説明

塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法

【課題】 スケールの発生が少なく重合安定性に優れた、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂を生産性良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】 重合反応機以外の容器にて塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーを一定の比率で20℃以上60℃以下の温度で1分以上分散混合したのち、該分散混合液の一部または全量を重合反応機に仕込む際に、該分散混合液の仕込みと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを該重合反応機に仕込むことによって、必要所定量の塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーが重合反応機内に仕込まれるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、スケールの発生が少なく重合安定性に優れた、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合体してなる塩化ビニル系共重合樹脂を生産性良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、安価で且つ機械的物性や化学的物性に優れる等、品質バランスに優れており、また可塑剤を使用することで硬質から軟質までの成形体が得られるため、種々の広範な分野で利用されている熱可塑性樹脂である。その用途は多岐に渡り、各用途に応じて性能面で種々の特性が要求されている。該要求特性を改良する目的で、塩化ビニル単独重合樹脂のみならず、塩化ビニル系共重合樹脂が検討されてきている。例えば、樹脂を可塑剤に分散して流動性を持たせたプラスチゾルとしてのゲル化性を改良するために、塩化ビニルモノマーとガラス転移温度の低いビニル系重合体を与えるビニル系モノマーとの共重合体を製造する方法(特許文献1)がある。しかしこの方法では、両モノマーの重合反応速度が異なることが多く単独重合体を形成したり、あるいは重合反応機内部のスケールが増大する、といった課題があった。
【特許文献1】特開昭63−23947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、スケールの発生が少なく重合安定性に優れた、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂を生産性良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意研究の結果、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを塩化ビニル系モノマーに予め分散混合させた後に、共重合反応を開始することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、
(1)塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を製造するに際し、予め分散混合槽において、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを、塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーの比率[重量%]が塩化ビニル系モノマー/該マクロモノマー=0.5/99.5〜99.5/0.5で投入して分散混合して分散混合液とし、該分散混合液の一部又は全量を重合反応機に仕込むと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むことによって、必要所定量の塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーが重合反応機に仕込まれることを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項1)、
(2)塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーとを、予め分散混合槽にて20℃以上60℃以下の温度で1分以上分散混合することを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項2)、
(3)塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項3)、
(4)塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを水性媒体中で共重合することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項4)、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂を、スケールの発生を抑えて生産性良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、本願発明者らが発明した特願2003−425498号における、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法を、更に累積検討することによって得られたものであり、塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーを分散混合槽で予め分散混合して分散混合液を得、該分散混合液の一部または全量を重合反応機に仕込むと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むことによって、必要所定量の塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーが重合反応機に仕込まれるようにすることによって、効率的に塩化ビニル系共重合樹脂を製造する事が出来る事を見出した。
【0008】
本発明で使用される塩化ビニル系モノマーとしては特に限定はなく、例えば塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマー、酢酸ビニルモノマーまたはこれらの混合物、または、この他にこれらと共重合可能で、好ましくは重合後の重合体主鎖に反応性官能基を有しないモノマー、例えばエチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用しても良い。2種以上の混合物を使用する場合は、塩化ビニル系モノマー全体に占める塩化ビニルモノマーの含有率を50重量%以上、特に70重量%以上とすることが好ましい。中でも得られる共重合樹脂の物性等から、塩化ビニルモノマーあるいは塩化ビニリデンモノマーのいずれか1種のみを使用することが好ましく、塩化ビニルモノマーを使用することがさらに好ましい。
【0009】
一般にマクロモノマーとは、重合体の末端に反応性の官能基を有するオリゴマー分子である。本発明で使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーは、反応性官能基として、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、下記一般式(1)から選ばれる重合性の炭素−炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有する、ラジカル重合によって製造されたものである。
特に、塩化ビニル系モノマーとの反応性が良好なことから、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基が、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2
で表される基が好ましい。
【0010】
式中、Rの具体例としては特に限定されず、例えば、−H、−CH3、−CH2CH3、−(CH2nCH3(nは2〜19の整数を表す)、−C65、−CH2OH、−CNの中から選ばれる基が好ましく、さらに好ましくは−H、−CH3である。
【0011】
