説明

塩化ビニル系重合体の製造方法

【課題】生産性を犠牲にすることなく熱安定性に優れた塩化ビニル系重合体を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】一般式V(=O)
(式中、iはバナジウム原子の酸化数を示し、2〜5の整数である。jは0又は1である。Zは配位子であり、ヘテロ原子でバナジウムと結合することができる有機配位子、ハロゲン配位子、置換されていてもよい単環式炭化水素配位子、又は置換されていてもよい多環式炭化水素配位子を示し、複数のZは同一でも異なっていてもよく、二以上のZが結合して該式中のバナジウム原子も構成員として環を形成していてもよい。kは配位子の数を示し、1〜5の整数である。)で示される少なくとも一種類のバナジウム化合物(A)及び少なくとも一種類のアルミニウム化合物(B)の存在下で、塩化ビニル系単量体の重合反応を行う塩化ビニル系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のバナジウム化合物及び特定のアルミニウム化合物を用い、熱安定性に優れた塩化ビニル系重合体を生産性良く製造できる新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニル系重合体は一般的にラジカル重合開始剤を用いた懸濁重合法により製造されており、安価で優れた物理的、機械的性質を有した熱可塑性プラスチックとして多方面の分野で幅広く使用されている。しかしながら、上記のような一般的な方法により得られる塩化ビニル系重合体は頭−頭結合や分岐構造などの異常構造を含んでおり、それらの要因が得られる塩化ビニル系重合体の熱安定性を著しく低下させている。
【0003】
上記欠点を解消するために、例えば、ハーフチタノセン化合物を用いた重合法が提案されている(非特許文献1)。しかし、該重合法で得られた塩化ビニル系重合体は、一般的なラジカル重合で得られる塩化ビニル系重合体よりも熱安定性は向上しているが、重合速度、触媒活性ならびに収率が低く、生産性が良好とはいえない。また、この重合系にはバナジウム化合物に比べて高価なメチルアルミノキサンを多く用いる必要があり経済的に不利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Polymer,49(2008)1180−1184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、生産性を犠牲にすることなく熱安定性に優れた塩化ビニル系重合体を製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のバナジウム化合物及び特定のアルミニウム化合物を用いることにより、熱安定性に優れた塩化ビニル系重合体を生産性良く製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、一般式V(=O)
(式中、iはバナジウム原子の酸化数を示し、2〜5の整数である。jは0又は1である。Zは配位子であり、ヘテロ原子でバナジウムと結合することができる有機配位子、ハロゲン配位子、置換されていてもよい単環式炭化水素配位子、又は置換されていてもよい多環式炭化水素配位子を示し、複数のZは同一でも異なっていてもよく、二以上のZが結合して該式中のバナジウム原子も構成員として環を形成していてもよい。kは配位子の数を示し、1〜5の整数である。)
で示される少なくとも一種類のバナジウム化合物(A)及び少なくとも一種類のアルミニウム化合物(B)の存在下で、塩化ビニル系単量体の重合反応を行うことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、極めて熱安定性に優れる塩化ビニル系重合体を効率的に生産することができることからその工業的価値は非常に高いものである。しかも、この方法によれば、アルミノキサンの使用量が従来技術に比して著しく少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
・バナジウム化合物:
本発明に用いられるバナジウム化合物は上記一般式(1)で表されるバナジウム化合物である。該化合物は1種単独でも2種以上組合わせて使用してもよい。
【0010】
一般式(1)における配位子Zで表されるヘテロ原子でバナジウムと結合することができる有機配位子において、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が挙げられる。ヘテロ原子でバナジウムと結合することができる有機配位子としては、例えばメトキシ配位子、エトキシ配位子、n−プロポキシ配位子、イソプロポキシ配位子、n−ブトキシ配位子、イソブトキシ配位子等のアルコキシ配位子、フェノキシ配位子、ナフトキシ配位子等のアリーロキシ配位子、アセチルアセトン配位子、カルボキシレート配位子、サリチルアルドイミン配位子、サレン配位子、ポルフィリン配位子等が挙げられ、これらは置換されていてもよい。これらの中でも、好ましくはアルコキシ配位子、アリーロキシ配位子、サリチルアルドイミン配位子、サレン配位子が好ましく、これらは置換されていてもよい。
【0011】
また、一般式(1)における配位子Zで表されるハロゲン配位子としては、例えばフッ素配位子、塩素配位子、臭素配位子等が挙げられる。
【0012】
さらに、一般式(1)における配位子Zで表される置換されてもよい単環式炭化水素配位子又は多環式炭化水素配位子としては、例えば、シクロペンタジエニル配位子、インデニル配位子、フルオレニル配位子が挙げられる。触媒活性を高められる点で、kは4または5が好ましい。
【0013】
ここで、触媒活性とはバナジウム化合物の触媒としての活性を意味し、単位時間当たりにバナジウム化合物1モルから生成する塩化ビニル系重合体の質量として定義される。
【0014】
上記バナジウム化合物の中では、例えばバナジウム(V)オキシトリエトキシド等のバナジウム(V)オキシトリアルコキシド、バナジウム(V)オキシサレン及びバナジウム(IV)オキシサレンが好ましく、それらは置換されていてもよい。
【0015】
本発明における有機バナジウム化合物の重合系内における濃度についてはとくに限定されないが、バナジウム金属濃度で0.01〜100mmol/L、好ましくは1〜10mmol/Lの範囲である。この濃度が低すぎると収率が低下する傾向がある。また、高すぎると重合活性や重合速度、重合収率の増大効果が飽和し、生産性が良いとはいえない。
【0016】
・アルミニウム化合物:
本発明におけるアルミニウム化合物は、好ましくは、一般式AlX(式中、Xは独立にハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基又は置換されていてもよいアリーロキシ基を示す。)で表されるアルミニウム化合物、一般式{−Al(R)O−}(式中、Rは独立に置換されていてもよいアルキル基を示す。pは1以上の整数を表す。)で示される構造を有する環状のアルミノキサン、及び一般式R{−Al(R)O−}AlR(式中、Rは独立に置換されていてもよいアルキル基を示す。qは1以上の整数を表す。)で示される構造を有する線状のアルミノキサンから成る群から選択される少なくとも1種のアルミニウム化合物である。
