説明

塩基多型の同定方法

【課題】 非特異的結合反応が低く抑えられ、迅速で容易に再現性の良い結果が得られる、塩基多型を明確にまた簡便に検出できる方法を提供する。
【解決手段】 特定の核酸配列を含む試料溶液に該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて、増幅反応と同時およびまたは増幅反応後、該核酸配列の塩基多型部位に相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドを接触させ、特定の核酸配列と結合した標識オリゴヌクレオチドを検出すること、あるいは標識オリゴヌクレオチドを介して増幅された核酸配列を検出することによって試料溶液中に含まれる塩基多型を同定する方法において、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドよりTm値が高いオリゴヌクレオチドを共存させることを特徴とする塩基多型の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多型部位に相補的に結合するオリゴヌクレオチドを用いて塩基多型の同定方法に関するものである。本発明は、遺伝病の診断、塩基多型解析等に際して特に有用である。
【背景技術】
【0002】
本発明において、塩基多型とは野生型とは異なる塩基配列を有することをいう。遺伝子の塩基多型は薬物代謝において副作用および治療失敗の発生において個体間変動の原因として重要な役割を果たし、体質として知られる基礎代謝等の個人差の原因としても知られている。その上、これらは多数の疾患の遺伝マーカーとしての働きもする。それゆえ、これら突然変異の解明は臨床的に重要であり、ルーチンの表現型分類が臨床研究における精神医学患者および自発志願者にとって特に推奨される(GramおよびBrsen, European Consensus Conference on Pharmacogenetics. Commission of the European Communities, Luxembourg,第87〜96頁(1990年); Balantら、Eur. J. Clin. Pharmacol. 第36巻、第551〜554頁、(1989年))。また、原因となる変異型遺伝子の同定に続くそれぞれの遺伝子型の検出用の核酸配列分析法が所望される。
【0003】
従来の核酸配列分析技術としては、例えば核酸配列決定法(シークエンシング法)がある。核酸配列決定法は核酸配列中に含まれる塩基多型を検出、同定することができるが、鋳型核酸の調製、DNAポリメラーゼ反応、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、核酸配列の解析等を行うため多大な労力と時間が必要である。また近年の自動シークエンサーを用いることで省力化は行うことができるが、高価な装置が必要であるという問題がある。
【0004】
一方、遺伝子の点突然変異により引き起こされる遺伝病が種々知られており、それらの中には、遺伝子のどの部位がどのように点突然変異することにより遺伝病が引き起こされるかわかっているものも少なくない。
【0005】
このような予想される点突然変異を検出する方法として、従来より、PCR(polymerase chain reaction)法(たとえば、特許文献1または2参照)などの遺伝子増幅法を利用した遺伝子の点突然変異の検出方法が知られている。PCR法によって増幅された遺伝子断片に対し、特定の核酸配列を切断する制限酵素により処理し、生じるフラグメントの大きさで判断する方法(PCR−RFLP)法が用いられている。同じくPCR法を用いた検出方法としては、使用するprimerの特異性を利用した Alelle specific amplification法が用いられる。この方法では、遺伝子増幅法に用いる一対のオリゴヌクレオチドのうちの一方のオリゴヌクレオチドとして、野生型遺伝子の増幅領域の端部領域に完全に相補的な野生型用オリゴヌクレオチドと、変異型遺伝子の増幅領域の端部領域に完全に相補的な変異型用オリゴヌクレオチドとを用いる。変異型のオリゴヌクレオチドは、その3’末端が予想される点突然変異を起こしたヌクレオチドに相補的なヌクレオチドになっている。このような野生型及び変異型用オリゴヌクレオチドをそれぞれ別個に用いて試料遺伝子を遺伝子増幅法に供する。
【0006】
試料遺伝子が野生型であれば、野生型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には核酸の増幅が起きるが、変異型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には、オリゴヌクレオチドの3’末端が試料遺伝子の対応ヌクレオチドと相補的ではない(ミスマッチ)ので伸長反応が起きず、核酸の増幅は起きない。一方、試料遺伝子が変異型であれば、逆に、野生型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には増幅が起きず、変異型用オリゴヌクレオチドを用いた場合に増幅が起きる。従って、各オリゴヌクレオチドを用いた場合に増幅が起きるか否かを調べることにより、試料遺伝子が野生型か変異型かを判別することができ、それによって試料遺伝子中の点突然変異を同定することができる。この時増幅がおきたか否かを調べる方法として、増幅産物をアガロースゲル電気泳動した後、エチジウムブロマイド等の核酸特異的結合蛍光試薬を用いて染色の後、UV照射して増幅核酸の有無を検出できる。またほかの様式として、ナイロン膜上に増幅核酸を固定し、標識プローブを用いて検出するサザンブロット法、個体担体上に固定した補足プローブで捕捉した後検出プローブを作用させて検出するサンドイッチハイブリダイゼーション法などが開発されてきた。
【0007】
