説明

塩素の製造方法

本発明は、塩化水素を触媒気相酸化することにより塩素を製造する方法であって、下記の工程:a)塩化水素を含む供給気体流I及び酸素を含む供給気体流IIを供給する工程;b)第1酸化段階において、供給気体流I、供給気体流II、必要により塩化水素を含む再循環流Ia、及び必要により酸素含有再循環流IIaを、第1酸化区域に供給し、そしてこれらを、第1の部分量の塩化水素を塩素に酸化し、且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む気体流IIIが得られるように、第1酸化触媒に接触させる工程;c)第2酸化段階において、気体流IIIを第2酸化区域に供給し、そしてこれを、第2の部分量の塩化水素を塩素に酸化し、且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物気体流IVが得られるように、少なくとも1個の別の酸化触媒に接触させる工程;d)生成物気体流IVから、塩素、必要により再循環流Ia及び必要により再循環流IIaを単離する工程;を含み、且つ第1酸化区域における第1酸化触媒が流動床に存在し、そして第2酸化区域における別の1種又は複数種の酸化触媒が固定床に存在していることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1868年、ディーコン(Deacon)によって開発された塩化水素の触媒酸化の方法では、塩化水素は、発熱平衡反応において、酸素により塩素に酸化される。塩化水素を塩素に転化する方法を用いることにより、塩素の製造を、クロロアルカリ電気分解による水酸化ナトリウムの製造と切り離して行うことができる。このような切り離しは、世界における塩素の要求が、水酸化ナトリウムに対する要求より遙かに早く増大しているので魅力的である。さらに、塩化水素は、例えばイソシアネートの製造において、例えばホスゲン化反応において副生物として大量に得られる。イソシアネート製造で形成される塩化水素は、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシクロロ化において大部分使用される。この1,2−ジクロロエタンは、さらに塩化ビニルに処理され、最終的にはPVCにされる。従って、ディーコン法はまた、イソシアネート製造と塩化ビニル製造の切り離しも可能にする。
【0003】
特許文献1(EP−B0233773)には、流動床法において酸化クロム粉末上で塩化水素を触媒酸化する方法が記載されている。
【0004】
流動床法により、極めて等温的に操作することが可能となる。この方法において、触媒床での過熱した局所的領域の形成、換言すると「加熱斑点(hot spot)」の形成を、大いに回避することができる。しかしながら、流動床法には不利がある。その不利としては、生産規模の拡大が困難こと、流動床反応器での操作中に反応ガスと共にかなりの量の触媒材料が排出される現象が時々発生すること、そして触媒粒子の膠(こう)着(付着)により引き起こされる流動床の不安定性リスクを挙げることができる。触媒粒子のこう着のリスクは、低い操作温度で特に大きい。
【0005】
固定床法は、上記のような不利はない。この方法は、一般に、中間冷却を備えたトレイ反応器、又はシェル−エンド−チューブ式反応器を用いて行われる。特許文献2(EP−A−0936184)において、ディーコン反応は、ルテニウム触媒を用いて固定触媒床上で行われる。しかしながら、固定触媒床上での発熱反応の実施は、「加熱斑点」の形成をもたらす。この斑点は、触媒寿命に悪影響を与え、このため可能であれば回避すべきである。加熱斑点の形成のリスクを低減する多くの方法、例えば、不活性材料で希釈された触媒床の使用及び/又は触媒活性が流れ方向に漸増する構造を持つ触媒床の使用(結果として、活性成分を備えた触媒担体の異なる浸透作用、或いは床の異なる希薄化がもたらされる)が知られているが、加熱斑点の形成は、これまでに完全に抑制できているとはいえない。さらに、触媒床の希薄化は、方法における可能な時空収率を低下させる。
【0006】
【特許文献1】EP−B0233773
【特許文献2】EP−A−0936184
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、従来技術の不利が除去された、塩化水素から塩素を製造する改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的が、
塩化水素を触媒により気相酸化することによって塩素を製造する方法であって、下記の工程:
a)塩化水素を含む供給気体流I及び酸素を含む供給気体流IIを供給する工程;
