説明

塗装方法

【課題】塗膜形成後における撥水効果の低下を抑制し、優れた撥水性能を安定して発揮することが可能な塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)を結合材として含み、平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で含む水性上塗材を塗付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた撥水性能を有する塗膜を形成することができる塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構造物等の表面に防水性、汚染防止性等を付与するため材料として撥水性塗料が知られている。撥水性塗料の一例としては、フッ素樹脂を含有するもの等が挙げられ、これらから形成される塗膜表面は、水に対する接触角が高く、水との接触面積を小さくすることで水をはじき、防水性、汚染防止性等を付与することができる。
近年、塗料分野において溶剤系から水性系への要望が高まりつつあるなか、撥水性塗料も例外ではなく水性化の検討が種々なされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂水性液に、特定の水性撥水剤を配合してなる水性塗料を、無機建材表面に塗装する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1の方法で得られた塗膜では、ある程度水をはじくことはできるが、水滴が塗膜表面に残留してしまう場合がある。このような水滴がそのまま気化すると、しみ等の原因となるおそれがある。また、特許文献1の方法では、塗膜形成後において、経時的に撥水効果が損なわれる場合もある。
【0004】
本発明は、以上のような問題点に鑑みなされたものであり、塗膜形成後における撥水効果の低下を抑制し、優れた撥水性能を安定して発揮することが可能な塗膜形成方法を得ることを目的とするものである。
【0005】
【特許文献1】特開2003−301139号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、基材に対し、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、特定のアクリル樹脂とシリコーン樹脂がエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルションを結合材として含む水性上塗材を塗付する方法に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0008】
1.基材の表面に、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)を結合材として含み、
平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で含む水性上塗材を塗付することを特徴とする塗装方法。
【0009】
2.基材の表面に、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルションであって、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が混在する外層と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂を含む内層を有し、前記外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも前記内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)を結合材として含み、
平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で含む水性上塗材を塗付することを特徴とする塗装方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗装方法では、浸透性吸水防止材からなる下塗材と、アクリル樹脂及びシリコーン樹脂が複合化された特定合成樹脂エマルションを結合材とする高顔料容積濃度の水性上塗材とを積層する。このような方法により得られた塗膜は、下塗材と上塗材の相乗効果によって優れた撥水性能を示すとともに、初期の撥水性能を長期にわたり保持し続けることができ、防水性、汚染防止性、耐エフロレッセンス性、密着性等においても優れた効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本発明は、主に建築物や土木構造物等の塗装に使用することができるものである。適用可能な基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、ALC板、サイディング板、押出成形板等が挙げられる。本発明の効果が得られる限り、これら基材は、その表面に表面処理が施されたものであってもよく、また旧塗膜等を有するものであってもよい。
【0013】
本発明では、上述の如き基材の表面に、まず下塗材として浸透性吸水防止材を塗装する。このような浸透性吸水防止材は、コンクリート、モルタル等の基材の中に深く浸透して撥水層を形成し、外部からの水や炭酸ガス等の浸入を遮断することで基材の中性化による強度低下を防止し、さらに基材内部に存在する鉄骨、鉄筋等の腐食を抑制する効果を発揮する。また、基材内部のカルシウム成分の移行よる基材表層でのエフロレッセンス発生を防止する機能を発揮することもできる。
【0014】
浸透性吸水防止材としては、上述のような性能を示すものであれば特に限定されず、公知または市販のものを使用することができるが、作業性や環境衛生性等を考慮すると水性の材料が好ましい。水性の浸透性吸水防止材を用いると、基材が水を含んだ状態であっても塗装が可能となる。このような浸透性吸水防止材としては、加水分解性シラン化合物やシリコーン樹脂を各種乳化剤で水性エマルション化したもの、あるいはこれらの水性エマルションと、アクリル樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系、ウレタン樹脂系、架橋反応型樹脂系等の合成樹脂エマルションとを複合化したもの等が挙げられる。
【0015】
このうち加水分解シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメチルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリプロポキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは単独もしくは複数の種類を混合して使用することができる。
【0016】
本発明における浸透性吸水防止材には、必要に応じて通常塗料に用いられる無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料、可塑剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤などの添加剤を単独あるいは併用して配合することができる。
【0017】
