説明

塗装用マスキングペーパー

【課題】水性塗料および油性塗料のいずれにも利用可能な塗装用マスキングペーパーを提供する。
【解決手段】塗装用マスキングペーパーであって、少なくとも一方面に無機顔料を含む塗工層を有する塗装用マスキングペーパーにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料を対象部位に塗装する作業を行うにあたって、塗装部分近傍に位置する非塗装部分を被覆して、非塗装部分に塗料が付着しないようにするとともに、塗装態様によっては塗装する被塗装部分と塗装しない非塗装部分との境界を明確にするためにも用いられる塗装用マスキングペーパーに関する。
【背景技術】
【0002】
塗装用マスキングペーパーは、一般的に粘着テープと貼り合わされており、塗装作業を行うにあたり塗装を行わない非塗装部分を被覆し、非塗装面に塗料が付着しないようにするとともに、場合によって塗装部分と非塗装部分との境界を明確にするために用いられる。
この塗装用マスキングペーパーは、これにより被覆された部分に付着した塗料が非塗装部分に至るまで裏抜けしないことが要求される。この裏抜け防止のための方法は種々提案されており、例えば、紙層間に樹脂をラミネートする方法、紙力剤を添加して紙力を増強する方法(特開2003−27391)、嵩高剤を添加して嵩高にする方法(特開2005−154914)などがある。
ところで、現在、塗装作業においては、主に耐久性に優れる点から油性塗料が中心である。従って、上記方法は主に油性塗料を対象としている。
【特許文献1】特開2003−27391
【特許文献2】特開2005−154914
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、油性塗料は、浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントに係る大気汚染の原因となるVOC(揮発性有機化合物)を含むため、工場等からのVOC排出を包括的に抑制することを規定した「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が公布され、近年、油性塗料から水性塗料やミドルソリッド(低溶剤)塗料への切替えが行われている。
この需要の高まる水性塗料やミドルソリッド塗料は、油性塗料と比較して揮発性が小さいぶん乾燥までに時間がかかるため、塗装用マスキングペーパーにおいてより高い裏抜け防止効果(バリア性)が要求される。そして、水性塗料等は、乾燥時の熱量が油性塗料よりも必要であり、乾燥に必要な温度および時間がよりかかるために耐久性・耐熱性をも要求される。また、水性塗料等は粘性が低いために付着した塗料が垂れないための濡れ性向上も塗装用マスキングペーパーのより重要な課題となってきている。さらに、ミドルソリッド塗料については、溶剤を含むことからこれに使用される種々の溶剤に対するバリア性も必要となる。
従って、本発明の主たる課題は、需要の高まる水性塗料やむドルソリッド塗料と、現状使用されている油性塗料のいずれに対しても優れた濡れ性、バリア性をもち、かつ耐熱性及びリサイクル性を有する塗装用マスキングペーパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
塗装用マスキングペーパーであって、少なくとも一方面に無機顔料を含む塗工層を有することを特徴とする、塗装用マスキングペーパー。
【0005】
(作用効果)
無機顔料を含有する塗工層が設けられているので、水性塗料に対する裏抜け防止性が向上する。
【0006】
<請求項2記載の発明>
TAPPI 458om−84に準じて測定される0.005ml蒸留水液滴と塗工層面との滴下後20秒後における接触角が、40〜110度である請求項1記載の塗装用マスキングペーパー。
【0007】
(作用効果)
接触角が40〜110度であると、水性塗料に対する濡れ性及びバリア性が得られる。
【0008】
<請求項3記載の発明>
JAPAN TAPPI No.67に規定される吸油度(平均値)が、150秒以上である、請求項1または2記載の塗装用マスキングペーパー。
【0009】
(作用効果)
吸油度が150秒以上であると、油性塗料に対する裏抜け防止効果が高いものとなる。
【0010】
<請求項4記載の発明>
前記塗工層が、粒子形状が扁平状の無機顔料を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の塗装用マスキングペーパー。
【0011】
(作用効果)
無機顔料の中でも、特に粒子形状が扁平状の無機顔料とすると裏抜け防止性がより高まる。
【0012】
<請求項5記載の発明>
前記塗工層が、保水剤および浸透剤を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の塗装用マスキングペーパー。
