説明

塗装された金属製フラット成形体の製造方法

少なくとも一層の金属層とその上に形成した化成皮膜と少なくとも一層の塗膜を含むフラット成形体、及びフラット金属半製品から出発して前記成形体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一層の金属層とその上に塗布された化成皮膜と少なくとも一層の塗膜とを有するフラット成形体、及び金属製のフラット半製品から成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属シートからシート状金属部品の製造に用いられている素材、例えば、自動車部品や車体部品、装置のケーシング、建築エクステリア表面材、天井パネル、窓枠などは、一般的に、金属ブロックの熱間圧延及び/又は冷間圧延により製造され、保管や輸送のためにロール状に巻かれる(コイルという)長尺の金属ストリップが使用されている。このような成形部品を製造するため、金属ストリップを切断し、適当な方法、例えば押し抜き、ドリル加工、折り曲げ、倣削り及び/又は深絞りなどを用いて、所望の成形体を作っている。自動車車体などの大型部品は、例えば、適当なら二個以上の部品を連結して組み立てられる。
【0003】
上記の金属製部品には一般に腐食防止が必要である。この腐食防止処理は、通常多段操作で実施され、処理金属成形体の表面には二種以上の異なる塗膜が形成される。通常、まず第一に、実際の腐食防止塗膜が形成される。この種類の塗膜は、不動態膜、化成皮膜などの名称で知られている。さらなる品質改良のために、腐食防止塗膜のうえに他の(塗料)塗膜が形成されることもある。それぞれ異なる目的を持つ二種以上の塗料を組み合わせることもある。これらは、例えば、不動態膜や金属を腐食性のガス及び/又は液体から保護したり、石ころでの傷などの機械的損傷から保護したりするために使用され、また美観上の理由で使用されることもある。塗膜は、通常、腐食防止膜よりはるかに厚さが大きい。通常の厚さは、4〜400μmの範囲である。
【0004】
腐食防止処理は、製造操作中のいろいろな時点で実施可能である。処理は、一時的な腐食防止の場合もあり、永続的な腐食防止の場合もある。例えば、成形体の製造後に腐食防止処理を行ってもよく、つまり工作物に成形した後その工作物を塗装してもよい。
【0005】
一時的な保護膜は、金属ストリップや他の金属製工作物の保管や輸送の目低のためのみに施され、最終の加工の前に除去される。この一時的塗布膜は、他の目的のためのものであってもよく、例えば、例えば深絞りなどの後加工の際の作業性向上をめざすものであってもよい。
技術的にも経済的にも特に重要なのは、亜鉛めっき表面である。亜鉛による腐食防止は、亜鉛が金属材料自体より塩基性が高く、したがって自分自身が先に腐食されるという事実に基づいている。亜鉛で連続的に覆われている限り、金属材料自体は腐食されずに無傷で存在することとなる。アルミニウムやアルミ合金の金属ストリップも重要である。大気酸素の存在下では、ZnやZn合金、Al、Al合金の表面に当初、薄い酸化膜が形成され、外的な条件によっては、この酸化膜が、多かれ少なかれ、下にある金属への腐食性物質の攻撃を遅らせる。
【0006】
腐食防止処理の際に、金属表面は適当な配合物で処理される。このような処理の際に、金属の一部が溶出して、金属表面の酸化皮膜中に直ちに取り込まれる。このフィルムは、いずれの場合も、そこに存在する酸化被膜とよく似てはいるが、酸化被膜より強固に接触して密度も高いため、腐食防止効果が大きい。通常、これは不動態膜とよばれている。一般的にいえば、金属に塗布されたと塗膜の密着性を増加させる。したがって「不動態膜」に代えて、「化成皮膜」という言葉が同じ意味で使用され、時には、「前処理膜」という言葉も使用されている。亜鉛めっき直後の鋼ストリップ上に形成された不動態膜は、時々、「後処理膜」ともよばれる。不動態膜は比較的薄く、通常厚さが3μm以下である。
【0007】
保護すべき工作物をクロム酸を含む酸性水溶液で処理して亜鉛又はアルミニウムの表面にこの種類の不動態膜を形成する方法は公知である。このような不動態化のメカニズムは複雑である。現在実施されている方法の一つは、表面からの金属Zn又は金属Alの溶離と非晶質の亜鉛クロム酸化物又はアルミニウムクロム酸化物としての再沈殿によるものである。しかし、この皮膜には、処理溶液由来の他のイオン及び/又は他の成分
が含まれることとなる。クロム酸での処理の場合、特に、Cr(VI)の一定成分の不動態膜への取り込みも望ましい。
【0008】
Cr(VI)溶液での処理を避けるため、酸性のCr(III)水溶液での処理が提案されている。例えば、特許文献1又は2に開示されている。例えば自動車や電気器具の構造に関する法規制のため、また食品と好ましくない重金属化合物との接触を断ち切るため、完全にクロム不使用の不動態化プロセスを必要とする用途が、ますます増加してきている。Cr(VI)やCr(III)の使用を避けるため、ポリマーの使用が、ますます重要となってきている。また、毒性及び/又は環境の見地より、金属表面を前処理するに当たり、前もってコバルト、フッ化水素酸、フッ素化物、及び六フッ化金属酸で処理すべきという要望がある。
【0009】
特許文献3は、クロムとフッ化物を使わずにZn又はAlの金属表面に化成皮膜を形成する方法を開示している。この不動態化に使用される酸性溶液は、水溶性ポリマーとリン酸とAlキレート錯体を含んでいる。必要に応じて、(メタ)アクリル酸のポリマーやコポリマーを使用することも可能である。
【0010】
特許文献4は、Ti(IV)及び/又はZr(IV)のヘキサフルオロアニオンとバナジウムイオンとコバルトイオンとリン酸とを含む、クロム非含有の水性腐食防止組成物を開示している。必要に応じて、アクリル酸/マレイン酸コポリマーなどのカルボキシル含有コポリマーを含むいろいろなフィルム成形性ポリマーを添加することも可能である。
【0011】
特許文献5には、まずこのストリップに腐食防止塗膜及び/又は塗料のポリマー塗膜を形成した後分割してストリップ断片とし、この塗装されたストリップ断片を、加工し、連結し、次いで塗料を塗布することからなる金属製ストリップの塗装方法が開示されている。この塗料状の塗液は、直接金属上に塗布してもよく、水と酸価が5〜200である水溶性ポリマー、微細な無機化合物、滑沢剤及び/又は腐食防止剤を含む配合物を用いて塗布される。
【0012】
特許文献6と7には、塗膜の下の薄板表面上に直接、腐食防止タイコートを形成するのに、二重結合を有するカルボン酸のホモポリマー又はコポリマーなどのポリ酸あるいはホスホン酸と、ガラス転移温度が100℃を超えるポリマー及び/又は低分子量カルボン酸との組み合わせを使用することが開示されている。金属表面をもつフラット半製品から塗装された成形体を製造する方法についての記載はない。
【0013】
特許文献8には、50質量%〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸、0.1質量%〜50質量%以上の酸性コモノマーと必要に応じて他のコモノマーとからなるコポリマーを用いて金属表面に不動態膜を形成する方法が開示されている。
【0014】
特許文献9には、少なくとも50質量%の(メタ)アクリル酸単位を含むポリマーを使用する、実質的にクロム不使用の金属表面不動態化方法が開示されている。この不動態膜は架橋されている。しかし、いずれの文献にも、金属表面を持つフラット半製品から塗装された成形体を製造する方法についての記載がない。
【0015】
【特許文献1】US4,384,902
【特許文献2】WO/40208
【特許文献3】DE−A19516765
【特許文献4】DE−A19754108
【特許文献5】WO02/31064
【特許文献6】EP−A752453
【特許文献7】EP−A846733
【特許文献8】WO2004/74372
【特許文献9】WO2005/42801
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、金属表面を有するフラット半製品、例えば金属シートや金属ストリップから出発して塗装された金属製成形体を製造する、改良された、好ましくはクロム不使用の製造方法を提供することである。本方法はまた、好ましくは、フッ化物、ニッケル及びコバルトを使用すべきでない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、少なくとも一種のフラット金属半製品を出発材料として用いて、少なくとも一層の金属層を持つ塗装されたフラット成形体を製造する方法であって、少なくとも下記工程:
(I)金属半製品、及び/又は(III)及び/又は(IV)で塗装された半製品を加工して成形体とする工程、
(II)金属表面を洗浄する工程、
(III)金属表面を酸性水溶液Z1で処理して、金属表面に化成皮膜を形成する工程、及び
(IV)化成皮膜で処理された表面に少なくとも一種の塗膜を形成する工程を含み、
酸性水溶液Z1が、少なくとも二種の異なる酸性基含有モノマーを含み、100gのポリマーに対して少なくとも0.6molの酸性基を含む少なくとも一種の水溶性コポリマーXを含み、前記水溶液のpHが5以下であり、さらに前記ポリマーの量が、前記水溶液の全成分の総量に対して1質量%〜40質量%であることを特徴とする方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のある好ましい実施様態において、前記水溶性コポリマーXが、下記モノマー単位(コポリマーX1において共重合されたモノマーの総量に対して):
(A)40質量%〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)0.1質量%〜60質量%の、(A)とは異なる、一個以上の酸性基を有する、少なくとも一種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、及び
(C)必要に応じて、0質量%〜30質量%の、(A)と(B)とは異なる、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和モノマー、
から構成されるコポリマーX1である。
【0019】
本発明の他の様態は、少なくとも一層の金属層と、その上に形成された一層の化成皮膜と、少なくとも一層の塗膜を含む成形体であって、その化成皮膜が少なくとも一種のポリマーXを含むものである。
【0020】
本発明の方法は、少なくとも一層の金属層を有する塗装されたフラット成形体を提供する。これらは、一層の化成皮膜と、一層の塗膜とを有している。
【0021】
「フラット(flat)」という単語は、他の寸法に比べて厚さが際立って薄い成形体を指すのに使用される。一般に、この成形体の厚さは、12mm未満、好ましくは6mm未満、さらに好ましくは4mm未満であり、例えば0.25〜2mmである。この成形体は、平面状であっても非平面状であってもよく、例えば、表面が曲面であり、縁や角が真直ぐであっても曲がっていてもよい。また、これらは、中空状またはチューブ状、あるいはシルエット状であってもよい。このような場合、「厚さ」とは、壁厚をいう。