浸透性吸水防止材の塗付手段としては特に限定されず、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー塗装等、公知の塗装方法を用いることができる。基材が乾式建材である場合は、ロールコーター、フローコーター等によって工場内で塗装することも可能である。浸透性吸水防止材の塗付量は、適宜設定すればよいが、通常0.05kg/m〜0.4kg/m程度である。浸透性吸水防止材を塗付した後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、必要に応じ加熱することもできる。
【0018】
本発明では、上記下塗材を塗付した後、特定の合成樹脂エマルション(A)及び粉粒体(B)を含有する水性上塗材を塗付する。
【0019】
このうち、合成樹脂エマルション(A)(以下「(A)成分」という)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂がエマルション粒子内に混在するものである。(A)成分におけるアクリル樹脂とシリコーン樹脂の形態は特に限定されず、均一に混ざり合った形態であってもよいが、海島構造等により相互に分離した形態が好適である。
(A)成分におけるアクリル樹脂とシリコーン樹脂の重量比率は、通常99:1〜30:70、好ましくは97:3〜40:60である。このような比率で両成分が混在することにより、撥水性、造膜性、ひび割れ防止性等の各物性を兼備する塗料を得ることができる。
【0020】
このような(A)成分は、水性上塗材の形成塗膜に優れた撥水性を付与するものである。加えて、水性上塗材の結合材としてこのような(A)成分を使用することにより、塗膜形成後において初期の撥水効果を長期にわたり保持することができる。さらに、このような(A)成分を含む水性上塗材は、下塗材との密着性にも優れるため、安定した塗膜性能を発揮することができる。
【0021】
(A)成分を構成するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体であり、必要に応じその他のモノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常30重量%以上、好ましくは40〜99.9重量%、より好ましくは50〜99.5重量%である。
【0022】
その他のモノマーとしては、例えばカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、水酸基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー等が挙げられる。これらモノマーの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜50重量%である。
【0023】
このうち、カルボキシル基含有モノマーを共重合して、カルボキシル基含有アクリル樹脂とした場合には、(A)成分の安定性を高めることができ、さらにカルボキシル基と反応可能な化合物を別途添加することにより、塗膜の諸物性向上を図ることができる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。カルボキシル基含有モノマーの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0024】
(A)成分におけるシリコーン樹脂は、環状シロキサン化合物を重合して得られるものである。環状シロキサン化合物としては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。このような環状シロキサン化合物を重合する際には、直鎖状シロキサン化合物、分岐状シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等を用いることもできる。このうち、アルコキシシラン化合物としては、分子中に1個以上のアルコキシル基を有するシラン化合物が使用でき、例えばテトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等の他、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が使用できる。シリコーン樹脂の平均分子量は、通常10000以上、好ましくは50000以上である。
【0025】
水性上塗材における(A)成分としては、特に、上述の如きアクリル樹脂とシリコーン樹脂が混在する合成樹脂エマルションであって、アクリル樹脂及びシリコーン樹脂が混在する外層と、アクリル樹脂を含む内層を有し、外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)(以下「(A−1)成分」という)が好適である。このような(A−1)成分を使用すれば、撥水性能において一層顕著な効果を得ることができ、さらに密着性、ひび割れ防止性等の塗膜性能が高まり、防水性の面においても好ましいものとなる。外層と内層の重量比率は、通常80:20〜20:80、好ましくは70:30〜30:70である。
【0026】
このような(A−1)成分は、例えば、内層を構成するアクリル樹脂を乳化重合した後、外層を構成するアクリル樹脂及びシリコーン樹脂を乳化重合する方法等によって得ることができる。(A−1)成分においては、内層を構成する樹脂として上述の如きシリコーン樹脂が含まれていてもよい。内層にシリコーン樹脂が含まれることにより、ひび割れ防止性等を高めることができる。
ここで、内層を構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(以下「Tg」という)は、通常−60〜20℃(好ましくは−50〜10℃)に設定すればよい。外層のTgは、通常20〜100℃(好ましくは30〜90℃)である。各層のアクリル樹脂のTgがこのような範囲内であれば、上述の如き効果を安定して得ることができる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。
【0027】
本発明では、(A)成分にカルボキシル基含有アクリル樹脂が含まれる場合、カルボキシル基と反応可能な化合物を別途配合することにより、膨れ防止性、剥れ防止性等の効果を高めることができる。さらに、塗膜表面の粘着性が軽減され、耐汚染性が高まる。このような化合物としては、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基等から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物が挙げられる。このうち、本発明では特にエポキシ基を有する反応性化合物が好適である。
【0028】
エポキシ基を有する反応性化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。この他、エポキシ基含有モノマーの重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)からなる水溶性樹脂やエマルションを使用することもできる。このような化合物の混合量は、通常(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し0.1〜50重量部、好ましくは0.3〜20重量部である。
【0029】
