塗装方法
【課題】ワークに対する塗装方法において、色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させる。
【解決手段】塗着効率が優先される中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、ベルガン12のベルカップ36の外縁、又はその近傍へ向けて前記ベルガン12の回転軸22と略平行、又は該回転軸22の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエア16を吐出させ、色の再現性が優先されるベース塗装工程では、ベルガン12のベルカップ36の回転方向に対して逆方向に傾斜して、筐体42の端面において環状に配列された複数のエア吐出孔30bからシェイピングエア16を吐出させる。これらをベルカップ36へ吐出された塗料18と衝突させることによって、優先事項に合致するように塗料18粒子の大きさを形成する。
【解決手段】塗着効率が優先される中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、ベルガン12のベルカップ36の外縁、又はその近傍へ向けて前記ベルガン12の回転軸22と略平行、又は該回転軸22の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエア16を吐出させ、色の再現性が優先されるベース塗装工程では、ベルガン12のベルカップ36の回転方向に対して逆方向に傾斜して、筐体42の端面において環状に配列された複数のエア吐出孔30bからシェイピングエア16を吐出させる。これらをベルカップ36へ吐出された塗料18と衝突させることによって、優先事項に合致するように塗料18粒子の大きさを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中塗り塗装工程、ベース塗装工程及びクリア塗装工程において中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装の外観、すなわち塗装品質を重視する自動車の車体等の構造部材を塗装する方法として、塗料を霧化させる塗装方法、例えば、空気霧化、エアレス霧化、電気霧化、電気空気併用霧化等、様々な方法が知られている。
【0003】
塗装品質の要素としては、例えば、外観肌品質及び色味品質が挙げられる。このうち、色味品質としては、安定した色の再現性が得られることが望まれている。
【0004】
上記の塗料を霧化する塗装方法において、塗料をより微細に霧化、すなわち微粒子化を促進することによって、色の再現性は向上することが知られており、塗料の微粒子化を促進させるためのベルガンが提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなベルガンは、例えば、車両の塗装において、中塗り塗装工程、ベース塗装工程及びクリア塗装工程において用いられている。
【0006】
【特許文献1】実開昭59−82564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塗料の微粒子化が促進された場合、色の再現性は向上するものの、塗装に時間がかかることがある。これは、塗料粒子が小さ過ぎるために、構造部材(ワーク)の塗着面に沿ったエアの流れによって、塗料粒子の塗着が阻害されるためと考えられる。
【0008】
量産工程、例えば、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、クリア塗装工程といった複数の塗装工程を有する自動車の量産工程においては、最終製品としての色の再現性のみならず、全体としての効率的な運用も必要であり、そのために、塗料のワークへの塗着効率の向上も、色の再現性と併せて求められているという課題があった。なお、塗着効率とは、塗装装置から吐出された塗料の分量に対して、ワークへ塗着した塗料の分量の比率である。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることのできる塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る塗装方法は、一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備える中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、前記塗料は中塗り塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記中塗り塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装する中塗り塗装工程と、前記塗料はベース塗料であって、前記中塗り塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
これによって、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、その後のベース塗装によって覆われることから視認されず、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先する。また、クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。
【0012】
製品の色彩を決定するベース塗装工程では、衝突時における塗料に対するシェイピングエアの相対速度が高くなり、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料が十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としての色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【0013】
ここで、中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンの各名称は、説明の便宜上、区別しているものである。中塗り塗装ベルガンは、中塗り工程で中塗り塗料を噴出するガンであり、ベース塗装ベルガンは、ベース塗装工程でベース塗料を噴出するガンであり、クリア塗装ガンは、クリア塗装工程でクリア塗料を噴出するガンとして定義される。
【0014】
この場合、前記中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンは、それぞれ、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットにするとよい。
【0015】
これによって、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンでは、スリットが外側リングの全周にわたって形成されるために、シェイピングエアが均一に吐出される。よって、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの構造として、ベルカップと外側リング間の距離を短くしても、シェイピングエアと塗料を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエアが均一に吐出されることで、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの外部からの汚れの進入を軽減することが可能となる。結果、塗料が汚れとしてベルカップに付着する量を抑制でき、ベルカップの洗浄頻度を減少させることができる。また、該距離が短いことから、ベルガンがコンパクトになる。
【0016】
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度を、前記中塗り塗装及び前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速くするとよい。
【0017】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、中塗り塗装及びクリア塗装工程と比べ、塗料の微粒子化を促進させることが可能となる。
【0018】
本発明に係る塗装方法は、一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備えるベース塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンによって、ワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、前記塗料はベース塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
これによって、上述したベース塗装工程及びクリア塗装工程の効果を有したまま、中塗り塗装工程を省略することで、量産工程全体として効率的な運用が可能となる。
【0020】
この場合、前記クリア塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットにするとよい。