【0022】
このような種類の成形体としては、特に、ライニングやマスキング、外装用の成形体が挙げられる。このような例としては、自動車車体又はその部品や、トラック車体、オートバイや自転車などの二輪車用のフレーム、フェアリングやパネルなどのこの種の車両用の部品、洗濯機、食器洗い機、洗濯乾燥機、ガスオーブンや電気オーブン、電子オーブン、大型冷蔵庫や冷凍機などの家庭電化製品のケーシング、機械、配電盤、コンピューターハウジングなどの工業用装置・機器のケーシング、壁材や外装材、天井材、窓枠、扉枠、間仕切りなどの建築分野の構造材料、金属食器棚、金属棚、家具部品、継手など金属材料製の家具が挙げられる。これらの成形体は、液体等の物質を保存するため中空状であってもよく、その例としては、ブリキカンやカン、タンクが挙げられる。
【0023】
本発明の方法で用いられる出発材料は、少なくとも一種のフラット金属半製品である。「半製品」とは、通常、比較的大型の製品を製造するための、加工済みの又は半加工状態の原料をいう。一般に、このような半製品は金属のみからできている。これは、単一層の材料であってもよいし、二層以上の異なる金属層からなる材料であってもよい。好ましくは、二次元の材料であり、例えば、金属板状物や金属シート、金属ストリップ、金属箔が挙げられる。しかし、他の形状のものであってもよい。好ましくは金属シート又は金属ストリップであり、特に好ましくは金属ストリップである。一般に、使用する金属半製品の厚さは、10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下であり、例えば2mm以下である。
【0024】
なお、「金属半製品」とは、少なくとも金属表面を有し、その中の少なくとも一層の金属層が少なくとも一層の非金属層に結合している複合材料を含むものである。この複合材料は、例えば高分子フィルムに貼り合わせた金属箔であってもよい。
【0025】
金属、特に金属シートや金属ストリップの金属は、例えば、鉄又は鋼、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、スズ、銅、これらの金属の合金、又は他の金属との合金であってよい。上記の鋼には、低合金鋼と高合金鋼のいずれもが含まれる。
【0026】
これらの材料は、好ましくはZn又はZn合金、Al又はAl合金、あるいはスズの金属表面をもつ材料である。この表面は、特に亜鉛めっき鉄あるいは亜鉛めっき鋼であってもよい。本方法のある好ましい実施様態においては、表面が、ストリップ金属からなり、特に電解亜鉛めっき鋼又は熱浸漬亜鉛めっき鋼のストリップからなる。
【0027】
「亜鉛めっき」又は「アルミニウムめっき」は、もちろん、Zn合金又はAl合金の塗布をも含んでいる。金属ストリップの塗布に適する合金は、当業者には公知である。当業者は、所望の最終用途に応じて合金組成やその量を決定する。典型的な亜鉛合金の成分は、特に、Al、Mg、Pb、Fe、Mn、Co、Ni、Si、Mg、Sn、Cu、又はCdであり、好ましくは、Al及び/又はMgである。この合金は、AlとZnとをほぼ同量で含むAl/Zn合金であってもよい。塗布は、実質的に均一に行ってもよいし、濃度に傾斜をつけて行ってもよい。本方法は、例えばMgを蒸着させた亜鉛めっき鋼をも含んでいる。この蒸着により、見かけ上、Zn/Mg合金ができる。上記合金で塗装した鋼は市販されている。典型的なアルミ合金の成分は、特に、Mg、Mn、Si、Zn、Cr、Zr、Cu、又はTiである。
【0028】
処理対象の金属表面は、もちろん、薄い表面酸化/水酸化膜及び/又は表面炭酸化膜、又は類似構造の表面膜を有していてもよい。このような層は、通常金属表面が大気と接触するとそれぞれできるものであり、「金属表面」に含まれる。
【0029】
出発材料として使用される半製品は、腐食防止処理が施されたものであってもよい。例えば、この半製品が腐食防止油を塗布されたものであっても、一時的な腐食防止塗膜を有するものであっても、着脱可能な保護シートで保護されたものであってもよい。これらの方法を組合せたものであってもよい。もし保護シートがある場合には、本方法の実施前にこれらは通常取り除かれる。一時的な塗膜及び/又は油を、必要なら洗浄工程(II)で取り除いてもよい。
【0030】
本発明の方法の工程(I)において、金属半製品が処理されて成形体を与える。この成形は、上記の出発材料を用いて行ってもよいし、あるいは本方法の工程(III)及び/又は工程(IV)の少なくとも一工程で塗布された半製品を用いて行ってもよい。
【0031】
原則として、本方法の工程(I)において、フラット金属半製品から所望形状のフラット成形体を与えるのに使用できるあらゆる方法を当業者は用いることができる。工程(I)は、二個以上の副工程を有していてもよい。一般的には、工程(I)は、分割工程(Ia)、加工工程(Ib)、及び連結工程(Ic)からなる群から選択される少なくとも一種の工程、好ましくは少なくとも上記グループ中の二つの工程を有する。また、他の副工程を含んでいてもよいであろう。
【0032】
分割工程(Ia)では、出発材料として用いる半製品を、具体的には例えば金属ストリップやシートを、適当なサイズの断片に分割し、さらなる成形のために必要ならこれらの断片や元の材料から発生する粒子状材料を分離する。使用する分割方法は、機械切削法であっても成形法であってもよい。分割は、例えば適当な工具を用いて、押し抜きや切断により実施される。切断は、熱的に、例えばレーザを用いて行ってもよいし、水噴射により行ってもよい。分割法の他の例としては、のこ引きやドリル加工、ミリング、やすり加工が挙げられる。
【0033】
加工工程(Ib)では、半製品自体の、あるいは前もって工程(Ia)及び/又は工程(Ic)処理した半製品の形状を塑性的に変化させて、異なる形状の成形体に変換する。加工は、冷成形又は熱成形により行われる。好ましくは、冷成形である。成形の例としては、圧延やエンボス加工などの圧縮成形、引き抜きや深絞り、ロールベンディング又はプレスベンディングなどの引張圧縮成形、縦延伸又は横延伸などの引張成形、曲げ、縁圧延又はエッジングなどの曲げ成形、撚りや転位などの剪断成形が挙げられる。このような成形法の詳細は、当業者には公知である。これらの操作は、例えば、DIN8580又はDIN8584などの関連規格に定められている形式で記録しておく。本発明の実施に当たり特に好ましい方法は、深絞りである。
【0034】
連結工程(Ic)では、二個以上の半製品を、あるいは好ましくは工程(Ia)及び/又は工程(Ib)において加工された半製品を相互に連結して、機能単位を形成する。例えば、プレス、溶接、はんだ付け、接着剤固定、ねじ止め、又はリベット止めで実施される。例えば、自動車車体の場合は、いくつかの個々の部品が連結される。連結に使用される出発材料は、互いに同一の半製品であってもよいし、相互に異なる種類の半製品であってもよい。例えば、亜鉛めっき鋼と非亜鉛めっき鋼とアルミニウムとが相互に連結されて、成形体を与える。
【0035】
当業者は、本方法の工程(I)の実施に利用可能な方法の中から、成形体の所望の形状に応じて適当な選択を行う。パネルシートのような平面状成形体の場合には、半製品から、適当な形状にパンチしたりカットしたり、実装用の孔をあけたり、必要なら周辺を丸めたりすることで十分であろう。より複雑な形状のパネル部品を作るには、さらに適当な加工が、例えば曲げなどの作業が必要となる。車両ボディーのような大型部品では、二個以上の個別部品を連結して組み立ててもよい。
【0036】
本方法の各工程(Ia)、(Ib)、(Ic)を組合せても、例えば分割工程と加工工程を組合せてもよい。例えば、一回の操作で、成形体を打ち抜き深絞りにより成形してもよい。
【0037】
本発明の方法は、さらに少なくとも一回の洗浄工程(II)を含んでいる。この工程では、半製品の表面から不純物及び/又は不要成分が取り除かれる。例えば、以降の工程で問題を起こさないように、ほこり、油分、グリース又は一時的な腐食防止用塗膜を、表面から取り除いてもよい。洗浄工程は、例えば表面のブラシ研磨のような機械的洗浄を含んでいてもよい。また、表面を、例えば浴に浸漬したりあるいは噴射したりして、適当な液体媒体で洗浄してもよい。液体媒体で洗浄する場合、例えばブラシなどの機械的手段で補助してもよい。この洗浄操作は、特に表面の脱脂操作であってもよい。この脱脂操作は、有機溶剤及び/又は水溶液を用いて行うことができる。界面活性剤を含んだアルカリ性水溶液で脱脂することが好ましい。洗浄工程が、酸洗いあるいは酸洗い/脱脂を含んでいることもある。酸洗いに特に好ましいプロセスや製剤についての情報は、例えば、WO2005/033364に記載されている。洗浄工程の後で、この表面を一回以上の水洗工程により、さらに洗浄してもよい。二回以上の洗浄工程を組合せてもよいであろう。
【0038】
洗浄の他の実施様態として、表面に圧縮空気を吹き付けたり、吸引をかけたりすることもできる。
【0039】
本方法の工程(III)において、金属表面上に化成皮膜が形成される。このために、この金属表面を、少なくとも一種の酸性基含有水溶性コポリマーを含む酸性の酸性水溶液Z1で処理する。この処理の間に金属表面の化学的性質に変化が起こる。この変化により、例えば塗膜の接着が強化され、腐食防止効果が高まる。
【0040】
この酸性基は、好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選択される。この酸性基は、カルボキシル基、リン酸基、又はホスホン酸基であることが特に好ましい。
【0041】
本発明によれば、使用するコポリマーXは、100gのポリマーに対し、少なくとも0.6molの酸性基を含んでいる。この値は、遊離の酸性基の量である。このコポリマーは、好ましくは、100gに対し少なくとも0.9molの酸性基さらに好ましくは少なくとも1mol、特に好ましくは少なくとも1.2molの量で酸性基を含んでいる。
【0042】
本発明の目的において「水溶性」とは、使用するコポリマー又はコポリマー混合物が均一に水に溶解可能であることを意味する。水不溶性であるポリマーの架橋粒子の水性分散液は、本発明の範囲に含まれない。使用する酸性基含有コポリマーが無限に水混和性であることが好ましいが、常に絶対に必要なわけではない。しかし、本発明の方法により化成皮膜の形成が可能となる程度までは水溶性であることが必要である。一般に使用するコポリマーの溶解度は、少なくとも50g/lであり、好ましくは100g/l、さらに好ましくは少なくとも200g/lである。
【0043】
酸性基含有ポリマーの水中溶解度がpH値に依存することは、水溶性ポリマーの分野の当業者にとって公知のことである。したがって、溶解度を決定するに当たり、特定最終用途における所望pHを参照する必要がある。目的とする最終用途におけるpHでは溶解度が不十分なポリマーでも、異なるpHでは十分な溶解度を示すことがある。
【0044】
