説明

塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液の処理方法

【課題】塩化第一鉄含有鉄塩酸処理廃液から酸化鉄と塩酸を回収する方法を提供する。
【解決手段】塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を濃縮器に供給し、減圧下に脱水して塩化第一鉄の濃度を40重量%以上に濃縮する濃縮工程と;該濃縮工程から得られる濃縮液を酸化器に供給し、含有する塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化して塩化第二鉄含有液を得る酸化工程と;該酸化工程から得られる塩化第二鉄含有液を加水分解器に供給し、塩化第二鉄濃度を65重量%以上に維持し、かつ温度155〜350℃で加水分解し、塩化水素含有蒸気と酸化第二鉄含有液と生成する加水分解工程と;該加水分解工程で得られた塩化水素含有蒸気を凝縮器により凝縮させて濃度15重量%以上の塩酸を回収し、かつ上記酸化第二鉄含有液から酸化第二鉄を分離回収する分離回収工程と;を有することを特徴する鉄塩酸処理廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液の処理方法、より詳しくは、塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液から、酸化鉄と塩酸を回収する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業や亜鉛メッキ工業等においては、製品または加工品の表面に付着している錆びや付着物(スケール)を取り除くために、塩酸による洗浄処理が広く行われている。また、半導体リードフレームもしばしば塩酸でエッチング処理される。これらの処理においては、塩酸濃度は一般に12〜18重量%に保持するように管理されている。処理の進行につれて、遊離塩酸は鉄などの金属塩に転化し、徐々に洗浄やエッチング能力が低下するため、常に遊離塩酸を補給するともに、処理工程からは、鉄を含有する濃度の低下した塩酸含有廃液が多量に発生する。
【0003】
この塩酸含有廃液中には、遊離塩酸のほかに処理する金属と塩酸との反応生成物である塩化第一鉄や亜鉛、ニッケル、銅などの塩化物が含まれているために、これまでは産業廃棄物として廃棄されている。近年はこの産業廃棄物の処理費用が高騰する一方、塩酸自体が比較的高価であるために、この廃塩酸をそのまま廃棄することは不経済であり、さらに環境問題や公害の面からも大きな問題があることから、塩酸含有排液から塩酸、酸化鉄あるいは塩化第二鉄として回収する方法が提案されている。
【0004】
この回収方法の一つは焙焼法で、この方法は塩化第一鉄を含む塩酸含有排液を焙焼炉の中で焙焼酸化して酸化鉄とガス体に分離し、このガス体から塩酸を吸収装置で吸収して約18重量%の比較的低濃度の塩酸として回収するものである。
また、別の方法は液相塩素酸化法で、塩化第一鉄を含む塩酸含有排液に塩素を反応させて塩化第一鉄を塩化第二鉄に変えて、エッチング液として再利用するか水処理用の塩化第二鉄として回収するものである。また、上記方法では溶解した鉄に塩素を反応させて塩化第二鉄を生成することになるので、余剰の塩化第二鉄の処理・廃棄は不可欠である。
【0005】
さらに、近年、塩化第一鉄を含む廃塩酸を蒸発濃縮し、塩化第一鉄の濃度を高めた排液を酸化処理して塩化第一鉄を塩化第二鉄に転化し、該塩化第二鉄を高濃度で含有する液を加水分解処理して酸化鉄を生成させるともに20重量%以上の高濃度の塩酸とを回収する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−137118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の焙焼法は焙焼炉に広面積が必要であるとともに酸化鉄の粉塵対策が必要であり、多量処理用であるために設備費が高くなる。そのうえ、非常に多量の焙焼用燃料を使用するために、回収される塩酸のコストの増大が避けられない。また、燃焼排ガスが発生し、NO対策、HCl、Cl、ダストなどの大気への排出が問題になっている。さらに近年、燃料を使用することによるCo排出も問題となってきている。
【0008】