また、遺伝子多型部位を含むよう核酸増幅法し、反応後に、多型部位を含む遺伝子断片と多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドの複合体が形成され、試料中に含まれる鋳型配列が野生型配列の場合、野生型配列と相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドとの複合体を、試料中に含まれる鋳型配列が変異型配列の場合、変異型配列と相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドとの複合体を形成する方法において、非特異的結合反応を低減するために、これまでも一方の多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドと同時に他方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドを共存させる塩基多型の同定方法が報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、この方法では、同時に添加される一方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドは、他方の多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドの数倍から数十倍もの量を添加する必要があり、反応条件の調整、および経済的にも課題が残されていた。
【0009】
【特許文献1】特公平4−67960号公報
【特許文献2】特公平4−67957号公報
【非特許文献1】Human Mutation 第22巻、第166頁、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような方法により増幅核酸を検出し、容易に多型を同定が行えるように思われるが、実際には、操作は煩雑であり、迅速かつ大量の試料を解析するためには、多大な労力を要するか大規模なラボオートメーションシステムを構築する必要がある。
【0011】
たとえば電気泳動法によれば野生型及び多型型を別々に検出する必要がありまた泳動像から核酸量を正確に数値化することは困難である。またサザンブロット法やサンドイッチハイブリダイゼーション法ではプローブとのハイブリダイゼーション反応が必要であり、その条件を厳密に整える必要がある。更には過剰なプローブを除去する工程が必要であり、操作は非常に煩雑である。
【0012】
本発明の目的は、上記のような課題を解決して、明確にかつ再現性よく核酸配列中の多型を検出することができる方法及びそのための試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、上記の従来法に対して、特定の核酸配列を含む試料溶液に該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて、増幅反応と同時およびまたは増幅反応後、該核酸配列の塩基多型部位と相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチド(以下検出用オリゴヌクレオチドと称する場合がある)を接触させ、特定の核酸配列と結合した標識オリゴヌクレオチドを検出することによって試料溶液中に含まれる塩基多型を同定する方法において、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチド(以下競合オリゴヌクレオチドと称することがある)を共存させることを特徴とする塩基多型の同定方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[1]特定の核酸配列を含む試料溶液に該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて、増幅反応と同時およびまたは増幅反応後、該核酸配列の塩基多型部位に相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドを接触させ、特定の核酸配列と結合した標識オリゴヌクレオチドを検出すること、あるいは標識オリゴヌクレオチドを介して増幅された核酸配列を検出することによって試料溶液中に含まれる塩基多型を同定する方法において、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチドを共存させることを特徴とする塩基多型の同定方法 。
【0015】
[2] 該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドが予め標識されていることを特徴とする塩基多型の同定方法。
【0016】
[3] 標識がビオチン、ジゴキシゲニン、抗原、抗体、蛍光物質、発光団および酵素よりなる群から選ばれたいずれかである塩基多型の同定方法。
【0017】
[4]増幅反応がPCR、NASBA、LCR、SDA、RCA、TMA、LAMPおよびICANよりなる群から選ばれたいずれかの方法であることを特徴とする塩基多型の同定方法。
【0018】
[5]少なくとも核酸配列増幅用オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ、dNTPs、多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチド、多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチドを有することを特徴とする塩基多型測定用キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、試料核酸中の塩基多型を明確にまた簡便に検出できる方法が提供される。本発明の方法では、これまでの方法と比べ非特異的結合反応が低く抑えられ、迅速で容易に再現性の良い結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
試料中に含まれる特定の塩基多型部位を含む染色体又はその断片は、目的の遺伝子の情報を担う塩基多型部位を含む標的核酸であれば、特に制限されない。該標的核酸の例としては、Alu配列、蛋白質をコードする遺伝子のエキソンやイントロン、プロモーターなどが例示できる。より具体的には、遺伝病を含む各種疾患、薬物代謝、生活習慣病(高血圧、糖尿病等)に関連する遺伝子が挙げられる。例えば、高血圧としてACE(Angiotensin IConverting Enzyme)遺伝子が挙げられる。
【0021】