【0021】
これによって、クリア塗装ベルガンでは、スリットが外側リングの全周にわたって形成されるために、シェイピングエアが均一に吐出される。よって、クリア塗装ベルガンの構造として、ベルカップと外側リング間の距離を短くしても、シェイピングエアと塗料を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエアが均一に吐出されることで、クリア塗装ベルガンの外部からの汚れの進入を軽減することが可能となる。結果、塗料が汚れとしてベルカップに付着する量を抑制でき、ベルカップの洗浄頻度を減少させることができる。また、該距離が短いことから、ベルガンがコンパクトになる。
【0022】
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度を、前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速くするとよい。
【0023】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、前記クリア塗装工程と比べ、塗料の微粒子化を促進させることが可能となる。
【0024】
前記ベース塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の筐体を有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記筐体の端面において環状に配列され、前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜した複数のエア吐出孔にするとよい。
【0025】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、十分な塗料の微粒子化が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る塗装方法によれば、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に適度な塗料の微粒子化が可能となり、塗装効率が向上する。中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先し、ベース塗装工程とは異なる塗装手段によって塗装する。製品の色彩を決定するベース塗装工程では、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料が十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としての色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る塗装方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図1〜図10を参照しながら説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係る塗装方法は、車両であるワーク10に対して、中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cを有する塗装ロボット14にて、シェイピングエア16と、塗料18である中塗り塗料18a、ベース塗料18b、及びクリア塗料18cとを用いて塗装を行う。図1においては、代表的に1つの工程における塗装ステーションだけを示しているが、後述(図6参照)するようにワーク10に対しては、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、クリア塗装工程によって順に塗装を行い、その間に焼付け工程及び予備加熱工程等を有する。各工程は搬送ラインで接続された別ステーションで行われる。
【0029】
中塗り塗装工程では、中塗り塗料18aを用いて中塗り塗装ベルガン12aによって塗装を行い、ベース塗装工程では、ベース塗料18bを用いてベース塗装ベルガン12bによって塗装を行い、クリア塗装工程では、クリア塗料18cを用いてクリア塗装ベルガン12cによって塗装を行う。中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cは塗装ロボット14のティーチング動作によって、ワーク10の表面に対して所定の距離を保って移動しながら塗料を吹き付けて塗装を行う。これらの一連の塗装工程では、基本的には静電塗装を行うが、設計条件によってはそれ以外の吹き付け塗装としてもよい。なお、中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cの各名称は、説明の便宜上、区別しているものである。
【0030】
また、中塗り塗装ベルガン12aとクリア塗装ベルガン12cは、同じ構成要素を有しているため、中塗り塗装ベルガン12aの構成要素の説明をもって、クリア塗装ベルガン12cの説明を省略する。
【0031】
図2に示すように、中塗り塗装ベルガン12aは、本体20を備え、該本体20には回転軸22が突設されている。説明の便宜上、回転軸22における中塗り塗装ベルガン12aの基端側をX方向、中塗り塗装ベルガン12aの先端側をY方向とする。
【0032】
本体20のY方向端中央部には、回転軸22が突設されている。本体20のY方向端外周には外側リング24が螺着されている。該外側リング24の内側に、内側リング26が挿嵌され、前記外側リング24と前記内側リング26との隙間には、エアチャンバ28及びシェイピングエア吐出部30であるスリット30aが形成されている。
【0033】
回転軸22は、中空部である塗料供給路32を有し、ベルカップ36に軸通している。また、回転軸22は、本体20から供給される圧縮空気によって回転し、連動して、ベルカップ36も回転している。
【0034】
塗料供給路32は、本体20のY方向端より回転軸22方向(X−Y方向)に延在し、Y方向端部には、塗料チャンバ34が設けられている。塗料18は、塗料供給路32を介して、本体20から塗料チャンバ34へ供給される。
【0035】
塗料チャンバ34は、塗料18の充填効率を高めるのと同時に、塗料18を均一化させて塗料吐出孔38へ送ることができる。塗料チャンバ34のY方向端面には、複数(例えば、12個)の塗料吐出孔38が環状に配列され、塗料チャンバ34とベルカップ36とを接続している。塗料チャンバ34に充填された塗料18は、複数の塗料吐出孔38を介してベルカップ36へ供給される。
【0036】
ベルカップ36は、ベル形状で、Y方向に向かって拡開している。また、ベルカップ36のY方向端部は、外側リング24のY方向端部よりも距離H1(図2参照)だけ突出している。塗料チャンバ34より供給された塗料18は、回転軸22の回転によって生じる遠心力を受けて、ベルカップ36の外縁方向へ吐出されることとなる。
【0037】
外側リング24は、Y方向より平面視すると、ベルカップ36と同軸の円形状である。外側リング24のY方向端部は、内側リング26よりもややY方向に位置している。
【0038】
内側リング26には、中空部として略回転軸22方向(X−Y方向)に延在し、シェイピングエア16を供給する複数(例えば、30個)のシェイピングエア供給路40が穿設されている。本体20より供給されたシェイピングエア16は、シェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、スリット30aに供給される。
【0039】
エアチャンバ28は、スリット30aより体積のある空間であり、本体20より供給されるシェイピングエア16をスリット30aへ吐出する前に一時的に保管すると同時に、複数のシェイピングエア供給路40から供給されるシェイピングエア16を均一化させることができる。
【0040】
シェイピングエア吐出部30であるスリット30aは、外側リング24内周と、内側リング26外周との間に形成された環状の細い隙間で(図3参照)、略回転軸22方向(X−Y方向)に延在する。スリット30aが、外側リング24の内周全体にわたって形成されるために、シェイピングエア16が均一に吐出される。よって、中塗り塗装ベルガン12aの構造として、ベルカップ36と外側リング24におけるY方向端部間の距離H1(図2参照)を短くしても、シェイピングエア16と塗料18を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエア16が均一に吐出され、前記距離H1の短い構造を中塗り塗装ベルガン12aが有することによって、中塗り塗装ベルガン12aの外部から侵入する汚れの量を減少させることができ、汚れが塗料18に与える影響を抑制することができる。結果、汚れがベルカップ36に付着する量を抑制できることで、ベルカップ36の洗浄頻度を低減させることが可能となる。また、該距離が短いことから、中塗り塗装ベルガン12aはコンパクトになる。
【0041】