b)第1酸化段階において、供給気体流I、供給気体流II、必要により塩化水素を含む再循環流Ia、及び必要により酸素含有再循環流IIaを、第1酸化区域に供給し、そしてこれらを、第1の部分量の塩化水素を塩素に酸化し、且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む気体流IIIを形成するように、第1酸化触媒に接触させる工程;
c)第2酸化段階において、気体流IIIを第2酸化区域に供給し、そしてこれを、第2の部分量の塩化水素を塩素に酸化し、且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物気体流IVを形成するように、少なくとも1種の別の酸化触媒に接触させる工程;
d)生成物気体流IVから、塩素、必要により再循環流Ia及び必要により再循環流IIaを単離する工程;
を含み、
且つ第1酸化区域における第1酸化触媒が流動床に存在し、そして第2酸化区域における別の1種又は複数種の酸化触媒が固定床に存在していることを特徴とする方法により達成されることを見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
従って、少なくとも2段階の方法、即ち、塩化水素の第1の部分の転化が、流動床反応器段階において達成され、塩化水素の第2の部分の転化が、1個以上の固定床反応器段階において達成される方法を、提供するものである。
【0010】
ディーコン反応は発熱平衡反応であるので、触媒が極めて高い転化率をもたらす十分高い活性を有する最低の温度でその反応を実施することは、熱力学的観点から有利である。しかしながら、低温は、一般に低い時空収率につながる。高い時空収率は、大量の熱の放出のため、一般に高い温度を伴って進行する。
【0011】
流動床反応器段階b)における第1の部分量の塩化水素の反応は、高温で、高い時空収率で行うことができる。なぜなら流動床における加熱斑点の形成のリスクが無いためである。熱力学的に達成し得る転化率は第2の酸化段階c)、即ち固定床反応器段階でのみ調査されるので、流動床段階における高温は、本発明の方法で達成することができる最大の合計転化率に悪影響を与えない。しかしながら、これは、過度に大きな時空収率の減少を受け入れることなく、遠く生成物側にある最適な熱力学的平衡位置を達成するために、かなり低い温度で操作しなければならない。なぜなら、転化の大部分は、流動床で前もって達成されているためである。部分転化が流動床段階b)で起こり、得られた気体流IIIは生成物気体で希釈されるので、固定床反応器段階c)における加熱斑点の発生のリスクは小さく、付加的手段、例えば構造的触媒床の使用により、さらに減少させ得る。流動床反応器段階は、より高温で実施されるので、触媒粒子の膠着(「触媒付着」として知られている)のリスクもまた減少する。
【0012】
第1の加工工程a)において、塩化水素を含む供給気体流Iを供給する。塩化水素は、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)及びジフェニルジイソシアネート(MDI)等の芳香族ポリイソシアネートを対応するポリアミンとホスゲンからの製造において、酸クロリドの製造において、芳香族の塩素化において、塩化ビニルの製造において、及びポリカーボネートの製造において得ることができる。この塩化水素は、不純物として、炭化水素又は塩素化炭化水素を、例えば100〜3000ppmの量で含むことができる。加えて、別のガス構成成分、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素及び別の不活性ガスも、一般に0〜1容量%の量で存在することができる。
【0013】
不純物は、例えば、供給気体流中で、炭化水素及び塩素化炭化水素の触媒的燃焼によるか、或いは適当な吸収剤に炭化水素及び塩素化炭化水素を吸収させることにより、供給気体流から除去することができる。炭化水素又は塩素化炭化水素はまた、酸化段階の燃焼により反応させることができる。この場合、一般に、ジオキシン形成のリスクがあり、特にモノクロロベンゼン等の塩素化炭化水素が存在している場合にこのリスクがある。ジオキシンの形成を回避するために、本発明の方法で見られるように、反応温度を正確に制御することが一般に必要である。
【0014】
塩化水素は、気体として供給することが好ましい。塩化水素の蒸発のエンタルピーを利用するために、部分量(一部分の量)の塩化水素を液体塩酸として送り込むことが有利であろう。これにより反応器の熱交換領域を節約することができる。
【0015】