一方、上記液相塩素酸化法は、反応器で塩化第一鉄から塩化第二鉄への変換ができるので、低い経費で設備を作ることができ小容量用として適している。しかし、危険な高圧の塩素ガスを使用するために、高圧ガス対策や塩素ガス除去設備が必要になるばかりでなく、回収される製品が塩化第二鉄に限定され、塩酸として回収できないという大きな問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1に記載の方法は、塩化第一鉄を含む廃塩酸から鉄成分を有用な酸化鉄として回収するとともに、20重量%以上の高濃度の塩酸を回収する有用な方法である。しかし、この方法の場合、回収された酸化鉄には、粒子径が非常に小さくかつ塩素分が含有されており、母液からの分離困難であるとともに、これを利用する場合には、塩素分を除去しなければならない。また、この方法の場合には、そこで発生するエネルギーの有効利用が困難であり、エネルギー収支の点からすると効率的でない。
【0010】
本発明は、上記のような塩化第一鉄を含む鉄塩酸処理廃液から、従来に比べて、不純物の少ない、より高純度の用途の広い酸化鉄が容易に分離回収でき、また、極めて低いエネルギーにて効率的に実施しうるとともに、かつ、洗浄用やエッチング用としてそのまま使用できる適度の濃度の塩酸をも回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究を進めたところ、前記目的を達成しうる新規な方法を見出したものである。すなわち、上記塩化第一鉄を含む鉄塩酸処理廃液を濃縮工程において、塩化第一鉄濃度を30重量%以上に濃縮し、次いで、酸化工程で塩化第一鉄を塩化第二鉄に転化し、得られた塩化第二鉄含有液を、塩化第二鉄濃度を65重量%以上に維持しつつ、155℃〜350℃の温度で加水分解することにより、加水分解速度が増大し効率化するとともに、回収される酸化第二鉄は、オキシ塩化鉄(FeOCl)が副生しないので塩素分などの不純物の含有が極めて少ない高純度の三酸化二鉄(Fe)であり、かつ、その平均粒径が大きくできるので母液からの分離が容易であることを見出した。
【0012】
さらに、加水分解工程から排出される塩化水素を含む水蒸気を凝縮して塩酸を回収する工程では、凝縮エネルギーを他の熱源として有利に使用できる75℃以上の高温の熱媒体としても回収しうることが判明した。この場合、かかる回収した75℃以上の高温の熱媒体のエネルギーを、特に、上記濃縮工程における熱源として使用する場合には、全工程で使用する熱エネルギーが30〜40%も低減でき極めて有利であることが判明した。
加えて、上記の温度範囲で加水分解した場合には、回収される塩酸の濃度も15重量%以上の範囲で適宜制御できるので、再利用する濃度に応じた好適な濃度を選択できることを見出した。
【0013】
これらの利点は、従来の特許文献1に記載されるような、塩化第二鉄を含む液の加水分解を0.01〜0.02MPa(絶対圧力)の減圧下で125〜150℃の低温度で行う場合には、決して達成できない利点である。
【0014】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、下記の要旨からなるものである。
1.塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を濃縮器に供給し、減圧下に脱水して塩第一鉄の濃度を30重量%以上に濃縮する濃縮工程と;
該濃縮工程から得られる濃縮液を酸化器に供給し、含有する塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化して塩化第二鉄含有液を得る酸化工程と;
該酸化工程から得られる塩化第二鉄含有液を加水分解器に供給し、塩化第二鉄濃度を65重量%以上に維持し、かつ温度155〜350℃で加水分解し、塩化水素含有蒸気と酸化第二鉄含有液を生成する加水分解工程と;
該加水分解工程で得られた塩化水素含有蒸気を凝縮器により凝縮させて濃度15重量%以上の塩酸を回収し、かつ上記酸化第二鉄含有液から酸化第二鉄を分離回収する分離回収工程と;を有することを特徴する鉄塩酸処理廃液の処理方法。
2.前記分離回収工程の凝縮器において塩化水素含有蒸気中に水を添加して凝縮させることにより、上記塩化水素含有蒸気から濃度15〜20重量%の塩酸を回収し、かつ凝縮過程を通じて温度75℃以上の熱媒体を得る上記1に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