【0013】
(作用効果)
保水剤を含むことで、塗工液の保水性向上による均一な塗工面が得られ、浸透剤を含むことにより、水性塗料に対する濡れ性が向上される。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明とおり、本発明によれば、水性塗料、油性塗料、ミドルソリッド塗料のいずれに対しても優れた濡れ性、バリア性をもち、かつ耐熱性及びリサイクル性をもつ塗装用マスキングペーパーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次いで、本発明の実施の形態を以下に詳述する。
本形態の塗装用マスキングペーパーは、表裏の少なくとも一方面に無機顔料を含む塗工層を有する。この本形態の塗装用マスキングペーパーは、基紙に対してバインダーに無機顔料およびその他適宜の成分を添加した塗工液を既知の塗工機で塗工することにより製造することができる。
【0016】
基紙は、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;サーモメカニカルパルプ(TMP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェストパルプ(WP)等の機械パルプや機械パルプ由来の古紙パルプ等のパルプを抄紙してなるものが使用でき、なかでも強度のある未晒クラフトパルプを原料としたクラフト紙が好適である。また、本発明に用いる基紙は、リサイクル性を容易にすべくラミネート樹脂によるラミネート処理がなされていない非ラミネート紙とするのが特に好的である。
【0017】
基紙の米坪は、特に限定されないが、好適には20〜50g/m2、特に好適には10〜45g/m2である。20g/m2未満では塗料浸透による裏抜けが発生するおそれが高まり、50g/m2を超えると剛度が高くなって曲面塗装部への追随性が悪化する。
【0018】
無機顔料は、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムもしくはチタン等の金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩またはこれらの混合物、一次または二次凝集体を形成しているカルサイト系沈降性炭酸カルシウムや二次凝集体を形成しているアラゴナイト系沈降性炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、合成微粒子シリカ、アミノ表面改質シリカ、ワックス表面処理シリカや球状シリカ等のシリカ、クレー、タルク、合成マイカ、ベントナイト(モンモリロナイト)等の既知の無機顔料を1種類または2種類以上混合して用いることができる。
【0019】
特に、クレー、天然マイカ、合成マイカ、ベントナイト等の粒子形状が扁平状である無機顔料を少なくとも1種類以上含有せしめるのが望ましい。扁平状の無機顔料を含有せしめると、炭酸カルシウム、無定形二酸化珪素(シリカ)、無定形珪酸アルミニウムナトリウム、無定形炭素(カーボンブラック)等の無定形状の無機顔料と比較して、油性塗料に対する裏抜け防止性の向上効果がより得られる。なお、例えば合成マイカであればアグロケミテック株式会社から市販に供されているものが好適に利用できる。
【0020】
ここで、前記塗工液には、無機顔料のほかに、プラスチックピグメント、ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料を含有せしめてもよい。
【0021】
一方、前記バインダーとしては、例えば、ラテックス、PVA、アクリル酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、澱粉、カゼイン等を1種類または2種類以上混合して使用できる。
【0022】
なかでもラテックスを用いると油性塗料に対するバリア性が好適に発現する。ラテックスの具体例としては、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリル樹脂、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの重合体または共重合体、エチレン・酢酸ビニル重合体等が挙げられ、好適にはSBRラテックスである。特に好適なSBRラテックスは、ハンソル社製のS301や日本A&L社製のPOZ37である。配合部数は無機顔料100重量部に対して(以下、本明細書における重量部は無機顔料100重量部に対するものをいう)10〜200重量部、特に30〜50重量部が好ましく、10重量部未満ではで油性塗料に対するバリア性が発現しづらく、200重量部を超えると水性塗料に対する所望の濡れ性を得ることが困難となる。また、ラテックスの使用量としては、塗工層の20〜98重量%(乾燥重量)とするのが望ましい。