水性上塗材では上述の(A)成分に加え、平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)(以下「(B)成分」という)を必須成分とし、この(B)成分を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で配合する。本発明では、水性上塗材にこのような(B)成分を配合することで、上塗材塗膜の表面に微細な凹凸構造が付与され、塗膜に水滴が接触した際の接触面積を小さくすることができ、上記(A)成分との複合作用によって優れた撥水効果が得られる。
【0030】
(B)成分における好適な平均粒子径の範囲は1〜200μm(さらには3〜100μm)である。(B)成分の平均粒子径が上記範囲外である場合は、撥水性能において十分な効果が得られ難くなる。具体的に、(B)成分の平均粒子径が大きすぎる場合は、塗膜表面が粗くなりすぎ、水が塗膜中に浸入するおそれがある。平均粒子径が小さすぎる場合は、撥水性向上に寄与する微細な凹凸構造を形成することが困難となる。なお、(B)成分の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡の観察によるものであり、各粒子の円相当径を直径としたときの粒子径分布(個数基準)を求めることによって得られる値である。
【0031】
(B)成分としては、その材質は特に限定されず各種粉粒体を使用することができる。例えば、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。この他、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、石灰石、珪石、珪砂、砕石、雲母、珪質頁岩、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、樹脂粉砕物、ゴム粒、プラスチック片、金属粒等や、これらの表面を着色コーティングしたもの等も使用できる。
【0032】
水性上塗材における(B)成分の顔料容積濃度は30〜90%であり、好ましくは40〜85%、より好ましくは50〜80%である。(B)成分の顔料容積濃度が30%よりも小さい場合は、十分な撥水効果が得られ難くなり、90%よりも大きい場合は、塗膜にひび割れが発生しやすくなる。なお、本発明における(B)成分の顔料容積濃度は、乾燥塗膜中に含まれる(B)成分の容積百分率であり、塗料を構成する結合材及び粉粒体の配合量から計算により求められる値である。
【0033】
水性上塗材には、上述の成分による撥水効果等が著しく損なわれない範囲内であれば、上記(B)成分以外の粉粒体成分、例えば無機系着色顔料、有機系着色顔料等を混合することもできる。このような着色顔料を混合することで、塗料を所望の色相に調色することができる。この場合、塗料全体の顔料容積濃度は40〜90%(好ましくは50〜85%)程度とすればよい。この他、水性上塗材においては、通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、骨材、繊維、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、撥水剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。水性上塗材は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0034】
本発明では、下塗材を塗付した後、このような水性上塗材を塗装することによって、優れた撥水性能を示す塗膜が得られる。具体的には、水に対する接触角が110°以上(好ましくは120°以上、より好ましくは130°以上、さらに好ましくは140°以上)の塗膜を形成することができる。なお、ここに言う接触角は、接触角計で測定される静的接触角の値である。
【0035】
水性上塗材の塗装方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り等が可能である。乾式建材を工場内で塗装する場合は、ロールコーター、フローコーター等によって塗装することも可能である。本発明における水性上塗材は、塗装時にハジキ等の欠陥が生じにくいという利点もある。
【0036】
水性上塗材を塗装する際の塗付量は適宜選択すればよいが、通常は0.1〜0.5kg/m程度である。塗付時には、水等で希釈することによって、塗料の粘性を適宜調整することもできる。希釈割合は、通常0〜20重量%程度である。水性上塗材を塗装した後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0038】
(水性上塗材の製造)
表1に示す配合に従い、各原料を常法により混合・攪拌することによって水性上塗材を製造した。原料としては下記のものを使用した。
【0039】
・樹脂1:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、外層アクリル樹脂とシリコーン樹脂との重量比80:20、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%
【0040】
・樹脂2:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、外層アクリル樹脂と外層シリコーン樹脂との重量比80:20、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、内層アクリル樹脂と内層シリコーン樹脂との重量比80:20、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%
【0041】
・樹脂3:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、
外層と内層の重量比70:30、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%
【0042】
・樹脂4:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、
外層と内層の重量比50:50、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%
【0043】
・樹脂5:アクリル樹脂エマルション(Tg12℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%)
【0044】
・粉粒体1:シリカ粉(平均粒子径18μm、吸油量10ml/100g、比重2.7)
・粉粒体2:酸化チタン(平均粒子径0.2μm、吸油量13ml/100g、比重4.2)
・撥水剤:ジメチルシロキサン化合物分散液、固形分50重量%)・
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤(固形分30重量%)
・増粘剤:ポリウレタン系増粘剤(固形分30重量%)
・消泡剤:シリコン系消泡剤(固形分50重量%)
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例1)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材1を使用して、以下の方法により各試験を実施した。試験結果を表2に示す。実施例1では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
【0047】
(1)接触角測定