本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖である、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端などの制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0012】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0013】
「制御ラジカル重合法」は、さらに、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応などを起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0014】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0015】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1〜1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0016】
従って「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、本発明において、上記の如き特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはより好ましい重合法である。
【0017】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはさらに好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるマクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、さらに制御の容易さなどからリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0019】
また本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖が有する、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体としては特に制約はなく、該重合体を構成する二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーとしては、各種のものを使用することができる。例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を共重合させても構わない。中でも生成物の物性等から、スチレン系モノマーあるいは(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくはアクリル酸エステルモノマーあるいはメタクリル酸エステルモノマーであり、さらに好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、最も好ましくはアクリル酸ブチルである。本発明においてはこれらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合させても良く、その際はこれらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。ここで、例えば「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸あるいはメタクリル酸を意味するものである。
【0020】
本発明で使用されるマクロモノマーは、これら二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有し、さらに反応性官能基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有することを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明の塩化ビニル系モノマーと共重合可能なマクロモノマーは1種のみを用いてもよく、構成するエチレン性不飽和モノマーが異なるマクロモノマーを2種以上併用してもよい。
【0022】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制約はないが、50重量%以上100重量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは50重量%以上99.95重量%以下である。塩化ビニル系モノマーの比率が50重量%以上100重量%未満の範囲であれば、共重合反応が安定である上に、得られる塩化ビニル系共重合樹脂が粉粒体になり、加工方法の自由度を増すという効果が期待できる。
【0023】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の平均重合度または平均分子量は特に限定されず、通常製造および使用される塩化ビニル系樹脂と同様に、JIS K 7367−2に従って測定したK値が50〜95の範囲である。また、平均粒径としては、通常0.01〜500μmの範囲である。
【0024】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法については、特に制約はないが、重合反応熱の除熱や暴走反応の抑制といった重合制御の簡便性から、水性媒体中での共重合が好ましく、例えば、懸濁重合法、微細懸濁重合法、乳化重合法等の製造方法が挙げられ、これらの製造方法のいずれを用いても良い。その際、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを予め分散混合槽にて分散混合する。分散混合槽とは、分散混合をすることができる装置であれば特に制約はないが、生産性向上の観点から、ジャケットおよび攪拌機を備えた、重合反応機以外の容器であることが好ましい。
【0025】
塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合する際の温度は、20℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。20℃以上60℃以下であると、分散混合槽の圧力を分散混合に適した状態に保ちながら、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合させることができる。
【0026】
また、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合する際の時間は、充分に分散混合することができれば特に制約はないが、1分以上であることが好ましい。1分以上であると、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合させることができる。
【0027】
ここで、「分散混合」とは、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの両者が、境目なく一様に混ざり合い、見かけ上両者の区別ができなくなることを言う。
【0028】
また、「予め分散混合する」とは、要すれば懸濁重合法、微細懸濁重合法、乳化重合法等で使用される懸濁分散剤、重合開始剤、界面活性剤、分散助剤、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等を仕込む前に、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合することを言う。
【0029】
さらに、「分散混合槽」とは分散混合を行う容器状の設備を指し、「分散混合液」とは分散混合して得られた均一な液状物を指す。
【0030】
本発明では、特願2003−425498号に係る発明に比べて生産性が良くなるが、その指標となる重合生産性は、樹脂を製造するために重合反応機を占有する時間(以下、「重合反応機占有時間」)で規定することができる。即ち、重合生産性が良好とは、重合反応機占有時間が短いことを言う。
【0031】