加えて、酸素を含む供給気体流IIを供給する。供給気体流IIは、純粋な酸素、工業銘柄の酸素(例、94%容量濃度又は98%容量濃度の工業酸素)、空気又は他の酸素/不活性ガス混合物から構成することができる。不活性ガスの割合が高いので空気は余り好ましいとは言えず、純粋な酸素は価格の点で余り好ましいとは言えない。
【0016】
第1の酸化段階b)において、供給気体流I、供給気体流II、必要により塩化水素を含む再循環流Ia及び必要により酸素含有再循環流IIaを、第1酸化区域に送り込み、第1酸化区域に流動床として存在する第1の酸化触媒と接触させる。
【0017】
酸素を超(super)化学量論量で使用することが有利である。例えば、HCl:O2比は4:15〜1:1の範囲が通常である。選択率の低下を懸念する必要がないので、比較的高い圧力、従って大気圧の場合より長い滞留時間で作業を行うことが経済的に有利である。より高い圧力により、それに伴うより低い流速のために、純粋な固定床法における加熱斑点のリスクが増加するが、本発明の方法により巧みに回避される。
【0018】
第1の処理工程は、流動床反応器で行われる。流動床反応器は、円錐形又は好ましくは円筒形である。
【0019】
供給気体流から形成される流動気体を、分配器又はノズル板を介してその下端部に導入する。
【0020】
熱交換機は流動床反応器に組み入れることができる。熱交換機は、例えばシェル−エンド−チューブ式、ヘアピン形、コイル形又はプレート形の熱交換機として設計されている。熱交換機は水平に、垂直に又はある角度で配置することができる。
【0021】
流動床反応器内の流動床上の分離(demixing)区域(触媒粒子/気体)は、フリーボード(freeboard)として知られており、円筒状であることが好ましい。固体の排出は断面積の増加と共に減少し得るので、流動床の直径より幅広のフリーボードを作製するのもまた経済的であり得る。
【0022】
流動床の直径は、一般に0.1〜10mである。フリーボードの高さは、一般に、流動床の高さの20〜500%、好ましくは50〜250%の高さである。流動床における空の管の気体速度は、一般に0.05〜20m/秒(s)、好ましくは0.1〜1.0m/秒である。フリーボードにおける空の管の気体速度は、一般に0.01〜2m/秒、好ましくは0.05〜0.5m/秒である。流動床反応器の圧力は、一般に1〜15バール(bar)である。流動床の温度は一般に250〜450℃、好ましくは280〜360℃である。流動床の供給気体流から形成された流動気体の滞留時間は、1〜300秒(s)、好ましくは1〜30秒である。
【0023】
第1の酸化段階に好適な酸化触媒は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムの担体に担持された酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、又は他のルテニウム化合物を含むことができる。好適な触媒は、例えば、担体に塩化ルテニウムを塗布し、次いで乾燥、又は乾燥及びか焼することにより得ることができる。好適な触媒はまた、ルテニウム化合物に加えて、又はルテニウム化合物の代わりに、他の貴金属、例えば金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅又はレニウムの化合物を含み得る。好適な触媒はまた、酸化クロム(III)を含むこともできる。
【0024】
流動床を形成する第1の酸化触媒の担体の嵩密度は、一般に0.1〜10kg/L、好ましくは0.5〜2kg/Lである。その触媒の細孔容積は、0.01〜2ml/g、好ましくは0.2〜1.0ml/gである。そして平均粒径は、1〜1000μm、好ましくは10〜200μmである。
【0025】
塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む気体流IIIが得られる。気体流IIIにより同伴された流動床からの第1の酸化触媒の粒子は、固体析出工程で気体流IIIから分離される。固体の析出は、サイクロン中で、又は固体フィルタにより行うことができる。
【0026】
触媒をサイクロンで分離した場合、分離粒径、即ちサイクロンで保持された触媒粒子の最小径は、一般に0.1〜100μm、好ましくは1〜10μmである。触媒を固体フィルタで分離した場合、分離粒径、即ちフィルタで保持された固体粒子の最小径は、一般に0.01〜100μm、好ましくは0.01〜10μmである。固体フィルタは、フィルタ清掃して、又はすることなく操作され得る。サイクロンと固体フィルタを連続的に接続することも可能である。さらに、サイクロン又はフィルタキャンドルが故障した場合、或いは損傷した場合に固体が排出されることを避けるために、追加的な「セフティネット」フィルタを主フィルタの下流に設置することができる。