【0017】
ここで、一般式AlXで示されるアルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムが挙げられる。
【0018】
次に、一般式{−Al(R)O−}で示される構造を有する環状のアルミノキサン及び一般式R{−Al(R)O−}AlRで示される構造を有する線状のアルミノキサンにおけるR及びRの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、ネオペンチル等のアルキル基を例示することができる。p及びqは1以上の整数、好ましくは1〜40の整数である。より好ましくは、R及びRはメチル、エチル、プロピル、イソブチルであり、p及びqは3〜20の整数である。但し、アルミノキサンはその主鎖を構成するAl−O−Al結合の切断と形成が比較的起こり易いため、時間の経過とともに又は熱を受けて、環状構造が線状構造に、あるいは線状構造が環状構造に変化し易く、また、上記式中のp及びqも変化し易い。したがって、アルミノキサンは、通常、様々の鎖長の、環状構造のものと線状構造のものとの混合物の状態で存在し、構造を明確に特定することは困難である。
【0019】
上記アルミノキサンの中で、R又はRがメチルであるメチルアルミノキサンが特に好ましい。該メチルアルミノキサンは、通常、環状構造のメチルアルミノキサン及び線状構造のメチルアルミノキサンの混合物である。
【0020】
また、上記アルミニウム化合物の濃度としては、触媒活性を考慮すると、上記有機バナジウム化合物のバナジウム原子とのモル比において、アルミニウム原子/バナジウム原子のモル比が0.1〜100、好ましくは0.5〜10の範囲である。このモル比が小さすぎても大きすぎても収率と触媒活性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の製造方法は、塊状重合法、溶液重合法等の一般的な重合様式で行うことができる。そして、溶液重合を行う際の溶媒としては特に制限はなく、慣用的な溶媒、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のアルカン又はシクロアルカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、モノ又はジアルキルナフタレン等のアルキル芳香族炭化水素、クロロメタン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、クロロナフタレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン等の水素化芳香族炭化水素、高分子量液状パラフィン又はそれらの混合物を挙げることができ、中でもハロゲン化炭化水素が収率と触媒効率を高められる点で好ましい。
【0022】
ここで、触媒効率とはバナジウム化合物の触媒としての効率を意味し、バナジウム化合物1モルから生成する塩化ビニル系重合体のモル数として定義される。
【0023】
重合温度は特に限定されるものではないが、例えば、−78℃〜100℃の範囲を選択することができる。また、重合反応圧力には特に制限はない。
【0024】
本発明の製造方法により重合の対象となる「塩化ビニル系単量体」とは、塩化ビニル単量体単独、又は、塩化ビニル単量体及び塩化ビニル単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の混合物であってもよい。塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、α−アルキルアクリル酸等の不飽和モノカルボン酸又はそのアルキルエステル類若しくはアミド類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸類又はそのアルキルエステル類、無水物若しくはN−置換マレイミド類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン化合物、ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ペンタジエンのような非共役ジエン、シクロヘキセン、ノルボルネンのようなシクロオレフィン、スチレン、スチレン誘導体、N−ビニルカルバゾールのようなビニル芳香族化合物、一酸化炭素のような炭素酸化物が挙げられる。
【0025】
また、塩化ビニル系単量体の重合において通常行われるように、適宜、熱安定性改良剤、加工性改良剤、その他の改質剤などの添加剤を重合系に添加してもよい。
【0026】
本発明により得られる塩化ビニル系重合体は、例えばフィルム、シート等への成形用材料など、従来から一般的である塩化ビニル系重合体の用途に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下、実施例及び比較例で使用した単量体等、ならびに収率その他の特性の測定方法、計算方法を示す。
【0028】
−塩化ビニル単量体−
塩化ビニル単量体(以下、VCMとも略す)は、市販品を使用した。
【0029】
−バナジウム化合物−
バナジウム(V)オキシトリエトキシドは市販品を精製しないで使用した。
【0030】
V化合物1(実施例9)は文献「Journal of the American Chemical Society, 108(1986)4088-4095」に従い合成したものを精製した後使用した。
【0031】
V化合物2(実施例10)は文献「Bulletin of the Chemical Society of Japan, 77(2004)1849-1854」に従い合成したものを精製した後使用した。
【0032】
−アルミニウム化合物・ラジカル開始剤−
アルミニウム化合物・ラジカル開始剤は、市販品を精製しないで使用した。
【0033】
−重合溶媒−
重合溶媒は、水素化カルシウム上で精製した後使用した。
【0034】
−塩化ビニル重合体の収率−
得られた塩化ビニル重合体の乾燥質量より算出した。
【0035】
−触媒効率の計算−
触媒効率(%)={[VCM(mol/L)]×(収率(%)÷100)×62.5}÷{[遷移金属(mol/L)]×数平均分子量(Mn)}×100
【0036】
−触媒活性の計算方法−
触媒活性(g−PVC/mol−遷移金属・h)={[VCM(mol/L)]×
(収率(%)÷100)×62.5}÷{[遷移金属(mol/L)]×重合時間(h)}
【0037】
−塩化ビニル重合体の数平均分子量及び重量平均分子量の測定−
