態で、拭取り部材27を溶剤槽37の溶剤40に浸漬させている。拭取り部材昇降機構44は、力点部38に外部から力が加えられると、てこの原理により拭取り部材27を上方に上昇させる。ここで、拭取り部材昇降機構44が拭取り部材27を上昇させる位置は、拭取り部材27の一部が溶剤40に浸漬した状態となる位置であってもよいし、拭取り部材27の全体が溶剤40の液面より上に露出した位置であってもよい。
【0047】
本実施の形態では、力点部38に外部から力が加えられていない状態で、アーム43aは溶剤の液面に水平をなし、アーム43bは先端部(作用点)が支点39より下方に位置するように液面に対して傾斜している。これにより、アーム43aの先端部(力点)を液面よりも上にある支点39と同じ高さとした状態で、作用点に設けられた拭取り部材27を溶剤に浸漬させることが可能となる。さらに、本実施の形態では、力点部38は、アーム43aの先端部(力点)よりも上方(チャック装置26により保持された基体25側)に突出して設けられている。これにより、アーム43aの先端部に相当する実際の力点よりも高い位置で、基体25の下端部25aに接触して、拭取り部材27を上昇させることができる。
【0048】
なお、溶剤40は、塗膜を溶解しうるものであり、特に感光塗工液に使用されている溶剤であることが好ましい。
【0049】
ここで、チャック装置26の動作に連動する拭取り装置36の動作について図を用いて説明する。図4は、塗膜除去時および塗膜非除去時の拭取り装置の一例を示す拡大図である。図4の(a)は、塗膜非除去時の拭取り装置の状態を示す拡大図である。図4の(b)は、塗膜除去時の拭取り装置の状態を示す拡大図である。
【0050】
上述したように、塗膜を除去する際には、昇降機構29は、アーム部材33を降下させるので、それに伴ってチャック装置26が降下する。このため、チャック装置26に保持された基体25の下端部25aから力点部38に、昇降機構29による基体25を降下させる力が加わる。これにより、てこの原理により拭取り部材27が上昇して溶剤槽37の溶剤40の液面より露呈し、降下してきたチャック装置26に保持された基体25の下端部25aと拭取り部材27とが接触する(図4の(b)参照)。
【0051】
一方、塗膜の除去が終了すると、昇降機構29は、アーム部材33を上昇させるので、それに伴ってチャック装置26が上昇する。このため、チャック装置26に保持された基体25の下端部25aが力点部38に対して離反するので、チャック装置26に保持された基体25の下端部25aから力点部38に加えられていた力が取り除かれる。これにより、少なくともその一部が溶剤の液面より露呈していた拭取り部材27は、降下し、溶剤槽37の溶剤40に浸漬する(図4の(a)参照)。
【0052】
また、回転機構30は、回転モータ41(図3参照)を有しており、回転モータ41が駆動することにより回転台35が回転する。基台28は、回転台35の回転することで回転し、力点部38および拭取り部材27は、基台28を中心に回転する。したがって、塗膜除去時には、基体25の下端部25aと拭取り部材27とが接触した状態となるので、この状態において回転機構30を回転させることにより、円筒状の基体25の下端部25aに拭取り部材27を摺動させることができる。これにより、基体25の下端部25aに形成された不要な塗膜を拭き取ることができる。
【0053】
さらに、本実施の形態では、拭取り部材27は、切込み部42を有している。ここでは、切込み部42は、図5(a)に示すように、拭取り部材27が基体25の下端部25aに接触した状態で、下端部25aが丁度嵌る形状および大きさを有するように形成されている。このため、図5(b)に示されるような、切込み部42を有さない拭取り部材27Aと比較して、拭取り部材27と基体25との接触面積を増大させることができる。具体的には、拭取り部材27と、基体25の下端部25a、および下端部25a付近における外面および内面とを接触させることができる。
【0054】
したがって、拭取り部材27と、基体25の下端部25a、および下端部25a付近における外面および内面とが接触した状態で、回転機構30が回転すると、拭取り部材27が円筒状の基体25の下端部25a、および下端部25a付近の外周面および内周面を摺動する。これにより、基体25の下端部25aと、下端部25a付近における外周面および内周面とに形成された不要な塗膜を拭き取ることができる。
【0055】
また、塗膜非除去時には、拭取り部材27は、溶剤槽37の溶剤40に浸漬した状態となる。この状態において回転機構30を回転させることにより、以前に拭取り部材27に付着した塗膜を洗い落とすことができる。これにより、拭取り部材27を清浄に保つことができる。また、拭取り部材27から基体25への塗膜の再付着を防ぐことができる。
【0056】
図6は、基台の支点と力点に設けられる力点部と作用点に設けられる拭取り部材の位置関係を示す図である。図6(a)は、支点と力点部と拭取り部材との第1の位置関係を示す図である。図6(b)は、支点と力点部と拭取り部材との第2の位置関係を示す図である。
【0057】
図6(a)は、支点39が基体25の軸心43に対して、力点部38側にある場合を示している。ここでは、支点39が基体25の軸心43から、基体25の半径の1/2よりも力点部38側にある場合を示している。この場合、力点部38と支点39との間の距離が支点39と拭取り部材27との間の距離より短くなる。このため、拭取り部材27を上昇させるために要する、力点部38に加える力が大きくなる。これにより、基体25の降下によってもたらされる力では足りず、拭取り部材27が効果的に基体25の下端部25a、および下端部25aの内周面および外周面に接触するのが困難となる場合がある。
【0058】
図6(b)は、支点39が基体25の軸心43に対して、拭取り部材27側にある場合を示している。ここでは、支点39が基体25の軸心43から、基体25の半径の1/2よりも拭取り部材27側にある場合を示している。この場合、力点部38と支点39との間の距離が支点39と拭取り部材27との間の距離より長くなる。このため、拭取り部材27の上昇幅が小さくなる。これにより、降下してきた基体25の下端部25a、および下端部25aの外面および内面が、拭取り部材27に到達せず、基体25の下端部25a、および下端部25aの外面および内面への接触が困難となる場合がある。
【0059】