次に、ベース塗装ベルガン12bの構成について説明する。ベース塗装ベルガン12bについて、中塗り塗装ベルガン12aの構成要素と同じ構成要素については同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、ベース塗装ベルガン12bは、本体20を備え、該本体20のY方向端外周には筐体42が螺着されている。
【0043】
ベルカップ36のY方向端部は、筐体42のY方向端部よりも距離H2だけ突出している(図4参照)。
【0044】
筐体42は、Y方向より平面視すると、ベルカップ36と同軸の円形状である(図5参照)。筐体42の外周部には、シェイピングエア吐出部30である複数(例えば、40個)のエア吐出孔30bと、エアチャンバ28と、シェイピングエア供給路40とが穿設されており、本体20より供給されたシェイピングエア16は、シェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、複数のエア吐出孔30bに供給される。
【0045】
エア吐出孔30bは、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられ、Y方向より平面視すると、筐体42の端面において環状に配列されている。エア吐出孔30bを傾けて設けることによって、色の再現性が優先される塗装工程において、塗料18に対するシェイピングエア16の相対速度を高めることでき、十分な塗料の微粒子化が可能となる。
【0046】
ベルカップ36のY方向端部と筐体42のY方向端部との距離H2は、前記の距離H1より適度に大きく設定されており、不連続な複数のエア吐出孔30bから吐出されたシェイピングエア16は、吐出時には各エア吐出孔30bに分かれて不連続であるが、ベルカップ36のY方向端部に達するまでには適度に拡散してほとんど均一となっており、塗料18に対して好適な状態で衝突する。
【0047】
以上のような基本的構成を有した中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cを用いて、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程を含む塗装ラインにおいてワーク10に対して塗装をする塗装方法について、図6を参照しながら説明する。
【0048】
ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程において、前処理として電着塗装した後、該電着塗装を定着させるために焼付け作業を行ったワーク10と、中塗り塗装ベルガン12aと、中塗り塗料18aを準備する。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、塗装面の平滑性確保及び防錆等が主な目的で、後述するベース塗装によって覆われ、製品として外側からは視認されなくなるため、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率が優先する。従って、中塗り塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。
【0049】
中塗り塗料18aは、本体20から塗料供給路32、塗料チャンバ34の順に経由して、複数の塗料吐出孔38よりベルカップ36へ射出される。中塗り塗料18aは、回転軸22の回転によって生じる遠心力でベルカップ36の外縁側へ飛散する。回転軸22及びベルカップ36は、図7に示すように、Y方向からX方向に見た場合、反時計回りに回転している。
【0050】
シェイピングエア16は、本体20からシェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、スリット30aより吐出される。この際、スリット30aは、略回転軸22方向(X−Y方向)に延在するため、シェイピングエア16は略Y方向へ吐出する(図7参照)。
【0051】
よって、ベルカップ36の外縁側へ飛散した中塗り塗料18aと、略Y方向へ吐出したシェイピングエア16とは、スリット30aの略Y方向上で衝突し、結果、中塗り塗料18aは塗料チャンバ34から射出された時より適度に小さな粒子を形成し、ワーク10に塗着する。この粒子は塗着効率が低下しない程度の大きさになる。
【0052】
中塗り塗装工程では、塗装ロボット14の動作によって中塗り塗装ベルガン12aをワーク10から所定の距離を保ちながら所定の速度で移動させる。このとき、中塗り塗装ベルガン12aによる塗着効率は高いことから、塗装ロボット14による移動速度を適度に速くすることができ中塗り塗装工程を短時間で終了させることができる。
【0053】
なお、中塗り塗装工程(及びクリア塗装工程)では、塗着効率を優先させていることから、塗料の粒子はベース塗装工程における粒子よりは大きくしているが、前記の通り中塗り塗装ベルガン12a(及びクリア塗装ベルガン12c)では、塗料はスリット30aから均一に吐出されていることから、塗りむらがなく、色の再現性も相当に高い。
【0054】
ステップS2、すなわち、焼付け工程において、ワーク10に対して、中塗り塗料18aの定着を目的とした焼付け作業を行う。
【0055】
次いで、ステップS3、すなわち、ベース塗装工程において、ワーク10と、ベース塗装ベルガン12bと、ベース塗料18bを準備する。該ベース塗装工程は、製品の色彩を決定する工程のため、色の再現性が優先され、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料を十分に微粒子化する。
【0056】
ベース塗料18bは、本体20から塗料供給路32、塗料チャンバ34、複数の塗料吐出孔38の順に経由して、ベルカップ36へ射出される。ベース塗料18bは、回転軸22の回転によって生じる遠心力でベルカップ36の外縁側へ飛散する。回転軸22及びベルカップ36は、図8に示すように、Y方向からX方向に見た場合、反時計回りに回転している。
【0057】
シェイピングエア16は、本体20からシェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、複数のエア吐出孔30bより吐出される。複数のエア吐出孔30bは、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられているため、シェイピングエア16も同様に、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向に吐出する(図8参照)。
【0058】
よって、ベルカップ36の外縁側へ拡散したベース塗料18bと、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向に吐出したシェイピングエア16とは、エア吐出孔30bの延長線上周辺で衝突し、結果、ベース塗料18bは回転軸22から射出された時より小さな粒子を形成し、ワーク10へと塗着する。シェイピングエア16とベース塗料18bとの衝突時の相対速度は、ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程におけるシェイピングエア16と中塗り塗料18aとの衝突時の相対速度よりも速くなる。これは、複数のエア吐出孔30bが、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられているためである。よって、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能なベース塗料18b粒子の大きさを維持しつつ、ベース塗料18bの微粒子化が促進され、色の再現性が高く維持されるように十分に小さいベース塗料粒子を形成することが可能となる。
【0059】
ベース塗装工程では、塗装ロボット14の動作によってベース塗装ベルガン12bをワーク10から所定の距離に保ちながら所定の速度で移動させる。このとき、ベース塗装ベルガン12bによる色の再現性を維持させるために塗装ロボット14による移動速度を適度に遅くするとよい。
【0060】
ステップS4、すなわち、予備加熱工程において、ワーク10に対して、ベース塗料18bに含まれる水分を蒸発させることを目的とした予備加熱作業を行う。なお、ベース塗料18bが溶剤塗料である場合、溶剤は揮発するので、本工程は省略してもよい。
【0061】
次いで、ステップS5、すなわち、クリア塗装工程において、ワーク10と、クリア塗装ベルガン12cと、クリア塗料18cを準備する。クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。従って、クリア塗料18cの粒子は塗着効率が低下しない程度の大きさにとどめる。
【0062】
このステップS5では、ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程と同様の作業を行うが、中塗り塗料18aの代わりにクリア塗料18cを用いて、該クリア塗料18cをワーク10に塗着させる。ステップS5においては、塗料の粒子が過度に小さくないことから、ステップS1と同様に高効率の塗装が行われる。
【0063】
ステップS6、すなわち、焼付け工程において、ステップS2と同様に焼付け作業を行う。
【0064】
これによって、図6に示す塗装方法に係る一連の塗装が終了する。
【0065】