使用するコポリマーXは、少なくとも二種の異なる酸性基含有モノマーのコポリマーである。例えば、(メタ)アクリル酸と、マレイン酸、イタコン酸及び/又はビニルホスホン酸などの他の酸性モノマーとのコポリマーであってもよい。このコポリマーは、さらに酸含有基を持たない他のモノマーを含んでいてもよい。しかし、これらのモノマーの量は、共重合でコポリマーに取り込まれる全モノマーの総量に対し30質量%以下である必要がある。
【0045】
本発明のある特に好ましい実施様態において、コポリマーXは、(メタ)アクリル酸単位(A)と、相互に異なる酸性基含有モノエチレン性不飽和モノマー類(B)と、必要に応じて他のモノマー(C)とを構造単位として持つ一種以上の水溶性コポリマーX1を含んでいる。
【0046】
コポリマーX1の製造のためのモノマー(A)は、(メタ)アクリル酸である。アクリル酸とメタクリル酸の混合物を用いてもよいであろう。
【0047】
コポリマーX1中の(メタ)アクリル酸の含量は、40質量%〜99.9質量%であり、好ましくは50質量%〜90質量%、さらに好ましくは50質量%〜70質量%である。なお、この値は、ポリマー中の全モノマーの総量に対する量である。
【0048】
モノマー(B)は、(A)とは異なる、(A)と共重合可能な少なくとも一種のモノエチレン性不飽和モノマーであり、一種以上の酸性基を有している。二種以上の異なるモノマー(B)を混合して用いてもよいであろう。
酸性基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基又はスルホン酸基が挙げられるが、本発明が、特にこれらの酸性基に限定されるわけではない。
【0049】
このようなモノマーの例としては、クロトン酸や、ビニル酢酸、モノエチレン性不飽和ジカルボン酸のC1−C4モノエステル類、スチレンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、リン酸モノビニル、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸が挙げられる。
【0050】
コポリマー中のモノマー(B)の含量は、いずれの場合もポリマー中の全モノマーの総量に対して、0.1質量%〜60質量%、好ましくは10質量%〜50質量%、及びさらに好ましくは30質量%〜50質量%である。
【0051】
本発明のある好ましい実施様態において、モノマー(B)は、炭素原子数が4〜7のモノエチレン性不飽和ジカルボン酸(B1)、及び/又はモノエチレン性不飽和リン酸及び/又はホスホン酸(B2)である。
【0052】
モノマー(B1)の例としては、マレイン酸やフマール酸、メチルフマール酸、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、メチレンマロン酸、イタコン酸が挙げられる。これらのモノマーは、適当なら相当する環状無水物の形で用いてもよい。好ましくは、マレイン酸とフマール酸とイタコン酸であり、特に好ましくはマレイン酸及び/又はマレイン酸無水物である。
【0053】
モノマー(B2)の例としては、ビニルホスホン酸、リン酸モノビニル、アリルホスホン酸、モノアリルリン酸、3−ブテニルホスホン酸、モノ−3−ブテニルリン酸、モノ(4−ビニルオキシブチル)リン酸、ホスホノキシエチルアクリレート、ホスホノキシエチルメタクリレート、リン酸モノ(−2−ヒドロキシ−3−ビニルオキシプロピル)、リン酸モノ(1−ホスホノキシメチル−2−ビニルオキシエチル)、リン酸モノ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)、リン酸モノ−(2−(アリルオキシ−1−ホスホノキシメチルエチル)、2−ヒドロキシ−4−ビニルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホール、及び2−ヒドロキシ−4−アリルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールが挙げられる。B2は、好ましくは、ビニルホスホン酸、リン酸モノビニル又はアリルホスホン酸であり、さらに好ましくはビニルホスホン酸である。
【0054】
上記のモノマー(A)とモノマー(B)以外に、0質量%〜30質量%の、(A)と(B)以外の、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和モノマー(C)を使用してもよい。これら以外に、他のモノマーは使用しない。
【0055】
モノマー(C)は、コポリマーX1の特性の微調整に用いられる。もちろん、二種以上の異なるモノマー(C)を使用してもよい。これらは、コポリマーの所望の特性に応じて当業者により選定されるが、モノマー(A)とモノマー(B)とに共重合可能であることが必要である。
【0056】
モノマー(A)とモノマー(B)と同様に、好ましくはモノマー(C)もモノエチレン性不飽和モノマーである。しかし、特定の場合には、二個以上の重合性基を有するモノマーを少量用いてもよい。この結果、コポリマーが少し架橋することとなる。
【0057】
適当なモノマー(C)の例としては、特に、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルやヒドロキシアルキルエステル類、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート又はブタン−1,4−ジオールモノアクリレートが挙げられる。他の好ましい例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ビニル4−ヒドロキシブチルエーテル、デシルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2−(ジ−n−ブチルアミノ)エチルビニルエーテル、メチルジグリコールビニルエーテルなどのビニル又はアリルエーテル類、及び相当するアリル化合物が挙げられる。また、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類を使用することも可能である。塩基性コモノマーを使用することも可能であり、その例としては、アクリルアミドやアルキル置換アクリルアミド類が挙げられる。アルコキシル化モノマー、より具体的にはエトキシル化モノマーを用いてもよい。特に好ましいのは、アクリル酸又はメタクリル酸由来のアルコキシル化モノマーである。
【0058】
架橋性モノマーの例としては、二個以上のエチレン性不飽和基をもつ分子、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートやブタン−1,4−ジオールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのポリ(メタ)アクリレート類;オリゴアルキレンのジ(メタ)アクリレート類;及びジ−、トリ−又はテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコール類が挙げられる。他の例としては、ビニル(メタ)アクリレートやブタンジオールジビニルエーテルが挙げられる。
【0059】
使用する全モノマー(C)の総量は、使用する全モノマーの総量に対して、0質量%〜30質量%である。好ましくは、この量が0質量%〜20質量%、さらに好ましくは0質量%〜10質量%である。架橋性モノマー(C)が存在する場合、それらの量は、一般に、本発明に用いる全モノマーの総量に対して、5%以下であり、好ましくは2質量%である。この量は、例えば10質量ppm〜1質量%であってもよい。
【0060】
本発明のある特に好ましい実施様態においては、コポリマーX1が、(A)以外に、少なくとも一種のモノマー(B1)と少なくとも一種のモノマー(B2)を含む。特に好ましいのは、モノマーの(A)と(B1)と(B2)以外に、他のモノマー(C)が含まれていないことである。
【0061】
本発明の性能のためには、コポリマーX1中のモノマー(A)と(B1)と(B2)の量が、それぞれ、(A)の量が50質量%〜90質量%、(B1)の量が5質量%〜45質量%、(B2)の量が5質量%〜45質量%、及び(C)の量が0質量%〜20質量%であることが好ましい。(B1)と(B2)は、それぞれ単一のモノマー(B1)と(B2)であってもよいが、それぞれ二種以上の異なるモノマーの混合物である(B1)と(B2)であってもよい。
【0062】
特に好ましくは、(A)の量が50質量%〜80質量%で、(B1)の量が12質量%〜42質量%で、(B2)の量が8質量%〜38質量%で、(C)の量が0質量%〜10質量%である。
【0063】
さらに特に好ましくは、(A)の量が50質量%〜70質量%で、(B1)の量が15質量%〜35質量%で、(B2)の量が15質量%〜35質量%で、(C)の量が0質量%〜5質量%である。
【0064】
特に好ましくは、このコポリマーが、上記の量のアクリル酸とマレイン酸とビニルホスホン酸からなるコポリマーX1である。
【0065】
成分の(A)と(B)、及び必要に応じて成分(C)は、原則として公知の方法で、相互に重合させられる。このような重合法は当業者には公知である。このコポリマーは、好ましくは上記成分(A)と(B)、及び必要に応じて成分(C)の、水溶液中でのフリーラジカル付加重合により製造される。また、少量の水混和性有機溶剤が存在していてもよく、また必要なら少量の乳化剤が存在していてもよい。フリーラジカル付加重合の操作の詳細は、当業者には公知である。
【0066】
コポリマーX1を製造するにあたり、酸性モノマーの場合、いずれの場合も、遊離酸を使用することが可能である。あるいは酸性モノマーで重合する場合、遊離酸ではなくエステルや酸無水物、あるいは他の加水分解性の酸誘導体を用いて、ポリマーを製造することも可能である。重合中あるいは重合後に、これらのエステルや無水物又は他の誘導体は、水溶液中で加水分解を起こし、相当する酸性基を生成する。特にマレイン酸あるいは他のcis−ジカルボン酸を、環状無水物の形で使用することが有利である。これらの無水物は、一般に水溶液中で急激に加水分解して、相当するジカルボン酸を与える。他の酸性モノマー、特にモノマー(A)とモノマー(B2)は、好ましくは遊離酸として使用される。
【0067】
この重合を、さらに少なくとも一種の塩基の存在下で行ってもよい。このようにして、特にマレイン酸などのモノマー(B1)のポリマーへの導入を向上させることができ、共重合されないジカルボン酸の量を低減することが可能となる。
【0068】
中和に適当な塩基としては、特にアンモニアやアミン、アミノアルコール類、アルカリ金属水酸化物が挙げられる。異なる塩基の混合物を使用することも可能であろう。好ましいアミンとしては、炭素数が最大24個のアルキルアミン類、炭素数が最大24個のアミノアルコール類、及び−N−C24−O−と−N−C24−OHと−N−C24−O−CH3の種類の構造単位である。このようなアミノアルコール類の例としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びこれらのメチル化誘導体が挙げられる。これらの塩基を、重合前または重合中に添加してもよい。また、もちろん塩基を使用せずに重合してもよく、また必要に応じて重合後に塩基を加えてもよい。このようにして、ポリマーのpHを最適に調整することができる。