【0027】
第1酸化段階b)における塩化水素転化率は一般に40〜80%である。
【0028】
第2酸化段階c)において、気体流IIIは第2酸化区域に供給され、少なくとも1種の別の酸化触媒と接触され、その結果、第2部分量の塩化水素が塩素に酸化される。別の単数種又は複数種の酸化触媒は、固定床に存在する。
【0029】
好適な別の酸化触媒は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムの担体に担持された酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、又は他のルテニウム化合物を含むことができる。好適な触媒は、例えば、担体に塩化ルテニウムを塗布し、次いで乾燥、又は乾燥及びか焼することにより得ることができる。好適な触媒はまた、ルテニウム化合物に加えて、又はルテニウム化合物の代わりに、他の貴金属、例えば金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅又はレニウムの化合物を含み得る。好適な触媒はまた、酸化クロム(III)を含むこともできる。
【0030】
第2酸化区域は、1基以上の固定床反応器を含み得る。本発明の好ましい態様において、第2酸化区域は正確に1基の固定床反応器を含んでいる。これは、構造的な触媒床(上記参照)を用いて操作することができる。
【0031】
処理工程c)は、好ましくはシェル−エンド−チューブ式反応器において、不均一触媒上で、180〜400℃、好ましくは200〜350℃、特に好ましくは220〜320℃の反応器温度及び1〜25バール、好ましくは1.2〜20バール、特に好ましくは1.5〜17バール、中でも2.20〜15バールにて、断熱的に或いは好ましくは等温的に又はほぼ等温的に行われる。
【0032】
一つの好適態様において、触媒活性が流れ方向に増大している構造的触媒床は、第二酸化区域で使用される。このような固定床は、活性の異なる二以上の区域を有している。触媒床の構造化は、活性の異なる触媒を使用することにより得られる。活性の異なる触媒は、触媒担体への活性成分の浸透を異なるようにすることにより、或いは触媒への不活性材料による希釈を異なるようにすることにより得られる。不活性材料としては、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又はこれらの混合物、酸化アルミニウム、ステアタイト、セラミック、ガラス、グラファイト又はステンレス綱製のリング状、円筒形又は球形のものを使用することができる。不活性材料は、成形触媒体と類似の外形を有することが好ましい。
【0033】
本発明の一つの好適態様において、第2酸化区域の固定床は、2種以上の別の酸化触媒を含んでおり、これらの酸化触媒は固定床の異なる区域に位置しており、酸化触媒の活性は流れ方向に減少している。
【0034】
別の好適態様において、第2酸化区域は2個以上の温度区域を有している。
【0035】
2個以上の温度区域の温度は、2個以上の独立した熱変換回路を適当数使用することにより相互に独立して制御することができる。固定床反応器当たりの温度区域の極性(polarity)があり得る。本発明の一つの好適態様において、第2酸化区域は、2個以上の反応区域を有する唯1基の固定床反応器を含んでいる。固定床反応器はただ一つの温度区域を有することが好ましい。
【0036】
好適な成形された触媒体としては、どのような形状でも良く、例えばペレット、リング状、円筒状、星状、荷馬車の車輪状、又は球状を挙げることができ、特にリング状のもの、円筒状のもの又は星状押出品を挙げることができる。
【0037】
適当な不均一触媒としては、特に、担体材料上のルテニウム化合物又は銅化合物(これらはドープされていても良い)を挙げることができ;ドープされた、又はドープされていないルテニウム触媒が好ましい。好適な担体材料としては、例えば、二酸化ケイ素、グラファイト、ルチル又はアナターゼ構造を有する二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム又はこれらの混合物を挙げることができ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム又はこれらの混合物が好ましく、特にγ−又はδ−酸化アルミニウム又はこれらの混合物が好ましい。
【0038】
担持銅触媒又は担持ルテニウム触媒は、例えば、担体材料に、CuCl2又はRuCl3及び必要によりドーピング用促進剤(好ましくはその塩化物の形のもの)の水溶液を含浸させることにより得ることができる。触媒の成形は、担体材料への含浸の後又は好ましくは前に行うことができる。