中塗り塗装ベルガン12a及び(又は)クリア塗装ベルガン12cの変形例としては、ベース塗装ベルガン12bと同様の構造を有してもよい。この場合、ステップS1及び(又は)ステップS5は、回転軸22及びベルカップ36の回転方向を、Y方向からX方向に見た場合、時計回りにさせるとよい。これによって、シェイピングエアと塗料との衝突時の相対速度を、上述した実施の形態におけるステップS1及び(又は)ステップS5と比べて減少させることができ、塗料の微粒子化を適度に抑制することができる。
【0066】
別の変形例としては、図9に示すように、上述した塗装方法におけるステップS1及びS2、すなわち中塗り塗装工程及びその後の焼付け工程を省略してもよい。よって、図9に示した、ステップS101であるベース塗装工程の前に、前処理として電着塗装した後、該電着塗装を定着させるために焼付け作業を行ったワーク10と、ベース塗装ベルガン12bと、塗料18であるベース塗料18bを準備することとなる。
【0067】
次に、本実施の形態に係る塗装方法による色の再現性と塗着効率を確認するために行った実験結果を図10に示す。
【0068】
図10において、シェイピングエア吐出部が、ベース塗装ベルガンのように吐出孔が回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する構造を有した場合を●印で示し、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンのようにスリットを有した構造の場合を◆印で示し、前記の変形例のように吐出孔が回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する構造を有した場合を■印で示す。図10の縦軸は、色の再現性確認のため、色彩の指標の一つである明度を示す。図10の横軸は、シェイピングエアと塗料とが衝突する時のベルカップ周方向における相対速度を示す。
【0069】
ベース塗装ベルガンを使用する場合、前記相対速度はV1m/sであり、その際の明度は相当に高くなっており、塗着効率は概ね70%程度である。また、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンを使用した場合、前記相対速度はV2(V2<V1)m/sであり、その際の明度はやや低くなっており、塗着効率は概ね80%程度である。さらにまた、変形例のように、吐出孔を回転軸の回転方向と同方向に傾斜して設けた場合、前記相対速度はV3(V3<V2)m/sであり、その際の明度はさらに低くなっている。なお、この場合の明度は、エックスライト株式会社製MA68の測色計を用いて、正反射から15度ずらした角度において測定したものである。
【0070】
図10の実験結果からも明らかなように、シェイピングエアと塗料とが衝突する相対速度が速い場合には、●印で示すように色の再現性としての明度を高くすることができるとともに、衝突する相対速度を低くすると塗着効率を向上させることができる。
【0071】
上述したように、本実施の形態に係る塗装方法によれば、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、その後のベース塗装によって覆われることから視認されず、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先する。また、クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。
【0072】
製品の色彩を決定するベース塗装工程では、衝突時におけるベース塗料18bに対するシェイピングエア16の相対速度が高くなり、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能なベース塗料18b粒子の大きさを維持しつつ、ベース塗料18bが十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としてのワーク10の色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【0073】
本発明に係る塗装方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施の形態に係る塗装方法における所定の塗装工程に係る塗装ステーションを示す概略斜視図である。
【図2】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの一部断面図である。
【図3】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの平面図である。
【図4】ベース塗装ベルガンの一部断面図である。
【図5】ベース塗装ベルガンの平面図である。
【図6】本実施の形態に係る塗装方法のフローチャートである。
【図7】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの一部斜視図である。
【図8】ベース塗装ベルガンの一部斜視図である。
【図9】変形例に係る塗装方法のフローチャートである。
【図10】本実施の形態に係る塗装方法による塗装の効果を確認するための実験結果である。
【符号の説明】
【0075】
10…ワーク 12…ベルガン
12a…中塗り塗装ベルガン 12b…ベース塗装ベルガン
12c…クリア塗装ベルガン 14…塗装ロボット
16…シェイピングエア 18…塗料
18a…中塗り塗料 18b…ベース塗料
18c…クリア塗料 20…本体
22…回転軸 24…外側リング
26…内側リング 28…エアチャンバ
30…シェイピングエア吐出部 30a…スリット
30b…エア吐出孔 32…塗料供給路
34…塗料チャンバ 36…ベルカップ
38…塗料吐出孔 40…シェイピングエア供給路
42…筐体
【技術分野】
【0001】
本発明は、中塗り塗装工程、ベース塗装工程及びクリア塗装工程において中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装の外観、すなわち塗装品質を重視する自動車の車体等の構造部材を塗装する方法として、塗料を霧化させる塗装方法、例えば、空気霧化、エアレス霧化、電気霧化、電気空気併用霧化等、様々な方法が知られている。
【0003】
塗装品質の要素としては、例えば、外観肌品質及び色味品質が挙げられる。このうち、色味品質としては、安定した色の再現性が得られることが望まれている。
【0004】
上記の塗料を霧化する塗装方法において、塗料をより微細に霧化、すなわち微粒子化を促進することによって、色の再現性は向上することが知られており、塗料の微粒子化を促進させるためのベルガンが提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなベルガンは、例えば、車両の塗装において、中塗り塗装工程、ベース塗装工程及びクリア塗装工程において用いられている。
【0006】
【特許文献1】実開昭59−82564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塗料の微粒子化が促進された場合、色の再現性は向上するものの、塗装に時間がかかることがある。これは、塗料粒子が小さ過ぎるために、構造部材(ワーク)の塗着面に沿ったエアの流れによって、塗料粒子の塗着が阻害されるためと考えられる。
【0008】
量産工程、例えば、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、クリア塗装工程といった複数の塗装工程を有する自動車の量産工程においては、最終製品としての色の再現性のみならず、全体としての効率的な運用も必要であり、そのために、塗料のワークへの塗着効率の向上も、色の再現性と併せて求められているという課題があった。なお、塗着効率とは、塗装装置から吐出された塗料の分量に対して、ワークへ塗着した塗料の分量の比率である。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることのできる塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る塗装方法は、一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備える中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、前記塗料は中塗り塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記中塗り塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装する中塗り塗装工程と、前記塗料はベース塗料であって、前記中塗り塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