3.前記塩化水素含有蒸気中に添加する水として、前記濃縮工程から得られる凝縮水を使用する上記2に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
4.前記濃縮工程における濃縮液の一部を前記分離回収工程の凝縮器における冷媒として供給し、凝縮器にて温度75℃以上に上昇した液を前記濃縮工程に循環して濃縮器の熱源として使用する上記2又は3に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
5.前記分離回収工程の凝縮器において塩化水素含有蒸気をそのまま凝縮させて濃度20〜35重量%の塩酸を回収する上記1に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
6.前記加水分解工程により生成する酸化第二鉄含有液の一部を前記濃縮工程から得られる濃縮液に添加して前記酸化器に供給する上記1〜5のいずれかに記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
7.塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液が、鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理により生じるものである上記1〜6のいずれかに記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塩化第一鉄を含む塩酸含有廃液から、従来に比べて外部から供給するスチームなどの熱源が極めて少なく効率的に処理できるとともに、塩素分などの不純物の含有が極めて少ない高純度の三酸化二鉄(Fe)であり、かつ、平均粒径が大きくできるので母液からの分離が容易である酸化第二鉄が回収される。
さらに、加水分解工程から排出される塩化水素を含む水蒸気を凝縮して塩酸を回収する工程では、凝縮エネルギーを他の熱源として有利に使用できる75℃以上の高温の熱媒体としても回収しうる。この場合、この高温の熱媒体のエネルギーを上記濃縮工程における熱源として使用し、全工程で使用する熱エネルギーが30〜40%も低減できる。加えて、本発明で回収される塩酸の濃度も15重量%以上の範囲で適宜制御できるので、再利用する濃度に応じた好適な濃度を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一つの好ましい実施態様を示すフローシート図。
【図2】本発明の別の実施態様を示すフローシート図。
【図3】本発明の別の実施態様を示すフローシート図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液は、例えば18〜20重量%の濃度の塩酸を用いて鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理などを行う際に生じる廃塩酸から得ることができる。この廃塩酸には洗浄過程における塩酸と鉄の反応によって生成する塩化第一鉄(FeCl2)と遊離塩酸が含有されている。さらに洗浄やエッチングの過程において鉄以外の例えば亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム及びマグネシウムなどの金属と反応して、これらの金属塩化物が夾雑物としてしばしば単独または複数で含まれている。
【0018】
上記のような塩化第一鉄を含む廃塩酸を本発明により処理されるが、塩酸で鉄鋼を酸洗する際に排出される鉄塩酸処理廃液を例にして、本発明を説明する。
図1は、本発明の一つの好ましい実施態様のフローシートを示すものであり、本発明は、(1)濃縮工程、(2)酸化工程、(3)加水分解工程、及び(4)分離回収工程を有する。以下各工程について具体的に説明する。
【0019】
(1)濃縮工程