さらに、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを分散混合するに際し、両者が均一に分散混合されていれば、その方法は特に制約されないが、分散混合槽にて塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーを分散混合した後、該分散混合液の一部または全量を重合反応機に仕込む際に、該分散混合液の仕込みと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むことによって、必要所定量の塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーが重合反応機内に仕込まれるようにする方法が、好ましい一形態である。この場合、分散混合槽にて分散混合する塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーの比率[重量%]は、塩化ビニル系モノマー/該マクロモノマー=0.5/99.5〜99.5/0.5の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは塩化ビニル系モノマー/該マクロモノマー=5/95〜99.5/0.5の範囲である。分散混合する塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーの比率[重量%]が、塩化ビニル系モノマー/該マクロモノマー=0.5/99.5〜99.5/0.5の範囲であれば、所定温度で所定時間分散混合することにより均一な分散混合液が得られる。
【0032】
この方法によって、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合することにより、例えば、「共重合が異常重合となり正常な粒子が得られない」、「異常重合とはならないまでも重合発熱の除熱が不充分である」、「正常粒子が得られた場合でもスケールが多く発生する」といった問題の発生を抑制することができるなど、重合安定性の向上が期待される。さらに、重合仕込みごとに分散混合液を調製する手間が省け、重合生産性の向上が期待される。
【0033】
ここで、「該分散混合液の仕込みと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込む」とは、それぞれ、分散混合液と塩化ビニル系モノマーを同時に重合反応機に仕込むこと、分散混合液を重合反応機に仕込む前に塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むこと、分散混合液を重合反応機に仕込んだ後に塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むこと、を指す。
【0034】
本発明においては、塩化ビニル系モノマーに、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合したのち、要すれば懸濁重合法、微細懸濁重合法、乳化重合法等で使用される懸濁分散剤、重合開始剤、界面活性剤、分散助剤、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等を、必要に応じ一括あるいは分割または連続して仕込み、所定の重合温度で共重合反応を行う。
【0035】
懸濁分散剤としては、本発明の目的を損なわない範囲のものであれば、特に限定されずに使用することができる。そのような懸濁分散剤としては、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;ポリエチレンオキサイド;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸;酢酸ビニル−マレイン酸共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;ゼラチン;デンプン、等の有機高分子分散剤が使用可能であり、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
また重合開始剤としては、懸濁重合法または微細懸濁重合法においては、特に限定されずに本発明の目的を損なわない範囲の油溶性重合開始剤を添加すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種または2種以上使用するのが好ましい。このような重合開始剤としては、例えば、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、2,4,4トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。これら油溶性重合開始剤は特に制約のない状態で添加することができるが、例えば有機溶剤に溶解して使用する場合には、その有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また乳化重合法においては、特に限定されずに本発明の目的を損なわない範囲の水溶性重合開始剤を添加すれば良いが、そのような水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素水等が挙げられ、必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤を併用することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
さらに界面活性剤としては、特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲のものを添加すれば良いが、そのような界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、アルキルスルホコハク酸エステル塩類、脂肪酸塩類、α-オレフィンスルホン酸塩類、アルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類などのアニオン性界面活性剤(ここで、「塩類」とは、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。)、ゾルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などの親水性のノニオン性界面活性剤類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
また分散助剤としては、特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲のものを添加すれば良いが、そのような分散助剤としては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類;高級脂肪酸のエステル類;高級脂肪族炭化水素類;ハロゲン化炭化水素類;水溶性高分子等が好適に挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
その他、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等は、一般に塩化ビニル系樹脂の製造に使用されるものを、必要に応じて任意に使用することができ、その仕込量も特に限定されない。
【0041】
一般に、塩化ビニル系樹脂の用途は多岐に渡り、その用途に適した製造方法で製造した樹脂が用いられる。例えば、パイプ、継手、板などの硬質用途や、シート、フィルム、電線被覆などの軟質用途には、主として懸濁重合法により製造された塩化ビニル系樹脂が用いられ、壁紙、床剤、手袋などの、プラスチゾルの状態から成形加工する用途においては、主として微細懸濁重合法あるいは乳化重合法により製造された塩化ビニル系樹脂が用いられる。本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、これらいずれの製造方法にも好適に用いることができ、本発明により、種々の用途に応じた塩化ビニル系共重合樹脂を得ることができる。
【実施例】
【0042】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここで、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0043】
<重合安定性の評価>
重合安定性は、内容物払い出し後の重合反応機内のスケールの状態を目視観察し、以下の基準により判定した。
【0044】
○…反応機内壁および/または攪拌機へのスケール付着が殆ど認められない。
【0045】
△…反応機内壁および/または攪拌機への少量のスケール付着が認められる。
【0046】