【0039】
ドーピングに好適な促進剤としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム等のアルカリ金属(リチウム、ナトリウム及びカリウムが好ましく、特にカリウムが好ましい)、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属(マグネシウム及びカルシウムが好ましく、特にマグネシウムが好ましい)、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム及びネオジム等の希土類金属(スカンジウム、イットリウム、ランタン及びセリウムが好ましく、特にランタン、及びセリウムが好ましい)、或いはこれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
成形体は、例えば100〜400℃で、例えば窒素、アルゴン又は空気の雰囲気下に乾燥し、そして適宜か焼することができる。成形体は、まず100〜150℃で乾燥し、次いで300〜400℃で、好ましくは空気雰囲気中でか焼することが好ましい。
【0041】
第2酸化段階c)における塩化水素の転化率は、合計転化率に対して、一般に20〜60%である。第1及び第2の酸化段階における塩化水素の累積転化率は、一般に70〜95%である。未反応塩化水素を分離し、そしてその一部又はその全部を第1酸化区域に戻すことができる。
【0042】
塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物気体流IVを得る。
【0043】
本発明の方法の部分d)において、塩素を生成物気体流IVから単離する。このために、下記の工程d1)〜d4)を通常行う:
d1)生成物気体流IVから塩化水素及び水を分離し、塩素及び酸素を含む気体流Vを得る工程;
d2)気体流Vを乾燥させる工程;
d3)気体流Vから酸素含有流を分離し、そして必要により、少なくともその一部を、酸素含有再循環流IIaとして第1酸化区域に再循環し、塩素含有生成物流VIを残す工程;
d4)適宜、さらに塩素含有生成物流VIを精製する工程。
【0044】
未反応塩化水素及び水蒸気を、冷却により生成物気体流IVから分離して、塩酸水溶液を凝縮、除去する。塩化水素を希塩酸又は水に吸収させることが好ましい。
【0045】
本発明の1つの好適態様において、分離工程d1)は下記のように行われる。生成物気体流IVを、吸収区域において、水又は濃度c1の希塩酸と接触させ、そして塩化水素をその中に吸収させ、濃度c2の塩酸及び塩素及び酸素を含む気体流Vが得られる。
【0046】
吸収媒体として、塩化水素で飽和されていない塩酸であればどのようなものでも使用することができる。その濃度c1は、通常、25質量%以下の塩化水素、例えば約15質量%の塩化水素である。吸収温度は、通常、0〜150℃、好ましくは30〜130℃、そして吸収圧力は通常0.5〜20バール、好ましくは1〜15バールである。
【0047】
これにより、塩素及び酸素を含む、又は実質的にこれらの気体から構成される気体流Vが得られる。これは通常、痕跡量の水分をまだ含んでいる。このため、通常乾燥工程d2)に付される。乾燥工程d2)では、気体流Vを適当な乾燥剤に接触させることにより、気体流Vから痕跡量の水分を除去する。好適な乾燥剤としては、例えば、濃硫酸、分子篩い、又は吸湿性吸収剤を挙げることができる。
【0048】
さらなる処理工程d3)において、酸素含有流を、気体流Vから分離し、少なくとも一部を、酸素含有再循環流IIaとして酸化区域に再循環することができる。酸素は蒸留により分離されることが好ましく、通常−20〜+50℃の範囲の温度、及び1〜20バールの範囲の圧力にて、10〜100理論段数の蒸留等において行われる。酸素含有再循環流IIaは、屡々高圧下にある。
【0049】
これにより、塩素含有生成物気体流VIが残り、これは次いでさらに精製しても良い。
【0050】
本発明は、図を用いて以下に説明する。
【0051】
図1には、本発明の方法における1つの好適態様の処理フローチャートが示されている。
【0052】