鉄塩酸処理廃液(1)には、塩化第一鉄と、濃度が0〜5重量%の少量の塩酸が含まれるが、この鉄塩酸処理廃液(1)に含まれる水分を濃縮器1にて蒸発させて濃縮する工程である。鉄塩酸処理廃液(1)は、濃縮器1に供給し、好ましくは10〜50 kPa (絶対圧)、特に好ましくは20〜30 kPa(絶対圧)の減圧にて好ましくは65〜100℃、特に好ましくは80〜90℃にて行われる。濃縮器1の加熱は、図3に示すように、濃縮器1から取り出した濃縮液(2)の一部を熱交換器7にて高温の水蒸気と熱交換を行い、温度を好ましくは70〜110℃に高めて濃縮器1に循環して行うことができる。
また、濃縮器1の加熱は、図1に示すように、濃縮器1から取り出した濃縮液(2)の一部を後記する分離回収工程における凝縮器5の冷媒として供給し、凝縮器5から得られる、75℃以上に加熱された液を濃縮器1に循環して行うこともできる。この場合には、従来の特許文献1に記される方法に比べて極めて低コストで実施できる。
なお、濃縮器1において蒸発した水は、凝縮器2にて凝縮させることにより塩酸を含む凝縮水が得られる。
【0020】
この濃縮工程では、鉄塩酸処理廃液(1)は水分を蒸発させて塩化第一鉄濃度が好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、更に好ましくは40〜50重量%、特に好ましくは40〜45重量%に濃縮される。塩化第一鉄濃度が30重量%より小さい場合には、酸化反応が遅くなり好ましくない。また、塩化第一鉄濃度が50重量%より大きい場合には、塩化第一鉄が結晶析出する場合がある。
【0021】
(2)酸化工程
濃縮工程で塩化第一鉄の濃度が30重量%以上に濃縮された濃縮液(2)は、酸化器3に供給され、酸化することにより濃縮液(2)中の塩化第一鉄が塩化第二鉄に酸化される。本発明では、上記のように、塩化第一鉄の濃度が高いので酸化反応が極めて大きい。このため、酸化剤としては、酸素はもちろんのこと、酸素濃度が高くない空気の使用が可能であり、圧縮空気が好ましくは使用される。
【0022】
塩化第一鉄から塩化第二鉄への酸化反応は、下記の反応式により塩化第一鉄を酸素と反応させて塩化第二鉄と酸化第二鉄に転化する。
6FeCl2+1.5O2=4FeCl3+Fe23
また、鉄塩酸処理廃液(1)中に含まれる遊離塩酸は、この酸化工程において、次式に示すように、塩化第一鉄の一部と反応して塩化第二鉄に転化され、後記する工程を通じて最終的に塩酸として回収される。
2FeCl2+1/2O2+2HCl=2FeCl3+H2
【0023】
上記の反応式に従う酸化反応は発熱反応であるので酸化工程から得られる酸化処理液は、通常60〜70℃上昇する。これは、酸化工程に続く加水分解工程が熱エネルギーを必要とされるので有利である。また、酸化工程では、酸化第二鉄が副生するが、この点も酸化工程に続く加水分解工程において、塩化第二鉄は最終的に酸化第二鉄に転化せしめられるので全く支障にならない。
【0024】
かかる酸化工程では、塩化第一鉄の形態では、加水分解反応が進まないため、塩化第一鉄から酸化第二鉄への酸化率は好ましくは98%以上、好ましくは99%以上とできるだけ高くすることが必要である。酸化率が小さい場合には、加水分解液中にFeClが蓄積し好ましくない。また、後記する加水分解工程から回収される酸化第二鉄中に含有される塩素分の不純物も増大するので好ましくない。しかし、後記する加水分解工程により生成する酸化第二鉄含有液の一部を前記濃縮工程から得られる塩化第一鉄含有濃縮塩酸液に添加して前記酸化器に供給する場合には、繰り返し酸化できるので、この酸化率をそれほど大きくしなくともよいという利点がある。
【0025】
(3)加水分解工程
次に、上記塩化第二鉄を含有する酸化処理液(4)を加水分解器4に供給し、下記の反応式に従って塩化第二鉄を加水分解する。
FeCl3+3/2H2O=3HCl+1/2Fe23
本発明において、この加水分解工程は、加水分解器4における塩化第二鉄含有液中の塩化第二鉄の濃度は、65重量%以上、好ましくは70〜80重量%に維持されることが必要である。塩化第二鉄の濃度が65重量%より小さい場合には、回収される塩化水素濃度が小さくなるので好ましくない。逆に、塩化第二鉄の濃度が過度に大きい場合には、回収される塩化水素濃度が大きすぎて凝縮が困難になるので好ましくない。