これによって、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、その後のベース塗装によって覆われることから視認されず、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先する。また、クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。
【0012】
製品の色彩を決定するベース塗装工程では、衝突時における塗料に対するシェイピングエアの相対速度が高くなり、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料が十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としての色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【0013】
ここで、中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンの各名称は、説明の便宜上、区別しているものである。中塗り塗装ベルガンは、中塗り工程で中塗り塗料を噴出するガンであり、ベース塗装ベルガンは、ベース塗装工程でベース塗料を噴出するガンであり、クリア塗装ガンは、クリア塗装工程でクリア塗料を噴出するガンとして定義される。
【0014】
この場合、前記中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンは、それぞれ、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットにするとよい。
【0015】
これによって、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンでは、スリットが外側リングの全周にわたって形成されるために、シェイピングエアが均一に吐出される。よって、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの構造として、ベルカップと外側リング間の距離を短くしても、シェイピングエアと塗料を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエアが均一に吐出されることで、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの外部からの汚れの進入を軽減することが可能となる。結果、塗料が汚れとしてベルカップに付着する量を抑制でき、ベルカップの洗浄頻度を減少させることができる。また、該距離が短いことから、ベルガンがコンパクトになる。
【0016】
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度を、前記中塗り塗装及び前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速くするとよい。
【0017】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、中塗り塗装及びクリア塗装工程と比べ、塗料の微粒子化を促進させることが可能となる。
【0018】
本発明に係る塗装方法は、一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備えるベース塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンによって、ワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、前記塗料はベース塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
これによって、上述したベース塗装工程及びクリア塗装工程の効果を有したまま、中塗り塗装工程を省略することで、量産工程全体として効率的な運用が可能となる。
【0020】
この場合、前記クリア塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットにするとよい。
【0021】
これによって、クリア塗装ベルガンでは、スリットが外側リングの全周にわたって形成されるために、シェイピングエアが均一に吐出される。よって、クリア塗装ベルガンの構造として、ベルカップと外側リング間の距離を短くしても、シェイピングエアと塗料を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエアが均一に吐出されることで、クリア塗装ベルガンの外部からの汚れの進入を軽減することが可能となる。結果、塗料が汚れとしてベルカップに付着する量を抑制でき、ベルカップの洗浄頻度を減少させることができる。また、該距離が短いことから、ベルガンがコンパクトになる。
【0022】
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度を、前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速くするとよい。
【0023】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、前記クリア塗装工程と比べ、塗料の微粒子化を促進させることが可能となる。
【0024】
前記ベース塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の筐体を有し、前記シェイピングエア吐出部は、前記筐体の端面において環状に配列され、前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜した複数のエア吐出孔にするとよい。
【0025】
これによって、色の再現性を優先するベース塗装工程において、塗料に対するシェイピングエアの相対速度を高めることでき、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、十分な塗料の微粒子化が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る塗装方法によれば、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に適度な塗料の微粒子化が可能となり、塗装効率が向上する。中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先し、ベース塗装工程とは異なる塗装手段によって塗装する。製品の色彩を決定するベース塗装工程では、ワークへ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料が十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としての色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る塗装方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図1〜図10を参照しながら説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係る塗装方法は、車両であるワーク10に対して、中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cを有する塗装ロボット14にて、シェイピングエア16と、塗料18である中塗り塗料18a、ベース塗料18b、及びクリア塗料18cとを用いて塗装を行う。図1においては、代表的に1つの工程における塗装ステーションだけを示しているが、後述(図6参照)するようにワーク10に対しては、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、クリア塗装工程によって順に塗装を行い、その間に焼付け工程及び予備加熱工程等を有する。各工程は搬送ラインで接続された別ステーションで行われる。
【0029】
中塗り塗装工程では、中塗り塗料18aを用いて中塗り塗装ベルガン12aによって塗装を行い、ベース塗装工程では、ベース塗料18bを用いてベース塗装ベルガン12bによって塗装を行い、クリア塗装工程では、クリア塗料18cを用いてクリア塗装ベルガン12cによって塗装を行う。中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cは塗装ロボット14のティーチング動作によって、ワーク10の表面に対して所定の距離を保って移動しながら塗料を吹き付けて塗装を行う。これらの一連の塗装工程では、基本的には静電塗装を行うが、設計条件によってはそれ以外の吹き付け塗装としてもよい。なお、中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cの各名称は、説明の便宜上、区別しているものである。
【0030】
また、中塗り塗装ベルガン12aとクリア塗装ベルガン12cは、同じ構成要素を有しているため、中塗り塗装ベルガン12aの構成要素の説明をもって、クリア塗装ベルガン12cの説明を省略する。
【0031】