×…反応機内壁および/または攪拌機への著しいスケール付着が認められる。
<二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造>
二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造は、下記の製造例に示す手順に従って行った。
【0047】
(製造例)
還流管および攪拌機付きの2Lのセパラブルフラスコに、CuBr(5.54g)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(73.8ml)を加え、オイルバス中70℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸−n−ブチル(132g)、2−ブロモプロピオン酸メチル(7.2ml)、ペンタメチルジエチレントリアミン(4.69ml)を加え、反応を開始した。70℃で加熱攪拌しながら、アクリル酸−n−ブチル(528g)を90分かけて連続的に滴下し、さらに80分間加熱攪拌した。
【0048】
反応混合物をトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)を得た。
【0049】
フラスコに、メタノール(800ml)を仕込み、0℃に冷却した。そこへ、t−ブトキシカリウム(130g)を数回に分けて加えた。この反応溶液を0℃に保持して、アクリル酸(100g)のメタノール溶液を滴下した。滴下終了後、反応液の温度を0℃から室温に戻したのち、反応液の揮発分を減圧留去することにより、アクリル酸カリウム(CH2=CHCO2K)を得た。
【0050】
還流管付き500mLフラスコに、得られた片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)(150g)、アクリル酸カリウム(7.45g)、ジメチルアセトアミド(150ml)を仕込み、70℃で3時間加熱攪拌した。反応混合物よりジメチルアセトアミドを留去し、トルエンに溶解させ、活性アルミナカラムを通したのち、トルエンを留去することにより片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーを得た。
(実施例1)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製耐圧容器に、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー50部を仕込んで脱気したのち、塩化ビニルモノマー50部を仕込み、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて耐圧容器内温を40℃まで昇温し、1分間当たり450回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて耐圧容器内温を20℃以下まで冷却したのち、内容物の1/2の量を、予め脱気した、ジャケット及び攪拌機付き内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液した。次いで該重合反応機に、塩化ビニルモノマー50部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
実施例1で調製した、塩化ビニルモノマーと片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの分散混合液を、残量のさらに1/2の量(初期調製量の1/4の量)、予め脱気した、ジャケットおよび攪拌機付き内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液し、同時に塩化ビニルモノマー75部を該重合反応機に仕込んだ。次いで該重合反応機に、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実施例1に比べ分散混合液を調製する手間が省け、時間短縮できた。
【0052】
(実施例3)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製耐圧容器に、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー0.5部を仕込んで脱気したのち、塩化ビニルモノマー99.5部を仕込み、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて耐圧容器内温を30℃まで昇温し、1分間当たり900回転の回転速度で1分間攪拌した。ジャケットに水を通じて耐圧容器内温を20℃以下まで冷却したのち、内容物の1/10の量を、予め脱気し塩化ビニルモノマー90部を仕込んだ、ジャケットおよび攪拌機付き内容量15リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液した。次いで該重合反応機に、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.07部、ステアリルアルコール1.4部を添加し、2分間ホモジナイズしたのち、ラウリル硫酸ナトリウム1.16部を予め溶解した水溶液(300部)を重合反応機内に添加し、3分間ホモジナイズしてモノマー分散液を得た。次いで重合温度50℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収し、重合反応機内を冷却したのち、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0053】
(実施例4)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
実施例3で調整した、塩化ビニルモノマーと片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの分散混合液を、調製量全量、ジャケットおよび攪拌機付き内容量15リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液した。次いで該重合反応機に、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.07部、ステアリルアルコール1.4部を添加し、2分間ホモジナイズしたのち、ラウリル硫酸ナトリウム1.16部を予め溶解した水溶液(300部)を重合反応機内に添加し、3分間ホモジナイズしてモノマー分散液を得た。次いで重合温度50℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収し、重合反応機内を冷却したのち、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実施例3に比べ分散混合液を調製する手間が省け、時間短縮できた。
【0054】
(実施例5)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製耐圧容器に、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー90部を仕込んで脱気したのち、塩化ビニルモノマー10部を仕込み、該塩化ビニルモノマーと該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて耐圧容器内温を40℃まで昇温し、1分間当たり900回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて耐圧容器内温を20℃以下まで冷却したのち、内容物の5/9の量を、予め脱気した、ジャケットおよび攪拌機付き内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液し、同時に塩化ビニルモノマー44.5部を該重合機に仕込んだ。次いで該重合反応機に、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例6)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