加水分解が実施される温度は、加水分解される塩化第二鉄溶液が好ましくは沸騰されるように、加水分解器4における圧力によっても異なるが、いずれの場合も好ましくは155〜350℃、より好ましくは160〜200℃、特に好ましくは160〜180℃が必要である。加水分解工程の温度が155℃より低い場合には、オキシ塩化鉄(FeOCl)が副生し、酸化第二鉄中に塩素分などの不純物が含まれる。一方、加水分解温度が350℃を越える場合には、オキシ塩化鉄(FeOCl)が副生し酸化第二鉄中に塩素分などの不純物が含まれることに加えて、生成する酸化第二鉄の平均粒子径が極めて小さくなり、母液からの分離回収が困難になる。
なかでも、加水分解温度は、加水分解器3における圧力が常圧(大気圧)の場合、好ましくは160〜180℃、特に好ましくは165〜175℃の場合に、極めて高純度であり、かつ平均粒子径が好ましくは10〜70μm、より好ましくは20〜50μmの三酸化二鉄(Fe)が得られるので好適である。加水分解器3における圧力は、必ずしも常圧(大気圧)である必要はなく、必要により0.3MPa(絶対圧)程度の加圧でもよく、また、材質保護のために、好ましくは0.05〜0.1MPa、より好ましくは0.08〜0.1MPa(絶対圧)程度の減圧にすることもできる。
かくして加水分解工程では、塩化第二鉄が加水分解されて酸化第二鉄とともに、大量の塩化水素が生成する。
【0026】
上記のようにして、加水分解工程は、常圧、又は加圧若しくは減圧状態にて、上記の温度範囲に保持することにより、加水分解器4における塩化第二鉄含有液中の塩化第二鉄の濃度は65重量%以上維持され、かつ加水分解される塩化第二鉄溶液が好ましくは沸騰状態を維持しつつ加水分解が実施される。
【0027】
(4)分離回収工程
本発明では、上記のように、上記条件下において加水分解することにより、加水分解器4から、酸化第二鉄とともに塩化水素含有蒸気が生成する。本発明では、生成した酸化第二鉄と塩化水素含有蒸気からは、以下に述べるように酸化鉄と塩酸が分離回収されるが、回収された酸化鉄は、塩素含有分の少ない極めて高純度であり、かつ容易に分離回収できる平均粒径を有し、また、回収する塩酸も15重量%以上の適宜の濃度にせしめることができとともに、従来は困難であった有効利用な高温度の熱エネルギーをも回収できる。
【0028】
すなわち、本発明では、加水分解器4からの酸化第二鉄粒子を含む液(6)は、例えば、遠心分離機やフィルタープレスで脱水し、水洗した後更に乾燥炉で乾燥し粉末として回収するが、回収される酸化鉄は、X線回折分析により、ほぼ全量が三酸化二鉄(Fe)であり、粒子径が大きく含有される塩素分が少なく、洗浄も容易である。しかし、従来の特許文献1の方法で得られる酸化鉄は粒子径が小さく、かつ塩素含有分が含まれており、純度が高くない。この違いは、加水分解時の温度に基因しており、温度が小さい場合には、非常に細かい粒子の酸化鉄やオキシ塩化鉄(FeOCl)が副生するためと思われる。
【0029】
さらに、本発明で回収される酸化第二鉄粒子は、上記のごとくその平均粒径(D50)が、好ましくは10〜70μm、より好ましくは20〜50μmであり、その母液からの分離回収が容易である。従って、本発明では、酸化第二鉄粒子の分離が容易になるとともに、この平均粒度の酸化第二鉄の粉末は、より多くの分野で有利に利用できる。なお、加水分解の温度を上記の180℃を超える温度で行う場合には生成する酸化第ニ鉄の平均粒径が小さくなり、加水分解液(6)からの分離が極めて難しくなるともに、このような平均粒径の小さい酸化第二鉄の有用性も限られたものになる場合がある。
【0030】
さらに、本発明では、加水分解により生成した塩化水素を含む蒸気(5)を凝縮器5で凝縮することにより塩酸として回収されるが、本発明で回収される塩酸は15重量%以上のいずれの濃度としても回収できる。
すなわち、回収される塩酸の濃度を15〜20重量%という比較的低くする場合には、凝縮器5において塩化水素含有蒸気中に水を添加して凝縮させることにより、塩化水素濃度を低くして、塩化水素の凝縮温度を高めることができる。この場合、凝縮器5として、気液直接接触型凝縮器や流下液膜型凝縮器が使用され、吸収液として水を使用し、この水を塩化水素を含む蒸気(5)に添加しながら、熱媒体で除冷しながら凝縮させる。塩化水素含有蒸気中に添加する水は外部から供給した純水を使用してもよいが、また、前記濃縮工程から得られる凝縮水を使用してもよいが、後者の場合には、凝縮水中に塩化水素が含有されており、この塩化水素も回収できるので一層有利である。