【0023】
また、澱粉は添加剤としても使用でき、塗工液の保水性向上効果があり、基材に対しての供給性・塗工性に優れるので上記ラテックスとともに使用するのが望ましい。澱粉の種類として、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉等が挙げられるが、塗工液の保水性の点ではエステル化澱粉が好ましい。配合部数は0.5〜20重量部、特に1〜5重量部が好ましく、0.5未満では塗工液の保水性が得られづらく。20重量部を超えると塗工層の空隙率が減少して水性塗料に対する所望の濡れ性を得ることが困難となる。
【0024】
他方、前記塗工液には、水性塗料に対する濡れ性を向上させる効果を好適に得るために浸透剤を含有せしめるのが望ましい。浸透剤の具体例としては、アセチレンジオール、エチレンオキサイド、プロピレングリコール、アルキルエーテル、アセチレンアルコール、ポリエーテル等の単体、これらの変性物、またはこれらの混合物が挙げられる。浸透剤の配合部数は0.05〜0.25重量部、特に0.05〜0.20が好ましく、0.05未満では所望の濡れ性向上効果を得ることが困難である。また、0.25重量部を超えると浸透性が高まりすぎて水性塗料の浸透により裏抜け発生のおそれが高まる。
【0025】
他方、保水剤は、塗工液の粘度を上昇させることなく保水性を向上させて、均一な塗工面の形成をしやすくするので使用するのが望ましい。また、浸透剤と同様に水性塗料に対する濡れ性向上効果も得られる。保水剤の具体例としては、アクリル酸アクリルアマイド共重合体、アクリル系変性ポリマー、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。配合部数は0.03〜0.20重量部、特に0.03〜0.15重量部が好ましく、0.03重量部未満ではでは濡れ性向上効果が発現しづらく、塗工液の保水性低下による塗工性改善効果も発現しづらい。0.20重量部を超えると水性塗料が浸透しやすくなり裏抜け発生の恐れが高まる。
【0026】
また、塗工液には、添加剤として歩留まり向上剤、濾水向上剤(BASF社製ポリミン等)、消泡剤など既知の添加剤を利用することができる。
【0027】
ここで、塗工液の塗工にあたっては、従来既知の塗工方法に従って塗工することができる。例えば、ブレードコーター、カーテンコーター、ロッドコーターあるいはエアーナイフコーターといった塗工機でオフマシン塗工してもよいし、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、ロッドメタリングコーター、2ロールコーターあるいはスプレーコーター等の塗工機でオンマシン塗工してもよい。
【0028】
塗工液の基紙に対する塗工量は、5〜13g/m2、好適には6〜12g/m2である。5g/m2未満では水性塗料・油性塗料ともバリア性が低下し、裏抜けが発生するおそれがあり、13g/m2を超えると、水性塗料に対する濡れ性が低下する。
【0029】
上述の塗料を塗工した本発明にかかる塗装用マスキングペーパーは、TAPPI 458om−84に準じて測定される0.005ml蒸留水液滴と塗工層面との滴下後20秒後における接触角が、40〜110度であることが好ましく、特に60〜90度が好ましい。40度未満では紙中への水性塗料の浸透が大きく裏抜けが発生することがあり、110度をこえると水性塗料に対する濡れ性が低く塗料の垂れが発生しやすくなる。なお、TAPPI 458om−84に準ずるとは、20℃蒸留水0.005mlを滴下すること、および接触角の測定を滴下後20秒後に行うこと以外は、TAPPI 458om−84に記載される接触角の測定方法に従うことを意味する。
【0030】
JAPAN TAPPI No.67による吸油度は150秒以上であることが好ましく、200秒以上であることが特に好ましい。150秒未満では油性塗料に対するバリア性が低く油性塗料の裏抜けが発生する。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例および比較例について物性測定および各種試験を行った。結果は表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、各例の作成に用いた試薬等および試験方法、評価方法等は下記のとおりである。
<基紙>
基紙は、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)60重量%(フリーネス380cc)と広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)40重量%(フリーネス260cc)とを混合した原料パルプを抄紙した米坪30g/m2の未晒クラフト紙を用いた。