得られた塩化ビニル重合体をゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(東ソー(株)製)にて、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリスチレン換算値の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0038】
ここで、Mw/Mnを分子量分布とした。
【0039】
−塩化ビニル重合体の熱分解温度−
熱天秤((株)セイコー電子製、商品名TG/DTA6200)を用い、窒素気流中、10℃/minで測定した5%質量減少温度を塩化ビニル重合体の熱分解温度とした。
【0040】
〔実施例1〕
窒素置換したガラス製反応容器に、n−ヘキサンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(14.3mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリメチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0041】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1に記載のトリメチルアルミニウムに代えて、トリエチルアルミニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
【0043】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0044】
〔実施例3〕
実施例1に記載のトリメチルアルミニウムに代えて、トリイソブチルアルミニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
【0045】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0046】
〔実施例4〕
窒素置換したガラス製反応容器に、n−ヘキサンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(14.3mmol/L)7mLとトルエンで希釈したメチルアルミノキサン(PMAO)(商品名:PMAO−S、東ソー・ファインケム(株)製)(0.24mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0047】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0048】
〔実施例5〕
バナジウム(V)オキシトリエトキシドの希釈溶媒を、n−ヘキサンからトルエンに代えた以外は実施例3と同様に行った。
【0049】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0050】
〔実施例6〕
バナジウム(V)オキシトリエトキシドの希釈溶媒を、n−ヘキサンから四塩化炭素に代えた以外は実施例3と同様に行った。
【0051】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0052】
〔実施例7〕
窒素置換したガラス製反応容器に、塩化メチレンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(28.6mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリイソブチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0053】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0054】
〔実施例8〕
窒素置換したガラス製反応容器に、塩化メチレンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(14.3mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリイソブチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0055】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0056】
〔実施例9〕
窒素置換したガラス製反応容器に、塩化メチレンで希釈した、次式
【0057】
【化1】

【0058】
で示される1,2−エチレンジアミノ−N,N’−ビス(3’,5’−ジ−tert−ブチルサリチリデン)オキソバナジウム(V)(表1中ではV化合物1と略す)(1.43mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリエチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0059】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0060】
〔実施例10〕
窒素置換したガラス製反応容器に、塩化メチレンで希釈した、次式
【0061】
【化2】

【0062】
で示される2−オキシ−1,3−プロパンジアミノ−N,N’−ビス(3’,5’−ジ−tert−ブチルサリチリデン)オキソバナジウム(V)(表1中ではV化合物2と略す)(1.43mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリエチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0063】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0064】
〔比較例1〕
窒素置換したガラス製反応器に、塩化メチレンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(12.5mmol/L)8mLを仕込んだ後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入した。
【0065】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0066】
〔比較例2〕
窒素置換したガラス製反応器に、塩化メチレンで希釈したトリイソブチルアルミニウム(12.5mmol/L)8mLを仕込んだ後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応器内に仕込み、該反応器を高真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入した。
【0067】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0068】
〔比較例3〕