上記した凝縮器5から得られる、好ましくは温度75℃以上の熱媒体は、熱源として、種々の用途に利用できるが、本発明では、特に、前記濃縮工程における濃縮液(2)を加熱する熱媒体として使用することができる。この場合、前記濃縮工程の熱媒体として使用し、温度が75〜95℃に低下した熱媒体は、凝縮器5に戻され、加水分解器4から発生する塩化水素を含む蒸気(5)の冷却媒体として循環使用される。
さらに、本発明では、図1に示し、後記する実施例1で例示するように、上記凝縮器5の冷媒として、前記濃縮器1から取り出した濃縮液(2)の一部を使用し、凝縮器5にて塩化水素含有蒸気を冷却することにより75℃以上に加熱された液を濃縮器1に循環し、濃縮工程における濃縮液の熱媒体として使用することもできる。この場合には、従来の特許文献1に記される方法に比べて極めて低コストで実施できる。
【0031】
このようにして、濃度15〜20重量%の塩酸を回収するとともに、本発明では、凝縮器5における塩化水素の凝縮温度を高めたために、凝縮過程では、好ましくは75℃以上、より好ましくは75℃〜110℃、更により好ましくは90℃〜105℃の熱媒体として有利に使用できる高温度の熱媒体が容易に得られる。これは、本発明において、加水分解の温度を上記の155〜200℃という高温度範囲で行うことにより、加水分解器4に発生する塩化水素含有蒸気の温度が高いために可能になったものである。
この点、従来の特許文献1の方法では、加水分解が約125〜150℃という低温度のために、同様に実施しても凝縮器5では60℃以下の熱媒体しか得られず、この低温度の熱媒体は有効利用が困難である。
【0032】
一方、本発明において、回収される塩酸の濃度を20〜35重量%、好ましくは25〜35重量%の高濃度にする場合には、凝縮器5として通常の凝縮器を使用し、塩化水素を含む蒸気(5)に水を添加せずにそのまま冷却して凝縮させる。かかる20〜35重量%の高濃度の塩酸は、多くの分野で有効利用が可能である。
【0033】
図2は、本発明の別の好ましい実施態様のフローシートを示すものである。図2において、図1と共通の符号は図1と同じものを表す。
図2の態様においては、加水分解器4から取り出した酸化第二鉄を含む加水分解液(6)は、その一部、好ましくは85〜90%を加水分解器4に供給する液(4)に添加して加水分解器4に循環するが、その残りの一部は、濃縮工程から排出される濃縮液(2)に添加する例である。
この場合には、酸化器で十分な酸化率でなくとも、塩化第一鉄が蓄積して塩酸の回収率の低下や、酸化鉄中の不純物の増加という悪影響が生ずることはないという利点が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるべきではないことはもちろんである。なお、特に断りのない限り、パーセントは重量パーセントを表す。
【0035】
例1:(実施例)
鉄鋼を塩酸で酸洗する工程からの排出液(1)を図1のフローシートに従って処理した。排出液(1)はFeCl:22.0%、FeCl:0.0%、HCl:1.7%、HO:76.5%、Fe:0.0%の組成を有し、温度が70℃であった。
排出液(1)を、FRP製の濃縮器1に流速15000kg/時間で供給した。濃縮器1は、凝縮器2を通じて真空ポンプで吸引することにより32kPaに減圧にし、後記する加水分解器4から排出する塩化水素含有蒸気(5)の凝縮器5に濃縮器内部液を循環して加熱して、熱源とした。
【0036】
濃縮器1からは、FeCl:41.2%、FeCl:0.0%、HCl:0.6%、HO:54.4%、Fe:0.0%の組成を有する塩化第一鉄の濃度が高められた濃縮液(2)7932kg/時間と、FeCl:0.0%、FeCl:0.0%、HCl:3.0%、HO:97.0%、Fe:0.0%の組成を有する凝縮液(3)がそれぞれ、7067kg/時間で得られた。
【0037】
上記の濃縮液(2)は、次いで、酸化器3に7932kg/時間で供給され、酸素による酸化を行った。酸化器3は、圧力を0.7MPa、温度を150℃に保持し、酸素を206kg/hの流量で供給した。この場合の酸化器内の滞留時間は4時間であった。酸化器3からは、FeCl:0.0%、FeCl:35.1%、HCl:0.0%、HO:56.9%、Fe:8.1%の組成を有する塩化第二鉄含有液(4)が8139kg/時間で得られた。
【0038】