実施例5で調整した、塩化ビニルモノマーと片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの分散混合液を、調製量の1/9の量だけ、予め脱気し塩化ビニルモノマー88.9部を仕込んだ、ジャケットおよび攪拌機付き内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に移液した。次いで該重合反応機に、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実施例5に比べ分散混合液を調製する手間が省け、時間短縮できた。
【0056】
(比較例1)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気したのち塩化ビニルモノマー75部を仕込み、次いで製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー25部を仕込んだのち、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を40℃まで昇温し、1分間当たり450回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて重合反応機内温を20℃以下まで冷却したのち、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。
重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例1に比べ重合生産性は高くない。
【0057】
(比較例2)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
予め脱気した、ジャケットおよび攪拌機付き内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に、塩化ビニルモノマー87.5部および製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーを同時に仕込み、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて耐圧容器内温を40℃まで昇温し、1分間当たり450回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて耐圧容器内温を20℃以下まで冷却したのち、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだのち、60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例2に比べ重合生産性は高くない。
【0058】
(比較例3)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量15リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気したのち塩化ビニルモノマー99.95部を仕込み、次いで製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー0.05部を仕込んだのち、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を30℃まで昇温し、1分間当たり200回転の回転速度で1分間攪拌した。ジャケットに水を通じて重合反応機内温を20℃以下まで冷却したのち、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.07部、ステアリルアルコール1.4部を添加し、2分間ホモジナイズしたのち、ラウリル硫酸ナトリウム1.16部を予め溶解した水溶液(300部)を重合反応機内に添加し、再度3分間ホモジナイズしてモノマー分散液を得た。次いで重合温度50℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収し、重合反応機内を冷却したのち、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例3に比べ重合生産性は高くない。
【0059】
(比較例4)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量15リットルのステンレス鋼製重合反応機に製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー50部を仕込んで脱気したのち、塩化ビニルモノマー50部を仕込み、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を30℃まで昇温し、1分間当たり200回転の回転速度で1分間攪拌した。ジャケットに水を通じて重合反応機内温を20℃以下まで冷却したのち、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.07部、ステアリルアルコール1.4部を添加し、2分間ホモジナイズしたのち、ラウリル硫酸ナトリウム1.16部を予め溶解した水溶液(300部)を重合反応機内に添加し、再度3分間ホモジナイズしてモノマー分散液を得た。次いで重合温度50℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収し、重合反応機内を冷却したのち、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例4に比べ重合生産性は高くない。
【0060】
(比較例5)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気したのち塩化ビニルモノマー50部を仕込み、次いで製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー50部を仕込んだのち、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を40℃まで昇温し、1分間当たり900回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて重合反応機内温を20℃以下まで冷却したのち、鹸化度約88モル%、平均重合度約3500の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.3部、鹸化度約78モル%、平均重合度約900の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.15部、メトキシル基含量約20モル%、ヒドロキシプロポキシル基含量約8モル%、2%水溶液の20℃における粘度が約30000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース0.02部、ステアリン酸−n−ブチル0.6部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.02部、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド0.02部を仕込んだ。次いで60℃の温水200部を仕込み、重合温度64℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例5に比べ重合生産性は高くない。
【0061】
(比較例6)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
ジャケットおよび攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気したのち、塩化ビニルモノマー90部および製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー10部を同時に仕込み、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を40℃まで昇温し、1分間当たり900回転の回転速度で60分間攪拌した。ジャケットに水を通じて重合反応機内温を20℃以下まで冷却したのち、鹸化度約88モル%、平均重合度約3500の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.3部、鹸化度約78モル%、平均重合度約900の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.15部、メトキシル基含量約20モル%、ヒドロキシプロポキシル基含量約8モル%、2%水溶液の20℃における粘度が約30000mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース0.02部、ステアリン酸−n−ブチル0.6部、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.02部、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド0.02部を仕込んだ。次いで60℃の温水200部を仕込み、重合温度64℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表2に示す。重合安定性は良好であったが、重合反応機を用いてマクロモノマーと塩化ビニルモノマーを分散混合しており、実施例6に比べ重合生産性は高くない。