中和度は高すぎてもよくないが、ポリマー中には十分な量の遊離酸性基が存在する必要がある。遊離酸性基によりポリマーの金属表面への接着が特に良好となる。一般的には、ポリマーXあるいはコポリマーX1中の酸性基の40mol%以下が中和形であり、好ましくは0〜30mol%、さらに好ましくは0〜20mol%、特に好ましくは0〜12mol%であり、例えば、2〜10mol%である。
【0069】
フリーラジカル重合は、好ましくは適当な熱活性化重合開始剤を用いて開始させられる。
【0070】
使用される開始剤としては、原則として重合条件下でフリーラジカルに変化するあらゆる化合物が使用できる。熱活性化重合開始剤のなかでは、特に、分解温度が30〜150℃、特に50〜120℃の範囲にある開始剤が好ましい。通常通り、この温度は半減期が10時間となる温度である。
【0071】
原則として当業者がこれらの開始剤の中から適当な選択を行う。これらのフリーラジカル開始剤は、反応溶媒に十分溶解する必要がある。もし水のみを溶媒として使用する場合なら、開始剤が十分な水溶解度を持つ必要がある。有機溶剤あるいは水と有機溶剤の混合物中で操作をする場合には、有機溶解性開始剤を用いてもよい。水溶性開始剤の使用が好ましい。
【0072】
適当な開始剤の例としては、無機ペルオキソ化合物類、例えばペルオキソ二硫酸塩(特にアンモニウム、カリウム塩、好ましくはナトリウムペルオキソ二硫酸)、ペルオキソ硫酸塩、ヒドロペルオキシド、過炭酸塩、及び過酸化水素、及びいわゆる酸化還元開始剤が挙げられる。場合によっては、異なる開始剤の混合物、例えば過酸化水素とペルオキソ二硫酸ナトリウム又はカリウムとの混合物を使用することが有利である。過酸化水素とペルオキソ二硫酸ナトリウムの混合物は、どのような比率ででも使用可能である。
【0073】
また、有機ペルオキソ化合物を使用することも可能で、この例としては、ジアセチルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(o−トロイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、tert−ブチルペルマレエート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチルペルオクトエート、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルハイドロペルオキシド(水溶性)、クメンハイドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、及びジイソプロピルペルオキシカルバメートが挙げられる。
【0074】
さらに好ましい開始剤はアゾ化合物である。好ましい水溶性アゾ化合物の例としては、2,2'−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミドゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、2,2'−アゾビス[2−(2−イミドゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2'−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミドゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素化物、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[2−(2−イミドゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)二塩化水素化物、2,2'−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、2,2'−アゾビス[2−(2−イミドゾリン−2−イル)プロパン]、及び2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}が挙げられる。
【0075】
有機溶剤に可溶であるアゾ化合物の例としては、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、及び2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)が挙げられる。
【0076】
さらに好ましい開始剤は酸化還元開始剤である。酸化還元開始剤は、酸化性成分として少なくとも一種の上記ペルオキソ化合物と、還元性成分として、例えばアスコルビン酸、グルコース、ソルボース、亜硫酸アンモニウム又はアルカリ金属水素、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、次亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩又はスルフィド又はヒドロキシメチルスルホキシル酸ナトリウムとを含有している。酸化還元触媒の還元性成分としては、アスコルビン酸又はピロ亜硫酸ナトリウムの使用が好ましい。重合に使用したモノマーの総量に対して、例えば、1×10-5〜1mol%の量で、酸化還元触媒の還元性成分が使用される。
【0077】
上記開始剤又は酸化還元開始剤系と組合わせることで、さらに遷移金属触媒、例えば鉄やコバルト、ニッケル、銅、バナジウム、マンガンの塩の使用が可能となる。好ましい触媒の例としては、例えば、硫酸鉄(II)、塩化コバルト(II)、硫酸ニッケル(II)、塩化銅(I)が挙げられる。還元性遷移金属塩は、通常、モノマーの総量に対して0.1〜1000ppmの量で用いられる。特に有利な組合せは、例えば過酸化水素と鉄(II)塩の組み合わせであり、具体的には、いずれの場合もモノマーの総量に対して、0.5質量%〜30質量%の過酸化水素と0.1〜500ppmのFeSO4×7H2Oを用いる。
【0078】
もちろん相互に悪影響さえなければ、異なる開始剤の混合物を用いてもよい。その量は所望のコポリマーに応じて当業者により決定される。一般的には、開始剤の量は、モノマーの総量に対して、0.05質量%〜30質量%であり、好ましくは0.1質量%〜15質量%、さらに好ましくは0.2質量%〜8質量%である。
【0079】
また、一般に公知の方法で適当な調整剤、例えばメルカプトエタノールを使用することができる。ただし、好ましくは調整剤は使用しない。
【0080】
熱開始剤の使用が好ましく、中でも水溶性アゾ化合物や水溶性ペルオキソ化合物が好ましい。特に好ましいのは、過酸化水素とペルオキソ二硫酸ナトリウム、又は必要ならこれらと0.1〜500ppmのFeSO4×7H2Oとの混合物である。
【0081】
また、例えば、適当な照射を用いて重合を開始してもよい。適当な光開始剤の例としては、アセトフェノン、ベンゾインエーテル、ベンジルジアルキルケトン類、及びこれらの誘導体である。
【0082】
このフリーラジカル重合は、好ましくは130℃未満の温度で実施される。しかし温度は、使用モノマーや開始剤の性状や所望のコポリマーX1の特性に応じて、当業者により広い範囲で変更可能である。適当であるとわかっている最低温度は約60℃である。重合中は温度を一定に保ってもよく、温度を変更してもよい。重合温度は、好ましくは75〜125℃、さらに好ましくは80〜120℃、特に好ましくは90〜110℃で、例えば95〜105℃である。
【0083】
重合はフリーラジカル重合用の通常の装置で行われる。水あるいは水と他の溶媒の混合物の沸点以上の温度で運転する場合は、適当な圧力容器を用いて行い、そうでない場合は大気圧で運転する。
【0084】
合成されたコポリマーX1は、当業者には公知の通常の方法で、例えば溶液の蒸発、噴霧乾燥、凍結乾燥又は沈殿化により水溶液から単離される。
【0085】
しかし、好ましくは重合後、コポリマーX1を水溶液より単離することなく、コポリマー溶液をそのまま本発明の方法で使用する。本発明の方法は、コポリマーXを含む酸性水溶液Z1を用いて実施される。この水溶液もまた、もちろん二種以上の異なるコポリマーXの混合物であってもよい。好ましくは、コポリマーX1よりなる。
【0086】
本発明の方法で用いるコポリマーXの分子量Mw(重量平均)は、所望の用途に応じて当業者により決められる。例えば、分子量Mwが3000〜1000000g/molのポリマーを用いてもよい。特に好ましいポリマーの分子量は、5000〜500000g/mol、好ましくは10000〜250000g/mol、さらに好ましくは15000〜100000g/mol、特に好ましくは20000〜75000g/molである。
【0087】
水溶液Z1は、好ましくは溶媒として水のみを用いている。また水混和性の有機溶剤を含んでいてもよい。その例としては、メタノールやエタノール、プロパノールなどのモノアルコール類;エチレングリコールやポリエーテルポリオールなどの高級アルコール類;ブチルグリコールやメトキシプロパノールなどのエーテルアルコール類が挙げられる。しかし、一般的には、水の量は少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、さらに好ましくは少なくとも95質量%である。これらの値はいずれも全溶媒の総量に対する量である。
【0088】
重合後のポリマー含有溶液を、直接使用することも有利であるが、もし必要としても希釈だけで使用することができる。このような直接使用をより容易とするためには、重合に用いる溶媒の量を、溶媒中のポリマー濃度が用途に適するように最初に計算しておくべきである。
【0089】
コポリマーX又はX1の水溶液Z1中の濃度は、配合物中の全成分の総量に対して1質量%〜40質量%である。好ましくは、その量が2質量%〜35質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜25質量%である。使用するポリマーの種類と濃度でもって、得られる水溶液の特性、例えば粘性やpHに影響を与えることができる。したがって、水溶液の特性によって最適の処理方法が決められることとなる。絞りを用いる方法の場合は、例えば5質量%〜15質量%の濃度が適当であり、塗料ローラを用いる場合は、15質量%〜25質量%の濃度の場合、上記の濃度は、使用可能な状態の水溶液での濃度である。また、いったん濃縮物を製造した後、現場で水、又は必要に応じて他の溶媒混合物と混合して、所望の濃度に希釈してもよい。
【0090】
本発明において使用する水溶液Z1のpHは、5以下であり、より好ましくは0.5〜5、さらに好ましくは1.5〜3.5である。本発明において、例えば使用するポリマーの性質や濃度により、水溶液のpHを制御することができる。ポリマーの中和度が最も重要な役割を果たすことは、もちろんである。
【0091】
溶媒又は溶媒混合物と一種以上のポリマーX以外に、この水溶液Z1はさらに他の成分を含んでいてもよい。
【0092】