したがって、支点39は、基体25の軸心43の近傍にあることが好ましい。ここでは、基体25の軸心43から、基体25の半径の1/2よりも内側としている。この場合、
力点部38、支点39、拭取り部材27を結ぶ直線は、基体25の軸心43を通るように設ける必要がある。
【0060】
<変形例>
変形例における塗膜除去装置1Aは、本実施形態における塗膜除去装置1が備えるチャック装置26の支持軸31を回転させる構成を有するものである。なお、本実施の形態における塗膜除去装置1と同じ構成については、ここでは説明を繰り返さない。
【0061】
図7は、変形例における塗膜除去装置の一例を示す概略図である。ここでは、塗膜除去時における塗膜除去装置1Aの状態を示している。図7に示されるように、塗膜除去装置1Aは、回転モータ41から供給される駆動力によりチャック装置26の支持軸31を回転させる。これにより、チャック装置26に保持された基体25は、支持軸31の回転に連動して、支持軸31と同じ回転方向に回転する。なお、チャック装置26の支持軸31の回転方向は、回転機構30が回転する方向と逆方向としている。
【0062】
したがって、塗膜除去時には、塗膜除去装置1Aは、基体25の下端部25a、下端部25a付近の外面および内面と、拭取り部材27とが接触した状態において、回転機構30およびチャック装置26の支持軸31の回転方向を互いに逆方向に回転させるので、チャック装置26に保持された基体25を拭取り部材27が摺動する際の速度を上げることができる。これにより、回転機構30またはチャック装置26の支持軸31のいずれか一方を回転させる構成よりも、塗膜の除去効果を高めることができる。
【0063】
なお、チャック装置26の支持軸31の方のみを高速回転させて、同様の効果を得ようとすると、チャック装置26により保持された基体25の遠心力が大きくなる。塗膜は、未乾燥のときに除去されるので、支持軸31の高速回転により生じる基体25の遠心力が大きくなると、感光層の均一性が低下する。なお、回転機構30の方のみを高速回転させる場合は、この限りではない。
【0064】
また、チャック装置26は、風船体32を膨張させることにより、円筒内部から基体25を保持するので、基体25を高速回転させると、支持軸31の回転中心と基体25の軸心とが偏心する場合がある。この場合、塗膜除去時に、基体25の下端部25aが拭取り部材27の切込み部42に嵌らず、塗膜を確実に除去することができない。
【0065】
一方、回転機構30を回転させ、チャック装置26を回転させない場合においては、回転機構30の回転速度を大きくすると、回転機構30の回転に連動して回転する拭取り部材27の遠心力が大きくなる。これにより、拭取り部材27に保持される溶剤40が遠心力によって飛散し、溶剤40の消費量が増大する。また、飛散した溶剤40が基体25の塗膜の必要な部分に付着すると、感光層53に対して悪影響を及ぼす。
【0066】
これに対して、変形例における塗膜除去装置1Aにおいては、チャック装置26の支持軸31と回転機構30とを互いに逆方向に回転させることにより、チャック装置26に保持された基体25と拭取り部材27との相対的な速度を大きくすることができる。このため、チャック装置26の支持軸31および回転機構30それぞれの回転速度を小さく抑えることができる。これにより、感光層53の均一性の低下、溶剤40の飛散を防ぐことができる。
【0067】
なお、本実施の形態および変形例においては、浸漬法によって基体25の表面に、塗膜を形成し、塗膜除去装置1,1Aによって不要な塗膜を除去し、乾燥して、画像形成装置に搭載される像担持体である感光体ドラム103を作製する場合を例に説明した。そのため、塗膜除去装置1,1Aによって除去される塗膜は、中間層52、電荷発生層54、あるいは電荷輸送層55といった、感光体ドラム103の作製工程で成膜される塗膜であったが、感光体ドラム103以外のドラム状の基台の表面に塗膜を浸漬法にて形成する他の部材の製造に用いることができることは言うまでもない。
【0068】
また、塗膜除去装置1,1Aは、基体25の下端部25aと拭取り部材27との接触のために、昇降機構29によってアーム部材33を昇降運動するように構成しているが、これに限定するものではない。アーム部材33の位置を固定し、拭取り部材27が取り付けられた基台28を昇降運動するように構成するようにしてもよい。この場合においても、本実施の形態および変形例と同様に動作させて同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、本実施の形態においては、塗膜除去装置1は、回転機構30を回転させる代わりに、支持軸31を回転させる構成を有していてもよい。
【0070】
また、本実施の形態および変形例においては、浸漬法により基体25の表面に塗膜を形成させたので、基体25が塗液から引き出されるときの表面張力により、基体25の他の部分よりも、基体25の下端部25aにおいて塗膜が厚く付着する。しかし、上述したように、拭取り部材27の切込み部42を、基体25の下端部25aに嵌る形状としたので、厚めに形成された塗膜が拭取り部材27と直接接触することととなり、下端部25aにおいて厚く形成された塗膜を確実に除去することができる。
【0071】
また、塗膜除去装置1,1Aが備える拭取り装置36は、拭取り部材昇降機構44を1つ備える構成であったが、拭取り部材昇降機構44を複数備える構成であってもよい。
【0072】
(感光体ドラムの説明)
ここで、上述した塗膜除去装置1を用いて製造される感光体ドラム103を構成する材料について説明する。
【0073】
本発明において円筒状の基体25は従来公知の各種のものを使用することができる。例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、チタンなどの金属単体、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの合金を用いることができる。また、これらの金属材料に限定されることなく、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンもしくはポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙またはガラスなどの表面に、金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることもできる。