酸素含有供給気体流1、塩化水素を含む供給流2、及び酸素含有再循環流17を流動床反応器3に供給する。流動床反応器3では、塩化水素の一部が塩素に酸化される。得られた、酸素、塩素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む流4を、シェル−エンド−チューブ式反応器5に供給する。これは、固定触媒床を含んでいる。塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物気体流6が得られる。生成物気体流6を、急冷器として設計された冷却器/凝縮器7に導入する。塩酸9を冷却器7で凝縮、除去する。必要により、水8を、急冷又は吸収媒体として、急冷器7に供給し、そして希塩酸の側流(substream)9aを、急冷媒体として急冷器に再循環させることができる。塩化水素を実質的に含まず、塩素及び酸素及び痕跡量の水蒸気を含む気体流10は、急冷器7を出て、乾燥段階11を通り過ぎる。乾燥段階11において、気体流10を、硫酸、分子篩い又は他の吸湿性吸収剤等の適当な吸収媒体と接触させ、これにより痕跡量の水を除去する。乾燥段階11を、交互に再生される乾燥塔又は複数の平行な乾燥塔において実施することができる。塩素及び酸素を含む乾燥気体流12又は14(圧縮機13を任意に設けても良い)を、酸素を分離する凝縮器15に供給し、再循環流17として塩化水素酸化反応器に再循環する。塩素を含む生成物気体流16を得る。液体の粗塩素生成物は、蒸留により精製することが好ましい。不活性ガス成分の蓄積を避けるために、パージ流17aを供給する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の方法における1つの好適態様の処理フローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素を触媒により気相酸化することによって塩素を製造する方法であって、下記の工程:
a)塩化水素を含む供給気体流I及び酸素を含む供給気体流IIを供給する工程;
b)第1酸化段階において、供給気体流I、供給気体流II、必要により塩化水素を含む再循環流Ia、及び必要により酸素含有再循環流IIaを、第1酸化区域に供給し、そしてこれらを、第1の部分量の塩化水素を塩素に酸化し且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む気体流IIIを形成するように、第1酸化触媒に接触させる工程;
c)第2酸化段階において、気体流IIIを第2酸化区域に供給し、そしてこれを、第2の部分量の塩化水素を塩素に酸化し、且つ塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物気体流IVを形成するように、少なくとも1種の別の酸化触媒に接触させる工程;
d)生成物気体流IVから、塩素、必要により再循環流Ia及び必要により再循環流IIaを単離する工程;
を含み、
且つ第1酸化区域における第1酸化触媒が流動床に存在し、そして第2酸化区域における別の1種又は複数種の酸化触媒が固定床に存在していることを特徴とする方法。
【請求項2】
第1酸化区域における温度が、280〜360℃、そして第2酸化区域における温度が、220〜320℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2酸化区域がただ1基の固定床反応器を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2酸化区域がただ1個の温度区域を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸化触媒が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン及び二酸化ジルコニウムから選択される担体上に担持された酸化ルテニウムを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程d)が、
d1)生成物気体流IVから塩化水素及び水を分離し、塩素及び酸素を含む気体流Vを得る工程;
d2)気体流Vを乾燥させる工程;
d3)気体流Vから酸素含有流を分離し、そして必要により、少なくともその一部を、酸素含有再循環流IIaとして第1酸化区域に再循環し、塩素含有生成物流VIを残す工程;
d4)適宜、さらに塩素含有生成物流VIを精製する工程;
を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−501760(P2007−501760A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522334(P2006−522334)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008872
【国際公開番号】WO2005/014470
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】