必要に応じて加えられる成分としては、特に、有機酸又は無機酸又はそれらの混合物が挙げられる。配合物中の他の成分に対して相互に悪影響を持たない限り、このような酸に制限はない。当業者は、適当な選択を行う。
【0093】
好ましい酸の例としては、リン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)などのホスホン酸又は有機ホスホン酸類;メタンスルホン酸、アミドスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸、及びこれらの誘導体などのスルホン酸類;硝酸、ギ酸、酢酸などがあげられ、好ましくは、H3PO4やホスホン酸などのリン酸類;上記有機ホスホン酸類及び/又はHNO3であり、特に好ましくはH3PO4である。もし酸を水溶液に添加する場合は、その酸がH3PO4のみであることが、特に好ましい。
【0094】
必要に応じて添加する成分は、可溶性金属イオンや金属化合物であってもよく、その例としては、Al、Mg、Ca、Ni、Co、V、Fe、Zn、Zr、Mn、Mo、W、Ti、Zrが挙げられる。これらの化合物は、例えばそのアクア錯体の形で使用してもよい。あるいは、Ti(IV)やZr(IV)のフッ素錯体あるいはMoO42-やWO42-などの金属酸など、他の配位子との錯体の形で使用することもでき、さらに、これらの化合物を、典型的なキレート形成性配位子との錯体、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)又はメチルグリシン二酢酸(MGDA)との錯体の形で使用してもよい。もちろん、さらにコポリマーX1のカルボキシル基との錯体化合物が存在してもよい。この組成物は、好ましくはフッ素を含まない組成物である。
【0095】
本発明の方法は、本質的にクロムを含まない方法であることが好ましい。このことは、不動態膜の性質の微調整のために、必要なら少量のクロム化合物を添加してもよいことを意味する。この量は、コポリマーXに対して、クロムとして2質量%以下、好ましくは1質量%、さらに好ましくは0.5質量%以下でなければならない。クロム化合物を使用する場合、好ましくはCr(III)化合物を使用すべきである。しかし、いずれの場合も、Cr(VI)含量を低く抑え、不動態化金属上のCr(VI)含量が1mg/m2を超えないようにすべきである。
【0096】
本方法がクロム不使用の方法であること、つまり水溶液がまったくCr化合物を含まないことが特に好ましく。しかし、「クロム不使用」という言葉は、間接的な意図せざる少量のクロム汚染の可能性を排除するわけではない。合金成分として実際にクロムを含む金属半製品、例えばCr含有鋼を本発明の方法で処理する場合、非処理金属中の少量のクロムが、本方法に用いられる水溶液中に溶解し、意図せずして水溶液中に含まれることとなる可能性がある。このような金属が用いて上記のようなことが起こっても、本方法は、「クロム不使用」とみなされる。
【0097】
本発明により用いられる水溶液Z1は、好ましくはZn2+、Mg2+、Ca2+、およびAl3+からなる群から選択される可溶性金属イオンを含んでいる。この可溶性金属イオンは、好ましくはZn2+、Mg2+、及びCa2+からなる群から選択される一種である。特に好ましくは、この金属イオンがZn2+又はMg2+であり、さらに特に好ましくはZn2+である。この水溶液は、好ましくはこれ以外に他の金属イオンを含まない。
【0098】
Zn2+、Mg2+、Ca2+、又はAl3+の群からの金属イオンがもし存在するなら、その量は、いずれの場合も水溶液中の全コポリマーXの総量に対して、一般に0.01質量%〜25質量%、好ましくは0.5質量%〜20質量%、さらに好ましくは1質量%〜15質量%、特に好ましくは3質量%〜12質量%である。
【0099】
この水溶液Z1は、好ましくはさらに少なくとも一種の溶解性リン酸イオンを含んでいる。このイオンは、いかなる種類のリン酸イオンであってもよい。例えばオルトリン酸でも二リン酸であってもよい。水溶液中では、pHや濃度によりリン酸イオンのいろいろな解離状態間の平衡が存在することは、当業者にとって自明のことである。
【0100】
必要に応じて使用される金属イオン、具体的にはZn2+、Mg2+、Ca2+やAl3+、及びリン酸イオンは、好ましくは水溶液に可溶な形の塩で、両イオンを含む塩として使用される。そのような化合物の例として、Zn3(PO42、ZnH2PO4、Mg3(PO42、Ca(H2PO42、及びこれらの相当する水和物が挙げられる。あるいは、これらのイオンを、別々に添加することもできる。これらの金属イオン、例えば相当する硝酸塩のかたちで使用してもよく、リン酸類はリン酸のかたちで用いてもよい。また、酸があって初めて溶解するような不溶性又は難溶性化合物、例えば相当する炭酸塩、酸化物、酸化物水和物又は水酸化物を用いてもよい。
【0101】
リン酸イオンが配合物中に存在する場合、その量は水溶液の所望の特性に応じて当業者により決定される。一般に、その量は、0.01質量%〜25質量%であり、好ましくは0.5質量%〜25質量%、さらに好ましくは1質量%〜25質量%、特に好ましくは5質量%〜25質量%である。いずれの場合も、コポリマーXあたりのオルトリン酸としての量である。
【0102】
この水溶液Z1は、さらに少なくとも一種のワックスを、水溶液に分散させて含むことができる。異なるワックスの混合物を用いてもよいであろう。ワックスの添加により、表面と作業用の工具の表面との摩擦を低下させることができる。
【0103】
この「ワックス」は、実際のワックス以外にも、ワックス分散液の調整に用いられるいかなる添加物も含んでいる。当業者は、水性分散液に使用されるワックス類に関する知識を持っており、適当な選択を行う。このようなワックスの例としては、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレンオキシド系ワックス、PTFEなどのフッ化ポリエチレン、又はC、H、F系の他のポリマーが挙げられる。なお、上記の「ポリエチレン」は、エチレンと他のモノマー(具体的には、プロピレンなどの他のオレフィン)とのコポリマーも含んでいる。この種のエチレンコポリマーは、少なくとも65質量%のエチレンを含んでいる。
【0104】
本発明の実施に当たり好ましいワックスの例を以下に示す[括弧内はCAS番号]。
【0105】
パラフィンワックス[8002−74−2]
・ポリエチレンワックス[9002−88−4]
・ポリエチレン・ポリプロピレンワックス類
・エチレンとアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸無水物、酢酸ビニル、あるいはビニルアルコールとのコポリマーなどの共重合性ポリエチレンワックス類[38531−18−9]、[104912−80−3]、[219843−86−4]、又はエチレンと二種以上のこれらのモノマーとのコポリマー
・ポリブテンワックス類
・フィッシャートロピィシュワックス類
・酸化ワックス類、例えば酸化ポリエチレンワックス[68441−17−8]
・極性変性ポリプロピレンワックス類、例えば[25722−45−6]
・微結晶性ワックス類、例えば微結晶性パラフィンワックス類[63231−60−7]
・モンタンワックス及びモンタンワックス透過残物、例えば[8002−53−7]
・モンタン酸、例えば[68476−03−9]
・モンタン酸の金属塩、例えばナトリウム塩[93334−05−5]、及びカルシウム塩[68308−22−5]
・長鎖カルボン酸と長鎖アルコール類とのエステル類、例えばステアリン酸オクタデシル[2778−96−3]

・モンタン酸の多価アルコールエステル類、例えば:
○モンタンワックスグリセリド[68476−38−0]、及びその部分加水分解物
○モンタン酸のトリメチロールプロパンエステル類[73138−48−4]、及びその部分加水分解物
○モンタン酸の1,3−ブタンジオールエステル類[73138−44−0]、及びその部分加水分解物
○モンタン酸エチレングリコールエステル類[73138−45−1]、及びその部分加水分解物
・エトキシル化モンタンワックス類、例えば[68476−04−0]
・脂肪酸アミド類、例えばエルカミド[112−84−5]、オレアミド[301−02−0]、及び1,2−エチレンビス(ステアラミド)[110−30−5]
・長鎖エーテル類、例えばオクタデシルフェニルエーテル
・カルナウバワックス。
【0106】
ワックスの混合物も好適であり、その例としては、次のようなものが挙げられる。
【0107】
・ステアリン酸オクタデシルと部分加水分解モンタン酸多価アルコールエステル類との混合物
・パラフィンワックス類と部分加水分解性のモンタン酸多価アルコール類エステル類及び/又はモンタン酸の混合物
・ポリエチレンワックスとポリエチレングリコールの混合物。
【0108】
これらのワックス類は、酸官能基を、特にカルボン酸性基を有していてもよく、その基は中和されていてもいなくてもよい。ワックス類の酸価は、<200mgKOH/gが好ましい。3〜80mgKOH/gの酸価が特に好ましい。
【0109】
さらに好ましいのは、融点を有するワックス類である。この融点は、一般に40〜200℃で、好ましくは60〜170℃、さらに好ましくは100〜160℃である。特に好ましくは、ワックス類の融点が120〜135℃及び145〜160℃である。
【0110】
好ましいワックス類は、分子量Mnが200g/molを超える、好ましくは400g/molを超えるオリゴマー状又はポリマー状の物質であり、60質量%を超える質量比で、以下の群から選択される構造要素を含んでいる。
【0111】
・(−CH2−CH2−)
・(−CH2−CH<)
・(−CH2−CH(CH3)−)
・(−CH3
・(−CR2−CR2−)及び(−CR2−CR(CR3)−)
上記の式中、Rは、H及び/又はFを表し、上記の構造要素は、少なくとも12個の炭素原子が相互に直接連結した単位が大半となるように、互いに連結される。
【0112】
この種類の構造単位を有するワックスは、特にポリエチレンワックス及び/又はポリプロピレンワックス及び/又はこれらの誘導体であってもよい。これらの種類のワックス類の平均分子量Mnは、一般に、400〜30000g/mol、好ましくは1000〜25000g/mol、さらに好ましくは1500〜20000g/molである。これらの主要なモノマー、エチレン及び/又はプロピレン以外に、これらのワックス類は、他のコモノマーを二次成分として含んでいてもよい。他のコモノマーは、例えば、他のα−オレフィン、酢酸ビニル、又は酸性基含有モノマーである。酸性基含有モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルホスホン酸、マレイン酸又はマレイン酸無水物、ビニル酢酸が挙げられる。この酸性モノマーは、好ましくはアクリル酸及び/又はメタクリル酸である。好ましいのは、例えば、エチレン含量が75質量%〜99質量%で、(メタ)アクリル酸含量が1質量%〜25質量%で、必要に応じて他のモノマーを0質量%〜10質量%で含むエチレン−(メタ)アクリル酸ワックスである。特に、ビニルホスホン酸及び/又はビニルホスホン酸エステル類が、ここに含まれていてもよい。