【0074】
さらに必要に応じて、基体25の表面に、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理を施してもよい。
【0075】
中間層52は、基体25と感光層53との間に設けられている。基体25と感光層53との間に中間層52がない場合、基体25から感光層53に電荷が注入され、感光層53の帯電性が低下し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像にかぶりなどの欠陥の発生することがある。
【0076】
特に、反転現像プロセスを用いて画像を形成する場合には、露光によって表面電荷の減少した部分にトナーが付着してトナー画像が形成されるので、露光以外の要因で表面電荷が減少すると、白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが発生し、画質の著しい劣化の生じることがある。すなわち、基体25と感光層53との間に中間層52がない場合、基体25または感光層53の欠陥に起因して微小な領域での帯電性の低下が生じ、黒ぽちなどの画像のかぶりが発生し、著しい画像欠陥となることがある。
【0077】
中間層52は、基体25からの感光層53への電荷の注入を防止する機能を有する。したがって、感光層53の帯電性の低下を防ぐことができ、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少を抑え、画像にかぶりなどの欠陥が発生することを防止することができる。
【0078】
また、中間層52を設けることによって、基体25表面の欠陥を被覆して均一な表面を得ることができるので、感光層53の成膜性を高めることができる。また、感光層53の基体25からの剥離を抑え、基体25と感光層53との接着性を向上させることができる。
【0079】
中間層52には、各種樹脂材料から成る樹脂層またはアルマイト層などが用いられる。樹脂層を構成する樹脂材料としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリアミド樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。
【0080】
また、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよびエチルセルロースなども挙げられる。これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いることが好ましい。好ましいアルコール可溶性ナイロン樹脂としては、たとえば6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、2−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させた樹脂などを挙げることができる。
【0081】
中間層52は、金属酸化物粒子などの粒子を含有してもよい。中間層52に、これらの粒子を含有させることによって、中間層52の体積抵抗値を調節し、基体25からの感光層53への電荷の注入を防止する効果を高めることができるとともに、各種の環境下において感光体103の電気特性を維持することができる。
【0082】
金属酸化物粒子としては、たとえば酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズなどの粒子を挙げることができる。
【0083】
中間層52は、たとえば前記の樹脂を適当な溶剤中に溶解または分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を基体25の表面に塗布することによって形成される。中間層52に前記の金属酸化物粒子などの粒子を含有させる場合には、たとえば前記の樹脂を適当な溶剤に溶解させて得られる樹脂溶液中に、これらの粒子を分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を基体25の表面に塗布することによって中間層52を形成することができる。
【0084】
中間層用塗布液の溶剤には、水もしくは各種有機溶剤、またはこれらの混合溶剤が用いられる。たとえば、水、メタノール、エタノールもしくはブタノールなどの単独溶剤、または水とアルコール類、2種類以上のアルコール類、アセトンもしくはジオキソランなどとアルコール類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類などの混合溶剤が用いられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0085】
前記の粒子を樹脂溶液中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機またはペイントシェーカなどを用いる一般的な方法を使用することができる。
【0086】
中間層用塗布液中において、樹脂および金属酸化物の合計重量Cと、中間層用塗布液に使用されている溶剤の重量Dとの比率C/Dは、1/99〜40/60であることが好ましく、より好ましくは2/98〜30/70である。また樹脂の重量Eと金属酸化物の重量Fとの比率E/Fは、90/10〜1/99であることが好ましく、より好ましくは70/30〜5/95である。
【0087】
中間層用塗布液の塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの中でも、特に浸漬塗布法は、前記のように、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、中間層52を形成する場合にも多く利用されている。
【0088】
中間層52の膜厚は、0.01μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上10μm以下である。中間層52の膜厚が0.01μmよりも薄いと、実質的に中間層52として機能しなくなり、基体25の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、基体25からの感光層53への電荷の注入を防止することができなくなり、感光層53の帯電性の低下が生じる。中間層52の膜厚を20μmよりも厚くすることは、中間層52を浸漬塗布法によって形成する場合に、中間層52の形成が困難になるとともに、中間層52上に感光層53を均一に形成することができず、感光体の感度が低下するので好ましくない。したがって、中間層52の膜厚の好適な範囲を、0.01μm以上、20μm以下とした。