本発明において、核酸配列を単に核酸ということがある。変異型核酸とは、野生型核酸のうち少なくとも1つ、好ましくは1つのヌクレオチドが点突然変異して他のヌクレオチドに置換されているものや、野生型核酸の一部に挿入、欠失配列等を含む核酸のことであり、どの部位のヌクレオチドが変異しているかが解明されているものである。このような塩基多型により体質等が異なっていることが解明されてきており、本発明の方法は試料中の核酸がこのような予想される変異を有しているか否かを検査する方法である。
【0022】
本発明において、特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドとは、対象となる塩基多型部位を含む染色体又はその断片に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドであって、既知の増幅方法であるPCR、NASBA、LCR、SDA、RCA、TMA、LAMPおよびICAN法に使用できるものであれば特に限定されるものではない。
【0023】
本発明に用いられる多型部位と相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドは、好適には各多型部位に相補的なオリゴヌクレオチドに標識されたものを用いることができ、オリゴヌクレオチドに標識が結合する部位は特に限定されない。
【0024】
本発明におけるオリゴヌクレオチドの長さとしては、7〜25塩基、好ましくは、11〜20塩基である。
【0025】
本発明においては、上記特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドと多型部位と相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドおよび多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチドは、別々、又は同時に作用させることが可能である。
【0026】
本発明において、特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドの伸長方法は、基本的には、従来の方法を用いて行うことができる。通常、一本鎖に変性させた特定の塩基多型部位を含む染色体又はその断片に、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)及びDNAポリメラーゼを共に、作用させることで、標的核酸を鋳型としてオリゴヌクレオチドが伸長する。
【0027】
該伸長反応は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (Sambrookら、1989年)に記載の方法に従って行うことができる。また、該オリゴヌクレオチドが伸長されたか否かによって塩基多型を検出する方法において、標的核酸が検出するのに十分な量が含まれていない場合、予め前記多型配列を含む核酸断片を以下に示す増幅反応によって、増幅しておくことも可能である。
【0028】
本発明において、特定の塩基多型部位を含む染色体又は断片の増幅方法も、基本的には、従来の方法を用いて行うことができ、通常、一本鎖に変性させた特定の塩基多型部位を含む染色体又はその断片に、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)及びDNAポリメラーゼ及び特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを作用させることで、標的核酸を鋳型として用いたオリゴヌクレオチド間の配列が増幅される。
【0029】
核酸増幅方法としては、PCR、NASBA(Nucleic acid sequence-basedamplification method;Nature 第350巻、第91頁(1991年))、LCR(国際公開89/12696号公報、特開平2−2934号公報)、SDA(Strand Displacement Amplification:Nucleic acid research 第20巻、第1691頁(1992年))、RCA(国際公開90/1069号公報)、TMA(Transcription mediated amplification method;J.Clin.Microbiol. 第31巻、第3270頁(1993年))、LAMP(loop-mediated isothermal amplification method:J Clin Microbiol. 第42巻:第1,956頁(2004年))、ICAN(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids:Kekkaku. 第78巻、第533頁(2003年))などが挙げられる。
【0030】
なかでもPCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のオリゴヌクレオチド及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のオリゴヌクレオチドで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各オリゴヌクレオチドと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各オリゴヌクレオチドを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上上記一対のオリゴヌクレオチドで挟まれた試料DNAの領域は2倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可)の試料核酸をも検出することが可能であり、最近非常に広く用いられている技術である。
【0031】