150×70×3mmのスレート板に、下塗材を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、温度23℃・相対湿度50%下(以下、標準状態)で8時間乾燥した後、水性上塗材を塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定した。
【0048】
(2)滑水性試験
150×70×3mmのスレート板に、下塗材を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、水性上塗材を塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体を水平面に対し15度傾け、試験体の塗膜表面に脱イオン水を連続滴下したときの水滴の滑落状態及び滴下後の水滴残痕有無を目視にて観察した。評価基準は、水滴が球状に滑落し水滴痕が残らなかったものを「◎」、水滴が球状に滑落し水滴痕がほとんど残らなかったものを「○」、水滴が球状に滑落したものの水滴痕が残ったものを「△」、水滴が球状に滑落せず水滴痕が残ったのもを「×」とした。
【0049】
(3)密着性試験
150×70×3mmのスレート板に、下塗材を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、水性上塗材を塗付量0.2kg/m2でスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。この試験体を23℃の水に168時間浸漬した後、JIS K 5600−5−6に準じた碁盤目テープ法にて密着性を評価した。評価基準は、欠損部面積が5%未満のものを「◎」、欠損部面積が5%以上15%未満のものを「○」、欠損部面積が15%以上35%未満のものを「△」、欠損部面積が35%以上のものを「×」とした。
【0050】
(4)耐湿潤冷熱繰返し性試験
150×70×3mmのスレート板に、下塗材を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、水性上塗材を塗付量0.2kg/m2でスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。この試験体を23℃の水中に18時間浸した後、直ちに−20℃に保った恒温槽にて3時間冷却し、次に50℃に保った別の恒温槽で3時間加温した。この操作を10回繰り返した後、標準状態に約1時間置いて、塗膜表面の状態を目視にて観察した。評価基準は、異常発生(割れ・膨れ・剥れ)の程度を確認することにより行い、異常が全く発生しなかったものを「◎」、異常がほとんど発生しなかったものを「○」、異常が部分的に発生したものを「△」、異常が著しく発生したものを「×」とした。
【0051】
(5)撥水持続性試験
150×70×3mmのスレート板に、下塗材を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、水性上塗材を塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定した。
次いで、試験体を23℃の水中に3時間浸し、標準状態で1時間乾燥後、同様に接触角を測定した。この試験では、水浸漬後の接触角が、初期接触角に対しどの程度低下したかを確認することによって評価した。評価基準は、水浸漬後の接触角の低下が5度未満であったものを「○」、5度以上10度未満であったものを「△」、10度以上であったものを「×」とした。
【0052】
(実施例2)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材2を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0053】
(実施例3)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材3を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0054】
(実施例4)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材4を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0055】
(比較例1)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材5を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0056】
(比較例2)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材6を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0057】
(比較例3)
下塗材として、エポキシ樹脂エマルションを主成分とする水性下塗材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材6を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0058】
(比較例4)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材7を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0059】
(比較例5)
下塗材として、ヘキシルトリエトキシシランを主成分とする水性エマルション型浸透性吸水防止材を使用し、上塗材として、表1に示す水性上塗材8を使用して、実施例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)を結合材として含み、
平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で含む水性上塗材を塗付することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
基材の表面に、下塗材として浸透性吸水防止材を塗付した後、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルションであって、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂が混在する外層と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂を含む内層を有し、前記外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも前記内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)を結合材として含み、
平均粒子径0.5〜500μmの粉粒体(B)を顔料容積濃度が30〜90%となる範囲内で含む水性上塗材を塗付することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2007−268386(P2007−268386A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95919(P2006−95919)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】