図2に示すように、中塗り塗装ベルガン12aは、本体20を備え、該本体20には回転軸22が突設されている。説明の便宜上、回転軸22における中塗り塗装ベルガン12aの基端側をX方向、中塗り塗装ベルガン12aの先端側をY方向とする。
【0032】
本体20のY方向端中央部には、回転軸22が突設されている。本体20のY方向端外周には外側リング24が螺着されている。該外側リング24の内側に、内側リング26が挿嵌され、前記外側リング24と前記内側リング26との隙間には、エアチャンバ28及びシェイピングエア吐出部30であるスリット30aが形成されている。
【0033】
回転軸22は、中空部である塗料供給路32を有し、ベルカップ36に軸通している。また、回転軸22は、本体20から供給される圧縮空気によって回転し、連動して、ベルカップ36も回転している。
【0034】
塗料供給路32は、本体20のY方向端より回転軸22方向(X−Y方向)に延在し、Y方向端部には、塗料チャンバ34が設けられている。塗料18は、塗料供給路32を介して、本体20から塗料チャンバ34へ供給される。
【0035】
塗料チャンバ34は、塗料18の充填効率を高めるのと同時に、塗料18を均一化させて塗料吐出孔38へ送ることができる。塗料チャンバ34のY方向端面には、複数(例えば、12個)の塗料吐出孔38が環状に配列され、塗料チャンバ34とベルカップ36とを接続している。塗料チャンバ34に充填された塗料18は、複数の塗料吐出孔38を介してベルカップ36へ供給される。
【0036】
ベルカップ36は、ベル形状で、Y方向に向かって拡開している。また、ベルカップ36のY方向端部は、外側リング24のY方向端部よりも距離H1(図2参照)だけ突出している。塗料チャンバ34より供給された塗料18は、回転軸22の回転によって生じる遠心力を受けて、ベルカップ36の外縁方向へ吐出されることとなる。
【0037】
外側リング24は、Y方向より平面視すると、ベルカップ36と同軸の円形状である。外側リング24のY方向端部は、内側リング26よりもややY方向に位置している。
【0038】
内側リング26には、中空部として略回転軸22方向(X−Y方向)に延在し、シェイピングエア16を供給する複数(例えば、30個)のシェイピングエア供給路40が穿設されている。本体20より供給されたシェイピングエア16は、シェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、スリット30aに供給される。
【0039】
エアチャンバ28は、スリット30aより体積のある空間であり、本体20より供給されるシェイピングエア16をスリット30aへ吐出する前に一時的に保管すると同時に、複数のシェイピングエア供給路40から供給されるシェイピングエア16を均一化させることができる。
【0040】
シェイピングエア吐出部30であるスリット30aは、外側リング24内周と、内側リング26外周との間に形成された環状の細い隙間で(図3参照)、略回転軸22方向(X−Y方向)に延在する。スリット30aが、外側リング24の内周全体にわたって形成されるために、シェイピングエア16が均一に吐出される。よって、中塗り塗装ベルガン12aの構造として、ベルカップ36と外側リング24におけるY方向端部間の距離H1(図2参照)を短くしても、シェイピングエア16と塗料18を均一に衝突させることができる。また、シェイピングエア16が均一に吐出され、前記距離H1の短い構造を中塗り塗装ベルガン12aが有することによって、中塗り塗装ベルガン12aの外部から侵入する汚れの量を減少させることができ、汚れが塗料18に与える影響を抑制することができる。結果、汚れがベルカップ36に付着する量を抑制できることで、ベルカップ36の洗浄頻度を低減させることが可能となる。また、該距離が短いことから、中塗り塗装ベルガン12aはコンパクトになる。
【0041】
次に、ベース塗装ベルガン12bの構成について説明する。ベース塗装ベルガン12bについて、中塗り塗装ベルガン12aの構成要素と同じ構成要素については同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、ベース塗装ベルガン12bは、本体20を備え、該本体20のY方向端外周には筐体42が螺着されている。
【0043】
ベルカップ36のY方向端部は、筐体42のY方向端部よりも距離H2だけ突出している(図4参照)。
【0044】
筐体42は、Y方向より平面視すると、ベルカップ36と同軸の円形状である(図5参照)。筐体42の外周部には、シェイピングエア吐出部30である複数(例えば、40個)のエア吐出孔30bと、エアチャンバ28と、シェイピングエア供給路40とが穿設されており、本体20より供給されたシェイピングエア16は、シェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、複数のエア吐出孔30bに供給される。
【0045】
エア吐出孔30bは、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられ、Y方向より平面視すると、筐体42の端面において環状に配列されている。エア吐出孔30bを傾けて設けることによって、色の再現性が優先される塗装工程において、塗料18に対するシェイピングエア16の相対速度を高めることでき、十分な塗料の微粒子化が可能となる。
【0046】
ベルカップ36のY方向端部と筐体42のY方向端部との距離H2は、前記の距離H1より適度に大きく設定されており、不連続な複数のエア吐出孔30bから吐出されたシェイピングエア16は、吐出時には各エア吐出孔30bに分かれて不連続であるが、ベルカップ36のY方向端部に達するまでには適度に拡散してほとんど均一となっており、塗料18に対して好適な状態で衝突する。
【0047】
以上のような基本的構成を有した中塗り塗装ベルガン12a、ベース塗装ベルガン12b、及びクリア塗装ベルガン12cを用いて、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程を含む塗装ラインにおいてワーク10に対して塗装をする塗装方法について、図6を参照しながら説明する。
【0048】
ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程において、前処理として電着塗装した後、該電着塗装を定着させるために焼付け作業を行ったワーク10と、中塗り塗装ベルガン12aと、中塗り塗料18aを準備する。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、塗装面の平滑性確保及び防錆等が主な目的で、後述するベース塗装によって覆われ、製品として外側からは視認されなくなるため、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率が優先する。従って、中塗り塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。
【0049】
中塗り塗料18aは、本体20から塗料供給路32、塗料チャンバ34の順に経由して、複数の塗料吐出孔38よりベルカップ36へ射出される。中塗り塗料18aは、回転軸22の回転によって生じる遠心力でベルカップ36の外縁側へ飛散する。回転軸22及びベルカップ36は、図7に示すように、Y方向からX方向に見た場合、反時計回りに回転している。
【0050】
シェイピングエア16は、本体20からシェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、スリット30aより吐出される。この際、スリット30aは、略回転軸22方向(X−Y方向)に延在するため、シェイピングエア16は略Y方向へ吐出する(図7参照)。
【0051】
よって、ベルカップ36の外縁側へ飛散した中塗り塗料18aと、略Y方向へ吐出したシェイピングエア16とは、スリット30aの略Y方向上で衝突し、結果、中塗り塗料18aは塗料チャンバ34から射出された時より適度に小さな粒子を形成し、ワーク10に塗着する。この粒子は塗着効率が低下しない程度の大きさになる。
【0052】
中塗り塗装工程では、塗装ロボット14の動作によって中塗り塗装ベルガン12aをワーク10から所定の距離を保ちながら所定の速度で移動させる。このとき、中塗り塗装ベルガン12aによる塗着効率は高いことから、塗装ロボット14による移動速度を適度に速くすることができ中塗り塗装工程を短時間で終了させることができる。
【0053】
なお、中塗り塗装工程(及びクリア塗装工程)では、塗着効率を優先させていることから、塗料の粒子はベース塗装工程における粒子よりは大きくしているが、前記の通り中塗り塗装ベルガン12a(及びクリア塗装ベルガン12c)では、塗料はスリット30aから均一に吐出されていることから、塗りむらがなく、色の再現性も相当に高い。
【0054】
ステップS2、すなわち、焼付け工程において、ワーク10に対して、中塗り塗料18aの定着を目的とした焼付け作業を行う。
【0055】