【0113】
ワックスの誘導体の例としては、酸化ポリオレフィンワックス類、特に酸化ポリエチレンワックス類が挙げられる。酸化ポリエチレンワックス類は、ポリエチレン主鎖上に、例えばOH基やケト基、さらにCOOH基などのいろいろな酸素含有基を有している。
【0114】
(酸化)ポリオレフィンワックス類の製造方法は、当業者には公知である。詳細は、例えばウルマン工業化学辞典、第6版、電子版の「ワックス類」に記載されている。
【0115】
特に好ましいワックスは、超微粉砕ワックス及び/又はワックス分散液などのように、供給された状態でそのまま、簡単に本発明の方法の配合物に導入可能なものである。
【0116】
超微粉砕ワックス類は、特に細かい粉末であり、その平均粒径は、好ましくは20μm未満、さらに好ましくは2〜15μmである。ワックス分散液は、ワックスの水溶液であり、水、必要ならさらに水混和性溶媒や、球状のワックス粒子、添加物を含んでいる。本発明において使用に好ましいワックス分散液では、粒径が1μm未満、好ましくは20〜500nm、さらに好ましくは50〜200nmである。超微粉砕ワックスや調合済みのワックス分散液は市販されている。
【0117】
ワックスの分散性や貯蔵安定性を確保するために、ワックス分散液には添加物が用いられる。この添加物は、例えばワックス中の酸官能基の中和又は部分中和のための塩基であり、その例としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、アミン又はアルカノールアミンが挙げられる。酸性基は、カチオンで、例えばCa++又はZn++で、完全に又は部分的に中和されていてもよい。他の添加物としては、界面活性物質、好ましくは非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、アルコール類由来のエトオキシル化物やプロポオキシル化物、ヒドロキシ芳香族化合物、及びこれらの硫酸化物及びスルホン化物が挙げられる。アニオン性界面活性剤の例としては、アルキルスルホネート類、アリールスルホネート類、及びアルキルアリールスルホネート類が挙げられる。
【0118】
本発明の実施のうえで特に好ましいのは、pHが7未満、好ましくは6未満のワックス分散液である。
【0119】
必要に応じて使用されるワックスの量は、不動態膜に所望の特性に応じて、当業者により決定される。一般に適当とされる量は、それぞれ酸性基含有コポリマーXに対して、0.01質量%〜40質量%であり、好ましくは0.5質量%〜40質量%、さらに好ましくは0.5質量%〜20質量%、特に好ましくは0.5質量%〜10質量%である。
【0120】
水溶液Z1のさらなる他の添加成分として、界面活性化合物、腐食防止剤、錯化剤、通常の亜鉛めっき助剤、本発明で使用のポリマーXとは異なる他のポリマーが挙げられる。さらに他の添加物として、通常の塗料添加物、例えば、H.Kittel(ed.)Lehrbuchder Lacke und Beschichtungen,Vol.5 −Pigmente,Fullstoffe und Farbmetrik−2nd ed.,S.Hirzel−Verlag,Stuttgart 2003に記載の添加物が挙げられる。
【0121】
当業者は、原則として必要に応じて添加される添加物の中から、目的の用途に応じて添加物とその量を適当に選択する。しかし、一般的には、任意に添加される添加物の量は、コポリマーXに対し20質量%以内であり、好ましくは10質量%以内、さらに好ましくは5質量%以内である。
【0122】
本発明による方法で使用される水溶液Z1は、これらの成分を単に混合するだけで得られる。もしワックス類を使用する場合、これらをまず水に別途に分散させ、分散液の状態で他の成分と混合することが好ましい。このようなワックス分散液もまた市販されている。
【0123】
本方法の工程(III)を実施するに当たり、金属表面を、例えば浸漬によって水溶液Z1に接触させて処理を行う。
【0124】
この接触中に、少なくとも使用した酸性コポリマーXの一部、また水溶液Z1の他の一部が、金属の表面に化学的に吸着され及び/又は表面と反応して、強固な結合がその表面と成分間に形成される。また、処理中に、保護されるべき金属の一部が溶解し、金属表面上のフィルムに少なくとも部分的に導入される。酸性基含量の高いコポリマーXの使用と低中和度の採用の結果、上記の金属表面の部分溶解が特に有効となり、きわめて優れた腐食防止効果が得られる。
【0125】
化成皮膜又は不動態膜の正確な構造や組成は不明である。しかし、この膜は、表面から溶出する少なくとも一種の金属カチオンに加えて、少なくとも上記ポリマーXと、場合によっては金属化合物及び配合物中の他成分とを含んでいる。化成皮膜の組成は均一である必要はなく、成分が濃度勾配を示してもよい。化成皮膜に取り込まれるポリマーXの量は、化成皮膜の全成分の総量に対して、一般に少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも30質量%である。
【0126】
本方法の工程(III)の実施方法については、いくつかの場合が存在する。これらの処理方法は、例えば金属ストリップや金属シートなどの未成形のフラット半製品が使用されるか、あるいは曲がった表面や縁をもつ成形体が使用されるかなど、工作物の形状などの要因により決められる。この処理は、いくつかの個別の工程からなっていてもよい。これらの方法は連続的であっても不連続的であってもよい。当業者は、このような可能性のある方法の中から適当な選択をおこなう。
【0127】
この処理は、例えば配合物中への浸漬や、配合物の吹き付けや塗布で実施される。フラット成形体なら配合物をロールで塗布することもできる。
【0128】
浸漬又は吹き付け操作の後の過剰の処理溶液は、工作物をドリップドライさせて除くが、金属シートや金属箔などの場合は、過剰の処理溶液は、例えば圧搾やふき取り、回転により取り除くことができる。あるいは、処理後に表面を洗浄液、具体的には水で洗浄し、表面に残る過剰の水溶液を除いてもよい。
【0129】
ある特に好ましい実施様態においては、この処理を、「無洗浄」操作で実施する。つまり処理溶液を塗布後無洗浄で、直ちに直接乾燥炉で乾燥させる。
【0130】
水溶液を用いる処理は、室温で行っても加熱温度で行ってもよい。一般に、この処理は、20から100℃、好ましくは25〜80℃、さらに好ましくは30〜60℃で行われる。加熱のために水溶液の浴を加熱してもよいし、熱い金属を浴に浸漬することで高温を発生させてもよい。
【0131】
水溶液での金属表面の処理は、不連続的に行ってもよいが、好ましくは連続的に行う。ストリップ金属の処理には、特に連続処理が好ましい。その場合、金属ストリップを水溶液を有するトラフを通すか、又はこれを吹き付ける装置に通す。
【0132】
金属ストリップに水溶液をローラーで塗布することも、特に有利である。ローラー塗布の場合、一般に塗布材料をピックアップでトラフより取り出し塗布ロールに移動させる。この塗布ロールが塗布材料をストリップに転写する。ピックアップロールと塗布ロールとを、中間にあるロールにより結合させ、このロール上で塗布材料を転写させるようにしてもよい。これらのロールは、同方向に回転していても反対方向に回転してもよく、またストリップの方向にあるいは反対方向に回転してもよい。塗布の程度を、ロールのストリップへの接触圧力やロールの荒さや硬度で調整してもよい。
【0133】
処理時間は、所望の塗膜特性や処理剤の組成、課される技術的条件に応じて、当業者により決められる。処理時間は、一秒未満でもよいし二分以上であってもよい。連続法の場合、表面を水溶液で1〜60秒間処理することが適当であることがわかっている。
【0134】
処理後、使用溶媒、一般に水は除去される。大気下室温で単純に蒸発により行ってもよい。
【0135】
あるいは、溶媒除去を、適当な補助手段、例えば加熱したり及び/又は材料上にガス流(特に空気流)を通過させたりして行ってもよい。溶媒の蒸発を、例えばIRランプによりあるいは乾燥トンネル中での乾燥により補助してもよい。乾燥温度は、30℃〜210℃が有用であり、好ましくは40℃〜120℃、さらに好ましくは40℃〜80℃である。ここでいう温度は、金属上で測定されるピーク金属温度(PMT)であり、当業者が通常用いる方法で測定される(例えば、無接触赤外測定装置又は温度測定用試験ストリップ)。乾燥機温度を高レベルに設定する必要があることもあり、温度は当業者により適切に選択される。
【0136】
この化成皮膜をさらに架橋させてもよい。この目的のために架橋剤を水溶液に添加してもよい。あるいは、金属をまず水溶液で処理し、次いでその塗膜を適当な架橋剤で、例えば架橋剤溶液を噴射して処理してもよい。
【0137】
適当な架橋剤は、水溶性であるか少なくとも上記の水性溶媒混合物に可溶性でなければならない。好ましい架橋剤の例としては、特にアジラン基やオキシラン基、チイラン基からなる群から選択される少なくとも二種の架橋基を含むものである。適当な架橋剤とこれらの用途のさらなる詳細は、WO05/042801、p.11、34行〜p.14、39行に記載されている。
【0138】
一個以上のOH基及び/又はNH2基を含む化合物、例えばアルカノールアミン、多価のアルコール、ジアミン、オリゴアミンあるいはポリアミンを、配合物に添加して架橋を行ってもよい。乾燥温度をうまく選ぶとこれらの化合物も架橋するようになる。
【0139】
この配合物は好ましくは架橋成分を含まず、特に、エポキシド、ウレタン、アジリジン又はシランなどの容易に架橋する成分を含んでいない。
【0140】
成形体の金属表面全面にこの化成皮膜を形成してもよい。あるいは、金属表面の一部のみに化成皮膜を形成してもよく、例えば、ストリップ又はシートの上面の一部のみに皮膜を形成し、裏面に形成しなくてもよい。これはその成形体の特定の最終用途に応じて決められる。
【0141】
化成皮膜の厚さは、塗膜の所望の特性に応じて当業者により決定される。一般に、厚さは0.01〜3mであり、好ましくは0.1〜2.5m、さらに好ましくは0.2〜1.5mである。厚さは、使用する酸性水溶液の性質、例えばその粘性や露出時間により、当業者によって制御される。例えば過剰に塗布された処理溶液の除去など本方法の技術的な要因でもって、この厚さを調整することもできる。
【0142】
本方法の工程(IV)において、化成皮膜が形成された表面上に少なくとも一種の塗料塗膜を形成する。この塗装工程では、二種以上の塗料塗膜を順に形成し、塗料塗膜がそれぞれ異なる機能を持っていてもよい。例えば、着色塗料塗膜及び/又は機能性塗料塗膜である。
【0143】
悪影響さえなければ塗料の選択に特に制限はない。これらは、例えば物理的架橋塗料、熱的架橋塗料、放射線架橋塗料、液体塗料又は粉体塗料、水性塗料又は溶剤を基礎とする組成物のいずれでもよい。塗料やこれらの好ましい最終用途は、原則として当業者には公知である。当業者が適当な選択を行う。これらの塗料は、当業者には公知の方法、例えば吹き付け、浸漬、ロール塗布などの方法で塗布される。