上記のような核酸増幅法を利用した方法では、反応後に、多型部位を含む遺伝子断片と多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドの複合体が形成され、試料中に含まれる鋳型配列が野生型配列の場合、野生型配列と相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドとの複合体を、試料中に含まれる鋳型配列が変異型配列の場合、変異型配列と相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドとの複合体を形成する。しかしながら、野生型配列と相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドは変異型配列へ一部結合し、結果として野生型配列と変異型配列のヘテロとして判定され、いわゆる非特異的結合反応として知られている。この課題を解決するために、これまでも一方の多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドと同時に他方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドを共存させる塩基多型の同定方法が報告されている(Human Mutation 第22巻、第166頁、2003年)。
【0032】
しかしながら、この方法では、同時に添加される一方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドは、他方の多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドの数倍から数十倍もの量を添加する必要があり、反応条件の調整、および経済的にも課題が残されていた。
本発明の方法では、一方の多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドと同時に他方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドでありかつ多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドより高いTm値を有するオリゴヌクレオチドを添加することによって、他方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドの添加量を少なくすることができ、さらに上記非特異的結合反応が飛躍的に改善されることが確認された。
【0033】
Tm値の差としては、2〜40℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜30℃、さらに好ましくは4〜25℃、特に好ましくは5〜20℃である。Tmの差が2℃未満であると、本願の特性が得られないことがあり、40℃を超えると、競合オリゴヌクレオチドがPCR反応時に乖離せず、増幅反応が進まないことがある。
【0034】
なお、Tmはオリゴヌクレオチドの長さを変える、位置をずらす等の方法により調節することができる。
【0035】
Tm値とは、ハイブリッドを形成した2本鎖DNA分子の50%が乖離する温度のことであり、その計算方法としては、既知の方法であれば特に限定されないが、Nearest neighbor method、Wallace法、GC%法のいずれかにより求められたものが、本発明の特性を満たしていることが必要である。これらいずれかの方法により算出されたTm値の比較によって、検出のためのプローブとそのプローブに対して競合させるプローブの配列が決定される。なお、特に好ましいTm値はNearest neighbor methodで計算されたものである。
【0036】
競合オリゴヌクレオチドの添加量は検出用オリゴヌクレオチドの0.2〜10倍モルが好ましく、より好ましくは0.3〜5倍モル、さらに好ましくは0.4〜3倍モル、特に好ましくは0.5〜2倍モル程度である。なお、下限は増幅産物の量にも依存し、非特異的結合反応が観察される場合は、1倍モルまで上げることができる。
【0037】
本発明に使用される標識は核酸配列の検出を妨げるものでないのであれば、その使用に限定されるものではないが、好適には磁性体、電子伝達体、抗原、抗体、蛍光物質、発光団、および酵素アビジン、ビオチン、ジゴケシゲニンからなる群から選ぶことができる。
【0038】
形成された複合体を検出する手段としては、増幅された遺伝子断片を捕捉する手段と、多型部位と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドに結合している標識を検出することが可能な既知の方法であれば特に限定されるものではないが、ポリスチレンの固相担体やナイロン膜、ガラス繊維フィルター上に増幅断片の捕捉が可能なオリゴヌクレオチドを固定化することによって、増幅遺伝子断片を固相上に固定化し、標識体を検出する方法が挙げられる。また他の方法としては、予めビオチン等で標識された特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて増幅し、アビジンが固定化された固相に増幅遺伝子断片を固相上に固定化し、標識体を検出する方法が挙げられる
【0039】
キット
本発明において、キットとしては、少なくとも特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチド、多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチド、他方の多型部位と相補的な配列を有する未標識のオリゴヌクレオチドでありかつ多型部位と相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドより高いTm値を有するオリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ、dNTPsを含むものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
Methylenetetrahydrofolatereductase(MTHFR)遺伝子の塩基多型 (677C→T)の検出
(1)Methylenetetrahydrofolatereductase遺伝子の677番目の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜6に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜6と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、(株)サワディー、GENSET KK、アマシャムファルマシア バイオテク(株)等)に依頼した。