この塩化第二鉄含有液(4)を加水分解器4に供給した。加水分解器4では、そこから抜き出した塩化第二鉄含有液(4)を熱交換器6を通じて加熱し、これを加水分解器4に循環することにより、圧力0.1MPa、温度175℃、塩化第二鉄の濃度は77重量%に維持して加水分解が行われるようにて運転した。
かくして、加水分解により、加水分解器4からは、FeCl:0.0%、FeCl:0.0%、HCl:29.0%、HO:82.0%、Fe:0.0%の組成を有する塩化水素含有水蒸気(5)が得られた。
【0039】
上記塩化水素含有水蒸気(5)は気液直接接触型凝縮器5に供給した。気液直接接触型凝縮器5では、前記濃縮器1で得られた凝縮液(3)を吸収液として使用し、濃縮器1の循環液を冷媒として使用した。かくして、気液直接接触型凝縮器5からは、濃度18重量%の塩酸として分離回収した。
一方、酸化第二鉄含有液(6)は、加水分解器4から抜き出し、熱交換器6を通じて循環する塩化第二鉄含有酸化液(4)から一部を取り出すことにより得た。この酸化鉄含有液(6)を遠心ろ過機により固液分離することにより、塩素分含有量が0.1重量%であり、平均粒径が30μmの酸化第二鉄(Fe)粉末を得た。
【0040】
上記凝縮器5から得られた95℃の濃縮器1の循環液は、濃縮器内で水分と塩酸が蒸発することにより温度が80℃に低下し、再びこの液は気液直接接触型凝凝縮器5に戻し、加水分解器4から発生する塩化水素含有蒸気(5)の冷媒として使用した。
上記全体の濃縮工程、酸化工程及び加水分解工程の全プロセスにおいて、外部からスチームとして供給した熱量は、9200Kg/hであった。
【0041】
例2:(比較例)
実施例1で処理したのと同じ組成を有する排出液(1)を使用し、加水分解工程における条件を、前記特許文献1に記載される100mmHgの減圧下で145℃にて実施したほかは、例1と同様にして行った。
この結果、加水分解器4にて生成する塩化水素含有水蒸気を凝縮器5に供給し、水媒体で凝縮することにより、濃度29重量%の塩酸が回収された。また、凝縮器5から排出する水媒体の温度は40℃という低温度であり有効利用が困難であった。
【0042】
一方、加水分解器4にて生成する塩化第二鉄含有酸化液酸化第二鉄含有液(6)を固液分離することにより、得られた平均粒径が10μm以下であり、非常に濾過困難な酸化鉄粉末であった。この場合、上記全体の濃縮工程、酸化工程及び加水分解工程の全プロセスにおいて、外部からスチームとして供給した熱量は、17960kg/時間であり、例1に比べて95%増大した。
【0043】
例3:(比較例)
例1において、濃縮工程における塩化第一鉄の濃縮度を低めて、濃縮工程から得られる塩化第一鉄の濃度を28重量%と小さくした濃縮液を酸化器に供給した。酸化器では、例1と同様の条件にて実施したが、FeClを生成する酸化反応が非常に遅く、実質上その後の工程を実施できなかった。
【0044】
例4:(実施例)
例1において、加水分解工程により生成する酸化第二鉄含有液の一部を、図2のフローシートに従って、濃縮工程から得られる塩化第一鉄含有濃縮液に添加して前記酸化器に供給する例である。
例1において、酸洗する工程からの排出液(1)を濃縮した後に、酸化器3に送る際に、加水分解液を16000kg/hを加えて23900kg/hとし、その組成をFeCl 12.7%、 FeCl 50.4%、 HCl 0.2% Fe 0.5%の溶液とした。
酸化器では例1と同様に、圧力を0.7MPa、温度を150℃に保持し、酸素を206Kg/H の流量で供給した。このときの酸化器の滞留時間を2時間とした。酸化器3からは、FeCl:0.7%、FeCl:61.3%、HCl:0.0%、HO:34.9%、Fe:3.1%の組成を有する塩化第二鉄含有液(4)が24100kg/Hで得られた。
この塩化第二鉄含有酸化液(4)を加水分解器4に供給することにより、例1と同様の結果が得られた。
このように、酸化器の滞留時間を例1の約1/2にし、酸化率を90%程度としたが、加水分解液中に酸化されていないFeClが残っていても、系内にFeClが蓄積することなく安定した結果が得られた。
【0045】
例5:(実施例)
例1で使用したのと同じ組成の鉄鋼を塩酸で酸洗する工程からの排出液(1)を図3のフローシートに従って処理した。濃縮工程、酸化工程を経て得られた酸化液を、加水分解器において例1と同様に大気圧下で175℃で加水分解を行った。また、加水分解器中のFeClの濃度を77重量%に保持した。