【0144】
好ましくは、もし可能なら少なくとも二種の異なる塗料を塗布する。第一の塗料がプライマーである。プライマーを用いる目的は、次に塗布される塗料の接着を改善することにある。これは、腐食性媒体の影響から金属表面を保護して、腐食を防止する。本発明の実施にあたり、水系プライマーの使用が好ましい。代表的なプライマーが、例えばEP−A299148やEP−A401565に開示されている。
【0145】
このプライマーを電着塗装で形成してもよい。電着塗装は特に自動車車体の生産に有用であることが知られている。電着塗装では、塗装される金属製成形体を水で希釈した塗料に浸漬する。塗料中に浸漬したボディー材料と対電極間に直流電圧を印加すると、コロイド状の塗料粒子がその成形体の表面に堆積する。この電気塗装操作は特に陰極電気塗装であって、成形体が陰極となってもよい。原則的には公知の方法で、アンモニウム基を含有するポリマーを、塗料配合物のバインダーとして使用してもよい。これらは、アミノ基を含有するポリマーと酸、例えばカルボン酸とを反応させることで容易に得ることができる。やや酸性の電着塗料、例えばpHが5〜7の電着塗料を使用することが好ましい。電着塗装操作の更なる詳細は、例えばDE−A19804291及びRompp−Lexikon“Lacke und Druckfarben”,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York 1998、pp.188/189に開示されている。
【0146】
プライマー上に、一枚以上のトップコートを塗布することができる。これらは、例えば着色塗料及び/又は透明塗料材料及び/又は他の機能性塗料材料であってもよい。機能性塗料の一例は、充填剤の比率が比較的高い軟質塗料である。金属及び化成皮膜を石ころでの傷や擦り傷から保護するために、好ましくは着色塗料及び/又はトップコート材料の塗布前に、この種の塗料をプライマー上に塗布してもよい。
【0147】
塗装に粉体塗料を用いてもよい。これらの塗料は、単独の塗料として直接化成皮膜に塗布してもよいし、あるいは電気塗装材料及び/又は液体塗料と併用してもよい。粉体塗料材料を、例えばエポキシ樹脂系バインダー、ポリエステル、イソシアン酸エステル又はアクリレートとともに用いてもよい。粉体塗装操作のさらなる詳細は、例えばDE−A19632426又はRompp−Lexikon“Lacke und Druckfarben”,Georg Thieme Verlag, Stuttgart,New York 1998,pp.477〜480に開示されている。
【0148】
上記の酸性水溶液Z1を用いて本発明により得られる化成皮膜は、一体型の前処理皮膜となりうる。つまり、プライマーを塗布することなく、トップコート材料とともに直接塗布が可能である。未中和のCOOH基量が多いと、続く塗料の接着が確実となり、特に水系下塗材料との接着が確実となり有利である。
【0149】
本発明の方法は、(I)、(II)、(III)、(IV)の順で実施可能である。つまり、まず、金属半製品より成形体を製造し、続く工程で、洗浄、化成皮膜の形成、及び塗装を行う。このような手順が、例えば自動車車体の製造に適していた。
【0150】
他の実施様態においては、本方法は、(II)、(III)、(IV)、(I)の順でも実施可能である。つまり、まず金属半製品を洗浄し、化成皮膜を形成し、塗装した後に、成形体に加工する。このような手順が、例えば、建築分野や家電分野における金属ストリップからなる表面材やケーシングの生産に適当であることがわかっている。ここでは、金属ストリップが、コイル塗布工程とよばれる連続工程で洗浄、塗装された後、初めて成形体が製造される。
【0151】
他の順序、例えば(II)、(III)、(I)、(IV)の順も可能であろう。また、二種以上の塗装の場合、例えば、塗装を二段以上の副工程で行ってもよい。例えば、(II)、(III)、(IV)、(I)、(IV)の順で、一種以上の塗料、例えばプライマーをまず塗装し、次いで成形し、最後に一種以上の他の塗料を、例えばトップコートを塗装する。
【0152】
本方法を実施中に、洗浄工程(II)を幾度か実施してもよい。いずれの場合も表面を中間的に洗浄してもよく、好ましくは工程(II)と工程(IV)の間に、あるいは工程(IV)の各塗料の塗装の間に圧縮空気を吹き付けて洗浄する。
【0153】
本発明の方法は、必要に応じて工程(I)〜工程(IV)と適合するさらに他の工程を有していてもよい。
【0154】
例えば、工程(I)〜工程(IV)の後に、少なくとも一段の後処理工程(V)を有していてもよい。この工程では、例えば成形体表面の研磨が行われ、あるいは表面に、例えば輸送中の破損から保護するための取外し可能な保護フィルムを取り付けたりする。保護フィルムは、例えば貼合わせにより取り付けられる。
他の可能性としては、例えば半製品や成形体表面及び/又は塗装半製品又は塗装成形体の表面の粗面化があるが、いずれの場合も本発明の他の工程の実施前に行われる。
【0155】
本発明のさらに好ましい実施様態において、工程(I)〜工程(IV)に先立つ工程(0)において、使用する金属半製品に、除去可能な腐食防止塗膜が形成される。この除去可能な腐食防止塗膜は、その金属半製品の表面を酸性水溶液Z2で処理して形成される。
【0156】
本発明の工程(I)〜工程(IV)は、一般に下流の加工会社で、例えば自動車メーカー、装置製造メーカー、建設金具製造メーカー又はコイル塗装工場などの敷地内で実施可能ではあるが、前工程(0)は、金属製のフラット半製品の製造メーカーの敷地内、即ち例えば製鋼業者やアルミニウムメーカ又は圧延業者の敷地内で行うことが好ましい。例えば、金属ストリップ、例えば亜鉛めっき後の亜鉛めっき鋼ストリップは、除去可能な腐食防止塗膜をつけたままで連続工程で供給可能である。当業者によれば、このような腐食防止塗装は、しばしば「後処理」ともよばれる。このようにして、輸送のために及び/又は本方法の工程(I)の実施のために金属表面が保護される。
【0157】
どのような酸性で水性の腐食防止配合物でも、原則としてZ2として使用可能であり、その代表的な例として、リン酸を含むリン酸溶液が挙げられる。
【0158】
本発明のある好ましい実施様態において、水溶液Z2は、水溶液Z1と同様に、少なくとも水溶性コポリマーX、好ましくはコポリマーX1を含んでいる。また、他の成分を含んでいてもよい。本発明のある特に好ましい実施様態においては、本方法の工程(0)でも水溶液Z1を使用する。この腐食防止塗膜は、上述の方法により塗布可能である。
【0159】
この除去可能な腐食防止塗膜を、後ほど洗浄工程において、本方法の工程(III)に先立って除去できる。この膜の除去は、アルカリ性洗浄水溶液、例えばpHが9〜13で温度が20〜70℃の希NaOH溶液又はNH3溶液を用いて行うのが特に有利である。しかし、この腐食防止塗膜は常に除去すべきというわけではなく、よければこの半製品を直接他の加工に供してもよい。
【0160】
本方法により得られる塗装されたフラット成形体は、少なくとも一層の金属層と、配合物Z1を用いた処理で得られる一層の化成皮膜と、少なくとも一層の塗膜とを有している。もちろん、化成皮膜を金属層に直接塗布してもよい。これは、好ましくは少なくとも二層の異なる塗膜を有する。化成皮膜の組成や構造や厚さについてはすでに概述した。
【0161】
化成皮膜と塗膜で成形体を完全に覆ってもよいが、本発明はまた、一部のみに化成皮膜と塗膜が形成されており、他の領域にはこのような膜がないか、あってもこれら塗膜のほんの一部である成形体も含んでいる。ある好ましい実施様態においては、成形体が少なくとも完全に化成皮膜及びプライマーにより覆われ、他の塗膜、例えば着色塗膜が成形体の外側のみに塗布されている。
【0162】
このフラット成形体は、好ましくは鋼、亜鉛めっき鋼、アルミニウム又はアルミ合金からなるものである。金属層の厚さは、好ましくは5mm以下、さら好ましくは3mm以下であり、例えば0.25〜2.5mmである。このような成形体の例は、最初に述べた。
【0163】
本発明の成形体は、その金属表面によく密着している塗膜を有し、その表面は腐食から厳密に保護されている。
【実施例】
【0164】
以下、実施例でもって本発明を詳細に説明する。
【0165】
使用した材料
コポリマーX1:アクリル酸/マレイン酸/ビニルホスホン酸コポリマー(本発明):
60質量%のアクリル酸と、20質量%のマレイン酸と、20質量%のビニルホスホン酸からなる酸性基含有コポリマー。酸性基の量は、1.37mol/100g−ポリマーである。酸性基の中和度は、約6mol%(トリエタノールアミンで中和);Mw:約25000g/mol。
【0166】
ポリアクリル酸(比較用ポリマー)
ポリアクリル酸(未中和);Mw:約100000g/mol。酸性基の量は、1.4mol/100g−ポリマーである。
【0167】
使用水溶液:
いずれの場合も、コポリマーX1の水溶液と比較用ポリマーの水溶液を用いた。適当な場合は、配合物は、Mg3(PO42とH3PO4とを含み、その量を表1に示した。いずれの場合も、ポリマーの濃度は水溶液の全成分の総量に対して20質量%であった。
【0168】
【表1】

【0169】
使用鋼シート
熱浸漬亜鉛めっき鋼(ガルドボンドR)OE・HDG3、105×190mm)の試料シートを、本発明の実施例及び比較用実施例において用いた。
【0170】
洗浄(工程II)
鋼シートを、アルカリ脱脂溶液(リドリン(R)C72、ヘンケル)中に10〜20秒間浸漬した後、直ちに完全に脱塩した純水で洗浄し、次いで窒素で乾燥させた。
【0171】
化成皮膜の塗布(工程III):
上記の洗浄済み鋼シートを、表1に示す配合物中に1秒間、いずれも室温で浸漬し、ローラシステムで圧搾し、160℃の乾燥キャビネット中で12秒間乾燥させた。乾燥時のピーク金属温度は50℃未満である。いずれの場合も、3枚の鋼シートに塗布した。
【0172】
加工(工程I):
いずれの場合も、塗布後の鋼シートの一枚に、エリクセン試験(DIN5316)の方法に準じて、ボール(直径:20mm)をシートの裏側よりゆっくりと押し付け、変形させた。鋼シートは、それぞれ深さが8.4mm、8.8mm、及び9.2mmとなるまで変形させた。
【0173】
試験
化成皮膜を有する非加工金属シートと、上述のようにして得た。加工金属シートとを用いて、次の腐食試験、DIN50017−KFWに準ずる大気湿度と大気温度を変更する凝縮気候サイクル試験とDIN50021−SSに準ずる塩水噴霧試験(SSK)とを行った。
【0174】
凝縮気候サイクル試験(KFW):
凝縮気候サイクル試験(DIN51017)は一種以上の気候サイクル(周期)からなり、各サイクルは二つの試験区分がある。第一の区分では、試験用試料を8時間、40℃の温度と100%の相対湿度に暴露し、第二の区分では、18〜28℃の温度と100%未満の湿度(環境条件)に暴露される。一サイクル(周期)の所要時間は、したがって24時間である。
試料を肉眼により次の判定基準で評価した。
【0175】
0:チョーキングなし、皮膜は透明