オリゴ1がセンス鎖であり、オリゴ2と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。オリゴ3は野生型検出用オリゴヌクレオチドであり、オリゴ5は変異型検出用オリゴヌクレオチドである。オリゴ4は野生型検出に用いられる変異型核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドでありオリゴ3と組み合わせて用いられる。オリゴ6は変異型検出に用いられる野性型核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドでありオリゴ5と組み合わせて用いられるオリゴ2は5’末端をビオチンにより標識され、オリゴ3、5は3’末端をFITCにより標識されている。またオリゴ4,6は3’末端がリン酸基で修飾されている
【0042】
(2)PCR法によるMethylenetetrahydrofolatereductase遺伝子多型の解析
PCR法による増幅反応ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりヒトMethylenetetrahydrofolatereductase(MTHFR)遺伝子の塩基多型 (677C→T)を解析した。
【0043】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を調製した。
野生型配列検出用試薬
Taq DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ1および2(オリゴ2は5’末端をビオチンにより標識) 5pmol、
オリゴ3(3’末端をFITCにより標識)およびオリゴ4 各5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 1.5μl、
Taq DNAポリメラーゼ 1.3U、
抽出DNA溶液 100ng
【0044】
変異型配列検出用試薬
Taq DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ1および2(オリゴ2は5’末端をビオチンにより標識) 5pmol、
オリゴ5(3’末端をFITCにより標識)およびオリゴ6 各5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 1.5μl、
Taq DNAポリメラーゼ 1.3U
抽出DNA溶液 100ng
【0045】
増幅条件
95℃・5分95℃・30秒、
67℃・30秒、
72℃・30秒(40サイクル)
72℃・2分、
95℃・3分、
15℃・15分。
【0046】
(3)多孔性フィルターを用いた検出
増幅反応液20μlをPOD標識抗FITC抗体(DAKO Cytomation製)の溶液30μlに加えて、室温にて5分間反応させた。これによって、増幅されたMTHFR遺伝子断片と結合したFITC標識オリゴヌクレオチドとPOD標識抗FITC抗体が結合する。この反応液をアビジンの結合した多孔性ガラスフィルターに添加するとフィルター上に増幅されたMTHFR遺伝子断片が捕捉される。次に、上部より洗浄液およびPOD基質液を順次添加後、フィルター表面の発色を目視によって確認した。なお、アビジンの結合したガラス繊維不織布フィルターは特開2004−156985号公報の実施例1に準じて行った。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2
Cytochrome P450 2C19(CYP2C19)遺伝子の塩基多型 (681G→A)の検出
(1)CYP2C19遺伝子の681番目の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号7〜12に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ7〜12と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、(株)サワディー、プロリゴ、シグマジェノシス(株)等)に依頼した。
オリゴ7がセンス鎖であり、オリゴ8と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。オリゴ9は野生型検出用オリゴヌクレオチドであり、オリゴ11は変異型検出用オリゴヌクレオチドである。オリゴ10は野生型検出に用いられる変異型核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドでありオリゴ9と組み合わせて用いられる。オリゴ12は変異型検出に用いられる野性型核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドでありオリゴ11と組み合わせて用いられる。オリゴ8は5’末端をビオチンにより標識され、オリゴ9、11は3’末端をFITCにより標識されている。またオリゴ10,12は3’末端がリン酸基で修飾されている
【0049】
(2)PCR法によるCYP2C19遺伝子多型の解析
PCR法による増幅反応ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりヒトCYP2C19遺伝子の塩基多型 (681G→A)を解析した。
【0050】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を調製した。
野生型配列検出用試薬
Taq DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ7および8(オリゴ8は5’末端をビオチンにより標識) 5pmol、
オリゴ9 (3’末端をFITCにより標識)およびオリゴ10 各5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 1.5μl、
Taq DNAポリメラーゼ 1.3U、
抽出DNA溶液 100ng
【0051】
変異型配列検出用試薬
Taq DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ7および8(オリゴ8は5’末端をビオチンにより標識) 5pmol、
オリゴ11(3’末端をFITCにより標識) オリゴ12 各5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 2μl、