【0089】
電荷発生層54は、光を吸収することによって電荷を発生する電荷発生物質を主成分として含有する。電荷発生物質として有効な物質としては、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料、インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料、金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類およびチオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料、ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などを挙げることができる。これらの電荷発生物質は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が組合わされて使用されてもよい。
【0090】
前記の電荷発生物質の中でも、下記一般式(化1)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物を用いることが好ましい。なお、一般式(化1)において、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ互いに同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を示し、r、s、yおよびzは、それぞれ0〜4の整数である。
【0091】
【化1】

【0092】
前記一般式(化1)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、高い電荷発生効率と高い電荷注入効率とを有する電荷発生物質であるので、光を吸収することによって多量の電荷を発生するとともに、発生した電荷をその内部に蓄積することなく、電荷輸送層55に含有される電荷輸送物質に効率よく注入され、感光層53表面に円滑に輸送される。
【0093】
前記一般式(化1)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、例えばMoserおよびThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp、NewYork、1963に記載されている方法などの従来公知の製造方法に従って製造することができる。
【0094】
例えば、前記一般式(化1)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物のうち、X1、X2、X3およびX4が共に水素原子であるオキソチタニウムフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα−クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによってジクロロチタニウムフタロシアニンを合成し、次いで、塩基または水で加水分解することによって得られる。
【0095】
また、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによっても、オキソチタニウムフタロシアニンを製造することができる。
【0096】
本発明において用いられる電荷発生物質は、他の増感染料と併用してもよい。そのような増感染料としては、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料、メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料、カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料、シアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料またはチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0097】
電荷発生層54の形成方法としては、前記の電荷発生物質を基体25の表面に真空蒸着する方法、または前記の電荷発生物質を適当な溶剤中に分散して得られる電荷発生層用塗布液を基体25の表面に塗布する方法などが用いられる。
【0098】
これらの中でも、結着剤である結着樹脂を溶剤中に混合して得られる結着樹脂溶液中に、電荷発生物質を従来公知の方法によって分散して電荷発生層用塗布液を調製し、得られた塗布液を基体25の表面に塗布する方法が好適に用いられる。以下、この方法について説明する。
【0099】
電荷発生層54に用いられる結着樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。
【0100】
共重合体樹脂の具体例としては、たとえば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などを挙げることができる。結着樹脂はこれらに限定されるものではなく、一般に用いられる樹脂を結着樹脂として使用することができる。これらの樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。
【0101】
電荷発生層用塗布液の溶剤には、例えばジクロロメタンもしくはジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンもしくはシクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフランもしくはジオキサンなどのエーテル類、1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエンもしくはキシレンなどの芳香族炭化水素類、またはN,N−ジメチルホルムアミドもしくはN,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが用いられる。
【0102】
これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、2種以上が混合されて混合溶剤として使用されてもよい。
【0103】
電荷発生物質と結着樹脂とを含んで構成される電荷発生層54において、電荷発生物質の重量W1と結着樹脂の重量W2との比率W1/W2は、100分の10(10/100)以上100分の99(99/100)以下であることが好ましい。前記比率W1/W2が10/100未満であると、感光体ドラム103の感度が低下する。
【0104】
また、前記比率W1/W2が99/100を超えると、電荷発生層54の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大するので、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが多くなる。したがって、前記比率W1/W2の好適な範囲を、10/100以上、99/100以下とした。
【0105】
電荷発生物質は、結着樹脂溶液中に分散される前に、予め粉砕機によって粉砕処理されてもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などを挙げることができる。
【0106】
電荷発生物質を結着樹脂溶液中に分散させる際に用いられる分散機としては、ペイントシェーカ、ボールミルおよびサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択する。
【0107】
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの塗布方法のうちから、塗布の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を選択することができる。
【0108】
これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面上に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体ドラムを製造する場合に多く利用されている。
【0109】
なお、浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。
【0110】
電荷発生層54の膜厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。
【0111】
電荷発生層54の膜厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感光体ドラム103の感度が低下する。
【0112】
また、電荷発生層54の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層54内部での電荷移動が感光層53の表面電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体ドラム103の感度が低下する。したがって、電荷発生層54の膜厚の好適な範囲を、0.05μm以上、5μm以下とした。
【0113】
電荷輸送層55に含有されるバインダ樹脂には、例えばポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびフェノール樹脂などの樹脂などを挙げることができる。
【0114】
結着樹脂はこれらに限定されるものではなく、一般に用いられる樹脂を結着樹脂として使用することができる。これらの樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。本実施形態では、最表面である電荷輸送層55には、前述の架橋性ポリロタキサンが含有される。
【0115】
さらに、電荷輸送物質としては、エナミン誘導体、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などを挙げることができる。
【0116】
また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、例えばポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレンおよびポリ−9−ビニルアントラセンなども挙げられる。
【0117】
電荷輸送層55には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、成膜性、可撓性または表面平滑性を向上させるために、可塑剤またはレベリング剤などを電荷輸送層55に添加してもよい。可塑剤としては、たとえばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などを挙げることができる。レベリング剤としては、たとえばシリコーン系レベリング剤などを挙げることができる。
【0118】
電荷輸送層55は、前記の電荷発生層54を塗布によって形成する場合と同様に、例えば適当な溶媒中に、電荷輸送物質、ポリアリレート樹脂、シリカ微粒子、ならびに必要な場合には前記の添加剤を溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、得られた塗布液を電荷発生層54上に塗布することによって形成される。
【0119】
電荷輸送層用塗布液の溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。
【0120】
これらの溶媒は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。また前記の溶媒に、必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶媒をさらに加えて使用することもできる。
【0121】
電荷輸送層用塗布液の塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。
【0122】
これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前記のように種々の点で優れているので、電荷輸送層55を形成する場合にも多く利用されている。
【0123】
電荷輸送層55の膜厚はそれぞれ、5μm以上40μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0124】