次いで、ステップS3、すなわち、ベース塗装工程において、ワーク10と、ベース塗装ベルガン12bと、ベース塗料18bを準備する。該ベース塗装工程は、製品の色彩を決定する工程のため、色の再現性が優先され、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能な塗料粒子の大きさを維持しつつ、塗料を十分に微粒子化する。
【0056】
ベース塗料18bは、本体20から塗料供給路32、塗料チャンバ34、複数の塗料吐出孔38の順に経由して、ベルカップ36へ射出される。ベース塗料18bは、回転軸22の回転によって生じる遠心力でベルカップ36の外縁側へ飛散する。回転軸22及びベルカップ36は、図8に示すように、Y方向からX方向に見た場合、反時計回りに回転している。
【0057】
シェイピングエア16は、本体20からシェイピングエア供給路40、エアチャンバ28の順に経由して、複数のエア吐出孔30bより吐出される。複数のエア吐出孔30bは、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられているため、シェイピングエア16も同様に、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向に吐出する(図8参照)。
【0058】
よって、ベルカップ36の外縁側へ拡散したベース塗料18bと、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向に吐出したシェイピングエア16とは、エア吐出孔30bの延長線上周辺で衝突し、結果、ベース塗料18bは回転軸22から射出された時より小さな粒子を形成し、ワーク10へと塗着する。シェイピングエア16とベース塗料18bとの衝突時の相対速度は、ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程におけるシェイピングエア16と中塗り塗料18aとの衝突時の相対速度よりも速くなる。これは、複数のエア吐出孔30bが、回転軸22の回転方向に対して逆方向に傾斜して設けられているためである。よって、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能なベース塗料18b粒子の大きさを維持しつつ、ベース塗料18bの微粒子化が促進され、色の再現性が高く維持されるように十分に小さいベース塗料粒子を形成することが可能となる。
【0059】
ベース塗装工程では、塗装ロボット14の動作によってベース塗装ベルガン12bをワーク10から所定の距離に保ちながら所定の速度で移動させる。このとき、ベース塗装ベルガン12bによる色の再現性を維持させるために塗装ロボット14による移動速度を適度に遅くするとよい。
【0060】
ステップS4、すなわち、予備加熱工程において、ワーク10に対して、ベース塗料18bに含まれる水分を蒸発させることを目的とした予備加熱作業を行う。なお、ベース塗料18bが溶剤塗料である場合、溶剤は揮発するので、本工程は省略してもよい。
【0061】
次いで、ステップS5、すなわち、クリア塗装工程において、ワーク10と、クリア塗装ベルガン12cと、クリア塗料18cを準備する。クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。従って、クリア塗料18cの粒子は塗着効率が低下しない程度の大きさにとどめる。
【0062】
このステップS5では、ステップS1、すなわち、中塗り塗装工程と同様の作業を行うが、中塗り塗料18aの代わりにクリア塗料18cを用いて、該クリア塗料18cをワーク10に塗着させる。ステップS5においては、塗料の粒子が過度に小さくないことから、ステップS1と同様に高効率の塗装が行われる。
【0063】
ステップS6、すなわち、焼付け工程において、ステップS2と同様に焼付け作業を行う。
【0064】
これによって、図6に示す塗装方法に係る一連の塗装が終了する。
【0065】
中塗り塗装ベルガン12a及び(又は)クリア塗装ベルガン12cの変形例としては、ベース塗装ベルガン12bと同様の構造を有してもよい。この場合、ステップS1及び(又は)ステップS5は、回転軸22及びベルカップ36の回転方向を、Y方向からX方向に見た場合、時計回りにさせるとよい。これによって、シェイピングエアと塗料との衝突時の相対速度を、上述した実施の形態におけるステップS1及び(又は)ステップS5と比べて減少させることができ、塗料の微粒子化を適度に抑制することができる。
【0066】
別の変形例としては、図9に示すように、上述した塗装方法におけるステップS1及びS2、すなわち中塗り塗装工程及びその後の焼付け工程を省略してもよい。よって、図9に示した、ステップS101であるベース塗装工程の前に、前処理として電着塗装した後、該電着塗装を定着させるために焼付け作業を行ったワーク10と、ベース塗装ベルガン12bと、塗料18であるベース塗料18bを準備することとなる。
【0067】
次に、本実施の形態に係る塗装方法による色の再現性と塗着効率を確認するために行った実験結果を図10に示す。
【0068】
図10において、シェイピングエア吐出部が、ベース塗装ベルガンのように吐出孔が回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する構造を有した場合を●印で示し、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンのようにスリットを有した構造の場合を◆印で示し、前記の変形例のように吐出孔が回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する構造を有した場合を■印で示す。図10の縦軸は、色の再現性確認のため、色彩の指標の一つである明度を示す。図10の横軸は、シェイピングエアと塗料とが衝突する時のベルカップ周方向における相対速度を示す。
【0069】
ベース塗装ベルガンを使用する場合、前記相対速度はV1m/sであり、その際の明度は相当に高くなっており、塗着効率は概ね70%程度である。また、中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンを使用した場合、前記相対速度はV2(V2<V1)m/sであり、その際の明度はやや低くなっており、塗着効率は概ね80%程度である。さらにまた、変形例のように、吐出孔を回転軸の回転方向と同方向に傾斜して設けた場合、前記相対速度はV3(V3<V2)m/sであり、その際の明度はさらに低くなっている。なお、この場合の明度は、エックスライト株式会社製MA68の測色計を用いて、正反射から15度ずらした角度において測定したものである。
【0070】
図10の実験結果からも明らかなように、シェイピングエアと塗料とが衝突する相対速度が速い場合には、●印で示すように色の再現性としての明度を高くすることができるとともに、衝突する相対速度を低くすると塗着効率を向上させることができる。
【0071】
上述したように、本実施の形態に係る塗装方法によれば、中塗り塗装工程及びクリア塗装工程では、塗着効率が低下しない程度に塗料を適度に微粒子化するにとどめ、塗装効率を向上させる。中塗り塗装工程で施される中塗り塗装は、その後のベース塗装によって覆われることから視認されず、色の再現性に与える影響は小さく、塗着効率を優先する。また、クリア塗装工程で施されるクリア塗装は、ベース塗装を保護する透明膜となることから、色の再現性としての色彩に対する影響は小さく、塗着効率を優先する。
【0072】
製品の色彩を決定するベース塗装工程では、衝突時におけるベース塗料18bに対するシェイピングエア16の相対速度が高くなり、ワーク10へ塗着するのに必要な運動エネルギーが確保可能なベース塗料18b粒子の大きさを維持しつつ、ベース塗料18bが十分に微粒子化され、色の再現性が維持される。従って、最終製品としてのワーク10の色の再現性を維持しながら、しかも塗装工程全体としての効率を向上させることができる。
【0073】
本発明に係る塗装方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施の形態に係る塗装方法における所定の塗装工程に係る塗装ステーションを示す概略斜視図である。
【図2】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの一部断面図である。
【図3】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの平面図である。
【図4】ベース塗装ベルガンの一部断面図である。
【図5】ベース塗装ベルガンの平面図である。
【図6】本実施の形態に係る塗装方法のフローチャートである。
【図7】中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンの一部斜視図である。
【図8】ベース塗装ベルガンの一部斜視図である。
【図9】変形例に係る塗装方法のフローチャートである。
【図10】本実施の形態に係る塗装方法による塗装の効果を確認するための実験結果である。
【符号の説明】
【0075】
10…ワーク 12…ベルガン
12a…中塗り塗装ベルガン 12b…ベース塗装ベルガン
12c…クリア塗装ベルガン 14…塗装ロボット
16…シェイピングエア 18…塗料