Taq DNAポリメラーゼ 1.3U、
抽出DNA溶液 100ng
【0052】
増幅条件
95℃・5分
95℃・30秒、
67℃・30秒、
72℃・30秒(40サイクル)
72℃・2分、
95℃・3分、
15℃・15分。
【0053】
(3)多孔性フィルターを用いた検出
増幅反応液20μlをPOD標識抗FITC抗体(DAKO Cytomation製)の溶液30μlに加えて、室温にて5分間反応させた。これによって、増幅されたCYP2C19遺伝子断片と結合したFITC標識オリゴヌクレオチドとPOD標識抗FITC抗体が結合する。この反応液をアビジンの結合した多孔性フィルターに添加するとフィルター上に増幅されたCYP2C19遺伝子断片が捕捉される。次に、上部より洗浄液およびPOD基質液を順次添加後、フィルター表面の発色を目視によって確認した。
【0054】
【表2】

【0055】
上記のように、特定の核酸配列を含む試料溶液に該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて、増幅反応と同時およびまたは増幅反応後、該核酸配列の塩基多型部位に相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドを接触させ、特定の核酸配列と結合した標識オリゴヌクレオチドを検出することによって試料溶液中に含まれる塩基多型を同定する方法において、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチドを共存させることによって、容易にかつ迅速に遺伝子型を明確に判定することができた。
【0056】
なお、実施例のオリゴヌクレオチドのTmは以下の通り。
(1) (2) (3)
オリゴ3 tgcgggagccgattt 62.9℃ 48℃ 56.2℃
オリゴ4 gtctgcgggagtcgatttc 64.4℃ 60℃ 62.3℃
オリゴ5 tgcgggagtcgattt 56.2℃ 46℃ 53.4℃
オリゴ6 gtctgcgggagccgatttc 69.7℃ 62℃ 64.5℃
オリゴ9 tcccgggaac 35.7℃ 34℃ 43.6℃
オリゴ10 atttcccaggaaccc 59.9℃ 46℃ 53.4℃
オリゴ11 ttcccaggaac 30.8℃ 34℃ 41.8℃
オリゴ12 atttcccgggaaccc 59.9℃ 48℃ 56.2℃

1)Nearest neighbor method
Tm=1000ΔH/(−10.8+ΔS+Rln(Ct/4))
−273.15+16.6log[Na+]
ΔH:ハイブリッドにおける際近接エンタルピー変化の合計
−10.8:ΔS(initiation)
ΔS:ハイブリッドにおける際近接エントロピー変化の合計
R:気体定数
Ct:オリゴの総モル濃度
Na+:ナトリウム濃度
2)Wallace法
Tm=2×(A,Tの塩基数)+4×(G,Cの塩基数)
3)GC%法
Tm=81.5+16.6log[Na+]+41( XG + XC )−500
/L−0.62F
Na+・・・Na+のモル濃度[mol/l]
XG,XC・・・GおよびCのモル分率
L・・・二本鎖を形成する部分のオリゴヌクレオチドの長さ
F・・・ホルムアミドのモル濃度
【産業上の利用可能性】
【0057】
上述したように、本発明により、試料核酸中の塩基多型を明確にまた簡便に検出できる方法が提供される。本発明の方法では、これまでの方法と比べ、非特異的結合反応が低く抑えられ、迅速で容易に再現性の良い結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の核酸配列を含む試料溶液に該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドを用いて、増幅反応と同時およびまたは増幅反応後、該核酸配列の塩基多型部位に相補的に結合する標識されたオリゴヌクレオチドを接触させ、特定の核酸配列と結合した標識オリゴヌクレオチドを検出すること、あるいは標識オリゴヌクレオチドを介して増幅された核酸配列を検出することによって試料溶液中に含まれる塩基多型を同定する方法において、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、塩基多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドよりTm値が高いオリゴヌクレオチドを共存させることを特徴とする塩基多型の同定方法。
【請求項2】
該特定核酸配列増幅用オリゴヌクレオチドが予め標識されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標識がビオチン、ジゴキシゲニン、抗原、抗体、蛍光物質、発光団、磁性体、電子伝達体および酵素よりなる群から選ばれたいずれかである請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
増幅反応がPCR、NASBA、LCR、SDA、RCA、TMA、LAMPおよびICANよりなる群から選ばれたいずれかの方法であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
少なくとも核酸配列増幅用オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ、dNTPs、多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチド、多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドと少なくとも1箇所異なる配列を有し、Tm値が多型部位に相補的に結合する標識オリゴヌクレオチドより高いオリゴヌクレオチドを有することを特徴とする塩基多型測定用キット

【公開番号】特開2006−20514(P2006−20514A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198911(P2004−198911)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】