電荷輸送層55の膜厚が5μm未満であると、帯電保持能が低下する。また、電荷輸送層55の膜厚が40μmを超えると、感光体ドラム103の解像度が低下する。したがって、電荷輸送層55の膜厚の好適な範囲を、5μm以上40μm以下とした。
【0125】
感光層53の各層には、感度の向上を図り、さらに繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑えるために、電子受容物質および色素などの増感剤を1種または2種以上添加してもよい。
【0126】
上記の電子受容物質としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物、またはジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料などを用いることができる。また、これらの電子吸引性材料を高分子化したものなどを用いることもできる。
【0127】
上記の色素としては、たとえばキサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料または銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物を用いることができる。これらの有機光導電性化合物は光学増感剤として機能する。
【0128】
また感光層53の電荷発生層54および電荷輸送層55には、酸化防止剤または紫外線吸収剤などを添加してもよい。特に電荷輸送層55には、酸化防止剤または紫外線吸収剤などを添加することが好ましい。
【0129】
これによって、オゾン、窒素酸化物などの酸化性のガスに対しての劣化を少なくすることが出来る。また各層を塗布によって形成する際の塗布液の安定性を高めることができる。
【0130】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、ハイドロキノン系化合物、トコフェロール系化合物またはアミン系化合物などが用いられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール誘導体もしくはヒンダードアミン誘導体、またはこれらの混合物が好適に用いられる。
【0131】
これらの酸化防止剤の使用量は、合計で、電荷輸送物質100重量部当たり、0.1重量部以上50重量部以下であることが好ましい。
【0132】
酸化防止剤の電荷輸送物質100重量部当たりの使用量が0.1重量部未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体103の機械的耐久性の向上に充分な効果を得ることができず、また50重量部を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼす。
【0133】
したがって、酸化防止剤の使用量の好適な範囲を、電荷輸送物質100重量部当たり、0.1重量部以上50重量部以下とした。
【0134】
本発明の感光体ドラム103の製造方法には、好ましくは中間層52、電荷発生層54、電荷輸送層55等、各層の乾燥硬化工程が含まれる。感光体ドラム103の乾燥温度としては、約50℃〜約140℃が適当であり、特に約80℃〜約130℃の範囲が好ましい。
【0135】
感光体ドラム103の乾燥温度が約50℃未満では乾燥時間が長くなり、また、乾燥温度が約140℃を越えると、繰返し使用時の電気的特性が悪くなり感光体ドラム103を使用して得られる画像も劣化する。
【0136】
(画像形成装置の説明)
ここで、本発明の感光体ドラム103を備える画像形成装置について説明する。図8は、画像形成装置の概略構造の一例を示す縦断面図である。図8に示すように、画像形成装置100は、画像形成ユニット60と原稿読取ユニット70とを備える。
【0137】
原稿読取ユニット70は、主として自動原稿給紙装置80および走査部90を有している。自動原稿給紙装置80の載置台に載置された複数の原稿用紙は、順次、走査部90の上部へ供給され、原稿の読み取りが行われる。
【0138】
画像形成ユニット60は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックに対応した4つの画像形成ステーションP1〜P4を備えている。4つの画像形成ステーションP1〜P4は基本的に同一の構成を有しており、感光体ドラム103と、その周囲に配設された、帯電器5、現像装置2、転写ローラ64、クリーナユニット4等を備えている。なお、各画像形成ステーションPには、それぞれ個々に識別情報が付されており、制御部は、画像形成ステーションPを個々に判別できるようになっている。
【0139】
画像形成ステーションP1〜P4の下方には、露光ユニット8が配置され、画像形成ステーションP1〜P4の上方には、中間転写ベルト機構6が配設されている。露光ユニット8が、帯電器5にて帯電された感光体ドラム103の表面を画像データに応じて露光することにより、感光体ドラム103の表面に静電潜像を形成し、該静電潜像を現像装置2がトナーを供給することでトナー像とする。感光体ドラム103の表面に形成されたトナー像は、中間転写ベルト機構6により、画像形成ステーションP1〜P4それぞれの転写ローラ64を内側に内設するように巻回された中間転写ベルト61上に重畳して転写される。
【0140】
中間転写ベルト機構6における、中間転写ベルト61の進行方向前方には、転写装置10が配設されており、該転写装置10にて中間転写ベルト61上のトナー像は、給紙カセット81や手差し給紙カセット82より給紙された用紙(シート材)に転写される。さらに、用紙の搬送方向前方には、定着装置7が配設されており、該定着装置7を通過することで、トナー像が用紙上に固化され定着され、その後、排紙トレイ91上に排出される。
【0141】
また、画像形成ユニット60には、4つの画像形成ステーションP1〜P4の各現像装置2にトナーを補給するためのトナー補給装置700が備えられており、図8の構成では、ブラック(B1,B2)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の5つのトナー補給装置700が備えられている。
【0142】
(実施例1)
以下実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定するものではない。
