説明

塗装ブース用フィルタ

【課題】 塗装ブース用フィルタは空気の流出面にネットやシートを貼り付けて、繊維の脱落を防止している。しかし、ネットやシートの貼り付け時に皺や筋が発生する、接着不良が発生するという不具合の問題があった。また、材料数、工定数が多くなるため費用が掛かるといった問題があった。
【解決手段】塗装ブース用フィルタのサーマルボンド不織布ろ材表面に熱処理を行い溶融させ、表面を平滑にさせたことで繊維の脱落を防止する。さらに不具合の問題を解決し、材料数、工定数の削減を行い、費用を低減させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースに提供される空気を清浄するために使用する塗装ブース用フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗装ブース用フィルタとしては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されたものが知られている。すなわち、不織布の片面あるいは両面に熱融着性繊維シートを被覆することで、繊維の脱落を防止し、表面をフラットで滑らかとし取り扱い易くしたものである。また、上記以外にも表面にネットを貼り付けたものが多く流通している。
【特許文献1】特開2005−111345
【特許文献2】特開2008−40295
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術には次のような問題点があった。
(1)不織布表面にシート、ネット等の二種類以上のシート状物を貼り合せるため、熱収縮率の違いや引張強伸度の違いから皺や筋が発生する。また、加工条件によっては接着の弱い部分が発生するなど不具合の問題があった。
(2)二種類以上のシートを張り合わせるため、最低でも二工程以上を有し、また二種類以上の材料が要求されるため、生産費用が高くなるとの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等はかかる問題点を解決するべく鋭意研究の結果、高融点ポリエステル繊維と熱融着ポリエステル繊維からなるサーマルボンド不織布表面に、直接熱処理を行うことにより前記問題点を解決できることを知見した。
【発明の効果】
【0007】
本発明のサーマルボンド不織布は、かかる知見に基づき、請求項1記載の通り、短繊維不織布の表面に熱処理を行い溶融させ、表面を平滑にさせたことで繊維の脱落を防止し、取り扱いを易しくするとともに、皺、筋の発生や接着不良をなくし、一工程で生産することで加工性向上が計られるとともに使用する材料が少なくなり、コストダウンを実現することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明のサーマルボンド不織布ろ材は前記の通り、高融点ポリエステル繊維と熱融着ポリエステル繊維からなるサーマルボンド不織布ろ材の表面を熱板処理により溶融させ平滑にさせたことを特徴とするものである。
【0009】
前記高融点ポリエステル繊維に特別な制限はなく、熱融着性ポリエステル繊維以外の一般に製造販売されているポリエステル系繊維を指す。ただし、熱融着ポリエステル繊維の接着性を考慮すれば、熱融着ポリエステル繊維と接着性の良い材料が好ましい。
【0010】
また、前記ポリエステル熱融着繊維としては、低融点樹脂と高融点樹脂の融点差のある二種類の樹脂からなる芯鞘型、サイドバイサイド型構造の複合繊維を指す。
【0011】
熱融着ポリエステル繊維の混率は50質量%以上とするのは、熱融着ポリエステル繊維の混率が50質量%未満の場合、繊維同士の接着交点が少なく、交点強力が弱く、表面が擦れると毛羽立ちが発生し易く、繊維の脱落の原因となる。そのため、熱融着ポリエステル繊維の混率は50質量%以上が好ましい。
【0012】
サーマルボンド不織布の表面に熱処理の方法としては、熱融着ポリエステル繊維の低融点樹脂の融点以上、高融点樹脂の融点以下に加熱した熱板もしくは加熱ロールにサーマルボンド不織布を接触させ、サーマルボンド不織布の表面のみを加熱、溶融させる。
【0013】
熱板もしくは加熱ロールの材質に特に制限は無く、金属製、樹脂製等の耐熱性を有するのであれば良い。また、サーマルボンド不織布と熱板もしくは加熱ロールの剥離を良くするため、熱板もしくは加熱ロールの表面にフッ素樹の塗布や梨地加工を施しても良い。
【実施例】
【0014】
本発明を図及び実施例により説明する。図1は、形成されたサーマルボンド不織布が熱板を通過する前後の表面状態を説明する図である。また、図2は、発明に基づく実施例に用いた製造工程の概略図である。
【0015】
(実施例1)
次の繊維構成で表面が平滑なサーマルボンド法の不織布ろ材を作成した。
高融点ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維(繊度=4.4デシテックス 融点270℃)を30重量%用い、熱融着ポリエステル繊維として芯成分が融点255℃のポリエステル樹脂で鞘成分が融点110℃のポリエステル樹脂から形成された芯鞘型の熱融着ポリエステル系繊維(繊度=4.4デシテックス)を70重量%用い、混合した。次に開綿機とカーディング機10を用いて、ウエブ1を紡出し、さらにこれを重ね合わせて目的の重量とし、搬送コンベア12を用いて加熱炉13内に導入した。濾材の厚み方向の中心温度が140℃になる温度で加熱炉13内にて加熱し、短繊維間同士を熱融着してサーマルボンド不織布3を得た。引き続き、このサーバルボンド不織布の片面を表面温度180℃に加熱した金属製熱板14に接触させ、接触面の反対面より軽く抑え、2m/分のスピードで加工し、重量 296g/m 厚み 19mmの表面が平滑になったサーマルボンド不織布ろ材4を得た。