1:ややチョーキング
2:かなりチョーキング
3:ひどいチョーキング
4:きわめてひどいチョーキング
なお、「チョーキング」とは、塗膜に白いもやがかかることを意味する。チョーキングの程度が増加すると、塗膜が徐々に不透明となっていく。
【0176】
塩水噴霧試験(SSK)
この噴霧試験は、DIN50021で標準化された腐食試験であり、微細な食塩溶液の霧を試料に吹き付ける。加湿した圧縮空気を用いて、表面積80cm2あたり1時間に1.5mlの速度で、溶液を35℃で傾いた試料に吹きかけた。使用した溶液は、濃度が5%のNaCl溶液であった。塗膜を持つ試料は、そのまま試験に用いた。試験時間はそれぞれ24時間である。
【0177】
(A)SSK後の非加工シートの評価
塩水噴霧試験での腐食防止の程度をDIN EN ISO10289に準じて評価して、所定の基準で、0〜10の評価番号と付与した。この評価番号は、シート上に発生する白色のさびの程度を示す。評価番号が大きいほど、腐食した表面の比率が小さく、腐食がよく防止されている。評価番号は、次表により決定した。
【0178】
【表2】

【0179】
(B)SSK後の加工シートの評価
いずれの場合も、圧痕の場所での腐食をしらべた。評価結果は、「腐食なし、極小、少し、普通、多い」で示した。
【0180】
全ての試験結果を表2に示す。
【0181】
【表3】

【0182】
本発明の実施例と比較例より、本発明により用いた一種以上の酸性モノマーのコポリマーを使用することで、よく似た量の酸性基量/100gを有するポリアクリル酸ホモポリマーを用いるより優れた結果が得られること、またこの優れた結果が非加工金属シートと加工金属シートの両方で得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のフラット金属半製品を出発材料として用いて、少なくとも一層の金属層を有する塗装されたフラット成形体を製造する方法であって、
少なくとも下記工程:
(I)金属半製品、及び/又は(III)及び/又は(IV)で塗装された半製品を加工して成形体とする工程、
(II)金属表面を洗浄する工程、
(III)金属表面を酸性水溶液Z1で処理して、該金属表面に化成皮膜を形成する工程、及び
(IV)化成皮膜が形成された表面に少なくとも一種の塗料塗膜を形成する工程、
を含み、
酸性水溶液Z1が、少なくとも二種の異なる酸性基含有モノマーを含み、100gのポリマーに対して少なくとも0.6molの酸性基を有する少なくとも一種の水溶性コポリマーXを含み、前記水溶液のpHが5以下であり、さらに前記ポリマーの量が、前記水溶液の全成分の総量に対して1質量%〜40質量%であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記水溶性コポリマーXが、下記モノマー単位(コポリマーX1において共重合されたモノマーの総量に対して):
(A)40質量%〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)0.1質量%〜60質量%の、一個以上の酸性基を有する、(A)とは異なる、少なくとも一種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、及び
(C)必要に応じて、0質量%〜30質量%の、(A)と(B)とは異なる、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和モノマー、
から構成されるコポリマーX1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属表面が、鉄、鋼、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、スズ、銅、又はこれらの合金の表面である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属半製品が、金属シート又は金属ストリップである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記金属シート又は金属ストリップが、亜鉛めっき鋼、スズめっき鋼、アルミニウムめっき鋼、アルミニウム、又は亜鉛めっきアルミニウムからなる群から選択される一種である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程が、(I)、(II)、(III)、及び(IV)の順で実施される請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程が、(II)、(III)、(IV)、及び(I)の順で実施される請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(I)が、分割工程(Ia)、加工工程(Ib)、及び連結工程(Ic)からなる群から選択される少なくとも一種の工程を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(I)〜工程(IV)の前に、前記半製品の金属表面を酸性水溶液Z2で処理して、除去可能な腐食防止塗膜を形成する工程(0)をさらに含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液Z2が、少なくとも一種の水溶性カルボキシル含有コポリマーX1を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記除去可能な腐食防止塗膜を、アルカリ性洗浄水溶液を用いて工程(II)で除去する請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも後処理工程(V)をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程(IV)において、少なくとも二種の塗料塗膜を形成する請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
陰極電気塗装を、工程(IV)で実施する請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
粉体塗装を、工程(IV)で実施する請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記コポリマーX1が、下記モノマー単位:
(A)50質量%〜90質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)10質量%〜50質量%の、一個以上の酸性基を有する、(A)とは異なる、少なくとも一種のモノエチレン性不飽和モノマー、及び
(C)必要に応じて、0質量%〜20質量%の、(A)と(B)とは異なる、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和モノマー、
から構成される請求項2〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記モノマー(B)が、
(B1)4〜7個の炭素原子を有するモノエチレン性不飽和ジカルボン酸、及び/又は
(B2)モノエチレン性不飽和リン酸及び/又はホスホン酸
からなる群から選択されるモノマーである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コポリマーが、少なくとも一種のモノマー(B1)、及び少なくとも一種のモノマー(B2)を含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
モノマー(A)の量が50質量%〜90質量%であり、(B1)の量が5質量%〜45質量%であり、(B2)の量が5質量%〜45質量%であり、(C)の量が0質量%〜20質量%である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記水溶液が、さらにZn、Mg、Ca、又はAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを含む請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも一種の金属層、その上に形成される一層の化成皮膜、及び少なくとも一種の塗膜を含むフラット成形体であって、
化成皮膜が、少なくとも二種の異なる酸性基含有モノマーを含み、100gのポリマーに対して少なくとも0.6molの酸性基を有する少なくとも一種の水溶性コポリマーXを含むことを特徴とするフラット成形体。
【請求項22】
前記化成皮膜の厚さが、0.01〜3μmである請求項21に記載のフラット成形体。
【請求項23】
前記塗膜中のコポリマーXの量が、少なくとも20質量%である請求項21又は22に記載のフラット成形体。
【請求項24】
前記水溶性コポリマーXが、下記モノマー単位(コポリマーX1において共重合されたモノマーの総量に対して):
(A)40質量%〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)0.1質量%〜60質量%の、一個以上の酸性基を有する、(A)とは異なる、少なくとも一種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、及び
(C)必要に応じて、0質量%〜30質量%の、(A)と(B)とは異なる、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和モノマー、
から構成されるコポリマーX1である請求項21〜23のいずれか1項に記載のフラット成形体。
【請求項25】
前記モノマー(B)が、
(B1)4〜7個の炭素原子を有するモノエチレン性不飽和ジカルボン酸、及び/又は
(B2)モノエチレン性不飽和リン酸及び/又はホスホン酸
からなる群から選択されるモノマーである請求項24に記載のフラット成形体。
【請求項26】
前記金属層が、鋼、亜鉛めっき鋼、スズめっき鋼、アルミニウム又はアルミ合金からなる請求項21〜25のいずれか1項に記載のフラット成形体。
【請求項27】
前記金属層の厚さが、0.25〜2.5mmである請求項21〜26のいずれか1項に記載のフラット成形体。
【請求項28】
前記成形体が、自動車車体、トラック車体の部品、家庭電化製品のケーシング、工業装置のケーシング、建築分野の構造要素、家具、又は家具の構造要素からなる群から選択される少なくとも一種である請求項21〜27のいずれか1項に記載のフラット成形体。

【公表番号】特表2008−544081(P2008−544081A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516307(P2008−516307)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063170
【国際公開番号】WO2006/134118
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】