【0062】
(比較例7)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例1において、塩化ビニルモノマーおよび製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるための重合反応機内温の昇温および攪拌をしなかったこと以外は、比較例1と同様にして重合し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。なお、塩化ビニルモノマーおよび製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの仕込み後の重合反応機内温は約17℃であった。重合反応機内に著しいスケールが認められた。また、塩化ビニルモノマーに分散混合していない片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーが、重合反応機内壁およびスラリー中に認められた。
【0063】
(比較例8)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例2において、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーおよび塩化ビニルモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるための重合反応機内温の昇温をせずに1分間当たり450回転の回転速度で60分間攪拌したこと以外は、比較例2と同様にして重合し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。なお、1分間当たり450回転の回転速度で60分間攪拌した際の重合反応機内温は約18℃であった。重合反応機内に著しいスケールが認められた。また、塩化ビニルモノマーに分散混合していない片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーが、重合反応機内壁およびスラリー中に認められた。
【0064】
(比較例9)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例3において、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーおよび塩化ビニルモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を40℃まで昇温し、1分間当たり200回転の回転速度で30秒間攪拌したこと以外は、比較例3と同様にして重合し、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。重合反応機内にスケールが認められた。
【0065】
(比較例10)微細懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例4において、塩化ビニルモノマーおよび製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるための重合反応機内温の昇温をせずに1分間当たり200回転の回転速度で30分間攪拌したこと以外は、比較例4と同様にして重合し、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。なお、1分間当たり200回転の回転速度で30分間攪拌した際の重合反応機内温は約17℃であった。重合反応機内に著しいスケールが認められた。
【0066】
(比較例11)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例5において、塩化ビニルモノマーおよび製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるために、ジャケットに温水を通じて重合反応機内温を40℃まで昇温し、1分間当たり900回転の回転速度で30秒間攪拌したこと以外は、比較例5と同様にして重合し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。重合反応機内に著しいスケールが認められた。また、塩化ビニルモノマーに分散混合していない片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーが、重合反応機内壁およびスラリー中に認められた。
【0067】
(比較例12)懸濁重合法による塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法
比較例6において、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーおよび塩化ビニルモノマーの仕込み後に、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させるための重合反応機内温の昇温および攪拌をしなかったこと以外は、比較例6と同様にして重合し、ラテックスを払い出した。重合安定性の評価結果を表3に示す。なお、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーおよび塩化ビニルモノマーの仕込み後の重合反応機内温は約15℃であった。重合反応機内に著しいスケールが認められた。また、塩化ビニルモノマーに分散混合していない片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーが、重合反応機内壁およびスラリー中に認められた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を製造するに際し、予め分散混合槽において、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを、塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーの比率[重量%]が塩化ビニル系モノマー/該マクロモノマー=0.5/99.5〜99.5/0.5で投入して分散混合して分散混合液とし、該分散混合液の一部又は全量を重合反応機に仕込むと同時、あるいは仕込み前または仕込み後に、塩化ビニル系モノマーを重合反応機に仕込むことによって、必要所定量の塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーが重合機に仕込まれることを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項2】
塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーとを予め分散混合槽にて20℃以上60℃以下の温度で1分以上分散混合することを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項3】
塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項4】
塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを水性媒体中で共重合することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−2056(P2007−2056A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181914(P2005−181914)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】