【0034】
<塗工層>
次記の試薬を配合して作成した塗工液を、コーターにて前記基紙に塗工し乾燥して形成した。なお、従来例1はラミネート品であり塗工層は有さない。従来例2も非塗工品のため塗工層は有さない。
【0035】
<試薬>
クレーはシール社製のカオファインを用い、炭酸カルシウムはイメリスミネラルジャパン社製のカービタル90を用い、ラテックスは日本A&L社製のPOZ97を用い、澱粉は三和澱粉工業社製のPN−700を用い、浸透剤はエアープロダクツジャパン社製のサーフィノール420を用い、保水剤はBASF社製のポリミンAE75を用いた。
なお、比較例1における重量部数は、実施例1の無機顔料100重量部に対する数値である。
【0036】
<接触角および吸油度の測定方法>
接触角の測定は、TAPPI 458om−84に準じて、20℃蒸留水0.005mlの接触角を測定し、液滴が紙と接触して20秒後の角度を接触角の測定値とした。測定機器は、接触角計(協和界面科学社製、CA−D型)にて測定した。
吸油度の測定は、JAPAN TAPPI No.67に従って測定した。
【0037】
<試験と評価>
試験は、濡れ性、バリア性、耐熱性について行った。
水性塗料は日本ペイント社製のアクアレックス2000、油性塗料は日本ペイント社製のnaxアドミラを使用した。
濡れ性の試験は、各例に係る塗装用マスキングペーパーで木製の平板を被覆してマスキング処理し、このマスキング処理された板を垂直に立てた状態で水性塗料をエアー吹き付けして、その吹き付けた塗料が垂れるか否かを目視で確認する方法によって行った。各例における塗料の吹き付け量は同様とした。
濡れ性の評価は、塗料の垂れが全くなかったものを◎、吹き付け中心でわずかに垂れが確認されたが吹き付け部分の縁部では垂れが見られずマスキングペーパー外にはみ出るほどではなかったものを○、塗装用マスキングペーパー外にまで塗料が垂れたものを×とした。
裏抜け(バリア性)の試験は、濡れ性と同様の操作で塗料を吹き付けた後、塗装用マスキングペーパーをはがし、かかる塗装用マスキングペーパーの裏面から見た塗料の浸透具合、および板に塗装が付着したか否かを目視にて確認することによって行った。なお、裏抜けの試験は、水性塗料および油性塗料について行った。
裏抜けの評価は、塗装マスキングペーパー裏面から見て塗料の浸透は確認できず裏抜けが発生しなかったものを◎、マスキングペーパーの裏面から見て点状に数箇所、塗料のしみこみが確認されたが、板に付着するほどではなかったものを○、塗装用マスキングペーパーの裏面にまで完全に塗料が浸透して板に塗装が付着する可能性があるものを×とした。
耐熱性の試験は、濡れ性と同様の操作で各例に係る塗装用マスキングペーパーに塗料を吹き付けた後、この塗装箇所に150度の熱風を1時間吹き付け、その後に塗装面の状態を目視にて確認することによって行った。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、塗装の対象物を問わず、例えば建築現場における壁面塗装、輸送車両の塗装など、非塗装部分を被覆して保護する必要のある各種の塗装作業に利用できる。また、塗料に限らず塗料に類似する吹き付け剤、保護剤などを対象物に塗布などする用途にも利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装用マスキングペーパーであって、少なくとも一方面に無機顔料を含む塗工層を有することを特徴とする、塗装用マスキングペーパー。
【請求項2】
TAPPI 458om−84に準じて測定される0.005ml蒸留水液滴と塗工層面との滴下後20秒後における接触角が、40〜110度である請求項1記載の塗装用マスキングペーパー。
【請求項3】
JAPAN TAPPI No.67に規定される吸油度(平均値)が、150秒以上である、請求項1または2記載の塗装用マスキングペーパー。
【請求項4】
前記塗工層が、粒子形状が扁平状の無機顔料を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の塗装用マスキングペーパー。
【請求項5】
前記塗工層が、保水剤および浸透剤を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の塗装用マスキングペーパー。

【公開番号】特開2007−204867(P2007−204867A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23748(P2006−23748)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】