凝縮器5として、例1における気液直接接触型の代りに、冷却水として32℃の水を使用する通常の表面凝縮器を使用し、加水分解器から発生する塩化水素含有水蒸気を供給したところ、約90℃の濃度29重量%の塩酸が得られた。また、加水分解器から、例1と同様に、塩素分含有量が0.1重量%であり、平均粒径が30μmの酸化第二鉄(Fe)粉末が得られた。
【符号の説明】
【0046】
(1):塩化第一鉄含有鉄塩酸処理廃液 (2):濃縮液
(3):凝縮液 (4):酸化処理液
(5):塩化水素を含む蒸気 (6):酸化第二鉄粒子を含む液
1:濃縮器 2:凝縮器
3:酸化器 4:加水分解器
5:凝縮器 6:熱交換器
7:熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を濃縮器に供給し、減圧下に脱水して塩化第一鉄の濃度を30重量%以上に濃縮する濃縮工程と;
該濃縮工程から得られる濃縮液を酸化器に供給し、含有する塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化して塩化第二鉄含有液を得る酸化工程と;
該酸化工程から得られる塩化第二鉄含有液を液加水分解器に供給し、塩化第二鉄濃度を65重量%以上に維持し、かつ温度155〜350℃で加水分解し、塩化水素含有蒸気と酸化第二鉄含有液を生成する加水分解工程と;
該加水分解工程で得られた塩化水素含有蒸気を凝縮器により凝縮させて濃度15重量%以上の塩酸を回収し、かつ上記酸化第二鉄含有液から酸化第二鉄を分離回収する分離回収工程と;を有することを特徴する鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項2】
前記分離回収工程の凝縮器において塩化水素含有蒸気中に水を添加して凝縮させることにより、上記塩化水素含有蒸気から濃度15〜20重量%の塩酸を回収し、かつ凝縮過程を通じて温度75℃以上の熱媒体を得る請求項1に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項3】
前記塩化水素含有蒸気中に添加する水として、前記濃縮工程から得られる凝縮水を使用する請求項2に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項4】
前記濃縮工程における濃縮液の一部を前記分離回収工程の凝縮器における冷媒として供給し、凝縮器にて温度75℃以上に上昇した液を前記濃縮工程に循環して濃縮器の熱源として使用する請求項2又は3に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項5】
前記分離回収工程の凝縮器において塩化水素含有蒸気をそのまま凝縮させて濃度20〜35重量%の塩酸を回収する請求項1に記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項6】
前記加水分解工程により生成する酸化第二鉄含有液の一部を前記濃縮工程から得られる濃縮液に添加して前記酸化器に供給する請求項1〜5のいずれかに記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。
【請求項7】
塩化第一鉄を含有する鉄塩酸処理廃液が、鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理により生じるものである請求項1〜6のいずれかに記載の鉄塩酸処理廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−24136(P2010−24136A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146943(P2009−146943)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(508184538)第一エンジニアリング株式会社 (2)
【出願人】(508185270)エスエムエス シマーグ プロセス テクノロジーズ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】