【0143】
酸化チタン(TTO−MI−1:石原産業製)3重量部、アルコール可溶性ナイロン樹脂CM-8000(商品名、東レ社製)3重量部、メタノール60重量部、1,3-ジオキソラン40重量部をペイントシェーカにて10時間分散処理し、中間層用塗布液を調製した。調製した中間層用塗布液を、直径30mm、長さ357mmのアルミニウム製の円筒状の基体25上に膜厚1μmとなるように浸漬塗布法によって塗布して中間層52を成膜し、塗布後2分後に、拭取り装置36の支点39が基体25の軸心43に在る塗膜除去装置1を用いて、基体25の下端部25a、および下端部25aの外面および内面に形成された中間層52を除去した。このときの回転機構30による拭取り部材27が下端部25aを摺動する速度は40rpmとし、摺動時間は20秒とした。
【0144】
拭取り部材27は、材質がポリエチレン(富士ゴム産業株式会社 発泡ポリエチレンフォーム、商品ID:P0015)である。拭き取り溶剤40は、メタノールを用いた。
【0145】
次に、ブチラール樹脂(エスレックBM−2:商標、積水化学社製)10重量部、1,3−ジオキソラン1400重量部、以下の式(化2)を有するチタニルフタロシアニン15重量部をボールミルにより72時間分散し電荷発生層用塗布液を作製した。
【0146】
【化2】

【0147】
この塗布液を用いて、前記の中間層52を設けたアルミニウム製の円筒状の基体25上に浸漬塗工法により膜厚が0.2μmとなるように電荷発生層54を成膜し、塗布後2分後に、上記と同様の塗膜除去装置1を用いて、拭取り部材27にて、基体25の下端部25a、および下端部25aの外面および内面に形成された電荷発生層54を除去した。このときの回転機構30による拭取り部材27が下端部25aを摺動する速度は40rpmとし、摺動時間は20秒とした。
【0148】
拭取り部材27は、材質がポリエチレン(富士ゴム産業株式会社 発泡ポリエチレンフォーム、商品ID:P0015)である。拭き取り溶剤40は、THFを用いた。
【0149】
電荷輸送物質として、以下の式(化3)で示される構造を有するトリフェニルアミン系化合物105重量部、ポリカーボネート樹脂(ユ−ピロンPCZ400:三菱ガス化学社製)115重量部、テトラヒドロフラン754重量部に混合して溶解した。
【0150】
【化3】

【0151】
電荷輸送層塗布液を、浸漬塗布法にて前記の電荷発生層54上に塗布して電荷輸送層55を成膜し、塗布後2分後に、上記と同様の塗膜除去装置1を用いて、拭取り部材27にて、基体25の下端部25a、および下端部25aの外面および内面に形成された電荷輸送層55を除去した。その後、130℃で1時間乾燥して層厚28μmの電荷輸送層55を形成した。このときの回転機構30による拭取り部材27が下端部25aを摺動する速度は40rpmとし、摺動時間は20秒とした。
【0152】
拭取り部材27は、材質がポリエチレン(富士ゴム産業株式会社 発泡ポリエチレンフォーム、商品ID:P0015)である。拭き取り溶剤40は、THFを用いた。
【0153】
(実施例2)
拭取り部材27を拭取り部材27Aに変える点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0154】
(実施例3)
拭取り装置36の支点39の位置を基体25の軸心43から、基体25の半径の1/2よりも力点部38側にする点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0155】
(実施例4)
拭取り装置36の支点39の位置を基体25の軸心43から、基体25の半径の1/2よりも拭取り部材(作用点)27側にする点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0156】
(比較例1)
力点部38および拭取り部材27を設けない点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0157】
(比較例2)
従来技術である浸漬法にて、基体25の下端部25aおよび,下端部25aの内面および外面に形成された塗膜を除去する点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0158】
(比較例3)
従来技術であるノズルを用いて溶剤40を散布し、ブラシやスポンジなどの除去部材によって塗膜を溶解除去する方法にて、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に形成された塗膜を除去する点以外は、実施例1と同様にして感光体ドラム103を作製した。
【0159】
以上のようにして実施例1〜4、比較例1〜3で作製した感光体ドラム103に対して、中間層52作製後、電荷発生層54作製後、電荷輸送層55作製後、各々の「基体25の下端部25aの内面および外面の目視評価」と「搬送パレットの汚れ目視評価」を行った。また、50パレット連続塗工後の中間層52作製後、電荷発生層54作製後、電荷輸送層55作製後、各々の「基体25の下端部25aの内面および外面の目視評価」を実施し、「繰り返し使用性評価」を行った。さらに、感光体ドラム103をデジタル複写機(シャープ社製:MX4110FN)に装着し、「初期ハーフトーン画像評価」を行った。各評価の判定基準は以下の通りである。
【0160】
「基体下端内部、外部の目視評価」
「繰り返し使用性」
VG(very good):拭き残しなし。
G(good) :拭き残しほぼなし。
B(bad) :拭き残し有り。
VB(very bad) :拭き残し多くあり。
「搬送パレットの汚れ目視評価」
G(good) :付着無し。
B(bad) :付着有り。
「初期ハーフトーン画像評価」
VG(very good):ムラ無し。
G(good) :ムラほぼ無し。
B(bad) :ムラ有り。
VB(very bad) :ひどいムラ有り。
得られた上記の評価結果を以下の表に示す。
【0161】
【表1】

【0162】