この不織布の表面を素手で擦っても繊維の脱落は見られなかった。また、JIS B−9908形式3に準じた試験方法において評価すると、質量法による粒子捕集平均効率が94.4%であり、濾過寿命は粉塵捕集量651g/m2であった。なお、試験条件は風速0.5m/sec、最終の圧力損失390Paとした。また、この不織布の初期の圧力損失は23.5Paであった。また、この不織布をJIS L−1091 A−1法に準じた難燃試験法で評価すると、難燃性の評価値が区分3であり、塗装ブース用フィルタとして要求される難燃性を有していた。このように、実施例1で得られた不織布は塗装ブース用フィルタとして好適な塗装ブース用フィルタであった。
【0016】
(実施例2)
次の繊維構成でサーマルボンド法の不織布ろ材を作成した。
高融点ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維(繊度=4.4デシテックス 融点270℃)を25重量%用い、熱融着ポリエステル繊維として芯成分が融点255℃のポリエステル樹脂で鞘成分が融点110℃のポリエステル樹脂から形成された芯鞘型の熱融着性ポリエステル繊維(繊度=2.2デシテックス)を50重量%と芯鞘型の熱融着性繊維(繊度=6.6デシテックス)25%重量%を、混合して、実施例1と同様の加工にて重量 313g/m 厚み 23mmの表面が平滑になったサーマルボンド不織布ろ材を得た。
この不織布の表面を素手で擦っても繊維の脱落は見られなかった。また、JIS B−9908形式3に準じた試験方法において評価すると、質量法による粒子捕集平均効率が95.3%であり、濾過寿命は粉塵捕集量366g/m2であった。なお、試験条件は風速0.5m/sec、最終の圧力損失390Paとした。また、この不織布の初期の圧力損失は40.2Paであった。また、この不織布をJIS L−1091 A−1法に準じた難燃試験法で評価すると、難燃性の評価値が区分3であり、塗装ブース用フィルタとして要求される難燃性を有していた。このように、実施例2で得られた不織布は塗装ブース用フィルタとして好適な塗装ブース用フィルタであった。
【0016】
(比較例1)
金属版に接触しないこと以外、実施例1と全く同じ工程で、重量302g/m、厚み19mmサーマルボンド不織布を作製した。この不織布の表面は平滑ではなく、素手で擦ると毛羽立ちが発生し、繊維が脱落した。安易に繊維が脱落するため、実際に塗装ブースで使用した場合、被塗装材表面に繊維が付着する可能性が高く、塗装ブース用フィルタとして不適と判断される。
【産業上の利用の可能性】
【0017】
本発明は、塗装ブース用フィルタに用いられ、使用時に繊維離脱による繊維の飛散が防止されるように加工されたものであるが、その製造工程が不織布生産に連結一貫し、且つ、単一層構成であるので、工程が簡略化される点において産業上の利用の可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のフィルタの加熱板通過前後の状態を示す断面図
【図2】本発明のフィルタの製造工程を示す概念図
【符号の説明】
【0019】
1 短繊維ウエブ
2 短繊維不織布の表面融着層
3 サーマルボンド短繊維不織布
10 カーディング紡出機
11 ニードリング機
12 搬送コンベア
13 加熱炉
14 熱板
15 巻き取り製品(ロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルボンド不織布を製造する工程において、
(1)高融点ポリエステル繊維及び熱接着ポリエステル繊維の混合からなるウエブを加熱炉内において均一に加熱して繊維間結合によるサーマルボンド不織布を形成する工程
(2)引き続いて、熱融着ポリエステル繊維の融点以上高温の熱板または熱ロールに該不織布を接触させて表層部分を再溶融する工程
を連結させ、表面の平滑な単一層の塗装ブース用フィルタを得ることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ウエブの構成が、高融点ポリエステル繊維10 〜50 重量%、熱融着ポリエステル繊維90 〜 50 重量%であり、それぞれの短繊維は1〜100デシテックスの範囲から選ばれる請求項1に記載の塗装ブース用フィルタの製造方法
【請求項3】
高融点ポリエステル繊維10 〜50 重量%、熱融着ポリエステル繊維90 〜 50 重量%であり、それぞれの短繊維は1〜100デシテックス、目付重量が100〜500g/m2,厚みが10〜30mmの範囲にある、請求項1〜2に記載の製造方法による表面が平滑な単一不織布層からなる塗装ブース用フィルタ

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248672(P2010−248672A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113047(P2009−113047)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】