窒素置換したガラス製反応容器に、トルエンで希釈したトリフェノキシ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(15mmol/L)2mLとトルエンで希釈したメチルアルミノキサン(PMAO)(商品名:PMAO−S、東ソー・ファインケム(株)製)(0.3mol/L)1mLを仕込んだ。室温で10分間熟成させた後、トルエンを高真空下で除去した。その後、塩化メチレン8mLと水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、50℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が48時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0069】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表1及び表2に示す。
【0070】
〔実施例11〕
窒素置換したガラス製反応容器に、n−ヘキサンで希釈したバナジウム(V)オキシトリエトキシド(14.3mmol/L)7mLとn−ヘキサンで希釈したトリイソブチルアルミニウム(0.1mol/L)1mLを仕込んだ。その後、水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体2mL(30mmol)を該反応容器内に仕込み、該反応容器を真空下で溶封し、−25℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応時間が24時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0071】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表3及び表4に示す。
【0072】
〔比較例4〕
窒素置換したガラス製反応容器に、ラウロイルパーオキサイド(LPO)(ラジカル開始剤)0.379mmolと水素化カルシウム上で−78℃の真空蒸留により得た塩化ビニル単量体152mmolを仕込んだ。全量は10mLであった。該反応容器を真空下で溶封し、30℃に調整した恒温槽に浸し重合を開始した。反応が12時間経過した時点で、重合反応系を塩酸5vol%含む大量のメタノール中に投入することにより塩化ビニル重合体を回収した。
【0073】
重合条件と得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表3及び表4に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は熱安定性に優れた塩化ビニル系重合体を生産性良く製造するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:V(=O)
(式中、iはバナジウム原子の酸化数を示し、2〜5の整数である。jは0又は1である。Zは配位子であり、ヘテロ原子でバナジウムと結合することができる有機配位子、ハロゲン配位子、置換されていてもよい単環式炭化水素配位子、又は置換されていてもよい多環式炭化水素配位子を示し、複数のZは同一でも異なっていてもよく、二以上のZが結合して該式中のバナジウム原子も構成員として環を形成していてもよい。kは配位子の数を示し、1〜5の整数である。)
で示される少なくとも一種類のバナジウム化合物(A)及び少なくとも一種類のアルミニウム化合物(B)の存在下で、塩化ビニル系単量体の重合反応を行うことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
バナジウム化合物(A)のZが、アルコキシ配位子、アリーロキシ配位子、サリチルアルドイミン配位子及びサレン配位子から成る群から選択される少なくとも1種であり、それらは置換されていてもよいことを特徴とする請求項1に係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
バナジウム化合物(A)が、バナジウム(V)オキシトリアルコキシド、バナジウム(V)オキシサレン及びバナジウム(IV)オキシサレンから成る群から選択される少なくとも1種であり、それらは置換されてもよいことを特徴とする請求項1又は2に係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム化合物(B)が、一般式AlX(式中、Xは独立にハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基又は置換されていてもよいアリーロキシ基を示す。)で示されるアルミニウム化合物、一般式{−Al(R)O−}(式中、Rは独立に置換されていてもよいアルキル基を示す。pは1以上の整数を表す。)で示される環状のアルミノキサン、及び一般式R{−Al(R)O−}AlR(式中、Rは独立に置換されていてもよいアルキル基を示す。qは1以上の整数を表す。)で示される線状のアルミノキサンから成る群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム化合物(B)がトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及びメチルアルミノキサンから成る群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合が、塊状で又は溶媒中で行われることを特徴とする請求項1〜5に係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記重合が溶媒中で行われ、該溶媒がトルエン、n−ヘキサン、塩化メチレン、及び四塩化炭素から成る群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6に係る塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合が溶媒中で行われ、該溶媒がハロゲン化炭化水素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に係る塩化ビニル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−121116(P2010−121116A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238504(P2009−238504)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月9日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集57巻2号」に発表
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】