上記の結果から、本発明の塗膜除去装置1は、塗膜が形成された基体25の下端部25aを溶剤に浸漬させることなく、基体25の降下によって拭取り装置36の一部分を押すことにより、溶剤槽37に浸漬している拭取り部材27を上昇させて、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に接触させ、拭取り部材27を回転させ、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に形成された塗膜を除去する。このため、下端部25aの内面に形成された塗膜を拭き残しなく、下端部25aの外面の塗膜ムラや塗膜ダレを抑制することができる。そのように作製された感光体ドラム103を具備した画像形成装置は、高解像度な画像を得ることができる。
【0163】
また、基体25の昇降といった簡単な動作のみで拭取り溶剤40を含む拭取り部材27が、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に効果的に接触し、回転するため、容易に精度よく再現性を持って、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に形成された塗膜を除去することができる。
【0164】
また、基体25を拭き取っていない間(塗膜非除去時)は、拭取り部材27は、拭き取り溶剤40に浸漬しているため、ノズル等で溶剤40を拭取り部材27に供給する必要なく、十分に溶剤40を含んでいる。このため、効果的に基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に形成された塗膜を除去することができる。
【0165】
さらに、基体25の上昇時(塗膜非除去時)に、拭き取り溶剤40に浸漬している拭取り部材27が溶剤40中で回転する。このため、常に一定の洗浄効果が得られ、拭取り部材27は清浄な状態であり、拭き取った塗膜が再度基体25やパレットに付着することを防ぐことができる。
【0166】
また、拭取り装置の拭取り部材27の形状が、基体25の下端部25aの形状に加工されている。このため、拭取り部材27は精度よく基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に密着する。また、その高い密着性を保ったまま、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面と、拭取り部材27とが当接した状態で互いに摺動することによって、基体25の下端部25a、および下端部25aの内面および外面に形成された不要な塗膜を確実に除去することができる。
【0167】
また、拭取り装置36の支点39が基体25の軸心43の延長上から基体25の半径の1/2以内にある。このため、適切に拭取り装置36が作動し、基体25が降下する動作によって拭取り装置36の力点部38に力が加わることで、効果的に拭取り部材27が上昇し、基体25の下端部25a、および基体25の下端部25aの内面および外面に接触することができる。
【0168】
以上のように、本発明の塗膜除去装置1および感光体ドラムの製造方法により、精度よく基体25の下端部25aおよび、その付近に形成された塗膜が除去され、塗膜ムラや塗膜ダレ、感度ムラの少ない感光体ドラム103を製造することができる。また、このような感光体ドラム103を具備した画像形成装置は高解像で良好な画像を得ることができる。
【0169】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0170】
1,1A 塗膜除去装置
25 基体
25a 下端部
26 チャック装置
27,27A 拭取り部材
28 基台
29 昇降機構
30 回転機構
31 支持軸
32 風船体
33 アーム部材
34 昇降モータ
35 回転台
36 拭取り装置
37 溶剤槽
38 力点部
39 支点
40 溶剤
41 回転モータ
43 軸心
43a,43b アーム
44 拭取り部材昇降機構
103 感光体ドラム
200 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬法によって塗膜が形成された円筒状の基体を、該基体の軸心が鉛直方向となるように昇降する基体昇降機構と、
前記基体に形成された不要な塗膜を拭取る拭取り装置と、を備え、
前記拭取り装置は、塗膜を除去するための溶剤を溜めた溶剤槽と、
前記溶剤槽に浸漬された拭取り部材と、
前記拭取り部材と前記基体とを相対的に回転させる回転機構と、
前記基体昇降機構による前記基体の降下により前記拭取り装置の力点が押下されることにより、前記溶剤に浸漬された拭取り部材を上昇させて、少なくともその一部を液面より露呈させて、該拭取り部材を前記基体の下端部および下端部の内外面に接触させる拭取り部材昇降機構と、を備え、
前記拭取り部材昇降機構により該拭取り部材が前記基体の下端部および下端部の内外面に接触された状態で、前記回転機構にて前記拭取り部材と前記基体とが相対的に回転されることで塗膜を除去することを特徴とする、塗膜除去装置。
【請求項2】
前記回転機構は、該拭取り部材が前記基体の下端部および下端部の内外面に接触していないときに、前記溶剤に浸漬された状態の前記拭取り部材を回転させる、請求項1に記載の塗膜除去装置。
【請求項3】
前記拭取り部材は、前記基体の下端部と接触する部位に、前記下端部の形状に合った切込み部が形成されている、請求項1または2に記載の塗膜除去装置。
【請求項4】
前記拭取り部材昇降機構は、前記力点と前記拭取り部材との間に支点が設けられ、
前記支点が設けられる位置は、前記基体の軸心の延長上から、該基体の半径の1/2以内である、請求項1〜3のいずれかに記載の塗膜除去装置。
【請求項5】
円筒状の基体表面に、中間層、電荷発生層、電荷輸送層がこの順に成膜されてなる感光体ドラムの製造方法であって、
前記基体の下端部および下端部の内外面に成膜された中間層、電荷発生層、電荷輸送層を除去する各工程において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗膜除去装置を用いることを特徴とする感光体ドラムの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法を用いて製造された感光体ドラムを備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−97334(P2013−97334A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242838(P2011−242838)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】