18a…中塗り塗料 18b…ベース塗料
18c…クリア塗料 20…本体
22…回転軸 24…外側リング
26…内側リング 28…エアチャンバ
30…シェイピングエア吐出部 30a…スリット
30b…エア吐出孔 32…塗料供給路
34…塗料チャンバ 36…ベルカップ
38…塗料吐出孔 40…シェイピングエア供給路
42…筐体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備える中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、
前記塗料は中塗り塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記中塗り塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装する中塗り塗装工程と、
前記塗料はベース塗料であって、前記中塗り塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、
前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、
を有することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗装方法において、
前記中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンは、それぞれ、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットであること
を特徴とする塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の塗装方法において、
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度が、前記中塗り塗装及び前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速いこと
を特徴とする塗装方法。
【請求項4】
一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備えるベース塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンによって、ワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、
前記塗料はベース塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、
前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、
を有することを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
請求項4記載の塗装方法において、
前記クリア塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットであること
を特徴とする塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の塗装方法において、
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度が、前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速いこと
を特徴とする塗装方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の塗装方法において、
前記ベース塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の筐体を有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記筐体の端面において環状に配列され、前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜した複数のエア吐出孔であること
を特徴とする塗装方法。
【請求項1】
一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備える中塗り塗装ベルガン、ベース塗装ベルガン、及びクリア塗装ベルガンによってワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、
前記塗料は中塗り塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記中塗り塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装する中塗り塗装工程と、
前記塗料はベース塗料であって、前記中塗り塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、
前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、
を有することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗装方法において、
前記中塗り塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンは、それぞれ、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットであること
を特徴とする塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の塗装方法において、
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度が、前記中塗り塗装及び前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速いこと
を特徴とする塗装方法。
【請求項4】
一定の方向に回転し、内側から塗料を吐出するベルカップと、前記ベルカップの外縁よりも基端側で環状に設けられて、前記外縁、又はその近傍へ向けてシェイピングエアを吐出するシェイピングエア吐出部とをそれぞれ備えるベース塗装ベルガン及びクリア塗装ベルガンによって、ワークに対して塗装を順次行う塗装方法において、
前記塗料はベース塗料であって、前記シェイピングエア吐出部から前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出させた前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するベース塗装工程と、
前記塗料はクリア塗料であって、前記ベース塗装工程の後、前記シェイピングエア吐出部から前記クリア塗装ベルガンの回転軸と略平行、又は該回転軸の回転方向に対して同方向に傾斜する方向にシェイピングエアを吐出させ、前記ベルカップから吐出された前記塗料を前記シェイピングエアと衝突させることで微粒子化させて、前記ワークを塗装するクリア塗装工程と、
を有することを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
請求項4記載の塗装方法において、
前記クリア塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の外側リング、及び内側リングを有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記外側リングと前記内側リングとの間に形成されるスリットであること
を特徴とする塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の塗装方法において、
前記ベース塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度が、前記クリア塗装工程における前記シェイピングエアと前記ベルカップとの相対速度より速いこと
を特徴とする塗装方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の塗装方法において、
前記ベース塗装ベルガンは、前記ベルカップと同軸上の筐体を有し、
前記シェイピングエア吐出部は、前記筐体の端面において環状に配列され、前記ベース塗装ベルガンの回転軸の回転方向に対して逆方向に傾斜した複数のエア吐出孔であること
を特徴とする塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−137162(P2010−137162A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315625(P2008−315625)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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